レイカは魔法使えないから魔法少女にはなれないか。強いて言うなら物理少女?


ニ型世界へソフィアと共にやって来て、都心へ向かって移動し続ける事1時間。ぶっちゃけ転移すりゃ早かったのだが、どうせならと異世界の光景を堪能する為に電車を使用して移動していた。


「電車もそこまで変わらんのー。平日の夕方だというのにガラガラじゃなのは不思議じゃが」


「あぁ、それは簡単ですわ。魔物注意報がこの付近で出てるらしいんですのよ」


「ほぉう?それはどのようなものじゃ?」


「端的に言うなら、魔物が出現する地点を予測して知らせる注意報ですわね。大雑把なものしか分かりませんけれど、現実世界と地獄を繋げる際に必要な膨大な魔力に反応して出現地域を割り出しているようですから、中々に精度は良いみたいですわ」


「ほほぉう………これあれか?電車の向かう先に魔物注意報が出とるんか??」


「バッチリ出てますわね。幾つかの駅が入ってますわ。ですから手前の駅で止まりますわよ。まぁ、予想範囲的にはかなり端っこの方ですけれど、この世界の人間にとって魔物とは突如として現れるモノですもの。注意報の範囲内に殆ど人間は居ませんわよ」


「身近な危険には敏感なんじゃなぁ………」


まぁ人間なんてそんなもんだよ。遠い国の戦争よりも近場の殺人事件の方が怖いに決まってる。何なら私も近場の事件の方が怖いし。


ちなみに言っておくと、自分から魔法少女に会いに行かないと私はさっき言っていたが、今回は普通に予定していたルートと魔物注意報が被ってしまっただけである。


「ですからまぁ、今この電車に乗っているのはその駅手前まで向かう人だと思いますわよ。例えばほら、隣のマスコミとか」


「あぁ、隣がうるさいと思ったらマスコミじゃったのか」


今私たちが座っている車両には、私達以外居ない。それはここが電車の1番後ろだからというのもあるが、何よりも、他の車両には大勢………とまではいかないが、車両内の空間を大胆に使って撮影の準備をしているマスコミの人達が居るからだ。一応、暗黙の了解として1番後ろの車両は使用せず、一般人が乗り込むものとしているが、普通の一般人はこんな時に電車に乗らないので車両一つ分空いているようなものだ。そうなるとそこもマスコミで占領されるのが通例なのだが、今回はマスコミに一切関係の無い私達が乗り込んだ為、団体一つが電車を使わずに向かう事になっていてソフィアと一緒にちょっとだけ笑ったのは内緒。


「命をかけて戦う魔法少女………それを少しでも世間に届けたい………という建前の元、視聴率アップの為に世界的に有名な魔法少女達を自社の放送で映したいそうですわね。まぁ実際、魔法少女が絡んだ放送はかなり人気のようですし」


「そりゃそうじゃよなぁ。直接的な危険から救ってくれる可愛らしい少女達じゃろ?しかも魔法なんていうファンタジーを使って、じゃ。しかもみーんなキャラ濃そうじゃしな」


「実際、国としても国民的アイドルとして扱われたりもしているようですわね」


そう言いながら、私は電車内に貼られた広告を軽く指差す。そこにあったのは、可愛らしく魔法少女然とした服装に身を包み、典型的な魔法のステッキのようなものを手にして、可愛らしいポーズを決めながら、迅速な避難を促す魔法少女の広告だ。魔法少女の名前は忘れたが、確かかなり人気の魔法少女だった筈………あぁ、名前は書いてあったや。そうそう、魔法少女ソプラノね。


確か音の魔法を使う魔法少女で、服装は魔法少女風のアイドル衣装って感じの子だ。その音の魔法で最も得意なのは音の共振現象による広範囲殲滅らしいけれど、街中だと使えないから音楽によるバフデバフが主な使用魔法の魔法少女だとかネットに書かれていた。ネットは信用50%くらいで見ないといけないので本当かどうかは怪しいが、そういう事もあるだろう。


「確かこのソプラノフェアリーは、特にアイドルとして売り出している魔法少女の1人ですわね。固有魔法が"音"というのも相まって、かなりの人気らしいですわよ?」


「ほう、音の魔法少女か。良いではないか。中々に強そうじゃの?」


「そうですわね。アタッカー兼バッファー&デバッファーみたいな子らしいですわ」


「ソシャゲなら最高レアとかになってそうじゃの」


「実際、国運営の魔法少女をモチーフにしたソシャゲでは最高レアらしいですわよ?」


「もう何でもありじゃなぁ。ちなみに妾もそのゲーム出来たりするのか?」


「後でニ型世界のスマホ買って差し上げますわ」


「つまりスマホゲーなんじゃな!ちょいと楽しみになってきたわい」


そんなこんなでソフィアと会話すること少し。電車が魔物注意報ギリギリの駅で止まると同時に、マスコミの人達が一斉に電車の外へと溢れ出して行くのを尻目に、特に気にもせずソフィアと共に駅の外へと向かって行った。マスコミに見られているような気がしたが別に気にせず外へ出る。


「ふむ、テアよ。ここから先は電車が動かんが、これからどうするのじゃ?」


「とりあえず………この辺の観光………は、無理ですわね」


駅周辺の人の気配を感じ取ってみようにも、あまりにも小さい小動物………いや、その気配すら殆どない。そらそうだ。魔物注意報で表示される範囲は出現範囲であって、実際の避難範囲は魔物注意報の範囲の10倍以上である。当然ながら人間はとっくに避難済みだし、何なら小動物も魔力の濃い場所に留まるほど愚かではないだろう。


「まぁ………当初から決めていた目的の方向に歩く、くらいしかありませんわね。最短ルートは………ええと、ここかしら………?」


「自動で最短ルートを探してくれる機能とか付けんのか?」


「んなもん全力で直線に走った方がはえーんですもの………」


「あ、そりゃそうじゃったな」


秒速700m以上出せるんだぞこちとら。しかも、本来発生するべきソニックブームも音属性による拡散で霧散させてるし、周囲に対して発生するはずの風も同じように霧散させてるからガチで周りへの影響皆無で走り抜けられるし、空中走行も可能だから、私にとっての最短ルートは道を無視して直線に駆け抜けるってなるんだよ。それをやるとクッソ目立つだけで。


ちなみにそれ以上に早いのが転移だ。そりゃね、道中なんて皆無ですもの。目的地に直接到着するんだもの。早いとかいうレベルじゃないよ。普段は転移をちょちょっと使うからナビゲート機能も要らない子認定してたけど、こりゃ必要かなー………作るのが面倒だから要らねぇかやっぱ。


「とりあえず………電子機器妨害フィルターと魔法少女対策隠蔽フィルターは事前にセット済み………あぁ、魔物接近感知アラームはセットしないといけませんわね………よし、この道を行きますわよー。魔物は基本的に予想範囲内の中心付近に出現しやすい傾向にありますから、まぁ今回向かう端の方なら多分平気でしょう」


「フラグか??」


うん、自分で言っててちょっと思ってたけど、指摘されると恥ずかしいからやめてほしいかな。 


「………ん?おー、かなりの魔力が蔓延しておるの」


「ふむ………やはり、同じ世界とはいえ異界とのゲートを作成する魔法ですものね。消費する魔力も相応………いえ、これはどちらかと言えばテラフォーミングに近いのかしら………?」


そうして魔物注意報の範囲内に入ると、確かに魔力が空間に満たされているのが分かる。ソフィアだって思わず呟く程度には濃い魔力で満ちている。


「テラフォーミングとな?それは?」


「何と言うべきかしら………そうですわね。この濃い魔力は、異界から現実へ向かうゲートを作るものではないんですの。これは、異界でしか過ごせない魔物が、魔力が非常に少ない現実で過ごせるよう、転移先の環境を事前に改変する為の魔力なんですのよ、多分」


「なるほどのぉ。この付近の魔力が異様に濃いのはそういう理由か。つまり、周辺の魔力を吸収しておれば魔物はすぐ側で湧かないんじゃな」


「湧かないというか、湧いても物凄く弱体化してしまう、が正しい表現ですわね。本来の力の10分の1以下しか出せないみたいですわ」


「それは相当な弱体化じゃな」


私が事前調査をしていた最中に知ったのは、魔物は負の感情エネルギーが無ければかなり弱体化する、という事だ。それがどういうものかと言うと………そうだな、例えばある日、地獄で100m級のとある魔物が生まれたとしよう。そいつは人口密度がギチギチで窮屈な地獄から離れる為に現実へと進出するのだが、その際に力が10分の1にまで弱体化するのである。大きさで言ったら10m級の魔物になる感じだ。無論、分かりやすい大きさのみが変わる訳ではない。身体能力や魔力総量なと、諸々の性能が弱体化するようだ。地獄では周辺1kmを一度で焦土にしていた一撃が、現実では周辺100mを燃やす一撃になっていたりな。


この弱体化の原因はただ一つ。魔物にとっての水とも呼べる負の感情エネルギーが、地獄から現実へと渡ったことによって極端に低下したからだ。本来魔物とは、地獄という負の感情エネルギーで満たされた世界で生きるモノである。人間が呼吸を必要とするように、魚が水を必要とするように、生物とは環境に合わせて進化するモノ。魔物も、負の感情エネルギーを必要とする生き物な訳だ。まぁ必要とすると言うか、負の感情エネルギーが無いと本来の性能を発揮できないってのが正しいかもしれないが。


そして、現実には負の感情エネルギーが極端に少ない。少ないと言うか、発生しても直ぐに地獄へと流れていってしまうのだ。だからこそ魔物は、負の感情エネルギーで満たされた魔力を転移先に転送してから出現するのだ。そうでなければ呼吸出来ないのだから。ほら、人間だって酸素ボンベ持って宇宙とかに行くでしょ?それと同じだよ。そして、魔物が人を襲う理由もこれだ。現実にやってきて不足してしまっている負の感情エネルギーを得る為に、人間達にどうにか負の感情を生み出して貰おうと必死なのだろう。


そして多分、それは妖精側も似たようなものだ。しかし、妖精側は現実で魔力を特に生み出す事が出来る精神構造をしている少女達と契約を結ぶ事により、弱体化した自分達に代わって魔物を狩ってもらいつつ、現実での活動を行う為の正の感情エネルギーを魔力で代用しているのだろう。


妖精が魔物を目の敵にする理由は単純。世界が負の感情で満たされてしまえば、正の感情は薄くなっていってしまう。そうなれば"天国"という異界は失われ、妖精達も時期に絶滅する。故に妖精達は、自分達の代わりに魔物を討伐してくれる人間と手を組んだ訳である。


「まぁ、さっさと抜けましょう。端の方ではありますけれど、絶対は無いですから」


確率的にはゼロに近いけれど、ゼロでないなら可能性はあるからな………ゼロの先に1があるだけで、それはあるかもしれないんだ。注意していても損など無いだろう。


「別に魔物に襲われても勝てるとは思いますけれど、問題は魔法少女にバレやすくなる事ですわ」


「バレたら魔物扱いされそうじゃしの」


「あら、もしかしたら新しい魔法少女扱いされるかもしれませんわよ?」


「ふむ、それもあるか」


幻想種とは、イロ型世界において人々の幻想から生み出されたモノ。その中には負の感情エネルギーも混じっているし、何なら正の感情エネルギーだって混じっている。妖精と言われるかもしれないし、魔物と言われるかもしれない。それに何なら、魔法少女と言われるかもしれないのだ。魔法少女が扱う固有魔法は恐らく、私とソフィアが扱っている権能に最も性質が近い。そして、そんなものを私達は常に自分に対して使用し続けている。魔法少女と呼ばれても一切おかしくはない。


と言うか私、この世界で固有魔法以外の魔法ってのを見た事が無いんだよな。もしかしてだけど、この世界って固有魔法以外に魔法が無いとか………うーん、普通にありそうと言うか………魔力が感情エネルギーの過剰分として生み出されている世界なんだよね?ここ。そしたらあれかな。どれだけ技術で魔法を使っても固有の性質が載ってしまうから実質固有魔法の範疇みたいな………?うーん、ちょっと分からん。


流石に怖くて魔法少女関連の施設は地形データだけ確保して直ぐ退散したからな………いやまぁ、ちまちま偵察させてるからほんの少しずつ情報は入ってきてるんだけど、逆に言えばそこまでしないとバレそうなんだよ。バレそうになってる要因の大半が強い魔法少女達だから、多分何かあるんだろうけど………ぶっちゃけ、魔法少女の扱う固有魔法がイロ型世界の権能の性質に似てるってのも独自理論だからなぁ。本当にそうなのかは知らんし、検証もほぼ出来てないし。


「魔法少女か………妾が魔法少女になったらどんなのかの?名前とか………カッコいいのが良いのぉ」


「さぁ………魔法少女ヴァンパイアとか?」


「おぉ、ちょっと良いのぉ………お主は魔法少女デーモンとかじゃな」


「むぅ、間違ってませんわね………」


まぁ、実際にデーモンだし。そこまで間違っちゃいないかもしれない。


「ぐぅの音も出ないとはこのこ──」


刹那、私の眼前に一本の矢、その形をした炎の塊が飛んできた。炎がかなり圧縮されていたので、恐らく後ろに避けなければ脳天を綺麗に射抜かれて爆散していたのが明白な一撃。回避した先にあった地面が矢の爆破によって破損しているが、その爆発範囲が非常に小さいながらも綺麗な穴を残している事から、かなり魔法を扱うのが上手い。ここまで綺麗に穴が残ると言うことは、それ程までに無駄なエネルギーが存在していないという事なのだから。


別に肉体が損失しようと死なないので危険ではなかったが、わざと攻撃を受ける必要も無い。もし精神ダメージが混じっていたら危険なのだから、避ける方が良いだろう。それに、肉体の防御力は中々に高いが、総合的に見れば高いだけだ。柔らかい部分なども割とあるのでそこまでカチカチって訳じゃ無いし。


「──と、と。危ない」


「綺麗に避けるの、お主」


「いえ、まぁ、これくらいなら?」


「それで相手は………魔法少女か?」


「まぁ矢で射抜かれそうになりましたし………」


しっかし、魔法少女対策隠蔽フィルターはどうしたんだろうか………あれか、目視でこちらを見られないように細工しただけじゃ足りなかったか?いやでも、魔法での位置把握に対してもかなり対策してたんだけど………一体何でバレたんだろう。


「数は………1人じゃな」


「確か、魔法少女は基本的に5人一組での活動を行っているらしいですわ。誰と組むかは魔法少女達に任せているようですけれど」


「あれじゃな、ゲームで例えるならば編成パーティー的な感じか?」


「まぁ、そんな感じですわね」


魔法少女達には分類というか、扱える魔法で最も得意な分野毎に兵科が分かれているという感じらしい。そこまで厳しく分かれていると言う訳ではないが、ネットで確認出来たのは、攻撃的な魔法を得意とする"アタッカー"、防御的な魔法を得意とする"ディフェンダー"、回復的な魔法を得意とする"ヒーラー"、補助的な魔法を得意とする"サポーター"の、これら計四つだ。まぁ、本人の適性ではなく魔法の得意分野で分かれているらしいので、たまーに分野違いの事柄の方が得意な魔法少女も居るとか居ないとか。


「それで………どちら様、ですかしら?」


UWASウワスによって把握した方向に対し、音属性による音声の拡大を行いつつ、私はそう話しかける。


「貴女達は何?魔物かと思ったら喋るし」


そんな返答が返ってきた方向を見ると、そこには燃え盛るような赤と橙の装飾のドレスに身を包んだ少女が1人。ふむ、あれが魔法少女か。手に弓を持っている事から、恐らくさっきの一撃は彼女の一撃なのだろう。というか今も尚、こちらに弓を引き絞って向けている。矢は手にしていないが、先程の一撃を見るに矢は炎の塊を矢の形状にして放っているのだろう。矢をつがえる動作が必要のない分、ある程度の連射も効きそうだ。


「まぁ、魔物ではありませんもの」


「そうじゃな。魔物じゃないわい」


「………魔物じゃないっていう言葉、そのまま鵜呑みにする訳にいかないわ。それだけの魔力があって、魔物みたいな気配もある………けど、妖精みたいな気配もあって………ちっ、めんどいわね!そこで大人しくしてなさい!」


魔法少女は引き絞った弓をこちらに向けながら、住宅の屋上から降りてくる。降りる際に炎の翼のようなもので落下速度を緩めていたが………なるほど。これが魔法少女の固有魔法ね。魔力は魔力でも、元は感情エネルギー。イロ型世界の魔力やハ型世界の魔力とは別物って感じがする。似てるのはイロ型世界の方かな?似てるだけで全然違うっぽいけど。


「…こちら、魔法少女フェニックス。謎の存在を2体発見。みんな、ただちにこっちに来てちょうだい」


『ちょ、フェニックスちゃん?!独断先行はやめてってあれほど──』


ほむ、魔法少女フェニックスと言うのか。肉体年齢は恐らく16歳程度。最も魔力を生み出すことが出来る時期から少し経っている年齢だが、その分技術が培われてきている時期でもあるらしいからな………先程の圧縮された炎の矢が良い証拠だ。少ない魔力で絶大な威力を発揮する為の工夫なのだろう。


そして今さらっと聞こえたけど、独断先行して部隊から外れてるのマジ??この子、中々にやべーやつだね………


「魔法少女フェニックス………不死鳥とな。中々にカッコいいのぉ………なぁなぁ、妾もあんな感じでカッコ良いのが良いんじゃが」


「そんなんわたくしに言われましても」


私が決めるようなもんでもないだろそれは。


「言っておくけど、アンタ達が少しでも危険な行動を取ったらすぐにでも撃つからね!」


「あら、怖い」


「ふむ、先程の一撃か。実に素晴らしいコントロールじゃったよな」


「えぇ、避けてなければわたくしの頭だけが確実に爆散してましたわね」


「ヘッドショットじゃからな、ダメージは良く入るじゃろうて」


「胴体でも一撃だったと思いますわよ?」


「それもそうじゃな」


「あぁもううるさい!ちょっとくらい静かに出来ないの?!ぶっ殺すわよ!!」


「ふふっ、怒られちゃったわ。それじゃあ、大人しく静かにしていましょうか」


「ま、そうじゃの。仕方ないから大人しくしといてやるわい」


「なんでそんなに上から目線な訳?!」


こちらの言動にイラついているらしい魔法少女フェニックスを若干煽ったが、流石にこれ以上は普通に攻撃されるのが直感的に理解できたので静かにしておこう。そうして静かに殆ど動くこともせず、何なら暇つぶしとしてスマホも見ないで思考の海に溶けている………と、そうして待機していると、視界の端に映っているUWASウワスによる簡易マップ内に、どう考えても普通の人間以上の速度を発揮している光点が4つ、こちらへ向かってきているようだった。


そうして現れたのは、4人の魔法少女。事前の調査で分かっていたが、それぞれが違った服装、違った武器を保有しているようだ。ただし、同じ部隊である事を示す胸元のリボンだけは統一されている事から、この場に居る魔法少女達は全員が同じ部隊の魔法少女なのだろう。


「おいフェニックス!お前だけ先言ってるなんて狡いぞ!」


「はぁ?知らないわよそんなの。私は私の直感に任せただけ。アンタみたいな真面目ちゃんとは違うんだから」


「あんだと?」


「何よ?」


「ま、待って待って!フェニックスちゃんもユニコーンちゃんも一旦ストップ!それよりも、さっきの報告はどういう事なの?謎の存在ってどういうことなの?もしかして………」


何処ぞの女王様みたいな格好の魔法少女が、私とソフィアの方向を向いて言葉に詰まる。それに合わせて魔法少女達の視線が私達に向く。


「そうよ、あいつら。魔物と妖精どっちの気配もする癖に、私達以上の魔力を持ってる謎の奴ら」


あれ、魔力バレてる。おかしいな、隠してる筈なんだけど………というか、私に至っては魔力の放出なんてしてない筈なんだが?


「どういうこと〜?」


「知らないわよそんなの。直感頼りに一撃撃ったけど避けられたし」


「えっ、えぇっ!先輩の弓が避けられちゃったんですか?!」


「はぁ?フェニックスの弓が避けられた?お前の弓、半月くらいのツキウサギにも当たるじゃねーか。それが避けられたって………」


うーむ、すっごい会話に混ざりたい。めっちゃこっち見られてるし。というか、ちらっと見たけどソフィアも私と同じ顔してる。でもなぁ、魔法少女フェニックスに静かにしてないとぶっ殺すって言われちゃってるからなぁ?喋っていいよって言われるまで静かにしてますとも。


「え、えーと………あの、貴女達は一体………?」


あちらさんでも話が纏まっていないものの、とりあえず話しかけてみようということになったらしく、恐らくリーダー格なのであろう女王様風の魔法少女がこちらへそう聞いてくる。


「「………」」


が、喋ってはいけないので、とりあえず一礼してからニコッて微笑んでおく。サイレント自己紹介だ。ソフィアもこちらの意図に気が付いてくれたらしく、同じように身振り手振りはそのまま、一切の声を出さずにサイレント自己紹介をしてくれた。うむ、静かに自己紹介が出来たな。


「なに〜?喋れないの〜?」


「ちょっと、何黙ってるのよ!さっきまであんなに煩くしてたじゃない!」


お、魔法少女フェニックスが許可出してくれた。そんじゃあお言葉に甘えて。


「………お主が静かにしてなければ撃つと言うから黙っておったんじゃが………しくしく」


「そうですわね、静かにしてないとぶっ殺すって言われましたから静かにしてたのに、忘れてたなんて………しくしく」


「悲しいのぉ。怒っておったから従順にしておっただけじゃのに………しくしく」


「………あっ」


ソフィアが大根な泣き真似をし始めたのを見て、私も便乗して互いにあり得ないくらい下手な泣き真似をしてみせる。なんとなくソフィアと互いにヒシッっと抱き合ったりしてみる。そうすると魔法少女フェニックスも自分の発言を思い出したのか、小さく呟いてから目線が泳ぎ出した。いやぁ、可愛いねぇ。


「あ〜、フェニックスちゃんが女の子泣かした〜。いけないんだ〜」


「お前………それはダメだろ………」


「ちょ、ケルベロス先輩?!あれ見えてるでしょ!?嘘泣きです!ユニコーンあんたは黙ってて!」


「なんだやんのかフェニックス!」


「先輩!大丈夫です!私もそういうミスした事あります!次はしないように気をつけるのが大事なんですよ!」


「お、落ち着いてー!みんなお願いだから落ち着いてー!」


うーん、女三人よれば姦しい………いや、女五人よればより姦しい、って事か。


そのまま始まる魔法少女達の喧騒。私とソフィアはそれを聞きながら待っていると、やっと落ち着いたらしく、先程と同じように女王様風の衣装を来ている恐らくリーダーらしき魔法少女が、こちらに対して改めて問いかけてきた。


「えぇと………と、とりあえず、その、あなた方のお名前は………?」


わたくしはキングプロテア・スカーレットですわ。以後お見知り置きを」


「妾はソフィア・アマリリス=レッドライオンじゃ、よろしく頼むぞ」

 

「あ、ありがとうございます。えっと、わ、私は、幻獣部隊のリーダーの、あの、魔法少女グリフォンって言います」


「お、アタシはユニコーンだ。んで、そっちの弓持ってる奴がフェニックス」


「そんで〜、あーしはケルベロス〜。一応幻獣部隊のサブリーダー〜。よろ〜」


「あっ、ツキウサギです!よろしくお願いします!」


ふむふむ。魔法少女グリフォンは女王様っぽい服の子で、魔法少女ユニコーンはシスター服風の子、魔法少女フェニックスは炎みたいな装飾のドレスの子で、魔法少女ケルベロスはゴスロリに首輪の子、魔法少女ツキウサギは白っぽいチャイナ服風の子ね。忘れないようにUWASウワスの光点に名前付けとこ。メモメモーっと。


それで、あれか、幻獣部隊ってのは確か、国所属の魔法少女達のチームを一つの部隊として扱うらしいんだっけかな?なるほど、幻獣部隊ね。幻の獣の部隊とは、確かにそうだな。不死鳥、鷲獅子、一角獣、冥界犬、月兎。ふむ、元となる神話や逸話は違うが、確かにどれもこれも幻の獣と呼べるだろう。不死鳥が獣かは怪しいが、幻の生き物である事に変わりはないのだから問題無いな。


「えと、それで………お、お二人は何者なんでしょうか?フェニックスちゃんによると、謎の存在らしいですけど………」


気弱そうに、しかし明確な疑問と共に話しかけてきたのは、魔法少女グリフォン。何処ぞの女王のような華美で伝統のありそうな服装をしており、手には黒い革の鞭を持っている。また、背からは美しくも気高さを感じる翼が生えているようだ。時折感情に合わせて動いているように見えるのが中々に可愛らしいと言わざるを得ない。


「あら、少なくとも魔物じゃありませんわ」


「それに、妖精とやらでもないの」


「だからって魔法少女でもありませんし」


「ふむ、しかし一般人とも言い難いの」


うーん………まぁ、いいか。今回は現地人に異世界人バレしてみた時の反応ってのを知る事にしよう。別にバレて困るような話でもないし………


「そうですわねぇ………そもそも、この世界の存在とは言えませんものね?」


「お、言っても良いのか?」


「えぇ。だって、嘘偽り無く素直に話せば、殺されずに済むかもしれませんものね?」


ちらっとフェニックスの方を見るが、若干視線を逸らされている気がする。あの子で遊ぶの楽しいわぁ。


「えっと、この世界の存在じゃない、というのは?魔物や妖精と似たような感じですか?」


「あら、同じ世界にある別空間と違う世界じゃ、全く違いますわよ?」


「そうじゃな。魔物や妖精は異界、妾達は異世界からここに来ておるからの」


「お〜、つまりアンタ達は〜、異世界人なワケ〜?」


マイペースなギャルみたいな喋り方をするのは、魔法少女ケルベロス。私と似たゴスロリのような服装をしているが、スカートの丈が膝上と短い。太もものナイフホルダーから見える3本の短剣と首元に光る赤い首輪、そして髪色と同じ黒い犬耳が目立つ子だ。魔法少女グリフォンとの距離がかなり近いのでこれは恐らくキマシだと思うのだがどうだろうか。


「人とは言い難いですけれど、まぁそんなもんですわね」


「え〜?どゆこと〜?」


「妾達は人間ではないが、その起源に人間が絡んでおるからな。良き心も悪しき心も妾達は内包しておる。故に、妖精とやらの気配もするし、魔物とやらの気配もするのじゃろう」


「あ、あの!人間じゃないってどういう事でしょうか?」


若干気恥ずかしそうにこちらに質問をしてきたのは、魔法少女ツキウサギ。持ち手の長い杵を両手で持ち、背中に臼を背負っている、白を基調としたチャイナ服風の衣装の子だ。魔法少女ケルベロスとは違って髪色と同じ白いウサ耳が生えており、何となく小動物感を刺激する子である。まぁ、何故臼と杵を持っているのかは知らないが。


「文字通りですわ、ツキウサギさん。わたくし達は異世界で生まれた人外。幻想を核とする幻想種。人々の願い、空想、幻想、感情、イメージ………それら全ての統合体が、世界の魔力を得た者ですもの」


「うむ。ちなみに妾は吸血鬼で、こやつは悪魔じゃ」


「難しい話はよくわかんねーけど、つまり異世界からやってきた化け物って事か?」


力強く自身のある言葉で返答したのは、魔法少女ユニコーン。手に持った槍を首の後ろで持ち、薄い青を基調としたシスター服のような衣装を身に纏っている。その額からは1本の真っ直ぐとして鋭い角が生えており、ユニコーン、一角獣の名に恥じない気高さを感じるものだ。まぁぶっちゃけ言動が荒いので、シスター服が似合ってるかと言われたらちょっと首を傾げてしまうが。


「えぇ、そうですわね」


「そうじゃな。間違っとらん」


「………まぁいいわ。貴女達が本当に魔物じゃないなら、この後本当の魔物が現れるんでしょう?警戒は解かないけれど、納得してやるわ」


不満たらたらな言葉を溢したのは、魔法少女フェニックス。炎のような装飾のドレスを身に纏い、手には洗練された弓を持ち、背中から小さな炎の翼が生えている。弓は下ろされているものの、こちらを見据える瞳からは敵意が溢れている事、手元からかなりの魔力を感じられる事から、こちらが怪しい行動をしたら即座に炎の矢を撃ち込めるようにしているのだろう。良い性格してるぜ。


「そうじゃの。しかし、お主らが魔物と戦っている間、妾達は何処に居ればよいのじゃ?指定が無ければこの辺で待機しとるが」


「あ、えと、待っててくれると助かりますけど………」


「こいつらが逃げたらどうするのよ、グリフォン先輩」


「誰か1人くらい監視してる〜?」


「そ、そうなったら私がやります!足速いですから!」


「ツキウサギ1人に任せるのも不安だなぁ………それに、やるとしてもケルベロス先輩の方が良んじゃね?ほら、逃がさないことに関してはすげーし」


「お〜、私はそれでも構わないよ〜」


と、なんかそう決まったらしく、魔法少女ケルベロスがここに残り、それ以外の魔法少女達は魔物を狩りに向かう事になるのであった。

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