ド忘れした時は時間を置くといいって聞くよね


色々とカッコつけたが、とりあえず私はこの手紙の人物を助けたいのだ。いや、色々とカッコつけたような思考はしたが、別に誇張した訳でも嘘を吐いた訳でもない。あれは10割私の本心だ。助けてと言われたら助ける。助けてと言われなければ助けない。私は元からそういう男というだけだ。だから、助けてと言われたら助けるだけ。


ちなみに、私は今、既に冒険者ギルドの依頼を終えて白銅貨を5枚貰った後だ。上手い商売だぜ。


「しかし………蝶と花の楽園とか何処だよそれ………」


バティンも既に帰している。私が今いるのは借りている宿の部屋の、更に言うなら、ここ最近の私がごろごろしていただけのベッドの上だ。あの蝶ゴーレムとのあ手紙はMICCミックの中だが、あの手紙はスマホのメモに文章を書き写している。紙媒体と電子媒体の二つで管理すれば、片方を無くしてもなんとかなるからである。いやまぁ、今は手紙もメモもスマホの中にあるから、実質今はどっちも電子媒体なんだけどね?まぁとりあえずその辺はどうでもはよくないけど今はどうでもいい。まず私が考えるべきなのは、この手紙の人物の居場所だ。それが分からないと、本当に何も分からない。手を伸ばせば届くような近場なのか、手を伸ばしても届かないような遠方なのか………まずはそこからだ。


前提として、私は『蝶と花の楽園』を見つけなくてはならない。しかし、私は他人に頼る事も、冒険者ギルドに依頼する事も出来ない。簡単な理由だ。この蝶ゴーレムの持ち主、つまり手紙の人物が、一体今どんな状況なのかが分からない。だから、私は衛兵の詰所に行く事も出来ないし、してはいけない。手紙の人物が外に助けを求めたのが、私経由でバレてしまう。それは、駄目だ。私も、手紙の人物も、不必要に危険になってしまう。その可能性がある。だから駄目だ。それだけは駄目だ。助けを求められたのに、相手を全く助けられないのが、私の中で1番嫌だから。嫌で嫌で仕方ないから。だから、私1人で助けなくては。私1人でどうにかしなくては。………いやまぁ、レイカとフェイ、後私が契約した悪魔達には、普通に協力を求められるけどね?けどこれは、実質1人のようなものだ。


だからまず、私はこの蝶を調べて、一体何処から飛んできたのかを調べなければ。内部の構造を調べに調べ尽くして、この蝶ゴーレムの行動プログラムを隅々まで理解すれば、一体どんな風に飛んできたのかがある程度予測………出来るといいなぁ。いや、そんな時こそ、バティンとかの力を借りればいいのか。後はレイカとフェイも借りよう。うむ、そうなるとー………とりあえず、行動プログラムの解析からだなぁ………深淵属性で解析するのは………出来なくはないけど、特性的に危険かもしれない。


深淵属性は、その名の通り深淵としての特性が強い。しかしほら、どっかの哲学者が言ってただろう?『深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いているのだ』って。わかりやすく例えるなら、『異常者の心理を分析する者は、自分自身も異常者になる』というような感じだろうか。即ちミイラ取りがミイラになる的なイメージだ。その為、深淵属性で解析を行うと、相手側にもその解析結果が見えてしまう可能性が十分にある。というかそういう特性の属性なのだ。もし、蝶ゴーレムの内部解析に深淵属性を使った場合、手紙の人物に伝わってしまう可能性がゼロではない。それは、非常に危険だ。相手の状況がわからないから、そんな危険な事は出来ない。


だから、私は魔法の力に頼らず、人力で解析するしかないのだ。魔法に出来るんだから、人間にだって出来るだろう。そして、人力解析は私でも可能だ。これは純粋な技術でしかない。魔力の流れを一つの"絵"として判断し、その"絵"がどんな魔法かを判断するだけだ。………ちなみに、この蝶ゴーレムだとその"絵"があり得ないくらい緻密で精密なので、魔法がヤバいくらいの量発動しているのだ。あれだけ本物と同じような行動が可能なプログラムなのだから、一体解析に何日、何週間、何ヶ月かかるか………少なくとも、考えたくはないな………


「………ま、とりあえず………やるしかないなぁ………」


MICCミックでの内部解析をもっと細やかに出来るよう、既に改良してある。そうでもしないと、解析に時間がかかってしまうからだ。言うなれば、顕微鏡が無いのに微生物を見るような、出来なくはないだろうけどやりたくない。そんな感じなのだ。


「んー………あまりに細かい………模様があまりに綺麗………うわ、何これ………数世紀くらい技術レベルが違うんじゃ………?」


これが、実は未来から時空を越えてやってきた、文明レベルが離れ過ぎているような未来からやってきたモノと言われても、きっと誰であろうと一切の文句は言われないだろうという、まさに奇跡のようなレベルの技術。なんという緻密な魔力操作。なんという精密な魔力回路。少なくとも、私には鍛え続けても再現できないような、圧倒的な技術とセンス。天賦の才能と埒外の技術が無ければ完成できない、まさに完璧で完全な逸品。


「うへー………頭使い過ぎて頭痛が痛くなりそう………」


魔力回路に込められた情報量が圧倒的だ。あまりに美し過ぎる。美し過ぎて頭が痛い。


「まだ1%も解析出来てないんだが………?」


はぁ〜!!時間かけてでも解析するか〜!!











なんと、解析は3日で終わり、現在は5日経過している。自分で思ったより解析の時間がかからなくて、割と本当にびっくりした。確かに、蝶ゴーレムの内部は緻密で精密だった。美しかった。しかし、しかしだ。


──あまりにも美し過ぎた・・・・・・・・・・


美しかった。綺麗だった。あまりにも、あまりにも。………だからこそ、内部の構造を知る為に写しに描いた魔法が、予想の何千倍もわかりやすかった。綺麗だからこそ、わかりやすかったのだ。


その結果、蝶ゴーレムの行動プログラムは複雑だった。まるで本物の蝶のように動く事は理解できたが、あまりに複雑過ぎてどんな行動プログラムなのかは分からなかった。しかし、二つの行動プログラムだけは分かっている。一つ目は、『王都から決して出られない』という行動プログラムだ。二つ目は、『外的要因により王都の外に出た場合自壊する』という、行動プログラムだ。つまり──この蝶は、王都の中で放たれたモノだ。そうでなければ、この蝶ゴーレムの存在が矛盾してしまう。王都の中から放たれないと、この蝶ゴーレムは存在出来ない。王都の中で作られないと、この蝶ゴーレムは矛盾する。


つまり。『蝶と花の楽園』も、王都の何処かにあるのだ。………何処にあるかは知らないけど、何処かにあるのだ。これがわかっただけで、探す範囲がかなり違う。そして、その『蝶と花の楽園』についてだが………私、どっかで似たような単語を聞いたことがあるような気がするんだよなぁ?!


うーん、うーん。でも一歩手前で出てこない!ド忘れしたというか微妙に思い出せない………!なんだっけなぁ………んー………?


「駄目だー………」


こう、後ちょっとの所まで来てるんだけど………うん、一旦休憩入れよう。探し物をする時も一旦間を置いてから探すと高確率で見つかるしな。少なくとも私は焦っていると、本当に視界が狭まるのだ。見えていた筈なのに見えていない、なんて事も多々あるのだから。


「お母さんお母さん!お昼食べ行こ!」


「!!、!!」


ちなみに、今日は久しぶりにレイカとフェイが出かけていない。さっきまで2人で白熱したカードゲームをしていたらしく、かなりテンションが高い。いやまぁ別に良いんだけどね?


「お昼、お昼………何食べようかな………」


個人的には、王都で見つけた人気、とは言えないが閑散としているわけでも無い普通のパン屋に売っていた、揚げパンを食べたい。揚げパンなんて中学校以来食べていないので、割と食べたかったりする。というかもう既に私の腹は揚げパンの気分だ。ちなみに、なんで揚げパンがこの世界にもあるの?とか言う疑問は特に考えない事にする。だって割とどうでも良いので。


「お母さんは何食べたい?」


「んー、揚げパンかなぁ………」


「あのお店のやつだ!あの揚げパンおいしかったよ!」


「!!、!!」


「そうなんだぁ」


え何?君ら私より先に揚げパン食べてたの?頂いてたの?お食べになっていたの?何それ狡い。私も食べる。


「ま、とりあえずパン屋行こうか。………ねぇ、バティン呼んで運んでもらっちゃ駄目?」


「駄目だよ!歩くくらい自分でやらないと!」


「!!、!!」


「はーい………」


ちなみに、バティンのお姫様抱っこによる移動方法は娘とペットにバレて禁止されてしまったので、大人しく自力で歩く事になった。運動不足になるからやめろ、だそうだ。






パン屋で買った揚げパンがあまりに美味しかったので50個も買い込み、昼食を終えた私とレイカとフェイの3人は、ついでだからと表通りではなく裏通りというか、人の通行が表通りよりも比較的少なめな道を進んでいた。なんせ、レイカとフェイが一緒でないとこういう道を進んではいけないと言われているので。バティンと一緒でも駄目なので。だけど、今は2人が居る。丁度お休みの2人が居る。ならば裏通りに行こうということになった。そんな裏通りは、やはり表通りより人通りは少ない。なので非常に歩きやすい。バティンはいつでも呼べるように隷属印に魔力はスタンバイしているものの、今のところ特に危険は無いっぽい。レイカとフェイが居るからだろうか?


時々、浮浪者がいたり孤児がいたり乞食がいたりするが、私は全てガン無視するし、レイカとフェイもガン無視している。私とレイカは助けを求められないと助けないし、フェイも私かレイカのどっちかが助けないと助けないっぽい。側から見たら薄情とか思われてるんだろうか?いやまぁそんなのどうでもいいんだが。


「あ、お母さんお母さん。あんな所に魔法道具店だって!行こう!」


「!!、!!」


「あぁはい行きます行きます行くから腕を引っ張らないで後ろから押さないで」


レイカに腕を引っ張られ、フェイに後ろから押されながら、レイカが見つけたらしい魔法道具店へ向かう。『ヘカトル・マジックアイテム』という看板を掲げた魔法道具店らしい。私は今までリリーさんの魔法道具店以外、魔法道具を売っているような店を見かけた事も入った事も無いので、ちょっとだけ期待している。


「お邪魔しまーす」


「!、!」


レイカが扉を押すと、カランカラン、という入店のベルが鳴る。そのまま店の中に入ると、リリーさんの店とは違う店内の雰囲気があった。リリーさんの魔法道具店は『老若男女誰でも歓迎!』みたいな雰囲気だったのだが、この店は『冷やかしお断り』みたいな雰囲気がある。つまり、厳格な雰囲気なのだ。まぁ、私はどんな雰囲気でも割と関係なくどんな店にも入るので、あんまり気にはならないが。


「おぉ………リリーさんのお店より種類が豊富だ………」


リリーさんの店の品揃えが少ない訳では無い。リリーさんの店のラインナップに加えて、更に魔法道具が増えているような感じだろうか。リリーさんの店の魔法道具は、基本的に誰でも使えるみたいな物が多かったのだが、この店の魔法道具は使う場面も人も限られるキワモノも多い。うむ、素晴らしい。こういう店は嫌いじゃない。むしろ好きだ。ゲームの中にも稀にこういう店があるが、私はこういう店が好きだ。普通の店も好きだけど。


「お母さんお母さん、この魔法道具見て。ね、これ、魔力を流すと独楽が回転するよ!それだけだよ!凄いね!」


「!!、!!」


レイカとフェイが、魔力を流すと回転するだけの独楽みたいなの持ってきた。何それ凄い。魔力を遠隔で流し続ければ無限に回る独楽じゃん。元の世界帰った時にマジックとして売り出せるぜそれ。買いだ。


「素晴らしい。いくら?」


「金貨1枚だって」


「よし買う」


私が欲しい。


「ふっふーん。私とフェイが奢ったげるよ?」


「奢ってくれるのか………」


娘に金を支払わせる親って、側から見たら普通に最悪最低では?………まぁいいか。気にせんとこ。人間気にしたら負けるからな。


「私達、お金持ちだよ?これくらい端金だよ!ここ1週間はSランク冒険者のみんなと依頼を受けたりしてるから、私の懐はかなり暖かいよ?ぽっかぽか過ぎて逆に熱いくらいだよ?」


「それは頼もしい」


本当に頼もし過ぎる。しかし、他人(娘)の金だからと言って無駄遣い出来るわけではないからな………流石に金額には気を付けよう。普段周囲の状況を特に気にしない私でも、流石に娘のお金を使って豪遊はしたくない。………いやまぁ、今泊まってる宿のお金はレイカとフェイが払ってるんだけどね?別に豪遊じゃないし?私着いてきただけだし?レイカとフェイと同じ部屋だから特に問題無いし?………なんか、あんまり考えないようにしよう。ちょっとした罪悪感が積もって山になるから………


「お」


なんて、少しだけ心がチクチクとしながらだが、少しだけ面白い魔法道具を見つけてしまった。


その魔法道具の名称は『シェイブカッター』。外見は刃渡り15cm程度のナイフだが、これも魔法道具である。その効果が凄まじい。なんと、このナイフの刃は魔力を流す事で、まるでチェーンソーのようになり、刃部分が独立して回転する。名称通り、対象を"削り斬る"のだ。金属だろうか生物だろうが、どんな物質であろうと、どれだけの硬度だろうと、相応の時間さえあれば必ず削り斬るのが、この商品の注目ポイントらしい。説明書にそう書いてある。


しかし、この魔法道具には欠点がある。なんと、1秒稼働させるだけで500もの魔力量を消費するのだ。あまりに使い勝手が悪い。冒険者ならば、前衛職はそれほどの魔力を持つ事は稀で、後衛職はそれほどの魔力があるなら普通に攻撃魔法や補助魔法、支援魔法ををぶっ放した方が早いので、必要無いのだろう。そもそも、物を斬るだけなら普通に攻撃魔法で斬る事は可能だし、熟練の剣士等は自前の剣で鉄くらい斬れるだろう。それに、このナイフはどうやったって"削り斬る"のだ。綺麗に斬る事が出来ないのだから、あまりに無駄過ぎる。


だが、ナイフの稼働音はゼロらしいし、削り斬っている間も無音だそうだ。音も無く対象を削り斬る事が出来るらしい。だから何があるわけでも無いが。例え誰か暗殺したいなら、普通のナイフで十分だろう。わざわざ変なギミック付きのナイフを買う必要が無い。削り斬って殺すとなると返り血がヤバそうだし、本当に必要ない。しかも、例えこのナイフを作業用に買ったとしても、今度は魔力消費という壁が立ち塞がる。そりゃ、静かに作業は出来るだろう。しかし魔力消費が1秒500なので、少し削り斬るだけで終わりだ。本当に役に立たない。


しかも、"削り斬る"という性質上、普通の剣で物を斬るよりも多くの時間がかかる。対象の質量が多ければ多いほど、対象が大きければ大きいほど、切断までに時間が

かかるのだ。それなら魔法で両断した方が早いし、そもそも大抵の魔力の込められていないような物質は、熟達した魔法の使い手なら普通に魔法で操作できるので、魔力量の数値が高い者がわざわざシェイブカッターを使って削り斬る必要がない。本当に使い道が限られている。


が、私的には普通に欲しい。だって珍しいモノっぽいし。別に買うだけなら問題無い。なんとこの魔法道具、金貨5枚だ。技術や性能だけなら割と高性能な魔法道具なのに、非常に安い。この魔法道具を扱うと考えれば非常に欠陥が多く、使い道が限られているからだろうか?まぁその辺はどうでもいい。今重要なのは、このシェイブカッターという魔法道具が金貨5枚という事実だけだ。素晴らしい。即買いだ。


「レイカー、これ買うけど本当にいいの?」


「お、何これ。あ、金貨5枚ならオッケー!」


「本当にいいのね?」


「いいよ!お母さんだって毎日頑張ってるもの!」


別に毎日頑張っているわけでは無いんだが。いやまぁ、ここ3日くらいは蝶ゴーレムの内部構造を解析する為に頑張ってたけど………


「そうかなー」


「うん!だってお母さん、言ってたじゃない。『助けたい』って。その為に、ここ3日はずーっと頑張ってたでしょ?だから、今日はご褒美なの!だから奢っちゃうの!」


「!!、!、!!」


「なるほど?」


まぁ、とにかく私の分のお金を払ってくれると言うなら?私は存分にこの状況を利用するだけだし?だって私は困らないし?そもそもそんな極端に高額な道具を買う気も無いし?それに、ご褒美というなら存分に好きなものを買うだけだし?


………さーて、他には何かあるかなー?


「あ、お母さん照れてる〜」


「!、!、!」


「照れてないです」


「あはは、照れてるじゃん、お母さん。耳真っ赤だよ?」


照れていません。手紙の人物を助けたいだけです。違います照れていません。やめてください。


「照れてません」


「そう?でもあれだね、なんか可愛いね?」


やめてください。娘に褒められるのはまだしも、ニヤニヤしながら可愛いって言うのやめてください。


「うふふ〜、お母さん可愛いなぁ」


くっそ、自分の娘の性格が私と似てやがる!レイカ、私と同じでSじゃないか!加虐体質………とまではいかないけど、他人をいじめて愉悦を感じてやがる!感性と価値観が私と同じ過ぎて何も言えねぇ!なんか言っても全部私にブーメランみたいに返ってくるから!


「ふふ、可愛いなぁ………うん、私とフェイは一緒に魔法道具探してくるから。お母さん、また後でねー」


「………また後でー………」


くそぅ。なんも言えねぇ。………なんか、他の魔法道具探そ。









時間は経ち、約3時間後。私とレイカとフェイの3人は、あの魔法道具店を後にしていた。今回、私は三つもの魔法道具を買ってしまった。その全てが金貨で支払えるようなものばかりだったし、道具自体は高性能でもその実用性は低いものばかりだったが、実にいい買い物であったと思う。私は満足した。後は一応、購入した魔法道具一覧をスマホに書き出してある。忘れないようにする為だ。こういうのって見ていてちょっと楽しいので、もう一回だけ見ておこう。第五アップデートを使って画面を投影!


──────────────────────────

【シェイブカッター】

『発動魔力消費』:秒間500

『説明』:チェーンソーのように対象を削り斬る事が出来るナイフ。完全遮音と振動遮断により、決して音を出さず、決して振動を撒き散らさず、非常に静かに稼働する。外見は非常にシンプルな作りで、普通のナイフとほぼ同じ。削り斬るという性質上、大きな物を斬るのに相応の時間を必要とするが、時間さえあれば大抵の物を削り斬る事が出来る。



【消えぬ炎】

『発動魔力消費』:分間100

『説明』:決して消えない炎を灯すライター。ライターの炎を他の物質に移すと通常の炎になってしまうが、ライターから灯っている間だけなら、例え水中でもその炎は消えはしない。しかし、炎の勢いは通常のライターと遜色無いレベルで、消費魔力を考えると火力が極端に低いし、炎の温度も普通のライターレベル。なので、本当に火を灯すだけにしか使えない。しかも、大抵の人は簡単な火属性魔法なら普通に使えるので、殊更使い道が無い。



【偽りの腕輪】

『発動魔力消費』:時間5

『説明』:他者が見る自分の姿を偽る真っ白な腕輪。腕輪を左右の腕のどちらかに着けると効果が発動し、本来の姿とは全く別の人物の姿へと変化する。しかし、自分がどんな姿として見られているのか確認する事は出来ないし、着けている間は魔力を封印されてしまうので魔法や魔法道具を使えなくなるし、身体能力も一定以上あると自動的に封印されてしまう。正に、姿を偽る以外何もできない腕輪。燃費も1時間で5の消費とめちゃめちゃ燃費が良い。しかし、燃費を上回る欠点がある為、使い道が考えられない。

──────────────────────────


などなど、『シェイブカッター』以外にも使えるのか使えないのかいまいちわからないような魔法道具を買ったのだ。多分、私が使う分には使い道自体はあんまり無い。しかしどれも普通に面白い魔法道具ばかりなので、精神的に問題は無し。余は満足じゃからな。ちなみに、『シェイブカッター』と『偽りの腕輪』はMICCミックの中にあるが、『消えぬ炎』は無くさないように紐を通して首から適当に下げている。折角買ったのだから、小物系である魔法道具は持ち歩く事にしたのだ。多分使い道はあまり無いがな!


「んー………こっちか」


「楽園って、あそこかぁ。依頼で行ったっきり、1回も行ってないや。気が付かなかったなー」


「?、?、!」


そんな私達は現在、『蝶と花の楽園』と呼ばれる場所に向かっている最中である。私は思い出したのだ。『蝶と花の楽園』の場所を。


──それは、この国の王城。その中庭だ。王城という敷地内で唯一、一般人が入る事を許された、かなり珍しい観光地である。中庭には世界各地の花が咲き誇っており、それに付随する様に数多の蝶々が中庭中を飛び回っており、非常に立派で非常に美しい、王都で評判の観光地なんだとか。そしてその別名を、『楽園』と言う場所である。


花が咲き誇り、蝶が飛び回る、別名を楽園。それはまさに、『蝶と花の楽園』ではないか。私が探し求め、あの手紙の人物の居場所の手がかりとなる、重要な場所ではないか。決して、偶然ではないだろう。私は少なくとも、王都内で他に『蝶と花の楽園』に当てはまるような場所を知らない。


しかし、一見もせずに"ここだ"と決めつけるのは、色々と不味い。故に、私たちは下見というか、その楽園を3人で見に来たのだ。………確認をする為にも、な。


「おぉ………」


「うっわぁ!凄い!凄い綺麗!」


「!!、!!」


中庭まで続く道を抜けた。その先に見えたのは──あまりに綺麗な花々と、美し過ぎる蝶々の、まさに楽園と呼べるような場所だった。観光客は私達以外にも割と居る。しかし、そもそもの中庭が非常に広いので、人数が居てもそこまで気にならない。それほどの広さを持つ中庭が、花々と蝶々で埋め尽くされている、と言っても過言では無いレベルで、花々は咲き誇り、蝶々は飛び交っていた。本当に、凄い。


「………」


地面を見る。花々が咲き誇っている。空を見る。蝶々が飛び交っている。周りを見る。この楽園に浮かれた人々が居る。


………そして、下を見る・・・・


──居る。あの蝶ゴーレムに残っていた魔力の残滓が、反応している。あの蝶ゴーレムの作者が居る。


手紙の人物が、居る。


何故わかったのか。それは、新しく作った魔法のお陰である。その名は『超広範囲全域探索アプリ』、略してUWASウワスだ。アップデートではなく、アプリケーション。MICCミックと同じで、任意発動する類の複合魔法である。この魔法は、使用者である私を中心とした周囲全ての非常に詳しい地形と、生物非生物の有無、そして現在地を全て把握する複合魔法である。探索の結果はアプリの画面を宙空に映し出して確認できるようにしてある。第四と第五アップデートの応用だ。


この魔法は、光、歌、契約、空間の複合魔法である。歌と空間の周辺把握の魔法を多重使用する事で、周囲全ての詳細な地形と生物の有無を細かく確認し、その情報をスマホのアプリの一つとして落とし込むのである。その確認範囲は、使用者を中心とした半径5km以内である。その後、光と契約によってアオイ以外に視認できないマップ表示をして探索によって分かった事を確認できる訳である。しかも、その副作用として魔法を使った事を隠蔽するようにもできたので、私としては実に満足だ。また、いつも通り光属性によって効果が倍増、契約属性によって魔力消費が減少し効果が増えている。


そして、このUWASウワスの最大の特徴。それは、魔力の残滓から特定の対象を探し出す事ができる事だ。人が居るなら物探しを、物があるなら人探しが可能なのである。私はこの魔法を使う事で、地下に居るであろう手紙の人物を探し当てたのだ。この魔法は私を中心として発動する。確実に探し当てる為に、わざわざ真上まで来たのだ。


そして、件の手紙の人物が居るのは、地下1500m地点。かなり深い箇所に、手紙の人物の反応があった。


しかし、しかしだ。反応があった。居るのだ。ここの地下に。どんな状態か、どんな人かはわからない。しかし、確実に居るのだ。この地下に、この場所に。外を、空を、自由を、食事を、旅を夢見ている、私に助けを求めた誰かが、居るのだ。それは、紛れもない事実であり、変えようのない現実だ。


「………助けるから」


──だから、もう少しだけ待っていてほしい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る