年明けってなんか毎年疲れてる気がするような…気の所為かな?
パンケーキを作った日から1週間後、私がいつも通りの昼仕事をこなし終えてベッドに倒れ込んで………たりは別にしてないで、今日はアリスと一緒にお散歩中だ。この前の旅行で一緒に街中を回ったのが凄く楽しかったらしく、既に見知ったこの街でもこうして私と一緒に出かけるのは新鮮なのだ。
何せ、私は基本的に外に出ないし行く場所も限られているので、アリスと街をこうして2人きりで回るのは割と珍しい事なのだ。つまり、私の外出にアリスが付いてくる事はあれど、アリスの外出に私がついて行くのは稀なのである。私は外に基本出ない生活を送っているので。いやまぁ、図書館とか冒険者ギルドとかには割と足を運んでるけど。本は借りたいしお菓子は食べたいし。
「アオイ、今度はあっちに行きませんか?」
「ん、いいよ」
正直何処に向かってるのかも何処に進んでるのかも知らないが、まぁ危険な場所に行く訳では無いだろう。それなら流石に一言伝えてくれるくらいの信頼関係は築けているだろうと私は信じているので。いやまぁ、何処まで行っても私視点での話なので、本当の所はどうなのかとかは全く知りもしませんけども。でもそこを疑ってても疲れるだけなので疑いません。二度言うけど疲れるだけなので。
「………あれ?なんでしょうか。人混みが凄いですね?いつもこの時間帯で、ここにはこんなに人はいない筈なんですけど………」
「なんだろ。突発イベントでも発生したかな」
ゲームならさ、突発イベントって割とあるよね。まぁ現実はゲームみたいに上手くいく訳が無いので突発イベントとか普通に死亡フラグだけど。だってそれって、言い換えたらただの突発的なハプニングだもの。
「んー、人混みで良く分かりませんね………………気になります。絶対原因を探りましょう」
「えっ」
行動力の化身か?
「ほら、行きますよアオイ。未知を求めて三千里です!」
「えっマジかよ」
行動力の化身じゃん。そんな事を思って思考停止している間にも、アリスは私の手を引っ張ってズンドコズンドコ人混みを掻き分けて進んで行く。えっ、待って待って。流石に判断が早過ぎるんだが?いやまぁ普段からアリスってこんな感じだけどね?でももうちょっと躊躇とかしよう?私が不安になっちまうよ?不安になったところで何がある訳でもないけども。
「すいませーん通りますよー、はーいごめんなさーい」
「あーれー」
アリスは人混みを掻き分けて進むの上手いねぇ。何でだろ。まぁ何でもいいんですけどね。
「むむ、これ以上は前に進めませんね。ぎっちりです」
「んー、なるほど?」
とりあえず何もなるほどじゃないけど返事だけしておこう。
「仕方ありません。ここから確認しましょう!」
と言う事で人混みの隙間を覗き見る事になりました。私とアリスがちょっとだけ屈んで、人混みの隙間から覗いた先にあったのは、というか居たのは、4人の人間。特にこれと言って種族がある訳でも無さそうな、普通の人間が4人。なんでこんなに人が集まってるのかもわからないくらいの4人組だ。先頭を歩く1人が男性、残り3人が女性なくらいしかわからない。後はそう、なんか武器とか持ってるし、まぁ多分冒険者かその類の人なのだろう。でもなんでこんなに人混みが出来てるんだろうか。しかも4人組の進む先は決して遮ってないし。あれだね、光景だけならモーセの海を割るやつみたいだ。なんだろう、有名人なのかな?
「アオイ、アオイ!あの4人組は勇者一行らしいです!」
「はぁ」
勇者?あぁ、そういやなんか、そんな事もあったような?正直どうでもよくて覚えてないや。実際私になんぞ欠片も関係無いから覚える必要も無いし。
「勇者………異世界からの来訪者ですよ!一体どんな世界からやって来たんでしょうか………気になります………が、帰りましょうか」
「?もういいの?」
アリスの性格なら勇者一行に話しかけて異世界のお話を聞くくらいすると思ったんだけど。何故か今日のアリスは今日は大人しめだ。なんでじゃろ。
「はい。それに、よく考えなくてもまだアオイとのお散歩中でしたからね。きっと後でお話する機会なんて幾らでも作れますし、今はアオイと一緒にお散歩する方が楽しいですから」
「そう?まぁ、アリスが良いならいいけども」
私としてはどっちでもいいのでね。ま、多分あの勇者一行は私なんかと関係する人間じゃないんだろうなーって。だって、勇者なのでしょう?魔王なんていないけど勇者召喚が行われてるって事は、きっと有効活用できるから呼ばれてるんだろうし。有効活用すら出来ないのにわざわざ異世界から人を拉致して勇者なんて名称の存在を召喚する馬鹿もアホも流石にこの国には居ないだろうし。というか勇者召喚は国がやってるんだから、もし何の目的も無く戦力を拉致してきてるんだったら、この国は相当馬鹿だし愚かだし滅べばいいと思う。いや完全に滅ぶと私が困るから適度且つ良い具合に滅んでくれると助かる。こう、悪い事をしてる上層部だけ綺麗に滅ばねーかな。いやまぁこの国の上層部が腐敗してるって前提のお話だけどね?
「人混みから抜けたらですね、新作スイーツが出てるらしいお店に行きましょう!とっても美味しいらしいですよ?」
「それは楽しみ」
出来れば和菓子だと嬉しい。
6日後の今日はニャーヴァントの月の30日、数字に直すと12月30日の年末である。つまり残り1週間で、私はこの異世界で1年も過ごした事になる訳だ。中々に感慨深い………という事は全く無い。そもそもまだ1週間先の話なので。しかし年末とは言え、ここは異世界であって日本ではないので元旦とか無いし、宿屋『バードン』も全然お休みじゃない。普通にお仕事だ。いやまぁ、一応夜営業は無いので実質休暇みたいなもんだが、やはりこの辺りは異世界って感じがするな。ちなみにだが、レイカもフェイもアリスも年末とか特に気にせずお昼の仕事は手伝ってくれたので、仕事量は全然少なかった。やったぜ。
「アオイ、アオイ。私は昨日、アオイの世界では年末にお蕎麦なる麺類を食べるらしいと聞きました」
「はい、まぁ言いましたね」
聞かれたので答えましたね。
「お蕎麦って作れたりしますか?」
「えー、まぁ出来なくはないけど………」
アオナお姉ちゃんの家に(アク経由で)蕎麦粉があるのは知ってるし………でもお蕎麦高いのよね。アオナお姉ちゃんから貰うにしてもお金払わないと私の良心が痛ま………ないけど、後でアオナお姉ちゃんに借り一つね?とか言われるのなんか嫌だからお金払っておきたいし………別にアオナお姉ちゃんは非道の悪鬼でも無いからそれでも良いだろうけども。でもそれはそれとして借りを作るとか面倒だよね。相手の良心から滲み出たモノの対価だからどうしても断りにくいし。
「んー………蕎麦もいいけどうどんでもいいかな」
「うどん?うどんってなんですか?」
「太めで柔らかな白い麺類かな。年越し蕎麦もあるけど年越しうどんでも良いなって」
「うどん!うどんも食べたいです」
「じゃ、蕎麦はまた今度にして、今日はうどんにしてみよう。うどんなら紫悠も使えるだろうし」
主に人手が必要な作業で。
「そういえば、うどんはこの前露店で売ってましたね………あの時は他のものを食べる為に我慢しましたが、今日は食べます。何をすれば?」
「材料はまぁあるだろうし、例え無かったとしてもなんとかするとして………うん、なんとかなるな。ミナに一言伝えてからキッチン借りよーっと」
ってことで、結局宿屋の面子全員でうどんを作って食べて年は越しましたとさ。はーいめでたしめでたし。
無事に年が明けた次の日。この世界基準だとめっちゃ早起きな私が、折角だから日の出を見たいという面子(アリス、レイカ、フェイの3人だけなので実質同じ部屋の面子オンリーなのだが)だけを朝早くに起こして窓の外を眺めている。まだ日は昇っていないので周囲は暗い。しかし真夜中という訳でも無いので先自体はある程度見通せるし、私の場合はそもそも第六アップデートの『暗視遮光視界確保アップデート』が機能している間は暗視効果が確実に作用するので問題無い。私の魔法は優秀なので!………実の所、私の魔法が優秀に見えるのは、スマートフォンという小型の記録媒体のように活用可能な電子機器があるからこそだと思う。なんせ、自動発動型の複合魔法は全てスマホに記録させて、私の代理として自動で演算しているだけなのだから。スマホが無ければ全自動魔法なんてそう簡単に作れる訳がないし。
魔法はイメージだ。魔法は一つの数式だ。感覚派でも理論派でも、どちらであっても魔法は成り立つ。それが魔法だ。本人さえその魔法の内容を全て理解していれば、複雑な計算式の無いイメージだけの魔法でも良いし、イメージなんて欠片も無い計算式だけの魔法だけでも良い。勿論、両方のやり方には十分なメリットがあるし、相応のデメリットもある。
例えば、イメージオンリーの魔法は理論の存在しないものまで簡単に構築できるというメリットがあるが、明確なイメージが出来ない場面、あるとすれば命の危機だとかになって焦ってしまうと咄嗟に発動できないというデメリットがある。数式オンリーの魔法は反対に、理論が存在して計算が存在しなければ魔法を構築できないし、そう簡単に新しく作り出すというのは難しいというデメリットがある。がしかし、その分、危機的状況にあっても計算式という魔法効果の裏付けや魔法発動の確信があるからこそ、咄嗟の発動に向いている、らしい。魔法関連の本に書いてあった。
「お母さんお母さん!日の出はまだ?まだかなー?」
「!!、!!」
「もうちょいだと思うんだけどなぁ。いつもこのくらい………もうちょい後?くらいで日が昇ってきてる感じだし………んー………」
「アオイ、アオイ。まだですか?まだですか?」
「だからもうちょいだってば」
4人で部屋の窓に齧り付くように身を寄せ合い、日の出を待っているこの姿はなんというか、あれだね?アニメとか漫画とかの年明けのシーンみたいだ。なんと言っても日常系のアニメや漫画の構成のネタとして、やっぱり年末年始って行事は使いやすいだろうしね。年末年始とかのイベントが描写されない現代風日常系のアニメとか漫画とか見たことないもん。ある所にはあるのかもしれないけど、私が知らないので無いも同然。
「元の世界ならまだしも、この世界の日の出の時間なんて詳しく調べてないしなぁ………多分、もうちょい?………うん、もう少しかな………」
日の出の時間なんて調べた事無いし………そもそも太陽とか毎日本とか読んでたらいつの間にか昇ってるし………一応、一応ね?元の世界の日の出の平均時間とか確認して起きてはいるよ?でもまぁ、うん、最初から知ってたけども、世界が違うんだからそんな異世界の知識が正常に機能する訳も無いよね。多分元の法則から色々と違うだろうし。まぁ物理法則くらいは同じであってほしいけど、魔法があるからどうなのかなーって。
「ま、日が昇るまでは待機かな」
「はーい!」
「!!」
「分かりました。了解です!」
うむ、3人とも非常に元気が良くて結構。私も朝なら機嫌もめっちゃ良いし体調もすこぶる万全だし頭も完全に冴えてるからな。完全朝型の私を舐めるなよ小娘どもー、ふははははは。朝の私は夜の私より格段に強いぞー?具体的にはある対戦ゲームのランクマッチで真ん中辺りにいたのにも関わらず31連勝して上位の方に食い込めるくらいには強いぞー?正直自分でも調子が良すぎてびっくりした記憶がありますが。
「ん、お?」
私がわりかしアホな事を考えてる間に日が昇ってきたらしく、城壁の向こう側から太陽の光が見えてきた。城壁の上に登ってたら地平線の先から現れる日の出が見えたのだろうか?まぁどうでもいい事だが。
「アオイ、アオイ!太陽が出てきました!」
「おー!おー!!すごーい!!」
「!!!、!!!」
3人娘は全力ではしゃいでらっしゃいますねぇ。ま、美少女達が喜んでくれたなら私も嬉しいですよ?これでも1人の男なので。誰かが喜んでる姿というのは実に素晴らしいですものね?
「んー、日の出さんは百点満点かなー」
うむ、実に素晴らしい日の出だ。年が明けたという気分になる。いやまぁ夜中にもう年は明けたのだが。
「ん。あけましておめでとう、今年もよろしく」
「お母さんも、アリスお姉ちゃんも、フェイも、あけましておめでと!今年もよろしく!」
「!!、!、!!!、!!」
「フェイもあけおめことよろだって!」
「はい、そうですね………アオイ、レイカちゃん、フェイちゃん、今年もよろしくお願いしますね」
事前に教えていた異世界、つまり私にとっては元の世界の年明けの挨拶をして、4人全員でお辞儀し合う。うーん、側から見たらちょっとだけ、なんとなくこう、馬鹿みたいだけど………まぁ、うん、こっちとしてはちゃんとやってるので問題は無い。でもまぁお互いにぺこってし合ってる姿はなんとなく面白いよね。
「日の出………良いものですね」
「ん、そりゃ良かった」
アリスは日の出によって照らされる街を見ながら微笑んで、そう呟いた。私でも無粋だと思ったけどアリスの言葉に返答してみると、こちらを見てくすっと笑ってくれた。うーん、これは美少女ですねぇ。行動から美貌までその全てが正に美少女過ぎてこれは世界取れる。歌って踊らなくて立ってるだけでも頂点………は無理か流石に。でもアリスなら歌もダンスも出来そうだしなぁ。なんたって、アリスはめっちゃ手先とか器用だもの。めっちゃ器用だから蝶ゴーレムみたいなめちゃくちゃ繊細な構造のものを作れる訳だし。
「ね、アオイ?」
「ん?」
はしゃいでいるのかベッドの上で軽くぴょんぴょん(多分本気でジャンプなんてしたらベッド諸共床が抜けると思うが)しているレイカと、その周りをふわふわと飛んでいるフェイを傍目にアリスの美貌と清楚さを確認していると。アリスが私に向けて微笑みながら、私の右手を両手で握ってくる。何だろうか。
「私、日の出なんて初めて見ました。………初めて、なんです。他の誰かと、こんなに綺麗な日の出を見るのは。綺麗なのは、他の誰かと見ているからかもしれませんけど………とにかく、初めてなんです」
「………」
これはもしかしなくてもいつもの私みたいな軽めのノリでなるほろとか雑な返答できない雰囲気では?
「昔の私なら、こんな未来は想像すらしてませんでした。だって、昔の私は何も知らないんです。ただ漠然と夢に見て、ただ漠然と願っていたんです」
まぁ、地下深くに幽閉されてたのならそんなんだろう。アリスの話を聞く限り、生まれてすぐに地下での暮らしをするようになったらしいし。そんな環境で良く倫理観とか普通に育ったなあって思ってたんだけど、なんか教師みたいな人に教えられて、色々と勉強自体はさせられてたそうだし、普通に道徳とか倫理とかみたいな授業も受けてはいたそうだ。多分、何かに使えるとでも思ってたんでしょう。でもま、結局は私が助けたってか攫ったんですけどね?
「でも、今の私は違います。夢ではなく、願うだけでもなく、私で、私自身で!世界を何でも知れるんです!私が知りたいと思った全てを、私が自由に知れるんです!この日の出だって、私が見たくて知りたくて、その為に行動したから見れるんです!!こんなの、最高過ぎです!!」
「最高なの?」
「はい!最高です!!」
うーん笑顔が眩しい。自動で遮光している筈なのに、アリス昇る笑顔が凄い眩しいぜ。………やっぱり、アリスは笑ってる顔が似合うなぁ。微笑むようで、それでいて心の底から笑ってる。そんな表情が1番似合う。笑顔の似合う女性ってやつだろうか。こんな感じなのかな?
「だから、だからですよ?」
アリスは一度手を離し、今度はぎゅっと抱きしめてくる。力強いわけじゃない。優しく、それでいて離れないように、しっかりと。
「だから、来年もこの日の出を見ましょう?みんなで、たくさん」
抱きしめられてアリスの頭が私の真横にあるので、アリスの顔は見えない。レイカとかフェイもはしゃぐのをやめているけど、多分居るとしても私の背後だろう。………私の背後なら、アリスの今の表情も分かるのかな?
「………まぁ、うん。アリスが嫌じゃないのなら、私は別に幾らでも」
私は常に受け身だ。何かされないと何もしない、世間知らずの愚か者だ。そしてまだ子供で、きっといつまでも子供に過ぎない。でもそれでいい。私は私の事をよく知っている。私はきっと、こんな生き方が向いている。その時その時の"楽しい"を求めるように刹那的に生きて、まるで悲劇なんて無かったように楽観的に未来を見据えて………そんな生き方しかしてこなかった。他の生き方も出来なくはないけれど、面倒なのでしたくない。私はそういう人間だと自負しているし自覚している。………だから、まぁ。アリスが来年もみんなで日の出を一緒に見たいと願うなら、私は別に吝かではない。
「………ありがとうございます、アオイ。………私、今年も頑張りますね。貴女に助けて貰ったあの日の私の、小さくて大きな願いを叶える為にも」
その願いというのは、明確に何かはわからなかったけど。
「………多分、叶うんじゃない?」
「そうですかね?………ふふっ」
願わくば、アリスの願いとやらが叶いますように。私はそうして、何処の誰とも知らない、しかし確実に存在すると明確に理解している性別神とやらに、とりあえず軽く祈るのだった。
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