指差しがダメな元ネタってルーン魔術なんだ…初耳


レイカとマリンちゃんが仲良くなった4日後の朝、私は目が覚め、一言だけ呟いた。


「………そういや、ルーン文字ってあったな(唐突)」


あまりにも唐突に、私の口から意味不明な言葉が放たれる。だがしかし、現在寝起きから約十数秒という状態で頭が欠片も回ってない私は、どうしてこんな発言をしているのかの説明ができない。説明どころか何故こんな言葉が出てきたのすらわからない。寝ぼけてる頭じゃ深く考えられんのじゃボケ。


「………………ルーン魔術ってのもあったな(唐突)」


そして、何故か連想ゲームばりに次々を紡がれる言葉達。やっぱり私って脊髄で喋ってるよね。ついでに脊髄で思考してるんじゃないかなってくらい何も考えずに発言してる気がするなぁ、今の私。特別何かを考えようとしてる訳でもないのに言葉が出てくるのやばくない?脊髄反射で会話もやばいけど、それはいつもの事なので無視………したら、この唐突な発言もいつもの事になってしまうな………


あれ?そもそも私は何を考えてたんだっけ?


んー、まいっか。(アホ)


「………………確か、北欧の呪術に、指差して病気にさせる魔術みたいのがあったっけ………?」


確か、『ガンド』とかなんとか言ってたような気がするな。あいや、そっちはゲーム知識の方か?うーむ………現実の知識とゲームの知識がごっちゃになってしもてるな、これ。スマホで調べれば1発でわかるんだろうけど………こうやって何も考えずに調べると駄目だとかなんとか………


まーいいや調べちゃえ。(アホ)


おー何々?北欧の神々アース神族を起源とする、脱魂魔術で………ふむふむ、北欧の巫女が使用する術としてはヴァン神族を起源とする降霊術・セイズ術と並んで最もポピュラーな術で、巫女が狼や猪、垣根の横棒にのって空を飛ぶという伝承は、ガンド術によって魂を飛翔させていた事の比喩表現であったといわれていると………なるほど。えー、また?自身の魂を狼や熊などの動物やそれらを象った精霊と合一させることにより、超人的な能力を得ていたという話しも数多く残る。なるへそ。それで?この他にもガンド撃ちとも呼ばれる呪いの一種として用いられ。相手を指さすことでその体調を崩すという効果を持つ?あ、これが私の想像してたやつか。強力なものはフィンの一撃と呼ばれ、体調を悪くさせるのではなく物理的ダメージを与えることも可能になるといわれている………と。なるほど?


なんか良くわからないけど、指差しして呪いを撃つみたいな魔術ね?オッケーなるほど。………なるほど。もしかしてこの魔術、今の私なら複合魔法で再現できるのでは?スマホを使えばちょちょいのちょいで………あいや、別に複雑な構造の魔法でも無さそうだし、複雑な工程を踏む必要も無さそうだし、私1人でも使えるようにするか。流石にこのままだと、スマホが無いと何もできない一般人になってしまうし。


そうと決まれば………あ。


「………とりあえず、起きよう」


そういや私、下着しか着けて無いし、ベットの中じゃん。アホの子か?いや普通にアホの子か。










時間は経過し昼営業の後、今日も今日とて遊びにやってきたマリンちゃんとレイカと共に私の部屋で遊びつつ、頭の中では『ガンド』の複合魔法の具体的な内容を考えていた。まぁ、実際は厨二病の痛い中学生みたいな妄想を頭の中でして、それをどうすれば私の魔法として再現できるかの妄想をしてるだけなんだけども。でも、こうやって魔法は作るモノ(私だけかもしれないが)なので、仕方ないだろう。なんせ、魔法を作るのにも、魔法を使うのにも、必要なのは鮮明且つ鮮烈な想像力やイメージ力なのだ。妄想という補強剤で想像力やイメージ力を補う事で、より強固に、より詳細なモノにする。その為の妄想である。


「あ、の。アオイお姉ちゃん。えと、その。わ、私、ここが分からなくて………」


「んー、と。これは、炎属性と風属性の複合魔法。だから、加速と移動って感じになる」


「な、なるほど………!」


「ね、お母さん。こっちはどうやってやるの?」


「レイカは教えられなくてもできるでしょうに………なんでそんなに複雑なやつをやってるの。えーとそれは──」


私が今2人に教えているのは、複合魔法の構造についてである。各種属性の意味や性質を覚え、複合された属性を掛け合わせて起こる現象を、問題文に沿って予想する、というものだ。ちはみに、問題文は全て私が考えた独自のモノだったりする。


「──って感じ。んで、そうなると………後はわかるか?」


「うん、ありがとね、お母さん」


「どいたましてー」


私の娘?であるレイカは私の記憶や知識を持っている為かはわからないが、想像力やイメージ力は高い。高いのだが、それを工夫したり、組み合わせたり、掛け合わせたり、柔軟に考えたりするのは苦手だったりするのだ。基礎はできるが応用力に欠ける訳である。


一方、マリンちゃんは属性や魔法に関しての知識はレイカに少々劣るが、その分イメージ力や想像力はかなりの柔軟性を持ち、小さい子供ながらも属性の性質はある程度わかっているくらいだ。基礎はある程度でき、応用も相応のものならできるという訳だ。


この2人に私の持っている複合魔法についての知識、ひいては属性を掛け合わせて起こる現象を学ばせるというのは、中々に面白いものがある。更に、レイカとマリンちゃんの2人に教えていくうちに新しい属性の掛け合わせを見つけたりするのだから、自分の為にもなるのだ。誰かに何かを教えるというのは、自分の学びの為にもなるのだという、確かな実感が感じられるので、やっていて飽きる事も無い。これなら幾らでも……は言い過ぎでも、少なくとも数ヶ月は2人に教えてあげられるだろう。教えられる側である2人は飽きるかもしれないが。


まぁ、とにかく今は『ガンド』の構造を組み立てねばな。このまま何も考えないとなると、絶対中途半端で終わる気がするので、早々に枠組みくらいは考えておいた方がいいだろう。私の性格上、一度寝たら確実に色んな事を忘れるので、せめて重要な部分くらいは構想として出しておいた方が良いだろうし。にしても、ガンド、ガンドか………本来は対象に指差しを行い、相手に病を与える呪い、だったか。指差しでイメージしやすいのは、人差し指を親指を立てて行う、所謂"銃"と呼ばれる手の形、だろうか。これはいいだろう。というか、今私が悩んでいるのは、そこでは無い。


別に魔法に手の形が必要無い、という事である。


なんせ、この世界にある魔法と呼ばれる不可思議な現象は、全てのイメージや想像が現実となる技術である。言葉を宣言するように魔法を使うのは、その単語からイメージや想像を連想し、より強力な魔法を使う為に必要な行為である。もしくは詠唱を行うという条件を付けて魔法を使うことで、魔法の威力や消費魔力を減らす為のモノである。つまり、イメージや想像を言葉から連想出来ずとも、頭の中で正確に使う魔法の過程や結果をイメージや想像できるのならば、別に詠唱も何も言葉など不必要なのだ。一応、仲間との連携を行う時に魔法の名前を言うのは必要らしいが、別に私にはこれと言って関係無いので問題無い。


なので、手の形なんて確実に不必要なのだ。本来のガンドは指差しをする必要があるらしいが、この世界の魔法に当て嵌めるとなると、全く要らなくなる。指差しするなんて、相手に撃つぞと言うようなモノだ。魔法の宣言の数倍は不必要である。宣言ならまだわからないだろうが、ジェスチャーは余裕でわかるだろう。相当な馬鹿でなければ。


だがしかし、それでは『ガンド』とは呼べないだろう。そも、私の中のイメージや想像の中で、既に『ガンド』と言うものは、相手に指差しを行って、人差し指の先端から魔法効果の載った弾丸を撃ち出す魔法、という事になってしまっているのだ。一度完成したイメージを崩すのはそう簡単にいかない。一度そうだと私が思ってしまえば、私の中ではそうなってしまう。後からイメージを変更しても、違う結果を連想してしまい、おかしな事になってしまうのは、複合魔法を作る際の常識である。


故に、私は悩んでいるのだ。手の形、言葉の宣言は既に私の中で必須な項目。次点で必須なのは、組み立てた魔法が簡単かどうか。今回、私はスマホを通して魔法を使う事はしない。スマホが無いと無能になるなど、馬鹿にも程があるからな。自衛、せめて抵抗の手段くらいは確保しておくべきだろう。以上、それら三つの条件を満たすような魔法を作るのが、私の今日の課題である、とも言えるだろう。だがしかし、この世界の魔法において、手の形も、言葉の宣言も、どちらも本来、ただ魔法を使うだけなら全く必要無いモノだ。必要無い。が、故に私はこの部分をどうにかしないといけないのだが………


「………あ」


………そうだ、そうすればいいのか。よし、よし。そうと決まれば買い物が必要だな。ちょっくら買いに行こう。確か金貨2枚程度の値段が必要だった筈だが………










買ってきた。最低値段のモノが金貨2枚だったが、どうせならと少し良い品質のものを買ってきたので、金貨8枚の出費となったが、まぁ問題なかろう。むしろ品質が良いものの方が良いはずだし。レイカとマリンちゃんの面倒はミナに言ってあるので、こちらも問題無いだろう。ちなみに買いに行ったのは、リリーさんの『魔法道具店 アトリエリリー』だったする。私が買ってきた物は魔法道具に関係があるのだ。


「たっだいまーですわー」


「あら、意外と早かったわね。おかえり」


「お母さんおかえり!」


「お、おかえりです………!」


私が自分の部屋の扉を開けて帰った事を適当な知らせると、三者三様の返事をしてくれた。中でもマリンちゃんの返事がなんとも可愛らしい。私が毎日自室まで帰ってきたら言って欲しいくらいだ。うちの子にしてぇ。だがしかし、マリンちゃんのお母さんであるフェリスさんがOKしてくれる訳が………あーいや、どうなんだろう………こう、1ヶ月とか、数週間単位で行う冒険者ギルドの依頼をする時なら、一時的にOK出してくれるかも。むしろあっちから打診してきそう。まぁ、フェリスさんがそんな都合よく長期依頼を受ける訳もないので、気長に待つとしよう。その時には既に忘れてそうだが。


閑話休題。


私がわざわざ外に出て、リリーさんの魔法道具店で買って来たのは、1枚の非常に綺麗な羊皮紙だ。レイカにマリンちゃん、ついでにミナに見られながら、私はその羊皮紙に、専用の羽ペンを使いながら、正確に文字を書き込んでいく。


「お母さん、その羊皮紙は何?」


「んー、これは魔法契約書ってやつ。魔法道具の一種で、魔法的な効果のある契約を結ぶことのできる特殊な羊皮紙………だったかな、確か」


私が買って来たのは、魔法契約書。私がさっき言った通り、魔法による契約を行う際に、契約の内容を確約するのに必要な道具の一つである。


契約コントラクトと呼ばれる契約属性の魔法がある。この魔法は、術者と対象の間に不可侵の関係を築く魔法である。紙媒体を使用した契約書に内容を書き込んで、その契約書に対して契約コントラクトの魔法を使うことで、始めて使うことができる魔法だ。この魔法を使うと、その契約書の内容を破った時にペナルティを与えたり出来るわけである。ただ、ペナルティは特に深刻なモノになると死に至ったりするので、扱いには注意が必要だ。他にも、魔法を使った契約書は消滅してしまうが、内容は術者も相手もいつでも思い出すことができたりする。ただ、この魔法は契約属性の魔法でもかなり難しい魔法であるので、使える人はかなり少ない………が、私は契約属性だけなら割と才能があるので、使えるのだ。私の才能様々である。


本来なら紙媒体に書かれた契約書ならなんでも使える魔法なのだが、魔力の通しやすい特別素材の羊皮紙を使うことで、契約の内容を確約できるのだ。つまり、より強く契約を結ぶことができるわけである。その為にこの羊皮紙を買ってきたと言っても過言では無い。というかそうなのだ。今回私が行うことには正確に事柄を縛れるような強制力が必要な為、少しでも良い羊皮紙を買ってきたのである。ちなみに1枚だけで金貨8枚、円換算で40万円である。たった一枚の紙なのにたけぇ。原材料が高価だから仕方ないけども。


「ガンド?新しい複合魔法かしら?」


「まぁね」


私が羊皮紙に書き込んでいる内容は、簡単に書き出せば4つ。『私自身が人差し指と親指を立て、その他の指を握った時、魔法構造の第一部分を契約に沿って自動で構築する事』『私自身が"スタンガンド"、もしくは"カースガンド"と宣言する事で、魔法構造の第二部分type:スタンか、第二部分type:カースを契約に沿って自動で構築する事』『私自身が右手の先に魔力を一定量動かす事で、魔法構造の第三部分を契約に沿って自動で構築する事』『第一部分、第二部分、第三部分の魔法構造が構造された時、指定された魔法を契約通りに自動で使用する事』の、計4つのみである。この他にも、消費魔力を抑えたり、魔法効果の出力を上げたり契約を確固たるものにしたりする、非常に細々とした内容を書き込んだりしていたりするが、それは割愛しておこう。


私が何をしているか、と問われれば、答えるのは簡単だ。ズバリ、魔法契約書の効果をうまーく利用した、半自動発動複合魔法の開発である。本来、魔法契約書とは、相手と契約を行い、行われた契約の内容に反した際、何らかのペナルティを与えるモノである。例えば、何かしらの催促をするような文字の傷跡を皮膚上に痛みと共に刻み込んだりするペナルティだとか、契約を破った時に致死量の電撃を流したりするペナルティだとか、契約を蔑ろにすればするほど体内に毒が回って最終的には証拠もなく死んでしまうような毒を流すペナルティだとか、色々なペナルティがあるらしい。


が、今回の複合魔法では、その契約の強制力という効果を完全に利用する。まず、私は自分自身と契約を行う事で、契約内容に沿った事柄を成した時に、自動で魔法を組み上げて、自動で魔法を撃ち出すようにするのだ。私の行った契約により、契約自体が自動的に魔法を発動させるのである。ただ、この魔法はかなり危険だ。例え私がどれだけ衰弱し、後少しでも魔力を使えば死ぬ、みたいな状況でも、条件さえ満たせば勝手に発動してしまうのだ。この方法の複合魔法の知識は私が今まで読んだことのある本には載っていなかったが、まぁ先人の誰かが既にやってどっかの本に書いてるだろう。私は着々と契約コントラクトの為の準備をするだけだ。


契約コントラクト


私は契約内容を書き終わり、念の為にと三度の確認を終えた羊皮紙に魔力を流しながら、魔法の使用を宣言した。すると、羊皮紙は紅蓮と紺青の不思議な色の炎を吹き上げながら消えていき、私の頭の中には契約内容が一字一句明確に記憶された。


「わっ!」


「ちょっとアオイ、これ燃えてるけど大丈夫なの?」


「確か大丈夫じゃないかな?ねぇお母さん?」


「まぁ大丈夫だけど、ちょっとくらい余韻に浸らせたりしてくれない?」


今私は新しい複合魔法を作り上げたんだぞぅ。もっと褒めておくれよ………。というか、今回はかなり、というかめちゃくちゃ早く魔法を作り上げられたな。まだ朝起きてからそこまで時間は経ってないのに………ハッ、もしかして私の才能が開花でもしたのか………?んなわけないか。ただ純粋に、今回作った魔法の構造がかなり簡単だったからだろう。元々簡単なものを作る予定だったので、何もおかしくはない。さーて、試し撃ち試し撃ちっと………まぁ、この魔法の物理干渉能力はゼロにしたし、自分にでも撃つか………流石にヤバイかな?


「あ、お母さんお母さん。試し撃ちの的を探してるなら私を使うといいよ?私、頑丈だからさ」


「使うといいよ?と言われましても………」


私の娘?に直接魔法をぶち込むのは人としてどうなんだろうか。いやまぁ、怪我するような魔法ではないから、多分安心………なんだろうけど………100%じゃないから不安なんだよ?だから試し撃ちをする訳だし………いやまぁ、レイカがいいならいいんだけども………


「………じゃ、少し他の物で実験してから、最後の最後にレイカに頼もうかな。流石に今すぐぶっ放すのはヤバイだろうし………」


「はーい。それまで私はマリンちゃんと一緒にお勉強してるね?」


「あ、了解」


んじゃ、ちょっくら実験してこよーっと。ミナは2人のお守りよろしくぅ!










時間は経ち、夜営業前の午後。既に物への試し撃ちをしてきたので、後は私の娘?に撃ち込むだけだ。………これ、側から聞いたら内容が酷いな………まぁ、本人の了承は得てるので、いいのだけれど。いや良くはないけど、直前に思いとどまった私をレイカ本人が撃ってほしいと何故か懇願してきたので、私が折れたって感じだけど………私の娘?である以上、流石にその仕打ちはどうなのだろうか………まぁいいか(小並感)。本人が良いって言ってるし、別に問題なかろう。『ガンド』は別に受けたからって死ぬような魔法では無い。精々一時的に動けなくなるくらいだし。………出力を間違えてなかったら、だけど。


今回の私が作った複合魔法は『ガンド』。敵を傷つけずに捕縛・拘束、もしくは妨害する為に作り出した、少々特殊な複合魔法だ。また、この魔法は私のスマホを利用せずに使用できる、数少ない私の複合魔法でもある。


光、雷、毒、契約の複合魔法で、物理的なダメージが無い魔力弾を、親指と人差し指を立てた形の手の時、人差し指の先端から射出する魔法だ。撃ち出す魔法の弾丸の種類には2種類あり、電撃の弾丸によって痺れさせ、敵を即座に拘束できるスタンガンドと、病毒の呪いの篭った弾丸によって病気に感染させ、敵を長期的に行動不能にさせるカースガンドがある。ただし、1発撃つ事に120秒のクールタイムを必要とするので、連射は不可能。連射は不可能だが、その分、相手の物理的魔法的な防御や、障壁、結界の類の全てを貫通し、例えドラゴンだろうが神だろうがなんだろうが、当たりさえすれば行動不能に陥らせる事ができる効果がある………という予定である。試射はしたが、実のところまだ効果の程はよくわかっていないので、ドラゴンだとか神の下りは本当かどうかわからないが。つまり威力ではなく、防御貫通能力だけをとにかく強化させたのだ。故に効果自体は割と弱めである。ちなみに、クールタイムはスタンガンドとカースガンドで別の為、2射までなら一応連発できなくはない。


また、私が今まで作成してきた他の複合魔法とは違い、この複合魔法はスマホを利用せずとも使用できる魔法である。これは、契約属性によって事前に魔法的な契約を自分自身と行う事で、手の形、魔法名称の宣言、魔力の集中という動作をした時に、事前に契約した魔法を自動で組み上げて撃ち出すという理論の元で構築されたモノである。ただ、少ない動作で、しかも半自動で魔法が発動するのはいいのだが、動作と宣言と魔力が揃えば自動で勝手に発動する、というのは少し危険なので、日常生活でも少なくない注意が必要だ。寝てる間とかも条件さえ揃ってしまったら勝手に使われるのだからな。『ガンド』は一応非殺傷だからまだしも、例えば大量虐殺魔法とかを簡単な条件にしてしまったら………ヤバいな。


「んじゃレイカ、ベットに横になってくれ。この魔法、一時的に対象の動きを止める効果があるから、寝てくれてると危険も減る」


「はーい」


レイカは普段通りベットの中に潜ると、頭だけをちょこんと出してこっちを見てきた。可愛いが、それでいいのだろうか。


「お母さんどう?私可愛い?」


「可愛いけど、その格好でいいんか?頭に魔法弾ぶち込むことになるんだけど………」


「あ、そっか。じゃあ右腕にお願いしまーす」


「注射かってーの」


雑なボケとツッコミをしつつ、レイカがベットの中から右腕を出したので、私は人差し指と親指を立て、人差し指をレイカに向ける。そして、指を立てるのに合わせて魔力を右手の先に集めると、二つの部分の魔法構造が同時に且つ、瞬時に構築された。構築速度は体感的には1秒も無い。


「んじゃ、いくぞ?………スタンガンド」


はっきりと言葉を宣言する事で、最後の魔法構造が構築され、そして、完成した複合魔法の魔法弾がレイカ目掛けて──というか、明らかに銃弾のような素早い速度で射出され、レイカの右腕に当たった。直後、レイカは一度ビクッとした。少しだけ心配になった私はベットの毛布を取り、レイカに話しかけてみる。


「レイカ、大丈夫か?」


「ん、んんんんん!んんんんんんん!」


「………もしかして喋れない?」


「んん!んん!」


これは予想外だ。いやまぁ、確かに全身の動きを一時的に、生命に危険が無いように止める魔法にしたのは私だよ?けどさ、まさか舌まで痺れるとは思わなんだ。


「んん!んあ!あ、あんんお母さん!これめっちゃビリビリするけど痛く無いよ!電気マッサージの少し強い版みたいな感じ!」


あ、喋れるようになったな。なんか面白いや。でも、喋れるだけで全く動けてないみたいだ。


「なるほど、電気マッサージか………電気マッサージってあれだよね?整形外科でやった事あるやつ?」


「そうそれ。身体の感覚はあるんだけど、こう、上手く動かなくて。でも痺れる感覚もあって、なんかこう、認識がバグるよ、これ。でも凄いよこの魔法。私、魔法耐性はドラゴンくらいあるのに、すんなりどころか余裕で貫通してきたもんこの魔法」


「なるほど………」


今なんか、魔法耐性がドラゴンくらいあるって聞こえてきたけど、ちょっと無視しようかな。今ここには私しか居ないし大丈夫っしょ。………というか、私の娘?の魔法耐性がドラゴン並ってマジ?なんだその超生物みたいなの。………まぁ、なんでもいいか。


「お母さんお母さん、弾丸はもう1種類あるんでしょ?そっちも私に使うの?」


「ん、んー………あー、カースガンドは別にやらなくていいかな。こっちは長期的に相手を苦しめるだけの魔法だから、流石にレイカには使いたくない」


「えー、私別に平気だよ?」


「平気だからOKとかじゃないよ?私をなんだと思ってるの?」


「私のお母さん!」


んー正解!………正解でいいのだろうか?まぁ、正解なのだろう、うん。私の娘って事で一応納得してるし。それに、レイカはそこはかとなく父性を刺激されるから、まぁ多分、私の娘なのだろう。だからレイカ、私の事はお母さんじゃなくてせめてお父さんって呼んで?


「まぁとにかく、カースガンドの方は試し撃ちはしないでおくよ。今度嫌な奴が店に来たらぶっ放すから」


何故かミナではなく私に対してセクハラしてくる間抜けな客とか、何故かミナではなく私に対してナンパしてくる馬鹿みたいな客とかの脳天にバーンって撃ち込んでやるんだ。だってああいうお客さんは迷惑だしウザいし邪魔だし。毎回毎回私が言葉で頑張って説得して帰ってもらってるけど、正直時間がかかり過ぎるから、今度来たら試し撃ちも兼ねて顔面にぶっ放す事にする。そも、セクハラもナンパも私の方に来る意味がわからない。ミナの方が美人で綺麗なのに、どうして私に対して無駄な事をするのだろうか?………考えても答えは出ないので、後回しでいいか。


「ね、ね、お母さん。今後も試し撃ちしたくなったら言ってね?私からは普通の人間種のデータは取れないけど、高い魔法耐性のデータなら取れるから。あ、でも殺さないでね?」


「やらねぇよ阿保か。やるとしても非殺傷に決まってるだろ」


どうして殺す必要性があるのだ。全く、私の娘?は極端なんだから。私の記憶がある?癖に、私とは全く違う思考をしておってからに。いいぞもっとやれ。私と同じ記憶を持っているのに他人なんて最高じゃん。別視点から私の意見を聞けるの控えめに言って最高でしょ。


「はーい。でも、試し撃ちは本当にしていいからね?」


「ういうい。本当にしたくなったらお願いするよ」


まぁ、わざわざレイカに頼むかどうかは知らないが。

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