大きな図書館!大量の蔵書!なんて最高なんだ!


さて、晴れてBランク冒険者となってから1週間が経った。


………経ったのだが、私達は未だに王都に居る。何故まだ王都に居るのかと言うと、なんでも、レイカはSランク冒険者と正面から戦える程の力を持っているらしく、曰く『気に入った』とか言ってきた数人のSランク冒険者達と毎日模擬戦をしているのだ。それはもう、この1週間毎日のように、しかも朝から夜までずーっとやっているのである。まぁ、フェイはともかくレイカは『学べる事ばっかりで楽しいよ!』とか言っていたので楽しそうではあった。模擬戦自体も相手方が無理矢理やってくるとかじゃなければ、私はいつまでやろうと気にはしない。それは、あの子達の人生なのだ。私が入る隙は、例え私があの子の母親だろうと、万に一つもありはしない。


「レイカ達、遅いなぁ………」


ありはしない。だが、だからと言って退屈が無くなる訳ではない。だがしかし、私は基本的に外に出ない。良く言えば私が生粋のインドア派だからで、悪く言うと完全に引きこもりだからだ。外に出るのが億劫で、必要以上に出ようとしない。だからいつまでもいつまでも部屋の中でぐーたらしてしまう。私の悪い癖である。どっちかと言うと悪癖というか性質の方が言葉的には合っているような気もするが………まぁ、私が気にする事では無いだろう。


今はそれより、どうやってこの暇な時間を過ごすかが重要だ。


や、普通に読書でもしてりゃいいのだが、私が読みたいと思った小説は一通り全て読み切ったので、次が出るまで待っている必要があるのだ。1週間ずっと暇なら、その程度読み切るなんて余裕過ぎる。なんせ、私は元の世界で普通に学業をしていた時だって、好みの小説を全て読み切って何度も何度も同じ小説を読んでいたくらいの人間なのだ。常に暇さえあれば読書をしていたからな。


では、読書が駄目ならゲームなのだが………こちらもこちらで、ソシャゲは今日の分を終わらせてしまった。クエストも全て終わらせ、スタミナも既に無い。FPSゲームもあるが、これはもう今日は飽きた。せめてやるとしても明日とかにやりたい。放置ゲームもやる事やったので、とりあえず今は放置してればいいし………兎に角、ゲーム系も全滅なのだ。


そして動画だが………そんなものこの1週間で見切ったに決まっているだろう。時間だけならたっぷりあるのだ。お気に入りの配信者さんの配信アーカイブだって見切ったし、もう本当に暇暇暇なのである。そしてこの世界と元の世界では時間が違うのか、何故か次の配信予定時間までが非常に長い。具体的な時間は換算していないが、かなり長い。あり得んくらい長い。配信内で次回の予告とかされてもこっちと時差があってわからないよ………


「あ゛ー………あ?」


………あ、確か、王都の図書館って、私の街の図書館よりデカいんだっけ?蔵書数も広さも使いやすさも利用人数も桁違いって聞いたな………寝ぼけてるコルトさんから。まぁコルトさんは寝ぼけてても頭が働くタイプなので、というかデフォルトで寝ぼけてる人なので、例え寝ぼけてようとその言葉は信用できるけど。別に嘘だったとしても信用するけど。だってコルトさん可愛いし最高だし可愛いは正義なので問題無いし。


よし、思い立ったが吉日だ。なんか違うような気もするが、まぁとりあえず行動あるのみ。


「バティン、召喚」


──しかし、私は娘とペットから、王都の街中へ向かう際に必ずバティンを同伴せよと言われているので、バティンの召喚は忘れない。というか、いくら私が1人でいる方が好きで、どんな時でも基本的に一人でいる方が気が楽な人間だとしても、流石におよそ始めての街を1人で歩くのは精神的に来るモノがあるので、あまりやりたく無いという本音もある。だってお外怖いじゃん。


「うむ、主か。今日はどのような用件なのだ?」


「んーと、私これから街に出るんだけど。その護衛?かな。レイカとフェイに街中に出るならそうしとけって言われてるから」


「ふむ。その二人は主の、確か娘とペットだったか?なるほど。主の事をよくわかっているな」


「どういうことだよ」


「何、主は単独では弱いからな。娘もペットも主の事が心配なのだろう」


「なるほど」


確かに私の事をよくわかってるじゃないか。私は確かに弱い。間違っちゃいないな!


「とりあえず、護衛なんだが………どうすればいいとおもう?お前さんを同伴しろ、とは言われてるんだが………王都の中はかなりの人混みだ。どうしたら離れないでいられるか………」


そう、そうなのだ。王都の街中は基本的に人が多い。場所によっては人の波ができるレベルである。。前回レイカとフェイと出かけた時にも、2人と、もしくは片方と離れてしまった場面がいくつかあった。人が集中している場所では、人の波があまりにも強いのだ。勿論、そんな人混みを回避すれば問題無いのだろうが、レイカとフェイから"バティンと一緒でも決して裏路地に入るな"とも言われている。そうなると、かなりの大回りをする必要が出てくる箇所がいくつかある。それは、避けたい。


「ふむ………主。我は主の護衛が可能で、そして主から離れないようにすれば良いのだな?」


「そうなるな。後、お前と一緒でも裏路地には危険だから入るな、とも言われてる」


「ふむ、ふむ………ならば、こうするのは、どうだ?」


「えっわっ?!」


私がベッドに寝転んでいると、突然バティンに首後ろと両膝裏に腕を差し込まれ、そしてそのままお姫様抱っこをされた。唐突だと驚くからやめな?


「こうすれば、護衛も可能で、離れないぞ?」


「あー………まぁ、バティンがこれで良いならいいけど………」


まぁ、私は少しばかり恥ずかしいが、別にそれで死ぬわけでもなく、むしろ私が死ににくくなるというなら、何の問題も無い。そして、抱っこやおんぶとは違って、この持たれ方なら、私が特に何もしなくていいというのが素晴らしい。腕に力をかける必要も、足に力を入れる必要も、腹に力を込める必要も、何も無い。なんかもうこれはこれで非常に楽なのでヨシとする。


「………ま、とりあえず、目的地は王都の図書館だ。転移は何か危険が無ければ基本的にしなくていい。一応、暇つぶしのための外出だからな。街中を見回るくらいはしたい。時間短縮すると暇だからな」


「うむ、了解した。では行くとしよう」


そして私はそのまま、バティンにお姫様抱っこをされたまま、公衆のど真ん中に向かうのだった。











バティンにお姫様抱っこされたまま王都の街中に来たのだが………


「んー………」


やはりというかなんというか、私に向かってくる視線が多い。まぁ、そりゃあ目立つだろうな。私だって街中でこんなことお姫様抱っこしてる人達が居たら、普通にそっち気になるし。まぁ、私自身はそんな視線微塵も気にならないし、何かあってもバティンがどうにかしてくれるだろうという雑な信用があるので、全身は割と脱力してリラックスしているのだがな。割と楽なんだよねこれ………こう、揺られる感覚が微妙に眠気を誘うから………


「………お、クレープ」


「主、買うのか?」


「んー………帰りに買うかな。レイカとフェイの分も一緒に買えばいいし………何より、図書館内で飲食可能なイメージが無いから………」


図書館内で飲食は駄目だろう。もし図書館側がOKしていても、私の精神的にそれは駄目だ。なんか嫌だし。潔癖症では無いけど、なんかマナー的に駄目だろう。


「まぁ、それがよいであろう」


「ん、じゃ帰りに寄るって覚えといてくれ。私は多分忘れる」


覚えてる可能性もあるが、あまり信用ならんからな。


「というか、後どのくらいで図書館?」


「ふむ………このままなら、歩いて10分程だろう。………飛ぶ転移するか?」


「んー、このまま歩いて行ってくれると助かるんだが………駄目なら転移してもいいけど」


「駄目ではない。主の命令とあらば、目的地まで歩いて行こうではないか」


んー、なんかバティンに悪いなぁ………私が歩いてるわけでも疲れる訳でもないのに………


「それに、これは人間が言うデートというやつなのだろう?我との時間を存分に楽しみたいのならそう言えば良いものを………遠回しに伝えられても理解できる我だから良かったものの。他の人間や悪魔なら気づく事もないぞ?だがまぁ、それも可愛らしいというものだ。我は寛容で慈悲深く、そして紳士的だからな。主の言わなかった事であろうと理解し、そしてその願いをしっかりと叶えてやろう。喜ぶがいい、主」


訂正。やっぱり特別バティンに悪いとか思わない。もう今後一生私が死ぬまでこき使ってやる。ちなみに解雇はしない。だって便利で強いから。それに、バティン以外の悪魔と契約して無事で居られる確証は無いからな。バティンだからこそ、1時間の命令権という、バティンが危害を加えなければ安全な比較的軽め、かどうかは個人によるが、私的にはその程度の軽めな代償を支払うだけでいいのだから。だけど、他の悪魔がどんな対価を願い、私がどんな代償を支払う事になるのか、わかったもんじゃない。私は確かに悪魔との相性が良い。だがそれは、別に良い事だとは限らないのだ。


例えば、相性が良いが故に悪魔への対価として身体を失ったりするとか、相性が良いが故に悪魔への代償として悪魔に陵辱されたりだとか、寿命とか魂とか精神とか、何を対価として支払う必要があるのか、何を代償として支払う必要があるのか。それらは全て、私が決める事では無い。か弱い私に決定権は無いのだ。私は悪魔との相性は良いのだろう。相性は。しかし、私は人間で、相手にするのは悪魔だ。人間と悪魔では価値観が違う。倫理観が違う。その全てが違う。人間の愛し方と悪魔の愛し方が違うように、私が思う相性の良さだって、悪魔側が思う相性の良さと同じとは限らないだろう。だから怖いのだ。


だからこそ私は、例えどれだけバティンの事を嫌いだろうと、例えどれだけ信頼していなかろうと、私はそう簡単に契約を解いたりはしない。私の与えるバティンへの対価であり、私が奪われるバティンへの代償は『私の時間』だ。直接寿命を取られる訳でもない。ただ、少しだけ時間を消費するだけだ。単純に己の時間を割くだけである。別にそれくらいなら問題ないというか気にならない。


「あー、まぁ………うん。そうかもしれんな?」


とりあえず適当に聞き流しておこう。断定はせずに『かもしれない』と付けて濁す事で、私が『YES』と答えた訳ではなくなるのだ。いざと言うときの為に決して言葉だけで断定はしない。これ私の中の常識。だって、いざと言う時に何かあったら私には責任を取る事はできないし取りたくも無いのだから。こういう時に言葉で断定してるとまるで私のせいかと言うように扱われるから、私は言葉を決して断定しないのだ。そもそも絶対なんぞあり得ないと言うのに私を責めるのは本当に意味がわからないし苛つくからやめて欲しい。


『世界に絶対は無い』『自分より格上は必ず居る』『負けた方が悪い』『死ななきゃ安い』。この4つの言葉は私の座右の銘である。どんな理不尽だろうが絶対は無いし、どんな存在だろうと格上は居るし、どんな相手だろうと負けた方が悪いし、どんな状態だろうと死ななければ安いものなのだ。私はそう信じているし、そう知っている。


………こうやって哲学みたいな事考えてる暇があったら勉強してろよなーって毎回思うんだよな………










図書館に到着した。まずもう、外観からコルトさんの居る図書館とは大違いだ。絢爛豪華でありながら清廉であり、素晴らしいと言うより美しいと表現するべき建物だった。………というのは、私がなんとなくの思い付きでバティンにさせた適当な評価の感想だ。私はすげーくらいの感想しか出てこなかった。


「広っ………やば………」


自分で歩かなくて良いという状態があまりにも楽過ぎるのでバティンの腕の中でお姫様抱っこは継続しつつ、私とバティンは図書館の中に入った。が、そこに広がるのは外観から想像出来ないほどの本、本、本。そしてそれだけの本がありながら広いと思える空間。あまりの凄さに語彙力が死ぬくらいには凄い。少なくとも元の世界の図書館とは比べ物にならないくらいに凄い。しかも2階まである。吹き抜けで2階の本棚が見える。やばい。後、なんか外観と比べて空間が拡張されているような気もするけど………まぁ、私の気のせいか、もしくさ何かしらの空間属性の魔法だろう。多分空間拡張みたいな感じのやつ。


………さて。ここまで来たのはいいものの………どうやって本を借りればいいのだろう?コルトさんの所と同じでいいのか?いやでも、違う可能性もある訳で………


「………バティン。ここに私を置いて、ここでの本の借り方を聞いてきてくれんか?会話するの面倒だし」


私だって見知らぬ人とのコミュニケーションは取れる。が、やらなくてもいいならしたくない。私は基本的にインドア派で、世間一般で言う所の陰キャだから………というのは、ただの言い訳だろう。単純に、私は人と会話するのが嫌なだけである。無言で何も言わずにコミュニケーションが取れたらいいなーって割と思うレベルで会話が嫌である。心を一方的に読まれても意思が伝わるならもうそれでもいい。相手が一方的に話しかけてきてくれるのも楽ができて良い。聞き手は良いが話し手は嫌。という、至極簡単で単純明快な答えである。だからバティンに行かせる。だってあいつ私の契約悪魔だし。対価と代償は支払うから私の代わりに色々とやってほしい。だから今やってもらってるんだがな。


「む、了解した。ではそうだな……主はここで座り、我を待っているがよい。期待していると良いぞ?」


「んー、いってらー」


バティンは私を近場の長椅子に座らせ、そのままふわふわと行ってしまった。………今思ったけど、バティンってヘビの尾を持つ屈強な男の姿、なんだよな。今はいないけど、普段は青白い馬に乗ってるし。………悪魔………なんだよな?あいつ。私に対して色々言ってくるけど、あいつって、一応悪魔………なんだよな?あの姿、怖がられたりしないのか?というか、バティンは私以外の人間に優しくするのか………?………まぁ、いっか。私に関係あるけど私は関係無いし。まぁ多分、バティンの事だし、私の立場が悪くなるような事はしないだろう。バティンだしな。………そう考えると途端に不安になってくるのって、普段私があいつに感じてるイメージが不安になるような言動しかしてないせいだろうなぁ………まぁ多分、改めさせるってのも無理だろう。誰かの狂気は誰かの常識ってね。


「主。我はここに帰還したぞ。主の望む情報の全てを聞いてきた。何、安心しろ。主の体裁もあろう。高圧的にならぬよう、丁寧な態度で聞き出してきた。喜ぶと良い」


「ん、せんきゅー」


「うむ。まず本の借り方だが、借りたいと思った本を最大10冊まで選び、カウンターに持って行く。貸出期間は2週間。帰還が1日越えるごとに、期限超過の罰金として銀貨1枚を請求する、だそうだ。また、図書館内で本を読む分には金銭は必要ないが、その際に本を汚したり破損させた場合はかなり重い罰金を請求するとも言っていた。あぁ後、本の希少性によっては、汚れや破損をした場合に、その身を、主の場合は娼館で働くこともって償うようなモノもあるらしいと言っていたな。気をつけるといいぞ、主」


えっこわ。汚さないようにしよ………破かないようにしよ………というか適当に扱わないようにしよ………


「あんがとバティン。ん」


「む?腕をこちらに伸ばしてどうかしたのか、主?」


「抱っこ。もっかい運んでくれ」


「む、主は我に抱かれるのがそれほど心地よかったのだな?ならば存分に我の身体を味わうといい。そうならそうと始めから言えばよいものを………なるほど。今の言葉は、その事を遠回しに我に伝えようとしたのだな?くく、主。決して恥ずかしがらずともよいぞ。我は分かっているからな」


バティンの勘違いも甚だしいが、まぁ、客観的にはそう見えなくもないので、特に言及したりはしない。ここで私が何を言おうと、側から見れば言い訳のようにしか聞こえないだろうし………無言というのも図星だから、とか見られそうではあるけど、そこは気にしない方向で。………まぁ、バティンのお姫様抱っこを継続する理由は、私が純粋に自分の脚で歩きたくないだけという、側から聞けば馬鹿みたいな理由なのだが。だって………自分で歩くのは疲れるし………バティンのお姫様抱っこの安定感は凄いし………楽だし………


まぁとりあえず、本、探しますか。












王都の荘厳な図書館を堪能した次の日、私は今日も今日とて数人のSランク冒険者と模擬戦をする為に冒険者ギルドに戦いに向かうレイカとフェイを見送って、私はここ最近のようにベッドの上でゴロゴロし始めていた。


「あ゛ー………」


もうゴロゴロというか完全に堕落している気もするが、まぁ、私は特に気にならないので問題は無い。一応、いつ外に出てもいいように、後は普通に着心地が良く動きやすいので、いつものようにメイド服風の制服は着ているが………だからと言って誰が積極的に外になんか出てやるものか。外は眩しいから嫌いだ。外は気温が変化してもどうにもならないから嫌いだ。外は天気が変わるから嫌いだ。


「………そうだ」


外が嫌いならどうにかしよう。元の世界ならまだしも、今の私には魔法がある。明暗、外気温、天候………この3つをどうにかする魔法を作ればいい訳だ。ただ………外気温と天候………この二つは今の私じゃどうにもならないな。私に炎属性とか水属性の適性があればどうにかなったが………私の適性属性には温度に干渉できる魔法が無い。強いて言えば雷属性で発生したエネルギーを熱エネルギーにする、とか………だが、エネルギーの変換ができるのは妖属性では無く錬金属性だから私にはエネルギーの変換が出来ない………空間属性で遠隔地の気温を私の側に、とも思ったが………そんな場所にわざわざ行きたくねぇ。


………となると、作るとしても遮光と暗視、だな。まぁ、一つでも改善されればかなり違うだろうし、いいか。










3時間程度で新しい複合魔法が完成した。その名も、『暗視遮光視界確保アップデート』である。通称『第六アップデート』だ。私が感じる強い光を遮断し、暗闇の中を見通し、明暗に関わらず視界を確保する為の魔法である。


光、契約、深淵の複合魔法だ。深淵属性によって周囲の明るさを計測し、光属性によって眩しいと感じる量の明るさの光を一定まで遮断し、暗いと感じる量の暗さを光で照らす魔法である。元々光属性には遮光と暗視の魔法があるので、今回はその二つの魔法を自動で発動するように改造するだけでよかったので早く完成したのである。勿論、契約属性と光属性によって効果を引き上げて、魔力消費を抑えている為、燃費はかなり良い代物だ。かなり頑張った。しかも、第四アップデートの時に使った契約属性による細かな条件付けによる魔力消費軽減の技術を落とし込んであるので、本来よりも更に燃費が良くなっている。私ってば実は天才なのでは?3時間で完成してるし。


とりあえずスマホの中にアップデートとして落とし込んだので、これからは遮光と暗視は完全自動で行われる筈である。勿論OFFにする事もできるが、多分この魔法は基本的にONにしておくだろう。今まで作ってきた自動魔法も全て常に発動し続けてるし。そもそも、自動魔法は私の方で魔法をON OFFするのが面倒で作っている訳であって………まぁこの話はいいか。とりあえず、完成したのだから実験しなくてはな。部屋の明かりをー、消灯!カーテンは既に閉じられている!さぁどうだ!


ん?おぉ!暗視が発動している!暗い筈なのに視界は明るい!元の世界の暗視ゴーグルみたいに見えるのではなく、普段の明るい視界と何も変わらない──訳でも無いな。世界に一切の影が無い。普段はある筈の陰が全くない。こうも影が無いと暗視を使っているのがわかりやすいな。あそうだ。スマホの画面………は、見えてる。いつも通りだ。強いて言えば私の指の影が無い分、僅かながらに見やすいくらい………か?遮光されている様子は無いし………うん、いい感じだ。


なんかもう、今日は満足した。………ごめん嘘言ったわ。魔法に満足したけど実質的に暇なのに変わりはないや………もう一つくらい魔法作るか………?いやでも、もうネタのストックが無いし………何か思いついた訳でもないし………んー、空間属性の魔法の練習でもするか?空間転移は移動という面で非常に便利だし、覚えておいて損は無いしな。………ただ、転移に関してなら、バティンの権能があるから無理に覚える必要が無いんだよなぁ………


「んー………んー………」


………んー、やめやめ。こうやって頭を捻って考えたって、いい考えが浮かぶ訳が無いしな。いい考えってのは、ある時天啓のように唐突に脳裏に思い浮かぶものだし、今こうやって雑に考えててもどうにもならん。素直に違う事をやるとしよう。


さて、切り替えて違う事、と言っても………特にするような事は無いしなぁ。何をするべきか………


「あー………う゛ー………」


このまま奇声を上げ続けるだけでも割と楽しいのでやり続けてもいいのだが、そんなもん30分で飽きる。いや、むしろ30分も保つと言うべきか?だがそんな時間では足りはしない。後何時間も待たねばレイカとフェイは帰って来ないのだ。1人は暇なので早急に帰って来てほちい。


そう言えば時間で思い出したが、この世界は1年が360日、1ヶ月は30日、1週間は7日、1日が25時間、1時間が100分、1分が100秒、となっている。1年や1ヶ月はまだしも、時間と分と秒が元の世界と大分違うらしい。最近は体感時間もこの世界に慣れて来たので平気だが、最初の頃は朝起きたと思ったら未だに日を跨いで直ぐだった、なんて時がよくあった。元々私は6時間睡眠だが、この世界だと、私の計算が間違っていなければ、元の世界の6時間は3時間と60分である。多分。この世界だと約3時間半にしかならない。今は仕事があるので25時50分、つまり25時半辺りに眠りにつくのだが、前は21時に寝ていたのである。なんせ私は良い子なので。


ちなみにだが、私の仕事時間は10時から15時までの5時間と、20時から25時までの5時間、計10時間である。元の世界に換算すると約16時間なので、元の世界の労働基準法とか完璧に無視するレベルで働いている事になる。というか1日8時間労働が基準なのだから、その人達の2倍は働いている訳なのだ。………そう考えると私凄くない?前の世界より格段に体力付いているのでは?そう考えると馬鹿みたいに嬉しいのだが?


というか、この世界の1日は25時間だが、分換算すると1日で2500分となり、秒換算すると1日で25万秒になるのか。元の世界が1日24時間で、分換算すると1日で1440分となり、秒換算すると1日で8万6400秒なので、かなり差がある。つまり、1年はこの世界だと9000時間で、分換算は90万分、そして秒換算は9000万秒となる訳だ。元の世界は1年が8760時間で、分換算が52万5600分となり、秒換算は3153万6000秒となるので、やはり時間に差が空いている。1年の日数は元の世界の365日と長いのに、この世界の方が約240時間程も長いとか………かなり世界毎で時間に差があるな。こういうのって惑星の大きさとかで変わってくるんだろうか?魔法を知っている今、おそらく時空の歪みなどで更に変わって来たりするのだろうが………まぁ、流石にその辺は門外漢なので割とどうでもいいのだが。


とりあえず気になったのでスマホで時間を確認すると、現在時刻は9時50分。つまりは9時半。まだまだ余裕で時間はある。むしろ昼食の時間にすら届いていない。暇、とにかく暇である。暇過ぎて向日葵になるレベルだ


………今の欠片も面白ないな。


「う゛ー………がー………」


お腹空いた………いやお腹空いたじゃねーよ。いくら『お腹空いた』が口癖だからって、私の頭の中でも連呼しなくてもいいのに。いやまぁ、思考停止して何にも考えず、脊髄で会話しているみたいな時、1番最初に浮かぶ台詞が『お腹空いた』だからな。もう無意識的に言ってるみたいな事なんだろうけど………いや、そもそも思考停止してるのは私が暇で暇で仕方ないからであって。そうなると、私の暇をどうにかしないといけない訳で。………けど、やる事が思いつかなくて暇なのだから、そう簡単に暇潰しを考えつく訳もなくて………なんかの無限ループ入ったなこれ。


いや、まぁ。そんなに暇なら勉強しろって話なんだけど。こっちに来てから魔法とかこの世界について色々な勉強をしても、元の世界でやっていたような高校の勉強は一切してないし。確か、教科書は学校のロッカーの中に全部ぶち込んでいたので、私は今一冊も持っていない。しかしまぁ、スマホさえあれば元の世界の知識くらい割と簡単に引き出せるので、多分勉強をやるとしても特に問題ないだろう。勿論正確に調べる、というのは難しいだろうが、幾つかのサイトを覗けば真偽の判定くらい付くだろうし。まぁ別に元の世界の勉強はしないけどな。だって、この世界で使える教科が限られるし。………なんか前も同じようなこと考えた気がするけど………まぁ気にしない方向でいこう。


王都にはまだ居るっぽいけど、この宿の代金支払ってるのはレイカとフェイだし私に文句は無い。というか今気づいたんだが………今の私ってもしかして、娘のお金でゴロゴロしてるゴミみたいな感じのニートなのでは?元々引きこもり気味だったから尚更………まぁいいか。私は困ってないし。


「………レイカとフェイの様子でも見に行くか?いやでも………戦ってるだけを見てるだけとか普通につまらなさそうってか理解できなさそうだし………」


唐突だが、私は中学でバスケ部だった。毎日練習をして、身体を酷使し、体力の限界まで………とまではいかないが、何か家の用事や委員会の仕事、クラスでの頼まれごとなどが無いならば出来るだけ練習に参加し、ほどほどに疲れるまで身体を動かし、ほどほどに疲れるまで体力を消耗するくらいのバスケ部員だった。バスケットボール選手としての才能は無く、そもそも団体競技のスポーツの才能が無い私は、公式試合も練習試合も常にベンチ。つまり試合に出た事はあまり無かった。しかし、身体を動かした後のお弁当や食事は私の心を潤し、疲れた後の水分と塩飴は身体の疲労を吹き飛ばし、ごく稀に参加した試合はどことなく達成感があった。顧問の先生は私達部員の為に練習試合を多く組むような、とても良い先生でもあった。もう1人の先生は生活指導の怖い先生で、あまりバスケ部としての指導に向いているような先生では無かったが、人としては比較的に良い人物だと側から見れば思えたので、まぁ特に不満は無かった。充実したとは言い難いが、悲惨とも言えない、そんな中学校の部活だった。だが、私には一つだけ、バスケ部として練習や試合をする時に苦痛な事があった。


それは、練習試合や公式試合の時だ。私は毎回ベンチ。つまり試合に参加できない。故に試合を見るだけ、というのは割と良くあった。つまり暇だったのだ。いや、親に言わせれば他人の技術を見るという場だと言うし、一度だけしっかりと見続けてみたのだが………ダメだった。私には人を見る目がないのだ。人の観察ができても理解出来ないのだ。


いや、違う。私は人に興味が無い。カケラの興味も無い。僅かすらの興味も無い。だから他人の試合を見ていても、そもそも他人に興味がないのだから技術なんて分かるわけもない。そう理解したのは高校生になってからだが、そう理解してからは話が早かった。なんせ、そうした自問自答で全てが解決していったのだから。自分のどんなアイデンティティでも、一つの言葉として表現できるようになったのだから。私は頭の回転が良いわけでもなければ、勉強ができるわけでも無い。簡単に言葉として表してもらわなければわからない事も多い。しかし、一つが理解出来た事で、全てを言葉として理解できるようになったのだ。そう、例えば──


『他人への興味が無いなら自分への興味はどうか?それも無い。自分がどうなろうかなんて知ったこっちゃ無い。死んだらそこまでだし、死なないのならまだ平気なのだろう』


──といった具合に言語化できるのだ。こうやって自分の意識や性格を、出来るだけ明確且つ簡素な単語や言語に変換していけば、私は自分に興味は持てなくても、自分をしっかりと理解する事はできる。興味が無くても理解できるのだ。感情や想いといった曖昧なモノではなく、言語という明確なモノに置き換える。実に分かりやすい。興味が無くても理解出来る。それは、私にとって素晴らしい発見なのだ。


閑話休題。


話を戻すが、私はつまり『自分が出来ない運動の光景を側から見ている』というのが嫌なのだ。他者の行動を見てもつまらない。当たり前だ。そもそも前提として興味が無いのだから、面白いなんて感想が浮かんでくるわけもない。だから、レイカとフェイの光景を見に行ったりしない。そもそも、Sランク冒険者に囲まれているレイカとフェイの近くにいると面倒が起きそうだから行きたくない、という本音もある。だって絶対に面倒じゃないか。私は自分という物語の主人公ではあるが、世界という物語の主人公ではない。私はわざわざ厄介ごとに首を突っ込むなんて事もしないし、私へ勝手にトラブルの方からやってくるトラブルメーカーでもない。私はそんな事したくもない。


「暇だぁ………」


まぁ、だからと言って、暇だというこの現実に、特別何の変化も無いのだがな!

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