現代日本で鐘の音なんて単語、祇園精舎の鐘の音くらいしか聞いた事ないな


3日後の今日はサリナスの月の11日、つまり3月11日。私がいつものようにぐーたらごろごろしていると、突如、街のあちこちから鐘の鳴るような大きな音が聞こえてきた。ここ、一応室内なのに。あまりに突然の事なので私は変な声が出た。


「ふぁっ?………え、何事?」


私が窓から街中の様子を見てみると、先程の鐘の音を聞いた人々が慌てたり焦ったらしつつも、大きく移動し始めた。そうして人々の様子を見ていると、人々は自らの家に急いで帰っているらしい。これは私の小説、漫画、アニメ関連の知識と照らし合わせると、なんとなくヤバめの事態なのではないかと思ってしまった。しかし人々の様子を見るに何かを怖がる様子は無く、ただ急いで家に帰っているだけのようだ。となるとそうヤバめでもない?


「え、何事なんだろ」


一応アリスとレイカとフェイ、ついでに紫悠の位置を確認する為にUWASウワスを視界の端から視界中央にまで持ってくると、画面を拡大して登録したマーカーの位置を確認しておく。すると、アリスもレイカもフェイも紫悠も、全員が冒険者ギルドに居る事がわかった。なんだろ、冒険者の出番って事かな。よくUWASウワスを確認すると冒険者ギルドに冒険者が沢山集まってるけど。ま、私は特に言われてないし動く気も無いから、ここで待ってるけどな!なんかあったとしても頑張ってくれ!と思った私はUWASウワスの位置を元に戻してからごろごろし始める。私もBランクとかの冒険者だった気がするが、あれはただ副業と身分証明の為に色々とやっていたら上がっただけの見せかけなので、新人と何も変わらない。そんな私がわざわざ冒険者ギルドに向かう必要性は皆無なのでサボろう。そもそも仕事じゃねーし。


「なんだろ………」


冒険者がわざわざギルドに集まる程の何かとは一体何なのだろうか?ファンタジー系ライトノベルの定番で言うなら、なんかあれかな、魔物が大量に街に向かってくる、ファンタジー系ライトノベルとかファンタジー系統のゲームによく出てくる傾向の強い、あれ。確か、そう、あれだ。


「そう、スタンピードとかいうの」


スタンピード。スマホでちゃちゃっと調べてみたところ、元ネタは家畜などの集団暴走や人間の群集事故を意味する英語らしい。英語で書くと『Stampede』。確かに魔物だろうと群集による事故?なのだから、なるほど意味としては似たような意味なのだろう。いやまぁ、ファンタジーで使われるスタンピードの語源が本当に英語かどうかなんて知らないけど、適当に調べたら英語って出てきたし、まぁ多分そんなもんなんでしょう。私はただの一般人且つ学生であって、別に言語関係の研究者でも学者でも無いので、浅い事しか分からん。いやまぁもっとちゃんと調べたら出てくるのかもしれないけど、もう興味無いし。かなり興味ある事ならどんどん調べてって論文とかも読むけれど、そこまで興味無い事を深く調べるのは、ちょっと無理かなぁ。無理というか嫌だなぁ。


「てかこれ………」


私は本当に冒険者ギルドに行かなくてもよろしいのか?さっきまでサボろうとかほざいてたやつの言い草では無いが、これ多分、何かしらの危機だったりしない?ほら、前にあったパンデミックみたいな感じのやつ。そういやあのパンデミックの原因が未だに分かってないって事が時々新聞に書かれてたりするけど、まだ原因を探してるのかな。見落としてなきゃ私が全部消去したので、原因とか存在しないんですけども。まぁ自分から名乗り出たりもしないけどね?


いや、それは今どうでもいいのよ。で?私も一応冒険者なんだけど、これ本当に行かなくていいのね?そういう連絡なんてされた事ないから行ってないけど、別にいいのね?空気読んで冒険者ギルドに向かわなくてもいいのね?でもさ、こういうのが1番困るんだよね。どうすればいいかいまいちわからないって状況の方がお腹痛くなる。まぁ別にこれまでこういう場面でお腹痛くなった事ないし今も痛くないけど、でもなんか焦るよね。焦燥感があるというか。だからなんだって言い切れたら、いいんだけどねぇ………不安だー、不安。不安感って多分こんな感じなんだろうなーって。いやだなぁ、せめて具体的な説明が欲しい。説明というか、私は一体何をすればいいのかのマニュアルが欲しい。指針とか目的がしっかりしてないと不安になってくるよね、わかる。正直言って、他人を引っ張るよりも他人に引っ張られた方が楽だし、私はリーダーに向いてない。私は多分、マスターよりもサーヴァント従者の方が似合ってるよ。一時期、将来の夢で執事とかメイドとかの類の従者になってみたいって思ったことあるもの。まぁ、アニメとかゲームの従者と違って、業務内容がクソ面倒そうだし仕える人によって色々と不安定だし何よりめっちゃ疲れそうだったから早急に諦めたけど。


「んー………」


………まぁ、別にいいか。色々考えても私に状況は見えないし分からないんだから。アクに頼んで情報収集をして貰ってもいいけど、最近はなんかアオナお姉ちゃんの所の鳥丸と仲良くしてるらしいしなぁ。そもそもアクを呼び出さなくても私が冒険者ギルドに行きゃそれで済むんだし、あんまりアクにも迷惑かけられないしなぁ。一応、食事の時には魔力もあげたりするついでに撫でたり可愛がったりしてるし、アクとの仲は悪くないんだけどねぇ。悪くないだけで最高かと問われれば、そうではない気がするし。バティンの方は私の方からの心象が最高と最悪でせめぎ合ってるから罪悪感なく呼び出せるんだけど、あいつはあいつで対価を支払うのが非常に面倒くさい。ついでに恥ずかしいし。それに比べてアクはとっても良い子だし普通に心象もかなり良いから、呼び出すのに若干の罪悪感がある。本当に必要なら問答無用で呼び出すんだけど、別に本当に必要じゃないしなぁ………うん、諦めて寝ていよう。それが1番精神的にも肉体的にも楽だ。


「………………」


しかし、流石の私もこんな状況で即座に眠れるくらい能天気ではないので、そんな簡単に眠れる訳もなく。むしろこんな状況で眠れるやつがいたら大物だと言いたい。だからと言って他にやる事もないので、目を閉じて眠ろうとするのを一時的にやめ、第五アップデートでスマホ画面を投影し、どうせならと動画配信アプリを立ち上げて、睡眠導入とか安眠用の音声を流し始める。最近追加したイヤホン機能により、スマホから流れる音は私にしか聞こえないように出来るのだ。便利。あれだよ、本当に焚き火の音だけみたいなやつとかあるでしょ?ほら、ASMRってやつ。私も偶に聞いてるんだけど、あれ、いいよね。耳元で囁かれてるみたいなのも好きだし、普通に環境音みたいなのも良いよね。好き過ぎてすき焼きになっちゃう。


「んー………」


あー、焚き火ASMR聞いてたら、なんか………良い感じにふわふわしてきた………これは………もう一押しで、寝れるっ………!


「すやぁ………」


特に何があるわけでもなく、私は眠りにつきましたとさ。










次の日。昨日は目が覚めたら夜営業時刻5分前で焦りつつ仕事をして、そのままお風呂入って即座に寝たのでアリス達はどこに行っているのだろうとは思っていたのだが、今日の朝に目が覚めて起きたら身体が動かしにくいものだから、これは一体何なのだろうと確かめたんですよ。したらね、私はを中心にしてアリスとレイカとついでにフェイに抱き枕にされてたっていう。私とアリスがいつも眠っている比較的大きめのベッドだから誰か頭からとかのいい角度で落ちたりせずに済んだものの、いかんせん、右にはアリス左にレイカ、胸の上にはフェイみたいな状況な為、正直にぶっちゃけるなら暑い。しかし、側から見たら美少女3人組からサンドイッチというかなんというかにされているのはきっと羨ましい光景なので、ここは私も得したと思ってこの光景を目に焼き付けておこう。美少女達に囲まれて眠るとか私ハーレム主人公では?………ねーな。自分で言ってて似合わなさ過ぎて羽が焼け落ちて地に落ちてしまう。だってそうでしょ?イカロスみたいに調子こいて飛んでたら羽が焼けて地面に落ちておしまいだもの。前から思ってはいたけど人間関係みたい。


「とりあえず、起きるまで待機で………」


今日の私の起床時刻は他3人の普段の起床時刻と似たようなものなので、まぁ多分そろそろ起きてくれるとは思うんだけど。もし駄目ならここで余生を過ごす事になるけど、まぁそんな事にはならないと思うので気にしないでおく。というかそんな事にはならないでほしい。


「………んぅ………おはようございます………アオイ………」


「ん、おはよアリス」


起床はアリスが1番最初だった。右腕にもぞもぞという感覚がして数十秒で起きるのだから、寝起きは良い方なのだろう。まぁ、表情を見るに頭が働き始めるのはもうちょっと後だろうけど。


「んぅ………顔、洗ってきます………」


「いってらー」


未だに頭の稼働が中途半端なアリスは、とりあえず眠気を覚ます為に顔を洗いに行くようだ。私はちなみにそんな事せずとも寝起きはすぐに覚めるタイプなので、朝起きてすぐに顔を洗ったことはあんまりない。たまーに、気まぐれで洗ったりはするのだが、それだけだ。


「………?、?」


今度はフェイが起きたらしい。私の胸の上からふらふらふわふわと飛び出したはいいものの、私の頭上でベッドへと落ちていた。眠くて飛行がままならないらしい。ちなみに、寝起きのフェイは大体こんなんだ。そして大抵二度寝して、後で目が覚めたレイカに起こされるのだ。いつものパターンである。


「………?………?………」


頭上から妖精であるフェイ特有の声というか音というかが聞こえつつも、私はやっとベッドから抜け出せると思って左手を引くが、やはりというかなんというか、左手と一緒にレイカごと付いてきた。重い。どれだけ言葉を取り繕おうと重いものは重いのだ。女性に体重を聞いてはならないとか聞くけど、聞かずともこうして持ち上げたり動かしたりするだけで重いものは平等に重いのだから関係なかろう。林檎3個分とか言ってても重いものは重いのだから。というか、そこまで体重なんてものをわざわざ気にする必要性が感じられない。そんなものを気にするなら最初から太らないように食事に注意して適度な運動をしてりゃいいのだ。注意もせず適度すら無視していたのだから、太る事だって承知で生きているのではないのか?とか思ってしまう。つまり、欲望なんかに負けている方が悪いのだ。自分の欲望を理性で抑えられないくせに体重を気にするとか、普通に考えてアホでしょうに。


「ん、ん………んん………」


なんて事を考えていたら、レイカが身じろぎした。レイカ本来の性能でそんな事したら私の貧弱な肉体如き簡単にへし折れるのだが、睡眠中でも力加減はしっかりと出来ているようで安心した。いやまぁ、レイカが力を込め過ぎて何かを壊したとか聞いた事ないから、多分最初から無意識的に出来てたんだとは思うけど。


「ん………う………んぅ………?」


お、レイカも目が覚めたらしい。レイカは私と同じで寝起きはいいのだが、流石に目が覚めてすぐに頭が働く訳ではないらしい。まだ寝ぼけているようだ。


「レイカ、おはよ」


「んー………お母さん………おはよう………フェイは………?」


「フェイは私の頭上。起きたら顔洗いに行かせたげてね」


「うん………うん………」


やっぱりまだ眠いらしい。なんて思っていると、アリスが戻ってきた。もう目はぱっちり覚めたらしく、いつもの元気溌溂なアリスがそこにいた。服装はシンプルな真っ白の寝巻だけど。


「おはようございます、アオイ、レイカちゃん、フェイちゃん。今日の私も元気いっぱい、勇気と好奇心と未知への探究心もいっぱいです!」


色々といっぱいで私は嬉しいよ。


「ほら、レイカはフェイと一緒に顔洗ってきな。主にフェイ。顔さえ洗えば目も覚めるでしょ」


「はーい………」


レイカはその勢いで私の頭上に居たフェイを両手で掬い、普通に顔を洗いに行った。うむうむ、存分に洗ってくるといい。目が覚めるまで存分にな!


さて、アリスと私の2人きりになった訳ですが。


「ねぇアリス。昨日鳴ってた鐘ってなんの鐘だったの?」


「?知らないんですか?」


「うん、知らない」


だから何事かって思ってた訳だし。


「あれはですね、この街の近くに大規模な魔物の巣が発見された事を伝達する為の鐘なんです」


「魔物の巣」


なるほど、ファンタジー系ライトノベルによくあるスタンピードではなかったのか。いやまぁ、ぶっちゃけなくても魔物の巣ってのもファンタジー系ライトノベルによくあるけどもね?


「それでですね、冒険者ギルドの偵察隊から得られた情報によると、その魔物集団はゴブリンだそうです。ゴブリンは元々の繁殖力が高いですし、大規模に群れると鼠算式に増えていくので、数年に一回はゴブリン達の殲滅を行う必要があるそうなんです。昨日はその案件の為に冒険者ギルドに集まっていたんですよ」


「なるほどね?」


それは本当に私が行かなくても良かった案件なのだろうか?戦力という点で考えるならうちのバティンの戦闘能力は高めだと思うのだが。いやまぁ、特に何も指示がないならお家で静かに寝転がって待機してるけど。むしろ何もないなら積極的にゴロゴロし始めますけど。


「昨日は殲滅に向かうパーティーとこの街の防衛をするパーティーを選抜して、作戦会議みたいなのをしてたんです。色々と作戦はあるんですけど、私達に関係のある情報なら、Sランク冒険者であるレイカちゃんとフェイちゃんの2人が魔物の巣に突撃する戦力に抜粋されたくらいですね。私は街の防衛戦力です」


「なるほど」


まぁ、そっかーって感想しか出てこないや。


「アオイも私と一緒に街の防衛ですから、準備だけはしておいてくださいね」


「なるほど?………まぁ、うん、了解」


まぁうん、私はこれでも冒険者だから、何も仕事が無いってのはなんとなく理解してたのでね、諦めくらいついてますとも。というか、私が冒険者になる事を自分から選んだんだから、まぁこれくらいやりますよ。自分で会社入っといてやるべき仕事をしない人間にはなりたくないので。ま、街の防衛ならやりようは幾らでもあるから、魔物の巣に突撃するよりマシかな。そもそも余程の事がなければ私が出る必要も無いだろうし。


「とりあえず、魔物の巣への突撃は明日になります。冒険者は今日、できるだけ身体を休めて決戦である明日に備えるように言われてますから、あまりはしゃがないようにしましょうね」


「了解」


どちらかと言えばアリスの方が心配です。だって貴女、自分の好奇心と興味心に勝てないじゃない。いや、本当に危険な時は自制くらい出来るんだろうけど、今までアリスが自制した所を見た事無いから………


「お母さん、アリスお姉ちゃん、おはよ!」


「!、!」


私とアリスが色々と話していると、レイカとフェイの2人組が顔を洗って目が覚めた状態で帰ってきたらしい。こちらもこちらでアリスに負けず劣らず元気いっぱいで私は嬉しい。


「ん、おはよ、レイカ、フェイ」


「はい。おはようございます、レイカちゃん、フェイちゃん」



「ね、ね、私ね私ね、明日魔物の巣に突撃してくるんだよ?凄いと思わない?」


「アリスから聞いたよ。一応聞くけど平気?」


「うん、大丈夫!相手はゴブリンだもん。ゴブリンで1番強いゴブリンヒーローだってドラゴンより弱いからなんとかなる!いざとなった時に逃走できるようにもしてるからへーきへーき!でも死んじゃった時はちゃんと悲しんでね?」


「いや言われなくても悲しむから」


当たり前だろう。人の死というものは、誰の死であっても悲しむべきものだ。悲しんで当然とは言わないが、悲しむのが生物として正しい形だろう。そしてその死が大切な人や家族のものなら、尚更悲しい事に決まっているだろう。私は薄情ではあるが、人の死を悲しめないような愚か者でも外道でも無い。その点で言うと、レイカは過程はどうあれ今の私の認識からしてみると私の家族の一員なので、レイカが死んでしまった場合、数ヶ月に渡って落ち込む自信がある。最初の1週間は立ち直れないかもしれない。8ヶ月とか9ヶ月くらいは一緒に過ごしているのだぞ?そんな人が死ぬ?そんなの、普通に考えも悲しむに決まっているだろう。命は軽いかもしれないが、生きている事は軽くない。人が死ぬ時に失われるのは命なんて観測したことのないものではなく、その人が生きているという事実そのものだ。二度と思い出を作れないという事実が、二度と同じ生を謳歌できないという事実が、人の死を重くしているのだから。


「えへへ、ありがとね、お母さん。悲しんでくれて、私は嬉しいや」


何でそんなに嬉しそうなん?いや、うん、何となくは理解できるよ?でも明確に言葉にしてもらわないとわからないものってあるから………


「いや、あのね?私そこまで薄情じゃないからね?そりゃ悲しむよ。いやまぁ、もし死んでも仕方ないのかもしれないけど、死んだ事実は悲しいに決まってるじゃん」


「そう、そう?えへへ、嬉しいな………ありがとうね、お母さん」


「どういたしまして?」


うーん、これもしかしなくても説明は無いな?言葉にしないと伝わらないよー?まぁ私が言葉にして伝えてないから当然なんですけどね初見さん。


「今日はゆったりまったり過ごすぞー!」


「!!、!!」


「おー!」


「ゆったりまったり過ごす人達のテンションじゃねーんだよなぁ」


とりあえず、今日も今日とて元気いっぱいな天真爛漫3人娘にツッコミを入れてから、私も気が向いたので顔を洗いに行くのだった。











そして3日後。特に何がある訳でもなく、昨日の夕方にレイカとフェイの2人がゴブリンの巣を完全に潰して帰ってきた。怪我も特に無く、目立ったのはゴブリンの返り血くらいだ。なんでも、ゴブリンを統べるゴブリンキングにゴブリンクイーン、ゴブリンヒーローなど、ゴブリンの進化系みたいなのが大勢いたが、それらも全部殺してきたそうだ。私としては魔物だろうと生物の殺戮なんて冒険譚をあんまり聞きたくないので、そこまで深くは聞いていない。というかぶっちゃけどうでもいい。でもまぁ、娘とペットが強過ぎて私は嬉しいってか安心するね。外に遊びに行かせても死ぬ確率が低いって事だし。いやまぁ遊びに行かせるってかレイカとフェイは私が催促するまでもなく自分から外に行ってるから、私がどうこう言った事なんて殆ど無いけど。


「今日は発表があります!」


そう言い出したのはレイカだった。なんと、わたしにも伝えておかないといけないような重大発表があるらしい。なんだろう。


「実は、私達『フェアリーズ』のパーティー全員に指名依頼が入ってます!しかもこの国の有名な貴族さんからです!」


「全員って事は、私も?」


「うん、そう。パーティー全員だから、お母さんにも指名依頼が入ってるの」


「うぼぁ」


マジかよ嫌だな………いやでも1人じゃ無いだけマシか?


「なんでも、エトワール家が経営している領地の近くの森で、最近冒険者の死亡事故が多発しているらしいの。Bランクの冒険者までもがその森に入って死亡しているって事が報告されてるんだって。そこで、Aランクのパーティーを複数と私達Sランクのパーティーで、その森の異変を解決してほしいって依頼が入ったの!」


………なるほど?概要はなんとなく分かった。


「私達の街には、私達とギルド長の3人のSランクがいるんだけど、エトワール家の領地にはAランクまでしかいないらしいの。だから、今回ばかりは近くに居て、街の防衛戦力であるSランクが多い街に住んでる私達に、指名依頼が入ったんだって。この街の貴族さんに頭を下げてお願いしたって言ってたから、きっといい人なんだと思う」


「なるほど」


「了解です」


「エトワール家さんの方の準備もあるから今すぐって訳にはいかないけど、なるべく早い方が助かるって言われてるから、3日後の朝に、目的の街であるカモタサ行きの馬車に乗りたいの。馬車だとカモタサの街まで3日だから、6日後には着く計算なの」


いやまぁ、うん。本音を言うならそんな依頼正直やりたくないけど、一応このパーティー、レイカがリーダーだし。いつの間にかパーティーになってたけど、まぁ、別にいい。でもせめて事前にこういうの受けるねとか言ってくれないかなぁ。心の準備ができないんやが?いやまぁ別にそこまで咎めるほどの事ではないけども。それに依頼しとかないと冒険者じゃなくなるから、ちょっとくらいはやっとかないとヤバいし。いつもはそういう時に薬草採取とかめっちゃ簡単なので済ませてるけど、ミゼルからはランクに見合った依頼をしておいた方が面倒が減るから楽だよって言われてるから、うん。やっておいて損は無いし。というかこの雰囲気で断れない。


「で、どうかな。お母さんとアリスお姉ちゃんも一緒にやってくれる?」


「私は別にいいよ。やったげる。最近依頼してないからやらないといけないし………」


「私も大丈夫です。やりましょう。頑張っちゃいますね?」


「!ありがとね、お母さん、アリスお姉ちゃん!」


「!!、!!」


レイカもフェイも非常に嬉しそうに飛び跳ね始めた。フェイの場合はいつもふわふわ浮遊してるから飛び跳ねるってか上下に動いてる感じだけど。でもまぁ、微笑ましい光景ではあるので口は出さない。そもそも出すような要件でも無いし。というか、今回ばかりは油断していたら死にそうな案件だが、まぁそん時はそん時だ。多分死ぬ寸前に死にたくないとかほざくと思うけど、まぁどれだけ繕っても私は一般人。所詮はそんなものだろう。でも仕事はする。だってやらないと困るのは私の方だし。


とりあえず、正直言って行きたくはないのだが、行った方が最終的には私の得になる筈なので、出かける準備だけは先に済ませておくことにした。まぁ荷物しまうだけだけど。

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