和と洋のいいとこ取りが和洋折衷って意味らしい


マリンちゃんとアリスの2人が私の作った問題集を解いてくれた日から10日後。この10日間で、私達は色々と準備を済ませたのだ。


そう、宿屋のみんなで旅行である。


お休みすると言う連絡と手回しをして、宿屋に宿泊している人達全員が居なくなるタイミングを見計らって、新たな宿泊客は泊めないようにしたり、食材の定期購入を一時的に停止して貰ったり………と。私がやった事はほぼ無いに等しいが、そうやって色々と準備を済ませてあるのだ。コルトさんとかお姉ちゃんとかミゼルとかリリーさんとかマリンちゃんとかフェリスさんとかブレイブさんとか、とにかく知り合いの人達には旅行のことは伝えてある。まぁ私は何処に行くか知らないから、何処に行くのかは言ってないけど。アリス曰くサプライズらしい。まぁどこ行こうが困らない(場所によっては困るかもしれないが)ので良いけれど。


では、今回の旅行のメンバーを紹介するぜ!


まずは私。今日の私の服装は、いつも通り宿屋の制服である。最近この制服を着てないとピンと来なくなったので他の服はアリスにあげた。体格も私が少し大きいくらいでそこまで問題無かった。髪は以前よりも伸びて既にポニテになっている。一応、予備として他の服もMICCミックの中に入ってはいるが、まぁ着ないだろう。特にキングプロテア・スカーレットとして活動するためのドレスとか、日常生活で着る必要が無い。そもそも素直に着るのは不味いし似合わない。いやミナが言うには似合うらしいけどそれはあり得ないだろう。


次にアリス。今日のアリスの服装は、非常にシンプルな真っ白で無地なワンピース。そしてつばが広い真っ白な帽子と、編み込みサンダルという、正に美少女みたいな服装だ。黒髪が風に流れる光景を見て、思わず美少女かよって口に出るくらいには美少女だった。ワンピースのスカート丈は膝下だったので控えめに言わずとも最高である。女神かよ。多分丘の上とかに居たら絵のモデルとかになったりする感じの美少女で私は嬉しい。


次はレイカ。今日のレイカの服装は、動きやすさを重視した服装だ。上は薄青、下は薄橙の半袖短パンである。ついでに言うなら髪も短めだ。こちらはシンプル且つ可愛さが備わっているものらしく、レイカに非常に似合っている。それから、レイカは護衛も兼ねているので、手には討伐したエルダードラゴンの鱗とヒヒイロカネなる魔法の金属を使って鍛治師の人に作ってもらった、僅かでも魔力を流す事でかなりの炎を纏って、それでいてそう簡単には壊れる事のないくらいのあり得ない頑丈さを持つ、レイカお気に入りのガントレットを両手に、そして脚の方にも同じ素材と同じ効果のサバトン(鉄靴の英名らしい。調べて初めて知った)を両足に装備している。完全装備だ。


そしてフェイ。今日のフェイの服装は、割と前から前に私が作った簡素なワンピースではなく既に他の素晴らしい服に変更しているのだが、その新しい服を着ていた。その服だが、こちらも2人で討伐したエルダードラゴンの革と、またまた2人で討伐したらしい神狼フェンリルという名前のエルダードラゴンと同等レベルの強さを持つ狼の毛皮を使った、非常に頑丈な服に変えている。ちなみに私が以前フェイに上げた服は今、フェイが寝る時の毛布代わりになっていたりする。まぁ使われるなら文句はない。というか、別に捨ててもらっても構わないのだが、中々捨てないのだ。なんでだろうね。愛着でもあるのかな?


今日の主役のミナ。今日のミナの服装は、いつも見ている制服姿ではなかった。髪型はポニテのままだが、服装が違った。上は白を基調としたシャツだが、胸元には薄赤のリボンがあり、裾の辺りには二つポケットが付いている。下は黒を基調としたスカートで、裾付近に金色の刺繍が入っているのが特徴だ。スカート丈は勿論ながら膝下である。素晴らしい。ミナも普通にアリスに負けず劣らずの可愛さなので似合うんだよこれが。


今日の主役その2の店長さん。今日の店長さんの非常にシンプル。白いシャツに黒いズボン。以上!シンプル!しかし、シンプル故に店長さんの素のダンディーさが全面に押し出されている。多分、あれは海に行ったらJK達からナンパされるタイプの渋さだ。深い大人って感じがする。ああいう漢になりてぇ、って感じの男だ。これから目標は店長さんになるかもしれない。


最後に紫悠だが………紫悠?冒険者として働く格好とほぼ同じだよ。仮面虫をシャドウスペースで収納?して顔に装着してないだけで、黒いローブはそのまま着てるし、フードはそのまんま着けてるよ。元の世界の時からずっと全身黒ずくめだけどさ、マジで日中から全身真っ黒でフード付けてるとか犯罪者みたいだよね。いっぺん何かの間違いで捕まっちまえばいいのに。


という、合計7人での旅行である。この内、レイカとフェイの仕事は基本的に護衛が仕事だ。2人?1人と1匹?は、この前ランクが上がってからはSランクとか言う冒険者になったらしいので、まぁ凄く強いのだろう。2人でドラゴンとか倒したらしいしな。だからまぁ、護衛の強さは特に心配していない。というか2人より弱い私が2人を心配できる立場ではない。それに、いざとなったらバティンの転移で逃げようかなって思っているので………なんとかなってほしい。


で。


「飴」


「め、ですか?うーん………メモ、はどうでしょうか?」


「もー?もー、森!」


「!、?、!!」


「料理だって!」


「り、ね?りー、りー………りー?流星?」


「インスマス」


私達は今、旅行先に向かっている途中である。全員で馬車に乗り込んで、ゆったりと道を進んでいる。ちなみに、馬車の運転をしているのは店長さんと紫悠の2人である。厳密には店長さんが運転して、紫悠が車で言う助手席に座って運転の仕方を教えてもらっているのだが。なんか使えるかもしれないって事で教えて貰うらしい。私?私にはバティンが居るので無問題。


そして。残った女性陣(私は男だが身体は女性なので一応女性陣に含んでいる。なんせ医学的に表示するのは肉体の性別なので。クソが)は、みんなでしりとりをやっているのである。私→アリス→レイカ→フェイ(言葉が分からないのでレイカが翻訳)→ミナ→私の順番でやっているのだ。ちなみに、今のところアリスとミナが一敗している。ちなみに、特にこれといった時間制限も無いので、次の言葉を考え続ければ負けはなかったりするのだが、2人は自決している。ちょっとカッコ良すぎる。


「す、ですか?あ、スパイス、はどうでしょう?」


「す、ねー?すー、砂嵐!」


「?、?、!、!!」


「召喚魔法だって!」


「う?うー、うー?う、でしょ?うー………馬!」


「まー、マグロ」


しかし思ったが、しりとりって案外楽しいな。物凄い楽しいって感じではないけれど、そこそこ楽しいって感じだ。人数も多いから割と続くしな。まぁずっとやってたらアリスだとしても普通に飽きそうなので、適度にやったら違う遊びになるだろうけども。そうなったら次はなんやろなぁ。私が手持ち無沙汰で作った手作りトランプ(厚紙に図形と数字を描いただけの雑なトランプ)とかだろうか。でもあれ、完全に手作業且つ暇つぶしの作業で作った物だったから、トランプ毎に大きさが違ったりして微妙にイカサマ出来る仕様なんだけど。レイカとフェイは割と記憶力良いし、アリスは純粋に目が良いからな………最終的に私とミナの戦いにしかならない気がする………そもそもアリスに対して嘘ついてもバレるしなぁ。真実の言葉が見えるって何だよ。いーなー、その機能だけ欲しい。真実だけを見る機能要らないから、真偽判定の機能だけ欲しい………


「ろ、ですね?ロスト、です!」


「と、と、とー?あ、トマト!」


「!、!!」


「トナカイだって!」


「い、い?いー、いー………い、イモータル!」


「るー、ルビー」


しかしなんというか、しりとりだけでもかなりやり方に差があるな。アリスはいつも通り敬語は外さないの可愛いし、レイカとフェイは純粋に楽しそうなの可愛いし、ミナはどうにか言葉を捻り出そうとしているの可愛いね。うんうん、みーんな女の子って感じで可愛いね。………これもしかしなくても普通にしりとり関係無い感想だな?いや、いつもと違った服装だったりして可愛いじゃん仕方ないじゃん。だって私、これでも歴とした男子高校生なんだよ?可愛いものには可愛いって言うでしょ。だって可愛いんだもんよ。まぁ本人達には絶対言わないけどな。恥ずかしいし。


「びー………?アオイ、アオイ、あの外のアレは何ですか?」


「はいはい、何ですか何ですか?」


アリス様のご質問タイム入りまーす。はいはい、外ね外ですね?一体何が外にあるというのか。まぁ何にせよ大抵の目星はつくでなんだあれ?


「え、何アレ。私見たことないが?」


「そうなんですか?アオイなら知ってるものかと………」


「いや、まぁ、うん。似たようなのは知ってるけど」


「外になんかいるの?敵意とかないんだけどなー」


「!、????」


「えっ、何あれ。私も見たことない」


「外、外に何かあるの?………あー、あれね、あれ」


知っているのかミナ。


「ミナ知ってるんだ。あれ何?」


馬車の外にある"アレ"。それは、なんというか………こう、言葉で言い表すのが難しい感じの、生命、体?あれ生命体か?いや生命体だな!今動いたし!


「あれ?あれはね、マヒベッシラコータラーニ、って名前の、特に何もしてこない無害な魔物よ」


「え、あれ魔物なの?あの、言葉にできないタイプの謎の生命体。というかその名前何?」


「そう。体長は大体1mからm前後。体重はおよそ50kgから80kg程度の、歴とした魔物よ。防御力は正直ドラゴンとかより強いらしいし、なんなら神族ゴッドでも討伐出来ないくらいに防御能力が高いわ。その分、攻撃性能は全くのゼロだけど。例えば、マヒベッシラコータラーニが人を押し潰そうとしても、マヒベッシラコータラーニは自分以外の生命体の身体を透過するらしいわ。とにかく居るだけの魔物、って感じね。そもそも人里に一切近づかないし。なんでも、呼吸と太陽光、それから世界に満ちる魔力で活動のエネルギーを確保しているらしいわ。名前の由来は確か、あの謎生物を調べた学者全員の名前を2文字ずつ合わせて、最後にそれっぽい2文字を付け足した、とか、なんとか。正直、あんまり覚えてないわ」


むしろ良くそこまで覚えてたな?


「あぁ、後は、割と見ることは稀だし、何より見れたら縁起のいい魔物らしいわよ。旅の最中で見れたら幸運が訪れるんだとかなんとか」


「つまり今回の私達の旅は幸運なものになるってことでオーケー?」


「そうなるわ。みんな、良かったわね?」


ほほーう、そうなのか。


「それはそれとして、アリス、次はびだよ」


「わえっ?あっ、そうでしたそうでした。しりとりの途中でしたね。そうですねー、びー、びー………」


まぁ、うん。マヒベッシラコータラーニに遭遇?というか邂逅出来たからかそうではなく普通に元から何も無かったからか、本当に特に何事もなく目的地である街に到着する事になるのでした。馬車旅は行きはおよそ3日でした、まる。








馬車旅の3日目、そして目的地に到着した日。私は。


「アリス、ちょ、待って待って、地図で位置の確認が出来るとは言え、歩くのが速いって待って待って」


「アオイ!あっち!次はあっちに行きましょう!ほら早く行きますよほら早く!」


「まっ待って、落ち着いてアリス、落ち着いて、私は引っ張ったままはしゃがないで、わたしがしんじゃう」


今日もいつものように私がアリスと手を繋いで歩いていたのだが(外を散歩する時は割とアリスを手を繋いでいる。そうしないとふらふらアリスが脇道に向かって逸れるので)、今日はいつも以上の力と速さで引っ張られてしまい、私が大型犬に引っ張られる飼い犬みたいな感じになってしまっている。ちょ、待って待って、疲れちゃうから。私の体力くそ雑魚だから………!



「アオイ、アオイ!行きますよ行きましょう!」


「まって、わたしがしんじゃう」


貴女手加減する気ゼロですね!?


「えっ?あっごっごめんなさい!アオイ、ごめんなさい、えっと、あの………ちょっとだけ、はしゃいじゃいました!えっと、大丈夫ですか?」


「だいじょうぶ、だからちょっと、きゅうけい、させて」


死んじゃう。私、体力くそ雑魚だから。こんなに、走り回ったら、私、死んじゃう。


「はっ、はっ、はっあ、ふー、ふー、ふー………はあ、はあ、ふー………」


「ご、ごめんなさい。はしゃいじゃいました………アオイ、大丈夫ですか?」


「うん、うん。もうちょいまって」


アリスの興奮度合いが完全に予想外だった。いやまぁ、アリスが旅する事大好きなのは知ってるんだよ。外の世界を見てみたいっていつも思ってるのも分かってるの。でもあんなに興奮するとは思わないじゃん。アリスはいつも理性的だから、はしゃいだらあんなにタガが外れるとは思わないじゃん。いやまぁ、正直言って楽しそうにはしゃいでるアリスは可愛いから、それは別にいいんだけどね?でもそれで私が被害を被るなら話は別だぞそこの美少女よ。ほら、お前のことやぞアリス。でもまぁ可愛いから許すけどな!というか、私が走って疲れただけだしな。それにちゃんと謝って、そして立ち止まってくれたなら文句は無い。ちょっと後で何かやり返すかもしれないけど、まぁそれは別にいいよね?


「うん、ありがとうね、アリス。もう大丈夫。お願いだからあんまりはしゃぎ過ぎないでね?私が死んじゃう」


「うぅ、アオイ、ごめんなさい!初めて来る場所だったのではしゃいじゃって………でも今から大丈夫です!アオイの事を考えて、なるべく走らないようにします!」


「うん、まぁ、考えてくれるだけ良いか」


さっきまで、私と手を繋いで全力疾走だったものね。アリスが初めて見るものに弱いのは知ってたんだけどなぁ。………いざとなったらバティンでも召喚して足にしよう。あいつに抱えてもらえば早いだろうし。


「ではアオイ!あっち!あっちに行きましょう!あのお店!あのお店です!さぁ行きますよアオイ!未知が私を待っています!」


「うん、分かったから走らないでね?」


「大丈夫です!走ろうが歩こうが未知は逃げませんから!さっきまでは興奮してて走っちゃっただけです!今度は平気です!」


うーん、やっぱこの美少女アリス可愛いな。後で頭とか撫でたげよ。


「うん、分かったから走らないでね。せめて一言何か言ってから走って?じゃないと転けちゃうから」


私、運動神経はゼロな訳じゃないんですよ。両親2人がバスケットボールと野球とかをやる運動得意系の人間だったので、普通に運動神経もちゃんとあるんですよ。それでいて私の両親は小説とか程々に読むタイプの人間でしたけど。だから、別に私、運動できない訳じゃないんです。極めようと思えば、流石に頂点を目指すのは無理でしょうけど、良いところまで行くかな、とは思うんですよね。完全に自惚れですけども。でもですね、全くの努力をせずにある程度のスポーツは出来るんですよ。素人に毛が生えた程度のものですけども。つまり、運動神経は低いわけでも無いから、まぁちょっとは高いんでしょう。


でもね?ちょっと高め?かもしれない運動神経があっても、流石に突然走り出されたら転けるんですよ。なんせ私の知り合いに物理法則って言う名前の無敵且つ絶対の存在が居るからね!そりゃ急加速したら転けるし、転けたらこの惑星の重力に引っ張られて転びます。私は普通の人間なので。物理法則とか超越できるタイプの頭のおかしな存在じゃないので。


いやまぁ物理法則を超越できる存在とかそんな話この世界で聞いたことないけど、でもファンタジーで物理法則とか、割と無いようなものでしょう?というか、魔法がある時点でアレなんだけど。実は物理法則さんは魔法法則?さんと仲良くなる仕様とかに改造されてたりしない?大丈夫?仲良くなる仕様とか謳っておいて実は物理法則さんと魔法法則さんの間で主従関係みたいなのが生まれてたりしない?具体的には魔法法則さんが主で物理法則さんが従者ね。命令一つで物理法則さんの全てを書き換えられたりしてない?大丈夫?私、主従の命令権で無理矢理従わされて愛する人をぶち殺す系の小説読んだことあるよ?いやまぁ、概念同士でそんな事起こる訳も無いけど………擬人化すればワンチャン?………いや、概念が人型になればジュッチャンくらいあるか?


「アオイ、アオイ!今度はあっちに行きましょう!」


「分かった、分かったから。だからあんまりはしゃがないで?」


私が色々と考えている間にアリスは目当てのものを見終わったらしく、右手に木刀を持っていた………木刀?


「その木刀は何?」


「え?この街のお土産らしいですよ?ほら、柄の部分にこの街の名前が刻まれてます!こう言うのが思い出作りに良いと言われたので買っちゃいました!」


「なるほど?なるほど」


これもしかしなくても私以外の日本人の影響だな?


「アオイ、アオイ!今度はあっちの通りに行きましょう!そして夜には一緒に温泉・・に入りましょう!」


「まーうん、私は良いんだけどね、私は」


温泉。そう、今回やって来たこの街の観光名所、それは温泉である。ある男が偶然にも源泉を掘り当てた事で温泉宿が出来て、それに合わせるように店やギルドが集まって出来たのがこの街らしいからな。ちなみに源泉を掘り当てた人はまだ全然生きているらしい。掘り当てたのだって10年前とかその辺りらしいし。


そう!今回、ミナと店長さんの心と体を休める為に選ばれたのは………そうだね、温泉だね!心と体を同時に休める事ができるのは温泉宿しかないとアリスは言っていたし。ちなみにこの街着いてアリスから温泉宿に泊まりますとか言われて初めて思った感想は、この世界って普通に温泉宿あるんだね。アオイお姉ちゃんの出身らしい日本風の国にしか無いと思ってたよ、くらいだ。まぁ地下水とその地下水を熱せられる現象があればどこでも温泉の源泉くらいは発生するだろうし、あんまり考えても魔法の世界に元の世界の当たり前が通用するとも思えないので、この街には温泉がある、くらいの認識でいいだろう。深く考えるのも面倒だしな。


ちなみに、宿の内装は和洋折衷な宿だった。基本ベースは普通の洋風ホテルなんだけど、所々に和風がある感じの和洋折衷だった。具体的には個室が畳だった。


「アリスさん?私の性別忘れてる訳じゃないよね?」


「?アオイは男の子でしょう?それくらい分かってますよ。でも今は女の子なんですよね?なら問題ありませんよね?」


「あー、はい、まー、アリスがそれで良いならいいけど」


この子には乙女の貞淑さとか教えた方が良いのだろうか。危ういなぁ、実に危うい。まぁ、本人に頼まれなきゃ教えもしないけど。なんせ、無知は罪だからな。何も知らなくて傷付いたとしても、それは完全に自業自得だ。私が助ける必要も理由も義理もない。アリスは私のモノだけど、でもそれだけだもの。


「!アオイ!あの露店に魔法の威力を下げる魔法道具が売っています!」


「!なんだと!行くぞアリス!」


「あっちですあそこです!!」


それは何としても欲しいのだが!!欲しいのだが!!!






結果。アリスと一緒にはしゃいで手に入れたのは『魔力抑制スカーフ』なる、スカーフ型の魔法道具だった。その効果としては、身に着けている間だけ、本来の2分の1の魔力だけで消費可能になる代わりに、魔法の威力、効果を50%軽減して発動するという、実に素晴らしい魔法道具だった。ただし、使用する全ての魔法の威力、効果が半減するという事なので、御目当ての魔法道具では無かったが………しかし!この魔法道具に搭載されている『魔法威力軽減』というこの効果!この効果だけどうにか取り出して、私の攻撃魔法をどうにかして軽減して、丁度良い魔法に改造したい!ので、この魔法道具の仕組みを解体して、いずれ私専用の魔法威力軽減の魔法道具を作ろうと思う。アリスにもお手伝いしてもらお。後はリリーさんとかにも教えたげよ。丁度二つあったし片方はリリーさんへのお土産としてあげようかな。


「アオイ、良かったですね?」


「うん、良かった良かった。控えめに言って最高」


これを改造する事が出来れば、私も自由に魔法が使えるようになるのだからな!………まぁ、それを作るのは私じゃないけどな。だって技術が無いし。魔法道具を作るのに技術が必要なのは当たり前でしょ?出来ても精々がリリーさんに教えてもらった、刺繍で魔力の線を作る魔法道具擬きみたいなやつだからな。いやアレも魔法道具の一種なんだけどね?というか、魔法道具製作ならアリスの方が上手にできると思うんだよね。だってアリスは蝶ゴーレムとか作ってたし。しかも、あのゴーレム作るのに魔法使わずにやってたらしいし、魔法道具作成の才能はあるんでしょうから。


「では!次はあちらに──」


「あ、アリスちょっと待って、もう時間が」


現在時刻は18時61分。19時までには今回泊まる事になった温泉宿に帰ってこいとミナに言われているので、そろそろ帰っておかないとギリギリの時間になってしまう。流石に色々と怖いので19時ギリギリに帰りたくは無い。


「あ、もう時間ですか?」


「うん、18時61、いや62分。もうそろそろ帰っとかないと」


「うーん………時間なら仕方ありせんね。夜になったら露店はやってませんし、お店だって大抵は閉まってしまいますし………はい、大人しく帰りますね」


本当は夜の街とかも探索したいんやろなぁ。でもそれは流石に危険なのでダメです。アリスみたいな美少女が夜の街でふらふら探索なんてしてたら、悪ーいおじさんとかお兄さんとかに人気の無い場所に連れ込まれて、そのまま純潔散らされて汚されて、そしてそのまま美少女型性処理道具としてお持ち帰りされちゃうからダメ。私そういうえっちな小説見た事あるからダメ。


「早く帰って温泉入るか」


汗も流したいしね。どうせなら夕食の前にさっぱりしに行こう。食事は確か、個室でフルコースみたいにして食べるか、食堂みたいなこと所でバイキング形式で食べられた筈だし。私らはいちいち個室に料理を運ぶのが面倒という理由でバイキング形式の方を利用する事になっているのでね。


「私も一緒に入りたいです。良いですか?」


「や、別に私は良いんだけどね?アリスが良いならいいんじゃない?」


「私は大丈夫です。だから一緒に入りましょう?」


「あ、了解でーす。後で文句言わないでね」


「言いませんよ。私から言ってるんですから」


………うん、まぁ、アリスが良いならいいんだよ。というか、レイカとフェイは私の娘とペットだから一緒にお風呂に入ってもいいんだけど、アリスとかミナはさ、うん、違うんだよ。アリスはギリギリ私のモノだからマシだけどね?でもさ、それとこれは話が別なんですよ。私だって男子高校生なので、他人に裸を見られるってのはちょっと恥ずかしいんですよ。いやまぁ、アリス本人が良いって言うなら私はいいんだけどね?問題点、ただ私が恥ずかしいだけだし。


「とりあえず、さっさと帰ろうか。怒られるのは嫌だし」


いやまぁ、もう既に帰るために歩き出してるけども。


「そうですね………とっても、とーっても名残惜しいですけど、夜の街も見てみたいですけど………危険なので、帰ります」


「危険じゃないなら夜の街に行くとか考えた?」


「勿論です。………A、いやSランク冒険者にでもなれば平気でしょうか………?」


おっとそこの美少女アリス、自分が強くなれば危険じゃないって考えているな?………ちょっと考えけど、それが正解では?


「アリスがSランク冒険者になったら、レイカとフェイはもうSランクだし、私の知り合いのSランク4人目になるじゃん」


ミゼルがSランクだった筈なので、ミゼル、レイカ、フェイ、アリスで4人目になる。


「?アオイはならないんですか?」


「?ならないが?」


「そうなんですか?てっきり、アオイもSランクになるのかと思っていました」


「今の私は確かにBランクだけどね?これ大半は、バティンって戦力を冒険者ギルドが確保する為に必要な最低限のランクと、レイカとフェイと同じパーティー入った影響だかんね?というかアリスだってレイカとフェイと同じパーティーだし、多分アリスが強くなれば簡単にランクは上がるよ?」


「そうですかね?」


「まぁ多分ね。私は冒険者ギルド職員ではないからよく知らないけど、まぁ多分そんな感じでしょう」


多分ね、多分。


「お、もう着いたのか。意外と早く着いたな」


「そうですね………さ、アオイ。一緒にお風呂に行きましょう?」


「本当に一緒に行くの?」


「はい、一緒に行きます。駄目じゃありませんよね?」


「言い方がずるい………駄目じゃないよ」


言い方がずるい。だって、私にはその提案を断る理由がない。外を歩いたのだから、私だって汗は流す為にお風呂に入りたい。そして、今の私の身体は女性の身体。宿のお風呂は個室毎にある、なんて訳もなく、1箇所にデカイ温泉があるだけだ。だから、入るにはどうしても女湯に入らなければお風呂に入れない。そして、ここは私達の宿とは違い、私達はお客側だ。いつもお風呂に入る時はお客さんが入って来れない時間に1人でゆったり入るようにしているが、今日はそれも出来ない。ついでに言うと、私は疲れて外から帰ってきたら食事の前に汗を流して気持ち悪さを消してから何かを食べたいタイプの人間なので、今の時間帯にお風呂に入りたい欲は普通にある。


はい。これで、一体何処に私の方から断る理由があると?


しかもさ、質問の仕方がずるいよね。駄目ですか?ならまだ断れそうな感じなんだけど、駄目じゃありませんよね?って、それ、普通に断れないよ。断る理由がないから余計に断れない。そもそもアリスと一緒にお風呂に入るデメリットなんて精々、私が他人に裸を見られるってのが若干恥ずかしいくらいなんだぜ?んなの無視すれば懸念事項なんて何も無いじゃんか。断る理由が無い。


「はい!それじゃあ、一緒にお風呂に入りましょう!」


「あー、待ってー」


お願いだから走らないで、私はもう宿に到着したので全身が疲れ始めてるんだ………!








はい、お風呂です。紛れもなくお風呂ですよ。はー、1人でゆったり入りたーい………微妙に恥ずかしいんだよな、他人と一緒にお風呂入るの。や、知ってる相手ならまだ全然良いんだよ。………でもさぁ、知らない人と一緒に入るのって、なーんか、ちょっと恥ずかしいんだよ………こちとら男子高校生ですよ?見られて起こる恥じらいくらいありますってーの。プライベート空間寄越せ。


「アオイ、ここのお風呂は凄いですね。とっても広くて、何よりいつもとは違って和風です」


「うちの宿は洋風だからなぁ。そもそもここだって和風というか和洋折衷だし………」


「和洋折衷………ですか?」


「うん、和風と洋風が一緒になってるみたいな意味、だった筈。まぁ違くても今の説明とわりかし似たようなニュアンスの言葉だよ」


「なるほど、勉強になりますね」


そんな会話を私としているのは、まぁ言わずとも分かるだろうけど、世界の美少女なアリスである。お風呂なので勿論全裸だ。タオルで身体を隠しているって訳でも無い。本人に聞いたら羞恥心が薄いらしい。にしても、まぁこんなの普通に考えて当たり前なんだけど、美少女は裸でも美少女だな。美しいし可愛い。もっと羞恥心があればきっとアイドルとして売れるんだろうけど、別にアリスはアイドルでも何でも無いのでそのままでいい。だって誰も困って無いし。


「とりあえず、さっさと身体洗って湯船に浸かろうか」


「アオイ、アオイの背中を流してもいいですか?」


「まぁアリスが良いならいいけど」


わざわざ断る理由も無いしな。それに、自分でやらなくていいならその方が良いし。そんな事を考えつつも、壁側に設置されているシャワー達の一つを選んで、木製の椅子に座り込む。私は身体にタオルで身体を隠していたが、身体を洗う時にタオルは普通に邪魔なので、シャワーの側の棚に置いておく。目の前に普通に大きめな鏡があるので、前を向くと鏡の中のアリスと視線が合う。


「では、後ろに失礼しますね」


アリスはそう言って、隣のシャワーの椅子を持ってきて私の後ろに置くと、その椅子に座り込む。私の後ろに座っても、アリスは横からちょこんと顔を出して、鏡越しにその紅く染まっている真実のみを見通す瞳で、若干つり目で険しめの雰囲気を醸し出している黒色の私の瞳を覗いてくる。アリスはこちらと視線が合うと、いつもの笑顔に微笑みをプラスして私に笑顔を見せてくれるので、私は右目を閉じて左目は左の方を向く。まぁ、うん、誰かにまじまじと顔を見られるってのは、まぁちょっと恥ずかしいよね。相手が美少女ってなると、特に。


「では、アオイの背中を流しちゃいますね。その間、アオイはリラックスしてください」


「リラックスね、了解」


まぁ、普段から意識的に分かるような緊張はあんまりしてないし、普段から息抜きとかリラックスとか割としてるけど。なんて言ったって、私のお母さんにもあなたは息抜きが凄く上手いねってよく言われた事あるしな。だからまぁ、リラックスは得意中の得意よ。私に任せな?何もしないだけでええんじゃろう?全身の力をゆったりを抜いて、それでいて変な方向に倒れ込まないようにするだけじゃんね。


「ふぅー………」


「アオイ、お疲れですね」


「まぁ、ね。普段から動くことなんてそうそう無いし、体力がどうにもクソ雑魚だから………」


アリスは私とちょっとした会話をしつつ、ボディーソープを手に取って泡立てて、私の背中をゆっくりと洗い始める。アリスの白魚のように華奢で細く、それでいて力強さを感じるその両手で、ゆっくりと。こうして背中をアリスの指で洗われていると、この背中に感じるこの感触が美少女の指なのかと、ふと思ってしまったりする。そりゃあアリスに洗われてるんだから美少女の指だろうよと自分にツッコミをしてしまう。でも、あれだな。


「私の指とは違うなー」


「?指、ですか?」


「そう、指。私の指と違って、アリスの指って美少女、って感じの指だよなーって思って」


そして、私の指とは違う部分がわかった。あれだ、私は突き指とかしてるから関節の部分が若干太いんだけど、アリスはそんな事が欠片もないんだよ。どこまでも真っ直ぐで綺麗な指なんだよね。正に美少女って感じの指だ。素晴らしい。


「そう、ですか?それは嬉しいこと、でしょうか?」


「うん、ちゃんと褒めてるよ」


「それなら、私は嬉しいです」


「アリスが嬉しいなら私も嬉しいよ」


「ふふっ。アオイが嬉しいなら、私も嬉しいですよ?」


「それなら片方だけ喜ばせるだけでどっちも喜ぶから1人だけ喜ばせりゃいいのか。一石二鳥だなー」


「ふふふっ、そうかもしれませんね」


「そうなんだよなぁ」


普通に考えて一石二鳥でしょ。片方喜ばせるだけでもう片方も喜ぶんだから。片方のコップに水を注いだらもう片方のコップにも自動的に水が注がれるみたいな感じだよ?楽じゃん。側から見てたとしても普通に手間ががかからなくて良いじゃんね。………例え方が悪かったかもしれない。あれだ、牛乳パックって切るじゃん?でもあれってちょっとだけ手間なんだよね。けど、一個の牛乳パックを切ると全自動でもう一個の牛乳パックを切ってくれる、みたいな感じの機能があったらすっごく便利だろうなって。………例え方とかじゃなくて例える物が悪いなこれ。うーん………駄目だ、これ以上の例え方が出てこない。諦めよう。


「アオイ、シャワーで流しますよ」


「ん、ありがと」


アリスは一言私に伝えてから、シャワーでゆっくりと私の背中を洗い流してくれる。その洗い方は非常に丁寧な洗い方で最高にGOOD。これは世界を取れるタイプの美少女だろうな。それか美少女ゲームの本命ヒロインみたいなタイプの美少女だ。行動も口調も最高だしな。そんな美少女に背中を洗い流させてるって控えめに言って最高の気分なんだが?ラノベの主人公かよ。


「はい、背中は終わりです」


「背中は?」


何その背中だけは終わったみたいな言い方。


「次は前を洗いますよ」


「えっちょ、マジ?」


「はい、マジです」


「そっかぁ………まぁよろしく」


やってくれるってんなら別に拒みはしないけど。別に私は困らないし。


「では、失礼しますね」


「あぁはい」


アリスはシャワーを元の位置に戻してから、私の前でしゃがむように座り込む。ぺたんと座る訳ではないのかと私が思っていると、アリスは手の泡を私に触れさせ始める。まずば腕かららしい。指の先から肩、脇の下までとことん丁寧に洗ってくれる。そういや性転換してからいつの間にかムダ毛とか全部無くなってたから面倒だった髭剃りとかする必要無くなったなーとか漠然と思いつつ、私はただぼーっと自分の右手を見ているだけで両手を洗い終わったようだ。アリスはそのまま今度は胸に手を伸ばしてくる。


「んー………」


「アオイ、大丈夫ですか?」


「んー、胸周りは若干くすぐったいから強めでお願い。弱いと逆にくすぐったいって私知ってるんだ………」


「では、少しばかり強く擦りますね」


「ん、ん。んー、それくらいそれくらい」


やはりというかなんというか、胸の辺りはくすぐったいんだよな。後は脇と太ももね。私、その辺がくすぐりに弱いから。首とか足裏とか膝とかは平気なんだけど、脇と太ももと、女の身体になってからは胸周りもくすぐったくなったんだよな。脇と太ももは元からだけど。後はあれだ、お母さんのマッサージとかされると大抵くすぐったいんだよな。弟とか妹とかは痛がってたんだけど、なんか私だけ謎にくすぐったくて笑ってた記憶がある。あんま覚えてないけど。


「んー、んっ、んー」


でもまぁ、強く擦ったとしても普通にくすぐったい所はくすぐったいよねって。


「んひっ」


ちょ、脇、脇やめて。変な声出るから。


「ふ、ふー、あは、あははっ」


「くすぐったいんですか?素早く洗いますね」


アリスは素早く脇を洗い、そのまま胸も一緒にシャワーで丁寧に洗い流してくれる。今度は腰周りをするらしい。腰には勿論ながら性器が存在しており、アリスもその事は理解しているらしく、これまで以上に丁寧に丁寧に洗い始める。股の間もアリスがやるのと思いながら見てたけど、なんかするみたいね。まぁ私はアリスに洗うのを任せた側だし、自分でやらなくていいならその方がいいから特に何も無いけど。


「んー、んー、あっ、ちよ、太ももくすぐったいっす」


「そうですか?では、ここも素早く洗ってしまいましょうか」


アリスの手は腰周りや股の間を通り過ぎ、太ももへ到着した。ここも私がくすぐったいと思う所なのか、非常に素早く終わらせてくれた。流石はアリス。そのまま太ももを通り越して膝、そして足首を洗い足の指の間まで丁寧に洗い終えると、シャワーでこちらも丁寧に汚れと泡を流し落としてくれた。うーん、至れり尽くせりってやつだな。


「アオイ、次は頭を洗ってあげますね」


「え、はい」


頭は自分でやる予定だったんだが。………まぁ、アリスがやるって言うなら私はまぁ別にいいけども。私は何もやらずに済むし。というか、あれだね。さっきからアリスは私にやってあげましょうか?みたいに質問するんじゃなくて、しますねとかあげますねとかアリスがやる事が確定してる言い方してるの頭良いよね。そう言ったら私が断れないのわかってて言ってる節があるというか多分そう。されても私が困らないってのがミソね。私、例えその言い方を他の事で言われても私が何かをする事は絶対にやらないから。場合によってはやるかもだけど。


アリスはシャンプーを使って泡を立て、そして既に水に濡れている私の髪にわしゃわしゃわしゃと洗い始める。非常に丁寧な手つきで私の頭を洗ってくれるので、そこはかとなく心地良い気分になってくる。これあれだ、なんか傘とかクラゲみたいな形の、頭をこう、ふわーっと押してくれるやつ。金属のさ、なんだっけ名前………………………第五アップデート起動。頭、美容品、器具で検索。………頭皮マッサージャーか。そう、それそれ。そんな感じの心地良さだと思う。頭皮マッサージとかされた事もした事も無いけど。ま、美少女に頭洗ってもらってる分私の方が価値のあるマッサージだとは思うけどな!そもそもこれマッサージじゃなくて頭洗ってもらってるだけだけど!


「どうですかー?気持ちいいですかー?」


「んー、さいこー」


「うふふ。それなら良かったです」


そのままアリスは最後まで丁寧に洗ってくれるらしい。わしゃわしゃと音を立てて私の頭を洗い、それから数分かけてシャワーを使って丁寧に洗い流してくれた。私はプールの中で目を開けられない(水中で開けると後で目が辛いのでやらないのってのもあるが基本的に目を開けられない)人種の人間なので、顔及び頭の水は一度シャワーで濡らしてもらった私の使うタオルで顔を拭いておく。この顔を拭く瞬間が控えめに言って最高なんだよな。


「ん、次は私がアリスの背中流そうか?それとも全身洗った方がいい?」


「やってくれるのでしたら、全てお願いします。アオイにこうして洗われるなんて滅多にありませんから」


「そりゃあ普段は一緒に入らないですからね」


裸を見られるのは恥ずかしいので。今も若干恥ずかしくて耳赤い気がするんだよ。お湯があったかいから勘違いしてるだけかもしれないけど。


「いつも一緒に入っても良いんですよ?私は困りません」


「私が恥ずかしいのでパス」


「アオイってばけちですね」


「そんな言葉何処で知ったのさ」


「アオイがお客さんに言っているのを聞きましたから」


おっと巨大ブーメランが私に突き刺さってしまった。


「とりあえず、頭からやるとしようかな。はーい、今度はアリスが座ってねー」


「はい、失礼しますね」


私が立ち上がってさっきまで座っていた椅子にアリスを座らせると、今度は私がアリスの後ろに立つ。アリスのように丁寧に、というのはちょっと難しいかもしれないが、私が今できる最高の洗い方をしてあげるとしよう。シャンプーとってー、わしゃわしゃ泡立ててー、そして今度はアリスの頭をわしゃわしゃするだけ!いやー簡単ですね。勿論凄く丁寧にやってますよ?でもあれだよね、アリスの方が丁寧な気がするんだ。やっぱりアリスの方が何倍も器用なのかな?っと、髪の先まで綺麗にしなくては。はいサラーっとしてますね!アリスの髪どこに手を入れてもサラサラだな。


「うーん。これくらいでいい?正直アリスみたいに洗えねぇ………」


「ふふ、どれくらいでもいいんですよ?」


あーもう、言い方が狡いんだからこの子は!この世界を取れる美少女め!と心の中で悪態(?)を吐きつつも、私はその後数分かけて頭を丁寧に丁寧に、洗い残しが無いように隅々までわしゃわしゃしたので、今度はしっかりとシャンプーが残らないように綺麗に洗い流す。洗い流せました。じゃ次は身体の方洗うか。


「次は身体洗うよー」


「はい。お願いしますね?」


うーん、アリスがにっこにこだ。そんなに私に洗ってもらえるの嬉しいのかなぁ。それとも他人に洗わさせてるって事実が楽しいのかなぁ。まぁその辺は割とどうでもいいけど。私は今度はボディーソープを使って両腕、胸、腰、脚を丁寧に丁寧に洗い、そして洗い終わったらシャワーを使って綺麗に流す。それだけ。お仕事は非常に単純ですね。丁寧丁寧丁寧に洗ってるだけですけど。


「はーい、これで全部洗い終わったよ。なんか残ってる場所ある?」


「大丈夫です。では、湯船に入りましょうか」


「ん、了解」


私とアリスはタオルを回収してから湯船に向かう。湯船はまさに温泉と言うべき和の湯船だ。木の風呂とかじゃないしあれだ、岩?というか、自然でナチュラルな感じの湯船?って感じの湯船だ。私の語彙力がゴミ過ぎて表現方法が無い。私とアリスは髪を湯船につけないようにしてから湯船の中に入る。


「ふー………」


「はふぅ………」


思わず声が出てしまう。アリスもはふーなんて可愛い声が出てしまっているのが素晴らしく可愛い。


「気持ちが良いですね………」


「せやなー………」


今日は歩き回って疲れた。基礎体力がくそ雑魚なので1日歩き回るだけでめっちゃ疲れるんだよ。精神的にも肉体的にも疲労がね。特に脚に力が入らない。今日1日歩き回ったからなぁ………体力付いてきたと思ってたんだけど、そうでもなかったみたいだ。私を連れ回った本人であるアリスも歩き回って疲れたのか、ある程度は脱力してお風呂に入っているらしい。あれですね、横顔が素晴らしく艶やかですね。水も滴る良い美少女ってやつか。特に胸元の形にしたがって湯船に落ちていく雫が素晴らしくて非常に良き。可愛いの権化………どっちかってーと美しさの権化って感じかな。美の女神とかその辺。蠱惑的?と言うとちょっと違うんだよ。可愛いけど艶やかというか………華やか?かな。なんかもうそんな感じ。私の語彙力がゴミみたいでびっくりだね。


「アオイ、露天風呂?というものがあるらしいですよ。行きますか?」


「あー………アリスは行きたいでしょ?」


「はい」


まぁね。アリスは目新しいものなら何でも好きみたいだし………むしろ新しい何かを見るのに躊躇いとか無いからなぁ………例えば、魔物の解体シーンとかいうグロシーンも見せてもらって凄く楽しかったらしいし、殆ど裸みたいな格好で男を誘いながら踊っている女性を見つけてとても楽しかったらしいし。とにかく見た事のないモノに対して素晴らしい好奇心を発揮しているからね。魔物の解体も教わったらしいし、その踊りも教えてもらったらしいし。まぁアリスにその踊りはあんまり似合わなかったけど。だって身体の構造から違うんだもの。相手は美女でアリスは美少女なのだ。美少女はエロさで戦うより可愛さで戦った方が強いもん。私は強いと思う。だってアリスは可愛いし。


とか考えているうちに、私とアリスは露天風呂の方にやってきていた。私達以外にも数人のお客さんが居るが、それを考えても非常に広い湯船である。ちょっとした設備のプールより広い可能性が無きにしも非ず。こちらは室内とは比べ物にならないくらい自然を取り入れており、山の中にある秘湯、みたいなイメージが連想できるくらいには素晴らしい景観だ。まぁ流石に街中の露天風呂なので限界はあるだろうけど。


「アオイ、ここに入りましょう。ここが良いです」


「おっけー」


私はアリスに指定された場所に入る。そこは丁度私とアリスが座ると肩まで湯船に浸かれるくらいの水深で、割と良い感じのスペースだった。やはりアリスは目が良いな。新しいものもどんどんどんどん見つけてくるし、目敏い、というべきなのだろうか。他に言い方がわからん。別に誰に言ってるわけでもなくて心の中で言ってるだけなんだけど。


「ふぅ………」


「あー………さいこー………」


そのまま、私達2人は夕飯の時間までゆったりと過ごすのだった。

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