科学的な透明化って光をどうこうするのか?魔法で再現出来るか?
ヘカテーが少女を救出し、異星人共の脅威を回避する為にもロ型世界に存在するプラクティススペースの内部へと転移させた日から3日後。私は調査結果をまとめながら、ヘカテーが拾ってきた少女(命令が救出と調査だったので誰か連れて帰ってくるだろうなというのは推測していた)の精神、魂魄、記憶、感情をどうにかして生成出来ないかなぁと、ロ型世界の自室でゆったりと悩んでいた。
いやまぁ、ぶっちゃけ………やろうと思えばどうとでもなる。ぜーんぶ悪魔で代替すれば良いだけだ。ただそうすると、あの少女は悪魔の本能を抱える事になるし、悪魔としての性質が着いて回る事になる。それが良い事なのかが分からないので、今回それは最終手段とするつもりである。
「………テア、どう?いけそう?」
「まぁ、悪魔としての精神やら魂魄やらを埋め込めば何とかはなりますけれど………個人的にはゼロから作りたいですわね………ヘカテーはどう思いまして?」
「私は………テアの判断に任せるわ」
「丸投げも困りますけれど………」
「あら………お母様、と呼んでくれても良いのよ?」
「生みの親は
あっれぇ………私、ヘカテーさんの性格こんなにしたっけ………?原典の神話に書かれてたような性格設定はしてる筈なんだけど………いや………むしろそれが原因か………?今、ヘカテーは"母親"としての側面が出ているから私を娘扱いしてる………ってコト?
「良いじゃない………わざわざ、テアの母親に見えるよう、姿形を変えているのに………偽装に使えるでしょう?」
「まぁそれは良いのですけれど………貴女は権能も使えますし、
私は神の権能を技術として模倣し、それを扱う権能使いだ。そしてヘカテーは、模倣先の神そのもの………を、再現して作られた悪魔である。しかし"冥府神ヘカテー"の認知度は大抵が神様としてのモノであり、それは悪魔としての逸話以上の名声である。
であるのならば、冥府神ヘカテーは悪魔の要素も兼ね備えている、というだけの女神である………とも、解釈できよう。だから私はそう解釈したし、そう解釈したから悪魔としてのヘカテーも権能を扱えるのである。
しかも、冥府神ヘカテーは多くの人々から信仰されている神だ。現代でも信仰されている事がある程度には強い神であり、だからこそその権能も多岐に渡る。私みたいに己の魂の性質を使って権能を扱うのではない。信仰する人々がこうあれと願い、それが権能へと昇華された存在なのだ。真の神の権能は、一つ二つでは足りない。
そうでなければ、神話の中で全能などとは謳われまい。
「それに、貴女の権能も
「ふふ………やっぱり、テアは私の娘なのよ………」
「違いますけれど………まぁそれはもう良いですわ」
亡者や魔物、あらゆる女怪に対する命令権やら、妖精、妖怪、精霊、魔女、死者、ドラゴン、悪魔、トロールなどの統率権限などが出来るのが、冥府神の悪魔である。ワイルドハントのリーダーとしてや指導者、又は母親としての命令であるので、私のように絶対命令権とはならないが………それでいても、あまりに広い命令範囲である。当然のようにドラゴンとか命令下にあるのが凄過ぎるんだよな。
これで権能のごく一部ってんだから、流石は本物の神格を元に作った子である。何なら、他にも異教の神として排斥された元神の悪魔ってのは割と居るのだから恐ろしい事だよ。まぁ私的には、簡単に他宗教の神を悪魔呼ばわりしてる奴らがやべーだけだとは思ってるけど。実際やべーし。そんなんだから宗教戦争とかするんですよ?人類君さぁ………
「そうですわ、ヘカテー。あの少女に名前は?」
「まだ………名付ける?」
「貴女が、ね。助けろと命令したのは
「………考えておくわ。あの子に似合う、素敵な名前を」
「えぇ………お願いしますわ、お母様?」
「あら………やっと素直に認めてくれたのね」
「ちょっとした激励ですわ。これきりです」
「素直じゃないんだから………ふふ」
「違いますのに………」
………まぁ確かに、悪魔としての私の母親としては完璧ですけれども。私を成長させて色気を出したかのような姿は勿論、私と同じゴスロリ風のドレスやら、誰かに命令を下せる権能やらと、色々な所で似てはいる。母親として紹介しても文句は無いだろってレベルではある。ヘカテー・スカーレットとか名乗ってても違和感とか無い。
というかその調子で行くと、私の姉とお婆ちゃんも兼任できるよね?女神様。乙女、母親、老婆、って感じで三つの姿を持つ女神なんだから。つーか三人同時に出現する事も出来るから、やろうと思えばマジでスカーレット家作れるのでは………??まぁ父親とかお爺ちゃんとか居ないけど、それはまぁ………どうしよっかな。他の悪魔にやらせるかー?執事はバティンで良いとして………メイドはリリス辺りに………あぁいや、そもそもヘカテー達の名前はどうすれば………?読み方が違う名前を使うとか………?
………まぁ、これはボチボチ考えてけばいいか。別に急ぎで偽の家族構成が作りたいって訳でも無いんだし。というかまずそもそもの話、スカーレット家の設定とか使う機会来るのか………?いや、でもなぁ………異世界巡ってたらあるかもしれないし………異世界だからなぁ。どんな世界へ向かうのかランダムだし、もしかしたら必要になってくるような世界だってあるかもしれない。それに、もしも使う機会が無くても、別に損にはならないし別に良いかなって。こういうのは考えるだけお得だ。
「んー………あの子にはまだ、何も無いんですのね?欠片も?」
「えぇ………ゼロよ。精神も、魂魄も、感情も記憶も、オールゼロ」
「そうなると、倍化や増幅は出来ませんわね………」
うーん、やはり欠片くらいは悪魔で作った方が………?
「恐らく………どれか一つでも生まれれば、それに付随するようにして………他の三つも生まれる………と、思うわ」
「女神様がそう言うのならそうなのでしょうけれど………その一つ目を生み出すのが大変なのですのよねぇ………」
「………やっぱり、時間が必要………」
「時間だけなら有り余ってますし、別に今すぐ精神やらが育つ必要もありませんし………まぁ、ヘカテーの好きなようになさいな。何かあるなら手伝いますわ」
「ありがとう………テア。良い子良い子………」
「むぅ………」
頭を撫でられている………うーん、流石はお母様だ。めちゃめちゃ心地良いし、撫でられているだけなのに安心感が半端無い………これが女神か………
「ふふ………やっぱりテアは私の娘………お母様ですよー………」
「んー………お母様じゃありません………もっと………」
「むぅ………いけず………でも、可愛いわ………」
「可愛いのはー………そういう風に身体を作ったからですわー………」
「外見的な可愛らしさじゃなくて………仕草の話よ」
「そうなんですのねー………はふぅ………」
いや、それはそれでどうなんだろう。私はこれでも男なんだが………最近、学校に行ってない時はずーっとキングプロテアの姿だからなぁ………まぁ何にせよ褒められてるしいっか。出来ればカッコいいとかの方が良いけれど、褒められてるってんならそれで良いや。
「………ふふ、テアはとっても可愛いわ………もっともっと、可愛くなりましょう………?」
「まぁ別に嫌ではありませんけれどー………具体的に何するんですのー?」
「んー………そうね………あぁ、子供を産むとか………どうかしら」
「もう産んでるようなもんですけれどー………」
「そうじゃなくて………お腹を痛めて………よ。確か………貴女の事に執着している悪魔が居るでしょう………?その彼に頼めば………」
「流石に孕むのは嫌ですわー………」
これでも男やぞ。だぁれが腹なんぞ痛めて子供を産んでやらにゃならんのだ。しかもその相手がバティン?いやまぁ喜んでしてくれるだろうし、私の方も私の方で多分一発で受精するだろうけれど………普通に嫌なんだよな………出産にも関係のある女神だからってさぁ。いやまぁ私の体質的に母親適性が高いから悪魔の創造が出来てるから良い事なんですけどね?それはそれ、これはこれ。
「むぅ………どうすれば………テアを可愛く出来るかしら………?」
「別にしなくて良いんですのよー………はふぅ………」
あの。ところで、そろそろ頭を撫で終わったりしませんか?流石の私もそろそろ恥ずかしさの方が増してきたんですが………
「テアー、帰りましたよー!」
私がヘカテーの撫で撫でに沈んでいると、今日の冒険から帰宅してきたアリスさんが部屋の扉を開けて入ってきた。君は今日も元気いっぱいだねぇ。私は君が元気いっぱいで嬉しいぜ。
「あら………お帰りなさい、アリスちゃん」
「あ!ヘカテーさん!ただいまです!私もテアを撫でます!」
「ふふ………なら、一緒に撫でましょうか」
「えぇ………アリスも混ざるんですのー………?まぁ良いですけれどー………はふぅ………ふわぁ………」
安心感が2倍に増えた………いや………むしろ2乗された可能性が………?
「やっぱり、テアの頭は撫で心地が良いですね。沢山撫でたくなってしまいます」
「そうね………撫でていると、嬉しそうな顔をするから………もっと撫でたくなるわね………」
「分かりますかヘカテーさん!ですよね!テアは勿論カッコいい時もありますけど、可愛い時はいっぱい可愛いんです!」
「ふふ………そうね。可愛い時はいっぱい可愛いわね………」
んー………まーだ撫でられるんですかねぇ………いやまぁ気持ちいいから何でも良いんですけど………
「あ、そうです!報告するのを忘れていたんですが、ホ型世界から連れてきたあの少女にちょっとだけ魂魄があったのが確認できましたよ」
「何ですって??」
思わず正気に戻ってしまったじゃないか。
「通常の生命体が100%とするなら0.001%くらいでしたけど、ちゃんとありましたよ。私でも知覚し辛かったですし、殆ど無いようなものですけれど。ちゃんと人間として扱えば、魂魄は大丈夫そうです」
「つまり………?」
「あの子に名前を付けて、人間として扱えば、少なくとも魂魄はちょっとずつ人間のモノが生成されてますよ。肉体はちゃんと人間ですから」
「なるほど?」
「魂魄が増えていけば、次第に記憶や感情も生まれるでしょうし、精神もいずれ生まれると思いますが………時間はかかりますね。ただ、時間をかけて生成した方が純度の高いモノが生成されると思うので、あまりこちらから無駄に干渉するのはやめた方が良いかもしれません」
「なるほど………ね」
はへー………流石は真実の瞳の保有者。普段から多くの概念を見ているだけある。概念的な部分の観察能力は長けてるなぁ。私じゃそういう概念の感知とか全然出来ないし、割と助かる。私がイメージすら出来てないからオリジナルの悪魔を創造してどうにか、ってのも厳しいし。
「まぁ、それなら大丈夫ですわね。名前はいずれヘカテーが付けますし、人間扱いもするつもりでしたし。教えてくれてありがとうございますわ、アリス」
「ありがとう………アリスちゃん」
「ふふふ、喜んでくれたのなら嬉しいです!」
となると、そこまで深く考えなくても良くなった訳だ。あの少女に関してはヘカテーに丸投げにしちゃって良い感じ?女神だし出産関係の権能もあるから、下手な人間よりもお母さん適性高そうだし。
ヘカテーの拾ってきた少女の処遇や中身の諸々をどうしようかと悩んだ日から3日後の昼頃。私がロ型世界の自室でホ型世界の情報を纏めている時、かなり美味しそうな芋羊羹のお店を見つけたので、今日はわざわざ徒歩で赴いているのである。今日の3時のおやつだ。しかし私の分だけを買うと後からアリスに責められるので、みんなの分も買っておかないとなんだよな。
「アリス、レイカ、フェイ、マスター、妹様、ミナ、店長の身内分は当然として………んー………まぁ、全部で30本くらい買っとけば足りるでしょう………多分………」
足りなくなったら追加購入するだけなので何も問題はありませんね………何なら、ハ型世界で手に入れた資源を使ってこの芋羊羹と同じ味の芋羊羹をうちの子達に作らせても良いし。まぁとりあえず30本分は買いますが。
「おう!いらっしゃい!何本欲しいんだい?」
「30本、お願い出来るかしら」
「あいよっ!ちょっと待ってな!」
と、店番のお兄さんがゴソゴソと後ろにある冷蔵庫を漁ると、そこには私お目当ての芋羊羹が10本毎に詰められてる箱があった。注文通りに3箱持ってきてくれたのを確認してから、私は電子マネーでと金を払い、そのまま店を後にした。
今日も今日とて暇なので、特に当てもなくフラフラと街中を散歩する。ふふ、こういう穏やかな環境って良いよねぇ。人生山あり谷ありなんてものより、出来るだけなだらかに均されてる平坦な道が良いだろ?多少凸凹はしてるかもしれんが、そんなに刺激的な生活は望んでないんだよね。まぁ望んでないとか言って暇潰しの為だけに異世界なんかに来てるけど………言うなればそう、安全な未知を求めたいんだよね。
そりゃあまぁ、異世界なんだ。時にはマジで危険だろうさ。文字通りに、未だに知らないんだもの。幾ら事前にうちの子を使って数ヶ月も情報を集めたとしても、危険な時はそりゃ危険だろうさ。けどね、別に突発的な未知は良いんだよ。そう言うのは日常で生活してても起こり得るもんだから。そういう時も権能で対処するし。
そうそう。権能なのだが、権能そのものを使用不可にするのは無理だと思った方が良いし、一度でも権能に至った存在から権能を奪う事は無理だ。己の魂に刻まれた性質を権能としてるんだぜ?心臓の鼓動を意識的に忘れる奴が居るか?無意識的に出来ない奴が居るか?居たとしたらそいつは死んでるからどちらにせよ問題など無いが、例えとしてはそんなもんだ。
「んー………箱越しの匂いだけでお腹減って来ますわね、これ………」
ただこれ、3時のおやつなんですよねぇ。流石にお昼ご飯を食べた後におやつは………物理的に太りはしないけど、精神的に太りそう。性根が怠惰に染まるとも言う。別に染まった所で困りやしないが、染まったら染まったで対処するのも疲れそうだし、我慢我慢。
持ってるだけでお腹が空いてくる箱をしまうべく、一旦一通りや監視の目がゼロの場所へと赴いて、荷物を収納してしまう。よしよし、これで身軽だな。
「次は何処に行き」
──瞬間、私は本能のままに身体を捻り、何者かの攻撃を回避した。感覚的には受けた所で物理的なダメージしか受けなかったと思うが、感覚頼りなので回避しておくのに損は無いだろう。
私は一体誰に攻撃されているのかと思い、攻撃して来た相手を見た………と、思ったのだが。
「………?」
「っ、と、せいっ!」
だと言うのに、続く攻撃がやって来た。今度は背後からでは無く、横腹を目掛けた一撃だった………と、思う。敵の気配や殺気すら感じられないから、本当にそこを狙っていたのかが分からない。完全に悪魔としての欲望由来の勘と本能だけで、今の私は動いている。それが無かったら普通に刺されていただろう。まぁ刺された所で死にはしないが………まぁ、回避出来る内はしといた方が良いだろうな。何かあるかもしれないし。
「!ここっ!!」
流石に3回目の攻撃ともなると多少は理解出来るというもので、攻撃されたであろう箇所に全力パンチを繰り出す。本能的には明らかに何かを殴り砕いた感覚はあるのだが………怪我を負った敵の姿も、悲鳴を上げた筈の敵の声も、そもそも拳から伝わる筈の感触すらも………何も、分からない。マジで感覚の違和感が凄い。
「………これ、どんな仕組みですの………?」
これは私の
「確実に腕は折りましたけれど………多分、犯人には逃げられましたわよね、これ………」
ただ、なぁ。絶対に逃さないとは言ったけれど、多分逃げてるだろうな。私があの一瞬であらゆる感知を試したってのに見えない相手が、用心深く奇襲を仕掛けてきて………1度目を回避されたから追撃したのに、そこで(恐らく)腕を折られたんだ。相手から見つからない自信がある奴がここで更に追撃してくるか?否、断じて否。そんな奴が、わざわざこれ以上怪我をするリスクを背負って戦うとは思えない。
「あぁ………むかつきますわね………!この
次だ。次会ったら確実に殺す。しかし、こんな事をされると流石の私も気分では無くなってしまうというもの。仕方ないので、私はそのままイ型世界に帰るのだった。
あ、ちなみに芋羊羹はみんな美味しかったそうです。それなら良かったよ。
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