天気雨って見るとなんかテンション上がるんだよな。何でだろ


爆発音、破壊音、砂煙に土煙。明らかな戦闘音が鳴り響く場所で、私はめっちゃコソコソしていた。やろうと思えばこの異界からの脱出などお茶の子さいさいなのだが、それをして失敗した場合、この戦闘遊戯を見て楽しんでいる異星人共に私という存在がバレる可能性がある。


事前の調査から、この惑星の科学技術がここまで発展しているのはこの異星人共である事が発覚している。何なら今の人類の科学技術のうち、2〜3割くらいは異星人共が元になった技術だ。


最悪なのは、この異星人共はこの惑星の人間達、言わば地球人(別に惑星の名前は地球ではないのでこれも翻訳による言い換え)の事を家畜として扱っており、その上で人々が構築する社会のトップ達を自身の傀儡としている部分である。まぁ簡単に言うと、この惑星の人々は、遺伝子レベルで異星人共に都合の良い家畜になっているのである。


だから、この惑星の人々は宇宙を目指さない。目指すにしても、この惑星の人々は太陽系の外にも宇宙が存在している事を知らない。この世界は太陽系だけであり、その外側に宇宙は無く、遠くに見えるあの星々はただ天球上に存在するだけの模様に過ぎないと、本気でそう信じている。


「あぶなっ………建物破壊し過ぎですわよ………そんな無駄なエネルギーを使うくらいなら貫通力に回した方が………いえ、むしろ広範囲攻撃に………?」


ただ、ここまで異星人共の最悪さを語ってきたのだが、ぶっちゃけ私には関係が無いんだよな。異星人共も異星人共で世界は一つだけと断定して異世界を目指す素振りは欠片も無いから、私が姿を晒さなければ異世界という存在に気が付く事も出来ないだろう。


………そう、私が姿を晒さなければ、だ。私が姿を晒した瞬間、異星人共は私という謎の存在を求めて奔走し、その非常に高い知性で異世界の存在にすら辿り着くかもしれない。ぶっちゃけ私が訪れた世界に手を出そうもんなら即座に種族全体を眼前に滅ぼす事くらい2秒も要らないので別に良いのだが………それはちょっと手間なので、回避出来るなら回避するのが私である。


今問題なのは、この戦闘フィールドから脱出するのが難しい、という点だ。この戦闘フィールドは科学技術産の異界のようなモノで、脱出するには転移を行う必要があるが、流石に転移なんてしたら異星人共にバレる。魔法的な方面からバレる事は無いが、科学的な方面からこの異界の空間を観測してるんだぞ?空間転移に伴う時空間の変化とか見逃す訳が無い。


「くっ………見てるだけって割と拷問みたいですわね………!」


一番の問題は、この空間で行われている地球人同士の戦闘が、普通に高度なモノである事だ。今こうして戦闘しているのは、地球各地から適性があると異星人に選ばれ、就寝中に肉体を分解されて全身が異星人共に都合の良いナノマシンに置き換えられた、まぁ言ってしまえば哀れな人々である。全員がナノマシンなのでこうして異界に転移、という名の転移前で分解して転移後で再構築するとかいうテセウスの船みたいな事も出来る訳である。


まぁナノマシンの特性上異星人共には決して逆らえないが、元から逆らう意思のある地球人は選ばれないし、仮に途中から逆らう意思があった場合も普通に即死するだけだ。それ以外は特にデメリットも無い。むしろ人間の時では不可能な身体能力を獲得し、何なら1人1人が特殊能力という名の事前に定めたナノマシンの運用方法などを活用して、かなりアクロバティックに戦う事も可能なのだ。


そして、そんな素晴らしい能力を持つ人間が2人、私の近くで戦い続けている。………そんなの我慢出来る訳がなくない?いやまぁバレたら困るから我慢するんですけど、それはそれとして摘み食いというか、ちょっとだけ手合わせしてくれたりとか………は、ダメだね。無理だ。バレる気しかしない。くっそー早く終わんないかなぁ。私が我慢出来る内に終われー!


………なんて複雑な気持ちで葛藤すること、凡そ30分。あーもうそろそろ理性が限界ー溶けるーあーもうやるかーやるベー混ざるーみたいな感じだったのだが、戦闘は終結したようで、片方がもう片方を殺害して戦闘遊戯は終了した。時間かかったわぁ。


「やっと終わりましたのねー………」


そう、この戦闘遊戯、片方が死ぬまで永遠に続く。例えお互いが友人同士でも親友同士でも恋人同士でも夫婦でも幼馴染でも親子でも何でも、相手との関係性に関係無く片方が死ぬまで終わらない。異星人共から盗み見たデータによれば、この惑星における戦闘遊戯の最長記録は105日21時間19分41秒。大体3ヶ月半くらい、この異界で過ごした訳だ。


この時、選ばれた地域は北極だった。食べられる植物も動物も何も無い大地で、この最長の2人は生きた訳である。この2人も当然のように全身がナノマシンなので無補給でも数ヶ月間は生存可能なのだが、逆に言うなら無補給だと数ヶ月しか保たないのである。互いに恋人関係にあったであろうと過去視から推測される2人は、戦闘相手が自分の恋人であると分かった瞬間に武器を下ろし、死ぬまでの残った時間を2人一緒に過ごす為に使ったのだ。


いやマジで、今過去視で確認してるけどこれは泣けるよ。映画も作れるレベルだ。しかもなんと、最後には互いに心臓を刺し貫いて心中し、これまでの戦闘遊戯で発生した事の無かった引き分けが発生している。


この戦闘遊戯で殺された方はまぁ当然のように死ぬが、殺した方はあらゆる怪我や異常を治療、回復された状態で元の生活に戻れるのだ。ほんの僅かでも相手より先に死ねば終わりなのである。だというのに、この2人は同じタイミングで死亡した。非常に優れた異星人共の文明ですら同じタイミングだと言うくらいには奇跡的なタイミングで2人同時に死亡し、そして互いに蘇生された。引き分けを想定していなかったシステムがどちらも先に殺したと判断してどちらも蘇生したからである。こーれはマジで奇跡です。


まぁ異星人共からすれば片方の死が望まれているものだったので、異星人共の不況を買ってどちらも死にましたが。これだけ見ると非人道的に見えるし異星人がゴミカスに見てるだろうが、異星人共から見れば家畜が予想通り死ななかっただけである。ぶっちゃけ人間だって牛とかに似たような事してるでしょとしか思わんかった。屠殺工場とかあるし………


私は確かに人間贔屓だが、だからと言って話した事も出会った事も無い、直接助けてと乞われてもいない相手の為に何かをする程、私は優しくない。別に私は異星人共に何もされてないし………何かされたらその時は滅ぼすけど………


「はー………帰ったら早めに発散しないとヤバそうですわー………っと、と」


欲望の発散先を無意識に追い求めないように無駄な思考を回していると、先程まであった筈の空間が丸ごと消え去ってしまっていた。私の視界に映る光景が、日本の住宅街から極彩色の宇宙空間のような場所へと瞬時に変わるのは、ちょっと面白かった。多分アリスは好きだろうな、こういうの。


破棄された後のこの極彩色の空間は、言わば………そうだな、亜空間とでも言えばいいのだろうか。現実世界の側に存在している虚数すら内包している無限の場所、それが亜空間である。少なくとも私はそう呼んでいる。私の中で身近な亜空間の利用方法と言えば、収納ストレージだろうな。


知っている人も多いだろうが、収納ストレージとはロ型世界における空間属性の魔法である。こいつは最大魔力量に応じた広さの収納スペースを作り上げる魔法なのだが、この収納スペースが存在する場所が亜空間なのである。無限に存在する場所の一部を自身の魔力で覆い、その内側を自分だけの収納スペースとして利用する訳だ。


この魔法のキモは、一度作り上げた収納スペースがあるのなら、例え異世界越しだろうと収納スペースへ接続出来る部分である。これは"自分が作った収納スペース"という縁を辿って転移ゲートを作る魔法である収納ストレージだからこそ可能となる手法で、個人的にこの魔法は非常に考えられているなと感心した記憶がある。


何せこの方式なら、転移妨害や魔力妨害がされていないのならば、例え異界の中だろうが異世界だろうが普通に収納ストレージが自由に使えるのだ。これは普通に凄いだろう。どんな世界にも亜空間はある、なら世界越しでも自由に使えるだろう?みたいな感じで………魔法そのものの発動を防がれていなければ何処からでも接続できるとか便利過ぎるんだよな。


「今日はもう、流石に帰りましょうか………これ以上何かあったら自分を抑えられる気がしませんし………」


話を戻すが、亜空間に生身で入るというのは普通に自殺行為だ。収納ストレージでわざわざ収納スペースの範囲を制限しているのは、そうして制限でもしないと無限に広がってしまって、好きなように収納物を取り出せなくなるからだ。そもそも収納物がバラバラのメチャクチャになる。これは、亜空間内部では空間の連続性が不確かだからこそ発生している現象であり、こんな場所に生身で入った時には全身があっちこっちに無差別転移を繰り返して、即座にバラバラになるだろう。空間の連続性が保証されていないからな。


まぁ、私自身は権能によって周囲一体を完全に掌握して、私の周りの時空間の歪みだけを無理矢理正常にしているから無事なのだが。権能の使い手なら多分誰でも出来る。権能持ちは誰であろうと世界を掌握出来るんだから、時空間の掌握なんか準備すら要らないだろう。多分ソフィアでも出来る。


あまりこの場所に居ると異星人共にバレそうなので、その後は特に何もせず、普通に元の世界へと帰還した。









3日後。私は再度、ホ型世界へとやって来ていた。今回は異界に巻き込まれないよう、異星人共の方のシステムをハッキングして私が存在する地域が選ばれないように細工したので、もう勝手に巻き込まれる心配は無い。自分から突っ込んで行ったら別だが。ここまでハッキングが早かったのはうちの子達が優秀というのも勿論あるが、それ以上に地球人達が使っていたプログラムが異星人共のプログラムの廉価版だったと言うのが大きい。


もし初めから異星人の方にハッキングしていたらバレていたかもしれないが、廉価版プログラムを事前に完璧にまで仕立て上げていたのが良かったらしい。事前調査で異星人共はハッキング対策も完璧なのは分かっていたから、まぁいざとなったら過程スキップしてやるべーとハッキング班の子達に作業は任せて2日放置してたらさ、その子達から『ハッキング完了しました』って言われて飲んでた紅茶吹き出しそうになったよね。ギリギリ吹かなかったから許して欲しい。


いやぁ………うちの子達はマジで優秀なんだから。もうね、その日はハッキング班の数百万の子達はみーんな褒めちゃった。流石に一人一人は時間が溶けるのでやってないが、この子達は1人の体験と経験でも全体に共有できるのだ。1人選んで偉いねーってずーっと褒めてたぜ。それだけでも全体の士気が爆上がりなんだからもう可愛い。


「あら、たんぽぽ………」


そんな私は今、都市部の近くにある自然公園をトコトコ歩いて楽しんでいる最中である。いやぁ、これが案外楽しくてねぇ………太陽ポカポカだし、良い感じに風吹いてるし、リラックス空間維持の為なのか公園よりも外の音が遮断されてるし………なんというか、ゆったり出来る空間、って感じだ。


この自然公園は人気も高く、あちこちで多くの人を見かける。ジョギングをしている人だったり、体操している人だったり、複数人で遊んでいる子達だったり………うんうん、ゆったりとした空間ってのはこういうものだよね………ここの様子を見ているだけでストレスが薄れてく人も居そうなくらい平和な空間だなぁ。


「んー………アリス達を連れて来ても良いかもしれませんわね………」


多分、アリスは気にいるだろう。レイカやマスター、妹様にフェイもはしゃぐと思う。妖精ロリ組は割と一緒に居ることが多いからなぁ。きっと4人一緒に遊んだりするだろう。んで、私とアリスは自然公園の中を見回る為に散歩するだろうな。アリスさんの好奇心的にそうなる可能性が高い。アリスは1箇所で止まってられないからな………!


「………あら………微笑ましいですわね………」


遠目に見えるのは、スポンジ製の剣やら盾やらを持ってチャンバラを楽しんでいる子供達。小さな少年達がはしゃぎ回り、元気一杯の笑顔を見せているその光景に、私は微笑ましさを覚える。うむ、実に良い光景だ。平和そのものとしか言いようがない。こういう光景を見られるというのは素晴らしい事だ。誇るべきだろう。


んー………あんな感じの、初めっからお遊び目的の戦闘でも本能が刺激されるの、私はマジで悪魔なんだなぁって気持ちになってくるよね。しかしスポンジ………不殺武器か………あぁいや私には関係ねぇか。どうせ私の器用さなら木刀だろうがスポンジだろうが何でも殺せるし、逆に刀剣だろうと銃器だろうと不殺なんか余裕で出来るし。こう考えると器用さの権能って汎用性高いな………まぁ器用貧乏って実績になるくらいだし、そんなもんだろうけども。


そういや武器で思い出したが、最近アリスが湖の中を潜って水中に何かあるか探索してた時になんか凄い聖剣を見つけた、とか言ってたな。アリスの鑑定によれば、概念防御貫通効果のあるかなり凄い聖剣なんだとか。まぁ刀身が根本からポッキリ折れて柄しか残ってないから、武器として使えて小さなハンマーみたいにしか使えないらしいけど、それでも概念防御貫通はあるから良いんだってさ。凄いよねぇ。


………改めて思ったが、なんでアリスさんは聖剣なんて見つけてるんだろうね。いやまぁ、別のものを探してる最中に偶然見つけたって喜んでた連絡は来てたから、初めっから聖剣目当てでは無かっただろうけども………だからと言って割と凄い聖剣(の柄)が見つかるのは訳が分からん。しかもこの前、アリスさんがその聖剣ハンマー(アリス命名)を使って釘打って、なんかこれ打ちづらいですね〜とか言ってたし。そりゃそうだよ。それハンマーじゃなくて剣の柄だもん。加工しようにも出来ないって鍛冶屋のおっちゃんに匙投げられたって言ってたのはアリスさんでしょうが。


なんか前々から思ってたけど、あの子は私の居ない所だと主人公過ぎん?別に私が関わらないなら良いんだけどさぁ。レイカもフェイもマスターも妹様もみーんなアリスの冒険譚(仮)のお話に混ぜ込まれそうな大立ち回りしてるのに、私だけ巻き込まれないのなんなんだろうな。身内の中だったら私が一番強いのに………みんな怪我して帰ってこないから良いんだけども。


巻き込まれるで思い出したけど、そういやマスターと妹様がアリスの色々に巻き込まれるから、その対策として私が事前に作ってあるうちの子達を自由に召喚出来るようにしてたな。いやさ、私を召喚してうちの子を呼び出すってなると、まぁちょっとばかしラグがあるじゃない?それに、私はうちの子のレパートリーを熟知してるけど、マスターはあんまり知らない訳で………まぁ諸々を考えた結果、うちの子と直接契約した方が早いんじゃない?って事になったんだよね。


流石にマスターとの相性が良い子に限ってはいるけれど、それでも母数が母数だ。悪魔に関する逸話を元にして形作られ、私から直々に識別用の名前を与えられ、知識や人格の共有が特殊な独立個体であるネームドの子達ですら、日々増え続けているのだ。ネームドではないある程度用途に分けて運用する前提の一般悪魔の子達の数など、もう既に数え切れない。木を切る専門、糸を紡ぐ専門、果ては釣り糸に餌を付ける専門まである。その肉体も性格も欲望も専用にチューニングしているからこそ、人間では叩き出せない効率を得られるようにしている子達だ。まぁ私は緩めの効率厨だし、機能的な効率も求めがちなのでね。これくらいはやりますとも。


確かマスターと契約してる子で一番強かったのは………あぁ、元ネタ通りに作ったらなんかビジュアルがキングプロテア・スカーレットの母親みたいになったあの子か。まぁ出来る事がちょっとだけ似てるしな………


「んー………っ………」


少しばかり伸びをして、その後脱力する。こういった動作は悪魔には不必要なのだが………人間の時と同じ感覚でやってしまうんだよなぁ。本来伸びってのは、筋肉があまり動いてないから身体が無意識的に伸ばして血液を送ってあげようとする本能的な動作………とかなんとかだった筈。あんまり詳しくないのでこれ以上は言わないが………悪魔には、筋肉も血液も存在していない。


いや、厳密にはそれっぽいモノはある、というべきか。私の肉体は人間ベースで作っているから、身体の中身も人間とほぼ変わらない。しかしそれは姿形が似ているだけで、機能としては一切機能していないのである。心臓は悪魔炉心だから魔力は生成しているけれど、血液を全身に巡らせるポンプとしての役割は無いのだ。同じように、筋肉があってもそれがあるから力を出せている訳でも無いし、神経があるから身体を動かせている訳でもない。あくまでも、人間みたいな身体、というだけなのである。


すると当然、伸びなんてモノも必要無い。全身にある血液も血液っぽい色と形をしているだけで昨日も何も無いただの溶液だし、筋肉だってそれっぽい形をしているだけの肉だ。一応、骨だけは牛乳魔法でとことんまで強化できるので人間の時と変わらない素材で作ってはいるが、別に骨が無くてもふにゃふにゃになったりはしない。いつかは皮膚の真下に骨を配置して擬似外骨格的な感じの肉体に改造したいなーと思っている程度には、悪魔の肉体は自由自在だ。まぁその分欲望に縛られているけれど。


それもこれも、悪魔が肉体を失っても活動出来る精神生命体だからこその能力と言えよう。だからこそ、緑玉剣の悪魔みたいな再生阻害の攻撃が割と致命的なのである。普段は四肢を切り落とされても即座に再生するから平気なのに、再生阻害を受けるだけで四肢が再生しなくなる。別に無くても生存には問題無いが、切り落とされた箇所は四肢としての機能を喪失する。戦闘中だったなら割と致命的だ。


「………戦闘したいですわね………」


色々と考えていたら、段々と戦闘欲が刺激されてきてしまった。くそぅ、異星人共の戦闘遊戯に飛び込んで戦ってやろうか………でもなぁ、一回見つかるとその後の対応が面倒なんだよなぁ。それならまだハ型世界のやべー魔物が出てくるダンジョンの方が楽しいし、何なら素材として報酬いっぱいくれるし、何なら最近世界のルールを権能で無理矢理無視する手法も完成したから、他の世界の私と同じ性能でダンジョン攻略出来るようになったし。


いやぁ。ダンジョンによる強化はいいんだけど、稀に強化無しで戦いたい時ってのもあるんだよ。ほら、ゲームで言うところの縛りプレイみたいな?悪魔の権能だけ、器用の権能だけ、魔法だけ、物理だけ………みたいな感じで、その日の気分に合わせてやるんだよ。ぶっちゃけフルパワーだとダンジョンで出てくる相手は弱過ぎて………権能みたいに空間掌握ができる奴も多いけれど、出力差で私の権能領域が上書きしちゃうからさ………相手にならないんだわ。だからこそ大抵の場合でフルパワーは縛ってるのよ。


「あら………?まぁ、珍しい事もあるんですのね」


私が呑気に自然公園を歩いていると、ぽつぽつと雨が降り始めた。曇っている訳でもないのに雨が降る。日本において"狐の嫁入り"と、そう呼ばれる天気になったらしい。珍しい天気に子供達がはしゃぐ姿が可愛らしい。


「ふふ、良い天気ですわ」


私はこの、晴れていながら雨の降るという、神秘的な天気が好きだ。これは人間である時から思っているし、悪魔の今は尚更好きだ。私が生まれた時から【悪魔の婚約者】なんて称号を持っているからなのか、それとも魂に刻まれる程に好きなのかは分からない。しかし兎に角、私はこの天気が好きだ。


晴天でありながら雨が降っている状態を天気雨と言い、日本ではこれを"狐の嫁入り"と言う。しかしこれは日本やイタリアでのみ言われる言葉で、場所によっては猿、ジャッカル、鼠、熊、虎との婚姻であるとも言われ、人々はこの神秘的な天気を人ではないモノの婚姻や婚礼に結びつける傾向にあるらしいのだ。


そしてトルコでは、この天気を"悪魔の結婚式"と呼ぶ。


そう。こうした天気すら、人は悪魔と呼ぶのだ。そして私は【悪魔の婚約者】。小さな頃から天気雨に心躍っていたのは、もしかしたら私が悪魔との婚約者だったからかもしれない。そしてもしかしたら、天気雨が降る度に私は親としての性質を高め、そのまま概念的な悪魔の土壌としての性質を高めていったのかもしれない………というか今現在進行形で悪魔の土壌適性が上がってきている気がするので、多分間違いないだろう。こんな所でレイカが生まれた理由が分かるとは………まぁそんなもんよね。


というか、前から『天気雨の悪魔』は作ってあったのに気が付かないのはどうしてなんでしょうね。もしや雨に当たらないとダメとか?可能性あるな………


ちなみに一応その天気雨の悪魔の説明をするが、この子は晴天でも雨が降っている状態である天気雨、その現象の事をトルコでは"悪魔の結婚式"と呼称する事に由来した概念の悪魔である。


その能力として、天候を強制的に天気雨に変更させる能力を持つ。また、天気雨の時に悪魔同士が婚姻した場合、本来はどんな逸話や元ネタがあっても両者が"婚姻関係にある"という概念を持って悪魔の権能に刻み込むことが可能な、言ってしまえば、本来は存在しない"2人で1人"という概念を悪魔に植え付けることが可能となる悪魔である。まぁ未だに二番目の機能は使った事が無いが………そうだなぁ。


例えば、私とバティンって2人の悪魔が居るじゃん?この子の二番目の能力を使うじゃん?そうするとね、私とバティンは2人で1人って概念を刻み込めるんだよ。こうなると、他の誰かが私かバティンの片方を召喚すると、もう片方も自動的に召喚されるって寸法よ。文字通り、概念に刻み込んでるからな。概念干渉出来るやつじゃないとそう簡単に防げないぞ。何なら、逆に概念干渉出来るやつがこれで婚姻した場合は多分2人で1人の融合体とかになれるかもしれない。


ついでに言うと、この子は私の分類では"現象悪魔"と呼ばれている子のうちの1人である。実際の物理現象などを元にした悪魔で、明確にこれと言った肉体はない。元になった現象に沿った法則を展開するのに長けており、その概念的な干渉は並の概念悪魔以上である。元が物理現象だから由来がしっかりしてるんだよな。まぁ、使う場面が多いかと言われたら別だが………別に使う事が目的で作った訳ではないので。


「本当、良い天気ですわねぇ………ふふふっ」


悪魔の本能ではない。人間の感性ではない。これはそう、私の魂が喜んでいる、と言うべきだろう。まぁ、私の魂に刻まれた性質の発露が【悪魔の婚約者】って名前の称号だものな。欲望を満たしている時は別の心地よさが、実に良い感じである。


「ふふふー………ん?」


私が天気雨を楽しんで浴びていると………ふと、晴れた雲の中に異物を見た気がした。普通の主人公ならそのまま去るかもしれないが、私は権能保有者。惑星一つ分なら即座に自分の権能範囲に入れられる、人類の超越者である。空間属性への適性も相まって、私の権能による空間把握能力はソフィア以上なのである。


「………壊れた宇宙船………?」


そうして私が先程の一瞬で異物として見ていたモノの正体は、明らかに機体から煙を吐いて地上へと落ちていく宇宙船であった。


「えぇ………どうしましょう………」


どう見ても、明らかにアリス案件("アリスが主人公のように動いた時に発生する王道みたいなイベント案件"の略称)の光景。普段の私なら確実に無視して普通に散歩を続けていたかもしれないが………まぁ、今暇だしな………どうせなら助けてやるかぁ。


「うーん………まぁ、うちの子が助けるくらいなら巻き込まれはしない………筈………」


しかし、私が助けに行くのは異星人共に発見されるリスクが高いので、うちの子を派遣する事にしよう。さーて、誰を送ろうかねぇ………………うん、よし………派遣する悪魔は、この5体にしよう。この組み合わせなら大抵の事柄には対応出来るだろうし、仮に対応出来ないのなら追加の派遣をするまでだ。


「………では、任せますわよ?ヘカテー・・・・

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