短いってのは相対的なものだし、長いものが無いと判断つかないよね


2週間後、私はミゼルの所でいつものようにお菓子を食べていた。今回のお菓子はプリンらしい。しかも高級なやつだ。とろとろ且つ甘さと苦さが丁度良い塩梅で存在していて、割と非常に美味い。


「うまー」


「それはよかったよ。わざわざ王都にまで行って買ってきた甲斐があるってもんだ」


「王都に行くのは仕事じゃなかったっけ?」


「まぁそうなんだけどね。でも、街の外に行ったならお土産を買ってくるのはギルド長としての基本だよ?職員達に買ってきた大量のお土産見せてあげると士気が極端に上がるからね。買ってきて損はない。僕の収入なら大抵のお土産は買ってこれるしね」


「はー、なるほど」


士気を上げる為にお土産を買ってきてるのか。まぁ上がるやろなぁ。他人から贈られるプレゼントは、それが害悪に満ちていなければ、それが有効に活用出来るようなものなら、大抵は嬉しいものだからな。それで嬉しくなかったら何か事情があるのだろう。プレゼントを贈られる相手が嫌いとかな。


「ん、これは確かに美味いね。この紅茶とも合う。安物のよりよっぽどこっちの方がいい」


「安いの食った事あるの?」


「まぁね。息抜きのお菓子は大切だろう?」


「せやなぁ」


「だから色々と露天や店を巡って、食べ比べてみてる訳だ。どれが1番美味しいかってね。安いからってそれが不味い訳じゃ無いだろう?」


「そりゃそうだ」


値段が高いものが絶対に美味しくなる訳じゃないものな。とても高価な食材を使って、あり得ないくらいの手間をかけて、素晴らしい技術を持つ料理人に作らせても、それが絶対に美味しいなんて事はあり得ないからな。私とか結構顕著だ。私は麻婆豆腐が週7で食べてもいいくらい好きなのだが、店売りの高そうな麻婆豆腐より、市販で売ってる自分で作れるタイプの安い麻婆豆腐の方が味が好みなのだ。貧乏舌なのだろう。でも美味しいのだから、わざわざ高いのなんて食べずに普通に安い方を食べるよね。美味しいし。高いのが美味しいならそっちを食べるけど。


「ま、だけど基本的には高い方が美味しいのも事実でね。材料の質が違うから、結果として残る料理の方も美味しいんだよ。僕は安価なやつの方も好きだけどね。仕事の合間に食べるのがまたなんとも素晴らしいのさ」


「それはわかる。仕事中にサボって飲み食いするの美味しいよね。背徳感がいい感じに美味しく感じる」


「そうそう、そんな感じ」


うーん、反応が雑!しかし、こういう雰囲気が心地良い、というか会話していてやりやすいのも事実。こう、話していてとても気楽で、生きていくだけなら関係のない他愛の無いような会話をするってのは、私の精神的に非常に楽だ。


「紅茶うまー」


「そりゃよかった。最近は本を読んで上手く紅茶を入れられるようにしてるんだよ。どうせなら、美味しい紅茶でお菓子を食べたいからね」


「ふーん、勉強熱心だね」


「まぁね。これくらいじゃないとギルド長は名乗れないよ」


まぁそりゃそうか。


「とりあえず、これ食べ終わったら帰るね」


「あぁ、そうするといいよ。僕が引き止めてたなんて言われたく無いしね?」


げ、いざと言うとき使う嘘の理屈付けに使う気なのバレてる。まだ1回も使ってないのに。あぁいや、なんかそんな話をしたような気が………


「ん、んく。ん、ご馳走様」


「お粗末様だ。もう帰るかい?」


「ん、今日はもう帰る事にする。ありがとね、ミゼル。美味しかった」


「それはよかったよ。まぁ、いつでも来ると良い」


私は冒険者ギルドを後にするのだった。








冒険者ギルドを後にして、大体30分後くらい。所変わって、現在地はリリーさんの魔法道具店の中。何か良い魔法道具が売られていないかを探しに来たのだ。ついでに、というか割と本音をぶっちゃけるとこっちが本命なのだが、リリーさんと会話したかったのである。


「あらぁん?アオイちゃんじゃなぁい!いらっしゃぁい!」


「こんにちわ、リリーさん」


リリーさんの今日の服装はこの前見た時とは違って、適度な装飾が施された純白のプリマを着ていた。リリーさんの鍛え上げられた肉体と純白のプリマは、かなり似合っている。少なくとも、私は似合っていると思う。うん、あの筋肉は良いものだ。至高の肉体に可愛らしい服装。うん、組み合わせが最強だ。カッコいいし可愛い。二つの事柄を矛盾せずに組み合わせている。私もあんな風に着こなせる服装が見つかるかなぁ。


「えぇ、こんにちわぁ。今日はどんなご用事かしらぁん?」


「今日は、何か良い魔法道具が無いかなって見に来たのと、リリーさんと話したくて来ました」


「!あぁんらもう!アオイちゃんったら可愛い事言ってくれるじゃなぁい!いいわよぉ、沢山話してあげるわぁ!」


んー、ちょっと照れるな。可愛いって褒められ方はあれだけど、でも褒められている事実に変わりはないしね。褒められることは嬉しい事だもの。


「んー、それでもいいんですけど、リリーさんのお仕事の邪魔にならない程度に済ませますよ。迷惑になっちゃうかもなので」


「迷惑になんかなるわけないわぁ!アオイちゃんは可愛らしい子だものねぇん。お話ししていて全く退屈しないわぁ」


うーん、リリーさんが良い人過ぎる………私のような薄情で愚かな人間が話していいような存在では無いのでは?でも、そう言ってくれるのは凄く嬉しいかも。


「それは、良かったです」


うん。とても、嬉しい。


「んもう!可愛いらしいったらありゃしないわぁ!」


「わぷ」


リリーさんに抱きつかれてしまった。リリーさんの素晴らしく鍛え上げられた胸筋が近いってか触ってる。これセクハラとかにならないよね大丈夫だよね?でもいいなぁ、こんなに筋肉あるの。私とは大違いだ。


「あ、そうだリリーさん」


「あらぁ、どうかしたのかしらぁん?」


リリーさんは私を離しつつ、私の話に耳を傾ける。


「アオナお姉ちゃんが今日何処に居るのか知りませんか?時々見かけて話しかけたりするんですけど、今日は見つけてないので」


「アオナかしらぁん?あの子が何処にお店を構えてるのかは私も知らないけどぉ………でもぉ、人通りの多い場所………今日はすこーし暖かかったからぁん、木陰の多い三つ奥の大通りに居ると思うわぁ。あの子はそういう子だものぉ」


「なるほど………」


「でもぉ、確証はないからぁ、あまり鵜呑みにしちゃダメよぉん?」


「大丈夫だと思いますよ?リリーさんは人をよく見てますから、きっと行動予測も合ってます」


「そうかしらぁん?」


「はい。例え合っていなくても、それはそれでリリーさんのお茶目な一面が見れたという事なので、まぁ私的にはどちらでもお得ですし」


「んもうっ!アオイちゃんったら小悪魔ちゃんなんだからぁん!」


「ふふ。確かに、私は小悪魔かもしれませんね?」


小悪魔ってか悪魔の婚約者だけどね?


「でもぉ、アオイちゃんみたいな小悪魔ちゃんなら弄ばれても良いわぁ。可愛らしいものぉ」


「そうですかね?」


「そうなのよぉ」


うーん、褒められている。やはり少し褒められるのは嬉しいが、どこか少し気恥ずかしい。


「そういえばぁ、最近のアリスちゃんはどうかしらぁん?お仕事には慣れたかしらぁ?」


「うん、大分慣れたらしいです。最近は、冒険者としての仕事もかなりいい感じらしいですし」


最近のアリスは、かなり強い。なんせ、女冒険者の先輩から護身術や剣術などを習い、これまた女冒険者の先輩から魔法や勉学を習い、多くの人に様々な事を習っているからだ。護身術や剣術は、既にDランクの魔物なら退治可能なくらいの技術を身に付けているらしい。特に守るように戦う方法が上手だそうで、Cランクの魔物相手なら殺される事は無いだろうと言われているんだそう。そして魔法の方だが、なんと護身術や剣術以上に洗練されているそうだ。


まず、アリスの適性属性は闇、氷、幻影、重力、記憶、深淵属性だそうだ。それ以外の基礎属性も初級までなら発動可能らしい。そして、アリスが1番に得意とするのは深淵属性の魔法だそうだ。なんでも、私の契約属性の適性の数十倍はあるそうで、深淵属性の適性だけなら一万年に1人の天才だそうだ。すげぇ。深淵属性の行使だけなら、相手の情報だけ抜き取り、相手には決して情報を与えない魔法行使程度は朝飯前らしい。本来、深淵属性で何かの情報を確認すると、情報を見られた側にも情報が流れるようになっている。しかし、アリス程の才能と技量があれば、対象にこちらの情報を与えずに、対象の情報を簡単に抜き取れるんだそうだ。私にはできない。


深淵属性以外の魔法もそれなりに強いらしく、特に氷属性の適性が深淵属性に次いで高いらしい。そういや、アリスも私の攻撃魔法みたいに過剰威力になったりしないらしい。なんか狡いよね。いや私の最初のイメージがアレなんだけどね?でもねぇ、最大火力でぶっ放したかったんだよなぁあの時の私は………


「あらぁん、それはよかったわねぇん」


「はい、良かったです」


そんな風に、私とリリーさんは1時間程度は話し込むのだった。









リリーさんのお店を後にして、およそ10分程度。私は先程リリーさんに聞いた、アオナお姉ちゃんの居そうな場所にまでやって来ていた。この大通りは通りの左右に木が生えている並木道というやつで、今日みたいに暖かい日に木陰に入るとうとうととしてきて微睡んでしまうような通りだったりする。実際、遊び疲れたらしい子供達が木陰で肩を寄せ合って眠っているし、そんな姿を見ているとこちらも眠くなってくる。


「あ、アク」


子供達の姿を見てほんわかしつつ歩いていると、並木の枝に私の契約悪魔であるアクが止まっているのが見えた。なんとなく居るかなと思って視線を向けたのだが、まさか本当に居るとは。アクの方もこちらに気が付いたのか、羽を広げて静かに私の元までやってきて、優しく肩に乗って来た。私はすぐにでも魔力線マジックラインを使用して、アクとの会話が出来る様にしておく。


『主様、おはようございます』


『おはよ、アク。今日の契約対価は昼仕事が終わったらあげるね』


『ありがとうございます』


『ん、いーってことよ』


別に、あげるのは食事と魔力だけだし。バティンに比べりゃ安いもんよ。


『ね、アク。アオナお姉ちゃん見てない?』


『アオナさんですか?それならこの通りの、もう少し進んだ所の木陰で眠っていましたよ』


『………眠ってたの?』


お仕事は??


『はい、ぐっすりと』


占い師のお仕事は??


『………なるほど。起こすのも忍びないし、姿だけ見たら帰ろっか。アクも一緒に帰る?』


『私はもう少し空を飛んでから宿に向かいたいと思います』


『そう?ならそうするといい』


アクはアクだ。私と契約しているから私が主、という訳では無い。主様と呼ばれては居るが、だからと言って私の命令を聞けばいいって訳じゃ無いし。自分がしたい事をしてくれればそれでいい。


『はい、ありがとうございます』


『どういたしまして?』


よくわからんがとりあえず返答しとこう。なんていう風に魔力線マジックラインを通じての念話をしていると、アオナお姉ちゃんが寝ているという木陰の側までやってきたらしい。私はなるべくアオナお姉ちゃんを起こさぬよう、少し遠目からその木陰を覗き見る。


「………すぅ………」


「ほんとに寝てるやん?」


安らかな寝顔でスヤスヤじゃん。微睡どころか爆睡じゃん。お仕事は??占い師のお仕事は??アオナお姉ちゃん??お仕事しないの??


「………でも、なぁ………」


責められねぇ。こんなに安らかな寝顔でスヤスヤしてるんだもの。これでアオナお姉ちゃん責めたら人間じゃないでしょ。少なくとも私は人間だから、ちょっとそれは………


「………風邪は、ひかないようにね?」


そう祈ってから、私は宿に帰るのだった。









1時間くらいして私が宿に帰ってくると、もう既に夜営業の時間になっていたらしい。時計を確認していなかった。忙しそうに働くミナに若干ながら怒られつつ、一度部屋に戻って制服を整えてから階下に戻り、仕事を開始する。私は置かれた料理や酒を全て一気にMICCミックにぶち込んで、カウンターに置かれていた注文表もMICCミックにぶち込む。とりあえず、仕事開始だ。




少しばかり時間はかかってしまったが、10分足らずで料理の配膳は完了した。時間的には仕事が始まってすぐなので注文量が些か多いが、アリスが居る時より少ないので大丈夫だろう。とりあえず、次だ次。料理はいいんだよ料理は。配膳で多いのは酒の方なんだよな。酒の注文は最後まで途切れない、ってのは言い過ぎかもしれないが、料理の注文の何倍も酒の注文が入るのも事実である。


「皿、皿………」


しかし、注文されて料理や酒を提供し続けるだけではいけない。料理を載せる木製皿や酒を入れる木製コップは勿論、食べるためのフォークにナイフにスプーンも有限なのだ。だから、食べ終わったり飲み終わった所のものはこれまたMICCミックで全て回収して、洗い場に置いておく必要がある。そして、時間が空いていて暇な人物が洗えるだけ洗い、洗い終わったら丁寧に水を落としつつ、魔法道具の乾燥機に干しておくのだ。乾燥するのに必要な時間は大体20分くらいなので、適当なタイミンクで洗っておかないと食器が溜まる。


「………はい?なんでここに?」


紫悠親友が食器を洗っている。私が最初に思った感想はそれだった。


「ん、仕事だ。とりあえず、俺にもやれる仕事ないですかってミナさん?に頼み込んで、食器洗いの仕事回された」


「………なるほど?じゃあ仕事追加するわ」


MICCミックから溜まった食器類を出す。


「げ」


「おら、喜んで働けよ」


「あっ、あー、わかった」


とりあえず、仕事をする気はあるらしい。しゃかしゃかし始めた。異世界で出会った親友が、ゴム手袋を着けて食器を洗ってるって絵がなんかシュールで面白いが、見続ける訳にもいかない。仕事に戻ろう。


「じゃ仕事頑張れよー」


「おう」


私は雑に親友に返事しながら、仕事をしに戻るのだった。

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