煙草と酒は絶対にやらねぇって決めてるんだよこちとら


【自然神の祝福】とかいう実績があるのを確認した日から3日後の12月3日。私は冒険者ギルドの地下施設にやって来ていた。ちなみに使用している部屋は私が破壊しまくったからめちゃめちゃ強固な形に修繕されまくってる、私専用みたいなあの部屋である。最近はこの部屋を修復する技術者達の叡智の結晶みたいなのが部屋全体に使用されているらしく、光線フォトンレーザーを考えなしに1発ぶっ放しても着弾地点はあまり破壊されず、部屋の原型は残り、更には自動修復の効果すら追加された部屋である。そういや、なんかこの部屋の修復作業をしている技術者達にお礼言われたんだよね。君のおかげで魔法道具界隈の技術進歩が著しい、とかなんとか。私が部屋を破壊しまくるだけで進歩する技術ってなんかお得だよね。困らないからドンドン進歩させていってほしい。


ところで私がこの専用部屋にこうしてやって来た理由だが、勿論魔法を使う為である。魔法は適度に練習しておかないとイメージが荒くなってしまって制御がゴミみたいになるのだが、私の場合攻撃魔法で制御がゴミなんて事があれば余裕で人死にが出る。だからこうして適度に訪れて練習している訳である。ま、攻撃魔法の練習はほぼ最低限なんですけども。いくら自動で修復するとはいえ、修復中にもう1発ぶち込んだら普通に破壊可能だからな、この部屋。そうなるとまたリエルさんに言葉のナイフで滅多刺しにされるので、流石の私も自重する。


大体一度破壊してから30分程の修復時間が必要な為、そういう隙間時間に攻撃系以外の魔法を練習する事で、出来る限り無駄を無くして効率的な練習を行うのである。私が普段パッシブ魔法でやってる改良と似たようなものだ。流石に微細な契約一つ一つを改修していくような改良方法ではなく、鮮明で正確で精密なイメージをいつでもどこでもどんな時でも出来うる限り迅速にイメージを行う事で、効率、威力、範囲、消費など、あらゆる側面の性能をアップさせられるのだ。というか、これが基本的な魔法使いの練習方法である。私のスマホを使って魔法を直接改良するやり方は、少なくとも私は私以外に見たことがない。や、便利っちゃ便利なんだけどね、これ。改良すべき所が文字で分かるから。


「んー………なるほど、こんなもんか。次」


ただ、この改良の仕方をするにはスマホみたいに莫大な情報処理が可能な何かしらのツールが必須なので、多分やる人は私以外に居ないかもしれない。まぁスマホみたいな情報処理装置みたいなのがあれば別だけど………この魔法文明な世界にそんな科学文明の集大成みたいなものあるのか?でも魔法で演算機とか再現は可能っちゃ可能だからなぁ。歴史の本を読んでると私みたいに転移したり転生してる地球人とか思ってる以上に居るっぽいし、そういう科学文明の物品を魔法で再現されててもおかしくは無いよね。まぁ、魔法方向からの放射線関係の再現はされてなかったっぽいけど。


そうでなきゃ【放射線属性の発見者】なんて実績獲得する訳ないもんな。………いや、発見者って事はまんま発見する者って事だから、過去に失われたモノを見つけたから"発見者"って可能性もあるか?そうなると放射線属性が過去何処かで生まれて私が偶然にも見つけ出した可能性もある………?………まぁ、可能性としては低いか。初めて見つけたとしても発見者って言われるだろうしな。なんで発見者なのかは疑問だけども。別に創造者でもいいのに。ってなると、もしかして新しく作ったって訳じゃないのかな。でもそうなると前からあったことになるし………うーん、分からん。こういうのは研究者がやるべきだよね。私は別に研究者じゃなくて店の店員さんだから丸投げしちゃお。実績関連とかの研究者も多分居るでしょ。


「ん、効果が上昇してるか?ふむ………まぁ次」


先程から攻撃系以外の魔法を試し撃ちしてその結果を確認しているから思ったのだが、やはり多様している魔法の方が魔力消費も少なく、諸々の効果も強いものになっているように感じられる。本来なら数値化して確認した方がいいのだろうが、それは私が面倒臭いので絶対にやりたくない。アリスが手伝ってくれるならやるけど。アリスの瞳と深淵属性への適性があれば大抵の事象の数値化とか余裕そうだしな。もし瞳も魔法も意味無かったとしても、私としてはアリスと一緒になら自分の魔法の研究もやぶさかではない。だってアリスは絶対に嘘吐かないから私としても信用できるし。


というか、むしろアリスと一緒に小説とか漫画とかで良く見るタイプのステータスを表示する魔法でも2人で一緒に作ろうかな。アリスの才能が有れば身体能力の数値化とか割と余裕で出来そうでは??いやまぁ、算出したデータから数値を引き抜いて簡素な数値にするのめっちゃ面倒そうだけど、出来なくもなさそうだし。………やっぱり面倒そうだしいいや。相手の実績の数をカウントしてレベル表示に変換する擬似レベルカウンターみたいなのくらいで充分だろう。実際、実績の多さは個人の強さに関連していると言っても過言ではないし。どれだけ弱い実績を積み重ねても積み重ねただけ強くなれるのがこの世界だからな。


私も剣とか使ったりして職業系の実績を沢山集めて、沢山の身体能力向上系のスキルを手に入れたら、今の比べ物にならないレベルの身体能力を手に入れられるだろう。実績の中でも【見習い〇〇】みたいな見習い系の実績は獲得条件がかなり簡単だから集め易いだろうし。まぁ集め易いと言っても、そういう職業っぽい事をちゃんとやらないと見習い系だろうが獲得出来ないのだが。後は確か、魔法を使って短縮とかしてると獲得し辛いらしい。魔法は全て【魔術師】系統の実績の経験値になるらしく、そこに経験値をかなり吸われるんだそうだ。


「あれ、効果落ちてる?使ってなかったからかな………まぁ次」


個人的には【見習い料理人】とか獲得出来そうではある。獲得する条件として、自分で料理を作り、その料理を他人に振る舞い、そして金銭を受け取ること、というのがあるらしい。アリスが既にこの実績を獲得しているので獲得できるスキルの内容も知っているが、割と良いスキルがある。【見習い料理人】の実績に内包されているスキルは〈器用上昇〉と〈味覚上昇〉の二つだけではあるが、器用さは割とどんな場面でも腐らないし、味覚の鋭敏さが上がるのも良いことだ。割と簡単に獲得出来そうなのも良い。

まぁ私本人がキッチンに立って料理をしてお客さんに出す必要があるから、面倒な事この上無いが。私は魔法を使って料理を配膳する方が楽なので好きである。


まぁ別に取れそうなだけで取るって訳じゃないが。私、別に実績集めに執着とかしてないし。いやね?実績を集めれば集める程、私本人のステータスが底上げされるのは知ってるよ?その方がこの世界で生きていくのに便利なのは分かってるんですよ。ゲームで言うところのレベル上げに近い感覚なのも分かってるんですよ。私もゲームのレベル上げ好きだし楽しいよ?そういう風に感じるように設計されてるのも知ってる。特に死にゲーのレベルを限界まで上げ切る為に周回して馬鹿みたいなステータスにして擬似無双みたいな事してるくらいレベル上げもステータス上げも好きっすよ。


けどこれ、現実の話なんですよね………リアルステータス上げとか、リアルレベル上げとか………ほら、アオナお姉ちゃんと話し合った件があるじゃない?私、努力した事がないんすよ。少なくとも努力したって感じた事はないのよ。分かる?勉強もスポーツも、なんかいつの間にか出来てたんだよね。ただ毎日を生きて行くだけで良かったというか?ほら私、実績で言われるくらい器用貧乏なんすよ。努力しなくても割と出来るというか………努力している実感が皆無というか。だからね?ゲームの中でならレベル上げもステータス上げも良いけど、リアルではやりたくないよねって………だから、積極的に実績が欲しいって訳じゃないんだよ。私が私のままに生きていて手に入れてるってんなら喜ぶけども。


「んー………こんなもんか」


とりあえず、習得している魔法効果の確認が一通り終わった。無駄な事を考えつつではあったが、まぁ隙間時間が暇だったので仕方ない。別にこれくらいの雑念だったら普段から魔法使う時にしてるけど、特別何か目に見えて変化がある訳でもないから大丈夫だろう、多分。


「んー………あれの続きするか」


実は私、この前小説を読んでいて一つ思いついた事があったので、今ちょっとその思いついた物を作っている最中なのだ。ちなみに作っているものは魔法道具なので、繊細な魔法道具を作成できるアリスと魔法道具店の店主であるリリーさんに手伝って貰ったりもした。まぁ、手伝って貰ったと言ってもアドバイスを貰った程度の事なのだが。そもそも私が作ろうとしている物はただのジョークグッズみたいなものなので、有用性は皆無である。使い道は………使っていると、なんか、雰囲気があるくらいか?正直言ってそれくらいしか思い付かない。


ちなみに、完成形としてはこんなものを想定している。



【紫煙のキセル】

『発動魔力消費』分間100

『説明』

トレントの木材をキセルの形に加工し、キセル内部に簡素な回路を構築する事で魔法道具としている、仕組みとしては非常に簡単な部類のもの。効果としては、魔力を流すとキセル内部から紫煙という名の毒煙を発生するだけのジョークグッズ。ただし、毒煙と言いながら健康への被害も皆無、匂いもタバコっぽいだけで無害、本当にただ無害な毒属性由来の煙を排出するだけの魔法道具。やろうと思えばタバコ吸ってる風に見せかける事も可能っちゃ可能。マジでジョークグッズの域を出ない遊び道具。



そう、私が作っているのはキセルだ。本来キセルはタバコを吸う為の物だが、私はタバコと酒はしないと決めている。タバコはすればするだけ自分の身を破壊するだけだし、酒も特段健康に良い飲み物ではないからな。正直言って自分から有害物質を体内に取り込む必要性は皆無なのだから、絶対にしない。それだけだ。


でもそれはそれとしてキセルって良くない?ほら、お洒落な着物着てる大人の女性がキセル使ってるのとか見たことない?それか魔女風のローブに身を包んでキセルを使ってる女性とか。見たことない?私はある。タバコ吸ってるキャラクターは別に好きでもなんでもないけど、キセル使ってるキャラクターは好き。だってなんかカッコいいし。後ね、高校の登校中にたまーにキセル吸って歩いてるお爺さんを見るんだよ。タバコがある時代にわざわざキセルを使ってるお爺さんって、ほらなんか、めっちゃカッコよくない?私はカッコよくて毎回そのお爺さんを見ちゃうんだよ。


私もそういう男を目指したいよね………キセルをかっこよく吹かしてるハードボイルドなお爺さん………将来はそうなりてぇなぁ。私が将来どうなるかは何も分からないけれど、私はそういうお爺さんになりたいって思う。だってカッコいいもの。


「んー………もうちょい削るか」


ま、だからわざわざキセルをこうして作ってる訳よ。ちなみにだが、キセル部分から私の手作りである。リリーさんにトレントの木材の余ってる部分を貰って、アリスに手伝って貰いながらキセルの形を作っていくの、割と楽しかったよね………なんか、オープンワールドのサンドボックスゲームで作りたい建築をしてる気分だったね。天空トラップタワー的なのを作る為にスマホでどんなもんか確認しながら作ったりもして………なんかそんな、そういう類の楽しさがあったよね………まぁまだ作成途中なんですけどね。


木材を削る事自体は中学の図画工作の時間でやった事あるんすよ。私はやっぱり器用貧乏なので木工も素人よりは出来るレベルなんですねぇ。まぁ器用貧乏の名の通り、わりかし器用ではあるんで、レシピ通りに何かを作るのは得意だったりするんですよね。まぁキセルにレシピとかないからフィーリングで作ってるけどね。だって別にキセル本来の使い方する訳じゃないし。そもそも削るって言っても、削ってるのは魔法の力だし。ちなみにだが、威力をかなり落とした擬似イミテーション光線フォトンレーザーでレーザー加工的な感じに削っていたりする。魔法道具として必要な魔法発動機能の回路を描くのにこのレーザー加工的なのは非常に楽だと気が付いてしまったのでね………もうね、リリーさんも、これは革命的な加工方法だわぁ!とか言って喜んでた。リリーさんが喜んでくれたなら私も嬉しいよ。


「ここも………こんなんか?」


まぁとにかく、私は今、魔法道具のキセルを作っている訳なのである。木材を道具でちまちまと削るのではなく、スマホという機械を通して制御し、正確無比な加工を行う事の出来る魔法を使用している為に作業による削りミスというものは無いが、図面の方のミスというか、実際に持ってみた時のフィット感とかがあるので、適宜図面を修正したりもしている。まぁ幾ら私が器用貧乏と言っても素人作業なのは変わりないので職人と比べたらゴミみたいなものなのだろうが、私は別に木工職人とかを目指しているわけではないのでどうでもいい。このキセルはただの暇潰しの一環みたいなもんだしな。


というか、何かしら完璧な魔法道具が欲しいってなったら、リリーさんかアリスに全部任せているに決まっているじゃないか。リリーさんは正真正銘の魔法道具職人、アリスもそれに匹敵するほどの技術の持ち主だぞ?わざわざ下手な自分で作るわけないじゃんね。2人のどっちかにオーダーメイドで頼んだら完璧以上に仕上げてくるのは分かってる上で、私が暇潰しとしてやりたいと思ってるからこうしてやってる訳である。個人的に図画工作的なものは、作るもののセンス?というか、そういうのはそこまで良くも無かったが、作る過程ならそんなに失敗してた訳でもない。たとえ失敗しても大丈夫なよう、常にある程度の余裕を持って作っていたからな。一度壊したものは直らないのを私は知ってるんだぞ?何らかの対策をしない訳がない。


私は私の才能の足りなさを知っている。私はどれだけ表面をコーティングしてそれっぽく繕っても、実績で明確に現れるくらいには器用貧乏なのだ。初めから素人に毛が生えたレベルの位置に居るものの、ある一定のライン以上になると途端に伸びなくなる。私が何の意識もせずに努力をしないで来られる限界は、素人に毛が生えたレベルなのだ。無論時間を積み重ねればほんの少しずつ上手くはなるだろう。まぁそれは何かを努力したという感じでは無かったが、時間をかけたというなら相応の時間をかけただろう。しかしそれでも一流には決して届かず、精々三流程度が関の山だ。私のこれまでがそう言っている。まぁ別にそれでいいけど。死ぬ訳じゃないし。


「んー………」


今思ったのだが、こうしてキセルを作るのは良いのだが、私は一体どんな日常の場面でこの魔法道具を使うべきなのだろうか。一瞬キングプロテアの姿で使おうかと思ったが、西洋風のドレスを身に纏った金髪赤眼の美少女に、キセルはあんまり似合わないだろう。そういうタイプの美少女に似合うのは鮮血とかそういう類のだと思うんだよね。分かる人には分かると思うんだけど。てなると、キセルの似合うのはどんな人物又はキャラクターか?


多分ね、中華系美女とか和服美人、もしくは白髪のイケおじとかそんなんだと思う。だからキングプロテア・スカーレットには似合わないよねって。んで、人間である松浦葵は黒髪黒目の日本人ではあるものの、着てる服は和服でも何でもないメイド服っぽい洋服だし、そもそもキセルが似合うような美人でもねぇというか私は男なのよ。かと言ってイケおじって訳でも無いから似合う訳もなく。故に、私は一つ思った。


これ、作っても使い所ねぇな、って。


「まぁ作るけど」


まぁそれでも作るんですけどね、初見さん。や、だってこれ、キセルを使いたいから作るんじゃなくって、ただ私がキセルを作りたいから作るんだもの。使用用途?そんなもの、いつかの私がふとした瞬間に思いつくだろう。今この瞬間の私はキセルが作りたいだけであって、キセルを使いたい訳では無いからな。いつか使いたくなったら使うだろう。それがいつかは知らないが、いつかの日には役に立つ。使うのかすら知らないが、使わなくても別にいい。これは使う事を目的としていないのだから、そんなもんでいい。最終的に使わなくても別に良いだろう。しかしいざという時に何か奇想天外なものから平々凡々なものまで、とにかく何か使い道が出来るかもしれないし、もしかしたら未来の私がこのキセルを何かの理由によって多用している可能性だってあるだろう。私は作りたいから作るだけ。求める結果はキセルの完成であって、キセルの使用ではないのだからな。


「使うとしても………」


キセルを普段使いするにしても、どっかの女王様みたいなキングプロテア・スカーレットと、どっかの侍女風未満な松浦葵では似合わない。となると、これは新しく第3の姿を作り出す必要が微レ存………?………いっそ作っちまうか?和服の似合う美人をよぉ!こりゃテンション上がってきた。個人的には白髪美少女大好物だけど、それは見るのが好きなのであって自分がなりたいって訳じゃないのでパスするとして………和服美人か。まず男で作るか女で作るか、そこが問題だ。きっちりとした和服の男美人が道端で静かにキセル吹いてても似合うし、ちょっと肌けた和服の女美人が窓辺で静かにキセル吹いてても似合うからなぁ………折角だから男にするか?個人的には男がいいんだが………そうなるとイケメンにしたくなるよな。


イケメンか………しかし和服女美人でも………うーん、どっちも作る、ってのでもいいんだが、なぁ………使い分け面倒くさそうだから、せめて新しく作るとしても1人くらいがいいなぁ………うーん。悩みどころだ。キングプロテア・スカーレットの時は"美少女"ってのを目指したから、今度は"美女“ってのを目指してもいいし、"イケメン"を追求しても面白そうなんだよなぁー!あー、悩む悩む。


そんな悩みを抱えながら、私はキセルを作るのだった。

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