夢って日記とか絵にすると病むらしいけど本当なの?


次の日の朝。昨日の豪華な夕食とこれまた豪華な朝食を既に終えた時間。そういえば年末とかいつなんだろうとアリスに聞いてみたところ。なんと、25日後らしい。この日は私が異世界にやってきた日の1週間前との事なので、私がこの異世界にやってきたのは年始から1週間後らしい。随分と変な時に来たな私。一応、ここの街に来るまでの馬車旅の途中が暇すぎて第四アップデートの時計に日付機能を追加したりもしているが、だからと言って何がある訳でもない。ついでに言うなら、今日はニャーヴァントの月の5日だったりする。元の世界で表すなら12月5日だ。


ちなみにニャーヴァントの月のニャーヴァントとは、この世界における有名な神様の1人の名前だそうだ。大昔の戦争で邪神なるものと戦った神様らしいが、その辺りの歴史はよく知らない。そもそも知った所で何がある訳でもないので。一応どんな神様か調べはしたが………なんかちょっとだけややこしいんだよな。そもそも、私の中の神様像って元の世界の神様が主軸なので、この世界の神様とはごちゃっと混ざるというか………なんというか、あんまり興味が湧かないのだよな。そもそも、神様の名前は大抵がゲームやアニメ、小説や漫画などで覚えた知識なので、そういう娯楽で神様の名前が出てくる訳でもないのに覚えてるわけが無いっていうか。いやまぁ、日付の神様の名前は一応全員言えますけどね?そうしないと第四アップデートで使えないし。


「アオイ!今日はあちらに行きましょう!」


「待って待って?」


そしてアリスはあんまり速度を上げないでくださいでほしいです。一応走ってはないけど、早歩きはやめてほしいっす。私が、私の左腕がアリスに引っ張られちゃう………左腕取れちゃう………お人形さんの腕みたいに取れちゃう………ペキョッとかいって取れちゃう………


「アオイ!行きますよ!」


「分かったから、分かったからなるべく手加減してけろ………」


私はアリスに手を引かれるがまま、アリスの早歩きに頑張って着いていく。アリスの身体能力が私よりも高いので早歩きの速度も私よりも早く、しかし結局は早歩きなので私が走れば追いつくくらいの速度だが、そんな微妙な速度が逆に辛い。普通に考えて、零か百、もしくは一か百がわかりやすくやりやすいのだ。家のライトのオンオフで考えればわかりやすいだろうか。例えば、ライトのオンオフはボタン一つでいい。簡単だ。しかし、ライトの光量の微調整をするとなると、少し設備が必要となる。点けるか消すかならボタン一つだが、光量設定が入ると設備が増える。なので正直、ゆっくり歩くか全速力かにして欲しいんだが。微妙な調整をしなきゃいけない方が遥かに疲れる。


「アオイ!あれ、あれなんでしょう!」


アリスが向かう先。そこにあったのは、大きく『土産屋ツバキ』という看板がある店だ。外から見る限り、あれだ、木刀とか謎の木彫りのオブジェとか売ってるタイプのお土産屋さんだ。というか見る限り木刀とオブジェ(人と同じくらいデカイやつ。小さいのも店内の方に見える)を売ってるっぽい。こういうお土産屋さんって謎の龍とか剣とかのキーホルダーとか、なんか謎の中に模様が入ってる水晶(仮)みたいなやつ売ってるよね。後御守りみたいなのも。


私はアリスに引っ張られながらその店の中に入る。中はなんというか、日本のホテルとかにありそうなお土産屋さんだ。あ、木刀が銅貨2枚で売ってる。絶対買っても要らないし使う機会とか皆無のやつだ。私別に買ったことないけど。おぉ、謎の木彫りのオブジェのコーナーがある。なんか魔物の木彫りらしい。あ、魚咥えてる熊の木彫りあるじゃん。これはテレビで見たことあるし実物もお父さんの方のお爺ちゃん家にあった気がする。隣に鎧とか小判の見本みたいなのと一緒に飾ってあった。そういやお爺ちゃんで思い出したけど、なんか知らないけどお爺ちゃんの家に長時間居ると涙と鼻水が止まらなくなってたなぁ。あれ本当に何が原因だったんだろうか。ハウスダストは一応軽めのアレルギーだしそっち系なのかな。それとも他のアレルギーのせい?アレルギー検査とかしたことないから他のとかよくわからないけど。


「アオイ!この木刀買います!」


「それ要る?」


「いえ!でも思い出として欲しいです!安いですし!」


まぁ、木彫りのオブジェの値段は1番安くて銅貨5枚だからね。そうなると木刀の方が安いか。木刀より木彫りの方が時間かかりそうだし。でも木刀要る?


「まぁアリスが欲しいなら買えばいいよ。それアリスのお金だし」


他人の財布事情なんてどうでもいいからな。それは例えアリスだろうがレイカだろうが紫悠だろうが、他人は他人。他人が散財してようが私に影響なんて欠片も無いんだからいーのいーの。それに言うでしょ?他人の不幸で飯が美味いってね。他人の不幸は蜜の味とも言う。例えるなら、あれだ。ギャンブルってあるじゃない?あれは側から見てたり、ゲームの世界のやつなら、まぁそれなりに楽しいのよ。だって私に実害は無いから。側から見てる分には私に被害は来ない。ゲーム内のギャンブルをしようと私の財布は痛まない。だから楽しい。けど自分が現実でギャンブルはやりたくない。あんな金をゴミにするような機械に誰が自分の生命線をぶっこむんだよ。アホか。


「アオイ!木刀買っちゃいました!かっこいいですか?」


「うん、アリスが持ってるとしっくりくる」


そもそも美少女には大抵のものは似合うから。水に濡れてても美少女は最高だし、血塗れでも美少女なら最強だもん。武器もそう。剣も似合う槍も似合う弓も似合う斧も似合う素手も似合う杖も似合う銃も似合う。なら木刀も似合う。当然の帰結。つまり美少女。そうでしょう?


「さぁアオイ!次に行きましょう!」


「ハイテンション過ぎて私死んじゃう………」


体力クソ雑魚マンの私が死んじゃう………









時間は経過し、ハイテンションなアリスを落ち着かせてこの街の観光をしてお昼食べて観光しつつ一旦宿に帰ってきてお風呂に入ってサービスのマッサージ受けて宿でゆったりしてその後に夕飯食べて寝る、直前という所だ。つまり、ベッドのセッティングは完了してるしパジャマ(私は下着のみの姿)は着終わってるし、と言う感じだ。まだ寝ていないだけで目を瞑れば眠るくらいだ。


「アオイ、アオイ。今日も私を抱き枕にしますか?」


「ん、うん。お願い」


「はーい。では失礼しますねー」


私とアリスは同じ部屋だ。厳密に言うなら私とアリスとレイカとフェイとミナは同じ部屋割だ。ただし、レイカとフェイとミナの3人と私とアリスの2人の寝ている場所が違う。私達の部屋は角部屋らしく、なんか余った部分があったのでそこに個室を付け足したんだとか。角部屋は普通の部屋よりちょっとだけ高いので空いてたらしくてここにしたとか。別に他の部屋も空いてたらしいけど。


で、その余った部分の個室には、ベッドが一つ。………それだけだ。後付けなのであんまり変なの付けられなかったらしい。レイカとフェイがミナと一緒に眠りたいと言うので、私とアリスは隔離されたのだ。というかアリスがこっちの部屋がいいですって主張したからこっちになった。まぁ私は誰と一緒に寝ようが寝るだけなので全く気にならないのでどうでもいいのだが。枕が変わると眠れないわけでもない。普通に寝る。きっかり(元の世界基準の)6時間睡眠だ。でも最近はあんまりにも早く起き過ぎるので(元の世界基準の)7時間半睡眠にしようとも思っていたりする。流石に(元の世界基準の)9時間睡眠は無理だと思ったのでな。睡眠は1時間半ごとに眠りの波が来るとテレビで言っていたのでちゃんときっかりの時間に起きるようにしている。


ただ、私のやり方だと睡眠時間を減らすのは楽なのだが、睡眠時間を増やすのは難しいので、(元の世界基準の)7時間半睡眠は割と苦戦している。減らすだけなら簡単だ。1週間くらいの間眠る時間を固定化して眠り、起きたい睡眠時間のタイミングに目覚ましをかけてただ1週間を過ごすだけでいい。そうするだけで私は睡眠時間を減らせる。勿論限度はあるだろう。試した事はないというか試す必要も無いのだが、睡眠時間を極端に減らすのは無理だ。多分私の身体の方が保たない。そもそも(元の世界基準の)6時間睡眠で十分休息も取るているし寝起きも良いのだから減らす必要が無い。まぁそう言ってる癖に睡眠時間を増やそうとしてる私は馬鹿なんだろうけど。まぁ私は馬鹿でアホで間抜けでゴミでクソ雑魚だと自分でも思っているのでその辺は別にどうでもいい。私は私だから私が納得してればそれでいい。


私は基本的に自己中心的だ。自分を中心に世界を認識しているので当たり前なのだが、私は自分が世界の中心だと思っている。私が認識しているから世界が動いているのだと思っている。でもそれだけだ。自分が特別でも無いのは知ってるし、トラブルメーカーでは無いし、物語の主人公のような劇的な話も無い。世界は私を中心に回っている。けれど私は世界の主人公じゃないし主役じゃない。それだけだ。………深夜テンションみたいなの入ってるな、私。馬鹿みたいに頭回してる。まぁ直ぐ寝るからいいけど。


「あー………アリス最高………」


「ふふっ、それは良かったです」


アリスの抱き心地は最高だ。心も安らぐが、身体も安らぐ。ベッドに横になり、枕に頭を乗せ、アリスを抱き枕として抱きつく。人の温かさと清楚さの滲み出るようなアリスの声ととやわこい美少女ボディが最高の組み合わせだ。これは確実に世界を取れる。こんなの一度体験したら忘れられないだろう。………こんなの、小さい子にやったらきっと性癖歪むだろうなぁ。しかも男女問わず。


「………アリスはこうして抱きつかれるの嫌じゃない?」


なんか無性に心配になってきちゃった………大丈夫だよね?嫌われてないよね?もし嫌われてたらショック受けちゃうけど。


「嫌じゃ、ありませんよ。………むしろ、こうして人の温もりを感じながら眠る、というのは………とても、良いものだと思っています。冷たくも、寂しくもありません。………もっとぎゅーって、してもいいんですよ?」


ぎゅー。本人にしてもいいと言われたので私は悪くないです。………実際、温もりを感じながら眠るのも、寂しさを感じさせないのも、凄く安心して眠れる気がするから私も好きだ。この温もりが好きじゃなかったらやる訳ないだろうに。ちょっとだけ閉じていた目を薄らと開けると、そこには美少女の顔が。ついで言うなら目が合った。アリスも私と似たようなタイミングで目を開けたらしい。互いの目を見た私達は、くすりと小さく静かに笑いあった。


「ふふ………とても、あったかくて、いいですね………」


「あはは………うん、あったかい………」


「さびしくないって、いいですね………」


「そりゃそうだ………」


「こうしてるだけ、で………わたしはとてもうれしい、です………」


「私も嬉しいよー………」


段々と、アリスの声がぼんやりとしていく。眠ってしまいそうなのだろう。私も眠いので似たようなものだ。私も眠くなってきているので似たようなものだろう。


「………ねぇ、アオイ。あの日、あの時………私を助けてくれたあの日、あの時………もし、あそこに居たのが私じゃなくても………見知らぬ誰かを助けていましたか………?」


「まぁ、助けてって言われたら助けるよ………私だもの」


助けてと言われれば、乞われれば、私はそれで構わない。だって、助けて欲しいなら言葉に出して言うべきだから。だって、そうしないと助けてなんて伝わらないんだから。だから、あの場所に居たのがアリスじゃない別の人でも、私はきっと助けたでしょう。それが私、松浦葵なのだから。………でもまぁ、今はなら優先的にアリスを助けるかも。勿論、助けてって言われないと助けないけどね、ま、その優先順位はアリスが一位かもだけど。


「………アオイは、やっぱり優しい人ですね………」


「優しいかなー………?」


優しい人ならもっと上手くやるだろう。優しい人ならもっと無垢であるべきだ。優しい人なら誰彼構わず手を差し伸べなければ。優しい人なら相手の為に何でもしなくちゃ。だから、私は優しい人じゃない。ただの偽善者で偽物で、それでいて間抜け且つ愚かな馬鹿だ。自分の事しか考えられないが、でもそれでいい。私はそういう人間なのだから。だからそれでいい。


「………ねぇ、アオイ………また明日も、よろしくお願いしますね………」


「明日も一緒のつもりだったんだけど………まぁ、うん。こちらこそよろしくね………」


「………おやすみなさい、アオイ」


「うん………おやすみ、アリス」


良い夢を。そして良い目覚めを。私はアリスと一緒に目を閉じて、そのまま眠りにつくのだった。












⬛︎◇⬛︎◇⬛︎◇⬛︎


──追っている。


何を追っているのかは分からない。ただ、何かを追っている。がむしゃらに走り続けて、手には何か武器………剣かもしれない。槍かもしれない。弓かもしれない。杖かもしれない。ナイフかもしれない。大剣かもしれない。何でもいい。私は武器を持って、ただただ走っている。


走っているのは、長い場所。廊下かもしれない。洞窟かもしれない。とにかく長く続く場所。走り続けられる場所。


視線の先、長い場所の先。そこに居るのは1人の子供。女の子かもしれない。男の子かもしれない。人間じゃないかもしれない。小柄で小さなイキモノだ。私はあれを殺さねばならない・・・・・・・・。何故かは知らない。どうでもいい。私はただ殺すだけ。


追いついた。小さなイキモノに追いついた。小さなイキモノは泣いている。嫌だって、痛いって、何度も私に言ってくる。でも私は気にせず振るう。気にせず突き刺す。気にせず唱える。小さなイキモノは泣き叫び、悲鳴を上げ、そして段々と弱々しい声を上げる。


──崇拝せよ


声が聞こえた。誰の声?誰でもいい。私はこの小さなイキモノを殺して、一緒に帰らないと・・・・・・・・。どこに帰るの?どこでもいい。帰ればいい。帰ればわかる。ただ歩むだけでいい。この小さなイキモノと一緒に帰るだけでいい。


──畏敬せよ


歩め、歩め。ただ歩め。この手のなかにある小さなイキモノの心の臓・・・と共に。ただ走れ。ただ進め。


──畏怖せよ


煩い小さなイキモノだ。私が殺したのにまだ鳴くか。心の臓だけで・・・・・・まだ泣くか・・・・・。あぁ、あぁ。小さな神・・・・よ。泣かないでおくれ。鳴かないでおくれ。


────助けて


そうか。それならば助けねば。助けなければ。そうしなければ私は私ではない。私が私である限り、助けを乞われれば応えなくては。


────助けて


これが神であるならば。それならば、肉体があればいい。しかし小さな神の肉体はもう無い。代わりが必要だ。小さな神の肉体の代わりが必要だ。ならば。


────助けて


私の心の臓と取り替えよう。我が胸をこの手の武器で切り開き、脈動する心の臓を己が手で抉り出し、小さな神の心の臓を配置する。これでいい。これでこの小さな神は復活する。これでこの小さな神は蘇る。


────ごめんなさい


何故謝る?小さな神を殺したのは私だ。苦痛の原因は私だ。謝るな。憎め、憎め。憎悪を以って我が肉体を侵せ。小さな神にはその権利がある。復讐せよ。報讐せよ。お前にはその権利がある。


────ごめんなさい


謝る必要など無い。私は私のするべき事をしただけだ。全て、私のするべき事だ。謝る理由などない。必要など無い。義務などない。権利すらない。ただ憎め、憎め。そして復讐として私を侵せ。それでお前は助かるのだから。それでお前の助けに応えられるのだから。


────ありがとう


────さようなら


助けられたならそれでいい。


⬛︎◇⬛︎◇⬛︎◇⬛︎










………目が覚めた。あー、夢か。アリスは………まだ寝てるのね。あー、抱き枕のアリスが最高………ふんわりでやわこい………何の夢だったかなー………なんか………こう、なんか………夢ってあんまり覚えてないんだよなぁ。その癖、なーんか妙に良いアイデアが沢山浮かんでくるし………くそぅ。でもまぁ、あんな感じの夢は内容覚えてないけど割と良く見るよね。今回は何かを殺す側?だったけど、殺される側の時もあるし。なんか謎の殺戮ゴーレムに蹂躙される夢とか見たことあるしな。別に何でもないだろう。にしても、私は夢の中でも同じようなことしか言ってないような気がするなぁ。あー、具体的な内容が出てこない………ま、ええやろ。


「………ん………」


伸びをする。全身の筋肉が緊張し、その後一斉に弛緩する。身体のあちこちから骨の鳴る音がする。それがそこはかとなく気持ちいい。伸びをした時になんとなく左胸が痛かったのは気のせいだろう。なんか変な風に圧迫でもされたかな。ま、抱き枕が人間だからね仕方ないね。ちなみに私が一人で伸びをしたのはまぁいいが、実はアリスも私の事を抱き枕にしているので離れられないという。というか、アリスを攫ってきてから大抵毎朝こんな感じだ。私はアリスという名の抱き枕な魅力に取り憑かれてしまったからな………手放せないんや………


「んー………」


まだちょっと眠いけど、もう少しゆったりしてたら自然に目が覚めるだろう。私、朝に顔を洗わない主義なんだ。シャキッとするしニキビとかの予防にもなるのでした方が良いのだろうけど、面倒だしお風呂とかプールとか以外の濡れてもいい時以外でわざわざ自分から濡れるの嫌いなのでやりたくない、というのが本音だ。だから毎朝自然にちゃんと目が覚めるまで待機している。勿論目が覚めて直ぐに目がシャキッとする事もあるので割と日によるが。


「………あったかーい………」


アリスがあったかい。毛布よりもあったかい。すやすやと眠ってるアリスが実にあったかい。これは人をダメにするタイプのアリスだ。私もうこのままでいるよ………堕落しちゃう………


「すぅ………すぅ………」


………ま、一人で勝手にボケたとしても現実はアニメや漫画じゃないので、そう都合良くアリスが起きてくれたりはしないんですけどね。そもそもこうして私が先に起きて抱き枕から逃れられないのって割と良くあるし。だって私の睡眠時間ってば元の世界基準の6時間だからね。アリスの睡眠時間はこっちの世界基準の6時間だから、ほら、時間に差があるわけよ。こっちの世界換算なら私の睡眠時間は3時間と60分だからな………だからか知らないけど、アリスにもミナにもショートスリーパーとして見られている節があるし。まぁこっちの世界基準で考えるならせやろなって感じだけど。


だから、こうしてアリスに抱き枕にされたまま数時間放置、というのは割と良くある。最近は程良く疲れてると元の世界基準で7時間半は寝られるので、この世界基準で4時間70分は寝ることになる。3時間弱の待機より1時間とちょっとの待機の方が楽に決まっているだろう。待機中は第五アップデートで投影した画面で本を読んだりちょっとしたゲームをしたりして暇を潰しているので、別にそこまで待機中が暇というわけでもない。小さい頃から本を読むのは、というより文章や文字を読むのが好きだからな。最近は時間さえあれば本を常に読んでいる。勿論ゲームもする。ただ、今の私には学業というモノが無いし、何よりスマホ自体の実体がないので密かにスマホを弄っていてもバレないのが素晴らしい。や、勘の良い人とか高ランクの冒険者とかには何かしてるってバレてるらしいけどね。一応、図書館で借りた事のある本の文章を記憶から引っ張りだして読む魔法って誤魔化してるから平気だと思うけど。


「………っと」


アリスが強くぎゅーっと抱きしめてくる。アリスはこうして私を抱き枕にしていると、これを良くやってくる。こうして人肌に触れて温かくて柔らかい眠りを味わった経験が少ないせいで、逆に寂しさを感じてしまって、そんな温もりを逃したくないから力強く抱きしめる………らしい。アリス本人がそう言っていたから間違いは無いだろう。


「………よしよし」


なんとなく、丁度そこにあってガラ空きなアリスの頭を撫でる。頭を撫でるのは好きなので、別にアリスが起きてても普通にやるけど。アリスは私に頭を撫でられるの、別に嫌じゃないし普通に好きらしいからね。嫌いじゃないなら好きになるよう幾らでもやるし、元から好きなら尚更やるよ、私は。だって私は撫でるのが好きだからね。撫でられるのが好きな子が居たら撫でますよ。これでも男子高校生なのでね。私は欲望に割と忠実だよ。やりたい事はやるし、やりたくない事はやらない。


「………アリスは頑張ってるよなぁ………」


いつも、いつも。アリスはいつも、自分が好きなモノの為に全力全開で頑張っている。世界を旅する為に強くなろうと努力しているし、世界全ての"知らない"を知るための勉強もコツコツとしている。アリスは確かに天才だ。真理の瞳というユニークスキルすらある。ついで言うなら清々しいくらいの美少女だ。天が二物どころか三物くらい与えている。でも、アリスはそれで更に頑張っている。私なら無理だ。私なら出来ない。私は努力が出来ない。努力を知らない。努力を自覚せずに生きてきた人間には、何が努力か分からない。アオナお姉ちゃんも同じ、らしい。


だからこそ。アリスのあの努力は素晴らしいモノだと理解できる。いつもいつも頑張って頑張って、それでも足りないと目の前に手を伸ばし続けるなんて。それは、人間としてとっても健気で、それでいて美しいモノだと、私は思う。私には出来ない事だからこそ、心の底からアリスは凄いと思う。


「………んぅ………」


アリスはまだぐっすりと眠っている。こんな時間に起きている私の方が馬鹿なのだから当たり前だが。


「………アオイ………」


アリスが、寝言で私の名前を呟いた。どんな夢を見ているのだろうか。そもそも夢を見ているのだろうか。というか私が夢に出てきているのだろうか。若干気になる。


「………手を………離さないで………」


私はその言葉を聞いて少し考えてから、目の前で私の事を抱き枕にしているアリスの手を左手でぎゅっと握る事にした。抱き枕として私の事をぎゅーっとしているので若干手を握りにくいが、まぁ、無理ではないのでやる。


「………温かい………」


「………私、末端冷え性だから手は寒いと思うんだけどなぁ………」


でも、アリスにはそれが温かいらしい。まぁ、今までが極端に寒かったからこそ、これでも温かいと思ってしまうのだろう。しかしこれでいいのだろうか。こういうのって、やはり私みたいな一般男子高校生ではなくバリバリのイケメン勇者とかの方が嬉しいんじゃないか?言動全てがカッコいいタイプの王子とかでもいいと思うが。美少女と美男子は絶対似合うし。カッコいいと可愛いの融合は無敵って昔から決まってるからよ………それか美少女+美少女。女の子同士の絡み、つまり百合も素晴らしいと思うんだよね。アリスならどっちでも似合いそう。私は側から見てるだけでいいよ?


「………」


アリスの頭を右手で撫でる。左手はアリスの温かい手の中に囚われているのでそちらはそのままに、右手でふんわり優しい食パンみたいなアリスの頭をさわさわと撫でる。うーん、これは素晴らしい肌触り。ふんわり柔らか食パンにも匹敵する素晴らしさだ………例え方が最悪な気がするが一言も口に出してないのでヨシ!流石のアリスだって多分読心は出来ないからね。真偽判定は出来るの知ってるけど。


「………んー………」


起きてから2回目の伸びをする。今度は軽めの伸びだ。というか両手が塞がっているのであんまり強く伸びができない。まぁする必要も無いけど。


「お腹空いた………」


口癖。事あるごとにお腹空いたって言ってる気がする。食後にも言うしな。やっぱり口寂しいとかなのだろうか。いやもうそれは常に何か食べてればいいのでは?私は訝しんだ。


「………んぅ………」


アリスの私を抱きしめる力が少し弱くなる。もう私は良いのだろうか?そう思ってベッドから離れようとするが、まだ駄目らしい。離れようとした瞬間に力が強くなった。むしろさっきよりも強いかもしれない。いやまぁ、ここでベッドから離れられた事、今まで一度も無いんですけどね?でもさぁ、一回くらいはいけるかもしれないじゃん?感覚としてはちょっとしたゲームだよ。ほら、なんかそういう感じのゲームあるよね。どんなのか具体的には覚えてないし思い出す気も無いけど。でもなんかあった筈。


「………とりあえずログボだけ回収しよ」


私は亜空間からスマホを取り出し、充電魔法(充電用に改造した雷属性魔法。スマホの充電ができるだけの魔法)を使って充電をしてから、再度スマホを亜空間に収納し、そしたら今度は第五アップデートを通じてスマホの画面を投影する。これならスマホ自体の電源が点いていないので、こうやって使った方がスマホの充電が長持ちするのだ。とりあえずログインボーナスだけ回収して………スタミナ限界まで周回して………うん、よし。スマホ終了。ゲーム後にちょっと本でも読もうと思ったけど、この前というか昨日丁度一つ読み終えた所だし、次の物語に入るのは別に後で良いだろう。アリスに連れ回されているので総合的な読書時間はあんまり確保出来ていないが、ちょっとした待機中にちょくちょく読んでるので割と読み進めたし。


「んー………」


ログボ回収も一通りの周回も終わったのでやることが無い。いやまぁやろうと思えば周回用のスタミナ回復は出来るし他のFPSとかも出来なくはないけど、今はこれといってやる気も起きないのでやらない。いつもこう言う時は本の続きを読んでいるのだけど、今は生憎とそんな気分でもない。いやまぁスマホ開いて小説の画面にすればその気にもなるだろうけど。


でもまぁ、今日はもうアリスが起きるまでゆったりしてるつもりなので、このままゆったりしてるけど。


「アリスはいつ起きるかなー………」


いつ起きてもいいけどね。

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