テンションの落差が激しいほど人生楽しいんだよ?


次の日、私はいつも通りにレイカとフェイを見送ってから、いつものように部屋の中でゴロゴロし始めた。………なんか、この生活も気に入ってきたなぁ………自堕落な生活………控えめに言って最高では?いやでも、娘とそのペットに働かせて日々を生活する母親とか………控えめに言ってクズでは?流石にそんな評価はちょっと………いやまぁ、別に私は困らないんだが………レイカとフェイが困りそうだな………流石に何かしておくか。冒険者ギルドで依頼でも受けて………うん、そうしよう。とりあえず移動はバティンに運んでもらって………うん、うん。それがいい。最悪バティンに全てを任せておけば万事解決だろうしな!思い立ったが吉日。レッツ冒険者ギルド!


「バティン召喚!バティン!冒険者ギルド行くぞ!ほら早く抱きかかえろ!」


「む、召喚して直ぐに命令されるとは思っても見なかったが………了解した」


あ、私は毎度のことながらお姫様抱っこなのね。いやまぁ、私としてはこの格好普通に楽だし、バティンがこれでいいならいいんだけども。腕疲れない?絶対腕は疲れると思うんだけど………


「さて、どうやって向かうとしようか。徒歩か?それとも転移か?」


「徒歩一択。転移は目立つからヤダ」


いやまぁ、この状態で行っても確実に目立つだろうが………まぁ、転移よりマシ………いや、マシ………か?まぁ、いいや。なんかもうどうでもいいし、全部到着してから考えよう。それがいい。私は他人に興味が無い。だからこそ人目を気にしない、というか気にならない。他人への興味なんて欠片も無いんだから、他人なんぞ路傍の石と変わらない。


「では向かうが………他に行きたい場所はあるか?」


「ん、特に無い!はいレッツゴー!」


「主、なんだがテンションがおかしくないか?」


「いいから行く!はいレッツゴー!!」










冒険者ギルドに到着した。やはり目立つな、私。他の冒険者達に凄い見られてる。あり得ないくらい目立ってるんだが。まぁ控えめに言ってどうでもいいが。


「バティン、そっち向かって。ボードの方」


「了解した」


バティンに運ばれたまま、依頼の貼られたボードの前に向かう。他の冒険者も居ないし多分このままでも良いでしょ。


「んー………」


討伐系はやりたくないし………採取系もやりたくない。というか、そもそも街の外に出るような依頼はやりたくない。いくらバティンが埒外に強くて、私の第二アップデートである程度の攻撃なら防御できると言っても、別にそれは、私が外に出ても絶対に安全だという理由にはならない。むしろそれは慢心だろう。私はそもそも、自分が強いとも思っていないし、頭が良いとも思っていない。か弱い自分が無闇に壁の外に出たら………この世界は、ただでさえ危険な世界なのだ。魔物という化け物が蔓延る世界なのだ。この世界は、私が前まで居たような、少なくとも現代且つ私の知る範囲では人間以外の異形が居ない筈の世界より、よっぽど危険な世界なのだ。注意しなくてどうする。慎重にならなくてどうする。臆病にならなくてどうする。勿論、危険に立ち向かう事が必要な時だってあるだろう。だがしかし、それは今ではないし、まして自分から危険に突っ込んで行く必要も無い。


「んー………?」


そんな風に考えつつ見ていると、やたらと討伐系の依頼が多い。ここが王都で、街道付近の治安維持の為だろうか?ここは人も物も集まる街だ。街道は、人も物も運んでくる。そんな道が危険なら、きっと誰も寄ったりしないだろう。多少間違っている気もするが、まぁ、探偵でも警察でも政治家でもない一般市民である私の推理など、まぁこんなものだろう。むしろこれ以上を求められても不可能………では無いかもしれないが、少なくともあんまりやりたくは無い。そんな時がやって来てしまった時は、バティンとかにやらせよう。多分、あいつは私よりも頭は良いだろうから。


あいや、王都周辺の魔物もそうだけど、この王国内の危険な魔物も全部ここに張り出されてるっぽいな。だからやたらめったら討伐依頼が多いんだな。ここは一応、多くの人が集まる王都の冒険者だしな。ここで王国内の地方の危険な依頼を貼っておいて、自分に自信のある冒険者に向かってもらえるような興味を持たせたり、商人や貴族はここを確認する事で危険な魔物が何処に居るのかわかる、みたいな感じなんだろう。実際、商人みたいな人もちょくちょく依頼を見てるしな。や、この推測が合ってるかどうかは知らないけどね?


「ん………」


にしても………依頼の数多過ぎでは?いやまぁ別にいいんだけど………大雑把な依頼もあれば、細かすぎる依頼もある。というか細分化くらいしようよ。討伐依頼の周りに採取依頼が乱雑に並んでるじゃん。せめてボードの場所で依頼の種類を分けるとか、依頼のリスト化とかしようよ。ギルド側は把握してるんだろうけど、冒険者であるこっち側がわかんないんだよなぁ。もっとわかりやすく掲示してほしい。


「んー………」


これもやりたくないし、これもやりたくない。だーかーらー、討伐系と採取系はやりたくないんだって。だからといって街中の手伝いも見るからに面倒そうなやつしかないし………やりやすくて簡単で且つ給金が良くて街の外に出る必要の無い依頼とかない?


「………んー………」


うん、無いな!端から端まで(流し目しつつ)見たけど、私がやりたい依頼無いな!うん!帰ろう!………いや待て待て、流石にここで帰るのは駄目だろう。せめて、せめて一つくらい………あ、そうだ。確か、給金が良くて簡単でも面倒そうだけど街の外には出ない依頼が幾つかあったな。そっから一つ選ぶとしようかな………


んー………んー………うん、これにしよう。選んだ中では、1番面倒くさく無さそうだし。………いやまぁ十分に面倒だけども。


私は選んだ依頼を持って受付に──バティンに行かせた。行かせたって言うか、私はバティンにお姫様抱っこされたまま、バティンに依頼を受けさせた。冒険者として必要な知識はいざと言う時のためにバティンに教えてあるので無問題である。受付さんの話?依頼の内容以外特に聞いていなかったよ。


「バティン。依頼、行くぞ」


「うむ、それはいいのだがな主。面倒だからと言って、我に人間との会話すら押し付けるのはどうなのだ?我も人間相手に会話をするのはあまり得意では無いのだが」


「うるせぇ、私の役に立ちやがれ」


主に私のコミュニケーション関係でな!










依頼場所にバティンにお姫様抱っこされながら到着した。なんか、この移動方法が楽過ぎてやめられなくなっているような気がするけど、まぁ、いい。ちゃんと歩く時は歩くから………とにかく、今回私が受けた依頼は、やる事は簡単な依頼だ。時間がかかって面倒なだけで。


「ん、バティン、ここであってるの?」


「あぁ、ここだ」


「なるほど?」


バティンは道を間違えたりしないだろうから、まぁ多分ここで合っているのだろう。ここは、人の居らず、そして倒壊している寂れて壊れた教会。


今回私が受けた依頼は実に簡単だ。この教会の建物内に住み着く浮浪者を追い出し、教会の建物を全て撤去し、無差別に生えている雑草を全て抜く事だ。建物を撤去するという、比較的時間はかかるがやって欲しいことが実に簡単な依頼だったので、まぁやっても良いだろう。


「まずは浮浪者を追い出すところから、か。バティン、中に入ろう」


「了解した、主」


浮浪者。家のない人々。元の世界で言うホームレスのようなものだ。なんでも、ここの教会は少ない土地で多くの信徒が住めるようにと地下3階まであるそうで、そこに最低でも10人以上の浮浪者が住み着いているんだとか。しかも調査した所によると違法薬物の密売や密会などに使われた形跡もあるらしく、国としてはそのような場所を使わせないために、その地下全体を埋めたいそうだ。だがしかし、そうなると浮浪者達が邪魔になる。その為の強制退去であり、その為の教会撤去なのである。


「んー………」


扉を開ける。倒壊したと言っても割と原型は残っているようで、扉や壁は割とそのまんまだ。天井?夜ここで寝るってなったら星空とか余裕で見えそうだよ?なんせ天井は全部といかなくてもかなり崩落してるから。その分の瓦礫は──なんか、大抵は端に避けられてるな。浮浪者達がやったんだろうか?


「まぁいい。バティン、一先ずは地下に直行だ。浮浪者が居たらとりあえず気絶させておいて。地下の探索が終わったら浮浪者は全員連れてきて。私は外で待ってるから」


「それはいいが、主は我のことを便利な悪魔だと思っていないか?」


「えっ、思ってるけど何か問題あるの?」


「いや、それはそれで光栄だ。主に使われる、というのも案外良いからな」


なんだコイツ無敵か?











時間は経ち、1時間ほど。ちょっと暇だったので教会付近をぷらぷらと歩いていたが特に何が起こる訳でも無く、実に平穏に時は過ぎた。平穏って素晴らしいなぁ。空が綺麗だし。あ、ちょうちょじゃん。ちょっと追いかけて遊ぶとし──


「──主、帰還した」


「うぇっ?!あ、バ、バティンか………」


びっくりして変な声出た。


「あ、転移して戻ってきたのね」


「うむ、そうだ。とりあえず、浮浪者は全員我の後ろに寝ている。一先ずこれで良いのか?」


「あうん、後は私がやるから」


だって後はMICCミックで教会と雑草を全て回収するだけなので。範囲収納は割と簡単にできるから………


「ほい回収」


するっと、まるで最初から何もそこには無かったかのように教会も雑草も収納した。うむ、これぞ更地というものだな!


「うっし、浮浪者は確か………あー、近場の衛兵の詰所に運ぶんだっけ?バティン、頼んだ」


「ふむ………こうやって主にこき使われる、というのも悪くないな。他の人間にされたら殺したくなるほど不快だが、主の場合は………そそる。あぁ………きっと、主を押し倒し、少しばかり虐めてやれば良い声で鳴くのだろうな………我をこき使う主にそうやってするのは………あぁ、良いな」


「やめろ。妄想を言葉にするのをやめろ。そしてそれを私に聞かせるんじゃない」


別に妄想はしていいが、それを私に聞かせるんじゃない。


「ふむ………それもそうだな。では、行ってくる。主はここで待っているのか?」


「待ってるから早く」


「うむ、了解した」


そう言うと、バティンは再び転移していった。ここに来る前に衛兵の詰所の位置と、多くの人間を転移しても平気な場所を確認し、尚且つ場所を空けておくように伝えてきたので、私は後ここで待っていればいいだけだ。素晴らしいじゃないか。これで手に入るお金は、なんと白銅貨を5枚、つまり円換算で1枚10万を5枚だから50万も稼げた訳である。しかも1時間で、だ。これでも割と面倒だったが………まぁ、客観的に判断して、本来は1時間で終わるような依頼でもないのだろう。そもそも面倒だったのはバティンを待って暇していた時だしな。私自身は実は殆ど何もしていない。MICCミックで教会と雑草を回収したくらいか?撤去した教会と雑草は普通に要らないから捨ててくれって依頼書に書かれてたし、後で消去でもしておこう。ボロボロの建築物と雑草は流石の私も使い道が思いつかないからな。………さて………


「バティンはまだかな………」


ちょっとの時間が暇だ。衛兵さんとのコミュニケーションがあり得ないくらい面倒だから行かなかったけど、私も着いていくべきだっただろうか………?あ、貴様はさっき私が見つけたちょうちょ!………あれ?さっきは気が付かなかったけどお前なんで魔力持ってるの?何?魔物の一種なの?とりあえず危険かもしれないから一歩離れておこう。


「んー………妖精?じゃないな」


そもそも、妖精は会話が成立(一方的だけど)できるし、小柄ではあるが一応人の形はしている筈だ。


「んー………人工物の可能性はある、か?」


どうして蝶なのかって話にはなるが、この蝶が誰かのゴーレムで、作られたものだから魔力がこもっている、というのは普通にあり得る。そしてそれを見極めるのは実に簡単だ。MICCミックにぶち込めば良い。なんたって、この魔法が通用するのは物質だけだからな。生物には使えないのだ。ほーれ。


「えっホントに人工物だったんだ………」


入ったんですけど。え、本当にMICCミックに入ったんですけど?………これ、誰かのゴーレムを盗んだ事になったりするのかな………ま、まぁ?バレたら素直に返却すれば良いし?私悪くないし?こんな所にゴーレムを放置してる人が悪いんだし?………とりあえず、第五アップデートでスマホの画面を投影して、MICCミックのアプリを起動。んで、管理画面に移動して、さっきの蝶ゴーレムをタップ。これで、外見が詳細に確認できる。どうせならじっくりと観察でもしよう。


「んー………」


外見は蝶そのものだ。色も形も、その全てが本物の蝶でしかない。しかし、表層の画像から内部の画像に切り替えると、その様子は一変する。内部はかなり細かい、というか元の世界の機械と言っても良いくらいの魔力回路で満たされている、かなり高度なゴーレムだ。


ちなみに魔力回路とは、非常に簡単に言うなら、記憶属性を必要とせずに物質に魔法を記憶させる技術。という感じだろうか。具体的には、主に精密作業を必要とするゴーレムや、複雑な魔法道具などに使用される技術で、必要となる素材に回路用の線を作り、そこに魔力を流す事で魔法を発動するという、かなり高度な加工技術の求められる技術だった筈だ。まぁ、言ってしまうと機械の導線や回路と同じようなモノである。そして大雑把に言うなら、流すのが電気か魔力かの違いしかない。即ち魔石が電池代わりという訳である。だがしかし、この世界の文明でこれだけの魔力回路を作り出すのはかなり難しいのだが………この蝶は、それを可能としているらしい。文献では、加工に魔法を使ってもかなり難しい技術と書いてあったような記憶があるのだが………これは凄まじいな。


なんてったってこの蝶ゴーレム、何層もの魔力回路を体内に備えている。内部表面だけにぺーっと魔力回路があるわけでは無く、蜂の巣とかみたいに層があり、その層一つ一つにかなり細かく魔力回路が、緻密且つ精密に刻まれているのだ。技術面で言えばかなりの代物だろう。


ただまぁ、素材は軽量化の為かなんなのかは知らないが金属ではなく精々が魔力が込められて強化された土だし、その構造と素材のせいか外部からの衝撃や圧力で簡単に内部の回路が破損するくらい脆いし、込められている魔法が簡単な浮遊魔法と、後は蝶ゴーレムとして成立させる為の、言わば蝶の行動プログラムみたいなものしかない。攻撃も監視も出来ない、防御はもちろん支援もできない。ただの、蝶の形をしたゴーレムでしかない。本当に、ただそこにある為だけに作られたようなゴーレムだ。制作意図が不明で、なんとも不思議である。


「………んぁ?」


内部構造を確認していると、何か一瞬チラッと紙みたいなのが見えた。蝶ゴーレムと連結しているわけではないので、MICCミックの中で個別に再回収し、その詳細な外見を確認する。………それは、何かのメモのようだった。


──────────────────────────


『愛しき彼方の人へ』


私はあの外を夢見ております。


私はかの空を夢見ております。


私は自由を夢見ております。


私は満足な食事を夢見ております。


私は世界を旅する事を夢見ております。


どうか、愛しき彼方の人よ。


私を連れて、偉大なる世界へ。


私を連れて、広大なる世界へ。


私を連れて、雄大なる世界へ。


どうか、愛しき彼方の人よ。


私は今、蝶の楽園におります。


私は今、花の楽園におります。


私は今、楽園の下におります。


どうか、愛しき彼方の人よ。


私が望む、愛しき彼方の人よ。


あぁ、どうか。どうか。


──私を、助けて。


──────────────────────────


──なんて、書かれていた。あはは、助けて、だってさ。多分この人は、屋内で、空が見れなくて、自由ではなくて、満足な食事も取れなくて、世界を旅したいと思っているんだろう。だって、そう書いてある。『夢見ている』って事は、今現在、この人はそれが出来ない環境にいるんだろう。多分、偉大で広大で雄大な世界の何処かに、確実にいるんだろう。その場所はきっと、蝶と花で溢れている楽園のような場所。その地下に、この人は居るんだろう。


………助けてって、思ってるんだろう。きっと、


しかし、しかしだ。私がこの手紙を読んだからと言って、私がこの人を助けてあげる義理も必要も、私には欠片も無いんだ。だって、私が助けて何になる?そもそも、どうして助けて欲しいのか書かれていない。誰から助けて欲しいのか書かれていない。この人の居る大雑把な状況と場所と、この人の想いしか分からない。そもそも、本当に助けて欲しいのかも分からない。こんな曖昧なモノで、私は一体どうしろと?衛兵にこの手紙を渡せばいい?渡して解決するような事?何も、何も分からない。もっと情報寄越せ。


………しかし、しかしだ。


「助けて、ねぇ」


私は遠回しな言葉が嫌いだ。人間とは言葉でもってコミュニケーションを行うのに、わざわざ遠回しな表現をする意味が分からない。そんな事をしても、その時間は無駄だし非効率だ。言葉の駆け引き?そんなもの豚にでも食わせておけよ。人間は心が読めるわけじゃない。心で通じ合うわけでもない。どこまで行っても言葉で通じ合うのだ。だから、その言葉をわざわざ遠回しにする必要も意味も何も無く、無駄でしかない。


私は複雑な理由が嫌いだ。何でもかんでも複雑に考えようとするし、わざわざ色々と理屈をこねくり回そうとする。人間が動く理由なぞ単純明快なモノ一つだけで良い。たったそれだけで、人間は動くのだ。理屈をこねくり回してまるで毛糸玉みたいになった理由で動くより、理屈も何も無く単純で明快で簡単な理由で動く方が、分かりやすく楽しいに決まっている。わざわざ理由を複雑にする必要もう意味も何も無く、どこまで行っても無駄でしかない。


──しかし。


この手紙の人物は、たった一言『助けて』と言った。


この手紙の人物は、『世界を旅したい』からだと言った。


その言葉は遠回しでは無く、理由も単純明快だ。


「──なら、助けよう」


私は、助けてと言ってくれれば助ける。それだけだ。目で助けてと訴えるとか、雰囲気で助けてと請われてるとか、そんな事で助けるわけないだろう。私に『助けて』って言われないと、私は誰も助けない。私は誰も助けたくない。


泣き喚くだけの子供も助けない。困った顔をしただけの老人も助けない。慌てふためくだけのお姉さんも助けない。弱ったと小さく呟くだけのお兄さんも助けない。頭を抱えてその場に蹲るだけの同級生も助けない。血を吐いて倒れ伏しただけの怪我人も助けない。辛くてしんどくて死にそうなだけの病人も助けない。人から食べ物などを乞うだけの聖人も助けない。人を殺してしまったと嘆くだけの殺人犯も助けない。天を仰ぎ自殺しようとする死にたがりも助けない。希望を神に祈り縋るだけの信者も助けない。全てを知っているように見えるだけの賢人も助けない。何も知らないように見えるだけの愚者も助けない。未来を望むだけの馬鹿も助けない。過去を憂うだけのアホも助けない。


私が助けるのは、私に向かって『助けて』という願いを言った、縋った、願った、そんな勇気ある人だけだ。


それは、私が私である為に、私が私という自分を信じる為に、私は私の世界が間違っていないと信じる為に、私はこの心情を決して曲げない。曲げられない。


「だから、助ける」


助けてと言われた。この手紙の人物に言われたのだ。この素晴らしい手紙越しに、あのどこまでも美しく脆い蝶に託された願いが、私の元へと届いたのだ。他の誰でもない、私の手元に。


ならば、だ。










──助ける理由なぞ、『私が助けたい』以外に何がある。

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