散歩なんて普段やらないなぁ。基本的に外出ないし


温泉街への旅行から帰ってきた1週間後。この1週間、何となく久しぶりな感覚のお店で、いつもより4割増しくらいのお客さん達の対応に追われていたりした。ただまぁ、アリスもレイカもフェイもお手伝いしてくれたので、そんなに大変では無かったけども。ちなみに、買ってきたお土産(おいしいクッキー詰め合わせセットを1人1つずつ買った。荷物の心配をしなくていいMICCミックが便利過ぎて良き)は知り合いの人達みんなに渡してある。


そんな私だが、今日は。


「………あー………」


とにかくやることが無かった。昼仕事を終えた私は、特にこれといってやる事もなく、だらだらと散歩に出ていた。学生の頃は良かった。家から学校に自転車で向かい、勉強をして、部活をこなし、そして自転車で帰る………1日のルーティーンが組まれていて、それでいて刺激があった。そう、授業だ。あれは良い。私は誰かの話を聞くのが好きだ。多くの先生から色々な話を聞き、それを自分の知識の一部として取り込む授業という行為は全く以って嫌いでは無かった。むしろ好きな部類だ。毎日毎日、私の知らない未知の話を絶対にしてくれる………そんな刺激があったのだ。この世界に来るまでは。


そう、今の私は自主的に勉強しているに過ぎない。図書館で見つけた良さそうな本を選び、すやすやしているコルトさんに構ってから、宿屋に帰ってきて本を読む。完全に自主勉強だ。あまりにもつまらない。誰かの授業を聞けるから勉強は楽しいのであって、自分1人だと途端にやる気が削がれていく。まぁ異世界の知識を頭に詰め込む事自体は楽しいので良いのだが、しかし授業というものを受けてみたくはある。特に魔法関連の授業は興味がある。しかし今の私が学校に入学なんて出来るのだろうかという疑問があるし、何より書類関係の用意とかも非常に面倒そうなのでそういう類がほぼゼロで学校に入れる手段が無いものか………無いやろなぁ。そんな方法があったらもっと世界は美しくて醜いっての。


「………あー………」


さっきから私もあーあーしか言ってないなぁ。アンデットとか、本物とか異世界に来たのに一切見た事ないけどこんな風に鳴くのかなぁ。そういやここ異世界だっけ。わたしにも手に汗握る冒険とか出来るのだろうか………無理だな。やることなすこと全部バティンに任せる未来が見える。そもそも、手に汗握る冒険は側から見ているから面白いのであって、自分がやるのはただの苦行だろう。そんなのヤダ。ハーレム系主人公とかも最近の小説には良く居るけど、正直私には無理だろうなぁ。普通に考えて複数人の事を同時に囲むとか、初めっから全員の好感度がMAXじゃなきゃあんなの無理だって………そもそも別にハーレム要らないし………というか、感情なんて曖昧なモノを平等に分けるのは私じゃ無理だし………そう考えるとハーレム系主人公凄いなぁ。


あー、王道系異世界冒険ファンタジーみたいな事やってる人の事を側から観察してぇー!ここだって一応異世界なんだからよぉ!それくらいどうにかしろよぉ!


「………あー………」


にしても散歩って案外楽しいなぁ。身体を軽く動かすだけで精神的疲労感が大分薄まる。きっと毎日目的も無くただ歩く事だけを目的にして散歩をしている人はストレスフリーなんだろうなぁーって。ストレスフリーってどんな意味だっけ。まいいや確認しよ。第五アップデート起動、からの検索!検索は良い文明。………なるほど。ストレスが全くない状態のことらしい。ストレスがフリーって事ね。割とそのまんまだったか。


「………いー………」


にしても、今の私の顔は虚無顔だったりするのだろうか。なんか表情抜け落ちてる気がするんだよね………いや、んな事言ったら普段からあんまり表情を作ってたりなんかしないけど。私のしたい顔をして、やりたい表情をしてるだけだし。まぁそのせいで基本的に無表情なんだけどね?だって、表情ってのも筋肉の動きなんだよ。つまり顔を動かすと疲れるんだ。それが嫌だから私の表情のデフォルトは無表情一歩手前って感じだし。ま、この世界に来てからはほぼ毎日宿で働いてるから、昼営業の時は割とにこやかにしてるけどね?でもそれ以外は基本顔なんて作ってない。だって面倒だし。別に私は知り合いの人達に外面の良い作った顔を見てもらいたいわけじゃないからね。面倒だからやりたくない。


「………うー………」


お腹、は別に空いてない。お昼は終えてある。ただ私の口癖なだけ。こうやってぼーっと考えてると特に口から出てきそうになるだけ。何かあったら常にお腹空いたって言ってる気がするけど、なんか口癖だから仕方ない。別に私ハラペコキャラじゃないんだけどね。割と少食だし。だからこそミゼルの所で食べてるスイーツも小さめのやつを選んでもらってるしね。そういや何でお腹空いたなんてフレーズが口癖になったんだろうなぁ。そもそもいつから言ってるっけ?あー、覚えてないや。そもそも2、3年前の記憶すら危うい(興味が無いから覚えてないだけ)のに私が話した言葉の一つ一つを覚えてられるわけもないか。ゲームとか小説の知識ならずっと覚えてるんだけど………幼稚園くらいの歳の時にやってたゲームの内容未だに覚えてるし。私は毎度思うがあれだな、興味のある分野とそれ以外での記憶力が桁違いだ。興味のある分野はほぼ忘れないのに、それ以外は簡単に忘れてるし。


「………えー………」


そういやここって異世界だっけ。最近は特に気にする事も無くなったなー。いやまぁ、最初からそこまで気にして無かったけど。とりあえずさっさと元の世界には戻りたい、けど。今の私じゃ無理やろなぁ………って。だってさ、魔法の(自主)勉強をしてるからわかったけど、世界を越えるってかなりヤバい魔法なんだよね。


まず、世界を越えるには両方の世界の情報が必要になる。言語化するなら『えん』というのが1番近いだろうか。その世界との繋がり、というか。場所でも人でも何でもいいから、とにかく越えて向かう予定となる世界との繋がりを確保しなければ、世界は越えられない。けど、私はこれでも異世界人。人との繋がりはあるし、場所との繋がりもあるから、これは大丈夫。まぁ、元の世界以外に向かうなら必須になるけどね。


次に、世界を越えるには時間も空間も飛び越えなければならない。世界によって時間の流れは違うから。まぁ、これは具体的にはどの教科書にも載ってなかったから、9割くらい私の憶測だけど。なんでも、この異世界に時間と空間がバラバラな場所がいくつかあるらしいのだが、そんな場所に転移するには空間属性だけでは足りず、時間属性を混ぜ込まないと転移は出来ないらしいのだ。つまり、時間と空間が別の場所に転移するには時間と空間への干渉が必須と言うわけだ。元の世界とこの世界の時間と空間は明らかに別なので、時間も空間も、どちらの属性も必ず必要になるだろう。しかも、世界を越えるなんて偉業を行う為には、莫大な才能と最高の努力が無いと無理だろう。ヤバい。


最後に、世界を越える為の魔力があまりにも莫大過ぎる。そもそも空間転移自体が非常に魔力を必要とする魔法だ。しかもそこに時間干渉も混ざるのだから、魔力消費は普通に考えても非常に多い。時間と空間を混ぜて同じ世界を移動するだけで魔力量が1000は消費されるのだ。しかも最低で、ある。更に、転移系の魔法は必ず距離に比例して莫大な魔力を消費するのだ。同じ世界でも世界の裏側に行くのに国一つ分くらいの魔力を消費する事になる。それが、世界を越える?天文学的な数字になるに決まっているだろう。


などなど。世界を越える魔法を使うには、あまりにも問題点が多過ぎてヤバい。少なくとも今の私ではどうにもならないので、今後どうにかしていくしかない。どうにかする手段は一個も浮かんでないけど、まぁなんとかなるでしょ。いつも割となんとかなってきたし。なんとかならないなら私がなんとかするだけだし?まぁ私君ちゃんってば天才(嘘)だからさぁ、いざとなったらなんとかなるかもしれない可能性が極僅かにあるかもしれないしね?今の私にどうにもできないならいつかの私に託して寝る!いや今散歩中なんだけどね?ま、その"いつか"ってのが明日なのか、それとも100年後なのかは知らないけどさ。でも、きっとなんとかなる。根拠のない自信だけど、なんとかなる。なんとかするから。


「………おー………」


それはそれとしてお腹減ったな。いやお腹減ったというか、なんか食べたい。具体的にはおやつが食べたい。和菓子がいいな、洋菓子より比較的好きだし。煎餅とか売ってないかな。売ってないよなぁ。この街で和食自体見たことないもん。強いて言うならアオナお姉ちゃんが和食っぽいのを作ってたからちょっと食べたくらい?アオナお姉ちゃんは極東の国から来たって言ってたし、やっぱりアオナお姉ちゃんの出身はラノベの異世界転生系の小説によくある和式な東の国ってやつなのだろうか?まぁ私は特に行く気は無いけど。別にその東の国は日本っぽいだけで厳密には日本じゃないだろうし。そもそもあんまり街の外出たくないし。それよりお菓子だ。和菓子がないなら洋菓子になってしまうが………うーん、正直美味しけりゃ何でもいいんだよなぁ。和菓子なら煎餅一択なんだけど。米があったらどうにかできるかもしれないのに………


「………そいや………」


この世界って"宝くじ"みたいなお店無いよね。インターネットみたいなのは無いから掲示板みたいなのを使う必要はあるけど、番号の付いてるチケットを売って、大きめの会場で番号を発表(人の意思が存在しないように工夫)して、会場に来なかった人の為に掲示板に当たり番号を記入………みたいにすれば出来るのでは?とか思っちゃったりして。ただ、この世界だとチケットを盗まれたりするかもなので、チケットを購入した人の番号と一致させておく必要もあるし、偽物対策にアリスの瞳の力を借りる必要もある。魔法による当選番号の操作を防ぐ為にバティンとフェイも呼べばいいかな?レイカは純粋に護衛として雇うとして………なんか出来そうだな………いやまぁ、やらないけどね?絶対大金持ってるって噂になって襲われる人増えそうだし。主に経営側の私ね?


でも出来そうなんだよなぁ………このアイデアを他人に売ってお金儲け………くらいならしてもいいかなぁ。特許というかね?確か特許とかは商業ギルドの方にあった筈だし………いや行ったことないから知らないけど………でもギルド関係の本に特許云々ってあった記憶あるしなぁ。そういや前から思ってたけど、特許の事を全く知らずに特許として売られてる物を偶然にも発明してその発明品を売ってたら犯罪になるのかなぁ?一応は自力で考えて自力で見つけてるんだけどなぁ。いやまぁ、どうでもいいか。私が何か発明する訳でも無いし。異界の知識を利用して商売は卑怯だなーって思っちゃう………事もないか別に。世界が違うんだもの。世界を越えてるんだもの。別にこれくらい良いよね、って思っちゃうや。私ってばずるっ子なんだー。


「………んー………?」


何か人混みが出来上がってる。なんだろー、あれ。あそこは確か………掲示板、だったかな?街の人達に知らせたい掲示物があったら貼る所………だった筈。貼るのにちょびっとお金が必要だけど、それ以外は特に制約もない緩い掲示板。だからたまーにおかしなのが貼られてたり、なんか稀に女性の裸体の絵が貼られてたりする所だって聞いたことがある。お客さんが言ってた。ちなみに絵は悪ふざけではなく、本気で自分の描いた絵を見てほしくて貼っている人らしい。生粋の芸術家なんだろう。でも迷惑だから度々衛兵のお世話になってるらしいけど。


私は特に軽くも重くもない普通の足取りで、人混みと掲示板の方にてくてくと歩いていく。野次馬っぽくてなんかちょっと嫌だけど、まぁ気になるのだから仕方ない。一応UWASウワスで確認してみたけど、やっぱり掲示板に対して人が集まってるみたいだし。ちなみに人の声はあまりに煩くて単語が拾えない。でも別に事件って訳じゃ無さそうなんだよなぁ。なんというか、あれだ。有名タレントが外国から日本に帰ってきた時に空港に集まるファン?みたいな感じ。毎度毎度思うけどあれって他の人の邪魔にならないのかな………他の人の邪魔になってるならゴミと変わらないけど。掲示板に集まってる私も似たようなものだけどさ。


「………っと………」


1番前まで、つまり掲示板が見える場所まで来れた。掲示板は………あー、なんというか………凄く分かりやすい掲示物ですね?そこにあったのは。大きな文字と大きな紙に書かれた文章。これはあれだな、アリスがたまーに買ってる新聞のとこのやつだ。だって思いっきり号外って書かれてるもん。というか拡大された新聞が貼られてるし………


「………なるほどー………?」


そこには。


『100年に一度の勇者召喚にて、今年は4人の勇者が召喚!』


なーんて、書かれてるし。







その文字を確認して、一応新聞の文字もさらーっと流し見してきて、私は人混みから抜け出してきた。なるほどと思った。掲示板に集まってたのは勇者召喚云々があったからか。


「………勇者………」


勇者召喚。この国で使用される召喚魔法の中でも最たるモノ。数多に存在する別の世界から勇者と呼ばれる存在を召喚し、強大な敵を討ち倒す為の召喚陣。初代国王が作り、当時他国に対しての国力が足りず、魔物への対策すら取れなかった国王が苦肉の策として製作したと言われる、異世界から人手を呼び出すだけの魔法。初代国王はこの魔法を使ってはならぬ禁忌として認定したらしいが、ここ300年は国に差し迫ったような脅威が存在しないにも関わらず召喚されているらしい。新聞に書いてあった。それが不思議だねーって事らしい。ま、私には関係無いけどな?だって私は別に勇者じゃないし。異世界からの来訪者だけどそんな称号無いし。だから別にいいのよ。そもそも私と関わる事も無いだろうし。


「………それより………」


お菓子を食べたい。この辺のお菓子屋さんはあんまり知らないんだよなぁ。なんか良い所は無いものか………


「………んー………」


歌おうかな(唐突)。あ、そう。私ね?なんか日常的に音楽を聴いて生きてるからか、集中してないと勝手に脳内BGMが流れるって特技?特徴?があるのよ。学校でも授業で先生の話を聞きながらその裏で脳内BGMが頭の中に流れてたりするから、多分無意識的に脳内で歌ってるんだと思う。でも生きてく上で気にならないから特に直してないのよね。だって歌うのも聞くのも好きだし。楽器とか出来ないし楽譜も読めないけど。でも歌は歌えるからいいのよ。そう、歌。歌って良いよね。歌詞が英語で意味がわからなくても、リズムに乗れれば楽しいから。誰かが言ってたけど、音楽は言語の壁も世界も越えて楽しまれてると確かに思う。少なくとも、音楽の"楽しさ"は伝わるだろうから。音楽が分からなくても、一つの事に全力を尽くして、誰かを楽しませる為の何かを作り上げる行為の素晴らしさと尊さは、きっと誰にだって伝わると思う。もし伝わらなかったらそいつは多分人間じゃない。ただの人でなしだ。


割と頭の凄いこと(つまり頭のおかしいこと)を言ってる自覚はある。だってそれって、音楽って概念がない世界だったり、そもそも楽しみの存在しないディストピアみたいな世界だったりしたら、何も伝わらないかもしれない。素晴らしさも尊さも伝わらないかもしれない。うんうん、わかるよ。わかるわかる。可能性はゼロじゃない。どんな事柄だってゼロとは言えないもの。例えばそう、私みたいに異世界転移する可能性はゼロじゃない。小数点の先の先、彼方の先のほんの僅かな可能性でも、ゼロじゃないならきっとある。人の想像するモノはきっとある。ゼロとは断言できるわけがない。悪魔の証明ってやつだ。"ある"と宣言するのは簡単だ。見つけて終わり。でも"ない"と宣言するのは困難だ。探して探して探し尽くして、今できる全ての世界を観測し尽くさなければ"ない"とは言えないから。だからこそ、素晴らしさも尊さも伝わらない世界がある可能性はゼロとは言えない。


だからなんだって話だけど。私は一つの事に全力を尽くして、誰かを楽しませる為の何かを作り上げる行為の素晴らしさと尊さを知らない存在は、誰であろうと人でなしだと思っている。別に初めっからそうであれとは思わない。知って、考えて、理解して、そして判断しても尚そうでなければ人でなしだ。そうならば人間だ。今の私はそう思っているという、それだけ。


「………ふー………」


少し立ち止まってから静かに目を閉じて、軽く小さく息を吐く。冬なら吐く息も白くなったりするんだろうが、この辺りは常に温暖な気候らしい。時たま降る雨がゲリラ豪雨みたいの勢い越してヤバいくらいで、後は基本的に晴れな地域だ。常日頃からぽかぽかと暖かいとも言う。だからこそ、服もそんな気候に合わせたものしか売っていない。そりゃ当たり前だ。わざわざ寒い地域の服装を買う必要性が皆無なのだから、防寒具など売っている筈もない。いやオーダーメイドなら売っているらしいが、その辺はよく知らない。この国は基本的に温暖的な気候で、強いて言うなら山の上とかは寒いらしいが、私は多分今後一生行かないので気温差というのは実の所そこまで問題無い。


後はそう、多分だけどね、日本人としての隠れスキルみたいなのがあると思うんだ。実績にもユニークスキルとしても現れない、こう、物理的な体質的なものが。多分そのスキル名は『寒暖適応』とかそう言う感じのスキルだと思うんだよ。だって考えてみて?日本って毎年毎年さ、春が来て夏が来て秋が来て冬が来て、寒暖差の波がえぐいじゃない?夏は暑いのに冬は寒いんだぜ?そりゃ時間かけてじっくりと、まるで弱火で炙るように適応してはいるけどさ、でも年がら年中暑いとか年がら年中寒いとかみたいな人より確実に寒暖差に適応する能力あるよね。これを隠れスキルと呼ばずして何度呼べばいいのだろうか。多分日本人の血筋的に寒暖差への適応能力ってあると思うのよ。だって昔から春夏秋冬はある訳だし。


だからね?私も割と寒暖差への適応能力あるんじゃないかなーって。勿論ながら人間は脆弱なので極端に暑かったり寒かったりしたら純粋に気温にやられると思うけど、寒暖差、つまり気温の変化には強いと思うの。それに伴って寒さと暑さにちょっぴり耐性もあると思うし。いやまぁだからって無装備で山なんか登ったら死ぬけどね?この世界の場合は遭難するとか寒いからだとかじゃ無くて、普通に魔物にぶっ殺されてだけど。人里から離れりゃ離れるだけ魔物は強くなる傾向ががあるからな………勿論、山の上なんて高所には人なんてそう簡単に寄り付かないし、討伐もされてない、もしくは人に見られてないような魔物がいっぱい居るわけよ。んな山の中に無装備で突っ込んだらそりゃ死ぬわなって。


「あー………」


さっきから似たような事しか口から言ってない気がする。まぁ今の私は散歩してる最中だからね仕方ないね。きっとすんごく気が抜けてるんでしょう。普段から割とこんな感じがしなくもないけど、きっと気の所為。気の所為ではないのだとしても普通に諦めるしかないけど。


「………そろそろ帰ろ」


割と外に居る気がするし、もうそろそろ帰ろう。お散歩にはもう満足したので。











次の日。私は特にする事もなくベッドでごろごろしていた。勿論ながら仕事の無い時間だ。


「んー………」


そんな私は、ちょっとばかり爪を切っていた。両手は勿論、両足の爪もである。実の所、私は割と頻繁に爪を切るタイプである。爪が伸びていると何となく気になってしまって、どうしよもうなく爪切りでパチンとしたくなるのだから仕方ない。なので、私は基本的に爪が短めである。具体的に表現するならば、爪の先の方に出てくる白い部分があんまり無い。なんか白い部分が気になって切っちゃうので。


「………」


私は爪切り、というか1人でいる時は基本的に喋らないタイプだ。というか1人だけなのに延々と喋るような奴が居るのだろうか?とも思ってしまうが、世界は広いのできっと居るのだろう。完全にゼロと言い切れないのなら居ると考えた方が思考的にお得である。だって何も考えずに喋ってもすぐ言葉が出てくるし。とにかく私は1人の時は黙々としていることが多いのである。んーとかあーとかは1人の時でもよく言っている、というかよく唸っているって表現の方が正しいのかもしれないけど。


「………ふぅ………」


一息つく。爪切りも一区切りついた。切った爪は自室のゴミ箱に捨てておく。取っておいても別に何にも使わないし、そもそも爪なんぞ誰が使うかよ。いやまぁね?魔法の触媒に使えなくも無いよ?爪だって身体の一部なのだし、魔法行使の度に切った爪を消費する………なんて複合魔法を作るとしたらさ、使えなくもないよ?切り離したと言っても十分に身体の一部を消費してるんだから、そりゃあ魔法の効果も威力も上昇するよ。当たり前だ。でも、毎日毎日作られ続ける血液にはコスパは圧倒的に劣るんだよなー、って。血液の方が内包されてる魔力が多いから、一滴の血液を行使で消費するって方が切り離した爪自体を消費するより効果が高い訳。ね?爪を取っておいても必要性が皆無でしょ?そもそもそんな魔法の為に切った爪を取っておくの普通に嫌だしな。


「………そういや」


この前見つけてきた『魔力抑制スカーフ』による攻撃魔法の威力低下の実験だが、リリーさんとアリスの2人に頼んでどうにかしてほしいと丸投げした所。なんでも、『魔法威力軽減』の術式自体は非常に素晴らしい出来で、リリーさんですら見たことのないモノらしい。私も誰が作ったのか普通に気になって作者は確認したのだが、誰が作ったのかも誰が売ったのかもよくわからない品物らしい。売られた時に来た人が全身ローブに身を包んだ人らしいので。


まぁ色々と遠回しに表現しようと思いましたがやめます。はい、とにかく失敗しました。何でも、私の魔法威力はどうしてもこのままになってしまうらしく、抑制されても術式自体を破壊して・・・・・・・・・魔法が発動されるので、もっと強度のある術式でなければ無意味らしい。私の魔法は、何故か攻撃魔法だけが威力過剰になるような無意識下での契約がされているらしいからな。やはり最初の一撃で本気をイメージしたのが悪かったのだろうか………でもさぁ、最初くらいは本気でぶっ放したいじゃん………後からできないかもしれないんだからさぁ。


いやまぁ、一応ついでに冒険者ギルドの地下室を貸切にしてから一通り実験して、直接的な攻撃の魔法で無ければどうにかなりそうなのは確認したので、まぁ私にもやりようはあるのだが。攻撃魔法で敵を殺せないなら、生活魔法とか防御魔法、回復魔法に補助魔法で殺してやるだけだ。ちなみにだが、生活魔法は攻撃にも防御にも使えない日常生活に使用する程度の魔法の総称、攻撃魔法はその名の通り攻撃の魔法の総称、防御魔法も同じく名前通りの防御の魔法の総称、回復魔法は対象を治療する魔法の総称、補助魔法は身体能力や魔法威力など他人の補助を行う魔法の総称だ。いやまぁ、実の所は総称というか分類に近いのだが。


「………うむ………」


ただの光だけで人は殺せないが、失明くらいは簡単に出来るので光魔法は攻撃手段ではなく妨害手段として有効。目のある魔物にも多分有効だろう。周囲の光景を明暗で判断している魔物にも騙くらかすには十分に有効だろうな。


雷は相手に海水とかの感電しやすい液体をかけてから電撃を浴びせれば攻撃魔法でなくても麻痺効果くらいなら余裕で発揮できるだろうから有効。しかし人間は身体の多くが水だから有効だが、魔物相手だとよくわからんのでとりあえず除外。しかし海洋や水棲の魔物相手なら効くと思うのでそこだけ有効。


毒は攻撃魔法が少なく、基本的には状態異常の魔法ばかりなので正直そのまま使うだけでいい。魔物相手でも人間相手でも通用するのは先人達が証明しているので特に考える必要もなく有効だろう。


音は、まぁ言うまでもなく人間相手でも魔物相手でも、聴覚さえあれば確実に効果はある。爆音を発生させて逆に音を消すことも出来なくはないしな。そして、音とは空気の振動であるのだから、爆音単体でも攻撃のように扱う事だって余裕だろう。一応は"音"の魔法だし。


残りの影、妖、契約、深淵、空間の魔法はちょっと今の所攻撃への転用が思いつかない。や、空間属性は空間を一部分だけ離してしまえば絶対の攻撃として活用できなくは無さそうだけど、それには莫大な技術が必要になりそうなのであんまりやりたくない。深淵も出来なくはなさそうだけど、かなり難しそうなのでやりたくない。


「んー、とりあえず………」


お腹空いたしなんか作りに行こ。










はい、という事でやってきました宿屋のキッチン。さてさて、今回作っていくのはホットケーキです。正直ホットケーキミックスを使ったホットケーキしか作った事が無いので心配ですがそれはそれ、私には文明の利器であるスマホとインターネットがあるので問題はありません。ホットケーキミックス自体の作り方を調べれば、はい発見。


まずは薄力粉ですが、そんなものはこの世界にはないと思いきや普通にありました。ので、薄力粉をどぱーっとしてふるいにかけましょう。んで、薄力粉をふるいにかけたボウルに砂糖と塩とベーキングパウダー………なんてものは無いので使わずにぶち込んでいきます。ベーキングパウダーの役割は生地を膨らませる事なので正直要らないし。そしてぶち込んだ粉物を混ぜ混ぜしてホットケーキミックスの代用品です。


次は卵と牛乳をぶち込んで混ぜます。ミックスと牛乳と卵が上手い具合に混ぜ合わさってとろとろになるまで混ぜます。牛乳を使ってるのでこの料理は美味いに決まってますね間違いない。


そして今度は焼きます。混ぜ合わせた生地をちょっとだけ油をしいたフライパンで焼きます。勿論1枚だけではなくて数枚焼きます。沢山食べたいので。そもそもそんなにフライパン大きくないので一度に大きくなんて焼けないがな。


最後、焼き終わってお皿に乗せて、バターとその上からとろあまの蜂蜜をぶっかけたら、パンケーキの出来上がりってね。カリカリのベーコンとかぶち込んでもいいけど今日は甘味風のパンケーキが食べたい気分なので割愛。


では、実食。


「あむ………うむ、美味い」


ベーキングパウダー無いからふわふわしてないけど、まぁ正直これでもいいかなって。正直乳製品のお菓子(自作)なら割と何でも美味しいし、ついでに言うなら飲み物も牛乳だから美味しいなって。牛乳なら何でもいいかなって気分になってくるぜ、へへっ。


「んー、うま」


にしても自作のパンケーキは美味しいな。手間暇かけてるからだろうか。まぁ普通に美味しいからいいんだけど。


「………こんなに要らないかもしれねぇ………」


とりあえず1人ではこんなに食べ切れないのでMICCミックにぶち込んでおこ。後でアリスかレイカかフェイが食べるでしょ。ミナとか店長さんは食べるかしらないし、紫悠にはここに居なきゃ食べさせる気は無いので。


まいいや、ごちそーさまでした。

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