完結しても番外編が続く物語はどう考えても最高じゃん


私が権能を使えるようになってから1週間後の1月18日。私はこの1週間、仕事の合間の暇な時間の全てを権能の性能実験に費やす事で、権能の具体的な内容を把握するまでに至っていた。


「んー、権能展開」


まずは一つ目。この1週間で何度も権能を行使し続けた結果、ちょっとだけ集中してワンフレーズ唱えるだけで、即座に権能を使えるようにまでなった。別にワンフレーズ無しの無言発動も出来るのだが、まだ行使回数が足りない為、無言発動だとイメージを構築するまで10秒くらい必要なのである。何万回と行使し続けてイメージだけの行使で0.1秒未満とかになったら無言発動を優先的に使うだろう。ワンフレーズくらいなら発動に必要な秒数1秒くらいだしな。


二つ目。私の権能が司っている性質の内容が判明した。特に溜める必要も無いので直ぐ言うが、司る権能は『悪魔』と『器用さ』の二つである『悪魔』の方は事前に推測していたが、『器用さ』の方は全く推測もしていなかった。恐すらく前者は【悪魔の婚約者】が由来の権能であり、後者は恐らく【器用貧乏】が由来の権能である。私が昔から器用貧乏だったのは、私の性質がそうだったからなのだろう。


『悪魔』の権能の主な効果は、悪魔の創造、悪魔の知覚、悪魔への絶対命令権の、合計3種類である。そんな3種類の中で最も根幹部分に位置するのは、悪魔の創造である。文字通りの悪魔の創造。それが悪魔の名の付くモノならば問答無用で誕生させる、この『悪魔』の権能が種類として生命誕生の権能に分類される理由が、ここに詰められている。


恐らくだが、【悪魔の婚約者】に内包されている悪魔との子を成せる体質と、悪魔との子供が確実に出来るという体質が影響して、あらゆる悪魔を生み出す存在として私の権能は決定されたのだろう。後は多分、レイカを生み出したのも権能の決定に関係しているだろう。権能の性質は元から『悪魔』であっただろうが、具体的な効果の内容はこれまでの私から算出されるらしい。


『器用さ』の権能の主な効果は、器用さの操作。身体能力由来の器用さは勿論、立ち回りの器用さなども含まれる権能である。主な使い方としては、自身の器用さを極限まで底上げしたり、逆に認識している対象の器用さを壊滅的にしたりする事が可能である。また、この権能の凄い所は権能そのものを展開していなくても私にある程度の影響を与える所で、手先の本当に細かな震えすら止められる程の精密さを常に発揮できるようになるのである。


ちなみに『悪魔』の方の権能も一切展開していないのにも関わらず、私に影響を与えていたりする。悪魔繋がりなのか何なのか、キングプロテア・スカーレットの方の私の身体能力を強化しているようだ。


「第十アップデートも良好、と………」


そして三つ目。私はこの度、新しいパッシブ魔法を作った。


それこそが『永久悪魔アップデート』。いつも通りの連名である第十アップデートである。このアップデートは第九アップデート内の魔力を増幅し、元の魔力以上の魔力を生み出し続けるという、永久機関そのものである。


このアップデートは魔法による産物ではなく、新しく手に入れた『悪魔』の権能を用いたモノ。『悪魔』の権能により、かの有名な第二種永久機関に関連するマクスウェルの悪魔・・・・・・・・・を生み出し、その概念に紐付けされた第二種永久機関から永久機関の性質を引き出す。それから第九アップデートに保管されている魔力を用いて、使用した以上の魔力を生成する、永久機関を生み出すアップデートである。魔法に由来する他の属性は特に使用されておらず、永久的に莫大な魔力量がどんどん増えていくだけのアップデートである。


このアップデートこそ、権能の全能性を示すモノだ。


「魔力保管量………が、見事に数値エラーを吐いてやがる。そうだな………権能の全力使用を一回分と計算して、ストックみたいな感じで表示するかな………これなら、多少は表記できる数字になる筈………」


第十アップデートだけで、分かるだろう?権能の反則さってモノを。"悪魔"の創造という意味も分かるだろう?悪魔という生物の創造じゃあなくて、悪魔という概念を用いた万物創造の技術である事が。熱力学では否定されている第二種永久機関に関連する存在である"マクスウェルの悪魔"から『永久機関』という性質を抜き出して、それをアップデートとして活用しているのだぞ?これがどれだけあり得ないことか理解できるか?


これは言うなれば、完成しているカレーの中にあるじゃがいもから、そこに存在しない筈のじゃがいもの芽を取り出す………くらいは、あり得ない事だ。関係さえあるのなら"無いもの"からだって性質を取り出す事の頭のおかしい反則性が理解出来るだろう。こんなもの、突き詰めていけば何でも出来るのは明白だ。


これが"権能"。反則的な法則と理想的な現実を生み出す、一つの絶対。権能とは、神が神足り得る証明に他ならない。それは例え無限の魔力と権能を手にした今の私でも、到底敵わないであろう究極の証。


「んー………後はここを………」


権能を行使できる存在とそうでない存在には、無視出来ない程の明確な差が生まれてしまう。オンラインゲームで例えるなら、権能持ちは運営そのもので、それ以外は通常のプレイヤーだ。それ程までに両者には差が存在している。ゲームという一つの世界を決定する運営に、プレイヤーは決して逆らう事ができない。どんなに不服な結果であれ、それが運営の選択ならば曲げられない。とても強いスキルがアップデートで少し弱くされてしまっても、そういうものだと受け入れるしかないのがプレイヤー側だろう?


権能とは、一つの概念を司るモノだ。言うなれば、それはその世界におけるルールの一つを支配しているのと同じ事である。例えば重力、例えばステータス、例えば武器。


そのゲームにおける重力というルールを支配しているのなら、あらゆる重力を無くして無重力にも出来るだろうし、逆に重力を極限にまで増やしてしまう事だって出来るだろうし。


そのゲームにおけるステータスというルールを支配しているのなら、自身のステータスを限界以上にまで引き上げたり、相手のステータスを常に最低値以下にだって出来るだろうし。


そのゲームにおける武器というルールを支配しているのなら、あらゆる武器を無制限に無限に扱う事が可能だろうし、武器そのものの性能だって無限に上げたり下げたり出来るだろう。


理不尽だろう。狡いだろう。しかし、ゲームならチートだチーターだと言われるだろうが………権能は決して不正じゃあない。ルールを他人が勝手に書き換えるのがダメなのであって、ルールの作者が作り替えるのはダメじゃないだろう?それに権能は、やろうと思えば誰だって手に入れられる。私が凄いから手に入れられた訳じゃない。司る性質は誰にだって宿っているモノだし、権能へ至る為の術は確かに存在する。図書館のどの本にも載ってなかったから具体的な内容は伝聞されていない可能性もしくは研究されていない可能性があるが………私?私は小説読んでて思いついただけだから参考になりません。


1番ネックになるのは莫大なエネルギー源だけれど、そのエネルギーだって魔石を活用すればどうにでもなるだろう。大量に溜めてから魔力的な繋がりを魔石と接続して、魔力の最大量を一時的に莫大に増やせばいい。一度行使出来ればコツは掴めるだろう。そしてその一回で無限の魔力を手に入れられれば、後は本当にどうにもでもなる。権能なんてそんなモノで、そんなモノを再現するのにこんなに手間がかかるのである。何故ならば、私らは人間だから。元々は神の本能的な技術だ。人間の私ら用に作られてない技術を扱うんだぜ?並大抵じゃ無理だろうよ。でも絶対に出来ないって訳じゃない。ならまぁ、後はどうにでもなるだろう?私はどうにでもしたし。いやまぁ、結構偶然もあるけど。


「とりあえず100番台までは………まぁいい感じに………」


ちなみに、私が今何をしているのかと問われたら、権能で全力を出す為の前準備をしていると答えるだろう。私は『悪魔』の権能がメイン、『器用さ』の権能をサブとして認識しているのだが、やはりどちらでも絶対の方法というモノを作りたいだろう?そう、必殺技ってやつを。


『器用さ』の権能はもう既に思いついたし、多分今すぐでも行使出来るのだが、『悪魔』の権能だとそうはいかない。あくまでも『悪魔』の権能は(駄洒落ではない)"悪魔を創造する"というのが基本的な性能であり、創造の為にはゲームで言うところのキャラクターメイキングが必要なのである。"マクスウェルの悪魔"のように概念を悪魔として創造する場合はキャラメイクは必要ないんだが、生物としての悪魔に肉体は必須なのである。


そんな訳なので私は今、1番から100番までの悪魔を創造する為の前準備、つまり100体分のキャラクターメイキングをしている段階なのである。1番から100番に向けて段階的に強くなって行くのを想定しており、1番が一般人より少し上程度で100番が大英雄クラス、というのをイメージしている。ただし、1番から100番までの悪魔達の性能自体は非常にオールラウンダー的な性能をさせており、大抵の状況に対応できるようにしてあったりする。全属性適性があるが才能のレベルとしては一般的、という感じだ。


また、1番から100番までに限らず私が創造した悪魔達の経験値や技術の類は悪魔達全体で共有である。その為、実の所1番から100番までの強さの差は身体能力や魔力量で判別しており、いずれ1番でも大英雄クラスを圧倒したりするだろう。その為には、創造する悪魔全体で沢山の経験を積む必要があるのだ。


そこで私は閃きました。じゃあ適当な場所に悪魔を創造して、そこで悪魔一万体にずっと剣の素振りさせておいたら?悪魔一万体にずっと各種属性の魔法を使わせてたら?悪魔一万体にずっと組み手をさせ続けたら?それは僅かな経験値ではあるものの、無限に蓄積し続けるのでは?しかも器用さの権能も併用して器用さを肉体の極限まで引き上げたらもっと良いのでは?などと、私は閃いたのです。


そしてやりました。もうやってます。プラクティススペースの中の世界は無制限に広がっており、世界の端の方は使わないし使う気も無いので場所が余りまくるのだ。なのでそこで延々と、器用さの権能により器用さを極限にまで引き上げられた悪魔達に修行させ続けているのである。木刀を作る悪魔一万体、木刀で素振りする悪魔一万体、木の的を作る悪魔一万体、木の的を魔法で破壊する悪魔一万体、etc………とにかく多くの、プラクティススペースの内部でし続けられる技術の特訓をさせ続けている。プラクティススペースは誰かが出入りすれば世界が元通りになるので、私が定期的に入るだけで資源は無限大だ。外には一切持ち出せないが、逆に言うなら中に居続けるならそれで問題無いのである。


また思考能力を育てる為にも、悪魔達の知性は人間以上となっている。気分はAIを作る人だ。それに知性というのは経験において大切な部分なので。ま、それだけの知性があるのに文句の一つも出ないのは、従順であるという存在概念を悪魔達に植え付けているからだし、『悪魔』の権能による絶対命令権を行使しているからなんすけどね。ちなみにその知性を活用すべく、どうせならと雑談の話し手の一万体と雑談の聞き手の一万体も居たりする。考えられる経験値を全て蓄積させたいからな。いずれ彼らは万能の軍団となるだろう。


そうして私の預かり知らぬ所で(権能展開中は悪魔の知覚により把握しているが)成長し続ける私の悪魔達………いや、否。彼ら彼女らはレイカと同じく、私から生まれた存在。であるならば、レイカという娘を長女に置いた子供達だろう。うむ、そう呼ぶことにしよう。神話においても女神とは生み出すモノである事が多いのだし、地母神なんてその最たるモノだろう。いやまぁ本当はお母さんじゃなくてお父さんなので女神でも何でも無いんだが………でもまぁ、レイカと同じ扱いのカテゴリーならお母さん呼びも別にいいかなー、って。困らないし。………いや、女神呼びはちょっと困るけど。


「んー………後は、あれと………」


でも、これで大体の準備・・は済んだ。後は本当に実行可能なのかを調べて………それから時間同期のシステムも組まないといけないし………後は門の制作もしなきゃだし………うん、やる事はまだあるな!ちゃんとリスト化しておかないと忘れそうだ。せめてどっかにメモっとくかなぁ………あぁそれと紫悠にも連絡しないと………
















そんなこんなで時間は流れ、今日は18日から2週間後の2月2日。この世界の月の周期はどの月も30日ぴったりなので、大変分かりやすい。まぁその分なのか何なのか、1日は25時間だし1時間は100分だし1分は100秒なので、ちょいとばかし元の世界とは時間の感覚が違う。そしてそれは結構エライことでもある。


まず一つ。この世界と元の世界とは、時間の流れが随分と違う。これは私と紫悠がこの世界にやってきた時間にかなりの差がある事からも分かるだろう。私と紫悠はある1日の登校中に異世界にやって来ていて、そこに大層な時間差など無く、精々数分〜数十分程度の差しか無い。なのに私と紫悠にはこの世界にやってきた日の差があるというのはつまり、元の世界とこの世界とは時間の流れが全く違う、ということになるのである。こちらの世界の1年が元の世界の1分未満、なんて事もあり得るのだ。


この時間の流れが違う案件は他にも理由がある。それは私のスマホを経由して閲覧するインターネット、ゲームなどの、その挙動だ。例えば、とあるゲームでは特にこれと言った時間の異常は無く、この世界の時間に適応してログインボーナスなどを獲得出来る。しかし期間限定イベントなどはどれだけ待ってもやって来ない事から、おかしな部分で時間の流れが違うのだ。


他にも、とあるニュース記事などは私が転移した時間より未来の情報が出てきたり、はたまた昔の記事が出てきたりと、ランダム性が酷くてニュースとしては見れたもんじゃない。まぁ今日は未来なのか過去なのかの運試しみたいになら使えるし、未来のニュースがどんなものか分かるのはちょっと楽しいけど。


それから、とある小説サイトを覗くと時間の流れ自体はこちらの世界基準であるものの、その時間の流れが嫌に遅かったりする。1時間が1日換算の時もあれば、1時間で1ヶ月換算の時もあるのだ。とある動画投稿サイトも似たようなもんである。しかもこの異常な時間経過はサイトやアプリ毎に結構違っていて、動画投稿サイトならこう!みたいなテンプレートが存在しない。それぞれが独立しておかしいのだ。


これらの事から、私は元の世界とこの世界とて時間の流れが違う、という推測に至った。何故異世界単位の"転移"に時間属性が必要だったのか。それは恐らく、世界毎に流れる時間が全く違うからなのだろう。しかも、重力の強い場所とかだと時間の流れが微妙に差異があったりするっぽいので、本当にたまったもんじゃない。それなのに空間属性だけで転移などしようものなら、恐らくはちゃめちゃな時間の転移先になってしまう。だから時間と空間の両属性が必要だったんですね。


「時間同期のシステム………オールクリア」


次に二つ。上記の事実から、世界間の転移においては空間属性と時間属性の才能を必要とするのである。まぁ、空間属性は世界間の転移さえ確立できれば良いし、時間属性なんて転移先との時間を完全に同期させられるなら何だって良い。


しかし異世界転移とは、世界を越える程の大魔法だ。それには莫大なエネルギーは勿論、奇跡とも呼べる才能も必要となってしまう。私には空間属性にしか才能が無く、その空間属性の才能だって圧倒的な才能とは決して言えない。ならばどうすればいいのか。


そんなん権能でゴリ押せばいい。


私の権能は『悪魔』の権能。その中には時間に関係のある悪魔だっている。それこそは、"ラプラスの悪魔"。どんなに複雑なモノだろうと位置と外力を完璧に測れれば運動が決定するんだから、それはつまり宇宙が始まった時から全ての未来が決定していると言うことであり、そういったデータを解析できるだけの能力のある知性の存在の概念。それこそが、私の創造した"ラプラスの悪魔"である。生みの親であるラプラスさんが言うには、『その目には未来も(過去同様に)全て見えているであろう』との事。


それはつまり、未来と過去というあらゆる時間の全てを把握して観測する性質があるという事だ。誰か1人でもそう言ったのなら、私がそう解釈できるなら、それはそういう・・・・モノになる。これが権能の反則さである。


そんなラプラスの悪魔を、合計一万体。まるで合体ロボのように組み合わせて組み合わせて、一つのシステムとして構築したのが『観測悪魔アップデート』。別名、第十一アップデートである。"ラプラスの悪魔"を用いた時間同期システムであり、転移行動時に自動で適用され、転移先と今いる場所との時間を完全に同期するのが主な効果だ。例え誰かに巻き込まれた転移であっても完全自動で発動するので、今度からは不意の異世界転移でも時間を勝手に同期してくれる訳である。………それが得なのかは知らんが。


「観測悪魔アップデートの状態は………うん、良好」


だがそれだけでは異世界転移は出来ない。何故なら、空間属性の性質が圧倒的に足りないからだ。じゃあどうするのか?そんなものは単純明快。こっちも権能でゴリ押す。


まず、私の空間属性を転写した悪魔をこれまた一万体生み出します。その一万体を第十一アップデートと同じように合体させて一体の悪魔にしてしまいます。そうすると私の空間属性の才能一万人分となるので、それで空間属性の才能は足ります。


まぁはい、権能の反則さが分かりますね。ちなみに、こっちの空間属性融合個体は特にアップデートでもアプリでも魔法でも何でもない、本当にただの権能を扱う技術みたいなもんなので名前とか無いっす。強いて付けるなら『悪魔の門』とか?空間属性の塊だしな。いやまぁ、悪魔の門自体はあるし、性質引っ張ってくればワープ装置として使えそうだけどさぁ………これ、試作段階だし。


時間同期の観測悪魔アップデートは以前から過去観測の魔法を作りたいなーと思ってたから色々と完成に必要なデータが偶然あったけど、転移系は最近になって使い始めたからなぁ。その辺りのデータが少ないのでアップデートにはしたくありません。せめて世界間の転移が自由に出来るまでは名前は付けないですはい。


「空間属性の確保もOK………と」


まぁ、はい。ここまで引っ張りましたけども、はい。


異世界転移、出来ます。


「異世界転移の準備自体はOK、っと」


異世界転移。私が巻き込まれ、紫悠も巻き込まれた、謎の転移現象。世界のルールが同じか似ている世界同士で、恐らくは偶然起こってしまう、自然現象の一つ。人の身では多くの制限がある異世界転移も、世界がするなら関係など無いのだろう。私の異世界生活の目標の中には、元の世界への帰還というモノが存在している。だって帰りたいし………てことで帰る手段を作りました。はい。


いやまぁ、まだ帰りませんけどね?今私が元の世界に帰ると、二つの世界同士の時間の流れを同期させることになるんですよ。そうしないと、あっちの数分がこっちの数十年になってたりするんすよ。異世界に戻ったら数十年経ってたとかどんな浦島太郎だっつー話ですよ。というか、その為の時間同期システムだぜ?その為の観測悪魔アップデートだぜ?世界同士の時間の流れをある程度まで同期させるくらいなら余裕も余裕。それに、神様に咎められる事もない。なんせ、元々時間の流れってのは世界毎に無茶苦茶だ。私はそれを、二つの時間の流れを同じ無茶苦茶にするだけである。


ま、時間同期をしたとしても1日が25万秒の世界と1日が86,400秒の世界同士だから、異世界側に居た方が1日の体感時間は長いんですけどね。それはどうしようもないけれど時間の流れ自体は同期してるんで、浦島太郎状態にはならねぇって寸法ですよ。何?1日の秒数が違うんだから結局ズレるだろうって?ハッ、そう思うんならお前さんは馬鹿だよ。言ってるだろ?時間同期のシステムだってよ。つまりはね?異世界で1日を過ごしたら、元の世界も1日経つんだよ。そこに矛盾は存在しない。する訳がない。


それが、権能。私が"そう"と言ったら"そう"。それだけだ。


「器用さの権能があると作業が楽だぁ………痒いところに手が届く………」


器用さの権能。なんというか器用さを司るとだけ聞くとすっごいマイナーな神様の権能っぽいが、由来になった実績が【器用貧乏】の実績なだけあって、大抵の場面で使える便利な権能である。


まずはパッシブで発動され続けている器用さの超強化。別に権能を展開していなくても指先の小さな震えが消えてしまう程度には、強化の性能がはちゃめちゃに高い。多分今なら裁縫の時の糸通し100連続で1発成功とか出来ると思う。いやこの例えは分かりづらいか………?うーん………あぁそうそう、もうね、文字が綺麗に書けるのなんの。どんだけ急いでも書いても私が1番綺麗に書ける文字になるの。美文字みたいなのはやったことないから出来ないけど前より素早くめっちゃ綺麗な文字を書けるのよ。便利だよねぇ。


しかもパッシブの強化だけでこれなんだよなぁ、これ。ここから更に、権能を展開して器用さを無限に引き上げられるのだ。器用さを上げまくると、他人の動きを一度見ただけで完全トレースとか出来るようになる。ダンス動画とかもう足運びから手先の動きまで完璧のペキよ。踊ってみた動画完コピして踊るの楽しい〜。


ついでに言うとこの権能、展開してる間は他人の器用さにも干渉出来るのだ。不器用な人だろうと無制限に器用に出来るし、逆にめっちゃ器用な人を壊滅的な不器用に出来るのである。更に言うなら生物無生物関係無く、権能の行使対象が"動くモノ"なら確実に通用するので、私はこの世に存在するあらゆる"動くモノ"に対して有利を取れる訳だ。だって、その対象の器用さをゼロ以下のマイナスの極地まで下げたら、相手は動けもしなくなる。器用さってのは人間の身体機能で言うなら、それは神経だ。私はそれを無制限に操れる。それだけで、この権能の理不尽さが分かるだろう?


権能っていうのは例えどれだけ弱そうなモノを司る権能だろうと、等しく理不尽なのである。当たり前だろう。何せ、司っているモノに限れば全知全能なんだぜ?それが理不尽でなくて何だというのか。


「ま!私はそんな理不尽を、便利な道具だと思ってるんですけどね!」


だって実際に便利なんですもの!限られた範囲の中で全知全能なんだもの!限られた範囲の中とは言え、全部知ってて全部出来るんだよ?これが便利ではなくて何だというのか。ほんのちょーっと頭を使えば、全能は無理でも万能くらいなら、『悪魔』と『器用』を司る神ですらない一般人のこの私でさえ、なんかもう片手間で万能くらいには至れそうなのだから。


「くっふっふー。後はあれとー………」


私はそうして、異世界転移の準備を着々と進めていくのだった。

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