夏だ!海だ!望んでもいない外出だ!やだー!
8日後の8月17日。私達は──
「海だー!」
「!!!!」
「海ですよ凄いですよテア!!」
「ふぉー!海だー!」
「本当に海まで来ちゃった………」
「そう、ですわね………」
──はい、海まで来ました。
あまりに唐突過ぎてびっくりした。私だって今日の朝にアリスから海に出かける事を伝えられて、未だに驚いている。同じ気持ちなのはマスターだけのようだ………流石は私のマスター。主人と従者は似るんだね………そんなに嬉しくねぇ。
なんでも、レイカが私用の水着を買ってきた日にはもうこうして海まで出かけることが、レイカとアリスの2人の間で決まっていたらしい。そしてそれを伝えられたのは今日の朝………いや、マスターと妹様は3日前に知ってたらしいけど。なんで私は最後に伝えるんですか??ってレイカに聞いたら、その方がサプライズでしょ?って言われちゃったよね。まぁ確かにサプライズではあったけど………レイカ貴様、私がインドア派の引きこもりである事を知っていてこうしやがったな?引きこもりニートの息子を家から出そうとするお母さんみたいな手を使いやがって………こうして、しかも転移で連れてこられたら帰るに帰れないじゃないか………空間転移は転移先が現在地からどれだけの距離なのか把握していないとおかしな所に転移する可能性があるんだぞ。私の扱いに慣れてやがる………!
「それじゃみんな!水着には着替えたね!行くぞー!」
「!!!、!!!」
「行くぞー!」
「あぁちょっとマリー!レイカ!待ってってばー!」
ロリ3人と妖精1人の妖精ロリ組は速攻で海へ突撃していった。ちなみに妖精ロリ組の水着は、ロリ3人は全員がよくあるタイプのフリル付きのビキニみたいなやつだ。上下ともフリル付きなので全員可愛らしい。レイカは水色に白の水玉、妹様はピンク単色で無地、マスターは濃いめの白で無地、そしてフェイは、何故か旧型スク水。しかも白のやつだ。名前欄の所に『ふぇい』って書かれている所に謎のこだわりを感じるぜ。確かフェイのスク水はレイカが選んだやつだったからな。そしてレイカはどこまで行っても根本的に考えるなら私の分身のようなもの。………つまりはですね、スク水の名札の名前が平仮名なのは私のこだわりなんですよ。だって可愛らしいじゃない?アニメとかゲームとかでもそう言うのよく見るし。ま、実物は見たことありませんけどね!
「テア!行きますよ!」
「はいはい、今行きますから引っ張らないでくださいましー」
私とアリスの2人組は別行動となるらしい。というかアリスの好奇心をどうにかしないと多分このまま別行動です。そんなアリスの水着は青色のホルターネックビキニ。下半身の方にはフリルが着いているのが実にGOOD。黒髪美少女であるアリスの美しさに水着というセクシーさが合わさって最強に見える。私の水着?この前レイカに貰った黒を基調にして赤と金が縁に使われてるクロスホルタービキニだよ。
「このミューラシア海岸を楽しみますよテア!」
「引っ張らないでくださいましー」
ここミューラシア海岸は割と珍しい海水浴場だ。何故珍しいのかというと勿論魔物のせいである。海は左右だけで無く上下にも広いので、割と縦横無尽に水棲魔物が住み着いているのである。更に外側からどんどん新しい魔物が棲家を求めてやってくるので、そう簡単に海水浴場を作る事は難しいのだそうだ。がしかし、ここミューラシア海岸は違う。特殊な魔法道具で特定の範囲を囲み、魔物の侵入を大幅に防ぐ事で海水浴場としての機能を維持しているらしい。しかし大型の魔物相手にはあまり効果がないそうで、その為に海水浴場のあちこちに冒険者や衛兵の姿が見受けられる。
しかし、それ以上に一般人の姿も居るのがここミューラシア海岸。海を楽しむ人々が集まるのがこの海水浴場なのである。近くにミューラシアの街も存在するため、海に魅入られた猛者はここに住むようにもなるらしい。砂浜のあちこちにパラソルやテントやシーツが点在しているのが人気な証拠と言えるだろう。
「お兄さん!かき氷、というものを二つください!」
「あいよ!シロップはどうする?」
「私はイチゴで!テアは?」
「ブルーハワイが好きですわ」
「ではその二つでお願いします!」
「うっし!ちょっくら待ってな!」
最初にアリスに連れてこられたのは、まさかのかき氷を売っている露店。こういうのって泳いだ後に食べるものじゃねぇの?いやまぁ海水触れた後だと身体冷えてるかもしれないから、正しいのかもしれないけどさぁ。
「ほれ!イチゴのブルーハワイのかき氷出来上がりだ!どっちも小銅貨3枚だよ!」
「はいどうぞ!ありがとうございます!」
「おう!海を楽しんできな!」
にしてもアリスのコミュニケーション能力が高い。なんだ今の一連のやり取り。ラーメン店の常連客と店主みたいなやり取りしてた………かき氷だけど。
「んぅー!冷たくて美味しいです!」
「あまり急に食べると頭がキーンとしますわよ」
「大丈夫です!私は氷属性の使い手ですよ?冷気への耐性くらい完璧です!」
「それならいいのですけれど………ん、つめた………」
ただただ氷を削った上に色の付いたシロップをかけてるだけなのに、美味しい。いやまぁ物によっては色付きシロップじゃないのもあるらしいけど、その場合私の好きなブルーハワイはソーダ系統の味だから別に嫌いじゃない。
「冷たくて美味しい!最高です!」
「そうですわねぇ………」
確かに冷たくて美味しい。ただの氷とシロップの組み合わせなのにね?あぁ、それともあれかな。誰かと一緒に食べるから美味しいってやつ。確かに、普段ならかき氷なんて1人で食べたりはしないけど、こうして誰かと一緒の時だと食べたりするよね。他の誰かが居るから美味しいってのは、他の誰かが居ないと食べないってだけなのかもだけど、それはそれとして美味しいって感じてるからヨシ。
「テア!食べ終わったなら次行きますよ!」
「どこ行くんですのー」
私がかき氷を食べ終わったタイミングでアリスが私の手を引いて走り出す。手に持っていたかき氷のゴミは
「次は海に行きましょう!泳ぎましょう!」
「まぁ良いですけれど」
かき氷食った後に海ってどんな順番だよ。まぁそんなの人によるから別に何でもいいけどさ。私も特にこだわりないし。
「さ、テア!行きますよ!海の神秘を見に行きましょう!」
「海………」
クトゥルフとかいそう(小並感)。………この世界になら居てもおかしくないんだよな………怖っ。あんな邪神共が居る世界とかマジで終わりなんだよなぁ。………居そうでヤダ………
「テア?どうかしましたか?」
「………何でもはなくはありませんけど、もう大丈夫ですわ」
「そうですか?それならいいです。それじゃあ海、行きましょう!」
私とアリスは海へと入る。うむ、冷たい。しかし冷たいだけで身体に問題は無さそう。悪魔の身体様々って感じだ。
「おー!冷たいです!気持ちいいです!」
「それはよかったですわ」
「泳いでみましょう!」
「アリスは泳げるんですの?」
「それなら大丈夫です!5時間ぶっ続けで泳ぎ続けても平気って言われてますから!」
「そうなんですのね」
一体何処でそんなの言われたのだろう。アリスは私も知らない人達から色々教えて貰ってるからな………私も分からん。というか、アリスは一体何処を目指しているのだろうか。このままじゃオールラウンダーになっちまうよ。いやまぁ冒険者って割と色んな依頼をこなすから、基本的にオールラウンダーなんだけどさ。
「ちなみに、テアは泳げるんですか?」
「まぁ人並みには泳げますわ」
小中で水泳の授業はあったから泳げるよ。まぁ体力皆無過ぎて長距離泳ぐのは無理無理の無理だけど。
「それじゃあ問題ありませんね!早速行きましょう!」
「わかりましたから、手は流石に離してくださらない?これじゃ満足に泳げませんわ」
流石の私も左手と両足だけで泳げとか言われても無理である。
「あ、ついつい握ってました。では泳ぎますよ!」
「そんなにはしゃいでも良いことありませんわよー」
「私ははしゃいでた方がコンディションは良いんです!」
「それは知ってますけれど、コンディションが良過ぎるのもどうかと思いますわ」
私とアリスは二人一緒に海の中に入る。腰の辺りまで海水がやってくるまで泳ぐことはせず、ただ歩く。うむ、良い感じに涼しくて素晴らしい海だ。褒めてつかわす。
「ひゃー!ちべたいです!」
「なんかアリス………染まりましたわよねぇ」
「テアとは沢山一緒に居ますからね!」
「そうですわねぇ」
確かにアリスは一番よく一緒に居るとは思う。次点はレイカとフェイかな。アリスと話してるとねー、アリスは私が異世界人だって知ってるからついつい元の世界と同じノリで喋っちゃうって言うか。なんというかね、緊張せず話せるんだわ。アリスは私の秘密を大体知ってるから気を張らなくていいんでね。気が抜けるんだよ。
「テア!ここからあっちに見える岩まで、どちらが速く到着出来るか競争しましょう!
………勝負、勝負………
「………アリス、何ですの?誘ってるんですの?」
「はい!誘ってます!」
………落ち着け、私………アリスの誘ってるの意味は、遊びにって意味で………決して私のこの欲望を煽っている訳ではない………えぇ、えぇ。
「………ふー。いいですわ、競争、しましょう」
「………テア、何か勘違いしてるみたいですけど」
アリスが私の手を取って顔を近付ける。それはまるで、私にキスをするんじゃないかってくらい近い。普通にちょっとドキッとしてしまった。美少女のご尊顔がガチ恋距離にあったら普通に好きになっちゃうに決まってるやん?
「テアの為に、勝負するんですよ?」
「へ………?」
アリスが私にそう囁いた。
「テアはその身体の時、ずっと我慢してるんです。戦いたい、勝ちたい、って、ずっと思ってますよね?でもそれに耐えてるんです。気が付いてませんでしたか?」
「っ。そうなん、ですの?」
「そうです。でも、我慢しなくていいんですよ?私で発散してくれて構いません。殺し合いは対等になれませんから無理ですけど、他の勝負なら幾らでも良いです。もっと、自分に素直になっていいんですよ?」
その時。アリスに言われて初めて、私は自分の欲望の大きさを正しく認識した。そして、一度正しく認識してしまえばもう止められない。私の心が闘争と勝利のみに染め上げられていく。
「………それじゃ」
アリスの言葉通り、素直になろう。もう我慢しない。もう耐えない。私のしたいように、私の望むように、してしまおう。
「くふっ、あはっ」
「テア?」
「きひひひっ………アリス、勝負ですわ………えぇ、全力全開で勝ちに行きます。対等な勝負を望みますわ、アリス」
「ふふっ!私の泳ぎに着いてこれますかね?」
「望むところですわ!」
そうして私とアリスは、妖精ロリ組にお昼ご飯だよと呼ばれるまで、ずーっと争っていましたとさ。ちなみに勝率は私が6割くらいでアリスが3割、残り1割が引き分けで、私はとても満足だった。文字通りのニコニコ顔になっちまったよ………
現在時刻は昼ご飯の時間。事前に用意していたパラソルの下で全員まとまってお昼ご飯は何が良いか決めている妖精ロリ組+アリスに向けて、私は言う。
「
私には
「お母さんが自分から動くなんて………明日は雪でも降るのかな。あ、私ラーメン食べたい!」
「!、!」
「フェイは私の一緒に食べるってー」
「テアお姉ちゃん!私、焼そばってやつ食べてみたい!」
「あ、テア、私も焼そばがいいかも」
「えぇ、ラーメン一つに焼そば二つですわね。アリスはどういたします?」
「私は………カレーにします。テアはどうしますか?」
「まぁ無難にカレーでも食べますわ。それじゃ、全員ここで待っていてくださいまし。さっさと買ってさっさと帰ってきますわ」
私はそれだけ言ってパラソルの下から出る。うむ、なんというか、昼時だけあって日差しが眩しいな。太陽が真上にある。そして薄らとではあるが月も二つある。うーん、どう見ても異世界だぁ。これがもし今際の際に見る幻覚とかだったら私は割と本気で泣くね。
そうして水着姿のまま歩くこと凡そ数分。さっきアリスに連れられて食べたかき氷と同じような屋台の並ぶ所に来た私は、さっさと昼食を注文していく。
「ラーメン………まぁ醤油一つ、焼そば二つ、カレー………普通のカレー二つ、でお願いしますわ」
「あいよ嬢ちゃん!ちょっとばかし待ってな!」
一つの屋台で全部買えそうなので一気に買う。ま、個別で買おうがまとめて買おうが、
「ね、そこの美人なお姉さん」
そういやラーメンとか焼そばとかカレーとか、やっぱり日本人が技術を持ち込んだのだろうか。この国日本人の影響受け過ぎでは?もしかしたら他国もこんな感じだったりする?少なくとも、アオナお姉ちゃんの故郷とか言ってた極東は昔の日本みたいな感じらしいけど。なんか深く聞いてみたところ、江戸っぽい感じらしいけどね。
「ね、ちょっと」
そういや昔の日本、今回は平安時代なんだけど、あの時代って武士が鬼とか妖怪とかの化物を退治してる話が残ってたりするよね。でもそうなると、昔は妖怪も居た………少なくとも、それに類似した存在は居たって事になる。それが人間なのか、もしくは本物の化け物なのかは分からないが、でも何かが居たのは確実。となると、私の元の世界にも、魔物みたいなモンスターが本当に居たりするんだろうか。
「ねぇ聞いてる?」
神話もきっと本当にあったりしたんだろうな。ただ、神話の物語自体が本当にあったかどうかは別。登場する神々とか英雄とかは居そうだけど、神話のお話が丸々本当って信じるのは、ちょっとなぁ。神様は元が居ないと記録に残せなさそうだけれど、物語くらいなら捏造するの簡単だし………ま、昔はきっと今より魔力が大量にあったとかでしょう。今はほぼ皆無みたいな感じ?いや、むしろ昔もあんまり無かったのかも。元から少ないものを世界規模で使い続けて、段々と減っていった………みたいな?
「ちょっと、お姉さん?」
──誰かに肩を触られた。アリスではない、レイカではない、フェイではない、マスターでもないし妹様でもない。知り合いの手ではない。他人の手。他人に無断で触られている。私はそう判断して、私の肩を無断で触れているその手を素早く払う。
「いてっ!」
「………何か御用ですの?不躾に触るなど、殺されても文句は言えませんけれど」
私が後ろを見ると、そこには金髪碧眼、下にはトランクスタイプのシンプルな水着を着て、上には紺色のパーカーのようなものを着ている男が1人立っていた。
「いてて………いや、でもね美人なお姉さん、話しかけても反応ないからさ。ついつい触っちゃったよ」
「………?」
話しかけられてたっけ?………駄目だ、他の事に集中してたから普通に聞こえてなかったかもしれない。人間の時とは違って五感を簡単に使わないでいられるから、ついつい集中すると人間の時より何十倍も集中してしまう。集中し過ぎて聴覚でもシャットアウトしてたかな………?まぁ、いいか。断りもなく触られたのは事実だし。
「………まぁ、だからと言って断りもなく素肌に触れるというのは、あまりにも失礼ですけれど」
「あはは、ごめんごめん」
「………それで?何か御用ですの?」
「あぁ、そうそう。ここの屋台で沢山買ってたでしょ?俺が運んであげるよ。その代わり、後で一緒に遊んでくれない?」
「必要ありませんわ」
と、ラーメンと焼そばとカレーが用意出来たらしいので、さっさと受け取って全部
「おわっ。あぁなるほど、確かにこれじゃ必要ないか」
「ではさようなら。もう二度と会うこともないでしょう」
「あ、ちょっ──」
私の方からは何も用が無いし特に何か頼まれるのも面倒なので、私はさっさとその場を去るのだった。………後で思い返したのだが、もしかしてあれはナンパだったりしたのだろうかと思ったりもしたが、まぁ今後会う訳でも無し。であるならば特に気にする必要も無いので、まぁそのまま忘れました、まる。
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