劇的な覚醒イベントは良いもんだなぁ…私?あはは…これじゃダメ?ダメかぁ…
『悪魔炉心』関連の夢を見た日から5日後の、1月11日。私はこの日、いつものように仕事終わりに自室でゴロゴロ………などはしておらず、プラクティススペースの中にまで赴いていた。
「久しぶりに2人きりだねー、お母さん!」
「そうだねぇ………」
今日は同行者が居る。勿体ぶらずに言うとレイカだ。私がこの異世界にやって来て、初めて遭遇した訳の分からない存在である。今では、私の悪魔を生み出す土壌としての才能を全て食い潰して生まれてきた最上級の身体能力を持って生まれてきた影悪魔、即ちドッペルゲンガーの悪魔という事が分かっているが、当時は直ぐにそんな事が分かる訳もなく、しかも自分の娘であるなと半ば認めていなかった記憶がある。レイカに対する表現で娘?とか言っていたのが懐かしい。
「今日お母さんは私の貸切だもんねー?」
「いやまぁ、貸切だけど」
しかも貸し切ったのは
「それで?実の娘の私を仮想世界に連れ込んで、何をするの?強姦?」
「そんな馬鹿な事しません」
実の娘だぞ。ついでに言うなら中身は2、3割くらい私だぞ。誰が自分の娘でありながら実質自分みたいな存在に性的な衝動をぶつけると言うのか………いや、性癖が歪み切った奴ならそれでも興奮出来そうではあるが、少なくとも私はそうじゃない。
「今回するのは………元の世界に帰る為の、第一歩?的な?」
「え?!帰れるの?!」
「まぁ、一応………手はあるんだよ、手は」
「流石はお母さん!やっぱり母は強しって事なのかな?」
「お父さん呼びしてもいいのよ」
「やーい私のおかあさーん」
「むー」
私としてはお父さんと呼ばれたいのだが………まぁいい。
「それにしても珍しいよねぇ。お母さんが具体的な内容を言わずに、私だけ連れてくるなんて。アリスお姉ちゃんとか居てくれた方が良かったんじゃない?」
「いや………今から試す手法って多分、アリスはもう既に半ば出来てるんだよ」
「え?そうなの?」
「推測だけどね」
私はそう言いながら、プラクティススペースの草原の上に寝転がる。
「寝転がるの?」
「いや、レイカは立ってて。そんで私の事見てて」
「見てるだけ?」
「見てて何か私に対して違和感を感じたら教えて」
「りょーかい!お母さんのバストサイズからヒップサイズまで事細かに確認するよ!」
「なんでこんなセクハラ娘になっちまったんだろうなぁ」
初めの頃はもっとお淑やかだったんだが………
「んじゃ、観察よろしく」
「はーい!」
元気いっぱいなレイカの返答を聞いてから、私は少し前から試したいと思っていた一つの仮説を………今ここで、真説にする事にしたのだった。
──深くイメージするのは、
今ここに、私の全てを答えてやろう。
私とは
「すぅー………」
息を吸い、己を溜める。イメージするのは自分自身。私と言う
『世界とは、何か?』
──それは私が見え、聞こえ、嗅げ、触れ、味わえ、認識し、感知し、理解し、把握している、私という存在の認知の内側の全て。その外側に世界など無く、私の中心に世界は回る。例え現実がどうであろうと、私は世界という概念を、そう理解した。
その第一歩として。まずはこの世界をほんの少しだけ、自分の
「ふぅー………」
息を吐き、それと同時に
ここまでくれば後の工程は単純明快。至極簡単なものだ。第九アップデートと私の魔力パスを接続。バス自体の太さは半ば無いようなモノであるから、半無限供給を開始する。
「うえぇお母さん?!何これ何これ何これ?!?!」
ここは既に、私の
────っこの感覚!
「っ!」
目を開けて、掴んだ感覚を忘れぬうちに、私の世界が壊れぬうちに!
「
──世界が、広がった。これまで私の周りにあったモノが、私の中に、私の周りに、ある。私の世界が、
これが権能。これこそが神威の権限。神が行使せし極点の技術………否、否!これが極点?否だ!ここで止まれるものかよ!
「感覚は、掴んだ」
この感覚は例え記憶を失っても、そう簡単に忘れられるモノではない。
「後は、使えるようにすればいい」
それが出来れば、後は、もう少し。
「ちょ、お母さん大丈夫なの?!おかあさーん?!」
「ん、大丈夫、大丈夫」
第九アップデートの半無限魔力バスを解除。権能の展開を停止。
「ふぅ………上手くいった」
「お母さんお母さん!権能って何?!お母さんがついに神様になったの!?」
「ついにって何だついにって」
私が何に見えていたのだレイカよ。
「あれ何?!説明して!!」
「あぁうん、するする」
私が先程までやっていたのが何か、と問われれば、至極単純。
『あ、これ私もやりたい』、って。
「えぇ………馬鹿じゃん………」
「何だとー?馬鹿じゃないがー?実際に出来たがー?」
「何で出来ちゃうかなぁ………」
「いやね?ちゃんと図書館の資料も漁ったよ?」
コルトさんの可愛らしい寝顔をじっくり見るついでに。
「まぁ私が再現しようとしてたのはその小説のやつなんだけど………ふと思った訳よ。その物語の作中でも神とか何とか言われてたような言われてなかったような気がしてさ。というか前から権能みたいだなぁって思いながら見ててんだけどさ?その権能みたいなのが出て来た時に理解したよね」
これ私にも出来そう、ってさ。
「図書館の資料によると、神の権能ってのは一種の技術である事は変わりないらしいんだよ。人間で言うところの呼吸みたいなもんで、神としては何故出来ないのか理解できないってレベルのもんらしいの。いやぁ、研究者ってのは何処にでも居るもんだねぇ」
自己の認識、世界の把握、自己の展開、世界の掌握………自分と世界をどうこうみたいな工程を繰り返す技術ではあるものの、単語だけ聞けば出来そうなのが問題だ。しかし実際問題、出来ない理由はある。それは当然、権能を行使する為のエネルギーだ。魔力でも熱でも光でもなんでも、それがエネルギーとなるなら何でも良い。
しかし、足りない。恒星一つを使い潰しても到底足りないエネルギー。故に私が求めたのはそれ以上。宇宙は勿論、宇宙の外側までの、あらゆる全てだ。否、求めたのではない。
「だからやったの。権能を使えるようにした。権能の適性自体はあったし、出来そうだったから」
「出来ちゃったかぁ」
「ちなみに権能を使うキッカケはもう一つあるよ」
「もしかしなくてもアリスお姉ちゃんでしょ、知ってる」
「そ。アリスは多分自己の認識は完璧。世界の把握と掌握は瞳で半自動的にやってる。自己の展開は無意識でやってるっぽいし、それが自分の肉体の内側の、しかも瞳で終わらせてる」
つまり。
「アリスは多分、半ば神様みたいな事をしてたんだよ」
アリスがあの地下室で世界を知っていたのは、アリスがあの世界で決して狂わなかったのは、恐らくそのせい。いやまぁ事実は知らないっすけどね?でもさ、無意識に世界を望んだからこそ、世界そのものを把握していたり掌握していたんだろうし、自己の認識など瞳があれば完璧だろう?その癖に自己の展開が瞳の内側にだけなのは、アリスは瞳で常に自分の世界を見ていたからだろう。自分だけが見える光景である事を、アリスは半ば自覚していた筈だ。だからこそ、見える景色が自分の世界だと断定出来ていた。
つまり、後は相応のエネルギーだけさえ有れば、アリスは明確な権能を獲得出来るのだろう。いや、瞳という肉体に縛られている一種のフィルターを通すとかいう工程を挟むだけでも、権能の行使に必要なエネルギーは大分減るだろうな。つまりアリスは、権能に必要な魔力が私より大分少ない可能性がある。契約属性の条件付けによる消費削減みたいな感じだろう。
権能の持ち主は、己が司る概念の内に限って全知全能だ。私は今のところどのような権能なのが分からないが………例えば火を司る火の神は、火に関してならば全知全能。燃やすという現象を押し付ける事など余裕だし、水で消えない炎だって出せる。火を使った料理という事から火の通っている料理を生み出したり、熱さを燃やす事で凍結させられたり………つまり。権能の持ち主は、己が司る概念の内側に限って、文字通りに何でもできるのである。
「それじゃあ、お母さんの司る権能って何なの?」
「知らん」
「知らんのかーい」
「いや、私さっき権能使えるようになったばっかりだからね?」
「でも推測はしてるんでしょ?」
「まぁ………はい」
私の推測では、恐らく『悪魔』とかその辺りの権能になると思う。何故そうなのかと言われれば、それは単純。私の保有する実績の中で一番訳が分からず、いつ手に入れたのかすら分からない実績が、【悪魔の婚約者】だからである。実績とは個人の偉業を可視化したモノであり、個人の歩んできた歴史そのものだ。
しかし勿論、私に悪魔と結婚した思い出など無いし、内包されているスキルにも心当たりがない。悪魔を惹きつけるスキルにも、悪魔との子供を作れるようになる身体になるスキルにも、悪魔との子供が絶対に出来るスキルにも、私には一切の身に覚えがない。なのにそれが偉業として記録されているなど、おかしいに決まっている。
だからきっと、これは私の本質なのだと解釈した。私の魂に刻まれた性質というか、属性?まぁそんな感じのやつである。私の本能みたいなのも間違えてねぇって囁いてる気がする(してない)から大丈夫でしょ多分。
「と、いうか。アリスお姉ちゃんと違って、お母さんはこんな日常の最中で覚醒しちゃうんだねぇ。修行の成果って訳でもないし」
「えっ何?アリス覚醒してたの?」
「うん。何この前凄い魔法開発してた。具体的に言うとお母さんの第二アップデートみたいなやつ」
「なぬ?」
私の第二アップデートみたいなやつだと?何だそのチート防御(ブーメラン)。最近の自動防御抜くの大変なんだぞあれ。最近というか作ってから滅多に使われていないものの、攻撃判定の条件が既に思いつかないレベルまで改良に改良を重ねて、今回で権能を獲得したから今後は権能レベルも防げちゃうぞー?そんな第二アップデートみたいなやつだと?いつか無敵バグみたいになりそう(もう割となってる)。
「しかも攻性防御だったよ。攻撃して来た相手を一瞬で凍らせちゃうの」
「えっ」
私のより強いじゃん何それ欲しい。私も攻性防御にするか………まぁ私の場合、攻撃的な魔法をちょっとでも組み込むと威力があり得んくらいバグるので、威力調整の方法を思いつかないと作れないが。あ、そうだ。魔法道具なら使えるから、自動攻性防御を再現したやつとかほしいにゃー。アリスに頼んだらOK貰えたりするのかな………しないけどさ。
「いやまぁ?私には権能があるし?」
「あ、そうだ。さっき権能を使ってたっぽいお母さんを見てたらさ、何か凄い神々しかったよ」
「えっ」
何それ怖っ。
「さっきついに神様になったの?って私言ったじゃん。それ多分、さっきお母さんが一瞬だけ神様に見えてたからだよ」
「えぇ………?」
「だから多分、合ってるんじゃない?『悪魔』の権能ってやつ」
「そっかぁ」
まさかレイカからそんな事言われるとは思わなんだ。
「!お母さんが神様って事は、つまり私ってば神様の娘ってこと?!」
「えっ、うーん?そうなる………のかなぁ?」
「あれだね!私ヘラクレスとかその辺の人みたい!半神ってやつ!あいや、半神半悪魔かな?」
「それだと私が産んだみたいになっちゃうからやめて」
「生んだ事には変わりないじゃない?」
「生みはしたけど産んではないよ」
「お母さんの屁理屈めー。読み方なんてどっちも変わらないのに!」
「読み方が同じでも意味が違うんだよなぁ」
いやね?言葉的な意味は同じなんですよ?でもさぁ、生むってのは創造みたいなイメージの言葉だと思ってて、産むってのは出産のイメージなんだよ。レイカはどっちかと言えば創造の方じゃない?それか発生みたいなイメージ。だから産むってのは嫌かなぁって………純粋に出産という言葉を私を対象にして使わないで欲しいってのもあるけど。
「ねー、今日はもうこれで終わり?」
「んー、うん。ありがとレイカ。後は1人でゆっくりやるとするよ」
「んじゃー、私は先に外に出てるねー!フェイと一緒に遊んできます!」
「一応聞いておくけど、何処行くつもり?」
「深海!リヴァイアサンを討伐するの!」
「へー」
リヴァイアサンかぁ………何でそんな強そうなの居るんだろうなぁ。深海に行くのも大分おかしいけどさ?いや、まぁ、私が止める権利とかも無いし、別に良いんだけどさぁ。
「まー、気を付けて行ってらっしゃい」
「はーい!行ってきまーす!」
そのままレイカがプラクティススペースから退出したのを確認してから、私は権能の実験を始めるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます