器用さの権能だってやべーって事を教えてやるぜ!
本日、3月12日目。今日この日、アメリカ(っぽい国)から魔法少女とバックアップの人員を乗せた飛行機がやって来る手筈となっている。どんな魔法少女がやってくるのかの資料も貰ったが、中々に強そうな魔法少女ばかりで期待してしまう自分がいる。まぁ自分も参加したくなってしまうので、本戦を見る時は最低でも人間になっておきたいとは思っている。
「んー………」
「むぅ、デーモンが強過ぎますね………5体1なのに負けそうです」
「あー!落ちちゃった!」
「あぁもう!ちょこまかと逃げるんじゃねーですわよ!」
「どうしましょうか。我々の連携でも倒せるか分かりません」
「………とーってもー………つよーい………」
そんな護衛当日の今日。超人部隊所属の魔法少女であるイモータル、クレアボヤンス、テレキネシス、スーパーパワー、タイムキーパー、そして
という事で始まりました、大乱闘格闘ゲームによる超人部隊VS私というマッチです。いやまぁ、初めの方は全員敵のバトルロワイヤルだったんだけど、あまりにも私が強過ぎるので超人部隊5人組がチームを組んできたんだよ。まぁ受け入れたの私なんですけど。
「あ、そこですわね」
「あ゛ーっ!ちょ、復帰出来ないですわー!?」
ただ今私の持ちキャラに撃墜されて復帰出来なくされたキャラクターを操るのは、魔法少女テレキネシス。美しい銀髪と強い意志の籠った紅い瞳を持ち、黒を基調としつつも白がワンポイントに入ったゴスロリ服を好んで来ている少女である。そんな彼女の魔法は名前通りの念動力で、周辺の魔力を支配する事によって不可視の力場を発生させる事が出来る魔法なんだとか。他の超人部隊と同じようにテレキネシスも魔力支配能力に特化している為、魔物の使用する魔法すら支配してしまうのである。
ちなみに、テレキネシスの口調は私と同じお嬢様口調だが、彼女の実家は割と良い所らしく、幼い頃から緩めの花嫁修行と共に礼儀作法なども学んできたからこその口調らしい。また、その花嫁修行により、大抵の家事は卒なく熟す事も出来るそうだ。まぁそこまで厳しい家でも無かったので、こうして濁音混じりの悲鳴も普通にあげる、割と喋りかけやすいタイプのお嬢様のようで、学校でも友達沢山なんだとか。
「安心してください、テレキネシスの仇は私達が討ちましょう」
「せいっ」
「………すみません、撃破されてしまいました」
「早いですわよ?!」
クレアボヤンスのキャラクターを画面外に吹き飛ばし、これで相手は残り3人。長年のゲーム経験により上手い動きをしてくるイモータル、自身の身体能力や動体視力だけでかなり動けるスーパーパワー、そしてマイペース過ぎて動きが掴み難いタイムキーパーである。誰から倒してやろうか………
「お、っと、危ないですわね」
「惜しい!もうちょっとで動きを止められたのに!」
「ナイスですスーパーパワー!タイムキーパー、挟み撃ちです!」
「………りょうかーい………」
スーパーパワーが大きく仕掛けて来たが、それを回避する。しかし回避先を読まれていたのか、イモータルとタイムキーパーが連携して遠距離攻撃を繰り出してきた。回避は難しいのでジャスト防御で遠距離攻撃を打ち消し、そのまま退避の遅れたタイムキーパーを吹き飛ばし、これで残り2人。
「あうぅ………やーらーれーたー………」
「くぅっ!惜しかったですのに!」
「あれくらいじゃ負けませんわよ?」
魔法少女タイムキーパーは、長い黒髪と黒い瞳を持つ少女である。常にマイペースで口数が少なく、どこかぽわぽわとした不思議ちゃん的な雰囲気を醸し出している。タイムキーパーの魔法は文字通りの時間操作で、時間加速に時間遅延、時間停止は勿論、時間跳躍や時間遡行すらも可能とする魔法を得意としている。しかし魔法が非常に強力な分、その魔力消費も非常に激しく、魔力消費の削減能力に特化しているというのに相当の魔力を消費してしまうのが欠点なのだそう。
タイムキーパーはマイペースで時間にルーズな側面もあるものの、趣味は時計集めで体内時計は非常に正確と、別に常日頃から時間にルーズという訳ではないらしい。………まぁ、それはそれとして遅刻常習犯らしいが。
「せりゃー!あー!ぐわー!」
「残り1人ですわね」
焦ったのか隙だらけで突撃してきたスーパーパワーを吹き飛ばし、残り1人。不死身の魔法少女イモータルだけだ。
「ふふふ………魔法少女イモータル。仲間は既に皆死にましたわよ………?まだ諦めないというんですの………?」
「当然です!私は不死身ですから!皆んなの仇を討てずに死ねません!いやまぁ仇を討っても死ねませんけどね!」
「まぁそれはそうですわね?」
「ちょっと!勝手に殺さないでくださいまし!」
「でも倒されちゃったのは本当だもんね!次は勝てるかな?」
「まーけーた………リーダー、がんばれー………」
「手元の動きが非常に素早いですね………細かな調整が非常に正確です。私には再現出来そうにもありません………」
「みんなもうちょっとタイムキーパーみたいにリーダーを応援してくださいよ!私泣いちゃいそうです!」
「「「「がんばれー」」」」
「凄い棒読み!でもありがとうございます!」
うーん、全員仲が良いなぁ。5人の連携も中々に対処が難しかったし、5人全員が即席で連携出来る程度には仲が良く、そして互いに信頼し合っているのだろう。この子はこうする、では私はこうしよう、ここはあの子に任せる、私はこうして補おう、ってのがすぐに出来てるのは信頼の証だ。本当に良いチームしてるぜ。
まぁ私が勝つけど。
「せいやっ」
「あっ」
「あー、負けちゃった!」
「もう強過ぎですわー!」
「つよーい………けどー………次ははかーつ………!」
「対策は幾つかあります。少しずつ詰めていきましょう」
「………うーん、次は違うキャラにしてみようかな?」
この後、超人部隊5人との大乱闘ゲームは2時間近く続け、最後の一戦で負けそうになったものの、ギリギリ勝利を掴み取って無敗のまま
夜9時。外国からやって来た魔法少女達の護衛を行う為、私と超人部隊は事前に定めた配置へと収まっていた。外国の魔法少女達は全員が一つのホテルを全て貸し切って宿泊しており………それはつまり、このホテルの従業員と魔法少女とバックアップの人員以外、このホテルの中には誰1人として居ない事に他ならないのである。
『では、只今の時刻を以て、我々超人部隊、及び魔法少女デーモンによる護衛任務を開始します。全員、不審なものを発見した場合は直ぐに私に連絡をください』
『私とスーパーパワーがホテル内部の従業員室で待機、クレアボヤンス、テレキネシス、タイムキーパーはホテル近くのビルの屋上、デーモンは隠密特化の悪魔達をホテル周辺に透明化しつつ待機させていて………本人はホテルの屋上でしたが、皆んな場所間違ってないですよね?』
『こちらスーパーパワー!大丈夫です!』
『隣に居るから把握済みですけどね、ありがとうございます。他のみんなは?』
『こちらクレアボヤンス、テレキネシス、タイムキーパー、配置完了です』
『魔法も準備完了してますわ。安心してくださいまし』
『いざとなったらー………私が時を止めちゃうからー………』
「こちらデーモン、ちゃあんとホテルの屋上で待機してますわ」
『よし、全員大丈夫そうですね』
とうに世界は闇に包まれ、夜の帳が下りている。しかし私には第六アップデートである暗視遮光視界確保アップデートが存在する為、暗闇の中でも世界を正しく見通す事が可能である。この暗視の方法が光属性による暗視である為、今の私の視界の中に影が一切存在していないが、それ以外はまるで昼間のように世界を見通せている。
今回。超人部隊や私など、他にも3部隊の魔法少女達がこうして護衛に付く事になったのには一応理由がある。護衛自体は毎年居たのでそれは良いのだが………実はここ最近、各国の魔法少女の不自然な失踪が何件か発生しているらしいのだ。今回その警戒として、こうして魔法少女の護衛の数が極端に増えている訳だ。
そして、その中で最も
彼女らは魔法少女として満遍なく割り振られる筈の様々な能力の内、たった一つのみに限定し、更には衣装という防御力すら捨てるという、非常に極端な才能の持ち主達。
魔力回復能力に特化し、死ねば必ず蘇生の魔法が発動する反則級の耐久力、不死身のイモータル。
魔力操作能力に特化し、数十万km先であっても視認出来る反則級の偵察能力、千里眼のクレアボヤンス。
魔力支配能力に特化し、あらゆる全てを支配する力場を生み出す反則級の攻撃力、念動力のテレキネシス。
最大魔力量に特化し、その身体能力で全てを肉体で薙ぎ払う反則級の機動力、超身体能力のスーパーパワー。
魔力消費削減能力に特化し、回避不能な絶大の世界を展開する反則級の干渉力、時間操作のタイムキーパー。
彼女らはそのピーキーな性能故、他の魔法少女達に存在するような担当区域を持たず、国からの命令によって動き、他の魔法少女では熟せない危険な任務を繰り返して来た、特殊部隊のようなモノなのである。
『今回、私達の任務は秘密裏な護衛という事ですが、いざとなったら普通に暴れても良いですよ。そもそもの話、私達は誰1人として静かな戦闘に向いてませんから。あくまでも、出来るだけ秘密裏に、ですから』
『リーダー。私達は普段から任務通りに出来る事の方が少ないと思います』
『そうだよねー?この前なんてリーダーが1人だけ特攻して回収大変だったし!』
『自分ごとやってほしい、じゃあないんですのよ。回収するのは結局私達なんですのよ?あぁ言うのはやめてほしいですわ』
『あれ………疲れるー………』
『あれー??』
ちょっと心配になって来ちゃったかも。
『ま、まぁ、兎に角、護衛と言っても別に肉の盾になれと言われてる訳じゃありませんからね。やるとしても私がやりますし、護衛対象だって魔法少女なんですから、いざとなったら巻き込んで一緒に戦うくらいしてもらいますよ。だから、いつも通り、いのちだいじに、で行きましょうね』
『リーダーに言われたく無いですが、了解です』
『リーダーがそれ言うの?了解!』
『リーダーが一番大切になさいな!了解ですわ!』
『リーダーがー………一番大切にしてねー………りょうかーい………』
「これは恒例行事ですの?」
『違います!私だって別に無駄に死んでる訳じゃないですし!』
『無駄に死なないでほしいと言ってるんですけれど?!』
『死にまくってるリーダーを回収するのはテレキネシスか私だもんね!手間が増えるからやめて欲しいかも!』
なんかもう漫才を見てる気分になって来たな………
そんなこんなで4時間が経過し始め、通信機を通じて普通に雑談が始まってしまった頃。私は一瞬、想定に無い魔力の揺らぎを観測した。
「………ん?クレアボヤンス、テレキネシス、ちょっとよろしいですの?」
『ですから目玉焼きには醤油だと──はい?何か言いましたか?』
『こちらクレアボヤンス。何か?』
『テレキネシスですわ。どうしたんですの?デーモン』
「いえ、ホテルから北1km地点で想定に無い魔力の揺らぎを観測しましたわ。そちらに魔法は?」
『どちらも………使用していませんね。急遽確認します。全員、気を引き締めてください。何かあるのかもしれません』
直後。
『っ!全員伏せて!!』
クレアボヤンスの叫び声と共に、ホテル北側1km地点から建物丸ごと抉れるくらいの魔力の込められた魔力弾がホテルせ目掛けて飛来して来た──が、それだけだ。うちの子を即座に魔力弾の目の前に配置し、全魔力を吸収するのと同時に爆散させられる。音属性を利用して音を拡散させ、出来る限りその静音性を高める事も忘れない。
『こちらクレアボヤンス!ホテルへの攻撃を行っている襲撃者6名を視認しました!これは恐らく、目的は──』
『初めから私達、って事ですかね!』
通信機越しにイモータルの剣が弾かれた音が聞こえて来た。それはつまり、既にホテルの内部に侵入され、イモータルが襲撃を受けたという事に他ならない。
『敵は転移能力持ちの可能性アリ!即座に無力化を開始!』
クレアボヤンスの声を聞いて、超人部隊は全員が一斉に動き出した。イモータルとスーパーパワーは護衛の為に隠れ潜んでいた従業員室から襲撃者ごと飛び出してホテルの駐車場方面へ2人の襲撃者を連れて行き、3名の襲撃者はクレアボヤンス、テレキネシス、タイムキーパーと遭遇、そして残り1人が私の真後ろにまでやって来ているという事実を、私は権能による空間把握能力でしっかりと把握した。万が一を考えて、うちの子達を超人部隊の子達に数人ずつ付けておく。
私は背後からの薙ぎ払いの一撃を器用に回避し、目の前に存在する襲撃者の様子を確認する。そこに居たのは全身鎧に身を包んだ、1人の男。鋭く研がれた無骨な片手剣を持っており、悪魔の防御力と言えどもあんな刃で切り裂かれたら相当深く肉体が損壊してしまうかもしれない。まぁ肉体の損傷を治すだけならぶっちゃけ簡単だけれど、だからってわざわざ攻撃を受けてやろうとも思わない。
「………貴方、何者ですの?」
返答は無い。………まぁそりゃそうだ。わざわざ会話をして情報のヒントを出す必要も無いのだから。
はぁ………仕方ない。
「貴方………魔人、ですわよね?」
私が"魔人"と言った瞬間、目の前の男の気配が激変した。先程までは凪のように感情も何も見せない暗殺者のような気配だったのに、今は無数の感情が入り混じって驚愕しているのが理解出来る。
魔人。それは、この惑星に住まう悪の組織が作り上げた、魔法少女の対となるモノ。魔法少女が妖精と契約した女性ならば、魔人とは魔物と融合した男性の事を指している。魔物と人間を無理矢理融合し、適合すれば魔法少女に対抗出来る能力を手に入れられるが、失敗すれば死に至る非合法の技術。それが、魔人である。
『………貴様、何故それを』
「さぁ?どうしてでしょうね?」
普通にこの世界にやってくる前の情報収集で見つけ出しただけである。あまり権能保有者の力を舐めないで貰いたい。
「まぁ、何でも良いですわ。貴方は
どうせまともな返答は無いんだろうなと見越して自己完結する。それと同時に、私の手の中に緑玉剣の悪魔を呼び出しておく。ただし、今ここで呼び出した緑玉剣の形状は普段のシミター型とは全く違う。それは刀身が長く、薄く、そして切断に特化した形状。イ型世界の日本で生まれた武士の武器、刀である。
ちなみに、わざわざ刀にしたのにはちょっと理由がある。いやまぁ、この戦闘で
「さ、エスコートは貴方からお願いしますわね。途中でバテたら許しませんわよ?」
訳)お前の方からかかって来い。途中で体力切れになったら許さん。
「っ、と」
私が戦闘開始を煽った直後に、かなり鋭い一撃を放ってきた。が、私の器用さの前ではどんな技術も塵芥に過ぎない。瞬時に権能を行使し、私の器用さを極限にまで………具体的には、凡そ無限と言えるくらいには引き上げる。普段の200億とかいう数値でも過剰なのにここまでするのには、やはりちゃんとした理由がある。少し
「ん、ん」
振るわれた剣を受け流して割と本気で蹴り飛ばしてみるが、ノックバックするだけでダメージになっている気がしない。むぅ、素早さと器用さでは勝ってるけど、筋力と防御力はあっちの方が上みたい。こっちは生身であっちは鎧だから仕方ないんだけど、それとは別に中身が硬い気がする。まぁつまり、融合した魔物が防御力に長けた魔物だったんでしょうね。
まぁ、悪魔の権能は使わないでも勝てるか。
「ふ、っ」
息を吸い、吐く。息を吸う時に人間の身体は緊張し、息を吐く時に人間の身体は弛緩する。それは人間の構造上仕方ない小さな隙であり、だからこそ多くの達人はその隙を狙う。
しかし当然、悪魔に呼吸も緊張も弛緩も存在していない。だから、これはブラフだ。存在しない呼吸という隙のタイミングを作り、そこを狙わせる。目の前の男は私が呼吸の必要が無い存在だと知らないから、綺麗に引っかかるのだ。
ほら、こんな風に。
『っ、なっ!?』
「っ!しっ!」
私が息を吐いたタイミングで振るわれた人間では回避困難な一撃を、私は待ってましたと言わんばかりに振るわれた刃を数ミリだけ回避して男に刀の一撃を喰らわせ、その腹を真横に切り裂く。
『ぐっ?!』
しかし、鎧には綺麗な切断面が生まれたものの、男当人の防御力が異様に高い為なのか、男にダメージを与えられた気配は無い。そしてその防御力は、刀から伝わってくる感触的に物理的な防御ではない。どちらかといえば魔法的な防御のように感じられる。
傷一つない鎧を切り裂かれたのを怒ったのか、それとも自身の防御力を信頼したが為の反撃か、男は私に斬られても直ぐに動き出し、私を切り付けようとしてくる。見上げた胆力だなぁと感心しつつ、横に大きく跳躍して攻撃を回避する。そのままの勢いだとホテルの屋上から飛び出てしまうので、第八アップデート、完全転倒防止アップデートによる空間の足場化により過剰な勢いを殺し、屋上へと舞い戻る。
「ふぅ………貴方、弱いですわね。防御力はまぁまぁですけれど、ドラゴンの魔力障壁に比べれば雑魚も同然ですわ」
『減らず口を………!』
実際、ハ型世界のドラゴンの魔力障壁は普通に切るとなると流石の私でも厳しかっただろう。しかし、結界や障壁というモノには多少なりとも綻びが存在しているのが常である。何なら私の自動防御にもあまりにも小さ過ぎる綻びはあるが、最近積層防御に変更したので一撃で全て破壊されることは無くなっている。
まぁ中には才能だけで綻びの無い結界や障壁を作れる輩も居るだろうが………兎に角、私はその数ナノメートルとかいうレベルの綻びを器用さのゴリ押しで切り裂いてドラゴンを殺していたのだ。感覚からして数ミリも綻びのある防御結界だから、まぁ………うん、切れるね。
しかし、このまま切って終わりではあまりにもつまらない。どうせ切るなら私の手札を切って、
「さて。そろそろイモータル達の戦闘も終わりそうなので………終わりにしますわね?」
『やれるものならやってみろ………!』
こちらに迫ってくる男の事を完全に無視して私は刀を両手で持ち、自分の中の権能へと意識を向ける。私はそのまま、絶死の刃を振るう。
「絶命刃」
上段にあった筈の刃は、いつの間にか下段へと降りきっている。こちらに向かってくる男はそのまま、何も分からないままに、ただ
「ふー………調整が難しいですわね………」
これこそは器用の権能の奥義『絶命刃』。必殺技が相手を必ず殺す技なのならば、確かにこの技は確実な死を相手に与えられるだろう。例え、相手が死の概念を持たない怪物であっても、相手が不老不死であっても、だ。
この絶命刃を使用するのに必要なのはモノは二つ。刀と器用さの権能だけである。だから、わざわざ刀を用意したし、わざわざ器用さの権能を使用していたのだ。
ところで、皆は『器用さ』が何かを考えたことがあるだろうか。ゲーム的に表現するなら、それはステータスにおけるパラメーターの値だろうか。ゲームの種類にもよると思うが、器用さを示す値はDEX、略さず書くならdexterityだろうか。そして確かに、私は器用さの権能を用いればそのDEXの値を好きに操れる。それは、ハ型世界式ステータスでも確認できたことだ。
別にそれだけしか出来ない訳ではない。例えば私の権能は二つあるが、悪魔の権能は創造、知覚、命令に特化しており、器用の権能は操作に特化している。つまり私は、DEXの値を自由に操作する事で、好きなように器用さを上げたり下げたり出来る訳である。この操作は自他を問わないので、自分や味方のDEXを引き上げたり、他人や敵のDEXをマイナスに振り切らせたって良い訳だ。言葉で表現するなら、DEXの値を操作している訳である。
そうして私は器用さを操作出来る訳だが………この世に存在する"器用さ"という単語は、何もゲームで言う所のDEXとしての、身体能力としての器用さしか存在していないのか?否、当然ながら否だ。器用さという単語には幾つか意味があるが、今回の私が操作したのは『要領良く、色々な物事を処理する事』を示す"器用さ"だ。
そして考えてみて欲しい。"要領の良さ"を極限にまで………果ては無限にまで引き上げたその時、一体何が出来るのか?
その答えは単純明快。
要領良く処理することを器用さと表現するのなら、その究極系とは過程の省略、スキップを意味すると思わないか?少なくとも私はそう思ったし、そう考えたからこそ使えている。私の扱う権能はロ型世界における魔法の延長線上に存在する技法なので、イメージがあれば割と形になるのである。
話を戻すが、この"過程のスキップ"は使用した瞬間に勝利が決まる程に強力な手札である。目に見えない速度で動いている訳ではなく、転移をしている訳でもない。本来必要な過程を省略して、その結果だけを出力しているのだ。動いた次の瞬間には
また、遮蔽物なども意味を為さない。あらゆる過程をスキップして結果だけを出力するこの技に届かない場所は無く、例え世界を超えたとしても遠隔から切ることが可能である。同様に物理攻撃の無効化なども完全に無視し、不死だろうが必ず殺す事が可能である。更には、切るモノと切らないモノを区別する事も可能である為、体内に巣食う病魔だけを切り刻む事も可能である。距離無限、防御&耐性完全無視、任意切断と、まるでチートのような技が私の絶命刃である。
簡単に言うなら、私が『斬りたい』と思った相手が居て、そいつを斬るために絶命刃として刃を振るったとしよう。そしたら、次の瞬間にはそいつは斬られている。例え、ギミックを解除しないと死なないような相手であったとしても、絶対の防御の持ち主であったとしても、真の不老不死であったとしても、それらの防御や不死身の仕組み全てを解除してから斬る、その工程すらスキップして、ただただ"切った"という結果だけを出力するのだ。
一応、過程のスキップにも限界というか、制限が存在している。例えば、『刀を振る』という一工程があるとする。そのたった一工程を行うためだけで、数値にして何億という器用さを必要とするのだ。今回のように相手を細切れにしたいなら………移動や攻撃がかなり積み重なっているので、数字にするのも億劫なくらいかもしれない。
まぁ、この制限なんてあって無いようなものだ。私の権能で器用さを無限大にすればそれでおしまいなのだから、この制限に悩む必要も無い。ただ、常に無限大で使用するのは無駄なコストがかかってしまうので、必要な分だけ器用さを上げたりなどの調整したりする事もある。まぁ、コストの方も無限なので気にする必要も無いのだが、この辺は私の性分だ。何事であっても節約は大事。
「やはり、刀の強度は問題点ですわね………」
ちなみに、私がわざわざ刀を使用しているのは、刀が切ることに特化している武器だからだ。過程のスキップ中はあらゆる防御が意味を為さないのならば、わざわざ防御を行う為の機能が存在する武器を使用する必要が無い。ただ攻撃力さえあればいいのだがら、武器の中でもトップクラスで切れ味の良い刀を選択したのである。
使用する武器が使用後に確実に崩壊する事を除けば、この技ば非常に使い勝手が良い。何せ、どんな武器でも良いのだ。何なら拳でも良い。私の肉体なら崩壊する事も無いし、リーチを気にするようなもんでもないし。けど、それだと棒立ち状態からでも全てを破壊して回れて全て終わったらまた棒立ちみたいな事が出来てしまって格好良く無いので、どうせなら刃を振るうという、動きの始まりから終わりまでが比較的分かりやすい動きをしているのだ。
始まりと終わりしか見えないのだ。あまりにも素早い一太刀と誤認するかもしれない。まぁつまり、これも一種のブラフみたいなもんである。する必要もないブラフだが、して損は無いのだ。それに、どうせ使うならカッコよく刀を使いたいだろ?少なくとも私はそうしたいからそうした。
「………こちらデーモン、襲撃者は倒しましたわ」
『こちらイモータル、私も襲撃者は倒しましたよ。スーパーパワーも同様ですね』
『協力プレイだったからねー!楽勝だよ!』
『こちらクレアボヤンス。こちらにやって来ていた襲撃者も撃退、うち1人は近くにいたデーモンの悪魔が体内に取り込んで捕縛しています』
『まぁまぁ強かったですけれど、私達に勝る要素はありませんでしたわね』
『私………ほぼ何もしてなーい………』
私の襲撃が終わったので連絡してみたが、全員危なげもなく勝利していたらしい。まぁそりゃそうだ。彼女達は全員が超人部隊。担当の区域を持たず、ネットへの露出も最小限というか皆無過ぎて世間では都市伝説扱いをされており、任務先は大抵が危険な魔物か人間の巣食う場所。そう、相手が必ず魔物という訳では無い。相手が人間の時も、魔法少女の時もあったと言っていた。
そんな経験豊富な彼女達が。何より、その才能によって成長する能力すらも特化されてしまっている彼女達が、たかが魔物と融合しただけの人間に負ける道理が一体何処にあるというのか。見てくれはただの少女達だが、超人部隊は誰もが才能に溢れ過ぎた歴戦の戦士なのだから。
何せこの前、私と模擬戦した時に普通に私1人だと負けそうだったからうちの子解放して無理矢理勝ったし。まぁ元から何でもアリだったから制限してただけなんだけど、それはそれとしてマジで超人部隊は連携すると強いんだよな………つーか、少なくとも音の何倍もの速度で迫る私に対処出来てたんだよ。それが、たかが魔物と融合した人間?はぁ?そいつは音より速く動ける訳??無理でしょ??じゃあ勝てるに決まってるんだよな。
何なら超人部隊、うちの子との無限乱闘で数時間くらい持ち堪えてたし。訓練場を埋め尽くすうちの子が常に創造され続けてたのにその状況で数時間耐久するの何??流石の私も頭上まで全部埋め尽くしたりはしなかったけど、それだとしてもそんな耐久出来るんか??って驚いちゃったしな、あの時。ちゃんと弱点を突いて攻撃してた筈なのにめっちゃ連携でカバーされるし、こっちが精鋭を軍団レベルで運用してるのに超人部隊は少数精鋭で連携完璧なんだもん。勝ったけど負けた気分だったし………常に情報共有してるうちの子らに勝つ連携って何だよ………!
『デーモン、捕縛した襲撃者を本部の尋問室に送れますか?』
「えぇ。万全を期して転移で飛ばしますけれど、良いですわね?」
『ありがたいです。一応、転移先でも捕縛はそのまま継続させておいてくれると助かります』
その後、交代時間まで何事もなく(イモータルとスーパーパワーが戦場変更の為に割った窓はうちの子が綺麗に修復したし、護衛対象の魔法少女達が大きな音で起きないように静音結界を張っていたので起きたりしていなかった)時間が過ぎていったので、本日の任務は終了という事になった。
「残り9日………うーん、私達の配置を変更した方が良いんですかね?狙われてたのは明らかに私達でしたし」
「そうですね。あちらにも私と似たような能力の持ち主がいるのかもしれません」
「戦闘なら任せてー!」
「何なら全員集合します?」
「それがー………いいよー………」
マジで仲良いね、君ら。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます