馬鹿は風邪引かないというか引いても分からないだけでしょ
魔法道具店で新しい魔法道具を購入した6日後の4月18日。
唐突だが、私は風邪を引いた。なんの脈絡もなく風邪を引いた。いやまぁ、なんか昨日から鼻水止まらないなーって思いつつ鼻をかんでたんだけど、今日起きたら熱出てたっぽい。朝起きて、アリスが私に熱あることに気が付いたらしい。私はなんか怠いなーくらいだったんだけど、アリスが今日は寝てろと割と凄い剣幕で言うので大人しく休むことにしたのである。休むというか、ベッドで横になってるだけではあるんだけど。まぁとにかくお仕事も休むことになった。ラピスラズリのペンダントのおかげで病気に耐性がある筈なんだけど、10%の耐性を抜いてきたっぽい。あんまり過信し過ぎるのも駄目って事なんだろう。それにしては早過ぎて草なんだが。
「アオイ、何かする必要はありますか?」
「や、特に無いかな」
アリスは私の看病の為に、冒険者のお仕事も宿屋のお仕事も今日はお休みするらしい。ちなみにレイカとフェイも冒険者の仕事を休んでいるが、私の代わりに宿屋の方の仕事を手伝っているらしい。さっき空き時間に訪ねてきた。
「そうですか………嘘じゃありませんね。ならよし、です」
アリスの真理の瞳によって、私は嘘を吐かないというか嘘を吐いても意味が無い。ので、私は基本的に嘘は言わない主義である。元々、親友(紫悠)には本当に本音だけでぶつかる性格というのもあるだろう。なんせ、紫悠相手だと弱いなら弱い、馬鹿なら馬鹿だと普通に言うからな私。オブラートにすら包まないからな。しかも私、クラスメイト相手でもオブラート包まずに言葉でぶん殴るから。まぁそういう事をしているのもあってか、私は特別嘘を言うタイプでも無いので、アリス相手でも普通に接している。勿論嘘を使うべきタイミングには本当の事を決して言わずに嘘を使わずに本音を隠すが。
「アリス。別につきっきりで看病してくれなくてもいいんだよ?レイカとフェイも割と高頻度で見に来てくれてるし、いつも通りにしててもいいよ?例えば、散歩に出かけるとか」
「嫌です。つきっきりで看病します」
うーん、頑固だなぁ。
「別にこれくらい平気なんだけど………」
「今は平気かもしれませんけど、後から急に平気ではなくなるかもしれません。だから治るまで看病します」
「そんな酷い風邪でもないんだけど」
「それでもです」
うーん、何言っても看病はやめない気なのかなぁ。別にこれくらいなら平気なんじゃが。高校入ってからは無欠席だったけど、私はこれでも毎年数回くらいは風邪引いたりして欠席してたりしたんだよ?だからまぁ、風邪くらいなら割と平気だと思うけど。そもそも、この魔法の存在する異世界には回復属性の魔法があるので、いざとなったら治療院って名前の病院に行けば魔法で治るしなぁ。そもそも、風邪だって昔にリリーさんの所で買った
というか、さっき朝食後に風邪薬も飲んだじゃん。なんか割と適当にしてても雑に生えてきて自然の壁であるグリーンカーテンにもなるとかで、暑い気候の地域でかなり大量に育てられてるらしいゴーヤが原材料の、錬金術とか練金魔法とかを駆使して作られた風邪薬。原材料がゴーヤという苦いイメージしかないものだとアリスに言われた時は若干の忌避感があったものの、薬って普通に考えて甘いものの方がおかしなと思い直して特に何もなく普通に飲んだ粉薬、アリスの目の前で飲んだじゃん。ちゃんと効果があるのは真理の瞳で確認済みだから平気だし。
そもそも、私の場合第三アップデートの全自動毒物感知まであるんだよ?この全自動毒物感知の凄い所は、人間が摂取したらじゃなくて、私が摂取、つまり食べたりしたら害をもたらすという条件下でに限定されてはいるものの、それこそ薬から毒までまとめて危険物なら警告してくれる便利な魔法だぞ?この街で蔓延していた病気の感染源っぽい毒物を偶然でも感知したのは第三アップデートのおかげだからね?ちゃんと明らかに未知で人為的に作成された毒すら検知するんだぜ?しかも最近は、アリスの深淵属性みたいになんでもかんでもスルスル解析できるよう、毒物だけじゃなくて
「私はただ、アオイが心配なんです。だってこの前、カモタサの街を助けた時は無理をして頭痛に苛まれていました。私を助ける時だって、頭を痛めるくらい無理して作戦を練っていたとレイカちゃんとフェイちゃんに聞きました。………だから、これまでの無理が祟ったんじゃないかって、私は思ったんです。心配なんです。アオイがただ心配なんです。いつも助けてもらってるんだから、今日くらい………私が、あなたを、助けさせてください」
「………まぁ、いいけど」
………突然、シリアスみたいな雰囲気出すじゃん。いやまぁ、うん、何にも間違っちゃいないけども。確かに、アリスの時もカモタサの時も無理をして頭痛が痛いってなってたよ?そりゃなりましたよ。私はただの一般人だぞ?平穏に暮らしてきただけの一般的な人間だぞ?平和な国で一生を終える未来が今でも見えるくらいの凡人だぞ?そんな私が、無理をしないで誰を助けられるってんだよ。そりゃ普段は無理なんてしないよ。だってそんなの身体ぶっ壊すだけじゃん。でもさ、無理をするタイミングってのはあるでしょ。
例えば………そう。月並みな言葉で言うなら、本気だとか負けられないとか、そういう時。自分を曲げたくないと思う時に、無理すらできなくて私に何ができるってんだよ。一般人だぞ?私。そんな私が本来出来ないことをする為に必要なのは、知識と無理と無謀だろ。この手を手を伸ばしても届かないなら、それこそ、この手を引きちぎってでも無理矢理に手を伸ばす覚悟というものが必要だろうに。それでも届かないなら、ただの無理でただの無謀だ。でももしそれで届いたら、無理無謀も私の策だよって、無駄に不敵に笑うだけだ。
だから、無理をするのは私のせいで、別にアリスのせいでもなんでもないのに。
「………まぁ、うん」
まぁ、でも。心配してくれてるってんなら、うん。
「………ありがとね」
まぁ、うん。言葉にしないと、例えアリスでも伝わらないからね。………すっごい恥ずかしいけどね、素直にお礼言うの。でもそれくらい社会に出たら基本だろうなぁって私思うんだけどそこんところどう思う?
「そのありがとうは、アオイが完治したら受け取ります。それまで返事は保留させてくださいね」
「別に返事要らないけど?」
「照れなくてもいいんですよ?」
「照れてませんが?」
「ふふっ、嘘ですね?」
「………」
「あっ、黙るの狡いですよ。言葉にしてくれないとわかりませんよー」
知ってる。アリスの真理はあくまでも瞳に宿るものだ。視覚を騙すものは最初から見えないけど、言葉はあくまでも聴覚を騙すもの。言葉にしなければ、いくらアリスとて私の本音は分かるまい。
「むー、狡いですよー、アオイー、アオイー?」
まぁ、うん。本音をぶっちゃけてしまえば、まぁそりゃ照れるよねって。罵倒なら幾らでも素直にぶっちゃけられるんだけど、感謝の言葉はあんまり素直に言えないんだよなぁ。気恥ずかしいというか、照れくさいというか。だから無言を貫くのです。
「アオイー、アオイー?」
まぁ、うん。
「もー、アオイー。からかったのは謝りますからー、もー」
今日は、ちゃんと安静にしていよう。アリスとか、レイカとか、フェイとか、私の知り合いを心配させない為にも。
………目が覚めた。日付は………変わっていない。時間が経過しただけか。確か、アリスの前で無言を貫いたり嘘を見破られたりして遊んで、その後普通に眠くなったので昼寝をした記憶が………で、なんでアリスさんも一緒に同じベッドで眠っていらっしゃるので?
「すぅ………すぅ………」
あやー、美少女のご尊顔が近いっす。毎日抱き枕にしてるから見慣れてはいるけれど、見慣れているからと言ってアリスから尊さが消える訳じゃないんだよなぁ。
「………ま、いいか」
美少女のご尊顔をこうして拝めるってんなら私はこれでいいや。別に見たくない訳じゃないし。
「お母さーん、大丈夫ー?」
「レイカ、ちょっと静かにね。アリスがまだ寝てるから」
「!、!」
「フェイも静かにね」
私がアリスに抱き着きながらアリスを堪能していると、仕事の合間なのか、レイカとフェイがやって来た。やはりレイカとフェイも宿屋の制服似合うなぁ。ロリメイド系魔法少女とそのパートナーって感じがして実にグッド。少なくとも私は好きである。
「そっか、アリスお姉ちゃんはお休み中なんだね。じゃあ静かにしよっか、フェイ」
「!………!」
「うんうん、私達は大人しくしてよう」
実に仲睦まじい2人組である。側から見ていて心地良いなこりゃ。………そろそろフェイのペット扱いはやめてあげようかな………でも、実質ペットみたいなものだしな………うーん………ま、後で考えよ。
「それで、2人は何か用でもあったの?」
「あ、そうだ。忘れる所だった。お母さんとアリスお姉ちゃん、まだお昼ご飯食べてないでしょ?お母さんはお粥で、アリスお姉ちゃんはシチューなんだ。どっちも私が作ったんだよ?」
「美味しい?」
「うん、美味しかった。私達はもう食べちゃったから、後は2人だけだよ。それで、お昼食べるー?って聞きに来たんだけど」
「うん、まぁ。アリスは寝てるから、また後でアリスが起きたら、私の看病をするって言って聞かないアリスさんにお粥持ってきてもらいます」
「あ、やっぱり?アリスお姉ちゃんって割と頑固だよねー。まぁ、普段からそうだけど、過去とか境遇とかは物凄い物語のヒロインっぽいのに、やってる事は主人公だもん。アリスお姉ちゃんみたいな性格の主人公、最近お母さんにスマホ借りた時にラノベで見たし」
「あ、やっぱり?」
なんか見たことあるなーって思ったんだよなぁ。やっぱりアリスあのラノベの主人公だよね。めちゃ似てる。
「とりあえず、お昼ご飯を食べたくなったら教えてねー。下にみんな居るからー。じゃーね、お母さん」
「!、!」
「んー、お仕事頑張ってねー」
「ふふー、ありがとー。お母さんは安静にしててねー」
「分かってまーす」
レイカとフェイはそれだけ言って部屋から退室していった。お昼ご飯の件を伝えに来ただけだったのだろう。まぁまだ時間的に昼営業中なのは明白だし、今日のレイカとフェイは私の代わりに働いてるからな。お仕事お疲れ様です。いやまぁ普段は私が働いてるんだけどね?でもまぁそれはそれこれはこれ、私の代わりに働いてくれている我が娘とその相棒にありがたみを感じるのは私の勝手でしょ。
「………どうしよーかなー………」
………さて、暇になってしまった。特にやる事がない。流石に風邪を引いているのにゲームをするのはただの自滅行為なので自重するが………読書くらいなら別に良くね?暇つぶしに読書は別に良い気がする。が、その前に。
「………むふー………」
眠っているアリスを堪能してから読書に入ろう。折角美少女が目の前に居るというのに抱き着かない理由がないぜ。ま、アリスは私のモノだし、別にこれくらいいいよね。というか、これでも私は男子高校生だよ?こんな無防備に寝てる美少女の方が悪いよなぁ!というかアリスさんはそれを重々承知ですよね?私がいつでもどこでも性別を変えられるのはご存知ですよね?まぁ見せた事ありませんけど。だって見せる必要ないし、そもそもアリスには言葉だけで伝わるし。まぁいいや、細かい事は忘れてアリス堪能しよ。
「んー………」
いつもアリスの事は抱き枕にして寝ている。が、それはそれでこれはこれ。普段は安らかな睡眠の為に抱き着いているのであって、アリスを堪能する為に抱き着いている訳ではないのである。が、この機会に堪能できるというならするまで。無防備な寝姿を私の眼前に晒している方が悪いんだよなぁ。という事で私はアリスの身体を堪能し始める事にした。
「………んー………んん………」
こうして触れていると、やはりというかなんというか、アリスがここに生きているのを実感する。………私はまだ実感した事は無いが、きっと、世界は未知で溢れているのと同じくらい、幾重もの危険にも満ち溢れているのだろう。元の世界も今の世界もどちらも危険である事に変わりはなく。そして、この私の腕の中に居るアリスは、危険を承知で未知を求める愚か者だ。あぁ、正直に言うなら愚かだとしか言いようが無い。自分から危険に首を突っ込むなんて愚かだとしか言えない。しかし、アリスの気持ちだって分かる。私だって1人の人間だ。未知を追い求める楽しさは人並みに理解出来る。出来るだけでやりたくはないが、まぁつまり、自分の知らない何かを探しに行くのは、きっと楽しいのだろう。その先に危険が待っていようとも、きっと人間は歩むのだ。私もそれくらい理解出来る。だって普段から未知に向けてまっしぐらなアリスをよく見てるので。
「………アリスは可愛いなぁ………」
頭の中で浮かんだ言葉をそのまま吐き出す。実際アリスは美少女だし可愛いので何も間違いではない。ちょっと顔の位置をずらすとアリスのすやすやと眠っている顔が間近で見られるから尚更可愛い。まぁ普通に顔が近過ぎてピント合わないけど多分可愛いでしょう。
何でか知らんがピントで思い出したけど、私の攻撃魔法の威力を下げるという試みはここ最近、攻撃魔法以外を攻撃に転用する方向で進めていたりする。光属性魔法の初級も初級であるただ光を発生させるだけの
話を戻すが、
いや、案外そうでもないのか?一応、魔法の正式名称は『魔力法則』って言って、魔力に基づいた法則全般がこれにあたるとかなんとからしいし。魔力というエネルギーを用いて行われる法則って事なら、まぁ、理系の人でも平気かもしれない。そもそも、ある魔法の魔力消費は10、その術者の保有している魔力量は100なら、10回その魔法を使えば魔力が枯渇するとかそういう話だろうし。私の場合は、契約属性による魔力消費軽減と効果上昇、光属性による効果倍増とかの複雑な計算をしてるから分かり辛いだけで。まぁ別に他人から見たら分かり辛いってだけで、私的には今のままで問題ありませんけども。
「魔力………」
私の今現在の魔力量は1000を越えている。まぁ4桁は凄いかも知れないが、これでも少ない方だ。宮廷魔術師とかは最低でも5000の魔力量を保有していないとなれないって聞くし。確かバティンの魔力量が5000程度だった記憶があるが、バティンは魔術師も戦士も兼任できるオールラウンダータイプの悪魔らしく、魔術師タイプの悪魔の魔力量は軽く5桁を越えるそうだ。私は特化型も好きだけど汎用型も好きなのでバティンの性能は良いと思うよ。あの性格さえどうにかなれば毎日召喚し続けるくらいには。
「ん、んぅ………ふぁ………アオイ………?」
「お、アリスおはよう。よく寝れた?」
「はい………えっと………おはようございます………」
私が色々と無駄な事を考えていると、私の腕の中でもぞもぞとアリスが動き、そして目を覚ましたらしい。少しだけ顔を離しておはようと声をかけると、少し寝惚けてはいるものの、しっかりと返答があった。寝起きなのにアリスは対応が丁寧だな。
「んー………私、寝ちゃいましたか………?」
「昼寝を一緒にしましたね………」
「あぁ………そういえば、そんな記憶も………ふわぁ………」
「ん、大丈夫そう?」
「んー………もうちょっとだけ、このままで………いさせてください………」
「了解」
アリス本人のご要望なので、私はそのままアリスに抱き着き続ける。アリスはもぞもぞと動いたり軽く伸びをしたりして眠気を覚まそうとしているらしいが、やはり寝起き一発で目が覚める訳でもなさそうだ。私は割と寝起き一発で起きるんだけどね。割と朝型だし。
「うーん………はい、もう大丈夫です。アオイ、おはようございます」
「おはよう、アリス。もうお昼時らしいよ?」
「そうなんですか?えーと、お昼ご飯はどうすればいいんでしょうか」
「下に行けば用意してくれるってさ」
「なるほど………では、私が行って持ってきますね」
「やっぱり?まぁ、うん、アリスが行きたいってんならどうぞ」
割と自分で行く気だったんだが、まぁアリスはそう言うよねって思っていたりもした。だって朝からずっと看病しますって言って曲げなかったし。こういう人を相手にする時は出来るだけ相手のやりたいようにやらせた方が楽なのは知っている。なので、ここは私が折れよう。別にそれで私が損する訳じゃないしね。ここで私の方が損するってんならこっちも意見を曲げないが、今回は料理を運ぶのが私かアリスか2人一緒かの違いでしかない。結果的に料理をこの部屋にまで運ぶのに変わりはないのだから、私にこれといって損は無い。うん、これなら私も納得できる。
「それじゃあ、私は料理を取ってきますね。アオイは大人しく寝ててくださいよ?」
「分かってるから大丈夫」
流石の私もこれだけ釘を刺されたら自重するってば。馬鹿じゃないんだから。アリスはそれだけ言うと退出して行った。特にする事もないので数分だけぼーっとしているとアリスが帰ってきたらしい。両手にボウルを持って部屋の中に入ってきた。
「アオイ、お粥はここに置きますね」
「ん、ありがと」
アリスが部屋の机に2人分の料理を置くので、私はベッドから抜け出して椅子に座り直す。
「では、いただきます」
「いただきまーす」
ぱくっと一口。ん、割と美味い。塩味というか、塩分がしっかり入っているのが良い。それでいて胃に優しいお粥なのが素晴らしいな。正直これなら普段から食べてもいいくらい美味しい。流石は食事処の料理だ。美味いぜ。いやまぁ作ったのは私の娘だけど。アリスも美味しそうなシチューを食べて満面の笑みを浮かべているので、まぁ普通に美味しいのだろう。
「美味しいですね、アオイ」
「うん、美味しい。流石レイカ」
「そうですね。レイカちゃんの料理、美味しいです」
結局、風邪はその日のうちに完治したので大事には至らなかった。
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