じょ、情報量が、情報量が多いですわ………!!


私の英雄カレの一撃を貰った日から4日後の昼時。既にナノマシンの解析は終わらせたので、次は『SRO』が異世界越しでも動くのかをこの4日間で色々と検証していたが………まぁ、特に不具合は無く起動出来たので、実験は成功と言っても良いだろう。


既にイモータルにはヘッドセットを手渡しており、ニ型世界にも未だ存在していない仮想現実の世界をかなり楽しんでいるようだ。ついでに言うと、A型世界の中でもイモータルは魔法少女としての力を扱えたらしい。なんか初心者狩りの対象になった時、普段と同じ感覚で蘇生しようとしたら何か普通に蘇生したらしく、犯罪者専用掲示板で不死身のロリが居るってちょっと話題になっていた。新種の魔物か?とか言われてて笑ったよね。


そんなイモータル本人もA型世界の10倍時間が気に入ったらしく、暇な時間を見つけては遊んでいるらしい。何処ぞの権能保有者達とは違って、普通にゲームとして堪能しているみたいだ。


リスポーンの処理が入る前に自力で蘇生するから、死亡地点がセーブポイントの死にゲーやってるみたいですねー、と本人はぼやいてたけど。いつか死に続けて詰みそうですねーとかも言ってた。まぁ確かに場所によっては本気で詰みそうではあるが………そん時は不老不死を停止させてみるとかを試せば良いのでは?


「転移………異世界………んー………」


まぁ当然だが、イモータルは今まで不老不死を停止させる、なんて事をしてきた訳がない。する必要も無いし、そんな事はするだけ損にしかならないのは目に見えている。不老不死を主軸に置いて戦闘方法を構築してきたイモータルから不老不死を取り上げたら、そりゃまぁ戦闘能力は極端に低下するだろう。


しかし、『SRO』の行われているA型世界はゲーム世界だ。例え何かを間違えて死んでしまったとしても、それがプレイヤーである限りは必ずリスポーンされる。命を失う事がないのだ。まぁ死亡時の装備品は全て失う事にはなるが、それ以外のデメリットは存在していない。何ならイモータルの場合、武器も防具も魔法少女の能力として自前で召喚したり出来るので、そもそも失う装備も無い。


であるのならば、現実では不可能な不老不死能力のオフを試してみても良いだろう。自分に何が出来て何が出来ないのかを調べる事は、決して悪いことじゃない。そうして試していく内に、いずれ権能に目覚める事もあるだろう。そうなってくれると同じ権能保有者としては嬉しいのだけれど。


まぁ、『SRO』に関する目標は既に達成したので、次は縁には頼らない異世界転移、となるのだが………


「うーん………どうするべきなのかしら………?」


………本当、どうしよっかなぁ。大まかな構想すらゼロだから、マジで一からぜーんぶ考えなきゃならんのよな。今使っている"異世界転移"のイメージを崩さず、新たなイメージを構築する必要があるから………めっちゃ難しい。不可能って訳じゃないだろうけど………


んー………ま、これは今すぐに必要って訳でも無いから、そんなに焦らなくてもいっか。流石の私もきっかけ無しで何かしらのアイデアなんて思いつけないし………というか、そんなんで思い付いてたら誰も困らないんだよな。


「あ、テア。お帰りなさい。帰ってたんですね」


「あぁ、アリス。ただいまですわー………」


「んー………どうしたんですか?」


「あぁ、いえ………どうすれば新しい異世界転移が出来るのかを考えていまして………」


私がロ型世界の自室でベットに寝転んでいると、右手に聖剣ハンマー(アリスが手に入れた聖剣、の柄。刃の部分が無いのでハンマーとして利用している)を手にしたアリスが帰ってきていた。確か聖剣に付与されている概念的な防御貫通能力は柄だけでも使えるらしいので、最近はそれを使って防御力の高い魔物を討伐しまくっているらしい。


「新しい異世界転移、ですか?」


「えぇ………今使っている、安全性を重視した転移とは別の………片道だけでも通れればいい、みたいな転移を作りたいのですけれど………どうすれば良いのかな、と」


「新天地を目指す用ですね?!」


「あぁまぁそうなんですけれど理解力があり過ぎてちょっとびっくりしちゃいますわね」


言葉の勢いが強いのよ。


「アリスは何か、良い案とかあります?」


「ありますよ。ほら、テアは普段から概念を展開しているでしょう?世界の端から端まで。でも、それは最低限なんですから、もう一歩伸ばせば良いんです。そうすれば、世界の壁なんて飛び越せますよ」


「………なる、ほど………?」


概念を展開………権能の事か。そういやアリスには権能について特に教えてないけれど、真理の瞳には権能が視覚的に見えるらしいんだよな。真理の瞳は概念も視覚情報として見れるっぽいから。んで、そんな瞳で世界を見ると、私の居る世界は常に"悪魔"の概念によって覆われている………らしい。


だから多分、アリスはその事を言ってるんだと思うんだが………世界の端から端までって言ってるし、私の権能の最低射程距離と同じ表現だし………しかし、何だって?それが最低限?何が?一歩伸ばす………?世界の壁を越える………?


………待てよ、最低射程距離………そう、そうだ。私の権能が世界全域に効果を発揮出来てるのは、それが最低射程距離………つまり、私がどれだけ権能を抑えて小さく使っても、最低でも世界全域に効果が発揮されるからだ。


そして。それが"最低"なら、私の"最高"は何処までだ?


「………!ありがとうございますわ、アリス。良いアドバイスですわね」


「そうですか?ちょっと言語化するのが難しかったので、かなり抽象的な表現になってしまったと思ったのですけれど」


「概念的な話をする時は、今後もそんな感じでお願いしますわ」


「そうですか?じゃあそうしますね」


アリスはそれだけ言うと、汗を流してきますねーと言ってお風呂へと向かっていった。汗だけでなく服も多少の砂埃で汚れてるんだから洗濯するんですのよー、と後ろから言いつつ、私は私で思考の海へと舞い戻る。


今アリスにも言ったが、概念に関する話は難しいくらいが丁度良い。概念やらイメージやらは自分で噛み砕いてからちゃんと理解しないと権能として再利用する事も難しいんだから、始めっから噛み砕かれてると解釈の余地がないし。


っと、今はその話じゃない。そう、そうだ。私の権能の最低射程距離が"世界全域"なのだとしたら、私の権能は一体何処まで影響を与えられる?少なくとも、イ型世界に居ながらロ型世界に悪魔を創造する事は可能だし、ロ型世界の悪魔の存在を知覚する事も可能だ。だから最低限、私の権能は異世界にまで届き得る事になるだろう。


では、最高射程距離は?最大限まで私の権能の手を伸ばした時、私の世界は何処へまで影響を与えられる?私に内包された概念は、私を中心として一体何処まで届く?


──イメージ。


人間。生命。社会。世界。惑星。虚空。外宇宙。法則。概念。  虚無


私が持つ"世界"というイメージを、限りなく詳細に。我が権能によって齎される時空間の知覚能力を用いて、世界の端から端まで、その全てを知覚する。


人がいる。生き物がいる。それらが作る社会がある。それらが住む世界がある。それらが住む星がある。それらが蔓延る虚空がある。その外側には外宇宙がある。その中に法則は無く、あるのは内包された概念がある。その果てには全てを飲み込む  虚無がある。


そう、そうだ。今までの私の世界とは、ここまでだった。しかし今、私は己の最大限を知りたくなった。知る必要が出来た。なら、私は私の認識を何処までも伸ばせるし、私の世界は無制限に増やしていける。だろう?


──入った・・・


「よし、これ、で………!」


あぁ、上手く行った、けど………!


「ぐっ………こ、れ………!」


やっべ………!入ってくる情報量が、これまでとは桁違いに多い………!!見れる範囲が、これまでと段違い過ぎて処理しきれない………!!私の思考が押し出される………!!そ、早急に範囲を狭めないと、情報量の暴力に殺される………!!


「ち、小さく………狭く………!」


別に最低射程距離は変わってないんだから、世界一つに戻るように、小さく、狭く………!!


「………っあ゛ぁ!よし!」


はぁ、はぁ………!ま、マジで莫大な情報量に殺されるかと思った………!!DoS攻撃を受けてる気分だった………いや、今実際にDoS攻撃は受けたのか………いやまぁ、自分でやったから自爆も自爆なんですけど………あ゛ー………いったぁ………今度から、私1人じゃ処理し切れない情報量が送られてきた時は、うちの子達のネットワークに情報の一部を回すようにしておこう………じゃないと二度目があった時に死ぬ………DoS攻撃は精神生命体に有効だわ………おぇえ………きぼちわるい………


「………あぁ、でも………」


死ぬかもしれないってレベルの情報量をぶち込まれたおかげで、この認識はもう二度と変わらんだろうってくらいに強固になった。まぁ確かに痛みに付随した記憶は忘れ難いように出来てるのが生命の良いところだけどさぁ………マジで痛かったし、普通に死ぬかと思ったんだよな。精神生命体なのに精神も焼き尽くされるかと思ったわ………


あぁ………うん、このくらいの量なら余裕だ。マジでさっきは数十って異世界だけじゃなく、何なら幾つかの世界の並行世界も観測しちゃってたっぽい。だからあんな馬鹿みたいな量の情報でぶん殴られた訳だ。普段から大規模な範囲を認識し続けてる権能保有者だから世界の情報数個くらいなら余裕だけど………流石に余裕な時の10倍はちょっとね。そんなん余裕で死ねるんだよな。


んー………でもこれ、ここまで制限してても、入ってくる情報の量が多過ぎて整理出来ないかも。入ってくる情報の1%も覚えられないわ。んー………ただ、なぁ。ちょっとこれ

はあまりにも情報量が多過ぎて過ぎて、私1人だと数十万年かけても精査が終わる気配が見えない。


うーん………うちの子に情報の整理だけ頼んで………あぁ、見えてる世界全部に行く必要も無いし、世界毎に何かしら私が気に入りそうなキーワードだけ選出させて………その中から転移先候補を絞った方が早いかもしれない。小説投稿サイトで好みの小説を探すみたいな、そんな感じに探せたら、めっちゃ楽だよね。


「………そうと決まれば有言実行、ですわね」


まずはうちの子達を新しく創造して………情報量が多過ぎるから、とりあえず10億くらい創造して………この子達は情報の精査を担当して貰おう。あ、そうだ。追加で1億を創造して、この子達には精査した情報から私の好むキーワードを抽出して貰って………追加創造した1万のうちの子に、異世界候補のキーワード検索機能を担ってもらおう。とりあえず仮稼働って事で稼働開始〜。


あ、そうだ。元々新しい異世界転移の方法を探そうと思って色々してたけど、ぶっちゃけもうこれ必要無いよね?縁に頼らない転移を作ろうとしてたけど………そんなん気にせず、観測した異世界に直接転移すりゃいいんだもん。ってーことで、異世界転移はこれまでのを普通に利用する感じでOK!あースッキリした。定めていた目標を達成出来るって普通に達成感あるぜ。ゲームの高難易度クエストをクリアした気分だ。


「んー………中々に多かったんですのね………普通に死ぬかと思いましたわ………」


私が今回観測してしまった世界の数は、合計67。内訳としては、異世界が59、並行世界が8。そしてその内、世界全域の情報が入ってきたのが13。残りは殆どが欠片のようなレベルだが、世界の欠片なので結構な情報量だ。情報量で換算すれば世界16個分くらいの情報量はあっただろう。


うちの子達による異世界関係の調査システムを構築したのはマジでほんのついさっきだが、既にこれくらいは精査されたらしい。ふっ、まぁ11億と1万のうちの子が居るからな。やはり数………!数はあらゆる全てを凌駕する………!ふふふ………そう、数だ。数さえ存在していれば、私が今回受けたようなDoS攻撃如き、何千兆倍以上の情報量でぶん殴れるからな!やっぱ数なんだよなぁ!!


しかし………改めて上がってくる簡易的な調査報告をチラ見しているが、マジで異世界ばっかりだ。これまでのようなイ型世界に何処か似通っている世界ではなく、本当に根底のルールから何もかもが別物の世界らしい。


というか私としては、イ型世界から概念的に近い世界を観測した筈なのに、これまで訪れた事のある世界が欠片も引っかかってないのが驚きなんだが。あれか?これまでやってたのはマジで私の縁を頼っての転移だったから、世界を探すのにあんなに時間かかったし、マジで余計な距離が空いてたってコト?


いや………まぁ、別に無駄ではなかったけどね?複数の世界を無意識的にであっても認識していたからこそ、今回莫大な情報量を受けても死ななかったんだろうし。それに、ハ型世界のダンジョンとかいう無限資源採取場はうちの子達が使う材料を集めるのにもってこいだし、ニ型世界では魔法少女という特殊な契約システム保持者との交流を得られたし、このホ型世界では私の英雄カレという私の運命と出会ってしまった。ついでにナノマシンの技術も貰った。


そう、これは決して悪いことではない。むしろ良いことだ。何一つ変わらない日常を求めながらも、そこそこの刺激の為だけに、私利私欲で異世界巡りをしているのだから。私が見知らぬ世界を見られたというだけで、既に満足も満足である。


「はぁ………まだまだ研鑽が足りませんわね」


権能はまだまだ成長途中の技術である。当たり前だ。私がこの技術を確立させたのがいつだと思ってるんだ?日数的には大体1年半前くらいだぞ。技術界隈で言えば新参も新参、まだ赤ちゃんみたいなもんだ。何百何千もの年月を積み上げてきた技術とは比べ物にならない程、粗が目立つ事だろう。日々の研鑽によって改善はしているが、それが最高効率なのかは分からんし。


いや、まぁ。技術を確立させたとは言うが………これ、確立って言い張っても良いのか?魔力が伸びやすい世界をゲームとして用意し、その中に無数のヒントを散りばめ、一応は誰であっても権能に至れるようにはしているが………これ確立か?なんかもっと他の言い方がありそうなもんだが。


まぁこれは一応、世界の根幹を成す概念ってのに干渉する術だから、把握出来ない程多くの人に渡らないようにする工夫ではあるんだが………先天的なら兎も角、後天的に権能を使えるようになる奴は自我というか自己が強過ぎて、私のヒントとかガン無視で権能使えるようになるからなぁ、優也くんとか瑠奈ちゃんとか。何なら私もヒント無しで勝手に使えてるし。


そうなんだよな………権能に至る道を狭めつつ、新たな道を開拓してもらう為に、ゲーム内では意図的にヒントを減らしたりしてるんだけど………適性ある奴はヒントガン無視で使えるようになるんだよなぁ、権能って。


というか、権能って必要な才能とかは特に無いんだよな。必要なのは才能とか努力とかじゃなくて、圧倒的なまでの自己中心性なんだよ。誰かと競うとか争うとかそういう考えすら浮かばない程に、自分の為だけに自分を使える奴じゃないとダメなんだよ。よく聞く感じの自己中心的な奴とはまた違うんだよ。なんて表現すれば良いかな………


んー………世間一般の人が思ってる自己中心的な人っていうのはさ、自分が何でも正しいと思ってる、自分の思い通りにならないと気が済まない、基本的に人を見下してる………みたいなイメージない?他人と自分を比べてるというか、視界の中に他人が入ってる感じなんだよね。


でも権能を使えるくらい自己の強固な奴ってのはね、他人なんか視界の中に入ってないんだよ。自分の中の正しいになれるように全力疾走だし、自分の思い通りになるように無我夢中だし、見下すような他人なんて視界の中に入らないんだよ。他人なんて興味の範疇に無いんだよ。権能を使えるから私もその傾向あるし。


「テア、上がりましたよ。テアは入りますか?」


「んー………どうせなら入りましょうか」


「一緒に入りますか?」


「今入ってきたんじゃないんですの??」


「入ってきましたけれど、テアとも一緒に入りたいです」


「まぁ………良いですけれど………」


アリスさんはそれで良いんすか??いやまぁ私は気にしませんけども。


その後、特にイベントも無く普通にアリスとお風呂に入ってたら、レイカとかフェイとかマスターとか妹様とかみーんな来たので、お風呂の中でわちゃわちゃしてました。まる。

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