白キ主
なんか講習って高校の授業みたいでよくない?だめ?
暇つぶしに詠唱の検証と実験をしていた日から、きっちり2ヶ月経過した7月1日のある日。
「アオイ、少し良いですか?」
「ん、アリス。何か用?」
昼仕事を終え、昼食も食べ終えて、さてやる事もないしとりあえずベッドでごろごろしようと思った矢先に、いつの間にか冒険者ギルドから帰って来ていたアリスに話かけられた。なんでございましょうねぇ。
「アオイって基本属性の魔法って幾つ使えますか?」
「え、あー、ちょっと待ってね………今数えるから………んー………」
光属性が、灯りを起こす魔法の
雷属性は、電気を起こすだけの
毒属性は、死なない程度の毒の
音属性は、音を出すだけの
影属性は、自分の分身を作り出す
と、なると?7+7+14+5+5=………幾つだ?ごめんね、暗算苦手なタイプなんだ私………学校のテストも全部筆算書いて答えるタイプなんだ………だから計算ミスは少ないんだけどね?いやまぁこれくらいなら暗算でいけるけども。とりあえず14+14と10ができるでしょ?んで28+10だから38か。一応第五アップデート開いてスマホの電卓機能使って確認………うん、多分、間違えてないと思う………思いたいなぁ。
「えーっと、多分………38個?かな」
「ほほう、なるほど。30個以上なんですね」
「?え、まぁ、はい?」
なんでこんな事聞かれてるのかが分からん。一体どうして私はアリスにこんな事を聞かれているのだ?
「ねぇアリス、なんでそんな事知りたいの?」
「え?あぁ、そういえばまだ何も言ってませんでしたね。実はもう少し後に冒険者ギルドの依頼をするんですけど、それが新人冒険者への講習をする依頼なんです」
あぁ、冒険者ギルドの壁に張ってある貼り紙のあれか。新人冒険者への講習のやつ。先輩冒険者から冒険者のイロハと体験談を聞き、少しだけなら実戦的な訓練も出来る、みたいなやつ。素人は必ず受けておいた方が良いって言われたけど私は別に冒険者一筋じゃないからいいやってやってなかったやつ。
「それで、次回の講習の教師を私が務めることになったんですけど………私、いつも戦闘に使う魔法は闇、氷、深淵属性だけなので、どうしても使える魔法のレパートリーが少ないんです。最近は特に、昔軍に所属していた人に教えてもらった指揮の練習というのもあるんですけど、氷属性で作ったゴーレム軍団を使ってお仕事をする事が多くて………それで、基本属性だけだとあんまり使える種類も多い訳ではないので。それで、数人だけなら他の冒険者を呼んでもいいと言われているので、私達のパーティーの中で魔法に長けているアオイを連れて行きないな、と思いまして」
「あぁ、なるほど」
なんとなく事情は分かった。私らの中で魔法を一番使えるのはフェイだけど、フェイは妖精だから加護持ち以外には見えないし、そもそも意思疎通にはレイカが必要だもんね。そのレイカは体質的なものなのか魔法適性が皆無で魔法を一切使えないらしいし。となると、残ってるのは私になると………まぁ納得はできますね。
「でも、私でいいの?私より沢山魔法使える冒険者他にも居るでしょ?」
「勿論居ますけど、私はアオイと一緒に依頼をするのも楽しそうだなーって思ったので。それで、どうですか?一緒にやってくれますか?ちなみに、講習の日時は3日後の昼です」
「んー、まぁ、その辺りなら多分暇だろうし、別にいいよ」
多分、ってかほぼ確実に暇だろうけど。
「あぁ、良かったです。基本的に講習は私が進行しますし、アオイは実戦の時に手を貸してくれるだけで良いので。何か、他にわからないことはありますか?」
「んー………特に無いかな。3日後ね?」
「はい、3日後です。ふふっ、楽しみです」
「そりゃ良かった」
まぁ、手間の大半をアリスがどうにかしてくれるなら私としては文句も無い。それにいざとなったらバティンを召喚して魔法使わせれば完璧だろうし。だってあいつ私より魔法上手いし、扱い方を間違えないようにしなきゃそこまで面倒でも無いし。
「では、私はこの後、レイカちゃんとフェイちゃんと一緒に近隣に住み着いたらしい盗賊団を壊滅させてくる予定があるので、行ってきます!」
「んー、いってらっしゃーい」
それだけ言うと、アリスはそのまま部屋の外へ向かって行ってしまった。盗賊団壊滅させるとか言ってるの怖いなぁ………アリス、いつの間にか強くなって………私より強いのでは?
そして3日後の7月4日の日、私は先日したアリスとの約束通り、アリスの新人講習の依頼を一緒に受ける為に冒険者ギルドにまでやってきていた。既に講習自体は始まっており、私のアリスは今この時だけアリス先生となって新人冒険者達に冒険者のイロハを教えている。
「──また、この冒険者ギルドには施設が幾つがあります。特に私達冒険者が覚えていて損が無いのは、過去の様々な情報が溜め込まれている資料室と、地下の訓練場の二つです。資料室は──」
部屋の構造自体は学校の教室風だが、机と椅子は一つを数人が使用する長机と長椅子だとかで、所々がファンタジー風になっている。見ているだけで若干楽しい。私はそんな教室の中でも一番後ろの席に座り、前の列にある長椅子に座る新人冒険者達の後ろ姿がよく見える位置に居る。アリスの邪魔にならない場所に居るだけだ。新人冒険者達の人数は16人と、高校みたいに30人以上居る訳ではない。この講習は任意で受けるものなので、わざわざ講習を受ける人数がそこまでいる訳では無いのだろう。そもそも年に何人の新人冒険者が居るのか知らないのでよく分からないが。
「──地下の訓練場は、冒険者に貸し出される形で利用する事ができます。地下であるものの特殊な魔法道具によって万全な防御がなされており、滅多に破壊されることはありません。ただし、ここ最近は一部の冒険者が破壊………特にあなた方の後ろに居るアオイが、度々地下施設を破壊するほどの魔法を使用して損傷する事で使用できないタイミングがあったりもしますが、その場合でも安心です。地下の訓練場は複数あるので他の場所を使用できるんです。また、地下施設は全てかなりの魔法的防御を施されているのに加え、空間的な接続が薄くなっています。簡単に言うなら、地下で何をしても基本的には地上に影響がほぼありませんので、どれだけ大規模な魔法を行使しても平気なので、全力でやりたい事をすると良いですよ」
おい、私をダシにするのはやめろください。なんか若干怖がられてる感じがしなくもないじゃないか。………でもあれは私の魔法が悪いんだよなぁ、なんか魔法貫通みたいな事するしあれ………一応、さっきアリスが言った通り、空間的な接続が薄くなってるから私が地下施設をどれだけ破壊し尽くしても地上は壊滅しないけど………でも、それだって私が破壊をやり過ぎたら無駄って、この前リエルさんに怒られたっけ………でも仕方ないやん!私だって攻撃魔法使いたんやもん!最近は
「では次ですが──」
と、そんな調子でアリスが講習を始める事、この世界基準で1時間、元の世界基準だと1時間40分も経った頃。
「──ではこれで、本日の座学を終了します。よく頑張りましたね」
一通りの座学が終了したのか、アリスがそう締めくくる。すると、新人冒険者達は伸びをしたり、何やら落ち着きのない様子だったりしている。中にはアリスが述べた激励と共に見せた笑顔に見惚れている少年少女も居る。流石は絶世の美少女、性差を問わずに新人冒険者をその美貌でメロメロにしてしまうのだろう。まぁアリスが美少女なのは純然たる事実だし、見惚れてしまうのは致し方ないだろう。私にも分かるぞ少年少女、アリスってとっても可愛いよね。
「では、10分の休憩時間の後、先程説明したギルドの訓練場で実技訓練をします!道が分からなければこの教室に戻ってきて、後ろにいる彼女、アオイの指示に従ってくださいね!はい、一時解散です!」
はい、つまり私はここで待機なんですよねぇ。ま、事前に説明されてるから全く以って問題無いのだが。でもなるべく私の仕事を減らしたいので、あんまり戻ってこないでほしいなぁ。がんばれー、がんばれー、新人だが君らなら出来る!見知らぬ土地での判断能力を育てると思って頑張れー。分からなければ人に聞くのだー、知りたいならば聞くのだー。聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥って言葉もあるくらいだぞー。頑張れー。
………んで結局、誰一人として迷ったなんて事は無く、特にイベントも無かったのでそのまま地下にある訓練場へと私も向かい、これまたアリス先生主体で訓練が開始される。
「はい!皆さん全員が揃ったようなので、実技訓練を開始します!まず、これまで一度でも魔物と戦った事のある人はアオイの方に、一度も魔物と戦った経験の無い人は私の方に集合してください!」
うむ、これまでは事前の予定通りだな。そうして待機していると、こちらにやってきたのは13人、アリスの方に向かったのは3人。むぅ、こちらの人数が奇数になってしまった。まぁいいか、とりあえずやる事をやろう。
「それじゃまずは自己紹介からかな。えー、私はアオイで、アリスと同じパーティーの仲間かな。うん、よろしく。じゃあまず、全員で少しだけ身体を動かそうか。準備運動ってわけよ」
何をするにも身体を動かすのならまずは準備運動からってね。急に身体を動かすのは流石に怪我の原因になりかねないので、まずは軽いジョギングから。
「んじゃ、まずはみんな少し走ろっか。それじゃ、この訓練場の端から端までを行って帰ってくるように!壁に手を着いてからが開始だから、いつ始めてもいいよー。軽く走る感じでいいからねー。他の人とぶつからないようにねー」
とりあえず、新人冒険者達には身体を動かしてもらう。さっきまで講習を聞いたりして身体が硬くなってるだろうし、それを解すためにも軽くではあるが走ってもらう。私?私は走らないよ。だって体力ゴミだからすぐ疲れちゃうし。いやまぁ、20mシャトルランでも60回とかなら行けるし、体力皆無って訳じゃないよ?ただ、どうしても下から数えた方が早いだけで。上には上がいるってか下が少ないんですよねぇ。そうしてほんの少しだけ身体を動かすと、新人冒険者達は調子が出てきたらしい。やっぱり毎朝のジョギングも健康に良いらしいし、適度な運動こそが長生きの秘訣なんだろうなぁ。私あんまり運動しないけど。
「んー、そうそう、そんな感じでゆっくりでいいよー。焦らないでねー」
後はまぁ、軽い運動のついでに、状況とちょっとした言葉でちょっぴり競争心を掻き立ててみる。壁から壁までの往復という、誰にでも出来るが勝敗が明白な状況。一応教師役の私からの焦らないでという、聞く者が聞けば余計に焦るような言葉。事前に言った軽く走る云々も加味すると、ほら。
「はい諸行無常」
競争心をほんの少し掻き立てられた新人冒険者の一部が、まるで競うように速度をどんどん上げていく。また、それ以外の新人達もその競争を見て焦ったか、それとも競争心を掻き立てられたか、急にペースを上げていく。人間の心は割と移ろいやすく、軽く走ると言われてもスピードは上げたがるものだ。人間って割とそんな感じだったりするでしょう?そうして最後には、1人を残して12人全員がダッシュして壁から壁まで往復してしまった。そのせいで若干バテている新人もいる。最終的に軽いジョギングのまま往復を終えたのは1人だけ、私の方に集まった13人の中で唯一女の子だった子である。なんせ、残りの女の子2人はアリスの方に行ってしまったので。ふふ、あー面白。意味も無いのに頑張ってる姿を見てると飯が上手いなぁ。他人の不幸って見てて楽しいなぁ。
「ういうい、みんな凄い走ってたねぇ。あれで軽く走ってるってんならもっといけるね?んじゃ次は全力ダッシュで一往復ね!」
はい追加入りまーす。まぁなんというか、結果は明白。1回目で最後まで残ってた少女、黒髪ロングストレートな可愛らしい女の子が1位。その子以外の新人達は1回目で体力を消費した分でボロボロ。地下の訓練場はものによってはかなり広い場所もあって、今回はその中でもかなり広い場所を借りているので、端から端までかなり距離がある。よくわからんが数百メートルとかそんくらいでしょ多分。少なくともうちの高校の体育館2個分よりはデカいんじゃないっすか?まぁよく分からんが。
「ぬー、みんな大丈夫かーい?1人はまぁまだいけそうだけど、残りの子達は無理そうかな。じゃ、一旦休憩ね。休憩というか待機かな。10分くらい休み入れるから、なんか水とか飲んどきなー」
まぁ水を持ってるかどうかは知らないが。とりあえず10分休憩なので私もおやすみー。ふいー、疲れた疲れた。
「アオイ、アオイ」
「んあ?何さ、アリス」
私が休憩しようとしていたら、アリスに横から声をかけられた。一体なんです?
「こちらも休憩入ったんですけど、どうせなら、アオイの魔法を見せてあげてください」
「え」
マジすか?
「またリエルさんに怒られるんだが?」
「大丈夫です!ギルド長にもリエルさんにも許可はとってありますから!」
おぉーう、手回しが早いぃ………
「………まぁ、いいけども………」
えぇ、でもここ、え、ここぶち壊していいの?ぶっ壊れるが??
「あ、ちなみに別の場所を借りてますよ!」
「あ、なるほど」
それならまぁまだマシかな。
「皆さーん!この訓練場の破壊常習犯であるアオイの大規模魔法をお見せしまーす!休憩時間ですみませんが、見たい方は見てみてくださーい!あなた達の先を進む、言わば先輩の一撃をしかと目に焼き付けてくださーい!」
その呼びかけ方はやめろください。先輩って、私よりアリスでは?私の場合冒険者ってほぼ副業に近いんですけど??むしろアルバイトですけど?いやまぁアリスがしてほしいってんなら別に良いんですけどね?魔力消費もかなり少なめだし。そうしてアリスに着いていくと、さっきまで使用していた訓練場より二回りくらい小さな訓練場にまで案内された………というか、ここ………
「はーい、ここが普段からアオイが破壊し続けて、遂にはアオイ以外の入室が不可能となった訓練場でーす」
あぁですよねぇー!ここ見覚えあるんですもんー!私が毎回破壊するからギルドと提携組んでる魔法道具職人さん達が全力で修復して強化し続けたせいで他の部屋より性能が30倍になったとか修復速度が以前の7倍とか私の破壊力も初めの頃より9倍に上がってるとか、とにかく毒舌リエルさんにちまちま罵倒されつつ小言言われてる場所ー!ぬわー!精神攻撃はやめろー!繰り返す精神攻撃はやめろー!
「では皆さーん!アオイの後ろに、出来る限り出入り口に近い場所で待機してくださいねー!危険ですからー!」
はいはい、危険物な私は前に出ますよーだ!なんかもうこのムシャクシャ全部載せてぶっ放したらー!!
「じゃ、いきまーす」
「皆さん、絶対に私より前に行かないように!冗談抜きで普通に死ねますから!!」
それはそうなんだけど他に言い方ありませんでした?まぁ、いい。イメージするのはあの一撃。一番初めにぶちかました光線による全力射撃。
「
──直後、眼前に莫大な光量が一瞬だけ展開されるが、第六アップデートによって視認可能なレベルにまで即座に低下し、目潰しはされなかった。アリス達も事前に準備はしていたようでなんとかなっているらしい。周囲の空気中に漂う匂いは、この部屋の空気と壁が諸共に焦げた事によって生まれた匂い。私が魔法をぶっ放した方向の床はドロドロに融解していたり、あまりの高熱でガラス質に変化しているものもあるし、なんか、噴火中の火山みたいなイメージの光線の跡が残っている。
そして特に被害がデカいのは、
後ろを見ると、新人冒険者達が凄い間抜けな顔で呆然としていた。あれだな、驚愕を通り越して呆然としている感じだ。まぁ私には関係ないので別に何でもいいが。
「はー、終わり終わり。はーい戻るよー」
「………あっ、はーい皆さーん!休憩終わりですよー!戻りますよー!」
アリスの一声で、新人冒険者達は呆然とした顔からいつもの顔に戻る、と思いきや驚愕とした顔で私の方を向いてくる。しかも全員。え、何?とりあえずそのまま無視して戻るのだった。
ちなみにその後、アリスが監督となって軽く模擬戦をしてから講習は無事終わりました。良かった良かった。
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