蝶ト花ノ楽園
保護者同伴だと…?つまり私も外に行くのか…?
「何だって?」
前回私のステータスを確認してから3週間後の事だ。私がベッドの上で私が普段寝る時の格好、つまり白いワンピースを着込んで寝転がっていると、レイカとフェイがもじもじしながら言ってきた言葉にそんな反応を返してしまった。
「そう、そうなの。私達ね、あの………その、Aランク冒険者になる為の試験を受けたくってね………王都に行かなきゃなんだけど………ギルド長のミゼルさんにね?あの、保護者同伴って言われちゃって………」
「!、!」
娘とペットが唐突にそんな事を言ってきた。何だ一体。
「それで、ね?私達と一緒に………王都に観光とか、行かない?お金は私達が払うから!」
「!、!!」
「………まぁ、それならいいけど………というか、お金は払うって………2人は幾ら持ってるの?」
「えっと………ギルドの銀行に預けてるのが、確か魔金貨8枚と、白金貨70枚くらいで………」
魔金貨は推測500万、白金貨は推測100万。つまり………円換算で………1億1000万円くらいか………………………私より持ってないか?私今………金貨30枚くらいだから、円換算で推測150万くらいか………?………私とは格が違い過ぎてびっくりなんだが?
「で、今手持ちに持ってるのは………白金貨5枚くらい」
うーん私より多い!
「………なんか娘に稼がせてる親みたいだな私」
「お母さんはそんなんじゃないよ!」
「!、?」
うーん娘が優しい!
「………まぁ、レイカとフェイが自分で払うなら幾らでも着いてくよ。ミゼルが言うんなら、私も必要なんだろうし」
それか、純粋に外で遊んでこいって言外に言われてるかだ。そうだとしたら、テメェが遊んでこいや仕事に埋れてるくせにって返してやりてぇ。………直に聞きに行くか?………まぁ、それ言いにわざわざ動くのも面倒だからやらないけど。
「!ありがとうお母さん!大好き!」
「!!、!!」
「ぐぇ」
レイカとフェイが目にも止まらぬ速さで私の胸の中に飛び込んできた。後ろがベッドだから良かったものの………まぁ、可愛らしい仕草だからいいか。可愛い可愛い。うちの娘は可愛いなぁ。
「んで、王都って言っても私は何にも知らんのだが………?予定は事前に教えて?」
「あ、うん!3日後に王都に向かう商人さんのね、馬車の護衛として乗る事になってるの!お母さんも私達と同じパーティーの一員って事にするってギルド長さんが言ってたよ!」
って事はもしかして、私の3回目の依頼は護衛依頼という事に………?バティンのおかげでCランクの冒険者になってからの初依頼が護衛依頼か………それは良いのだろうか?レイカとフェイ、つまりBランク冒険者の依頼を私が受けると言うのは………まぁ良いのだろう。ミゼル、つまり冒険者ギルドの支部長がそうしろと言ったのだ。断る理由も必要も無い。そもそも私、インドア派だから全然外に出ようとしないんだよね。行くとしても図書館か冒険者ギルドくらいだから。しかも週に2、3回くらい。前の世界と比べれば、かなり自発的に外に出ていると思う。学校?あれは行かないと駄目だから………
しかも、割と知り合いが出来た気がする。だって、ミナとは同じ建物内で過ごすのだから割と話すでしょ。まぁ、店長さんとはあんまり話さないけど。で、お店に来てくれるフォージュさんとか、リリーさんとかも割と来てくれるから話すでしょ?レイカとか私とかと遊ぶ為にマリンちゃんとも割と話すし、マリンちゃんのお母さんであるフェリスさんともちょくちょく話すじゃん?図書館には通ってるからコルトさんとは会話というか邂逅はするし、アオナお姉ちゃんは街中で占いをしているのを見かけて話したりする。冒険者ギルドに行ってミゼルと話したりもするし………あれ?もしかして私、友達いっぱいなのでは………?
「………まぁ、それなら良いか」
とりあえず、護衛依頼のついでに王都に向かうのは了解した。3日後って事も。ま、王都での大まかな滞在期間は知らないけど、とりあえず長期休暇するって事はミナと店長さんに伝えとこーっと。
「ちなみに店長さんには伝達済みだよ!」
うーん手回しが早い!
3日後。私はレイカとフェイに連れられるまま、護衛対象である商人さんの馬車の中に座っていた。現在、既に私が普段住んでいる『ルナート』の街から出発済みであり、既にルナートの街の外壁すら見えない。出発直後は色々とバタバタとしていたのだ。ちなみに、私の服装は店の制服である。着慣れている服の方がいいとレイカにもミナにも言われたからな。靴の方はこの前ミナに貰ったいつも履いてるブーツである。他の持ち物は全て
「いやー!巷で話題の『フェアリーズ』のレイカ殿、その母親であるアオイ殿とこうして同じ馬車に乗ることが出来るとは!非常に光栄でありますな!」
そんなバタバタを解決してきた商人さんがこうやって話しかけてくれるのはいいのだが、私には初耳な事ばかりで話が追いつかない。何『フェアリーズ』って。レイカとフェイのパーティーの名前?巷で話題ってマジ?後、私がレイカの母親って事が巷で話題なのヤバくない?
「光栄と言われましても………私はただの一般人です。普段は宿屋バードンという場所で働いているだけですし。それに、レイカの母親と言っても別に私が物理的に産んだ訳じゃありませんし」
「なんと!レイカ殿は養子なのですか?」
「養子………というか………まぁ、意味合い的にはそんな感じだと思います」
多分、恐らく、血縁関係では無いだろう。………可能性は無きにしも非ず、と言った感じだが。一応、血液属性の魔法でDNA鑑定みたいな事は出来るのだが、わざわざするまでもないのでやっていないし………強いて言うなら、レイカは養子っぽい感じかな。ニュアンス的に。
「なるほど………深い事情があるのですね………深入りはよしましょう」
別にそんなものないのだが。精々、レイカはいつの間にか私のベッドの中に居た、くらいだし。………まぁでも、何か勘違いされてるならそれでいいや。事情を説明してもちんぷんかんぷんだろうし。私だって未だにレイカがベッドの中に居た意味とか全然分からないしな。
「それにしても、レイカ殿はお強いですな!噂では、従魔である妖精と共にドラゴンを殴り殺したとか!」
初耳なんだが?何?あの2人ドラゴン殺したの?しかも殴り殺したの?何それ?初耳だよ?報告の義務は確かにないけど、ちょっとくらい教えて?お母さんびっくりしちゃうよ?
「そうなると、アオイ殿もお強いのではないかと言う噂がありましてな………その所、どうなのでしょう?アオイ殿の冒険者ランクは、確かCでしたかな?であれば、それ相応の強さはおありでしょう!」
「私自身は弱いですけど、契約してる悪魔が強い感じですね。私は契約魔術師なので」
「なるほど、アオイ殿は悪魔と契約している契約魔術師でしたか!一体どのような悪魔か聞いてもよろしくですかな?」
「いや、私の数少ない手札なので教えられません」
初対面の人間に情報を渡す訳無いだろアホか。
「………なるほど、それは失礼致しました。我々はまだ初対面ですからな。巷で噂の『フェアリーズ』のレイカ殿の母親であるアオイ殿に会って、随分と気分が上がっていたようです。すみません」
「いえ、別に気にしてませんから」
別に聞かれただけだ。気にする必要性が無い。
「!、!!」
「え、唐突に何」
「!!、!!」
私が商人さんとそんな面白味もそこまで無いような会話をしていると、馬車の外からフェイが飛んできて、私の制服の袖を引っ張って、何処かに連れて行かれそうになる。私はフェイに引っ張られるがまま、素直にその後をてくてくと付いて行こうとゆっくりと動く馬車を降りる。そのまま外に出てみると、レイカが少し遠くの方で手を振っていた。満面の笑みでこっちを見ている。
………その足元に、魔物の臓物と血の海を作り出して、腕が血塗れで顔に返り血が付いていなければ普通に抱きつきに行ったんだけどな。笑顔は可愛いのに状況が可愛くない。これが夜中だったらホラー待った無しだ。
「お母さーん!ゴブリンの群れを殲滅したよー!褒めて褒めてー!」
「んー………うちの子凄い!偉い!可愛い!最高!」
「んふふー!ありがとー!」
うーん可愛い!
「!、!!」
「ん?ん、フェイも可愛いぞ」
「!、♪、!!」
フェイも喜んでるっぽい。あからさまに嬉しそうだから非常にわかりやすいな。………私以外の人間全てがこんな感じにわかりやすかったらいいのになぁ。それならコミュニケーションも取りやすいのに………
「お母さん!返り血綺麗にして!」
「ん?ん、わかった。
いつにも増してハイテンションになっているレイカを、神聖属性の魔法である
話を戻すが、実際のところ
「ん!ありがとお母さん!大好き!」
「おっと、ん、ありがとな」
やはり、褒められるのは嬉しい事だ。綺麗になった姿で抱き付いてきたレイカは非常に可愛い。そしてそんなレイカと戯れるフェイも可愛い。うむ、やはりうちの娘とペットは可愛いな。
「えへへー!どういたしまして!」
あっ可愛い。
その3日後、何か特殊なイベントが起こる訳もなく、そもそも魔物が出てきても全部レイカとフェイがどうにかするので私の出る幕なんぞ欠片もなかった。そうして私達は、無事に王都まで辿り着いたのである。ちなみに私は野営なんぞ小学生の時以来だったので、大抵はレイカとフェイ、そして商人さん達に任せてぼーっとしていた。みんな上手いんだよね………というか、レイカとフェイは毎日私と一緒に寝ていたのに、どうして野営の方法なんて知っていたのだろうか?………普通に覚えたんだろうな。あの2人、頭の回転も普通に速いし、記憶力もかなりあるからなぁ………普通に私より頭良いし。
「ふわぁ………眠………」
現在、レイカとフェイは王都の冒険者ギルドに行っている。なんでも、Aランク冒険者になる為の試験には筆記試験と実技試験の二つがあるらしく、今日は筆記試験があるらしい。2人揃ってその筆記試験を受けに行っている訳である。筆記試験は様々な魔物に関する知識、ダンジョンと呼ばれる無限に魔物が湧き出る場所の知識は勿論、私が住んでいるこの王国などの各国の地理などの知識、貴族と会う為の礼儀作法のような知識、魔法や武具に関する知識、などなど、本当に色々な内容の試験らしい。合格ラインは難しいくらいのレベルだそうだ。ある程度一通りの事はできないとAランク冒険者にはなれない、という事だろうか。
そんな中、私はレイカとフェイが人脈を活用して(主にミゼルから聞いたらしい)選んだ、安心安全でご飯も美味しい。更にはお風呂付きの良い宿のベッドの上で、レイカとフェイの帰りを待っている状態である。現在時刻は午前10時70分くらい。夕食前、この宿だと午後7時程度には帰ってくるらしいので、私はそれまで待機である。ちなみに、暇で暇で仕方なく、レイカとフェイの事を待ちきれなかったら外に出ても良いけど、その時はバティンを召喚して外に出て、とも言われている。実に過保護な娘とペットだ。私はそんなに危機感が無さそうに見えるのだろうか?それとも私はそんなに弱そうに見えるのだろうか?なんだ、実に心外である。初めての街は怖いので是非そうさせて貰おう。
「外出………は別にしなくていいか………」
でも、今のところ外に出る用事は無いのでバティンも必要無いな。第五アップデートのお陰でスマホができるから、大抵の暇つぶしの方法くらいはある。インドア派(どちらかと言えば引きこもり)を舐めるんじゃないぜ。暇つぶしさえあれば室内で何でもできるのが私だからな。………まぁ、私が今やってる事と言っても、私の場合は大抵が読書だけども。王都に来る前に図書館に本を全て返却してきたから紙媒体の本は1冊も無いけど、電子媒体の本なら沢山確保できるからな。ネットは偉大。
………ちなみに、だが。私のスマホが前の世界のインターネットに繋がっている理由は、未だにわからなかったりする。バティンの話によると、おそらく私の契約属性と空間属性と光属性の複合魔法が無意識下で発動している、だとかなんとか。具体的には、その三種の属性の魔力がこの世界でも魔界でも無く、どこか別の世界に繋がっている事から、おそらく私が無意識下に複合魔法を使用する事でインターネットの使用を可能としている、と思われるらしい。思われるらしいというのは、私がその魔法を使っている感覚が欠片も無い為に、放出される魔力があっても、私自身がその魔力の流れを一つの魔法として認識できていない為である。具体的な魔法の概要がわかれば魔法として認識し、スマホの一機能として確立できるのだけれど………まぁ、こればっかりはどうにもならないので、後回しにするしかないというのが現状である。つまり要約すると、インターネットが使えるのは私の謎の魔法のおかげ、という事である。ま、それ以外何もわかってないけどな。
「………お腹空いた………」
お腹空いた。昼時になれば階下で食事を貰えるらしいので、それまで待機、という事になる。まぁ、それくらいなら我慢できるかな。後2時間だし。………我慢出来なかったら
そう、例えば。『擬似時間属性』を最大限活用して、完全に時間を停止されてしまっても、スマホの時の流れだけは亜空間と同じようにする、とか。そういう対策も、いつか必要になってくるだろう。どんな世界も常に危険だからな。まぁ、流石に今の『擬似時間属性』にそこまでの事が出来るような能力が無いので、まだ出来ないけど。でもいつかやる。装備の強化はゲームの醍醐味だし、現実ならば絶対に必要な事だからな!
「あ、これ面白そう………」
面白そうな小説を見つけたので、無駄な思考は中断する。キリの良いところまで読んでみよう。
面白かった。特に、主人公が最近流行の最強だとかチートだとか、そんなモノが無い所が良かった。異世界に身一つと着ていた服だけで放り出されて、そこから始まる渾身の冒険の物語!アクションシーンも日常シーンも引き込まれるような文章で良かった。控えめに言って最高だった。特に文句も無い。かなりすらすらと読む事が出来たし、これはブックマークを付けておこう。続きが気になる作品だ。ついつい最後まで読んでしまったが、次はいつだろうか。………不定期更新らしい。仕方ない、ゆったりと待っていよう。だって私にはそれしか出来ないし。
む、小さな足音。
「お母さーん!ただいまー!」
「!!、!!」
「ん?あぁ、お帰り」
やはりレイカとフェイの帰ってきた音だったか。聞いたことある音だったからわかりやすかったぜ。………待て。現在時刻はまだ12時43分なのだが?1時くらいになったら昼食を貰うために階下に降りようかと思っていたんだが?2人共帰ってくるの早過ぎない?え?午後の7時くらいに帰ってくるって言ってなかったっけ??
「にしても早いな。なんかあった?」
「全部しゅぱって終わらせてきた!」
「!、!!」
「終わらせてきた?」
何を?
「うん!27枚全部の試験用紙、答え完璧で埋めてきた!」
「………なるほど?」
「覚えてる事しか出なかったから100点満点だよ!」
「………なるほど」
もしかして、終了予定時刻が午後7時って話だったの?何?本来それほどの時間を必要とするモノを、こんなに早く終わらせてきたの?何?なんでそんなに早く終わらせてきちゃったの?凄いじゃん。褒めたげる。
「よしよし」
「えへへー」
やっぱりうちの子可愛いなぁ。頭撫でただけで可愛いってそれはもう最強じゃん。可愛いは正義だし最強だよ。最高過ぎて好き!
「!!、!!」
「ん、フェイも可愛いよ」
人間程では無いが、人間並みに可愛い。
「とりあえず、お昼食べに下行こっか」
「うんっ!」
「!、!!」
私はそのまま、レイカとフェイと一緒に階下へと降りるのだった。
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