消毒液の匂いってなんか癖にならない?私だけ?


アリスに射撃練習場的な異空間をちょっぴりサプライズみたいな感じで紹介して貰った日から4日後の12月12日。なんか同じ数字が並んでたり繰り返されてたりすると特別感を感じるのは、多分ゾロ目とかそういう概念の影響なのかなぁと思う今日この頃。いや、こういう記念日的な感覚というのは日本の企業がチョコレートを普及させる為に開催したバレンタインデー的なノリだったりとか、限定とかそういうのに弱い心理を突いたものだったりするのだろうか。まぁよく知らないが。


あぁそうそう、この前は興奮しててナチュラルに聴き忘れてたのだが、あの射撃練習場的な場所の名前は『プラクティススペース』と言うらしい。直訳で練習空間なので分かりやすいね!


「んー………もうちょい、こう………」


そんな練習空間もといプラクティススペースだが、私はこの4日間でめちゃくちゃに使いまくっていた。どんだけ使いまくってたかと言うと、多分朝から晩まで、必要な時間以外は全部ここに居たくらいのレベルだ。アリスは数多くの事柄に対して物凄い興味を覚える代わりに、何か一つの物事に対して深く熱中する事が殆どない。私はその正反対で、少ない事柄に対して深く熱中し、多くの物事に対して強い興味を覚えたりしない。アリスがオールラウンダーのような気質なのだとしたら、私は多分特化型なんだろう。まぁ私の才能は平々凡々なオールラウンダー型なんすけどね。そう考えると、やっぱり自分の気質と才能が噛み合うかってーのも才能なんだなぁって。ほら、ゲーム的に表現するならシナジー的な感じ?相乗効果を積み重ねたら強いに決まってるよね。


そうだなぁ、例えば………簡単だけど、筋力値を5%増加させる『筋力上昇』みたいなスキルと、能力値の増加率を10%増加させる『能力向上』みたいなスキルがあるとするじゃん?そうすると最終的には筋力値が15%上昇する事になる訳よ。んで、これが凄いのはこっからで、例えば耐久値を5%増加、敏捷値を5%増加、みたいなスキルを追加で入手するとだね、耐久値も敏捷値も15%になる訳よ。そう、二つ目の『能力向上』みたいなやつのお陰なんですね。でもこの二つ目のスキルだけじゃ何の変化もない訳で………みたいに、二つ以上のモノを組み合わせて更なる効果を発揮させる事を、相乗効果って言うんですね。んで、その組み合わせを限界まで突き詰めていくとですね、そりゃまぁ凄い結果になる訳ですよ。


例えば、まぁそんな都合の良い感じになる訳じゃないけれども、とりあえず物の例えとして。『筋力上昇』『能力向上』に加えて、三つ目に自分の保有するスキルの効果を全て2倍にする『能力倍加』みたいなスキルがあるとすると、『筋力上昇』の効果が2倍で筋力値+10%、『能力向上』の効果が2倍で+20%になって、最終的には筋力値が30%になる訳ですね。んで、更に魔力値を30%マイナスする代わりに筋力値を30%プラスする『代償強化』みたいなスキルがあるとすると、『能力倍加』でマイナスが60%になる代わりにプラスも60%になって、『能力向上』の効果でプラス20%になって………最終的には、筋力値が+110%、魔力が−40%になる訳だ。『能力向上』のお陰で魔力のマイナス値が多少緩和されてはいるものの、筋力値に特化してる事になる。


こういうのを『シナジー』って言うのだ。まぁ今回の例えは本当に都合の良い例えではあるから、現実はこんなに上手く相乗効果が乗る事ってあんまり無いんだけども。


「んー………ん、こうしたら?」


それはともかく、私はこのプラクティススペースで魔法の実験を繰り返していた。主な内容、と言ってもほぼ攻撃魔法の火力制御、という名の魔法を使った遊びをしていただけだ。や、だって冒険者ギルドの地下室とは違って全力でぶっ放しても後で直るし………いやまぁ、今後もあの地下室は使うけどね?このプラクティススペースで実験を繰り返して、冒険者ギルドの地下室(私専用部屋)で調整した火力の魔法を撃ってテスト、みたいな?………まぁ本当は、そんな事する必要無いんだけど………個人的に、あの魔改造された部屋が最終的にどうなるかを知りたいよね………


もしかしたらさ、ほら。いつか私の全力を完璧に防げるようになるかもじゃない?そうなったら凄いじゃん?何かが明確に成長してる姿って良いじゃん………分かる?私がお世話してない植物が育ってるのとか見るのとか好きだよ。私の預かり知らぬところで育っていくってのが良いよね。何もしなくても成長するってのが最高………ま、こっちが何かせずとも自前で成長し続けるやつって、大抵最終的には叛逆したりとかでやべーやつになるんですけどね!SF映画のAIとかそういう感じだし!だからまぁ、個人的にはそういう制御効かない系の何かしらは作らない方向でいる。まぁ最低限の制御さえ効けばどうとでもなるから、逆に言えば大雑把な制御が可能な何かしらから作るかもだけど。まぁ作るとしても魔法かな………それ以外は無理が過ぎる。


いやね?案だけはあるんだよ、案は。例えば、機械の方面から攻めるってんなら正にAIだよ。人間以上の速度で自己学習を繰り返して成長し、大量の資材から状況に合わせた機械を製作する工場機能と大量の資材を露天掘り機で確保する採掘機能を組み合わせて、とにかく自身が制御可能な機械類を無数に増やし続ける………みたいなのとか。例えば感染症方面から攻めるんなら、感染してもその潜伏期間が非常に長く、初期は症状も無い。それでいて感染経路は空気と水からの感染で、その症状が現れる頃になると突然全身にトゲでも刺さったんじゃないかってレベルで小さな出血の症状が出て、同時に平衡感覚を喪失。更に進行すると四肢の先端から壊死してくようになり、その頃には皮膚接触からでも感染するようになる。んで最終的には全身壊死して死に至る………みたいなのとか。まぁ私、AIも作れないし感染症も作れないんですけどね。むしろそんなの作れたら凄いのよ。


「もうちょい………こう、いい感じに………」


んー、今日までの実験(お遊び)で判断するに、攻撃魔法の火力の上昇は簡単だけど、火力の低下は私にはちょっと無理そうかも。無理そうなのできっぱり諦めて次に行こう。んじゃ今度はレーザー曲げて………拡散レーザーもやってみたいし………超広範囲落雷もやりたいな。ついでにレールガンもやってみるか。それからそれから………みたいな勢いでどんどん魔法を試して遊んで割とはしゃいでいると、小屋の方からアリスがてくてく歩いてきたのがUWASウワスで確認出来たので、目の前の惨状を無視しつつ魔法の行使を一旦やめておく。


「アオイー、今は何してますかー?」


「んー、攻撃魔法で遊んでた所」


「んあ、わひゃー!随分と破壊しましたねぇ………」


私の齎した破壊の痕跡を見て声を上げるアリスが手に持っていたのは、二つのコップと一枚のお皿。コップから香るのはアリスが好んでた紅茶で、お皿の方はシンプルなチョコクッキーみたいなやつだ。普通に美味しそう。


「まぁ、とりあえず。休憩しましょうか、アオイ」


「あ、やっぱり?」


「はい、そうですよ。机と椅子お願いしますね」


「はいよー」


私がMICCミックから机と椅子を取り出すと、アリスはその上にコップとお皿を乗っける。どんな場所でも地面に突き刺さるようにして安定する四つ脚の机と椅子だ、安定感が違いますよ。なんかこの前アリスが買ってたけど部屋に置く場所ない(四つ脚の先が突き刺さる仕様なので屋内に設置できないというのもある)からMICCミックに収納してたやつでもあるんすけどね!まぁこうして使う機会が訪れただけマシだけども。


「ん、このクッキー美味し」


「そうですか?それなら、作った甲斐がありました」


「これ手作りなんだ」


「そうですよ。これでも【菓子職人】の実績を保有していますからね」


「いつものやつか」


「いつものやつです」


アリスはちょっとでも好奇心をくすぐられて気になった職業があると、直ぐに本職の人に短期間だけ弟子入りして技術を身につけてくるからなぁ。流石のアリスもエロ方向の職業である娼婦とかは純潔を愛しい人に捧げて失ってから〜とか言ってた記憶がある。貞操観念が高いのか高くないのか分からないの反応が困るからやめなー??てか、【菓子職人】なんて実績いつ獲得したんだろうか………もしかして、謎にアリスの手作りお菓子が増えてた時期だろうか?今思うとそういうことなのかなぁ………ま、お菓子美味しかった記憶しかねぇけども。そういや後の方が美味しかったし、徐々に上手くなってた訳ね。


「美味しいからいっか。紅茶………んく、うまー」


「ふふ、良かったです。これでも【家政婦】の実績もありますからね」


「家政婦………大体メイドさん?」


「そうですね、大体メイドさんというか、メイドさんと家政婦はほぼ同じですね。外部で雇われた家事手伝いをする人、というのは変わりませんから」


「なるほどなぁ。違いは?」


「家事手伝いだけをするか、それに加えて相応の礼儀作法も兼ね備えているか、の違いですかね。メイドは基本的に貴族の使用人ですから」


「あぁ、そんな感じね」


家政婦とメイドさんの違いは家事手伝いプラスαかどうか、みたいな判断基準なのね。元の世界ではどうだったか知らないけれど、この世界はそんなもんなのだろうな。この世界、なんか変な所で元の世界と価値観とかが違ってたりするし。多分魔法があったり魔物が居たりする影響なんだろうけど………ま、その辺の差異を気にする必要性は皆無か。初めから"そういうもの"だと思えば良いのだし。


「アオイはどうですか?何か成果はありましたか?」


「特に何も無さげかなぁ。あ、でも牛乳魔法は二つ増えたよ」


「おぉ!どんな魔法ですか?」


「んっとねー」


今回私が新しく作成した牛乳魔法はこの二つです。


一つ目は乳牛の呪いホルスタイン・カース。牛乳を飲むと牛になるという迷信に由来する因果を用いて行使される呪いのような魔法である。この魔法を行使された牛乳を飲む事で、生物を強制的に肉体を乳牛へ変身させられるのだ。更にはこの効果は妖属性によって治療出来ない。ただし乳牛状態の生物は元の思考能力を保有したままとなるので、そこは注意が必要。効果は2時間程度継続し、この魔法の効果が付与された牛乳を連続して飲ませ続ける事で効果時間を延長可能させられ、また、乳牛状態の生物の乳を搾ると対象生物の魔力を強制使用して牛乳を作り出すことができるのである。ちなみに、別に搾った牛乳は飲んでも特に何も無いらしい。その辺の犬とかにに飲ませても効果無かったしな。


二つ目は巨乳の呪いバスト・カース。牛乳を飲むと巨乳になるという俗説に由来する因果を用いて行使される呪いのような魔法である。この魔法を行使された牛乳を飲む事で、性別がメスである存在の胸が巨大化する。つまり巨乳になるのだ。この効果は妖属性によって治療出来ないが、効果時間は凡そ24時間程度。また、この魔法によって胸が巨大化すると、対象生物の魔力を強制消費して母乳が出るようになる。Aカップの貧乳でも最低でもGカップの巨乳になる。どれだけ大きくなるのかは個人差があり、人によっては爆乳と呼ばれる程の大きさになる事もあるっぽい。メスの生き物なら何でも良いらしく、その辺の虫で試しても効果があった。巨乳化した虫のビジュアルは普通に怖かったからもうしたくないけど。


「なるほど、どちらも肉体変化効果を牛乳に付与する魔法なんですね」


「なんか調べたら牛乳ってそういう迷信とかあるらしいから作ってみただけなんだけどね」


一つ目の乳牛の呪いホルスタイン・カースは、昔牛乳を飲んだら牛になる、みたいな話があった事に由来している。なんか信長が牛乳飲んでそんな話ねーってのを証明したとかなんとか書かれてた。二つ目の巨乳の呪いバスト・カースは、なんか牛乳飲むと巨乳になるらしいっていう迷信?に由来している。それが本当かどうかはよく分からんかったが。


「あ、この魔法、悪戯に使わないでくださいね?」


「流石にやらんよ」


もっと変化の小さい魔法なら使ってたけど。 


「むぅ、嘘をついてはいませんね………でもアオイって真実だけを話して嘘つくの上手いですし………」


「そっすね」


誰かを騙すのに重要なのは決して嘘をつかないことだ。嘘ではなく、真実で騙す。そうなると真実なので嘘を見抜くようなユニークスキルも技術も通用しないし、何より私の方は本当のことだけを話していれば良いからとても気楽だ。相手の精神を揺さぶりつつ自分の精神を安定させるのは非常に面倒なので、こういう単純ながらもこちら側の負担を低下させられる手段は普段から使うに限る。私の場合、アリスにもこの手法が通用するので重宝している。あくまでもアリスの瞳は真実を見抜く瞳であって耳ではないので、発声による嘘は判定が少し甘いのだ。昔はもう少し雑だった筈だが、最近はもう慣れたものである。なんせ身近に最強の嘘発見器が居るのだから。言葉の嘘だろうとなんだろうと、その言葉が偽りでさえあるのなら、例えその言葉を吐いた存在が真実を知らずとも真実を引き出せるのだ。まぁ真実に対して効果は発揮しないが。


「何かはぐらかされているようなのは分かるのですけど………むー、私の瞳も流石に読心なんて出来ませんし」


「あらゆる真実を見通す瞳と相手の心を読む力の組み合わせはもう秘密とか出来なくなるじゃん壊れるよ」


「あぁ、それもそうですね。私は別に他人の秘密が知りたい訳ではありませんし………やるならこの瞳の使い方を洗練させる方が良さそうです。こうして違和感は感じられてるんですから、使い方によっては出来るかもしれませんし」


「更に強化されるのかぁ壊れるなぁ」


「強化というか、本来の性能を引き出すイメージですね」


「それはそれでスペックの化け物かよ」


ユニークスキルの本来の性能を引き出すとか………私そんな事出来ませんが??『性転換』は性別を入れ替えるだけのスキルだから既に最大スペックだし、『無窮の瞳』も瞳への干渉無効化のスキルである為出力を上げる手段が分からないし、感覚的にはこちらも既に最大スペックだ。最後に残った『悪魔炉心』はほんの僅かな放射線属性によって放射線エネルギーへ変質した魔力を純粋な魔力エネルギーとして変換し、鼓動に合わせて莫大な魔力を精製する一種の永久機関(永久ではない)にも等しいので、まぁある程度成長の余地があるかもしれないが、正直私の感覚としては既にスペックは吐き切っていると思う。出力を上げられなくはなさそうだが、それをすると私の体の方が自壊しそうだ。言ってしまえば心臓内部で核融合炉を動かしているようなものである。変に出力を上昇させたら心臓爆発して死ぬに決まっているだろう。


そも、多分アリスの言う本来の性能を引き出すって言うのは、多分そういう感じじゃない。アリスの瞳はあらゆる真実を見通す瞳で、正直それ以上の何かを引き出せはしないだろう。そう、既にスペック自体は最大出力なのだ。ではアリスが何を言いたかったのかと言えば、多分真理の瞳の使い方だろう。アリスの瞳はあらゆる真実を見通すが、使い方によっては真実が見えない時もあるそうだ。と言う事は、使いこなさなければ見えてこない真実もある、という事である。何に対しての偽りで、何に対しての真実なのか………そういう哲学的な部分を究明していけば、恐らくアリスは更に瞳を使いこなす事になるだろう。多分、アリスもそれはわかっているのだろうが。


というか、ユニークスキルの実態は割と自分で分かるモノだ。感覚的なものになってしまうが、私だって三つのユニークスキルの性能や効果を初見でバッチリ把握している。それは何故と言われれば、そういうものだからとしか言いようが無い。知識を詰め込まれた訳ではなくて、なんというかこう、初めから保有しているユニークスキルについてを知っているような感覚だろうか。例えるなら………そう、心臓の動かし方、みたいな感じだ。勿論、人間は自分の意思で心臓を動かしたりなんてしていないが、無意識で自分の肉体を制御しているだろう?それと同じように、ユニークスキルの性能や効果と言った知識類も、無意識的に理解しているのだと思う。分からないが、解る。多分そういう感覚だ。正直言葉に表すのが難しい。手足のように動くという訳でもないし、なんというか………うん、そういう感じだ。


あぁ、そうだな。例えば手足の扱いというのは、生まれたばかりの頃から完璧という訳じゃないだろう?完璧であるならば生まれた瞬間から立てる筈だし、物だってもっと確かに掴める筈だ。しかし、身体そのものを動かしたり、内臓機能は生まれた時から完全に稼働しているだろう?多分、ユニークスキルってのはそういう類の、生まれた瞬間から使えるような力だ。そもそもユニークスキルっていうのはその大半が先天性のモノで、私のように後天的に多くのユニークスキルを獲得するっていうのは滅多に無い。私の場合は神様の加護、投下交換の泉、実績に伴って、の3種類だったが………とにかく、ユニークスキルは本来先天的なモノであり、であるならば生まれた瞬間から使用できるようなモノである筈。ならきっと、後から手に入れたとしても、生まれた瞬間から使えるように、手に入れた瞬間から使えるようなモノなのだろう。うむ、自分でも納得出来る理論だ。やはり自分の言葉を明確に理解出来るのは楽しいな。


「アリスー、紅茶おかわりー」


「はーい。どれくらい注ぎますか?」


「半分くらいでいいや」


「了解でーす」


私は飲み終わったコップをアリスに手渡す。確かアリスの私物の中にはティーカップもあった筈だが、割れる心配があるので部屋の外では使わないと言っていたので木製のコップで代用しているのだろう。個人的には何を使われていようが清潔なら気にしないので無問題である。清潔でないのならやめて欲しいけど。


「んー、やっぱうまー」


「頑張った甲斐がありますねー」


この日、私は夜営業の時間までアリスと一緒にゆったりまったり過ごしたのだった。

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