誘われると本能に逆らえないのは人間も悪魔も同じっぽい。理性とか飛ぶわ


イモータルさんと共にゲームをした日から3日後、私はニ型世界にある私とソフィアに与えられた部屋へと転移を行った。ソフィアもこの3日でちょくちょく来ているようで、私がお小遣いとして渡していた電子マネーでニ型世界のスマホやパソコンを買っているようだ。


ソフィアは魔法少女達がキャラクターとして登場するスマホゲームである『魔法少女ウォーズ』にハマったらしく、必要な機器を買った後はとりあえず課金したそうだ。ソフィアお前………課金に躊躇いが無さすぎるぞ………?いやまぁ、『SRO』で運営役をしてくれてる分の給料扱いだからだから良いんだけどさぁ。


ちなみにその『魔法少女ウォーズ』は、5人一組からなるパーティーを組み、日本各地に蔓延る魔物を倒していくRPGみたいなゲームだ。舞台は現代日本、まぁ日本と似た地形の国だから勝手に日本って翻訳してるから厳密には日本とは全く違う名前の国なんだけど、とにかく現代。昔ながらのRPGみたいにマップ上を歩いてたら魔物と遭遇するシステムじゃなくて、魔物が出現する予想範囲が事前に教えて貰えるタイプだからか、魔物との不意の遭遇が発生しないシステムになっている。


街の人達と交流したり、魔法少女達の本部で出動要請を受けるクエストを受けたり、要素的には割とボリュームのあるゲームのようだ。まぁ、国が運営してるゲームだからそりゃね。主に理想の魔法少女パーティーを作る事が楽しみの一つであるらしく、魔法少女当人の強さがゲーム内での強さの基準にもなっている為、割とインフレしてる魔法少女のキャラクターも居るらしい。あれだね、人権キャラってやつ。まぁこのゲーム、ランキング機能とか欠片も無いから人権キャラが居たところでって感じだろうけど。


「んー、今日は何処に行きましょう」


私とソフィアは特区の外に出られない。外に出る必要が無い程度には娯楽も必需品も揃っているというのもあるが、わざわざ外へ出てこの国の魔法少女と敵対する必要も無いからな。地形データだけなら特区の中に居ても収集出来てるし、偵察悪魔と視界を共有すれば街中の雰囲気くらいなら把握出来る。それに、イモータルさんからもし特区外に行きたい所があれば事前に教えてくれればなんとかしてみるって言われてるし、そん時は素直に頼むからな。


「………そういえば………」


そういえば、今日ニ型世界に来る前に突然私の部屋に転移して来たアリスに、特急です緊急です急いでくださいハリーアップ!って言われて作った超絶巨大トーテムポールは何だったんだろう………?特急で製作してくださいと言ってたから材木加工班のうち子を貸してたけど、現場の人数じゃ目的の時間までに作り終わらないからって、私がわざわざ既にいる1万体にプラスして19万体追加した20万体のうちの子で500m近い長さのトーテムポール作ったけど………何に使う予定だったんだろう。設計図はアリスが持って来てたから30秒で完成したけど。


ミリ単位の絵柄とかあってめっちゃ凝ってたし、500m級のトーテムポールを持ち運ぶ為にMICCミックの機能を一時的に使用できるうちの子を貸して運んでったし………合計で3分くらいしか居なかったな。いやまぁ、話を聞くのは帰って来てからですけど………ぶっちゃけ、あんな巨大なトーテムポールを使う事態になってるアリスの今を知りたくねぇ。絶対に巻き込まれる。私の権能だって無敵無敗じゃないし、対処するだけなら幾らでも出来る。わざわざ危険に首突っ込むかよ。


それにアリスが言うには、アリスは割とトラブルメーカーなんだそうだ。私には見えないから全く分からないが、アリスの真理の瞳では他人の運命も視認出来るらしいからな………簡単に表現すると、自分に巻き付いている運命という"糸"っていう概念でトラブルメーカー気質なのかが分かるそうだ………うん、まぁなんとなくは分かるけど、ぶっちゃけなんとなくしか分かんないね。


まぁ、割といつもの事だ。何せアリスの見えている世界は、どうあっても私には分からないからな。私が世界を光を通して見ているのに対して、アリスは一切の光を通さず真実の世界を見ている。見え方の前提から違うのだ。しっかりと理解する事すら難しい。専門ではない分野の論文を読んでいる方がまだ分かるレベルだ。マジで抽象的過ぎるんだよな。


例えば色。私はとある果物を赤色だと思ったが、アリスはそうではないと言うのだ。光を通してみれば赤色の果物にしか見えないが、アリスにとってそれは赤ではないらしい。よく分からなかったが、まぁアリスが言うならそうなのだろうな。ぶっちゃけ他人の見え方とかクソどうでも良いから気にしてないってのもあるが。


まぁそんなんなので、アリスはお洒落に疎い。世間一般で可愛らしい色の服だと思われていても、アリスにとってはそうではない事が普通に発生するからだ。以前はお洒落に興味を持っていたので服を自作するとかもしていたようだし、化粧の勉強などもしていたようだが、今は飽きてどちらもしていない。アリスは飽きるとそれに対して執着しない傾向にあるからな………


話を戻すが、アリスの見えている世界は私とかなり違う。例えば、アリスには概念が視認出来るらしい。何なら魂魄の視認も出来る。例えば、私がアリスに対して何かを話すと、そこには私の意思を伝える媒介としての"音"という概念によって、意思を伝える直接的な方法として"言語"、それを知るための"文字"などなど………例えるならあれだ。ゲームとかで画面にキャラクターの台詞が表示されたりするだろう?アリスにはきっと、他者と話すとそういったセリフが空中に浮かんで見えるんだそうだ。


そして、そのセリフが嘘なら実際に聞こえた音と概念としての文字や言葉が食い違う為、アリスは相手の嘘を見抜ける訳なんだとか。だからか、アリスは声の出せない相手とも言葉や文字を知っているなら問答無用で何を伝えたいか分かるらしい。まぁ逆にそういう人の嘘を見抜けず、本心しか見えない事があったりするそうなので、万能って訳でも無いが………まぁぶっちゃけそれは利点でしかないので。相手は嘘を付いている気持ちでいても本心は暴かれるんだし。


ここまで聞いて伝わるかは分からないが、アリスの見えている世界はマジで色々と違うのだ。だから私はそこまで突っ込んで聞いたことはない。話によると『真理の瞳』というユニークスキルは後天的に獲得する事も可能らしいが、後天的に獲得した人全て発狂死しているんだとか。まぁそんな訳のわかんない世界見てたら軽く発狂死くらいするよねとしか。SAN値がゼロになって頭が爆発四散くらいなってもおかしくはないかーって呟いたら数人そうなってますねとかアリスに言われてドン引きしたからね私。


「アリス………まぁ、無事だと良いですけれど………」


閑話休題。兎に角、今日のアリスが何に巻き込まれているのかは知らないが、私はアリスだけでも無事なら何でもいいや。アリスの事だから、ロクでもない事件にでも巻き込まれてるんだろうけど………レイカとフェイも手伝ってそうだなぁ。何ならマイマスターと妹様も手伝ってる可能性あるんだよな………でも、何かしらの攻略の鍵はトーテムポールなんでしょ………?一体何処のトンチキ違法建築だ………あいや、それよりマシか?500m級とは言え建築物一つだけだし。いやあれ建築物の範疇で良いのか??めちゃくちゃデカいけども。


「………あれを置物扱いは普通に嫌ですわね………」


500m級の大きさだから太さもかなりのものだし、重量もありえないくらい重いだろうけど、一応何があっても真っ直ぐに自立するようにはしてるし……設計図があったし、全材料持ち込みだったから作れたものの、無かったら大変だったやろなぁ………今思ったんだけど、一本だけで赤白電波塔越えのタワーって考えると思った以上にデカいな………一本だけで自立する仕組みが入ってるから倍の長さになっても倒れないし。まぁその分の材料が無いとダメだけど、ぶっちゃけ純粋な木材だけならうちの子が解決出来るんだよね。


その子は『樹木の悪魔』と言う。特殊な形状から悪魔が引っこ抜いたかのようだと謳われ、悪魔の木と呼ばれる"バオバブの木"に由来した概念の悪魔だ。高さ30m、直径10mもある巨大な樹木なので、この子を材料にすれば木材は沢山手に入る。しかもこの子、分類的にはアオイ目アオイ科の木でもあるからか、消費魔力がゼロに限りなく近いんだよな。ほら、私って松浦葵じゃない?自分の名前と関係のあるモノだからか知らないけど、めっちゃコスパ良いんだよ。材木加工班の子達が普段加工してる木材もこの子で賄えるレベルだし。


まぁ、あくまでもバオバブの形をした悪魔である為、本来のバオバブと似ているのは形状のみで、本来のバオバブの形をしつつ、異常な程に乾燥への耐性を持ち、亜空間へ10トン以上の水を溜め込み、水を吸収する事で肉体を急速再生し、生えてから1万年は余裕で生存し続ける長寿能力を持つ。それに、概念的な干渉能力はあまり無いものの、非常に巨大な樹木を瞬間的に創造し続けられる物量はかなりの脅威となり得るんだよな。魔力消費がめちゃくちゃ良いので秒間100万体の創造でも魔力回復の方が追いつくレベルだし。


ただ弱点というか、悪魔ではあるけど樹木には代わりないので自立して動けないんだよな。よくいるトレント的な感じに、根っこがなんか多脚戦車みたいになって動いたりはしない。現存する物質に由来する悪魔達は基本的に、その物質元々の性能を過剰にする事で強化している個体が多いからな。今回の樹木の悪魔だって、元から乾燥への耐性はあるし、水を溜め込む性質はあるしな。元から無い機能は流石の私も付け足せない。いや付け足せなくはないんだけど、付け足すと概念的に弱くなるんだよ。だから付けないってのが正解。


前も言ったが、別にオリジナルの最強悪魔でも何でも作ればするんだ、作れは。しかしそれで強いのは物理とか魔法とかの目で見える方面での最強であって、概念的にクソ雑魚になるんだよ。多分悪魔特攻が付与された豆腐の角に頭をぶつけて一撃死とか余裕でする。いやまぁ、私が色んな世界を回りまくって悪魔の概念を強化し続ければ多少はマシになるかもしれないが、どう頑張っても悪魔特攻の釣り針とかで一撃死なんだよな。単一概念のみだと概念的な干渉を防ぐ力が弱いから。だから私はオリジナル悪魔を作らないんだわ。


「まぁ………今日は部屋でゆったりしていましょうか………」


色々と何処に行こうか考えたが、別に特別やりたい事も無いし部屋でゆったりしていよーっと。



……


………


「失礼します、デーモン」


「あら、イモータル?」


私が部屋でニ型世界の電子書籍類を読み込んで1時間くらいゴロゴロしながら楽しんでいたら、唐突に魔法少女イモータルが部屋の扉を開けてきた。この寮の個室には鍵があった筈なのだが?合鍵でも持ってる?あいや、一応監視役なんだし持ってるから。それにしてもなんだろう、急に。


ちなみに私が名前ではなくデーモンと呼ばれているのには訳があり、魔法少女達はお互いを呼ぶときになるべく魔法少女としての名前で呼び合う習慣なんだそうだ。深い理由も幾つかあるそうだが、大半の理由はその方が大衆も応援していてどんな魔法少女か分かりやすいし、何より魔法少女っぽい名前で呼び合った方がええやん?って感じらしい。それで良いのか魔法少女よ。


いやまぁそれだけじゃないんだけどね?ほら、一応魔法少女って給料めっちゃ高いワケよ。家族が魔法少女って知るとさ、親戚とか友人を名乗る不審者が沢山出てくるのが世の常な訳でして………だから本名を呼ばず、コードネームで呼び合う事でそういったリスクを下げてるんだとさ。昔にそういう感じの事件もあったから気を付けてるらしよ?それはそれとしてカッコ可愛いから魔法少女っぽく呼び合わね?みたいな風潮らしいけど。草なんだ。


「何もご用事が無ければで良いのですが、少しばかり戦闘訓練に付き合ってくれると助かります」


「戦闘訓練………ですの?」


「はい。ヴァンパイアに聞きましたが、デーモンは配下を無数に生み出す魔法が得意だとか。私は一対一は兎も角、そういった集団相手に非常に弱いので、そこを鍛えたいんですが………生憎、魔法少女の中でそういった召喚タイプの魔法を使う子は少なくてですね。そしてそういう子ほど、サポート要員として引っ張りだこなんです。人手が沢山あるというだけで便利ですからね」


「そこで、わたくし?」


「そうです。デーモンの力を借りたいのですが、良いでしょうか?」


「まぁ、良いですわよ。どうせ暇でしたし」


「良かったです。では、先に訓練室13でお待ちしていますね」


「了解しましたわー」


イモータルが部屋を後にしたのを見送ると、私は読んでいた小説にブックマークを付けたり、飲んでいた牛乳(魔法で生み出したもの)とコップ(うちの悪魔)を片付けたり、起動していたエアコンを消したりと一通りの確認を行ってから、イモータルに指定された訓練室13にまで歩いて向かうのであった。










私が訓練室13の扉を開けると、そこに広がっていたのは明らかに外から見た以上の広さがある正方形の部屋。全面にグリッド線が走り、何処をどう見ても真っ白。バスケットコート2つ入る体育館が四つあるくらいの広さはありそうだ。


そして、その部屋の中央には片手剣と小盾を持っているイモータルが居た。そういや魔法少女の武器は変身と共に召喚される固有武器みたいなモノで、一つ一つに特殊能力があるんだっけ?イモータルの武器の特殊能力は確か、所有者、つまりイモータルが蘇生するタイミングで純粋な性能が強化されるとかだったな。無限蘇生持ちに蘇生回数による強化が入る武器とか無敵なんだよな………


「デーモン、こちらは準備万端です。いつでもかかって来てください」


「確かこの部屋、環境設定できましたわよね?何でデフォルトなんですの?」


そう、そこ不思議に思ったんだよな。イモータルがこの部屋の機能を一切使用していない。本来この部屋は、魔法を利用して今みたいな真っ白でグリッド線ばかりの部屋ではなく、森林とか平原とか砂漠とか市街地とか、凡そ地球内で想定されるあらゆる環境を再現する機能がある筈なんだよな………でも今は真っ白。どーゆー事?舐められてる?


「?戦闘に地形なんて関係ありますか?」


え………イモータルこいつ………澄んだ目で修羅みたいな事言ってやがる………私か………??


「貴女も割と戦闘狂ですわね………」


「よく言われます。そしてヴァンパイアによると、デーモンも戦闘狂らしいですね?」


「まぁ、はい」


間違ってないですね………いやまぁ、悪魔の時だけだよ?人間の時はむしろ反動なのか知らないけど欲望殆ど無いから………


「貴女を楽しませられるかは分かりませんが、私も本気で戦います。だから、お互いに楽しめると良いですね」


え、イモータルが私の理解者過ぎて辛い………えぇ、何なの?イモータルが私の運命とでも言うの??私を誘うのにガチで1番適してる言葉をどストレートでぶん投げてくるんですけど………??白髪美少女がそんな言葉を笑顔で言わない方が良いですわ………私が尊死しますわよ………!というか、そんなに誘われると私も我慢できないんですけど………これはもうガチでOK?OKですわよね??イモータルの全てを食べ尽くして堪能しても宜しいという事ですわよね?あぁ良いでしょうイモータル!あらゆる全てで貴女を打倒しましょう!あらゆる全てで貴女を殺しましょう!あらゆる全てで貴女を犯しましょう!尊厳も理性も本能も世界も何もかも!!その全てを倒して殺して犯して貴女と永遠に終わらない闘争の世界を歩みましょうとも!!!!貴女が悪いんですからね!!貴女が私をそんな言葉で誘うから!!!貴女が私をその気にさせるから!!!!不老不死だろうと容赦はしません!!不老不死だからこそ容赦などしませんとも!!あぁいえ………ふーっ………少し、冷静にならなければ………この勢いはダメですわね………最近、あまり戦闘出来ていなかった反動かしら………?ハ型世界ダンジョンには潜って発散してはいるんですけど、やっぱり足りないですわよね………最低でも同じ権能保有者で無ければ話にならないですし………あいや、待て?確か魔法少女の使用する魔法って権能と似たようなのじゃなかったっけ?恐らく権能が司るモノと魔法少女の魔法は根源が同じ………という事は、魔法少女の魔法は実質権能………??あっやべっ、そう考え始めたら自分を抑えられなく………!!………ふ、きひっ、ふふっ、ふふふふっ、あははははっ!そうですわよねそうですわよね!!相手が私と同じ権能保有者なら!!イモータルは私と同じ土俵に立てている!!そしてそんな相手が私を全力で誘ってきているというのなら!!ここで断らない理由はゼロですわよねぇっ!!!!


「………貴女、わたくしの事を誘ってるんですの………?そういうのは、あまり………我慢が効かなくなるので、おやめになってくださいまし………」


「?私は貴女と戦いたいと、誘ってますよ」


「えっ………」


えっ………


「………わたくしは、貴女に誘われてる………?」


「はい、誘ってます。貴女は強い、けど私も強いです。私は死にません。貴女もそう簡単に死なないと聞きました。なら、本気の殺し合いも出来ますよね。だからこうして誘ってるんです」


イモータルは一拍置いて、私を誘う美しい笑顔のまま。


「だから、お互いに殺し合い愛し合いましょう?」


私はその時、自分の理性が消し飛んだのを自覚した。








side イモータル


私がデーモンに対して最も有効だろうと私が判断した、私の本音混じりの殺し文句を言い放った瞬間。


「っ、ふっ」


フロア全体が爆発的な魔力に飲み込まれた。それはまるで、大半の魔物が出現する予兆である"瘴気"かと見紛う程。あまりにも濃密で、あまりにも圧倒的。魔物で例えるのならば、魔法少女数百人規模でなければ対抗する事すらできない、本部規定のランク付けにおいて最上位の称号。世界において過去に一度だけ出現したことのある、正しく生きる厄災そのもの。今のデーモンは、その"神話級"の魔物と遜色が無い程に、魔力の圧が凄まじい。


いや、いや。一撃で経験豊富な10人近い魔法少女を瀕死に追い込み、世界を書き換えるかのように周辺環境を歪め、"災厄"と謳われた神話級の魔物など………目の前の彼女と比べたら、雛のようなモノかもしれない。それ程までに、圧倒的な魔力。


「これは………」


莫大な魔力が、形を成していく。それは………様子だけ見ていれば、魔法少女の中でも数を得意とする者の魔法、既存または幻想の生物の召喚のように見えなくもない。又は、無機物を媒介とした生物の製造魔法でしょうか?


けれど、彼女のそれは違うらしい。媒介は無く、ただ魔力のみを用いて、無から創造しているようにしか見えない。しかも、それに使用される魔力すらも圧倒的だ。魔法少女1人の魔力など凌駕している。


「これが、デーモンの力………」


そうして組み上げられ、生み出されたのは、悪魔。物語などで語られる、神の敵対者。魔物にも悪魔と呼べるようなものが居たし、自ら悪魔と名乗るようなものも居たが………目の前に存在する本物の"悪魔"を見てしまったら、アレらはもう2度と悪魔などと呼べないですね。あんなもの、悪魔モドキで十分です。今度からそう呼びましょう。


そしてその直後、私の眼前と背後の全てに、埋め尽くすほどの悪魔が居た。それは全員が全く同じ姿をしているように見え、全く同じ技術を持っているように見えた。これこそが、彼女の魔法。無数の配下を制限も際限も無く、魔力が続く限り生み出し続け、質を兼ね備えた圧倒的な数で敵を滅ぼすもの。私達魔法少女1人の魔力を軽く凌駕する魔力を持つ、絶対的な数。


きっと彼女一人だけで、この世界は滅びるのでしょう。そう断言出来る程に、圧倒的な気配。


「これは………手こずりそうですが」


剣を構え、盾を構える。私の武器はこの二つだけです。私の魔法は初めて覚醒した日から途切れる事は決して無く、故に戦闘において応用も活用も出来ないもの。身体能力は幼きあの日から一切の変化が無く、これまでずっと小手先の技術と武器の性能だけで戦っています。


私はどこまで行こうが、あまりに弱く、脆い。


不老不死なので負ける気はしませんが、かと言って魔法少女以上の魔力を持つ軍団に勝てる気もしないですね。何せ、どちらも決して終わらず、どちらにも途切れるという概念がないのですから。


でも。


「良い訓練になりそうです」


幾らでも死にましょう。死にながら技術を身に付けましょう。これは殺し合いですが、何処まで行こうが訓練なのですから。負ける事も勝つ事も必要なく、ただ今後の為になればいいのです。まぁ、ヴァンパイアから聞いたデーモンの精神構造からすると、彼女は勝つ気で襲いかかってくるでしょうけれど………まぁ、戦闘し続ければ元に戻ると言われたし、数十時間くらいは覚悟しておきましょ。


一応、デーモンにも元の世界での生活があるらしいから、その辺の自制は出来るようにしてあるらしいですし。方法はヴァンパイアも知らないそうだけど、とりあえずその時のノリで上手い感じに?


「しっ──がふっ」


デーモン率いる悪魔の軍勢が一斉に動き出した瞬間、私も同じように剣と盾を振るう。が、剣と盾では対処できて二方向。文字通りの全方向、左右上下前後のあらゆる方向から貫かれては、魔法少女たる私であろうと死ぬしかない。まぁ、元から肉体性能は一般人の子供以下なんですけどね。


死に伴って尋常ではない痛みが全身を走るが、まだ身体は動く。私の魔法は不老不死。例え頭蓋が一部損壊しようとも、例え薄皮一枚だろうとも、肉体がほんの欠片でさえ繋がっていれば私は十全に動ける。その後で即座に死にますけど。


だから、私に刺突はあまり意味が無い。全身を刺された所で肉は繋がっている。ならば動かせる。私の魔法とは、そういうモノです。


「がぶっ、ごぼっ」


まぁ、代わりと言っては何ですが、打撃と斬撃は非常に有効なんですよね。残念ながら。四肢を潰されれば四肢としての機能は発揮できないし、首を切り落とされれば繋がっていないから身体は動かせないので。


いやぁ。もう少し魔法の使い方を工夫すれば打撃も斬撃もどうにかなりそうなのですが、生憎と私の魔法は他の魔法少女と比べて断然分かり辛いんです。普段から毎日ずーっと発動してるモノをどう応用しろと言うんですか?私にはクレアボヤンスみたいな化け物じみた魔力操作力がある訳でもないんですから。


というか、私は生まれて来てから一度も魔法を使った感覚が無いんですよね。私の魔法は常時発動のパッシブスキルだからか、訓練をして来たから他人の魔力の気配は分かるんですが、ぶっちゃけそれだけなんですよ。自分に魔力が宿っているかも怪しいです。この不老不死が魔法ではないと言われてもおかしくないと思ってますよ?けれどまぁ、だからと言って何がある訳でもないですね。何なら今は関係無いですし。


ここで一度、蘇生する。蘇生に必要な時間はほぼ刹那。何処ぞの魑魅魍魎のように徐々に再生するでもなく、まるで初めからそうであったかのように蘇生するのが、この私の不老不死です。話を聞いたヴァンパイアの不老不死は血液の欠片でさえ残っていれば急速に再生する事で蘇生するタイプらしいので、蘇生速度だけ見れば私の方が断然早いでしょうね。


まぁ、ヴァンパイアもヴァンパイアで1秒未満で完全再生するらしいですし。何なら欠片の血液も無く、ただ吸血鬼という概念さえあれば無制限に再誕出来るかもしれんのーと言ってたので、多分不死性は私と遜色が無いでしょう。


そういや、デーモンはデーモンで不死ではないけど不老とは言ってましたっけ?それから、彼女は精神生命体であるので、肉体へのダメージは実質無傷みたいな事も言っていたような記憶があります。そうなると、私の剣では攻撃しても無意味かもですね。どこまで性能が上がった所で物理攻撃力しかありませんし。


「ふっ、ぐぎっ、がばぼっ」


蘇生。私が二体の悪魔を殺したと思えば、今度は私の四肢に対して平等な打撃が叩き込まれ、即座に激痛が襲い掛かる。それと同時に潰された四肢は四肢としての機能を喪失し、残った胴体と頭蓋も同じように潰されて死んだ。


「ふ、ぎっ、いっ」


蘇生。先程よりも多い三体の悪魔を殺したが、それ以上の悪魔達の猛烈な斬撃の雨によって全身が切り落とされた。瞬間的にバラバラにされても魔法の効果のせいか割と全身に痛みが残りますが、それも直ぐに死んで消えて無くなります。こういう所は便利ですね。


「しっ、あ゛っ」


蘇生。今度は物理攻撃ではなく炎熱による攻撃を喰らってしまった。驚いて一体しか殺せませんでした。この悪魔達、私達みたいに魔法が使えるんですか………あぁでも、魔法少女の魔法よりは理不尽感が少なかったかも?なんというか今のは、私に対してどんな属性が有効なのかを調べるくらいには弱い炎でしたね。まぁ、私の全身が即座に炭化して脳味噌が文字通りに沸騰して死ぬ程度の火力はありましたけど。


「むっ、ごっ、がぼっ、ごぼっ、ぶっ………」


蘇生。三体撃破。今回は水による溺死。肺だけでなく内臓の隙間、その全てを水で埋め尽くされて殺されるのは流石の私も初めてです。思ったよりも苦しいけれど、普通に溺死するよりは苦痛が少なかったかのように思えます。


「ふっ、がっばばは」


蘇生。二体撃破。今回は電撃による感電死。過去に受けたもので最も似ていたのは落雷による感電死だったので、恐らく一瞬だけ視界が明滅したのは落雷の一撃だったのでしょつ。流石は電撃です。流石に肉眼じゃ分かりません。


「しっ、ふぬっ、ごっ」


蘇生。四体撃破。今回は風によって打ち上げられて地面へ落ちたことによる落下死。むぅ、落下死は死ぬまでが長くて死ぬ瞬間はほぼ一瞬だからマシですね。痛いのに変わりないですけど。


さぁ、まだまだ時間はありますよ。何度だって死に、何度だって殺しましょうとも。








side キングプロテア


目が覚めたら訓練開始時間から凡そ10時間くらい経っていて肝を冷やしたが、そもそも今日はソフィアの家に泊まってゲームするつもりだったので何とかなった。


わたくし、理性が吹き飛んでましたわね………」


「デーモンは理性が吹き飛んでいても訓練の内容は理解してましたね。直接攻撃はしてきませんでしたし。まぁ悪魔は減らした分だけ増えてたのでエンドレスでしたけど、10時間で大体で合計1076体の悪魔を殺せましたよ」


「え、割と殺してますわね………うちの子達、学習能力はかなりある筈なんですけれど………」


「実際、最後の方はかなり厳しかったですね。最初は私に対してどんな攻撃が有効なのかを調べて、次にどんな組み合わせが苦手なのか調べて、最終的には私に有効且つ私が苦手な攻撃をしてきましたから。私は武器の性能でゴリ押しましたけど」


あぁ、それは私がデフォルトで設定してる戦闘方法だな。誰か1人でも情報を獲得すりゃあ全体に共有されるんだから、誰か1人でも弱点を探し出して全体に共有する事でとことんまでに優位性を得るって言うやつ。戦闘における基本プランというか、戦闘に繋げる為の準備に近いかな?


「今回の戦闘、あんまり覚えてませんわー………はぁ、欲望発散の回数は増やしておいた方が良さそうですわねぇ………」


「何なら私が相手しますが」


「っ、もうっ、イモータル!あまりわたくしを誘わないでくださいまし!思わず昂ってしまうでしょう?!」


「ふふっ、デーモンは非常に可愛いです。………また訓練したい時は誘いますから、ね」


「っ、もう!もうっ!」


あまり私を弄ばないでくれ!マジで我慢が効かなくなる!


「デーモンは可愛いですねー」


「もうっ、弄ばないでくださいましっ」


その日は結局、帰るのも面倒なのでニ型世界の自室でスヤスヤ眠る事になりました。腹が立ったのでイモータルを抱き枕にして眠りましたが、抱き枕にしても耳元で私を誘ってきやがるのでマジで理性が飛びそうになりました。ねぇあの白髪美少女なんなの?私を籠絡でもしようとしてるの??怖いよ助けてマイマスター!

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