私、徹夜できないタイプだから………眠いから………
「んぬぅ………」
目が覚めた………確か、アリスを助けて朝3時くらいに帰ってきて、んでクソ眠かったのでアリス用のベッドも無いからアリス共々同じベッドで寝て、現在の、はず………現在時刻は………12時か。割と寝たな。身体が若干重い。寝過ぎたからかな………んー、抱き枕が適度な暖かさと極上の柔らかさが混ざり合って気持ちいい………私のストレス(殆ど無い)が解消されてくぜ………確か抱き枕には、寝姿勢の安定と、それに伴うリラックス効果があるとか何とか………抱き心地が非常に心地いい………素晴らしい………毎日これを抱いて寝たい、くら、い………?
「………ぁ?」
待って待って今気がついた。私今アリス抱いてるわ。抱きついてるわ。アリスの事真後ろから抱きついて寝とるわ。悪魔に変転したまんま、服はいつもみたいに下の下着、つまりパンツ以外全部脱いで、思いっきり自分の胸アリスに押し付けてるわ。普段の私より少なめにしたけどやわっこさは極上のお胸をアリスに押し付けとるわ。どうしようバレたら殺されたりしないかな………いや待て、今気がついた今気付いた阿呆!私のアホ!私の手がラノベ主人公の定番みたいな事してやがる!これ今手の中にあるのアリスの胸だわ!そらめちゃくちゃ柔っこいと思ったわ馬鹿野郎!何々急にラノベみたいな展開しだすじゃん私!アリスにあり得ないくらい失礼な事してるじゃん私やべぇ!寝起きで頭回ってなくていやとりあえず離れな離れられねぇ!アリスさんの身体があって腕、腕が!アリスさんの身体の下敷きになっとる左腕が!右腕は動くってーのに!このポンコツな私の身体め!とりあえず手だけは開けたし、下敷きになっとるって言ってもガチガチに固められてるわけじゃねぇ。ゆっくりとなら抜ける!しかしアリスが寝ている場合睡眠の邪魔になるので腕を抜こうにもくっ、寝起きの頭で考える情報量じゃな──
「………キングプロテア様、起きられましたか?」
──いやちゃうんすよアリスさんわざとじゃ無いんです必然では無く偶然、そう偶然なんです。身体が勝手にとかじゃなくてあれですあれ。というかアリスさんの抱き心地が良い方が悪くありません?後身体の大きさがぴったしなのも悪いと思うんですけど。悪いと思うんですけど!私悪く無いです!アリスさんの抱き心地が最高で大きさもパーフェクトなのが悪いんです!私は悪くねぇ!私が抱きついて丁度良い場所にお胸があるのも悪いと思うの!だから私は悪くないです許してください!
「………えぇ、おはようございますわ………」
とりあえず、口調はキングプロテア・スカーレットとしての口調にしておこう。ついでに何か言われるまで黙っとこう。きっと許されるから………私は悪くないから………もうやってないから………寝起きで頭回ってないけどいけっかなこれ………
「私も、ついさっき起きたばっかりなんです。………こんな、柔らかいもので寝たのも、生まれて初めてで………この柔らかいものの名前は何と言うんですか?」
「あぁ………ベッドですわ。寝台とも言いますわね………これくらい、外の世界じゃ当たり前のような物ですわ………まぁ、他に何かわからないものがあったら、逐一
本当に暇してるだけである。いやまぁ、働いてはいるのだが、それ以外は基本的にやりたいがまましたいがままに生きているので、その時のノリと勢いで色々とするからな、私………頭まだ回ってないしどうしようかな………
「………キングプロテア様」
「テアで良いですわ………様付けもしなくてよろしい。毎回毎回
だから抱き枕にしてお胸を掴んで否、私自身は無意識だったとしてもそのお身体の一部をお揉みしてしまった事を許してくれませんか?後ほぼ全裸でアリスさんに抱きついていた事も許してくれませんか?ついでに抱き心地が非常に良かったので今日から毎日私の抱き枕になってくれませんか?
「………では、テア………私、まだ夢を見ているのではないかと、思ってしまうんです。こうやって、柔らかいベッドに寝ているのも、貴女に抱きつかれているのも、全部全部、私の夢なのではないかって………私に都合の良い、夢なのでは、と………目が覚めたら、あの地下に居て、硬い床の上で起き上がって、身体に纏わりつく鎖と拘束具が心を重くして………この夢を見たから、見てしまったから、昨日よりもずっと深く………外の世界を夢見てしまうんじゃないかって………希望を抱いてしまって、また絶望へ堕ちるんじゃないかって………」
「あら、そうなると、
「………はい。私を都合良く攫ってくれる悪魔の方なんて、居ませんから………」
「ふーん………」
「え、わっ、え?あの?テア?」
私はアリスの顔が見たくなったので、アリスをベッドの上で転がして反対を向かせる。うむ、これで顔が見える。ついでに手持ち無沙汰になった手で頭をなでなでしてあげよう。うむ、なでなで。心地良い。一生やってたいレベルで心地良い。最高かよ。
「アリスは酷いですわ。
空いている右手で目元で手を拭うという、簡素な泣き真似もしておく。冗談なので、馬鹿でアホな私だろうと見てわかるような泣き真似だ。ついでに私から抱きついてアリスの顔を私の胸の中に埋めてやろう。………ちょこっとだけ、今から言う事を顔を見合わせて正面から言うのは、少しばかり恥ずかしいから。
「ぇ、あの………テア、ちょっと苦しいです………」
「それくらい我慢なさい。………アリス。
なんかもう、今日はずっとこうやって、アリスを抱き枕としてベッドの上でゴロゴロしていたい気分だし。それに、今の私は自分の欲望に正直な悪魔なのだ。自分の欲望にくらい忠実になってもいいだろう。
「………えぇ、そうですね………実を言うと、これが夢では無い事くらい、最初から分かっていたんですけど………でも、現実とも思えなかったので………つい、言ってしまっただけなんです」
「あら、そうでしたの?………なら、もう少しだけこのまままでいましょう?それくらい許されますわ。何に許されるかは知りませんけれど………貴女は、貴女のこれまでの日常が非日常になるまで、
「………そうですね………非日常を、日常に………ええ、ええ。テアと同じ日常を過ごせるように、私も頑張りますね」
「別に頑張らなくてもいいですわ。頑張らずに過ごせるような日常でなければ、いつか疲れ果てて死んでしまいますもの。もっと、ゆったりと、じっくりと、時間をかけていいですわ。むしろ、そちらの方が早いかもしれませんわよ?」
日常は、文字通り"日の常"だ。常にある日。それを毎日頑張らねばいけないなんて、そんなもの、疲れ果てて死んでしまう。少なくとも私なら死ぬ。せめて週2で休みが欲しい。けれど、働いている私はともかく、今のアリスには、こなさなければいけない仕事も、今すぐやるべき事も、絶対にしなくてはならない事も、今のところ特に無い。なら、ゆったりできるうちに、ゆっくりできるうちに、だらだらとアリスにとっての非日常を過ごすべきだ。そちらの方が、きっと、日常を手に入れるのが早いだろうから。………多分だけど。
「………そうかも、しれませんね………なら………ゆったり、ゆっくり………テアが満足するまで、今暫くこの状態でいましょうか………」
「それがいいですわー………」
そうと決まればこのままゴロゴロしてやる!むふー!アリスの抱き心地最高!アリス最高!抱き枕アリス最高!愛してる!囚われの姫を1人助けただけでこんだけ極上の気分になるなんて!そんなら私が私の信念に則って助けを求めた姫さん全員幾らでも助けてやるよぉ!はー!アリス最高!愛してる!大好き!このままゴロゴロし続けてようあまりに抱き心地が極上過ぎてテンション上がるぅ!いやでもこれはアリスの抱き心地が最高過ぎるのが悪いので私悪くないな!私の無罪決定QED証明完ぅ!………私のテンションの上がり方気持ち悪くね?
「んぅ………テアは、私に抱きつくのが好きなんですか?」
「好きですわ(迫真)」
今私何も考えずに反射で返事したな?脊髄会話してるじゃんヤバ。
「そうですか?………それなら、もっとぎゅーってしてもいいですよ?」
ぎゅう。………また私反射で行動してるじゃん草。いや、草じゃねーんだよなぁ………でも今のはアリスがいいよって言ったから別にいっか………はぁ〜………アリスに抱きついてるとめっちゃ安心する………これが………安心感っ………!………ふへぇ………堕落………堕落してしまう………割ともう既に堕落してるけど………!
「えへへ………ぬくもり、って言うんですよね?これ………凄く、安心します………」
そりゃ良かった。
「………冷たくない………硬くない………動いてくれる………明るい………狭くない………だから、凄く………心の底から、安心します………」
………そりゃ、良かった。これだけの事で安心できるんなら、アリスを助けた甲斐があった。たったこれだけの事を、ただ同じベッドに寝転がって、こうやって雑に抱きつくだけで、そこまで安心してくれるんなら………たったそれだけの労力で安心してくれるんなら、それは………良かった。
「………それは、良かったですわ………」
それだけは、本当に………心の底から、良かったと思う。世界を知らぬ、世間を知らぬ、社会を知らぬ、そんな1人のガキ如きが、自分に出来る事だけを考えて、自分に出来る事だけをやって、自分に出来ない事は無視して、自分に出来ない事はせずに、そこまで一生懸命でもなく、最初の決意からの惰性のようにずるずると、ただ疲れない程度に頑張っていただけで。
たったそれだけで、1人の女の子を安心させられたなら。
たったそれだけの労力で、1人の女の子を助けられたらなら。
それはきっと、私にとっても素晴らしい事だし、助けられた女の子──アリスにとっても素晴らしい事だと、思う。そう、思いたい。
「………良かったですわー………」
そのまま私とアリスは、夕方になり、レイカとフェイが帰ってくるまで、ベッドの上で互いに互いを腕の中に抱きながら、ゆったりと眠り続けるのだった。
2日後、私とレイカとフェイ、そして新たにアリスを加え、私達は王都からルナートの街、つまり私が働いている街まで戻ってきていた。ちなみに、戻ってくる方法は単純だ。普通に走った。レイカは言うまでもなく身体能力が馬鹿みたいに高く、私もそれに匹敵する程の身体能力を、悪魔の姿なら発揮できる。悪魔の私は1秒で300mくらいなら進めるのだ。10秒で3000m、つまり3kmも進めるのだぞ?活用しない手は無い。私はアリスを抱えつつ
ちなみに、王都から出る時は昼間の正面から、つまり普通に門から堂々と出てやった。アリスの姿はこの前魔法道具店で買った『偽りの腕輪』を使って変え、私は普段の姿に戻しただけである。その時に、私の姿が実は偽の姿で、口調も全て演技だと、割と覚悟を決めてアリスには言ったのだが、なんか私の姿の事とかは最初から知っているみたいだった。
最初から知っている理由は、アリスの『真理の瞳』ってユニークスキルのおかげらしい。なんでも、この世界の真実
わかりやすい例として挙げるなら、悪魔として活動していたこの前までの私だろうか。あの時の私を見た時、私の名前は直ぐにわかったそうだ。あれはただの偽名、嘘の名前だからな。
しかし、よーく見ると、その姿は悪魔としての姿であり、その種族も悪魔となっていたらしい。しかも、その姿や種族の下に重なるように、私の本来の姿(しかし見えたの女性の姿だったらしい。ユニークスキルで性別が変わったとしてもそれは悪魔に変転する前の私の本来の姿という事だろうか。それともその時の性別が女だからだろうか。兎に角解せぬ)と本来の種族である人間という表示が見えたそうで、なんか、わかりやすく例えるとバグってるように見えたそうである。しかし服装はドレスのままで、だ。
つまり、
私が教えてもらって理解できたアリスの『真理の瞳』の事柄は、これくらいである。後はなんか、世界の真実だとか、外来の存在だとか、虚数の世界だとか、いまいちわかりそうでわからない話も聞いたが、私にはいまいち理解出来なかったので無視しておいた。そういうのは専門家の仕事だ。
「アリス。仕事、疲れたらすぐに休んでね」
「アオイ。えぇ、大丈夫です。それよりも、早く仕事に慣れなければいけませんからね。アオイにも、ミナさんにも、店長さんにも、迷惑はかけられませんので」
そんなアリスだが、私と同じように宿屋『バードン』で働くことになった。しかし、アリスは仕事をした事すら無い素人も素人。常識外れの箱入りお嬢様が如き常識の無さなので、仕事は夜営業のみで、更には私のお手伝い要員だけしかしない。というか出来ない。勉学自体はあの地下空間でずっと教えられていたから、むしろ頭自体は非常に良い。しかし、ふとした拍子に日常を知らない弊害が出てきてしまうのだ。だから、お客さんと私の会話に混ざりたくても混ざれない。お客さんの迷惑になるだろうと、私の迷惑になるだろうと、会話に乱入できないらしいのだ。迷惑でもいいから乱入すべき、と言うのが本来正解なのだろうけど、私的には別にそれでもいいかなと思ってしまう。私自身、そこまでコミュニケーションが上手な訳では無いから、人にどうこう言える立場では無い。
「まぁ、無理しない程度にしといてね」
「はい、大丈夫ですよ。無理だけはしません」
「頑張ってー!アリスお姉ちゃーん!」
「!!、!!」
「ふふっ。はい、頑張りますよ!レイカちゃん!フェイちゃん!」
実は今日、レイカとフェイはまだ起きており、アリスの初仕事の応援をしている。手伝いはアリスのするべき仕事が減るので遠慮してもらった。やることやらないと仕事に慣れていきやしないからな。百聞より一見、百見より一行。聞くより見る、見るより行動するのが、きっと1番アリス自身の為になるから。だからこそ、私も心を鬼にして──いる訳が無い。他人に仕事をさせられるならそれはそれで万歳なので、アリスは痒いところに手が届くが如き、丁度良い人員である。私は他人の手伝いをそういう目線でしか見ていない。アリスに『無理をしないで』と言っているのも、唐突に倒れられるとその対処などの諸々で面倒がかかるから倒れるな、という意味合いである。私は自分で自覚するくらいには薄情、というか割と酷い男なのだ。
「とりあえず、アオイはこのお皿持って」
「はい、わかりました!」
アリスには注文された食事の乗せられた皿を持たせる。私?私は
そもそも、アリスは今までの人生で、一度も仕事をした事がない。今まで幽閉されてきただけなのだ。勉強だけはしていた、というよりあの地下空間でする事といえば勉学の本を読む事くらいだったそうで、そのせいで基礎知識だけならあるのだが、本来勉学に追随するはずの経験や知恵が全く無いのだ。私の手伝いをしているのも、仕事の経験をし、知恵をつける為の応急処置、という意味合いが強いのである。仕事とはどんなものなのかを掴む為にやっている訳だ。アリスが仕事を始めたのは今日が初めてなので、最低でもこのまま1週間は今日と同じように私の後ろをカルガモの親子が如く着いてくるだけの仕事擬きをさせるつもりである。
アリス自身はこんな雑な仕事でも割と楽しんでいるようだが。まぁ、仕事や労働に対しての拒絶反応が起こった訳でも無いし、このまま1週間は夜営業のみ且つ私の手伝いのみ、という簡単な仕事をさせてみよう。その後はミナが宿屋の方の仕事をさせるらしい。私は宿屋の方の仕事は聞くからに面倒くさそうなのでやりたくない為、未だにそこまで宿の方に首を突っ込んでいない。しかし、私から見れば面倒そうな仕事でも、アリスからしてみればやる気に繋がる事柄だったらしい。私的には楽しそうで何よりだ。なんで仕事や労働でそこまで楽しめるのかは知らないが。
「ふふーん♪」
まぁ、側から見ても普通に楽しそうなのでヨシとする。
2週間後、アリスは私の手伝いもミナの手伝いも、その全てを終え、つい2日前からアリス単独で仕事をし始めている。私のが1週間だったのに対し、ミナのお料理教室的なのは5日で終了したらしい。いや、別に期間がどのくらいとか決めてなかったから、そのせいで何かある訳でも無いけど。
「アリスちゃん!こっちに酒3つだ!」
「おい!ずりーぞ!アリスちゃん!こっちには酒5つ頼む!」
「はーい!ちょっと待っててくださいねー!」
ちなみにアリスはめちゃくちゃ人気になった。私の時よりあからさまに人数が増えて仕事量が増している。どれもこれも、アリスが誰に対しても優しく接し、元々の美貌が私やミナを軽々と超えているからだろう。しかも、アリスのおかげで男性客は勿論、女性客まで数倍に増える程に人気である。アリスは凄いなぁ。
「凄いなぁ………」
「アオイの嬢ちゃんも働け」
「あー、嫌だー」
私?私はフォージュさんと一緒の席に座って、いつもみたいにサボりつつ、フォージュさんと適当に駄弁ってるだけだ。なんせアリスがあまりにも人気だからな。私に注文が殆ど来ない。いや、私が初めて仕事していた辺りにもう居たお客さんは、アリスではなく私に注文を頼む傾向が強いのだが、お客さんの数の桁が違う。私が2桁なら、アリスは3桁分だ。格が違う。ちなみに、ミナは店長と共に料理を作る事に専念している。人が多いからそっちに回ったそうだ。まぁフロアは私とアリスで十分だものね………
「そもそもアリス目当てで来てる奴しか居ないやん?私がでしゃばったらきっと睨まれて終わりよ終わり。私はメンタルクソ雑魚ナメクジだからさー、睨まれたら猫に睨まれた鼠みたいになるだけだよ?」
「嘘吐きやがれ。アオイの嬢ちゃんは肝が座りすぎだろうに。この前新人冒険者どころか臆病な奴でも一瞥しただけで泣かす顔の冒険者に対して『邪魔だぞゴミが』なんて正面から言える奴いねーよ。俺もそう簡単に言えねぇわ」
「いやあれは仕事中に巨体で突っ立って通行の邪魔をしてた相手の方が悪いから私悪く無いし………」
あの時はお腹減ってた&眠たかったから私の機嫌も物凄く悪かっただけだし………私悪く無いし………
「悪いか悪くないかで言ってるんじゃねぇ。強面で巨体の男に対して毒舌吐ける事に対して物申してるんだよ。しかも男側が『アッハイ』とか片言になるレベルの怒気と殺気を立ててだ。なんだあれ俺でも出せねぇぞ」
「それは知らないけど………」
だってあの時お腹空いてたし………だってあの時眠かったし………もう少しで仕事終わりで飯食えるってのに、仕事も残り少ないってのに、私の通りたかった通路の通行の邪魔をしやがってたから………ついイライラしつつ口を開いたら脊髄が反射的に毒吐いただけだから………別に私悪くないし………悪いのは私の脊髄だし………脊髄会話しただけだし………殺気と怒気に関しては本当に何も知らないし………私そんなアニメ主人公みたいな事できないし………
「………というかあれだね。フォージュさん、若干話し方が私みたいになってるね」
「こちとらアオイの嬢ちゃんと酒飲みながら話しまくってるからな………少しくらい、アオイの嬢ちゃんの話し方が移ったんだろ」
「それはそれでちょっと面白いな………」
「最近俺もそう思うようになってきててな………」
私にめちゃくちゃ侵食されてるじゃん草。私は新手の感染症か何かかよ。
「アリスちゃーん!」
「はい!ただいま向かいます!少し待っていてくださいね!」
本当、あまりにもアリスが人気過ぎる。
「アオイちゃん、アオイちゃん?」
「ん?マリィさんじゃん」
えーと、マリィさんは確か、近くにある雑貨屋の店主さんの奥さんの人だ。金髪碧眼でダイナマイトボディ持ちの美人さんでもある。旦那さんの方は気弱そうな黒髪赤目の人なのだが、なんかめちゃめちゃお似合いの夫婦だったのを覚えている。というか私が来た辺りにいた女性客が割と少なくて、女性客の人はかなり名前と顔を覚えている。後、マリィさんは会話文が全部疑問系みたいな喋り方をする人だから個性的で覚えていた。特殊な喋り方をする人は割と覚えてるから………
「そうよ、ひさしぶりね?」
「まぁ私の方が王都に行ってただけだし」
「そうみたいね?楽しかった?」
「まぁね。アリスみたいな可愛い子も見つけて攫ってきたし、収穫はあったよ」
「うふふ。確かに、アリスちゃんなら大収穫ね?」
「でしょう?」
それだけは自信があるよ。可愛い子を見つけたってのも間違いじゃないし、攫ってきたってのも間違いじゃない。収穫は沢山あった。使い道の無い魔法道具とか、新しく作った複合魔法とか、アリスとか、もう大収穫も大収穫よ。
「ほら、注文するわよ?」
「はいはい、どうぞ?」
「串焼きを4本、お願いするわ?旦那と私の分よ?」
そっかぁ。でも旦那さんってかマリィさんが座ってる席何処?人が居過ぎてわからないが?
「なるほど。じゃ、ちょっと待っててね」
「えぇ。お願いね?」
「はーい」
私は立ち上がる前に一口牛乳を飲んでから立ち上がり、そのままカウンターの側まで移動する。
「ミナー、串焼き4本追加ー」
「そこに4本あるから持ってって!」
「はいよー」
ミナは忙しそうだね。………そりゃそうか。アリスの効果でお客さんの人数が溢れるほど増えてるし………まぁでもミナの表情は割と楽しそうな顔してるし平気なんだろうな………店長さんはいつもの事ながら表情が動かないしあんまり喋らないので様子は全く分からんが、まぁ、繁盛して嫌って訳ではないだろう。
「マリィさーん、はいどうぞ。美味しく召し上がれ。一口食べたら驚天動地天下無双の味だといいですね」
「ふふっ、ありがとうね、アオイちゃん?」
「まぁ仕事なので」
仕事じゃ無いならこんなのやらないからな。というかマリィさんの旦那さん何処?あいや荷物はあるな。トイレでも行ったかな………
「あ、そうそう。夫がね?アオイちゃんに今度来て欲しいって言ってたのよ?何したの?」
「私別に何もしてないけど?何?旦那さんが突然爆発四散でもした?それとも天空の城に閉じ込められたりした?それか心は大人身体は子供の摩訶不思議状態にでもなった?」
「そうじゃないわよ?ただ単純に、あの人はあまり他人にそんな事言わないのよ?だからどうしてなのかなーってね?後、別に爆発四散も閉じ込められても摩訶不思議状態にもなってないわよ?」
「そりゃよかった。………んー、特に何かした覚えはない………もしかして、マリィさんの事ベタ褒めしたのが原因だったか………?それともマリィさんのどの辺がえっちかの談議をしたあれか………?それともあの時のマリィさんに似合う服装談議の時か………?んー、マリィさんはどれだと思う?」
「アオイちゃん、そんな事をうちの夫としてたの?初耳よ?」
「そりゃそうよ。マリィさんの旦那さんに内緒にしてくださいねって言われてるんだから」
でなければマリィさんも知っているに決まっているじゃないか。何言ってんだ。
「今言ってしまったけれど、それはいいの?」
「マリィさんに聞かれたら素直に答えてもいいって言われてるから」
そうしないと旦那さんに対してマリィさんは怖いらしいから。私に隠し事ですか?私に言えないようなことをしているんですか?私は貴方に全てを伝えているのにあぁどうして貴方は私に隠し事を作るんですか私が駄目だからですか貴方が駄目だからですか私が駄目なら改善しますし貴方が駄目なら弄っちゃいます良いですか良いですね?って言われるらしい。ちょっと怖いけど一途な人だとも思う。強いて言うなら弄っちゃいますって何?ってとこだが、控えめに言って深入りしたくないので無視したい所存である。控えなかったら?うーん、普通に発言を無視したい感じかな………別に悪い人じゃないんだけどなぁ。病んでる訳でもないし、なんというか………うーん、一途?なんだろうなぁって。それ以外に表現の仕方が分からない………
「あら、そうなの?」
「うん」
そうしないと怖いらしいからね。大事なことなので二度言うよ?まぁそれもマリィさんの魅力なんだよとか惚気て来たのでうざって思ったけどな。
「まぁ、そうなのね?もう、あの人ったら。恥ずかしがり屋なんだから、仕方ないわね?」
んー、ゲームとかならヤンデレみたいだなーって思うんだが、マリィさんの旦那さんはこういうマリィさんが嬉しいらしいし可愛いらしいからな………相性良過ぎかよ。
「ま、今度、雑貨屋には寄るよ。少なくとも今月中………には駄目でも、絶対に今年中に」
「あら、そう?ならいいのよ?アオイちゃん、串焼き、ありがとうね?」
「まぁ仕事ですので。じゃねー」
「うふふ。またね?」
私はマリィさんとの会話を終えると、フォージュさんの座っている席まで戻ってきて、そしてそこにある牛乳をゴクッと飲み干した。うむ、美味い!
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