やっぱり筋肉よ筋肉。万能薬みたいなとこあるから


『ウロボロスメタル精製機構』という魔法道具を導入した日から1週間経過した7月22日。ウロボロスメタル1kgにまで必要な魔力量はまだ足りないので第九アップデートと魔力によるパスを接続して半ば放置しつつ、私は平穏でいつも通りな日々を過ごしていた。あぁ素晴らしきかな何事も無い1日。山あり谷ありの人生なんて小説の中だけで十分だと改めて実感する。………まぁここ異世界だから、下手な主人公よりおかしな事してるかもしれないけども。でもきっと、物語の主人公が異世界にやって来たってなったら異世界でも波瀾万丈な生活を送るに違いない。


「私は詳しいんだ」


「お前は人の事言えないだろ」


「うるさいなぁ犯罪者風コーデ野郎」


「そんなか?」


「そんな」


「そうか………」


今日は紫悠と一緒に買い物中である。宿屋関係の買い物ではなく、紫悠の買い物の付き合いだ。


「というかさ、割と節操なしに魔獣増やしてるから食費エグくなるんだよ」


「いや、一応依頼の時に魔物の肉は結構食べさせてるぞ」


「それで足りねぇから買い物してるんだよなー!」


「うるせー!しらねー!」


なんでも、魔獣を創り過ぎて食費がヤバいらしい。いや、どうにかしようとしてるのはわかってるんだけどね?


「なんか前見た時、蛇の時からめっちゃ増えたよね」


「五体は増えたな」


「だよね、知ってる」


だって見たもん。というか教えてもらったし。


1匹目は|黒蜈蚣《くろむかで」。適性属性は毒、影、風、水、空間で、蜈蚣の死体と水の魔石を贄にして創造した魔獣。全長は70cmな黒い蜈蚣の魔獣らしい。能力としては、影に入り込むことができ、戦闘時は自らの複製体を創って影の中から襲いかからせる事も出来るらしい。複製体は体の大きさをある程度変えることができ、一日に最大10体まで創れるが、多いほど複製体の能力や強度が落ちるそうだ。また、複製体の体の大きさを多少変えられるが、大きくなると体の強度が落ちてしまうそう。毒は神経は麻痺させる効果があり、動けなくなってから獲物にとどめを刺すのが基本性能らしい。後は肉食で乾燥や光に弱いらしい。なんか創造主に似てるよなぁとか言ったら怒られそうなので言ってない。


2匹目は鎧海老よろいえび。適性属性は水、毒、妖、契約で、紫愁が肉壁用に造った海老の魔獣だそうだ。贄は野生の甲殻類の魔獣で、契約属性の魔法で攻撃性や機動性をほとんど捨てている代わりに防御性と魔法耐性に特化しているそうだ。外見は全身がゴツく青黒い外骨格に覆われており、大きさは全長2.5mほど。海老なので水中行動も可能。生命力も高く毒への耐性もあるため、ある程度汚染されている場所でも難なく活動可能らしい。なんでそこで海老なんだろうって思ったわ。鮫とかでもいいじゃん?


3匹目は蝗飢こうき。適性属性は風、毒、血液、深淵で、同種での集団戦闘を得意とする飛蝗の魔獣だそう。異常なまでの成長速度と繁殖能力を持ち、毎日一定量の食事を摂っていれば1週間ほどで成体サイズまで成長する(成体は全長1mほど)らしい。また、血液属性の効果で子々孫々たちに親元の能力は引き継がれており、満腹時以外は常に飢えていて、その気性がかなり荒いそう。雑食性なので空腹時は肉植関係なく喰らい、共食いもするため、戦闘中に死んでしまった個体を別個体たちが喰らうことで自らの力に変えているそう。体は硬くかつ軽量な外骨格に覆われ、一日に10キロ以余裕で飛行出来る体力と羽があるらしい。紫愁はこいつを初めはオスメス個体を一体ずつ造り、屈服させたあと大量に繁殖させたらしい。ちなみに子々孫々たちはほぼオリジナルである最初の二匹のクローンのような感じなので、意識に関してはあまり個体差はなく、連携バッチリだそうだ。見た感想は、まぁうんあれだ、イナゴの大氾濫とか災厄みたいなやつ………完全に蝗害のもっとエグい奴なんだよなぁ!!というかこれヤバいでしょ!軽く世界滅ぼせるんだが???


まぁいい(脳死)次、3匹目は白梟はくきょう。適性属性は火、風、毒、妖、契約で、素早い飛行能力と隠密行動が得意な梟の魔獣だ。紫愁を背中に乗って移動することもあるやつらしい。体は白い羽毛に覆われ、脚には丈夫な筋肉と鋭い爪がついているそう。攻撃は空からの遠距離魔法や炎と毒煙を纏った羽や強力な脚でも近接攻撃などが得意で、戦闘時は羽から火の粉や毒煙が飛び散っているそうだ。本来の姿だと4mほどの大きさがあるが、妖属性の魔法で体のサイズをある程度変えることができ、紫愁が私利私欲の為にモフる時はバスケットボールサイズにまで小さくなるそうだ。多分一つ前に災害そのものを創り出したから癒し系を作ったんだろう。モフモフしてるのよく見るし。


最後5匹目、黒紫狼こくしろう。適性属性は火、風、闇、闇、音、影、妖、契約、血液と豪勢なもの。紫悠が倒した狼の魔獣を贄にして創った魔獣(闇と音の適性属性はその魔獣由来)で、黒と紫の体毛と赤眼、肘や尻尾から生える赤黒い刃のような骨が特徴だそう。聴力と嗅覚がかなり発達しており、視界の悪い場所でも獲物を探知することが可能で、最大の強みはその脚力の生み出す速度だとか。元々の走る速度がかなり高く、そこに火と風属性で更に推進力を上げれば目にも止まらぬ速度で走ることが可能となるそうだ。また、そのスタミナもかなり高く、血液属性で脈拍や多少の体温の調節も可能なため、長時間走り続けてもあまりバテることは無く、闇や影属性の魔法で暗いところに溶け込めるのと音属性で足音を軽減することが可能なので、暗闇での隠密行動も得意らしい。紫悠のやりたい事全部載せみたいなやつだなと思ったよ。


また黒紫狼こくしろうは知性が高く、獲物の動きや仕草をよく伺いながら戦うそう。肘と尻尾から生える赤黒い骨は鋭い刃状になっており、骨の付け根の血管から血をにじみ出すことが可能で、攻撃手段は高い速度で敵に接近し鋭い爪や牙、肘から生える刃状の骨で相手を切り裂いたり突き刺したりするものらしい。もう一つは距離をとり、速度を乗せ尻尾を振ることで、火、風、音属性を組み合わせたカマイタチと、尻尾の骨から出した血液でできた斬撃(普段は血液属性で創った血液を使うが強敵相手では体内の血液を使う)の二種類の斬撃を放ち、相手を切り刻むものだとか。空気の振動でできた不可視の斬撃と音速で迫る血液の斬撃の両方を全て躱しきるのはかなり難しいらしい。戦う時以外は大人しいが、逆に戦う時はかなり獰猛で相手の息の根が止まるまで容赦しないとか。怖い。その全長は約6mで、全高は約3mほどだが、白梟同様妖属性で体の大きさを多少変えることが可能らしい。


この5匹は私が前回焔蛇?みたいなのと契約した後に追加で契約して来た奴らなんだとか。気になったから説明はちゃんと聞いてたけど、戦う姿とかはほぼ見ていない。当たり前だ。でもなんか稀に戯れ合ってるのは見たことある。


「というか蝗飢に至っては1匹とかいうレベルじゃなくない?災厄そのものじゃんあんなの。お前さんの食費を削りに削ってるのあいつらじゃん」


「そうだけど全員可愛い俺の作品だから………」


親バカかよ。………私もレイカの事言われたら何も言えないからこれを言うのはやめよう。紫悠の場合はユニークスキルで実際に創造して創り出した子供(紫悠は"作品"呼びしてるけど似たようなものだと思っている)だけど、私の場合はいつの間にか生まれてた子だからなぁ。人間的に考えれば、紫悠の方は普通の大家族って感じ。ある意味で紫悠と生命神の合作だから紫悠がお父さんで生命神がお母さんかな?んで、私の場合はなんかいつの間にか子供拾ってきた、いやむしろ子供の方から走ってやって来て親扱いされてるみたいな………?上手く言葉には出来ないけど、でも割とそんな感じだ。


「いやまぁ、ちゃんと管理してるならいいけどさぁ」


君が蝗飢をしっかり管理してるなら問題無いんだよ、管理してるなら。


「大丈夫、今は全員シャドウスペースの中に居るし、そもそもシャドースペースは私の魔力で構築された空間だから、外にいるより空腹状態になるのが遅くなってるんだよ」


「中で他の奴ら喰われたりしない?」


「ちゃんとそうしないよう契約したから大丈夫」


「それなら良かった」


「というか共食いは増えすぎ防止用だから、一定数以上にならないとしないし」


「そっかぁ」


なら問題無いな!………とかそんな簡単に言えないんだが………?いやまぁ。私1人で相手してる状況且つ、周囲への影響を一切考慮しないって状況なら殲滅可能だけども………そんな状況普通に考えて存在する訳がないんだよなぁ。なんか対応できるような魔法作ろうかな………


「あ、今日の買い物これで終わり?」


「終わり。ありがとな」


「どいたましてー」


役に立ったならよかったよ。












紫悠と買い物をした日から4日後の7月27日。私が暇そうにというか実際やる事が無くて暇過ぎて散歩に出ていると、街中のいつもはない所に人集りが出来ていた。何故集まっているのだろうかと気になって覗いてみると、ちょっとした商売をやっているらしかった。


「さぁさぁ皆様!こちらに居られるのはBランク冒険者のビリー様にございます!ビリー様と腕相撲を行なってもらい、勝利する事が出来れば白銅貨1枚を差し上げましょう!しかし負ければ銀貨1枚を参加費として頂きます!さぁ皆様!力に自慢のある皆様!こぞってご参加くださいませ!」


なんて感じの呼び込みの声が響いている。紹介されていたビリーとかいう冒険者は、全身筋肉でバッキバッキ………なんて事はなく、割と細身の男性だ。紫悠と似たり寄ったりかもしれない。それなのに腕相撲という事は………あれかな、魔法で身体強化してるのかな、補助属性とか光属性とかで。補助属性で思い出したけど、ゲームによってはバフを上手く活用しないと普通に負けるやつもあったなぁ。そもそものバフの効果が強いのもあれば、純粋に敵が強過ぎてバフ盛りしないとメインシナリオをクリアできないタイプのやつもあった。デバフを打ち消すのにバフを使ったりもしたっけか。


私の場合は光属性でバフが使えるし、毒属性でデバフというか状態異常も使えるから、私がゲームキャラ化したら便利だろうな………でも魔法攻撃が味方諸共に巻き込む系の超威力だから使い所が難しいかも。防御系能力と便利系能力は割と高いけど、でも私それまでだしなぁ。後多分、必殺技を使うとキングプロテア・スカーレットの姿に変身するんじゃないかな。悪魔状態でブン殴ったり全力で走ったりしたら強いでしょ普通に。300mを大体1秒で動けるんだぜ?音速までもうちょいだ。ま、人間の時より身体が余計に動く分、元からゴミみたいな体力の消費は余計に増えるけどね!………うーん、HPを消費しつつ全ステータス増加バフと、種族変更みたいな感じかな………ゲームシステムによっては強そうだけどなぁ。


お、なんか全身筋肉バキバキな人が挑みに行った。なんか名乗ってるっぽいけど周りがうるさいのと声小さいの合わさって何も聞こえねぇ。それに何か言葉を返してるビリーとかいう人の声も聞こえねぇ。まぁ野次馬なんてこんなもんか………あ、普通に筋肉バキバキの人が負けた。魔法使ってたのかな?よく分からん。魔力を感知するの苦手なんだよ………今まで魔力の無い世界に居たんだから許してほしい。後はあれだ、魔力操作が卓越してる人は魔法使用時の魔力反応?みたいなのを隠せるからなぁ。私は分からん。


まぁ私の場合、契約属性で私以外に魔法使用時の魔力反応を認識出来ないように限定してるけどな!そうしないとスマホの画面投影してるのバレるしね!いやまぁ、普通の魔法を使う分には魔力反応はあると思うよ?でもね、私が作った魔法は私が改造してってから、他人には一切の魔力反応を認識出来ないようにしてあるんだわ。まぁ今のところ役に立った事は、あるかもしれないけど私が把握してないから無いな!なんでそんなのしてるのって言われたら、私が魔力反応を隠すの難しいから自動でやってもらってるだけだけどね。だってずっと意識割いてないと駄目だからさ………そんなの無理だよね。並列思考どころか分割思考しないと無理だと思う。


そうやって色々と考えている間にも、力自慢の人々がビリーとかいう人相手に挑んではどんどん負けまくっている。ビリーとかの人はもう20戦くらいしてるのに、まだまだ余裕ありそうだ。魔力量だけじゃなくて純粋な筋肉も鍛えてたりするのかな………純粋な身体能力+補助系魔法の合わせ技、みたいな?そりゃ強いかもしれんなぁ。いやまぁ強いからなんだって話だけどね?正直言って暴力だけ強くても人間死ぬ時は死ぬから。


「あ、すご」


またまた強そうな人を一捻りしたビリー(呼び捨て)。凄いな、確かBランク冒険者なんだっけか?私と同じ………私と同じじゃん。そうだ、私も同じBランクだわ。半ば忘れかけてたけど私も冒険者だっけか。身分証明に必要だから登録しただけで割とどうでもいいからなぁ………いやまぁ冒険者には憧れますけど、それは物語の中だから凄いし憧れるのであって、現実的に考えたら無理でしょう。私は本当にただの一般人で、平和な国の生まれで戦いなんてしたことも無い人種だぜ?冒険なんて危ない事を出来るわけが無かろう。少なくとも私には無理。


いやまぁ、一方的に大型生物殺すくらいなら魚捌いたりするのとそんなに変わらないんだけどね。遠距離からこう、ずばばーって殺す事くらいなら割と余裕。なんならこの前なんか狼王とか言うやつ殺したし。でも多分、相手と真正面から対峙しての殺し合いは悪魔状態の私でも無いと無理。普通に怖いから。悪魔状態なら戦闘行為そのものに興奮出来るから恐怖心とか無くなるだろうし、そもそも悪魔状態なら身体能力が極限にまで強化されるからなぁ。割といけそう。


というか最近になって悪魔変転デーモン・トランスの実験をしてて気が付いたんだが、悪魔状態の時、悪魔特有の精神構造である欲望が二つある事に気が付いた。元々は《戦闘欲》が私の悪魔状態の欲望であったが、《勝利欲》とでも言おうか。何かしらの勝負や試合に限らず遊戯の勝ち負けでも、とにかくなんでも良いから勝つと、物凄い快感が私の中を電流のように全身を走り、腰から下がガクガクになるのである。元々悪魔状態の私は戦闘で興奮する変態だったのに、それに加えて勝利して絶頂する変態になっちまったって訳よ。業が深いとかいうレベルじゃねぇ。


原因は分かってる。多分、元々人間だった私が無理矢理悪魔になったからだろう。最近まで気が付かなかったのは最近になるまで悪魔変転デーモン・トランスを使いもしなかったからだ。いやだって、あれは必殺技みたいなものだから………割と奥の手感あるし。


「………待てよ?」


ちょっとした思いつきではあるけど、もしかしてキングプロテア悪魔・スカーレットの私ならあのビリーとかいう人に勝てるのでは?


「………ま、やるだけやってみるか」


あれだ、光属性のバフ系魔法のお試しも兼ねよう。それと合わせて悪魔変転デーモン・トランスの性能実験で、後そのついでにお金も手に入れる事が出来るかもしれない、みたいな。………うん、なんかこうして目的を立てると何故かやる気が起こってくるな。よしやろう今すぐやろう。即断即決こそがストレスを減らす処世術ってね。いやまぁ本当にそうかは知らんが少なくとも私はそう。


とりあえず、そそくさと路地裏………は危ないので入っちゃダメって言われてるし、隠れられそうな場所………うむ、とりあえず図書館に潜入しよう。ついでにコルトさんの可愛い寝顔を両手を合わせて拝みつつ、図書館の中でも奥まって外から見られない場所まで向かって、はい即変身。


悪魔変転デーモン・トランス


髪色は黒から金に、瞳の色は黒から深紅へ、髪は腰の辺りまで伸び、肌の色は比較的白く染まる。そして外見だけでは決して分からないが、私の中身精神が作り変わる。私の欲望の全てが、"戦い"と"勝利"の2文字のみに変換する。そして最近付け足した服換装機能により、私の格好が店の制服一式から、前にも着たゴスロリドレス一式へと変わる。これにかかった時間は凡そ0.00001秒!………かどうかは分からないが、ほぼ一瞬だろうな。うむうむ、変身とはこんな感じにスマートでなければな。変身シーンなど要らないのだよ。そんなの現実でやったら殺されるだけだろうし。


「うむ………いえ、口調も変えないといけませんわね」


王都内ならまだ平気ではあったものの、この街には知り合いが多く居る。街中で知り合いに出会っても話しかけないようにしなければ。アリスとレイカとフェイなら問題無いけども、それ以外の人とはキングプロテア悪魔・スカーレットの私とは初対面だからね。新しく関係性が出来るのも面倒だからなるべく知り合いとは関わり合いにならない方向で………


「さて、行きましょう」


私は行きと同じルートを辿ってコルトさんの居る受付まで戻り、もう一度可愛い寝顔をして眠っているコルトさんに向けて両手を合わせて拝みつつ図書館を後にする。


そうしてそのまま人集りまで戻ってきたら、後はもうやる事をやるだけだ。


「次、わたくしでよろしいかしら」


「おぉ!今度はこちらのお嬢さんがご参加なされるようです!成功で白銅貨1枚、失敗で銀貨1枚ですがよろしいですね?」


「えぇ」


「ではではお嬢さん、こちらに御着席下さい。準備が整ったら、その目の前にある台に腕を置き、待機してくださいませ。ただし!対戦相手への妨害はおやめくださいね!」


私は案内された席に座る。


「重々承知しておりますわ」


「今日は、お嬢さん。僕はビリーだ、よろしく」


わたくしはキングプロテア・スカーレットですわ。よろしくお願いいたします」


「まさか、お嬢さんのような人が挑んでくるとは予想外だったよ。ただ、僕も手加減はしないからね」


あー………それは煽りかな?煽られてるのかな?は?そんな言い方………はー………なんか、スイッチ入っちゃったかも。


「えぇ………ふふっ、えぇ、手加減なんて無粋ですわ。正々堂々、お互いの全力をぶつける………えぇ、えぇ!それこそが、このわたくしの望む戦い………えぇ!手加減など無用!わたくしに、貴方の全てをぶつけなさい!!」


………やっべ、最高に気分ノってきた。あーダメだ、これ、我慢とか無理………ふふっ、あはは!あはははははははは!!これこそが戦い!これこそが戦闘!これこそが闘争!この心の底から込み上げてくるこのキモチ!この芯の内から溢れ出るこのキモチ!これが、これこそが私の全て!!もう耐えられない!もう抑えられない!もう我慢できない!能力倍増ダブルフィジカル!!


能力倍増ダブルフィジカル。それは、身体能力、反射速度、身体の耐久力など、身体能力面のあらゆる性能を2倍にする魔法である。補助属性や無属性と違い、どれだけ熟達しても2倍以上にはならないので人間の私では効果が薄いが、しかし今の私ならばそれで十分。むしろ過剰かもしれないが………相手はBランク冒険者だ。どれだけ強いのか分からないんだから、こちらも全力で行かせてもらう。


「さぁ、やりますわよ!!」


「………いい啖呵を切るね。それじゃあ、僕も遠慮なくいかせてもらうよ」


ビリーは何も喋らない。手の内を晒す気は無い、という事か。私も宣言無しで魔法を使ってるから人の事は言えないけども。


「では、両者構え!」


台の上に差し出した腕にビリーの腕が重ねられ、互いにがっしりと手を繋ぐごとになった。


「試合──開始っ!!」


開始の合図と同時に台を掴み、差し出した右腕に全力を込めて、今出せる全ての力で押し倒して──


「ふっ!!」


「なっ──」


──バゴンッ!!!!


………バゴン?


「ぐわぁああぁぁああ!?!?」


………全力で押し倒したら、なんか物凄い音を立ててビリーが投げ飛ばされていた………え、は、えぇ??


「お、おぉ!素晴らしい!素晴らしいです!!こちらのキングプロテアさんが初成功者でございます!皆様!盛大な拍手を!!」


「………」


え、なんか………物凄い消化不良………………ま、まぁ!とりあえず目的は達成したのでヨシ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る