荒野を転がる干し草みたいなのタンブルウィードって言うらしいね


『聖騎士』となった次の日である10月9日。私は『草原と死体の闇ダンジョン』に潜り、今日も今日とてアンデットドラゴンを殺し続けるだけの殺戮マシーンになっていた。


「あははははははははははははははははははははははははははははははっ!!!!!!!!」


高らかな笑い声が止まらない。腐敗して尚動き続ける死した竜を殺し続けるだけで、これだけで私の心が満たされていく。


「くふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふっ!!!!!!!!」


でも足りない。全然足りない。全く足りない。足りるわけが無い。普段の私が抑え込んでいる欲望全てをここで発散していると言っても過言ではないのだ。たかが数時間の戦闘なんかで足りるわけないだろう。


「きひっ、きひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひひっ!!!!!!!!」


一応、悪魔から人間に戻れば莫大な戦闘欲求が分裂して幾つもの欲望へと分散されるが、かなり分散されるだけで総量に変化は無いのだ。欲求不満にもなると言うもの。


しかし、一度悪魔の欲望を体験してしまうと、もう2度と人間のうっすくてちびちびとした欲望なんかでは満足出来ない身体にされてしまうのだ。別に欲求不満を多少なりとも解消出来ない訳ではないのだが、やはりそれでは全てを解消し切れない。つまり、どうあっても人間では欲求の解消には欲望が足りないのだ。


だから、こうして解消する。戦いと呼べるか怪しい殺戮劇を片手に、面白味のない勝利を淡々と積み上げていく。私が求めているのとはかなり違うが、欲求を解消出来て楽しいんだから何でも良い。楽しいからなんでも良いのだ。


「あぁ………今日はここまで、ですのね」


『聖騎士』のレベルが180になった瞬間、私は沸騰していた思考を急激に冷やし尽くし、冷静な思考を取り戻す。こうした思考の切り替えも慣れたものだ。ここ最近、ダンジョンに突撃してレベルを180にしてジョブチェンジ、というのを繰り返しているからだろうか。非常に、ひっ、じょぉーーーーーぉに不満だが、まぁ仕方ない事だと割り切っておく。ここで止まらないと無限に出来てしまうから、ここで止まっておく。ここで止まらなかったら次に止まれる自信がないとも言う。


「スキルギフト」



───────────────────

【スキル獲得】

現在の技術 : 1,080


【獲得可能なスキル一覧】

『消費技術:10』

守護魔術Lv1  : 真なる防御を齎す魔術

増強魔術Lv1  : 真なる補助を齎す魔術

授与魔術Lv1  : 更なる改良を齎す魔術

防衛魔術Lv1  : 更なる改善を齎す魔術

生命加算Lv1  : 生命値の能力補正値+5

体力加算Lv1  : 体力値の能力補正値+5

耐久加算Lv1  : 耐久値の能力補正値+5

抵抗加算Lv1  : 抵抗値の能力補正値+5

全能力増加Lv1 : 全能力値の能力補正値+3


『消費技術:20』

物理耐性Lv1  : 物理攻撃に対する10%の耐性

魔術耐性Lv1  : 魔術攻撃に対する10%の耐性

精神耐性Lv1  : 精神攻撃に対する10%の耐性

異常耐性Lv1  : 全状態異常に対する10%の耐性

闇属性耐性Lv1 : 闇属性に対する10%の耐性

光属性耐性Lv1 : 光属性に対する10%の耐性

守護強化Lv1  : 守護魔術の効果を10%上昇

増強強化Lv1  : 増強魔術の効果を10%上昇

授与強化Lv1  : 授与魔術の効果を10%上昇

防衛強化Lv1  : 防衛魔術の効果を10%上昇

魔術強化Lv1  : 魔術の効果を10%上昇

光属性強化Lv1 : 光属性の効果を10%上昇


『消費技術:30』

闇属性特攻Lv1 : 闇属性へのダメージを50%上昇

闇属性特防Lv1 : 闇属性からのダメージを50%軽減

魔術攻撃Lv1  : 魔術的攻撃性能を10%上昇

魔術防御Lv1  : 魔術的防御性能を10%上昇

雲心月性Lv1  : 制限系状態異常無効化


『消費技術:40』

付与の心得Lv1 : あらゆる改良の効果を100%上昇

耐性の心得Lv1 : あらゆる改善の効果を100%上昇

生命超回復Lv1 : 生命の回復速度を200%上昇

体力超回復Lv1 : 体力の回復速度を200%上昇


『消費技術:50』

全力防御Lv1  : 精神値に応じて防御の効果を上昇

全力強化Lv1  : 精神値に応じて補助の効果を上昇

全力付与Lv1  : 精神値に応じて改良の効果を上昇

全力耐性Lv1  : 精神値に応じて改善の効果を上昇


『消費技術:60』

延長術式Lv1  : 魔術の効果時間+100%

防御術式Lv1  : 魔術的防御性能を100%上昇

上位術式Lv1  : 魔術効果を100%上昇

属性術式Lv1  : 属性効果を100%上昇

──────────────────



『聖騎士』のスキルも中々に多いが、『女教皇』と似ているスキルも多くある。特に耐性系スキルなんて駄々被りだ。まぁ耐性系スキルはどれだけあっても良いからな。それより今は魔術だ魔術。


『守護魔術』は、前方に透明の防御壁を張る『防御魔術』と全方位に透明な防御壁を張る『防壁魔術』の進化系だ。しかし防御壁を張る魔術ではなく、対象に"一回無敵"を付与する事が出来る魔術なのである。この"一回無敵"というのは、攻撃を受けた対象の耐性以上のあらゆる種類のダメージを受けた時に発動し、その受けたダメージをゼロにするというものである。『防御魔術』と『防壁魔術』との違いは、魔術の効果中にも自由に動ける事だろう。使用対象の現在位置から算出された地点に防御壁を張る魔術ではないので動けるらしい。


次は『増強魔術』だが、こちらはかなり純粋な進化系となっており、全能力補正値を最大で10底上げする『補助魔術』、同じく最大で30底上げする『強化魔術』と同じように、全能力補正値を最大で50も底上げする魔術となる。勿論ながら『増強強化』スキルがあれば更に50もの補正値が増加するのでめっちゃ強い。『教会騎士』と同じく『聖騎士』の職業が人気の理由の一つがこれだからな。マジで強い。


そして次は『授与魔術』。これは武器や道具の性能を改善して魔術的に強化する『付与魔術』の進化系で、更なる性能の強化は勿論のこと、使用したアイテムに何かしらの特殊効果を一つだけ追加出来るようになった魔術である。特殊効果は『授与魔術』を使用する者のスキルに限定されるし、何のスキルあろうとスキルレベルは1で固定だし、『職業:〇〇』みたいなスキルは付与出来ないが、逆に言えばそれ以外なら魔術でも付与可能だったりする。ちなみにこの魔術で『〇〇魔術』のスキルを付与した場合、魔力を消費してその魔術を使用出来たりする。まぁ相応に効果は低いが、逆に言えばそれくらいだ。基本は耐性系スキルの付与らしいが。


最後の魔術は『防衛魔術』。これは、対象の獲得している耐性系スキルの効果量をプラスする『耐性魔術』の進化系で、耐性系スキルの効果量を掛け算できるようになる魔術である。スキルレベルが上がる毎に倍率がどんどん増えていくらしく、『耐性魔術』と併用すると耐性系スキルの効果が物凄い事になるらしい。これも『聖騎士』が人気な理由の一つだとか。まぁどう考えても強いしそりゃそうだわな。


「雲心月性………なるほど、そういう意味ですのね」


雲心月性とは、名声や利益を求めず、雲や月のように清らかな心や性質をもつ人のことを表す四字熟語、らしい。普通に初めて知ったんだが。それはそれとして『雲心月性』のスキルは強いな。制限系状態異常無効化は中々に良いじゃん。麻痺とか凍結とか気絶とかが制限系状態異常だった筈だったから、そういうのが中々効かなくなるんでしょ?ええやん。


んじゃスキル全部獲得して、と………



───────────────────

【個体情報】

階位 : 180

名前 : キングプロテア・スカーレット

種族 : 悪魔

年齢 : 17

職業 : 聖騎士


【パラメーター】

生命 : 47,526

魔力 : 35,933

体力 : 33,126

筋力 : 22,146

耐久 : 43,926

敏捷 : 31,890

器用 : 20,000,000,000

精神 : 40,350

抵抗 : 43,926

幸運 : 21,966


【ポイント】

技術 : 0


【保有スキル】

職業:僧侶

職業:司祭

職業:教会騎士

職業:女教皇

職業:聖騎士

───────────────────



そして、最終的なステータスはこうなる。ここまで来るともう、全能力パラメーターが2万を越えてくるんだな。私の場合はあり得ないくらい器用だから平気だけど、普通の探索者の場合は上がり過ぎた身体能力を制御するのに少し時間が掛かるものらしいので、探索者がこれ程のステータスだったら大変そうである。一般男性の平均がオール10なんでしょ?そっから数万の世界に行ってたら大変そうだよね………私にはこれっぽっちも関係無いからどうでもいいけど。


「んー………次は『巫女』ですかしらね………」


そして、次の職業は既に決めてある。自分の味方全員を強化出来る『巫女』だ。私の場合、この職業一つで絶大な恩恵を受けられる為、何なら1番最初にしても良かったレベルの職業である。まぁ、『女教皇』と『聖騎士』の魔術が欲しかったので後回しにしたが。


この職業もまぁまぁ人気なのだが、人数はそこまで多くないそうだ。前提として、味方が多い状況でなければ真価を発揮出来ず、全体バフも『巫女』当人のレベルによって効果量が変動するし、『巫女』当人へのバフ量だって人数で可変なので人数の少ないパーティーでは採用され辛い………など、色々と理由は挙げられる。しかし卓越した『巫女』による全体バフは非常に強力な為、決して居なくなるような職業ではない。


というか、大放出の際には真面目にMVPになるレベルだ。この職業によるバフの効果範囲は実質無限に近く、『巫女』当人の味方判定さえ通り抜けていれば、探索者と一般市民を問わずにバブをばら撒けるのである。何なら『巫女』には敵全体に対するデバフスキルも存在しており、大放出によって現れた魔物全てにデバフをばら撒くことだって不可能ではないのだ。しかも、『巫女』の職業スキルは普通に重複する。これほどまでに大放出で活躍できる職業は他に存在しないレベルで強い職業である。探索者の本命であるダンジョン内部だと『聖騎士』などに軍配が上がってしまうのは、なんかもう最早愛嬌とかそういうレベルだろう。


「ステータスオープン」



───────────────────

【個体情報】

階位 : 0

名前 : キングプロテア・スカーレット

種族 : 悪魔

年齢 : 17

職業 : 巫女


【パラメーター】

生命 : 6,666

魔力 : 6,230

体力 : 6,666

筋力 : 6,666

耐久 : 6,666

敏捷 : 7,410

器用 : 20,000,000,000

精神 : 10,650

抵抗 : 6,666

幸運 : 6,666


【ポイント】

技術 : 0


【保有スキル】

職業:僧侶

職業:司祭

職業:教会騎士

職業:女教皇

職業:聖騎士

───────────────────



よし、これで今日から私は『巫女』だぜ。あ、巫女服とか着た方が良いかな?昔気まぐれに作った紫煙のキセルとかと一緒に巫女服を着たら、金髪のキングプロテア姿でも似合いそうかな?うーん………ちょっとアリか?いやでもなぁ………キングプロテアの姿に似合うのは、巫女服よりも花魁風の和服では?こう、首周りと肩をはだけさせて、左手に和傘、右手にキセルで………うんうん、そっちの方が似合うかも。もしくはそうだなぁ、和服ロリータとかでも良いかな………


「んー………まぁ、衣装は別の日にでも考えましょう」


とりあえず衣装は後回しにして、今するべきは『巫女』のレベルを180にする事である。まぁ、今日はそろそろ帰宅時間なので普通に帰るのだが。


「かなり名残惜しいですけれど………まぁ、帰らないといけませんしね」


右手に握っていた緑玉剣の悪魔を消滅させ、まぁでもどうせならもうちょっとくらいはアンデットドラゴン討伐しても良いかなぁとか考えたものの思い直し、とても素直に帰る私なのでした。











2日後の10月11日。今日のレベルアップ会場は『草原と死体の闇ダンジョン』ではなく、『荒野と死体の風ダンジョン』である。非常に乾燥した荒野に蔓延る風属性のアンデットの群れは中々に見応えがあるが、その強さはそこまででもなく、探索者ギルドからの評価はCランクとなっている。『草原と死体の闇ダンジョン』の一つ下のランクなのは、これは純粋に風属性とアンデットの相性が悪いからだ。闇属性であるならば攻撃時にデバフを付与出来るアンデットになる為に厄介なのだが、風属性だと攻撃にノックバックと斬撃追加ダメージが発生するのである。


そして、アンデットは総じて動きが遅い。無論、アンデットドラゴンとまでなれば一般人では決して視認出来ない速度になるが、本物のドラゴンと比べてしまえば数段劣る身体能力でしかない。故に、ノックバックが発生する風属性とは相性が悪いのである。攻撃すると探索者が遠くに飛ばされるから素早く接近しなければならないのに、アンデットという死体の動きが遅いのだから何事も噛み合っていない。


ちなみに、アンデットには元となる素体(アンデットドラゴンならばドラゴンなど)からあらゆる性能が二回り以上低下してしまう欠点があるものの、それを上回る生命パラメーターへの強化補正と欠損すら再生するレベルの自己再生能力が備わっている。まぁあれだ、アンデットはめっちゃしぶといとだけ覚えておけばいい。実際私の認識もそんなもんだ。どれだけ弱いアンデットであろうと、しっかりと肉体を破壊しないと再生して起き上がる可能性があるレベルだ。


アンデットの嫌われる理由として、耐え難い腐敗臭と行動の不気味さ、そしてそのインチキみたいな耐久性などが挙げられる程だ。僧侶系統の職業の人は割と簡単に倒せるが、逆に言えばそれ以外は魔術師で覚えられる『光属性魔術』とかでなければ有効打を与えられないのである。だから嫌われているのだ。


「あぁ、アンデットドラゴン。ほんと、やっと見つけましたわ………」


話を戻すが、私がどうして『草原と死体の闇ダンジョン』ではない、別のダンジョンにやって来ているのか。その理由は実に単純。『草原と死体の闇ダンジョン』に、普段と比べて多くの探索者がやって来てしまっているからである。


『草原と死体の闇ダンジョン』は不人気ダンジョンだ。1日の入場人数が10人を越えていれば良いレベルで人気が無い。その理由は、相手がアンデットである事だ。しかし不人気だからとダンジョン内部の魔物を倒さず放置していると、ダンジョンは大放出という、ダンジョン内部の魔物を外へ放出する現象を引き起こしてしまう。こうなると無数のアンデットが地上を闊歩するようになってしまうのだ。


それを防ぐ為に、不人気ダンジョンには定期的に掃除が入る。『草原と死体の闇ダンジョン』であれば、僧侶系統の職業の多いパーティーと専属契約を結び、数ヶ月に1回くらいの頻度で内部の魔物を一度全て一掃してもらう、という感じだ。不人気ダンジョンの掃除は当然ながら人気が無いが、誰かがやらなければならないので、かなりの大金を報酬として支払う事になっているらしい。


まぁつまり、今日は『草原と死体の闇ダンジョン』に件の掃除人達が入っているのだ。魔物の一掃には少し時間がかかり、短くて数日、長くて2週間程度は掃除人達が居るそうなので、別の不人気ダンジョンに逃げてきたのである。別に普通の探索者なら、掃除が始まってるダンジョンに入っていてもいいのだ。目的は一掃なんだから人手が増えて有難いと言われるくらいだし、何なら人によっては報酬の一部を分けて貰えたりするレベルだ。


わたくしが探索者なら問題無かったんですけれどねぇ………」


もし、私が普段通りに『草原と死体の闇ダンジョン』に潜り、そのままアンデットドラゴンを借り続けていた場合………まぁ普通に魔物認定されて討伐されそうですよね。しかも、掃除中の探索者と出会うのが戦闘前とか後なら多少攻撃されても対話出来る自信があるんだけど、殺戮中に攻撃されたら全然反撃する自信しかないんだわ。そうなったらもう普通に敵認定でしょ?冷静になっても普通に駄目よね。私、この世界から魔物認定されてるから。


まぁ、だからこうして似たような理由で不人気なダンジョンに来ている訳である。ただ、この『荒野と死体の風ダンジョン』の上層には初心者探索者が普通に居るんだよね。闇属性ダンジョンのアンデットは強いけどここのダンジョンのアンデットは風属性のノックバックのせいで中々に弱いから、初心者僧侶とかが練習しに来る訳よ。まぁ、アンデットドラゴンが居る最下層付近までは滅多に人が来ないから良いんだけどね。


というか、アンデットドラゴンが居ないダンジョン多過ぎなんだわ。似てる環境なら幾らでもあるんだけど、ダンジョン毎に階層の数が違うんだよね。例えば『草原と死体の闇ダンジョン』は地下83階まで存在してて、81〜83階にアンデットドラゴンが蔓延ってるんだよ。んで、同じアンデットが出現するダンジョンでも階層が80階層より多く存在してくれないとアンデットドラゴンも出ないんだよね。


そして、階層が80階層以上のアンデットが出現する開けた環境且つ不人気なダンジョンとなると………少ないんだわ。草原に似た開けた遮蔽物のない環境のダンジョンにアンデットが居るのはあるけれど、目的より階層の多いダンジョンになるとそれはそれで人気が出て来てしまって人が割と居るし、少ないとアンデットドラゴンが居ないジレンマ。丁度良い塩梅の場所を見つけるのに苦労したぜ………


「とりあえず………上の階層に人間が来たら知らせるよう、設定しておきましょう」


このダンジョンは不人気ではあるが稀に最下層付近まで潜ってくる探索者が居るので、今居る最下層一歩手前のここ、その一つ上の階層に人が来たら知らせてくれるようにうちの子を配備しておく。この階層に来た時に知らせられても開けた地形だから遠距離でも何かが戦ってるってバレちゃうしね。偵察悪魔を配置してー、っと。お、これでヨシ!


「では………後は、存分に楽しみましょう♡」


これから戦闘を行う。そう考えただけで身体が芯の底から震え、冷静だった思考が一瞬で沸騰する。何なら、語尾に自然とハートマークとか付いちゃうレベルで興奮しているのを自覚している。愛しの戦闘と勝利を得られると理解した心が、条件反射とばかりに喜びを覚えている。


そんな最高の気分を味わいながら、私は今日の戦闘を開始するのだった。








数時間後、『草原と死体の闇ダンジョン』よりも数の多かったアンデットドラゴンの群れの全てを狩り尽くして丁度レベル180になったので、私はめっちゃ名残惜しみながらも戦闘を一度切り上げた。いや、もうちょっと、やっぱりレベル200にしたりとか………いや、更に時間かかるしなぁ………うん、諦めよう………でもちょっとダメ?あ、ダメ。目標レベルお知らせ悪魔君が割と厳しいや………そう作ったの私だけどさ。


「アンデットドラゴンの居る階層が多いんですのよね………今度から狩りはここでしたいですけれど………」


ただ、この『荒野と死体の風ダンジョン』には少なくない人数の探索者が居る。その中には、アンデットドラゴンの出現する階層にまで降りてくる輩も居るだろう。アンデットとは言えドラゴンの魔物なのだから、そのドロップアイテムも相応の価値となる。アンデットドラゴンのアイテム自体は割と需要も存在しているらしいからな。


それでも『草原と死体の闇ダンジョン』のアンデットドラゴンが狩られないのは、闇属性というデバフ特化属性が非常に悪辣だからだ。劣化したドラゴンの身体能力と非常に強力な再生能力、有機物を腐敗させるブレス。そして、闇属性による多重デバフ。『荒野と死体の風ダンジョン』も似たようなもんだが、多重デバフが存在せずにノックバックと斬撃効果しか存在していないだけでその攻略難易度は格段に低下する。


何より、『草原と死体の闇ダンジョン』には定期的な掃除が行われる。その時にアンデットドラゴンのドロップアイテムが売りに出されるので、素材自体にはそこまで困らないのだ。それでも足りないのなら『荒野と死体の風ダンジョン』やその他のダンジョンに居るアンデットドラゴンを狙うのが『死霊術師』のセオリーらしい。まぁ素材の属性が違う程度で、アンデットドラゴンのドロップアイテム自体の品質に差は無いらしいからね。何なら風属性より水属性とかの方が人気らしいし。


「………人が来ると面倒ですから、さっさとスキル獲得して帰りましょうか」


別にダンジョンの外でもステータスは弄れるのだが、ステータスを弄る姿は他人から割と見えるんだよな。表示されてる内容もそもそもステータス画面も見えないけれど、こう、操作してる腕がね。バッチリ見えちゃうわけよ。ステータスを持ってるって悟られると看破されちゃうかもしれないから、わざわざ人の居ないダンジョン内部でステータス操作してるって訳。


「スキルギフト」



───────────────────

【スキル獲得】

現在の技術 : 1,080


【獲得可能なスキル一覧】

『消費技術:10』

戦士の舞Lv1  : 味方全体に階位%の生命、筋力補正

魔術師の舞Lv1 : 味方全体に階位%の魔力、精神補正

盗賊の舞Lv1  : 味方全体に階位%の敏捷、器用補正

僧侶の舞Lv1  : 味方全体に階位%の耐久、抵抗補正

活性の舞Lv1  : 味方全体に階位%の体力、幸運補正

生命加算Lv1  : 生命値の能力補正値+5

体力加算Lv1  : 体力値の能力補正値+5

敏捷加算Lv1  : 敏捷値の能力補正値+5

幸運加算Lv1  : 幸運値の能力補正値+5

全能力増加Lv1 : 全能力値の能力補正値+3


『消費技術:20』

物理耐性Lv1  : 物理攻撃に対する10%の耐性

魔術耐性Lv1  : 魔術攻撃に対する10%の耐性

精神耐性Lv1  : 精神攻撃に対する10%の耐性

異常耐性Lv1  : 全状態異常に対する10%の耐性

弱体耐性Lv1  : 弱体補正に対する10%の耐性

弱点耐性Lv1  : 弱点補正に対する10%の耐性


『消費技術:30』

魔獣の舞Lv1  : 敵全体に階位%の生命、筋力弱体

悪魔の舞Lv1  : 敵全体に階位%の魔力、精神弱体

傀儡の舞Lv1  : 敵全体に階位%の敏捷、器用弱体

死者の舞Lv1  : 敵全体に階位%の耐久、抵抗弱体

鎮静の舞Lv1  : 敵全体に階位%の体力、幸運弱体


『消費技術:40』

生命超回復Lv1 : 生命の回復速度を200%上昇

体力超回復Lv1 : 体力の回復速度を200%上昇

退魔の術理Lv1 : 対魔物戦闘における術理

退魔の心得Lv1 : 特攻、特防効果を100%上昇


『消費技術:50』

不屈の舞Lv1  : 味方全体に階位%の異常耐性

凡夫の舞Lv1  : 敵全体に階位%の物理弱点

愚者の舞Lv1  : 敵全体に階位%の魔術弱点

恐怖の舞Lv1  : 敵全体に階位%の精神弱点

脆弱の舞Lv1  : 敵全体に階位%の異常弱点


『消費技術:60』

鼓舞激励Lv1  : 味方全体に階位%の全能力補正

熱狂伝播Lv1  : 敵全体に階位%の全能力弱体

共鳴演舞Lv1  : 舞の影響力に比例した自己能力補正

神楽舞Lv1   : あらゆる舞の効果を100%上昇

巫女の極意Lv1 : 経験値獲得量を100%上昇

──────────────────



おーおーおー、見たことないスキルがいっぱいだぜ。〇〇の舞って名称のスキル、これ幾つある?えーと、15個?ほへー、めっちゃあるぅ。『教会騎士』で獲得したのも合わせたら18個もあるじゃん。最高かー?バフだけじゃ無くてデバフも撒き散らせるの普通にやべーよなこれ。


『〇〇の舞』ってスキルは全部、味方か敵に対して階位%の補正をかけるスキルなのね。戦士、魔術師、盗賊、僧侶、活性の五つは味方全体へ能力パラメーターの上昇補正、魔獣、悪魔、傀儡、死者、鎮静の五つは敵全体へ能力パラメーターの減少補正。そんで不屈が英雄、賢者、勇者とかと同じく耐性の増加で、凡夫、愚者、恐怖、脆弱の四つが逆に敵全体の耐性を減らすスキルね。これもしかしなくても全部取ったら最凶では?だってこれ、味方全体の全能力と四種耐性を常に底上げしつつ、敵全体の全能力と四種耐性を常に低下させられるんでしょ?最凶じゃんこんなの。


というか、何なら『鼓舞激励』と『熱狂伝搬』のおかげで更に味方全体へ全能力上昇補正と敵全体へ全能力減少補正が入るし、『神楽舞』の効果でそれぞれのバフデバフの効果が100%増加するよね?あれ、これ無敵では??ここに更に魔術のバフとデバフ入るんでしょ?しかもこれ他の巫女がいれば能力値補正更に入るんでしょ??そりゃあ『巫女』が大放出で大活躍する訳だよ。むしろしない方がおかしいってこんなん。そして『共鳴演舞』。これが『巫女』の真骨頂とも呼べるスキルで、バフの効果を受けている数+デバフを受けている数がそのまま全能力値にプラスされるスキルである。


例えば、6人パーティーでダンジョンを探索していて、現れた魔物の数が5匹だったとする。その場合、バフを与えている数は5、デバフを与えている数は5なので、『巫女』の全能力値がプラス10される。この話の肝心な所は、能力補正値へのプラス効果ではなく、能力パラメーターへの直接加算である所だ。仮に『巫女』のレベルが10で全能力パラメーターが100だった場合、『共鳴演舞』の効果によってパラメーターが110になるのだ。能力補正値である10へのプラスではないので、能力パラメーターが200とかにはならない訳である。そしてこの能力値への加算だが、本当に際限が無いらしく、今まで記録されているプラス値としてはプラス50万とかもあったようなのだ。マジで凄いスキルである。


耐性系スキルや能力補正値系スキルはまぁ前からあるからスルーとして、『退魔の術理』などの術理系スキルは初かもしれない。『〇〇の術理』というスキルは、主に技術に関連するスキルとなっている。術理系スキルは、一言で言うとその技術を覚えやすくなるスキルである。ゲームとかラノベみたいに、このスキルを覚えたら剣の達人になれる!みたいなスキルではない。あくまでも、その技術を覚えやすくなるスキルだ。しかしその補正値は高く、真面目に修行を行えば剣の素人であっても数週間で熟練の剣士にだってなれるのである。


そんな『退魔の術理』は、対魔物戦闘における術理。即ち、魔物と相対した時の戦闘技術を覚えやすくなるスキルとなる。これだけ見ると弱いかもしれないが、このスキルは非常に有用なスキルとなっている。


例えば、イ型世界には剣道という技術が存在しているが、これはあくまでも対人戦闘を想定した技術であり、人型ではない相手に使っても効果は薄いと言わざるを得ない。しかしこの『退魔の術理』を保有している者であれば、対人を想定された技術を対魔物用にする事だって可能なのである。地を這う獣、死して尚動く不死者、物質が動く傀儡者、魔術を得意とする悪魔、人の背丈よりも大きな蟲、物理の通用せぬ精霊、etc………そういった、あらゆる人外に対する技術を覚えやすくなるのが、このスキルなのだ。


こうして見ると、中々に分かりやすいスキル構成だなと思う。味方にバフを、敵にデバフを与えながら、その効果の影響数に応じた強化を受け、魔物と戦う職業。『退魔の心得』によって特攻及び特防の効果が増しているので、尚更魔物相手に特化していると言っても過言では無い。私こういう、ゲームなら事前の準備だけしといて後は脳死で攻撃してりゃあある程度貢献できるタイプのスキル構成好きよ。


じゃ、スキル全部獲得して、っと。



───────────────────

【個体情報】

階位 : 180

名前 : キングプロテア・スカーレット

種族 : 悪魔

年齢 : 17

職業 : 巫女


【パラメーター】

生命 : 61,926

魔力 : 41,330

体力 : 52,926

筋力 : 27,546

耐久 : 48,966

敏捷 : 46,470

器用 : 20,000,000,000

精神 : 45,930

抵抗 : 48,966

幸運 : 36,726


【ポイント】

技術 : 0


【保有スキル】

職業:僧侶

職業:司祭

職業:教会騎士

職業:女教皇

職業:聖騎士

職業:巫女

───────────────────



おし、これで六つ目のスキルコンプリートだ。しかも『巫女の極意』のおかげで経験値獲得量がプラス1000%だからな!次回からはもっと効率良く、実質的には10倍の速度でレベルアップ出来るぜ、へっへっへ………いやでも、あれか。それって合計戦闘時間が減るだけでは………?あれ………もしかして、そこまで嬉しくない………??


「うそ………ですわよね………?あぁ、あぁ………」


結果的に戦闘の時間が減ってしまったことに気が付いた私は、静かに倒れ込み、四つん這いになりながら悲しみに暮れるのでした。

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