尊さで人は殺せる。私は知ってるんだ


3日経過した8月29日。紫悠が血液属性の魔法を使っているのを見て、ふと新しい固有魔法の案が思い付いたのでご紹介しましょう。


魔法名は牛血の呪いミルクブラッド。ミルクの原材料が血液であるという因果を用いて行使される呪いのような魔法で、あらゆる血液を牛乳に、あらゆる牛乳を血液に変換する魔法である。ただし、生物の体内にある血液や体内にある牛乳には干渉出来ないので、基本的な運用としてはその性質を利用した血液属性の無効化が主である。対象の体内に存在する血液そのものや牛乳そのものは変換出来なくとも、血液属性という性質を変換して無効化するのだ。後はまぁ、血液を媒介にした魔法とかスキルを完全に無効化したりも出来るっぽい。


ちなみに、紫悠の血液属性の魔法を見てこの魔法を思い付いた理由だが、普通に紫悠に嫌がらせがしたかっただけである。その為に血液属性を無効化する魔法を作ってやった。私は特に悪くないので後悔も反省もする必要がない。そもそもこうして思い付いて作ったのはいいものの、未だに紫悠に向けて使った事は無いし。悪魔炉心と合わせて血液属性を完全無効化する領域の展開くらいなら出来そうだけど、使った所で何がある訳でもないので………


「ふわ………んー………」


レイカとフェイは今日も冒険者のお仕事に向かい、紫悠も同じく冒険者ギルドへ。アリスは今日も私の知らない誰かに何かの技術を好奇心を源にして学びに向かい、マスターと妹様は普通に散歩をしに行った。私は仕事の後で少し経ってから、こうして自室でゆったりしている。ミナも気分転換の為に出かけて行ったので、今この宿屋に居る身内?は、私と店長さんだけである。まぁ私は宿屋の方の仕事を未だにした事がないので、まぁ私は実質仕事無しみたいなもんである。


………あ、唐突に閃いた。


「私君ちゃん天才かー??」


戯言は置いておいて。私が今思い付いた魔法だが、これまた固有魔法である。先程脳内で誰に向かってでもなくご紹介したお陰か何なのか、ちょっと良い案を思い付いた。固有属性は基本的に個々人によって性質が別物であり、一から魔法の全てを作成しなければならないので、例えどれだけくだらない魔法でも作るべきなのである。ちなみにこれは私の自論なのであんまり気にしないでほしい。


私が今思い付いた魔法の名前は………今のところ特に考えていない。先に魔法の効果だけを思い付いたからだ。んで、その具体的な効果だが。先程ご紹介した血液属性無効化の固有魔法と同様に、特定の属性の無効化魔法である。今回の場合は、毒属性無効化の魔法だ。いやまぁそれは副作用みたいなもんで、本来の効果は毒の治療の方なのだが。とあるゲームにおいて、牛乳は飲む事であらゆるバフとデバフの消去が可能なものなのである。それからとってみたのだ。まぁ毒属性の無効化と言っても、今考えているこれは無効化というより、毒属性によって発揮される状態異常及び物理的毒物の治療、という方向性だ。まぁまだ具体的な内容は考えていないので………まずは名前だ。


ふーむ………牛乳ポーションは流石に安直過ぎるか。一応、この世界の魔法名は、漢字表記の上にカタカナの英語表記をルビとして重ねる、みたいな法則に則って魔法の名称が決まっている。別にそうする必要もないのでそうしていない魔法も私の手札の中にはあるのだが、それはそれとして命名方法は似たようなものにしようと努力はしている。何も良い名称が思いつかなかったら私ベースの適当で安直な名称にしているが。MICCミックUWASウワスはピンときた名称が無かったので私ベースで考えたからね。うん、差異が分かりやすい。


でもまぁ、別に魔法名を世間基準と同じものにする必要性は皆無なのだが、折角なので揃えられるなら揃えておきたいし、揃えておいた方が異世界人バレし難いんじゃないかなって思っていたりする。まぁしてないのもあるけど誤差みたいなもんですよ、誤差。それに、稀にこの世界の人でも変な名称付けてる人もいるよ?厨二病的なのだったり、なんか日曜の朝とかに居そうな魔法少女(物理)的なのだったり、なんかもう暗号みたいなのだったり、割と人によってはそういうのもあるのでもう誤差みたいなもんです。


閑話休題。それで、固有魔法の名称だったか。さて………何にしようか。血液属性無効化の方が牛血の呪いミルクブラッド。漢字表記で牛血の呪い。牛乳と血液との因果を辿って変換するという、なんというか、魔法というよりかは呪いじみた魔法だったので、なんとなく呪いと名称に付けてみたものだ。だから特に呪いの部分に意味は無い。して、今回のこれは呪いみたいな部分があるか?………無いな。むしろ今回のは毒属性の治療みたいな感じだ。となると………ふむ?どうしようか。


今ちょっと思い付いたのは、牛毒の癒しミルクポイズン。呪いではなく癒しの効果なのだから間違いでは無いし、血液属性無効化が牛血なのでこちらは牛毒………みたいな感じなのだがどうだろうか。牛血の呪いミルクブラッド牛毒の癒しミルクポイズンはどちらも副作用というか副効果によって特定属性の無効化が可能な魔法………という事にするつもりなのだが。いやまぁ、相手方の出力によっては完全な無効化は難しかったりするかもだが、まだそこまで実験していないし、そもそも牛毒の癒しミルクポイズンは作ってすらいないので、それは後回しにしよう。


うむ、とりあえず今日は牛毒の癒しミルクポイズンを作る事にしよう。折角魔法名を考えたのだからな。ではまずは魔法の構築を──


「は、え?」


──悪魔の羽と契約を意味する鎖の隷属印が、急に反応し始めた。そして、これは。


『テア、お願い!来て!』


「あっえ?あはい!悪魔変転デーモン・トランス!」


姿を変える。種族を変える。人から悪魔へ、メイド服からドレスへ、黒髪から金髪へ、黒い瞳から赤い瞳へ、私の身体を変えていく。それに必要な時間はごく僅か、それこそ小数点以下の何乗みたいなレベルで少ない。それくらい即座に変身した私は、事態を把握した。


隷属印の反応。私の意志に寄らない反応という事は、つまり、私の方が召喚されているという事。そして私のマスターは現在、シャルティナ1人。ならば私はマスターであるシャルティナに召喚されかけているという事だ。丁度マスターから念話による連絡も来た。契約にも事前連絡は入れて欲しいと言ったので間違っちゃいない。しかし、まさか本当に人間の姿の時でも問答無用で召喚されかけるとは。後で召喚に反応して全自動に悪魔変転デーモン・トランスが即時発動するように設定しておこう。忘れたら困るし。でも常に発動してると困る時もあるだろうからオンオフ機能も忘れずに。


「ん」


変身直後というか割とギリギリなタイミングで、視界が完全に暗転し、転移とはまた違う感覚によって何処かへと引っ張られていく。マスターとの魔力的なパスを通じて何処かへ、しかし光よりも早い速度でマスターの元に到着し、暗転していた視界が即座に元に戻る。


「………ん」


暗転後の私の視界に写ったのは、悪魔の羽と鎖の奔流。悪魔召喚時に発生する何かしらのエフェクト?みたいなやつだ。バティンの時は炎だったから、多分、召喚される悪魔の性質によってエフェクトは変化するんだろう。アクの時もまた違ったしな。


「マスター、お呼びですの?」


エフェクトが切れた後の私の視界に広がっていたのは、街中の大通り。はて?一体どんな用事で召喚されたのか私には検討が付かないが、街中の大通りで悪魔を召喚する用事などあるのだろうか?


「ごめんテア!ひったくりが出たの!」


「優しいお姉さんの荷物が取られちゃったの!」


「はぁ、なるほど」


なるほど、ひったくりか。まぁ確かに、それなら私を召喚しても、まぁ、おかしくは………ないとは思うが。マスターと妹様がその優しいお姉さんとやらとどのような関係かは分からないが、まぁ、別に私は何でもいいので。


「それで?ひったくり犯はどちらへ?」


「とりあえず私とマリーを抱えて屋根の上に!」


「了解しました、わ!」


「わっ!」


命令通りにマスターを右手で、妹様を左手で抱えてから屋根へと跳躍する。一応、屋根に直接触れる事はせず、第八アップデートを活用して宙に浮いておく。宙に浮いているというか空中を歩いているだけなのだが。


「えっと、あっちの方向で、茶髪の男の人が犯人!」


「了解致しましたわ。しっかりわたくしに捕まって、会話は最低限にしてくださいまし!」


マスターに指示された方向に走り出す。ただし全力ではなく、精々が時速50kmくらいの速度だ。私1人なら風圧くらい無視できるものの、今は両腕で2人の人間を抱えている。マスターと妹様が風圧にやられてしまわないように加減しなければならないし、何よりあまり速度を出し過ぎてもひったくり犯は見つけられないだろう。まぁそれでも時速50kmくらいは割と速いのではないか?1時間で50kmも進めるのは割と凄いと思うが。秒速に変換したら1秒で13mちょっと進む事になるのだし、普通に速いレベルだと思われる。車と違って風避けみたいなの無いしな。


「あっ居た!あそこ!あの人!あそこの白い髪で肌の黒い女の人に追い掛けられながら、麻袋を持って走ってる茶髪の男の人!捕まえて!」


「了解しましたわ!電気罠エレクトロトラップ!」


私が今発動させた魔法は電気罠エレクトロトラップ。設置型の魔法で、設置した魔法に接触した生物に対して怪我をしない程度の電流を流して行動不能にさせる魔法である。狩人や冒険者などが獲物を捕獲したり捕らえたりする際に活用される事が多く、割と使い勝手が良いんだとか。私の場合、この魔法は攻撃魔法に分類されないので過剰威力にならないから、使えるようになってから割と多用(実戦ではなく冒険者ギルドの地下で使うという意味で)しまくっていたりする魔法である。


そんな電気罠エレクトロトラップを茶髪の男の次の一歩を踏み出す場所に遠隔設置する事で、茶髪の男がその罠を踏み抜き、そして電流によって感電して行動不能………とまではいかないが、急激な電流によって筋肉が緊張し、身体が少しの間動けなくなったらしく、手に持っていた麻袋を落として倒れ込む。そしてその間に白髪で肌の黒い………恐らくは闇森人族ダークエルフの女性だろうか?が、茶髪の男に追いつき、そのまま荷物だと思うものを奪い返し、そのまま女性は男に組み付いて身動きを取れなくさせている。流石は闇森人族ダークエルフだ。


闇森人族ダークエルフ森人族エルフよりは魔法の扱いに劣るが、身体能力が他種族と比べても非常に高く、冒険者の中では魔法剣士として活動している者が多い、少しばかり珍しい種族である。その起源は良く分かっておらず、一説では森人族エルフと姿形が似ているだけで、実際はその成り立ちは全く別の種族なのではないか?とまで言われているらしい。まぁとにかく、珍しい種族なのだ。


「テア!お姉さんの所まで向かって!」


「承知しましたわ!」


私はマスターと妹様を抱えながら、現場まで急行するのだった。










「助かった。持ってた武器が突然盗まれてびっくりした」


「まぁ、それはよかったですわ」


「良かったね、お姉さん!」


「優しいお姉さん、カッコよかった!」


ひったくり事件が発生してから凡そ2時間程度。ひったくり犯は無事に衛兵に連れて行かれた。何でも、ユニークスキルによる窃盗を繰り返していた常習犯で、普段は遠隔から物を盗んでいたようだが、今回窃盗されてしまった闇森人族ダークエルフの女性もユニークスキル持ちで、犯人を即座に特定して追跡していたらしい。ただ、窃盗犯の方もかなり身体能力、主にスピードが極端に速かったらしく、いくら身体能力に自信のある闇森人族ダークエルフでも街中の人通りが多い場所だと本領の発揮も難しく、割と苦労していた所で、なんか私がタイミング良く魔法をぶち込んだらしい。


ちなみに、闇森人族ダークエルフな彼女の名前はノクス=アルヘイズさんだったする。………そうだね、ルナールの街の爆睡図書館司書、コルト=アルヘイズの義理の妹さんだね。姉のコルトさんとは違ってアルティメットショートスリーパーで、1日10分〜20分の睡眠(ユニークスキルのお陰で短いだけであって、実際の睡眠時間は10時間〜20時間と同等)で活動できる、肌が褐色な闇森人族ダークエルフさんでした。まさかコルトさんと妹さんだとは思わなかったよ。普通にびっくりしちゃったもの。ちなみに髪色は白で、瞳の色は金だった。うむ、義理の妹ながら、コルトさんと同じくらい美少女だな。


「ありがとう。助かった」


「お礼ならマスターと妹様に。わたくしは命令されたに過ぎませんもの」


「それでも、直接助けてくれたのは貴女。ありがとう」


「………まぁ、そういうなら、素直に受け取りますわ」


うーん………コルトさんと同じくらい良い人だ。お礼を言われるの、ちょっと恥ずかしいんだけどなぁ。ちなみにノクスさんとマスターと妹様の関係だが、ついさっき知り合って、この街に来たばかりであまり詳しくないノクスさんを、この街生まれなマスターと妹様が案内していたのだとか。その最中にユニークスキルによるひったくりというか窃盗事件が発生してしまったらしい。むーん………災難だったというか、なんというか………というか今思ったのだが、コルトさんという光とノクスさんという闇が備わり最強になるのでは?あの図書館が楽園とか天国とかから、なんかもう神の世界とかになるのでは?


「シャルティナとマリエットも、ありがとう。助かった」


「いや、まぁ、私達の手柄というより、テアが頑張ってくれただけだし………」


「テアお姉ちゃんが頑張ってくれただけだから、お礼は、テアお姉ちゃんにしてあげて!」


「彼女は2人と契約をしている悪魔。なら、主人である2人に感謝するのも当然。ありがとう」


「………まぁ、そういうなら、うん………どういたしまして」


「えへへ………ちょっと恥ずかしいね、お姉ちゃん」


うーん、美少女3人組が会話してるの尊いなぁ。なんでこんなに尊いんだろう………それに、この胸のドキドキ………もしかしてこれが………典型的なカプ厨、ってやつ………?美少女同士のカプとか何それ最高か??


この日は結局悪魔の姿のまま、マスターと妹様と一緒に、ノクスさんを案内してあげました。






──ちなみに。


「ん、コルト姉」


「んー………おー?もしかして………ノクス?」


「そう、おはよう」


「うん………おはよう………」


その日の案内の最後には、ノクスさんの姉であるコルトさんが働いている図書館に赴いたりした。やっぱり姉妹は尊かったよ。

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