頭の中に爆弾は聞いたことあるけど脳天に短剣は意味分かんねぇよ


ソフィアが無限ダンジョンの1050階層を突破した日から1週間後の7月10日。今日も今日とて徹夜しながら『Second Reality Online』で遊んでいるのか、リビングのソファでヘッドセットを被って微動だにしない金髪ロリ吸血鬼を横目に、実質私のみたいになっているパソコンの電源を付けながら、その隣に座り込む。最近、ソフィアは徹夜してまで無限ダンジョンを攻略しているらしく、なんと2000階層を突破したそうなのだ。


何でも、権能持ちの魔物の血液を吸収させ続けたちなっちゃんが、ついに権能持ち相手でもダメージを出せるようになって来たそうなのである。とうとう神威の権限たる権能すらも突破出来るとか、一体全体ちなっちゃんは何になろうとしているのか………神でも殺せる武器にでもなるのかな??


「ソフィア………んん??」


あれ、なんかソフィアの頭になんか生えてる。ヘッドセットはヘアバンド風の形状だから頭がよく見えるんだよねー。というか、つむじの所に丁度よく生えるなんて一体何だろ………えっ。


「………ちなっちゃん………?!」


えっ、ちなっちゃんがソフィアの脳天に突き刺さってるんですけど。しかも結構深いんですけど?ちなっちゃんの持ち手がほんの少ししか見えてませんけど?え、ソフィアは体内にちなっちゃんを収納してるって言ってたけど、何?脳天に突き刺してたの??腕とかじゃなくて????


………と言うか。


「ちなっちゃん………貴女、とうとう現実に………」


あれかな………ソフィアの体内の血液、つまり権能そのものみたいな血液に浸し過ぎて、とうとうちなっちゃんも権能の一部ってソフィア当人に認識されちゃったのかな………にしてもこれ、めちゃくちゃシュールだな………ソフィア本人に鏡見せたらどうなるんだろう………いや、割と平坦な本能しそうだな。現実にやってくる程度には自分の一部だと思ってる訳だし。というかこれ、自意識とかありそう………


「………ちなっちゃん、こんにちは。わたくしはキングプロテア・スカーレットですわ。貴女のご主人?相棒?である、ソフィア・アマリリス=レッドライオンの友人ですわ………よろしく?」


ちなっちゃんに意思がありそうなので挨拶してみると、なんと、ちなっちゃんがソフィアの脳天でぶるぶる震えた。そこはかとなく嬉しそうに見えるのは何故なのだろうか。というか、脳天でちなっちゃんが震えるとソフィアの頭も震えるから、なんかもうギャグみたいな見た目なんですけど………それは本当に大丈夫なの?大丈夫なら良いんだけど………


「んー………ここですわね」


最近の私がちょくちょく確認しているのが、株である。何なら普通に株やってる。いやね?『Second Reality Online』をさ、売りつけた時のお金があるじゃない?でもそれ、全部電子通貨なのよ。MICCミックの機能で全部一括保管してるけど、それが大体数千万円くらいなのね。で、どうせなら現金にも欲しいよね?


って事で、電子通貨を現金に変換出来るように株してます。私の銀行口座が急に数千万円も増えたら不自然でしょ?だから、そのカモフラージュとしてね。まぁそれはそれとして普通に株はちゃんとやってるけど。バリバリに不正してるし。いやね?別に株そのものに干渉して不正してるじゃないんだよ。単にラプラスの悪魔の演算で未来予知して株してるだけで。


あ、ちなみに言っておくと、割と未来予知の精度は良いよ?まぁ良いっつても、人間の意思が介入すればする程狂うし、見られるのは断片的だし、どれだけ先の未来か分かんないし、何より一場面しか見えないから、あんまり使い勝手は良くないんだけどさ。ただ、株に関して言えば、ネットやらから得られた情報を元に未来を演算出来るし、断片的でもチャートさえ見えれば大丈夫だし、一場面だけでもどれだけの未来か分からなくても、何度も見続ければ良いだけだから割と精度は高い方だったりする。


なんせ株って、人の意思で勝手に株の変動が起こるわけじゃなくて、既に起こったことを元に生まれるものだからさ。多少は人の意思とか予想外はあるけど、基本的に他の情報の結果から算出される結果に過ぎないから。それくらいならうちのラプラスでも演算可能よ。未来予知しまくって今後のチャートを演算する悪魔のシステムも構築済みだぜ!


「今のところは黒字ですけれど………うーん。いつか大損しそうですわよね、こういうのって………」


実の所、私はギャンブルとかがそんなに好きじゃない。ゲームでのギャンブルなら全然やるけど、リアルでやりたいとは思わない。私の基本思想的に、成功して稼げる!ってのより、失敗して損をする、って思考のが先に出てくる訳よ。圧倒的損の上に成り立つ得がギャンブルってもんだから、損を掴みやすいギャンブルは無断だよね、ってな感じで。


「んー………そろそろ戻って来る頃ですかしら………」


私がそう呟いた次の瞬間、私の目の前に転移門が開かれ、そこから第十三アップデートの偵察隊が帰還して来た。おーう、タイミングバッチリだねぇ。感覚的にもうちょいかなぁとは思ってたけど。


「お帰りなさいな。それで………ふふっ、成果はあったようですわね」


私が一体、どんな理由でこの子達を放っていたのか?それにはとある理由がある。そしてその答えは、UWASウワスに載っている。


「ふふっ、新たな異世界・・・が見つかったなんて、素晴らしい成果でしたわ」


それは異世界。イ型世界ともロ型世界とも別の、次なる場所、ハ型世界。本来、世界を越えるような転移には、転移先との縁、転移先と自分との関係性が存在している必要がある。例えば私の場合だが、ロ型世界からイ型世界へ転移する際はまず、第十二アップデートによる転移門の空間属性を用いて世界同士を繋ぐ。次に第十一アップデートのラプラスの悪魔によって転移先の世界と今居る世界との時間を同期させ、最終的には世界を越えて転移をするのだ。


そして転移先の縁は、空間属性によって転移先とを繋ぐ際に利用するのだ。例えるなら、大海原を進む際に使用するコンパス、羅針盤のようなものだろうか?いや、そこまで大雑把なものじゃないか。そうだな………あぁ、スマホで行きたい先を検索すると出てくる道順みたいなもの、という方が分かり易いかな。向かう方法は数多とあれど、最短で向かう為に必要なモノが、転移先との"縁"なのだ。


故に私は考えたワケだ。最短のルートで使えないならば、最短のルートを引き当てるまで繰り返そうと。何せ私は、権能によって無限の兵力を作り上げられるのだ。しかも偵察が得意な十三アップデートまで存在している。ならばもう、縁無しで転移を繰り返し続けてしまえば、いつか何処かに辿り着く事になるだけだ。そうして探し始めて軽く1ヶ月くらいかかったが、やっと新しい世界を見つけられた訳である。めっちゃ時間かかった………


そして、一度でも偵察隊が異世界へと送り込めればこちらのもの。UWASウワスに新しい世界のマップが構築され、その場所を転移先に指定出来る訳である。我ながら素晴らしい魔法を作ってしまったな………!


「んー………偶然にも惑星の中に転移出来たみたいですわね………」


想定としては、全然その辺の宇宙空間に転移すると思っていたのだが………宇宙の方が広いし。ピンポイントに惑星の重力圏内に入れるとは。しかも見る限り、結構文明の高い惑星だ。何なら人間みたいな生命体も居る。例えるならイ型世界と似たような世界ってとこか………なんか今の私の視点、地球に侵略してくる宇宙人みたいだな………別に侵略はしないけどさぁ。


「とりあえず………惑星一つ分の地形情報を確認してから転移、ですかしら………いえ、一応銀河一つ分くらい………」


我ながらスケールの大きい話をしている自覚はあるが、それくらいの事が出来るくらいの力が、今の私にはあるのだ。マジで銀河系一つくらいなら余裕で征服可能なんだよねぇ………改めて思うと凄いところまで来たなぁ、私。


「あぁその前に、ハ型世界の言語翻訳が出来るようにしておかないと………」


自動翻訳機能自体はラプラスの悪魔で何とでもなる。情報処理や演算においてラプラスの悪魔を越える悪魔は居ないからな………マジで助かってるぜ。何ならSROのプレイヤーもアバター全てに自動翻訳機能が搭載されてるから、他国のプレイヤー同士でも一緒に遊べるしな………!そっちからの流用だ。まぁ、事前に言語を覚えさせないといけないから先に調査する必要があるけど、うちの子一万体で一気に翻訳作業をしてれば数時間で翻訳なんて完璧のペキよ。


というか、大抵の事柄はソロモン72柱の悪魔が対応出来るんだよね。何なら言語を教えてくれる悪魔も居るから、その子の要素も組み込んで翻訳作業の効率化を加速させたりもしてるけどね。ちなみに、私が契約してるバティンもその中の1人、と言うか異世界の凄い王様に由来する72の称号の一つを持ってるらしいんだけど、その中でもバティンは瞬間移動の使い手らしいよ?ちょくちょく話しちゃうくらいには仲良いぜ?まぁ、権能を使い始めてから直接召喚するのはあんまりしないけど………


いやでもね………時々召喚しちゃうんだわ、これが。鬱陶しいとは思うんだけど、それが割と嫌いじゃない距離感なんだよね。話すのが楽というか、毒舌を意識して止める必要が無い程度の、何も気兼ねなく本音をぶちまけて話せる相手というか………まぁこれアリスも同じなんですけど。


「とりあえず………夏休みに入って、アリス達とイ型の方の海を満喫してから、ですかしらね………念には念を入れて、深い所まで入念に調査しておかないといけませんし」


とりあえず、ハ型世界に向かう前に他の用事を片付けておこう。まずはアリス達と一緒にイ型世界の海を満喫する事からだ。以前にロ型世界の海はアリス達と一緒に満喫した事があるけど、それとは違ったものになるだろうか………そうだなぁ、沖縄とかの海とかどう?どっかの良さそうな大きいホテル借りてとか………あぁ、その辺の予定も詰めないとだなぁ。













ハ型世界を新しく発見した日から3週間後、本日は7月31日。既に夏休みに突入している今日この日、私達は海にやってきているのでした。それも沖縄の海である。何なら良さそうな大きめのホテルを見つけたので、今日から1泊2日である。ホテルの敷地内に砂浜があるのは流石じゃよね、これ。


「海ですー!!」


「海だー!!」


「!!、!!!」


「海ー!!」


「海だねー!!」


はい。こちらに居られるハイテンションな5人が、今回の私の同行者で御座います。まぁ、はい。アリスとレイカとフェイとマスターと妹様ですね。


「バティン、いざと言う時の監視は頼みましたわよ」


「分かっております、お嬢様。それはそれとして我のモノとなって貰っても?」


「ハッ、笑止千万ですわね」


ちなみにだが、中々に広くて私が目を離してしまうという事案が発生するのが目に見えているので、以前にロ型世界で海に入った時とは違ってバティンを召喚して監視員として役立てている。ちょくちょく俺のモノにならないか?みたいな何処ぞの卑怯者みたいな物言いを言われて中々に鬱陶しいが、まぁその話をした自分が原因の言い回しなのだろうし、歯に絹着せない物言いが出来るって点でバティンの事は信頼しているので、必要経費と割り切っている。ウザい言動に目を瞑ればこいつめっちゃ有能だからな………何気に執事としての仕事も出来るしこいつ………


て言うかこいつ、何気にマイマスターと妹様に人気なんだよな………私が2人と出会った頃、心配だからと付きっきりに近い状態でお世話させてた影響なんだろうけど………そこはかとなくムカつく。そこは私のポジションだろ。いやまぁめっちゃ信頼されてるんだけどさぁ………それとこれとは違うじゃん。別じゃん?私はね、マスターと妹様からの人気も信頼も全部受けたいの。私のご主人様なんだが??


ちなみに、バティンをイ型世界に召喚する際、普段の悪魔としての姿で召喚したら確実に色々と面倒な事になりかねないので、悪魔ではなく人間の姿になって貰っている。


「それで?これからどうするんですの?」


「はい!はーい!私達子供組はあっちのアトラクションエリアで遊びたいです!フェイは勿論、シャルとマリーにも了承貰いました!」


「!!!、!!!」


「テア!行きたいです!」


「テアお姉ちゃん行きたーい!」


「そうなると、受付が必要ですわね………バティン、着いていきなさい」


「かしこまりました、お嬢様」


「ちなみにアリスは?」


「はい!私もアトラクションに行きます!」


「あぁなら全員で行きますわよ………」


マジでみんなテンション高いな………私、みんながハイテンション過ぎて着いていけないよ………


そして、当然ながら全員が水着である。以前着ていたのと同じ水着ではあるが、やはりみんな中々に似合っているな………確かマスターや妹様は成長期の筈なのだが、あんまり身長伸びないねぇ。小さい頃に栄養を取らないと身長伸びないって言われるし、孤児院だとお腹いっぱい食べるってのは難しそうだしなぁ。親が冒険者同士で両方死んじゃって、って子供も多いみたいだし………んー、私の固有魔法である牛乳属性でどうにかならないかなぁ………?


ちなみに話は変わるが、今のバティンの服装は海パンにアロハシャツにサングラスと、かなり典型的な海辺の服装である。ただ、着ているのがイケメンだからか、そんな雑な服装でもかなり似合っている。イケメンって有利だねぇ。


「許可貰って来ましたー!行きますよみんな!」


「「「おー!!」」」


「!!、!!!」


「あっちょっ」


ちょっと目を離した瞬間のうちに、アリスがいつの間にか海上アトラクションの受付をして来たらしく、子供組と一緒に砂浜を駆け出していっていく。


「ちょっ、バティン!ここに荷物を置いて行くので色々とやっといてくださいましー!」


「お嬢様はどちらへ?」


「当然あのじゃじゃ馬共の見張りですわよ!じゃあ任せましたわよ!」


「えぇ、かしこまりました」


バティンにパラソルやらビーチチェアやら荷物やら浮き輪やらの準備を全て任せ、私はアリス達の監視をする為に走るのだった。









「はぁ、もう………疲れましたわ………バティン、ちょっと子供組見ててくださいまし………」


「かしこまりました、お嬢様。後でたっぷり、お嬢様を好きなようにいたしますね」


「あぁはいはいご自由に………」


海上アトラクションではしゃぐ子供組+アリスを見張るだけのつもりだったのに、なんかアリスに手を引かれてアトラクションに参加し、元々あんまりない体力を使い果たしてパラソルの元のビーチチェアに寝転がる私………はぁ、疲れた。


「テアー、人数分のスポーツドリンク買って来ました!」


「あぁアリス、ペットボトルはその辺のクーラーボックスに入れておいてくださいまし………」


「はーい。テア、一本要ります?」


「貰いますわ………」


照りつける太陽の光を遮るように広がるパラソルの元、私はアリスから受け取ったスポーツドリンクのペットボトルを開封し、横になりながら上手い具合にごくっと飲む。あぁ………身体に染み渡る………内臓とか無いようなもんだけど………はぁ、冷たくて気持ちいぃ………


「アリス、冷やしてくれましたのね………ありがとうございますわ………」


「ふふっ、気が効くでしょう?」


「えぇ、それはもう………」


ペットボトルに魔力の痕跡があったので、アリスが氷属性の魔法でスポーツドリンクを冷やしてくれたのは明白だった。めちゃめちゃにありがたかったので素直にお礼を言っておく。美味しいぃ………疲れたぁ………


「テア、隣に寝転んでも?」


「えぇ、ご自由に………って、椅子は二つあるんですから隣に………」


「んー、ダメですか?」


「いえ、別に良いですけれど………」


ただですね、アリスさんも私も水着なんすよ。毎日抱き枕にして寝たり、毎日一緒にお風呂に入ったりしてますけど、私一応男の子なんすよね。お風呂はお風呂で全裸同士なのにくっついて来たりしますけど、それはそれとして水着でくっつくのもやめませんか??全裸とはまた違った感覚がして色々と不味いんですけど………良かったですね、私の欲望が性欲とかじゃなくて。


「ふふっ、やっぱりテアは抱き心地が良いですねー。毎日抱き枕にされたりしたりしてますけど………こうしてテアに抱き着くの、とっても好きです………」


「ん、まぁ、ご自由に………」


………その後、子供組が戻ってくるまで特に会話も無く、2人一緒にビールチェアに寝転ぶ私とアリスなのでした。うーん………これ、側から見たら絵面凄そう………水着の美少女がくっつき合って寝転がってるんだもんな………だから何だって話ではあるけど………

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