ピクニックとか、わざわざ自分からいかねぇなぁ


2日後、私とレイカとフェイとアリスの4人は、街の外にある花畑でのピクニックへ向かう為の最終確認をしていた。ちなみに本日もお仕事はあるので、仕事の時間になったら戻る気ではいる。まぁ予想外の事態で遅れるかもしれないってミナには言ってるし、ゆったり行く気ではある。ミナも了承したしな。つまりサボってもどうにかなるって事だ。


「アリス、お弁当はこれでいいの?」


「はいっ!頑張って作りましたっ!」


「りょーかい」


「お母さんお母さん!敷き物はこれだよ!どう?どう?可愛いでしょ?」


「ん、可愛いな。可愛い。それも持ってくのね?」


「うん!お母さんお願い!」


「了解了解」


「!、!、!」


「あーはいはいフェイはそのお菓子を持ってきたいのね了解了解」


ちなみに、持ち物は全部私持ちである。それが何故かと言われれば実に簡単だ。私がMICCミックという、物資運搬に関しては(私の知る限り)最強レベルの魔法を持っているからである。私がMICCミックに全てを入れて持っていれば手荷物が出来ないし、何より高度な戦闘が出来るレイカとフェイが手ぶらになるのが素晴らしい。私達がこれから向かうのは魔物蔓延る街の外なのだ。私もアリスも魔法を使えるから戦えなくはないのだが、しかし私もアリスも実戦経験が極端に少ないのだ。私は街の外なんて滅多に出ないし、アリスは現在進行形で魔法戦闘の訓練中である。単独のゴブリンくらいなら私もアリスも倒せるが、しかし倒せるのと戦えるのとでは話が違う。


しかし、レイカとフェイは違う。レイカはその驚異的な超身体能力をもって、フェイはその驚異的な魔法行使能力によって、最強種族とも言えるドラゴンを討伐しているのだ。私の中では、2人は物理最強のレイカと魔法最強のフェイである。少なくとも、2人を越える能力の持ち主を私は見た事が無いくらい(見た事が無いと言うより見る機会を作った事が無いと言うべきだろうが)なのだ。しかし、この2人だって無駄な荷物を持っての戦闘で全力を出せると問われれば、そうではないだろう。


まぁ、あれこれと理屈をこねくり回しているが、つまり私がMICCミックで荷物全てを持った方が楽、という理由である。


「うし………私は準備おっけー。みんなは?」


「私は大丈夫です!」


「私も大丈夫だよ、お母さん!」


「!、!、!」


「フェイも大丈夫だって!」


「ならよし。忘れ物があったら後で取りにくりゃいいし………まぁ、あんま考えずに、ゆったり行こうか。ピクニックだし」


「「おー!」」


「!!、!!」


みんな元気いいな………私はそんなに体力が無いから、はしゃがないようにしないと後で疲れて眠ったりしそうだ。美少女とか娘とかペットとかとお出かけとか、私は一体何処の小説の主人公かよと思ったけど、小説の主人公は私みたいに普段からだらだらごろごろしてないだろうし、多分何かあったら娘とかペットとかに任せず自分で戦うんやろうなって。そもそも、私みたいに最初っから戦闘を回避し続けたり、危険だから街の外に出ないとか、主人公はしないんだろうなって。まぁ私はどこまで行っても私なので劇的な何かが無ければ性格なんて改善しないだろうけど。とりあえず、ミナと店長さんに今日出かけると言うのは事前に伝えてあるので(大事な事なので2回目)、このまま街の外に向かうとしよう。


この街の外に出るには、街の4ヶ所にある門を利用しなければならない。綺麗に東西南北に存在する4ヶ所の門には常時複数人の衛兵が立っており、街の外からやってくる外敵を排除したり、街の中の悪事を外に出さないようにしたり、街の中に侵入しようとする悪意を跳ね除ける役目を持っている、らしい。実際にそんな場面に遭遇する事なぞ私にあるわけないので、全部レイカやアリスから聞き齧った事である。ちなみに、レイカとフェイとアリスもそんなのに遭遇した事はないらしい。まぁそれだけこの街が平和って事なのだろう。安心だな?確かこの街を治める貴族が良い人ってミゼルに聞いたし、その人のおかげなのかもね。まぁ実際どうなのかはよく知らないけど。


「街の外か………王都行った時ぶりかもしれん」


街の門の衛兵さんに冒険者の証である冒険者カードを見せて、私達4人はそのまま街の外に出る。わざわざ衛兵さんに冒険者カードを見せるのは、その方が外に出る為の時間が早いからである。


そも、冒険者とは何か。まぁ、大抵は万屋、つまり何でも屋である。街の掃除から魔物の討伐まで、赤ん坊の世話から老人の介護まで、兎に角できる人を探して何でもやるのが冒険者である。その為、冒険者は依頼達成の為に街の外に出る事もよくあるのだ。しかし、門の出入りにはある程度の手続きを必要とする。1人で5分程は必要とする手続きだ。そうなると、朝の忙しい時間に各門に冒険者が溢れることになるし、何より手続きを一人一人やっていては時間がかかり過ぎてしまう。


故に、冒険者カードを魔法道具により閲覧し、いくつかの魔法道具が記録する事で、その面倒な手続きを全て削除。冒険者を一つの魔法道具にパッとかざして衛兵さんに見せるだけで外に出られるのである。まぁつまり、街の出入りが早いのは冒険者の特権、という事なのだ。ちなみに、私は普段冒険者の依頼なぞ殆どせず、一応の体裁を保つ為にちょこっと簡単な採取依頼とかをやるとしても、私はバティンやアクに任せられるようなものしかしないしやらない(ちなみにアクは仕方ないなぁみたいなテンションで、バティンは嬉々としてやってくれた。最近バティンがちょろ過ぎて若干心配になってきてたりする)ので、この特権を使用したのはほぼ片手で数えられる程度しかないが。


「私はここ最近、薬草の採取とか、魔物の討伐とか、とにかく今は出来るやつは片っ端から全部やってました!そうそう、街の中の塩漬け依頼もレイカちゃんとフェイちゃんとの3人で色々とやってるんですけど、これがもう楽しくて!色んな人と会話して、色んな人の事を知れて、とっても楽しいんです!」


「そう?ならよかった」


アリスが冒険者の依頼を存分に楽しめたならよかった。何せ、アリスは私との性格の相性は悪くないしむしろ良い方なのだけど、性質の相性が悪過ぎて側にいる時間は少ない。何しろ私は生粋のインドア派の引きこもりで、必要以上に外に出ない。出たとしても目的を達成したら直ぐに帰るタイプだ。しかし、アリスはそんな私とは正反対のアウトドア派の出たがりで、必要以上に外に出ないとソワソワしだす。そしてフラフラと目移りしまくって目的にまで到着するタイプである。


そう。私とアリスは、とにかく性質が正反対過ぎる。例えば、私は興味を持っても割と飽きが来るのが早めで、しかしそれを乗り越えたり最初から飽きが無かったりするものは常にとことんやり続けるタイプだ。反対に、アリスは自身が興味が無いものもとにかくやりまくるが、しかしその分とことんやり続けるものは異常に少ない。やめたと思ったものはそこでキッパリとやめる。なのに絶対にやっている間は飽きが来ない。


他にも色々と相違点はあるけれど、キリが無いのでこの辺でやめておこう。とにかく、私とアリスは違うのだ。性質が、価値観が。勿論共通点もいくつかある。しかし、それを含めてあまりあるほどに違う。


けれど、別に私は困っていない。


私は中学の時、何の話の因果からこの話になったのかは忘れたが、確か『あなたの好みの異性は何ですか?』みたいな事を聞かれた事がある。席をたたずにその場で言うだけだったが、クラス全員がそれを聞くので恥ずかしがる人も少なからずいた。私はその時、割と最後の方に答えた記憶がある。順番が回ってくるまでちゃんと考えて、私はこうこう答えた。


『私は自分と違う人が好きです』、と。


それは、高校生になった今でもそうだ。私は私と違う人が好きだ。でも、私のその"好き"は恋愛的な好きだけでなく、尊敬的な好き、友愛的な好き、その他諸々の"好き"全般に反映される。私と違う知識を持つ人、私と違う才能を持つ人、私と違う視点を持つ人、私と違う体を持つ人、私と違う精神を持つ人。私はとにかく、自分と違う人が好きなのだ。


………まぁ、ここまで色々と何かの言い訳のようにちまちまと言ってきたが、つまり、私が何を言いたいかと言うと──


「アリス。ピクニックは楽しみ?」


「はいっ!とっても楽しみです!」


──美少女の嬉しそうな満面の笑みというのは、素晴らしく美しく、そして可愛いという事である。










既に街から出て20分弱くらい経過した辺りで、私達は目的地まで到着した。


「おー、すご」


眼前に広がるのは、まるで海のような一面の花々。花畑とも言えるその場所は少し膨らんだ丘になっており、その丘の頂上に一本の木が生えている。一本の木の周り全てに美しく綺麗で沢山の色に彩られた花畑があるというのは、遠目から見ても非常に良いものだと思ってしまう。本当に、綺麗だ。


「おぉー!ほら、凄い!凄いですよねアオイ!」


「そうだな」


レイカとフェイが花畑が見え始めてから咄嗟に走り出してはしゃぎに行ってしまったくらいには、この光景は綺麗で素晴らしいものだ。うむ、素晴らしいな。私の語彙力が無さ過ぎて素晴らしい以外の感想が浮かばないが、これは非常に素晴らしい。


「前にも一回来ましたけど、その時より咲き誇ってます!」


「あー、なるほど?」


丁度タイミング良く開花の時期にやって来れたって事ね?ぱっと見でも沢山の種類の花があるってのに、実にタイミングが良いな。うーん、こういう幸運は嬉しいんだけど、どっちかってーとガチャ結果の方に幸運は回したいっていうか、御目当てのキャラクターを引き当てる為の貯金ならぬ貯運をしたいっていうか………まぁ、うん。隣のアリスも、遠目のレイカとフェイも、心の底から楽しそうな顔してるし、いいや。ガチャの結果より、正直言って美少女達の笑顔の方が価値があるもんな。別に美少女じゃ無くても人が喜んでる表情は何物にも変えられぬ程の価値があるけれど。でもまぁ、その時の状況によりけりだけど、普通の日常というか普通の生活においてなら、おじさんの笑顔より美少女の笑顔の方が価値は高いよね。いや、どっちも嬉し言っちゃ嬉しいから、多分おじさんと美少女じゃ嬉しさのベクトルが違うって言うか、心地良い笑顔と可愛い笑顔って感じに違うんだよね。わかる?わかれ。


にしても、今日は快晴だな………見事に雲一つ無いんだが?太陽の光がインドアな私を襲うんだが?いやまぁ、この辺りって年がら年中ちょいと寒めの春日和らしいから、これ以上暑くなることなんてそうそう無いらしいけど………でも、あれだなぁ。せめて秋みたいな気候が良かったなぁ。私、春より秋の方が好きだし。いやまぁ、常識的に考えれば秋より春の方が気候的には過ごしやすいんだろうし春の方がお得な事は多いんだろうけど………それでも、ちょっとくらいは秋の方がいいなぁ。つまりもうちょい涼しめになってほしい………


「………ぬぁ………」


花畑、あれだな。足場が無い。あまりにも綺麗だから踏み付けたくないけど、そもそも人が踏み入るような足場が無い。さーて、どうするべきかなーっと………って。


「あはははー!」


「!!、!!」


うー、ん?なんというか、空を飛んでるフェイはともかく、レイカの方はあまりにも綺麗に花を踏まないように避けてるような………?隙間に丁度良く脚を入れて動いてる………?何?超絶技巧でも使ってるの?


「………まぁ、なるべく摺り足でいこうか?」


「そうですね、こんなに綺麗な花畑ですし………はい、アオイの言う通り、出来るだけ傷付けないように行きましょう!安心してください、木の根辺りは花が咲いていないスペースがありますから、そこでピクニックは出来ますよ?」


「あ、それはよかった」


でないと、花畑の一角をMICCミックで収納して空き場所を作らないといけないところだった。無駄な魔力は使いたくないからな。なんせ、私の身の安全は魔法によって構成されているのだから。出来るだけ、消費は避けたい。


私のオリジナル魔法は幾つかある。常に発動し続けている魔法は全部で6つ。第一アップデートである『情報容量増加アップデート』、第二アップデートである『自動認識外攻撃防御アップデート』、第三アップデートである『自動有害物質検知アップデート』、第四アップデートである『異世界時刻表示アップデート』、第五アップデートである『スマホ画面投影操作アップデート』、第六アップデートである『暗視遮光視界確保アップデート』。任意で発動する魔法は全部で4つ。『物質情報変換管理アプリ』、略してMICCミック。『ガンド』、半自動発動魔法。『超広範囲全域探索アプリ』、略してUWASウワス。そして、私の最大の切り札でもある『悪魔変転デーモン・トランス』。合計にして10の魔法が、私がこの世界にやってきて作り上げた、完全オリジナルの魔法である。そしてそれらの内、常に発動し続ける6つの魔法。これらの魔法は、常に魔力を消費し続けている。勿論、魔力の自然回復よりも小さな値を刻んでいるからこそ、常に発動し続けられるのだ。


この世界においての魔力は、自然に回復するものだ。勿論、1秒で全てが即座に回復する訳でもない。魔力回復のポーション、つまり薬品も存在するが、それだって即座に回復するとは言い難い。基本的には1分、つまり100秒で1〜3の魔力を自然に回復するのが普通の人間だ。出鱈目な奴だと1分で50とか回復する化け物が居るらしいが、直接見た事は無いので確証は無い。話を戻すが、私は基本的に1分で2の魔力が自然に回復する。何をしていたとしても、だ。


私のパッシブ発動している魔法の全ては、その魔力の自然回復量を越えないように設定してある。というかそういう風になるように改良してある。勿論、魔法発動時の話ではなく、魔法が特にこれといった効果を発揮していない時、即ち発動待機状態の時の話だ。しかし、これから魔法を増やせば、その魔力の消費はどうしても増えていってしまう。だからこそ、私は毎日暇な時間を見つけた時に、スマホに落とし込んだ魔法の"プログラム"のようなモノを見直して、理解して、出来るだけ細かく、そして緻密なものとなるようにするのだ。そうすれば、魔力の消費が少なくなる。それは僅かに、でも確実に、魔力の消費を減らしていく。それだけで、私のこの世界での生存率が僅かでも上がるからである。なんせ、私の命は私の魔法にかかっているのだから。


「アオイ、アオイ!花畑が綺麗ですよ!こんなに綺麗!」


「確かに、まぁ………綺麗かも」


私は普段、というか元の世界から、そこまで花に対する興味は無い。だって、花なんて、見ても何がある訳でも無い。面白い訳でも無いし、見れば見るほど何かしらの得がある訳でも無い。花屋とか入った事も見た事も無いレベルで興味が無いのだ。そもそも花とか買った記憶が無い。道端の花もちらっと見てすぐに前を向くくらい興味無い。


………うん、しかし。


「うん、うん。アリスと一緒に見るなら、うん。花も悪くない」


花畑なんぞでアリスの笑顔が見れるなら、花だって悪くはない。うん。花も、アリスも、とっても綺麗だ。


「そうですか?ふふっ、私もアオイと一緒に見る花畑は、とーっても綺麗ですよ!最高です!」


「そりゃあ良かった」


うん、あれだな。やっぱり、美少女の笑顔は素晴らしい。いや、あれだ、なんというか。こうして美少女であるアリスの笑顔を見ていると、私なんぞが隣に居てもいいのだろうかと思ってしまうな。もっとカッコよくて強くて素晴らしい人が隣に居た方がよくない?私みたいな馬鹿で間抜けでアホで愚かで脆弱で矮小な奴よりいいと思うけどな………例えば、勇者とか英雄とか、後は他国の王子とか皇子とか………ほら、候補というかなんというかは沢山ある訳じゃない?アリスははちゃめちゃに可愛いし、所謂引くて数多ってやつだろうに。なんせ、店での仕事もアリスが働いてる時の方がお客さんが沢山だし。勿論、レイカとフェイの2人が居る時も割とお客さん増えるよ。レイカは勿論ながらアリスにも負けず劣らずの美少女だし、フェイはそもそも妖精という種族自体が人前に出るというのが珍しいので、フェイの姿目当て(その存在を視認出来る人間は加護持ちの人間のみなので人数は少ないが)だしな。


まぁとにかく、うん。美少女の笑顔は素晴らしいな。


「あ、ここ?」


「はい、ここですね。ここにシートを広げちゃいましょう!」


私とアリスは花畑の中心に存在する木の根の辺りまでやってくると、私のMICCミックから取り出したシート(普通に大きな布)を、花々が咲いていない場所にテキパキと広げていく。うむ、アリスが手伝ってくれるから非常に楽だ。レイカとフェイは………うん、なんか物凄い楽しそうに、割と物凄い軌道で跳び回ってるね。楽しそうならいいんだ、楽しそうなら。明らかに元の世界の人間じゃできなさそうな動きしてるけど、まぁここは異世界だから問題無いし。


「っしょ、シートは完了………昼まで時間あるし、ゆったりしてる?それとも、アリスもレイカ達と遊んでくる?」


「んー………今日はアオイの隣でゆったりします」


「そっかぁ………ふわぁー………」


欠伸が出た。………うむ。日差しが丁度こっちに来ないってのが、特にいいな………木陰で休むの、かなり良い………はぁ………屋外でゆったりするの楽しいぃ………


ぎゅむ。………ぎゅむ?


「きゃっ、アオイ、大胆ですね………!」


「………」


いつの間にか、側にやってきていたアリスを捕まえて、即座に抱き枕にしていた。………私の身体が勝手に動いたというのか………?!


「………いつもしてるじゃん?」


ほら私、アリスと一緒に寝る時はいっつもアリスを抱き枕にしてるよ?大胆じゃないよちがうよほんとだよ。


「ふふっ………わかってます。ちょっとした冗談です。でも、いきなり抱きつかれて驚いたのは本当ですよ?」


「すいません許してください」


すいません!訴えないでください!私が負けるから!


「うふふっ、大丈夫ですよ。許すも何も、こうやってされるの………私、好きですから。もっともーっと、ぎゅーってしてください。………私、何処かのわるーい悪魔さんに抱きつかれてから、人の温もりが心地いいんです。こうやってぎゅーってされると、心の底から安心するくらい、とっても心地いいんです。何処かの悪魔さんの所為ですよ?………ふふっ。責任………とってください、ね?」


アリスが私に抱きつかれながら、私の方に向く。アリスの顔が、非常に近い。至近距離だ。身長差があるからいいけど、身長差がなかったらおでことおでこがぶつかってたかもしれん。いや抱きついた位置にもよるけど。私とアリスの身長差って確か、私が165cmくらいで、アリスが150cmくらいだから………15cmくらいかな。今一瞬計算出来なかったけど、そこは置いておいて………まぁ、うん。位置にもよるけど………直立してお互いに向き合って抱きついたら、顔半分くらい、より少し少ないくらいの差があるわけだ。んー、割とあるな………しかし、顔が近い。いやいいんですけどね?


「………何処の悪魔さんか私は知りませんけど、まぁ………抱きつくだけでアリスが心地良い気分になれるなら、まぁ………いくらでも、抱きついたげる」


うんうん、私は人間だからね。悪魔さんじゃないもんね。私も何処かの可愛いお姫様を助けて捕まえて抱きついた記憶あるけど、私じゃないもんねー。ふふーん。もう割り切ったもんねー。アリスがそういうなら悪魔さんを免罪符にしちゃうもんねー。ふふーん。


………まぁ、うん。実際、こうしてただ抱き着くだけでアリスが心の底から落ち着くというのなら………人肌が心地良いと言うのなら………私がいつでもこうしたげる。なんせ、私がアリスに抱きつくだけなら手間も暇もかからず、更には無料だからな。やるだけお得な行為だ。むしろ私側がお金を払っても良いレベルやぞ。だって美少女に抱き着けるとかご褒美でしょ??美少女だよ美少女!美少女に抱き着いて美少女の笑顔が見れて美少女に触れられるとか、そんなのもうご褒美じゃん!!更には美少女からも抱きつかれるとか!!そんなんご褒美とか越えて贈り物よ贈り物!!私の幸運からの贈り物みたいなもんでしょ?!?!


いやーまいっちゃいますね。


「そうですか………?………なら、もう少しだけ………もう少しだけ、このままで………」


「………もう少しだけでいいの?」


私としては後10時間くらいこのままでも良いのだが?


「!………それなら………後、1時間くらいはこのままでいたいです………」


「………10時間とかどう?」


私は10時間くらいこのままでいたいよ?


「………流石に10時間は無理があるのでは………?ミナちゃんに怒られちゃいますよ………?」


「いや、私ミナに言質取ってるから。予想外の事態があったら遅れるかもしれないけどその時はよろしくぅって言って来たから」


「予想外の事態なんて起こってませんよ………?」


「起こってるよ。ほら、こうやってアリスに抱きつくのが予想外にも心地良すぎてゆったりしちゃって、そしてぽかぽかふわふわだったからお昼寝もしてしまい、遅れてしまった………とか、どう?外でお昼寝はかなり心地良いよ?」


予想外の事態ってのにも色々あるからな。危険な予想外の事態もあれば、ふと目を瞑ったら眠ってしまったみたいな予想外の事態だってある。そして、これは決して屁理屈ではない。私とミナの間で起こってしまった認識の違いだ。もしくは明確では無い言語の裏打ち不足だ。言語とは人によって解釈が違うモノ。そんな曖昧で可変する言葉の裏付けもせず、言葉の明確な意味の確認もせず、私と口約束をしてしまったことを恨むんだな!契約の基本だぞ?


「ふふっ………もう、駄目ですよ?確かに、予想外の事態ではありますけど………ミナちゃんに迷惑はかけられません。それに………」


少し、アリスの頬が赤く染まった。照れているのだろうか?可愛い。


「それに?」


「………10時間もぎゅーってし続けてたら………私、駄目になりそうですから………だから、1時間だけ………です」


………もう何この子!可愛い!メガ可愛い!テラ可愛い!天使!天使超えて神様でしょ!好き!!!!何この可愛い生物!!最高!好きっ!!!!あ゛ー、ほんともう、ダメ、好き、好きぃ………!!


「………なら、1時間はこうしてて良いって事?」


「………はい」


「なら、そうしてよっか。あったかくてぽかぽかするし、私もかなり心地良いし。多分、お腹空いたらレイカとフェイも戻ってくるでしょ。それまで、こうしていよう」


いやまぁ、私がアリスという極上の抱き枕を逃したくないだけなのだが。だって、ねぇ?人肌の抱き枕って、それ普通に考えても最高では?ハグって確かストレス解消に良いらしいし、抱き枕もハグと似た効果があるってなんかどっかで聞いた事あるし、人肌ってのも普通に心地良いし。それならハグと抱き枕と人肌の3つを同時に行えば、勿論相乗効果は狙えるよね?それ加えて、美少女に抱き着けるという最高の効果がある。しかも抱き着くだけで美少女が喜ぶんだぜ?やるだけお得じゃんこんなの。


だからやります(確固たる意思)。


「………そうです、ね………とても、心地良い、です………」


「んー………」


そして………ぽかぽかの陽気と、光を上手く遮る木陰と、心地良いよそ風と、自然特有の煩くも静かな環境と、アリスという名の極上の抱き枕(アリス視点だと私と言う普通の抱き枕だが)があるこの状況で、私達に眠気がやって来ないわけも無く──


「………すぅ………」


「………んぅ………」


──私とアリスは、お腹を空かせたレイカとフェイが戻ってくるまで、すやすやとお昼寝をするのだった。

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