パンデミックってゲームでしか見たことねぇんだが
ミナのお父さんが熱を出してから1週間が経過した。今現在、この街では、謎の伝染病が蔓延しているらしい。店長さんもそれにかかったっぽい。なんせ、症状が似通っているのだ。しかもその伝染病、何故かは知らないが、今のところ女性だけには感染していないらしいのが不思議な部分である。まぁ、その変わりかは知らないが、生物でありオスであれば、どんな生物だろうと魔物だろうと問答無用で感染するらしいのだが。私はその、男性しか感染しない病気、と聞き、最初の方は自分も感染するのではないかと思ったが──結局、私は今のところ感染していない。今の自分が完全に男ではないと証明されたみたいで嫌なのだが、感染したら感染したで男疑惑が出て疑われてしまいそうで、この1週間、私は色々と葛藤していた。
具体的には、性別を普段は常日頃から女にしているが、ちょっとだけ男に戻そうかな、と思うくらいに葛藤していた。男としてのプライドを取るデメリットと、女でいる間感染しないというメリットを天秤にかけていた訳である。最終的には、1時間くらい悩んで、病気に感染して苦しい思いをしたくないので女のままでいよう、という結論に至ったのだが。まぁ、身体が女だろうが、私の精神は歴とした男である事は変わりないので、割と身体の性別はどっちでも良かったりするのだけれど。
ちなみに、私は今さっき1週間葛藤していた、と思考していたが、悩んでいたのは大抵が『お客さんを集めるにはどうしよう』という葛藤である。性別問題はすぐ解決したからね仕方ないね。
「お客さん来ねぇなぁ………」
当たり前である。なんせ、男性は殆ど感染してしまっているのだから。私が知っている中で感染しても平気だったのは、冒険者ギルドのギルドマスターであるミゼルくらいだ。なんでも、ミゼルの持っている称号の中に病気に対する高ランクの耐性を獲得できる称号があるんだとかで、そのおかげで感染しないらしい。私もその時、称号の効果って凄いなって思っちゃったよね。まぁ、私もそこまで人の事言えないと思うけども。
話は戻すが、当たり前である。お客さんが来ないのは、至極当然な事である。なんせ、現在この街には、男手が殆ど無い。ミゼルや他の病気に対して耐性を持っている男性冒険者達が頑張って男手が足りない分を働いてどうにかしようとしているらしいが、やはり足りていない。女手は普段よりも活発になっているが、男手は普段よりも限りなく減っている。そして、この店の夜営業のお客さんは大抵が男性である。当たり前だ。私がそうなるように、わざわざ、女性の身体となって、大事なことなので二回言うが、わざわざ、私が、女性の身体となって、色々と集客したのだから、男性のお客さんが来れない今、集客はほぼ無意味なのである。勿論、女性相手にも集客は望めるが、今この街は、そこまでの余裕が無い。みんながみんな、それぞれの問題を抱えている状態なのだ。女性達も忙しいのである。故に、集客は以前と比べるまでもなく減っているのがわかる。
まぁ、私としてはこの現状がなんとなく、急な長期休みを貰ったようの気分なので、ちょっと嬉しかったりもするのだが、流石に不謹慎なので誰にも言っていない。多分レイカは気が付いてるけど、誰かに秘密などをぺらぺらと話すような口の軽い子でもないので、特に気にする必要性は無いだろう。これでも私の娘なのだ。例え本当は私の娘でなくても、何故だが私の知識を確実に持っているのだ。ならば、わざわざ自分や他人の秘密をバラす事のメリットも、デメリットも、そしてその秘密というモノの活用方法も、よくわかっているだろう。
なんせ、秘密が有れば簡単に他人を脅せるし、秘密さえあれば簡単に相手よりも上に立てるのだ。それが深く深く秘匿されればされるほど、その秘密による影響力は増していく。そういうものを、私の中では秘密というのだ。中には秘密などない、という輩も居る。が、大抵そう言っている輩も秘密を持っていたりする。その秘密が大きくなかったとしても、必ず小さかろうと持っているだろう。私の場合なら、性別関連や、異世界転移関連だろうか。これを知られると、今後生きていくのに面倒この上なさそうなので、私は秘密にしている。例えば、これらの秘密をバラすと脅されれば、私は大人しく従うだろうし、簡単に跪くだろう。
いやまぁ、そんな事されても私は従わないが。別に性別関連や異世界転移関連の秘密はバラされたら困る、程度のモノである。いざとなったら人里離れた山奥にでも住めば良い。前の世界とは違い、魔法があるこの世界なら、きっとなんとかなるはずだ。スマホもあるし、気になる事は調べればいいだけである。………それで本当に生きていけるのか、と言われれば、ちょっと疑問が残るが。まぁ、私の秘密がバレない限りは人里離れた山奥暮らしはしないので、秘密がバレないようにするだけだ。それに、性別関連なら別にバレても困らない。単なる生まれつき持っていたユニークスキルで、今まではそれを使っていて、性別を自由に変更できるから男扱いだろうと女扱いだろうとどっちでも良い、とか言えばそれで終わりだからだ。まだ釈明の余地はある。
だがしかし、異世界転移関連がバレたら人里離れた山奥暮らしの始まりだろう。そっちは本当に不味い。色んな国に目をつけられたらお終いだ。なんせ、私は異世界の様々な情報を持っている。つまり、全くの未知であるのにも関わらず、確実な文明の情報がある証拠になってしまう。その場合の私の扱いが、異世界の最重要な使者なのか、それとも情報を落としてくれる程の良い雑魚なのか、それとも私という異世界の存在を玩具のように扱うのか、一体どうなるのかがわからない。盛大にもてなされて頑健な護衛がつくかもしれないし、拘束されて拷問されるかもしれないし、私の身体と心を壊してしまうかもしれないのだ。発想が少々飛躍し過ぎかもしれないが、これでも過小評価である。なんせ、私などという一般人の思考だ。本物の天才や、政治を知っている人間であればもっと確実な方法を知っているのだろうし、何かしらを思いつくだろう。が、私は何も知らないし分からないし思いつかない。私のような一般人が国のどうたらこうたらを知っているわけないだろう。故に、これでもかなり過小評価しているレベルである。
………と、思っている。まぁ、私がいくら考えようと、所詮は社会経験の乏しい男子高校生の妄想に過ぎないのだ。特別深く考えるようなことでもない。いざとなれば魔法でどうにかするだけだ。
「………む?」
あそこに居るのは………ミゼル?なんか、凄い量の荷物を乗せた台車を4つくらい連結させて引っ張ってる………え、何あれヤバ。荷物の量があり得ないくらい多いんですけど。2トントラックとか余裕で超えるくらいの荷物があるんですけど。そしてなんでミゼルはそんな事ができるの?しかも辛そうでもなんでもないし………めっちゃ軽々引っ張ってるし………何それぇ………
「なんか、新手の拷問みたいに見えるな………」
外見年齢ショタに、2トントラックもびっくりな量の荷物を乗せた台車を4つ引っ張るとか………普通に辛そう。少なくとも私は出来ない。私だったら荷物全てを
というか、病気の耐性を得る事のできる称号って何があるんだろう。そもそもどうやって取得できるんだろう。そういうユニークスキルの可能性はあるけど、私はそんな事知らないしなぁ。
「まぁ、別にどうでもいいか」
そんな事よりお仕事だ。まぁ、今日来てくれたお客さんの人数はめっちゃ少ないし、今はフロアに1人もいないから、私は普通に本読んで寛いでるんだけど。でも、ミナも厨房の方で、少し身体をほぐすためのストレッチとか、ちょっとした軽食を作って食べたりとか、ミナの方も割と色々してるし、別にこれくらいしててもいいと思うんだよ私。私は本読んで寛いでるだけだよ?ミナの方が色々してるんだし、私が何か言われるような筋合いは無い。………と、思いたい。
「続き読むか」
1週間後、この街は未だに病気が蔓延し続けている。原因は一向に分からず、人手は全然足りず、しまいには──
「えっこれも運ぶんですか………?」
「ええそうよ!よろしくね!」
「は、はぁ………」
──しまいには、私まで駆り出されることになった。なんでも、私の
「やりたくないなぁ………」
………だがしかし、やらないといけない事柄と、私のやりたい事柄は全く違う。それどころか、正直そろそろ疲れてきたので軽く眠りたい。だが──
「アオイちゃん!こっちもお願いね!」
「………はーい………」
──だが、仕事はまだある。むしろ増え続けている。というか、私だけにしか荷物運びの仕事が回ってきていない気がする。私の気のせいだろうか。気のせいでありたい。
「アオイちゃん、さっきの荷物を、地図のこことここの場所に、木箱単位で20個ずつ、ここと、こことここには10個ずつお願いね!」
「………いってきまーす………」
ギルド職員のお姉さん達や、先輩にあたるであろう女性冒険者さん達に色々と言われつつも、渡された地図通りの場所に指定された数の物資を運ぶ。物資の中身は、主に食料品や衣類などの衣食に関するモノだ。まぁ、物資の質が良いとは言えないが、そんな文句を言っていられるような事態でもない。いや、別にそこまで悲惨な事態ではないのだが。見たところ食料品は十分にあるし、国の方から支援もされているらしいし。ただ、どうしても病気の原因が掴めないんだそうだ。しかも、病気を治す方も非常に難航しているらしい。なんでも、通常の病気とは違い、呪いと病気が混ざり合ったような感じの病気なんだそうだ。冒険者ギルドで荷物を収納している時に誰かが言っていた気がする。
まぁ、私には関係は少ないだろう。原因究明の為に国の中枢から女性騎士達が集まったり、女性冒険者達が集まったりしてるらしいし、私のような木っ端の雑魚にこれ以上の仕事は回ってこないだろう。そもそも、そういうイベントのようなのは物語の主人公みたいな奴がするべき事だ。私のようなモブにそんなイベントが回ってくる訳がない。むしろ回ってきたらそいつの顔面助走つけてぶん殴ってやる。こちとら疲れとるんじゃボケが。運動不足な人間が身体使って働いてるだけで褒めてほしいな………森羅万象のあらゆる存在達が私を心から称賛しないかなぁ………できれば何の努力もせずに。
っとと、ここに木箱20個分だっけ?あいや10個だわ間違えるとこだった。何か考えながら仕事するのやめた方がいいなこれ………だいぶ疲れてるんだろう。まぁ、普段こんな動かないからな………
「………む?」
なんか、私の第三アップデートが何かに反応してる。ちなみに第三アップデートは『自動有害物質検知アップデート』という。私を中心とした半径10m以内の、私に害を加える毒物を検知するだけの魔法なんだけど………え、何?この近くに毒物があるって事?えっやばいじゃん逃げよ。
あいや、流石に放置はできないから
「えっとー………この、地面の下?」
頭の中にスマホから送られてきた毒物の位置情報を確認して、その場所を見てみると、そこにあったのは地面。だが、何かモノがある訳でもない。そも、毒物の位置情報は地面より更に下の場所である。もしかして、この地面の下に毒物が埋まっていたりするのだろうか?
「えぇ………土属性使えないんだけど………」
私の適性属性の中に土属性は無い。故に、この地面を操り、地面の下の毒物を見つけることもできない。むぅ、どうしたものか………
「………あ、あれがあったな」
「
私は魔法を唱えると、普段は手元にまで転移させるのだが、今日は毒物を対象にするので近場の地面に転移させる。そして、私の比較的近くまで転移してきたのは、何かしらの黒い球体だった。暑さで溶けているのかなんなのか、謎のドロっとした黒い液体が垂れているのがちょっと生理的に無理だ。
「うぇ、
私はその謎の黒い球体を、すぐに
「うし、行こう」
………とりあえず、残りの木箱を運んで、後で毒物は消去しよう。それと、検知した毒の詳細の確認も直接スマホ見ないとわからないし、素早く仕事を終わらせないと。私の部屋の中でじっくり確認してやろうではないか。
6時間後、私は自室のベットでうつ伏せになって倒れていた。疲れたのだ。
「死ぬ………死んでしまう………」
このままのペースで明日もやるんか………?私は死んじゃうよ………?体力の限界がきて過労死しちゃう………うぅ………寝たい………眠い………けど、その前に毒物の消去と………後、第三アップデートが検知した毒物の詳細を確認しないと………気になる………けど手を動かすの面倒………………仕方ない。
私は重い身体(主に両脚)を我慢しながら動かすと、スマホを亜空間から取り出して、電源をON。パスワードを打ち込んでホーム画面に来たら、画面の右上にあるメールボックスを開く。そして、メールボックスを開いたら、受信ボックスの一番上に第三アップデートからの詳細が届いていた。
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名称:ゴブリンの毒塊
症状:発熱、吐き気、身体機能低下、思考能力低下
特徴:少しの熱でも簡単に気体に変化する為、空気を媒介にして感染する。
※契約属性の魔力により、感染対象が男性に限定される代わりに、感染力、症状の悪化などが起こっています。
※土と風属性の複合魔力により、この物質はある程度固体を貫通してしまいます。
──────────────────────────
この謎の黒い球体は、『ゴブリンの毒塊』というらしい。発熱、吐き気、身体機能低下、思考能力低下が主な症状で………1番気になるのは、米印の注意書きみたいなやつだ。"契約属性の魔法により、感染対象が男性に限定される代わりに、感染力、症状の悪化などが起こっています"?つまりこれって、今この街を苦しめてる病気の感染源って事?症状もなんとなく街でよく聞く症状と似てるし………まぁ、もしかしなくても感染源だろうなぁ………
空気感染だってさ!米印の"土と風属性の複合魔力により、この物質はある程度固体を貫通してしまいます"ってつまり、地面の中に埋まってても気体になった物質が地面を貫通して空気感染するってことだね!あーはっはっは!………笑い事じゃないんですけど?
んー………んー………………
ま、いっか(適当)。
「消去消去〜」
ゴブリンの毒塊?ハッ!(嘲笑)んなもん私には関係無いね!100個ぜーんぶ消しちまうぜ!ふははは!なんせ、私には関係無いからな!毒?病気?んなもん関係ねぇ!全部消しちまえ〜
………あれだ、相当に疲れてるからか、深夜テンションみたいになってるな、私。今日はもう疲れたし、早く寝るとしよう………おやすみ世界………
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