迷宮蔓延ル異世界旅行

迷宮タイプのゲームは割と楽しい。私知ってるんだ


アリス達と沖縄の海を満喫した夏真っ只中のあの日から、丁度2ヶ月、60日が経過した日の9月29日。私は今日、長かった事前準備を終え、やっとの思いでハ型世界へと足を運ぶ事になっているのであった。そして、向かうのは私だけである。なんせこれ、言ってしまえば私1人の小旅行みたいなもんだからな。というか、明らかに食い付くって分かってるのに好奇心の塊さんアリスを連れて行くかよ。(主に私が)疲れちゃうでしょうが。


兎にも角にも、私は今日この日この時に、新たな世界であるハ型世界へと足を踏み入れるのである。実は事前の予定では高校の文化祭があった筈なのだが、実は数ヶ月前くらいから突如として蔓延し始めたウイルスのせいで文化祭はやらない事になったので、めっちゃ暇なのだ。というか、4月〜6月くらいなんかほぼ学校行ってないレベルだし。


まぁ、そんなのがあった中で『Second Reality Online』、通称『SRO」とかいうVRMMORPGを発売したからか、外出自粛で外に出れない状態の人達にもバカ売れしたので、世界全体で数千万台とかいう台数が売れた………とかいう背景もあったりするが、正直私はそんなのより、今回のウイルスのお陰なのかせいなのかは分からんが、紫悠が『権能』へと至った事の方が驚きだったしな。


いやね?まず紫悠が件のウイルスに感染したって話を聞くじゃん?死者も出るようなやつだから若干心配するけどそういやあいつ病気に耐性あったなぁって思って放置するじゃん?そうして2週間くらい直接会わずにLINEだけで他の仲良しな奴ら(中々に濃い面子)と話したりするじゃん?そんで直接会った時にさ、言われたんだぜ?なんか権能使えるようになったよって。は?って思ったね、その時は。いやだって、確かに『権能』の話はしたよ?四工程の話はしてないけど、そういうのもあるんだよーって話はしたよ?下校途中の雑談で。まさかそれだけで至るとは思わないじゃん。


ちなみに私、紫悠がどんな権能に至ったのか知りません。まぁまだ紫悠は権能に至っただけだからそんなもんですけどね。私だって数日くらいかけて自分の権能の具体的な性能を調べたし、それに数日かけてって言っても、権能展開に必要な魔力が事前に無ければそんな早く終わらなかったし。割と前々から魔力を貯め続けてたから何とかなってたんよ。実は第十アップデート作る時、第九アップデートの魔力貯蔵量が半分以上無くなってたからな………もう数日かけてたら危なかったぜ。


………あぁ、そういやハ型世界に行くんだった。こんな無駄な思考してる暇ないわ。


「この癖、直さないとダメですわよねぇ………」


そう愚痴りながらも、転移悪魔アップデート及び観測悪魔アップデートのシステムがオールグリーンとなるのを確認する。つまり、いつでも異世界転移が出来る状態って訳である。我ながらかなり凄いことをしてる自覚はあるけれど、出来てしまうから仕方ないよね。というか、"凄いこと"のレベルで言ったら権能の方が凄いし。


「はぁ、まぁ、さっさと行きましょうか」


そんな一言の後に、私はイ型世界から消え去った。








「っ、とと」


転移直後、地面よりほんの少し上空を指定して転移したからかほんの少し躓きそうになったものの、転倒防止の第八アップデートと悪魔特有の身体操作能力で躓く事は無かった。


「さてさて………とりあえず、権能は行使可能ですわね」


まず行うのは自分の能力の確認である。通常の魔法は使えるか?権能はどうだ?実績に内包されたスキルは?ユニークスキルも問題ないか?身体能力に不調は?パッシブ魔法に異常は?アクティブ魔法は使用できるか?そういった事柄を少しずつ把握し、自分が万全である事を確認して。


「ふむ………異常は無さそうですわね。異世界転移も………出来そうですわ」


異常は無し。帰還もいつでも可能。うむ、これだけ確認できれば大丈夫だろう。そう思い、私はてくてくと歩き出した。そうして私が歩き出した先にあったのは、広い世界。眼下・・に広がるこの世界。この惑星の人類から『地星』と呼ばれるこの星こそが、新しい異世界である。


「んぅ………いい風ですわね」


巨大な塔・・・・の最上階で、私はそう呟いた。


「これが本物のダンジョン・・・・・………まぁ、流石に無限ではありませんわよね」


ハ型世界の文明を例えるなら、現代ファンタジーだ。ビル群が立ち並ぶ上空を浮遊する島が通り過ぎ、子供達が公園で魔法で遊んでいる横でサラリーマンがパソコンで作業していて、『ダンジョン』という現象が当たり前に存在する………そんな世界なのだ。


『ダンジョン』とは、突如として現れる超自然的な現象だ。今私が立っている巨大な塔のように建築物が突如として生えたりだとか、とある家庭の扉がダンジョンへ繋がるゲートになっていたりとか、とある廃ビルがいつの間にかダンジョンに成り代わっていたりだとか………色々な要因で、突然にして現れる異空間と言うのが、ハ型世界のダンジョンである。


ダンジョンの中は基本的に入り組んだ迷宮だ。稀に開けた草原だったり空が見えたりとおかしな空間になる事があるが、基本は入り組んだ迷宮。そして、その中で容易に人を殺せるような魔物が蔓延り、中に入った生物を容赦なく殺してくるのが、ダンジョンなのだ。


しかしだ。魔物は殺すと塵になるが、稀にアイテムを落とす。これが人類にとって素晴らしい素材であり、これによって幾つもの科学文明が発展して来た。更に、ダンジョンには宝箱という宝物の入った箱が存在しており、そこから発見される魔法の品々は魔法文明を発展させられる品ばかりなのだ。


故に生まれたのが、『探索者』という職業だ。命を賭けてダンジョンを潜り、魔物を殺し、アイテムを集め、階層を進み、そして最下層のボスを攻略し、最後にはダンジョンを消滅させて世界の安全を得る。そんな、多くの英雄が生まれる職業でありながら、多くの命が容易く奪われる職業だ。彼らが毎日ダンジョンに潜っているから世界は安全に満たされ、世界は更なる発展を遂げる事になるのである。


………さて、さて。ふむ、案外私も覚えているもんだな。こうしてこの世界について思い出してみたが、まさかメモ無しでここまで思い出せるとは。やはり、興味のある事は中々忘れないものだなぁ………


「お金………は、大丈夫でしたわね」


まずはお金、と言いたい所だが、MICCミックの追加機能である通貨の保管及び変換の機能がある。例え異世界の電子通貨だろうと適正レートで変換してくれるようにしたので、スマホ………のように見える形をした悪魔さえ使えれば、お金に問題は無いだろう。こちらの世界に電子通貨が存在しているのは把握しているので、使える筈である。というか、かなり文明が発展しているので、あんまり実物のお金を使う場面が少ない世界なのだ。実物より電子通貨はこういう時に楽である。別に実物にも変換できるけど。


あ、当然だが、スマホの本体は亜空間の中であり得ない程に厳重な保管をしているし、何なら私以外が触れようとでもしたらそいつを絶対に神だろうと殺す殺意の塊みたいな悪魔を護衛に付けているから、盗まれる事はない。


まぁ実の所、盗まれてもそこまで問題ないが。今の私なら悪魔の力で似たようなシステムは構築可能だからだ。スマホの方がスマホの機能が使えて便利だから使ってるけど。スマホの中にラプラスの悪魔が居るから盗まれようがデータは全部移せるし。でも私の所有物を盗む奴は死ねば良い(優しい表現)ので、わざわざ厳重な警備を配置しているのだ。


「まぁ………まずはコンビニですわね」


この世界にもコンビニはある。というか、無かったとしても固有名詞が若干違ったりする程度で、それ以外は基本的にイ型世界とほぼ変わりがないのがハ型世界だ。言語だって完全自動翻訳してくれるようにはしているが、それもほぼ変わりがない。敢えて言うなら、ハ型世界で私が普通に日本語を話していたら、めっちゃ訛って喋ってる女がおる、みたいな感じになるくらいだ。その訛りがハ型世界における日本のどの地方のものでも何でもないって所以外は。キングプロテアの外見が金髪赤眼の美少女だから尚更頭がバグりそうだけどね、言葉がめっちゃ訛ってるの。


話を戻すが、少し小腹が空いてきたのでさっさとコンビニに行ってカレーパンとか揚げパンとかの普通に好きな部類のパンを買って来ようと思う。別にフランスパンとかクロワッサンとかクリームパンでも、何なら食パンでも何でもいいが。私は自他共に認める炭水化物大好き人間だからな。米類も麺類もパンも基本的に好きである。無ければ死ぬ訳ではないが、まぁ食べられるなら食べるかな、みたいな感じだ。


ちなみに無かったら死ぬなーって思うのは牛乳である。というか、固有属性で牛乳魔法なんて代物が出現するくらいだぞ?権能の性質を考えれば悪魔魔法とか器用魔法とかでもおかしく無かったのに、そこでわざわざ牛乳魔法になってるレベルだぞ?そりゃあ禁断症状が出るレベルで好きに決まってるんだよな。まぁ、今の私なら魔力さえ確保できて魔法さえ使えるなら、牛乳とか無限に生成出来るけどね。しかも私ブレンドの美味しいやつだ。かき混ぜた牛乳って訳じゃなくて、色んな牛乳の美味しい所だけ掛け合わせた牛乳って意味ね?


その牛乳が美味しいのなんの。最近私は食事の飲み物は全て牛乳まであるぜ。まぁ元から似たようなもんだった気がするけど、それはそれ。


「ありがとうございました〜」


近くのコンビニでカレーパン三つを特に何もなく購入した私は、うち一つを開けてパクパクと食べながら、事前に決めていた観光地へと向かう為に歩いていた。


まぁ、観光と言ってもダンジョンを外から眺めるだけなのだが………中入るのは無理だよ。中には探索者しか入れないし、探索者になる為の手続きに身分証明が必要だから。私はこうしているけど異世界の人間だからね。偽装はまぁ出来なくもないが、別にやる気も無いからいいかなって。


そもそも普段から外に出ないから、こうして街中を歩くだけでも大分楽しいし。それにイ型世界と違って、ハ型世界には知り合いも私を知っている人も居ないから安心感が違う、ってのもある。いやぁ、『Second Reality Online』関係で割と有名になっちまったからな………いつリアルで話しかけられるかと思うと若干怖いんだよ。まぁキングプロテアの姿で出歩いてんじゃねぇって話なんだけど。


ちなみに、ゲーム世界ではとっくにプレイヤー達に話しかけられた。そして一度前例を作るとタガが外れるのが人間というもので………もうね、配信者とかインタビュアーとか、もう凄いよね。めっちゃ色々聞かれたよ。マスゴミってあんな感じなのかぁって体感したし。衛兵に通報した以外に何もしてないけどさ。


まぁマスゴミからの質問にはほぼ答えず、純粋に話しかけてきてくれたプレイヤー達とゲーム内の雑談をしたり、1周年記念のイベント用のダンジョンを作ってるから楽しみにしてて、みたいな話はした。後、私以外にもう1人運営としてゲームをしている奴が居るよ、って話もした。まぁ当の本人ソフィアは無限ダンジョン攻略に躍起になってて、通常のゲーム世界で遊んでないけどな!あの金髪のじゃロリ吸血鬼はいつまでダンジョンやるつもりなんだろう………


そうそう、金髪のじゃロリ吸血鬼で思い出したが、ソフィアの持ってるちなっちゃんはソフィアの権能で無限に生み出せるようになったらしい。創造したちなっちゃんは個々の性能が他全てのちなっちゃんにも完全共有されているらしく、どれか1本でも強化されたらそれ以外のちなっちゃんも強化されるんだとか。それはもう神器みたいなもんだよね?ソフィアが信仰されたらちなっちゃん配れる勢いだよね?私も1人一体の悪魔とか出来るから人の事はあんまり言えないんだけどさ。


というか待てよ?もしかして私、権能使えてるし実質神様みたいなものでは?相手が悪魔なら否応無しに命令出来るし、これ実質私は悪魔の神みたいなもんでは?そういや魔神って単語は災いを齎す神の事と悪魔の二つを指し示してるし、実際私は悪魔を無限に生み出して災厄みたいなの起こせるし悪魔だから実質二重に神様みたいなもんでは??何なら悪魔の中には宗教戦争の最中に敵対宗教の人達に神って呼ばれてるのも居るし悪魔って神みたいなもんでは??具体例を挙げるならベルフェゴールとか。あいつなんか昔の神様らしいし。


「ん、もぐ………こう、改めて思うと、敵対宗教の神を悪魔として貶めるってかなり罪深いですわね………」


だってそうじゃんね。戦争に勝利した方が以後の歴史の中で本当の神になって、負けた方はそのまま悪辣で悪質で敵対者としての悪魔にされるんでしょ?人間って生き物は総じてクソだね。悪い事は悪魔のせいで良いことは神様のお陰ってか?はー?そもそも善悪なんて粗末で些細でゴミみたいで曖昧なモノを決めたのは人間であって悪魔じゃないんだがー?悪魔という存在を『悪』と断定してるのは貴様ら人間であって私らじゃないんだがー?


善悪なんて概念、社外的な生物である人間が社会を構築するのに都合が良いから存在しているだけで、自然界にそんなクソみたいなもん無いんだがー?あいや、別に善悪なんて概念無くなっちまえば良いって思ってるわけじゃないよ?そういう概念が存在してるから社会が十全に働くよう、これまでの長い歴史で積み上げられてきた訳じゃない?善悪を教え広める経験が圧倒的にある訳だ。別にそれは良いんだよそれは。その社会の中で都合の良い事を"善"と呼び、都合の悪い事を"悪"と呼ぶ構造自体は理解できるさ。


でもさぁ、自分達で定めた善悪を利用して善を騙る悪はゴミでしょ。そんなん滅びた方がいい。今の私ならマジで惑星一個くらい10分あれば滅ぼせるよ?やるか??いやまぁしないですけどね、そんなの。


「いや………」


そんな思考してる場合じゃなかったか。怪しまれない為にもさっさと最寄りの安全そうなダンジョンに向かわないと。いやぁ、事前にハ型世界のネットにラプラスの悪魔を接続してたからスマホからハ型世界のネットを使えるのが楽だね。最寄りのダンジョンを調べる機能が便利だわぁ。


「あぁ、その前に探索者ギルドも見ておきたいですわね………一応………むぐ」


探索者ギルドに加入する気は欠片も無いし、そもそもハ型世界での身分が存在しないので加入出来ないのだが、どうせなら見ておきたいでしょう?冒険者ギルドに在籍している身としては、どんな仕組みのギルドか気になるし。


「あぁ、ここですのね」


カレーパンを頬張りながら歩くこと凡そ10分。それくらいで、私は探索者ギルドへと到着した。


探索者ギルドはダンジョンを管理する為、一つにつき一つ存在している組織だ。しかしダンジョンは無数に生み出されては消されていく為、人員の異動がかなり激しい事で有名なんだそうである。その分かは分からないが給料が他の職業よりもかなり良いので新人の就職率は高いのだが、荒くれ者達を相手やいざという時の際に危険なので新人の離職率も高いのが現状だとか。仕方ないとはいえ異動も激しいのも相まって、かなり人員不足の職場らしい。


「ダンジョンは………ふむ?」


ここのダンジョンの名前は『雪原と獣の氷ダンジョン』と言う。ちなみに、ダンジョンは無数に生み出される為、探索者ギルドの管理下のものの名前は全て『ダンジョン内の環境』『出現する魔物の種類』『魔物の主な属性』で統一されており、世界中のダンジョンがそうして管理されている。その管理のしやすさから、ネットでも環境、種類、属性の三項目から目当てのダンジョンの探せるサイトがあるくらいだ。実際かなり便利で、お望みのダンジョンを探したいならそこを見ろ、とネットの掲示板で言われていたくらいには信頼されているらしい。


まぁつまり。ここのダンジョンは内部の環境が雪原で、出現する魔物の種類が獣系統で、魔物の主な属性が氷属性というダンジョンなのだ。雪も降らないような都市部のど真ん中に雪原なんてものが現れる辺り、ダンジョンは周辺の環境に影響を受けないようだな。


「賑わってますわねぇ………」


探索者ギルドの外見としては、まず扉が存在しない。大きな入り口があるが扉は無く、外から中を覗く事が容易だ。中には多くの探索者が居り、無骨な武器や派手な装備を掲げた探索者の姿が外からでも一目で分かる。一般人なら威圧感があって中に入り辛いかもしれないが、私は特に気にする事なくすーっと中に入る。


私が中に入ると多少注目されるものの、直ぐに視線は私から外れた。いや、胸や脚や顔に視線はまだあるが、誰だ?みたいな視線は外れた。残ったのは視線がバレてると思っていない、端的に言っていやらしい視線の奴らだけである。まぁ、直接手でも出されたら容赦なくうちの悪魔達の実験台にでもなってもらうが、そうでないなら無視だ。気にするまでもない。


中の光景としては、入り口の正面に受付が4つ。入り口から見て右側には酒場と大勢の探索者達、左側には横に長い電光掲示板とそこに写っている依頼の数々、と言った感じだろうか。探索者の利用する場所の天井が非常に高く、2階部分がくり抜かれているようだ。


ちなみに、あの電光掲示板に表示されている依頼を受ける方法としては、探索者ギルドホームページを経由して各支部の依頼書の項目まで進み、そこに記載されている依頼の中から受けたい依頼を探し、後はその受けたい依頼を選択するだけで勝手に受理される仕組みらしい。ただし、依頼を受けるにはホームページにログインしている必要があり、個人個人には各々に合ったランクが存在し、そのランクと同じかそれ以下の依頼しか受けられないようになっているらしい。ネットから依頼を受けられると言う仕様以外、基本の仕組み的にはロ型世界の冒険者とそこまで変わらないな、というのが私の感想である。


2階にはフリースペースがあるようだ。こちらは探索者目的の場所ではなく、探索者以外の依頼を出す側だったり見学に来た一般人だったりが利用する場所らしい。どうせなら利用しようと私はそのフリースペースへ向かい、そのまま隅っこの1人様の席に座り込んだ。


「んー………」


私はあまり失礼にならないよう、座ったままに階下の探索者達を観察する。


この世界の人々は、まるでゲームのようなステータスを有している。そして当然ながら、イ型世界やロ型世界とは全く別のものだ。イ型世界とロ型世界は全く同じ世界のルールを使用していたからこそ縁がある世界同士で異世界転移ゲートが生まれてしまっていたが、この世界はそうとはいかないのだ。


しかし、生まれた時からステータスがある訳ではない。この世界はこの惑星だけでなく、宇宙空間のあちこちにも無数のダンジョンが発生しては消滅しているが………その内のどれでも良い。この世界の生命体は、どれであろうと何処かのダンジョンに入った瞬間に、ステータスを獲得するのだ。


ステータスの内容としては、非常にゲーム的なものだ。筋力や敏捷性が具体的な数値として算出され、保有しているスキルが表示され、装備品やアイテムで得られる効果を確認出来、HPや MPから自分の継続戦闘能力を把握出来るのである。


「………盗視解析アナザーアナライズじゃ分からないですけれど、ね………」


盗視解析アナザーアナライズとは、自分自身のステータスを把握する魔法である解析理解アナライズを他人に無断で使えるようになった魔法である。通常、他人の許可があれば見れる解析理解アナライズと同じような事を、他人の許可無く使うことができるだけ………なのだが、解析理解アナライズとは比べ物にならない使用難易度であり、尚且つ、この魔法を使用した者がステータスを解析された人物に発見もしくは知覚されると、解析された側の人物の頭に、解析した側のステータスが表示されてしまう、諸刃の魔法である。


ただし、幻影属性などを同時に使用して魔法の使用を隠蔽されると、相手側に気が付かれにくくなり、使用者のステータスを見せないようにする事もできる。熟達した者は相手に情報を消して、一切自分の情報を与えずに相手の情報だけ盗み取る事も可能だったりする魔法である。ちなみにうちのアリスさんは自分だけ知って知られない盗視解析アナザーアナライズの使い手だが、マジで情報を抜かれたのが分からないレベルで上手い。使用された事に後で言われて気が付けるレベルだ。


そして、私も一応使用できる。ただし、盗視解析アナザーアナライズをした事に気が付かれない様にする偽装工作は苦手だ。苦手だから悪魔達に色々してもらって処理を任せて情報だけ抜き取り、私の情報を一切与えないように盗視解析アナザーアナライズの魔法に悪魔を自動で組み込むようにしている。これで、相手に知られずに相手のステータスを見られるわけだ


ちなみに、私の世界の魔法を使ってハ型世界式ステータスを見ようとしても、閲覧出来るのはイロ型世界式ステータスである事から、その世界のステータスはその世界の方法で見なければ確認出来ないのだろう。世界の法則ってのはそんなもんだ。文明とかが似ているからそう考え難いが、ここは縁もゆかりも何もない本当の異世界。世界を構築する理から全て違う世界なのだ。


「他人のステータスを覗き見るなら………看破スキル、でしたっけ?」


それは、この世界に存在するスキルの一つである。対象のステータスを閲覧するスキルとして、看破スキルが存在しているのだ。その看破なら、このハ型世界式ステータスを覗き見る事が出来るらしい。非公式ダンジョン攻略サイトって所に普通に書いてあった。ちなみに鑑定スキルというモノもあるが、そちらはアイテムの詳細な情報を見るスキルらしく、看破スキルは生物専用、鑑定スキルはアイテム専用の情報収集スキルって感じなんだとか。深淵属性の魔法も生物非生物で使う魔法が変わるし、そういう所は似てるんだろうか。


それとも、やはり一切の縁もゆかりもない場所には訪れられないという事か?法則は根本から違えど、似ている法則はあるし………何なら、物理現象はイ型世界とロ型世界とハ型世界で共通してるし。あれかな?世界創造スターターキットに物理現象は必ず封入されてる感じ?初心者は同じキットを使うから同じ物理現象があるけど、上級者の世界にもなると独自の法則で動くようになるとか?そうなら私は初心者の分類って訳だ。ゲーム世界は物理現象アリで作ったし。


「ダンジョンねぇ………」


ダンジョン。無数に生まれては消え、魔物という試練と共に報酬という恩恵を与え、ステータスという超常の欠片を手渡す仕組み。ロ型世界のダンジョンとは違った、全く別の不思議な理。当然のように生まれ、当然のように消え、当然のように命を奪い、当然のように命を生み出す。地星だけでなく、宇宙よりも更に、ハ型世界全体で大きな信仰を持つ、迷宮の名を冠した謎の世界。権能と同じように世界を掌握し、その内側を別の世界のように作り変える事によって生まれる、突発的な自然現象。


んー………一度、入ってみるべきなのかね?別の世界を法則を受けてみたら、何か辿り着ける境地もあるかもしれないし………ハ型世界のステータス、ちょっとゲームっぽくて面白そうだし?だからまぁ、どうせなら入ってみようかな?いやまぁ、別に本気で入りたいわけじゃないから、私のタイミングが合う時にでもってなるけど。


「………探索者になるのも………身分証………」


探索者になるのも良いが、その為には何処かから身分証を持ってこないといけない。うちの子達を使って偽装しようと思えば出来るかもしれないが………この世界にはスキルがあるからなぁ。何の拍子にバレるか分からんし………んー、何か………何か、良い案が有れば………………あ。


「………!」


あ、そうだ。良い事思い付いた。これなら………うん、行けそう。うし、そうと決まれば即実行。フリースペースでゆったりしていた私はスパッと立ち上がると、今し方思い付いた方法を試す為の準備をする為に探索者ギルドを後にするのだった。

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