私の娘か………うん、かなり意味がわかんないかな


次の日、私は自室で目が覚めた。新しく取り付けた遮音用の魔法道具のおかげか、昨日よりとても静かだ。なんでも、今回取り付けた魔法道具は、壁や床、天井の隅々までも、受けた衝撃や音を90%以上吸収する物だったらしく、今までドタドタと聞こえてきた上の階の人の足音が聞こえなくなったのだ。実に嬉しい事である。また、部屋の外の煩い声もかなりシャットアウトされるらしく、実に快適と言わざるを得ない。静かな部屋、素晴らしい。


そんな、新しい部屋の状況を感じながら、私は少しばかりの眠気の残っている目を擦り、少し体を横にしようとして──


「………ん?」


──昨日は無かった違和感に気が付いた。


「誰………?」


人がいる。少なくとも人肌で、人型の何かがいる。しかも、私よりも体躯の小さい何かが、私のベットの中に潜んでいる。が、寝起き同然の私の頭は全く回っておらず、正直何をどうすればいいのかわからない。人型で私より小さい事から、どっかの子供だろうかと思っているのだが、この予想は合っているだろうか………うわー、毛布捲るの怖いんだが………どうしよう………


「………捲るか………」


捲らないのは捲らないでちょっと怖いしな………まぁ、まだ何か危害を加えられたわけじゃ無いと思うし………そう思いたいし、多分安全………?なのだろう。思い切って捲ってしまえー!


「………んー………」


──そこに居たのは、子供だった。漆黒に染まる長い髪を波のようにベットに流しており、実にすやすやと眠っているようだ。………なんで、私のベットの中に居るのかは知らないし、わからないが………


「ん、ぅ………すぅ………」


………うーん、この子、私のベッドの中で熟睡してるな………何処の子だろう………宿に泊まってるお客さんの子供だろうか?部屋を間違えてしまったとか………?………いやでも、私寝る時は鍵かけるんだけどな………かけ忘れたか?


「すぅ………すぅ………」


うーん、本当に熟睡してるな、この子………まぁ、起きるまで無視でいいかな。私はそこまで眠くないけど、ベッドの上でゆったりでもしていよう。ゴロゴロするのだ。









………ちなみに、私のとった行動は、世間一般では現実逃避とも言う。









「ん………んゆぅ………んぁっ………?」


「あ、起きた?」


私がベッドの上でゴロゴロだらだらしていると、黒髪の子供は目が覚めたらしく、子供らしい欠伸をして、そして、目を擦っているようだ。更には、寝起きで頭が回っていないのだろう。私の事を見て、まだまだ眠そうなとろんとした目を向けているのに、何か言う訳でも、何か動く訳でもないらしい。凄い眠そうだ。


「んぅ………お母さん………?」


「うーん、私に娘はいないかなぁ」


なんかよくわからないが、私の事をお母さんと勘違いしているようだ。どっかが似てたりするのだろうか?髪色とか?この街じゃ黒髪って少し珍しいしね。居るには居るけど、って感じだし。


「ふわぁー………んー………!」


欠伸をしながらも、その子供は名一杯の伸びをして、どうにかして眠気を吹き飛ばそうとする。そして今の伸びで気が付いたが、この子服着てねぇ。いや、下着姿の私が言える事じゃねぇんだけど。でも、服を着てないおかげ?せい?で、この子が女の子、つまり幼女である事がわかったので、あんまり気にしないでおこう。別にリアル幼女に興奮する変態でもないしな私。二次元幼女ならまだ興奮できるけど。


「ん………お母さん………お腹すいた………」


「私はお母さんじゃないよー?」


「………?私のお母さんでしょ………?」


………はい?私が?何?お母さん?この幼女が………寝ぼけてるって………………訳でも無さそう………?


「?」


「?」


いや、お互いに首を傾げ合っても解決しないんだよ私。とりあえず、今、私はこの幼女に聞くことがあるだろうが。


「………えっと………私は、貴女のお母さんなの?」


「?そうでしょ?お母さんは、私のお母さんだもの。間違えないわ、私。馬鹿じゃないもの」


「あっそっかぁ………」


ますます訳がわからない。違うという反応が欲しかったのに、何故か肯定されたんだが………?え、待って待って。何?この世界って何?もしかして………子供は自然発生でもするのか?………いや、な訳あるかよ。それなら否が応でも今日まで過ごしてきてわかる筈だ。街中とかでポンポン自然発生を目撃してる筈だ。少なくとも、お客さんの話に下ネタがある以上、性行為によって子供は生まれてくる筈だ。


なんだよ自然発生する子供って………どんなファンタジー世界だよ………いや、魔法がある時点でファンタジーだけど………そんな特殊な世界なのか?この世界って………えぇ………?訳わかんないんだが………?


「………とりあえず、服着ようか。ちょっと待っててね」


「えー?お母さんだって裸だよ?」


「下着着てるからセーフ。しかも今から着るから………お腹すいたんでしょ?食べに行くには着なきゃダメなんだ………怒られるから」


「えー、しょうがないなー。お母さん着せてー」


「はいはい」


よくわかんないけどこの子は私の娘らしいので、私もそれ相応の対応をするとしよう。多分なんとかなるやろ(適当)。


「まぁワンピースでいいか。着せやすいし」


「えー?私そっちの服がいいなぁ」


「制服?それは大きいから着れないって。ワンピースならスカート丈を留めるだけでなんとかなるし。はいばんざーい」


「ばんざーい」


「おー、ぶかぶか。ちょーっと待ってね?今簡易的に留めちゃうから………」


私は幼女に私の持っていた楽に着れる服装ナンバーワンのいつも寝起きに着ている純白ワンピースを着せて、ぶかぶかなスカート部分の丈は一箇所にまとめて大きめのクリップで留めておく。肩の辺りはどうにもならないので、とりあえずはこれでいいだろう。その作業が終わったら、今度は私がいつもの制服を適当に着ておく。ワンピースは幼女が着ているので、私は二番目に楽な服装のこっちだ。


「お母さんがその服着るの?ずるーい」


「んな事言われても、この服オーダーメイドで私の身体に合わせて作ってるんだよ?私の技術じゃぶかぶか過ぎて服合わせらんねぇって。それなら、そっちのワンピースの方が万人が着れるだろうし………って思って、そっちを選んだんだけど。駄目だった?」


「ううん、これでもいいよ、私。このワンピース、お母さんの匂いがして、ちょっと落ち着くから」


「そう?ならよかった」


私の匂いで落ち着かれてもな………これってどう反応すればいいんだろうか。まぁ、褒められたようなモノだろうし、素直に嬉しがってればいいかな?


「とりあえず、もうちょっとゴロゴロしてから降りるとしようか。時間的に朝食はまだ出来てないから」


「はーい」


まぁ、色々と言いたい事はあるけど………考えるの面倒くさいし、適当でいっか………深く考えても何かわかる訳でも無いし?










時間は流れ、朝食の時間。階下からミナに呼ばれた私は、幼女──レイカを連れて、階下にまでやってきていた。


なんでもこの幼女、名前が無かったらしく、私がゴロゴロしている最中に名前を付けてやったのだ。私の娘、という事らしいので、私は『松浦麗華』と命名した。特別深い意味は無い。精々、麗しい華の如く咲き誇れとか、そういう、安直な名前しか思い付かなかったのだ。仕方ないだろう。まぁ、当の本人であるレイカは嬉しそうにしているので、別にいいのだろう。


「おはよう、アオ………イ?」


「おう、おはよう」


「おはようございます!」


私は椅子を他の場所からもう一脚持ってきて、そこにレイカを座らせようとするが、椅子が低いらしく、机まで顔が届いていないようだ。レイカが少し不満げな顔で私の方を見てくるが、私には椅子の高さの調整は出来ないので、文句を言うなら椅子に言っておくれ。


「むー、足りない」


「んー、私の膝の上にでも座る?」


「いいの?ありがとね、お母さん!」


「まぁ膝に乗せるだけだし………」


そう言われた私は、移動させた椅子を元の位置にまで戻してから、レイカを自分の膝の上に座らせる。それならギリギリ足りるらしく、対面のミナには、レイカの可愛らしい頭がちょこんと出てきている構図が見えるだろう。ちなみに、レイカは8歳とかそこら辺くらいの大きさだったりする。割とちんまりだ。


「おー、今日もクロワッサンだ」


「私も食べる!………届かないや」


「あぁ、はいはい。どーぞどーぞ」


「あっ、ありがとね、お母さん!」


「どーいたしましてー」


ふむ、やはりこのクロワッサンは最高だな。毎朝ではないが、割と高頻度で食べてる気がするけど飽きが来ない。うめっうめっ。というかレイカのテンション高いなぁ。朝食だからかな………


「………いや、あのね、アオイ。私、すこーしだけ、貴女に聞きたい事があるのだけど………いいかしら?」


なんて、毎朝恒例のネタを頭の中でやっていると、若干混乱しているミナが話しかけてきた。


「?何?」


「その子は?」


「ん?レイカ。私の娘らしい」


「レイカです!お母さんの娘です!」


「………あぁもう………訳わかんない………!」


大丈夫だミナ、私も割と同じ気持ちだから。でも、訳がわからないから何だってんだよ。世界はわからない事だらけなんだぜ?思考放棄して身を任せてればなんとかなるってもんよ。


「説明。説明よこしなさい」


「えー?寝て起きたらレイカが自然発生してた?」


「もっと訳わかんない!」


「へー、私って自然発生したんだー」


「訳わかんない!!」


私も訳わかんない。けど適応してるんだよね、私。思考放棄最高!思考放棄万歳!


「ねっ、お母さん。私、朝ご飯を食べ終わったら、図書館って所に行ってみたいんだけど………いい?」


「私と一緒に行くならいいよ。私も図書館は行きたいから」


コルトさんの寝顔見たいからなぁ。後、ついでに借りてた本ぜーんぶ読み終わったから、返却して新しいの借りたいってのもあるけど。………本来、図書館に行く目的って逆である筈だよな………まぁ、いいか。些細な事だ。


「んくっ、ごちそうさま!」


「おー、同タイミング。ごちそうさま。んじゃ、午前はちょいと忙しいってか外は眩しいから行きたくないので、午後に行こうか。それに、午後の方がゆったりできるからな」


「はーい。それまで私は何してればいい?」


「んー、一緒に遊ぶ?」


「遊ぶ!行こ!何して遊ぶ?!」


「へいへい。なるべく運動じゃないのがいいかな………」


体力がありえんくらい無くてな、私………ちょっと走るだけでふくらはぎが筋肉痛になるんだよね………ちょっと脆弱過ぎるけど、まぁ仕方ない。











時間は経って、現在は夕方。つい先程までレイカと一緒に図書館でゆったりまったり本を選んだり読んだりしていたのだが、いつの間にか夜営業20分前だったのだ。コルトさんの寝顔が可愛いのがいけないよね、可愛いのが。ついついレイカと一緒にコルトさんに見惚れちまったんだよな………


今日は確か、お姉ちゃんとミゼルとリリーさん、ついでにコルトさんの4人が、お店まで一緒に来てくれると言っていたような日だった筈なので、私は"友人達"と話せる事へのワクワク半分、レイカの事は確実に言われるだろうなという緊張と心配半分である。


「楽しみー!お母さんのお友達!すっごく楽しみー!」


「そうか………まぁいいか」


レイカは私の友人である4人に会いたくて、さっきからずっとうずうずしている。まぁ、親の友人というのが気になる気持ちも少しくらいならわかるので、特に何か言ったりはしない。今日の朝から思っているが、私がレイカの親である証拠は何処にもないのだ。そんな私が過剰に干渉するのはどうかと思うし、例え本当に自分の子供であっても、過剰に何かを言っては駄目だろう。いや、しつけとかそういうのには必要なのだろうが、レイカは生まれたて?の筈なのに、色々と知っている。多分、私の知識でも参照したのではなかろうか?時々ゲームとかアニメのネタを振っても反応が返ってくるので、恐らくは、という憶測になるのだが。


まぁ、私の知識を参照したからなんだ、と言ってしまえばそれまでだ。アニメとゲームの知識しか無いぞ、私の頭の中。いや、授業は知識欲を満たすのに最適だからちゃんと聞いてたし、勉強も平均より少し上くらいなら余裕でできるんだけど、あんまり日常で使わないしなぁ。正直、地学とか物理とか生物とか化学とかの知識を使うことは、この世界じゃ複合魔法とかを作る時以外に殆どないだろうし、数学も何か特別な事をしないのなら、四則演算さえ出来れば何とかなるだろう。社会と国語の知識は生きていくのにある程度は必要になるが、私の知っている社会と国語の知識は前の世界の知識なので大半が使い物になっていない。故に、今の私が勉強している知識は国語、つまりは文字や文章などを読み取る国語的な知識と、社会、つまりは歴史や文化などの社会的な知識だったりする。


体育とかは別に知識は無くとも出来るだろう。単純に言えば、体を動かせばいいだけだ。私には体力と筋力がなくとも、基本的に何でも出来る非常に便利な運動神経があるので、体育で困った事はあまり無い。体力と筋力が無いなら技術と作戦でどうにかするだけだしな。情報は機械が無いのでパソコンとかを扱う知識は使えないが、情報の取捨選択とか、情報の集め方などの知識はどんどん使えるだろう。むしろ、パソコンやインターネットなどが無い分、情報を選び、考えることは必要な技術だろう。


家庭科や保険はこの世界でも使える知識だろう。食事、洗濯、清掃などの家事類や、性行為、妊娠、性別関連など、どれもこれもこの世界であっても使える知識群だ。生きてゆくのに必要な知識と言ってもいい。現代的な知識であっても魔法で再現するか、何か応用して使えば十分対応できるような、本当に人間が生きてゆく上での基礎的な知識が多いのだ。他には比較的娯楽のような知識、音楽や美術は、この世界なら前の世界よりも使う事になるだろう。なんせ、ゲームなんて便利なモノは何処にも無いのだ。遊びに音楽や美術は普通にありだろう。もっと言えば簡単な図工でもいい。何かを形作る遊び、という事なら、かなり楽しいからな。


さて、ここまで色々と考えていたが、正直レイカが私の知識を参照したのかどうかはよくわからないので、全て私の妄想という可能性は割とある。どうでもいいが。


「お、来た」


「え!何処何処?!」


「ほれ、あそこの4人。ちっこい人と、おっきい人と、そこはかとなく怪しい人と、眠そうな人。コルトさんはさっき見たからわかるだろうけど、あの4人が私の………友人?というか、知り合いだ」


厳密に言うなら、ミゼルは茶飲み友達、リリーさんは尊敬できる人、コルトさんは可愛い人、お姉ちゃんはお姉ちゃんだ。………お姉ちゃんだけなんかジャンルが違うな………


「やぁ、今日も来たよ?」


「アオイちゃん、こんばんわぁ」


「アオイちゃんおっひさー」


「うーん………寝かせて………後2日………2日だけ寝かせて………」


おぉ、全員同時に来たのか。


「初めまして!お母さんの娘のレイカです!よろしくお願いします!」


「「「………?」」」


「ぐー………ぐー………」


4人全員が席に着くと、レイカは直ぐに4人に挨拶した。が、コルトさんを除く3人は完全に首を傾げており、かなり呆けている。思考停止しているのだろうか。多分どっちかと言うと寝てるんだろうけども。まぁいい。


「それで、ご注文は何に致します?」


「………いや、待ってくれないかい?注文の前に聞きたい事があるのだけど?」


「娘ぇ?!どういうことなのぉ?!」


「うえぇ?!アオイちゃん一体誰との子供を?!お姉ちゃんを差し置いて!!」


「ぐー………ぐー………」


うーん、声が大きい。3人が大声で色々と言ったせいで、他のお客さん達に凄く見られてるよ?凄いよ?やばいよ?めっちゃ視線が集中してるよ?私はどう反応すればいいの?みんなの発言がやばいんだってば。


とりあえず、私は私の事をお母さんと呼ぶレイカが、おそらくは私の娘という事、朝起きてベットの毛布を捲ったらそこに居た事、今日は朝から一緒に遊んだり図書館に行ったりした事など、とにかく情報になりそうな事を適当に話してみた。そしたら、3人だけでなく、先程の3人の大声で引き寄せられてきた他のお客さん達もある程度納得したらしく、自分達の座っていた席にまで戻っているようだった。よかった。………なんでみんな納得してるんだろう。私も未だによくわかってないのに………


「なるほどねぇ………不思議な事もあるものだなぁ、としか言いようがないよ」


「うぅん、私もそんな現象聞いたことないわねぇん………ある日突然、子供ができるだなんてぇ………」


「なーんだ、びっくりしたぁ。お姉ちゃんより先に子供を作ったのかと思っちゃった。よかったよかった」


お姉ちゃん?別に良くはないのだが?私としてはどうしてレイカが生まれたのか聞きたいのだが?本人はなんとなーく知っているみたいだけど、情報がそこまで明確じゃないからなぁ。レイカが意図的にぼかして話してるっていうか、偶然にも無意識に喋ってて言っちゃう、みたいな感じなんだよな。


「レイカちゃんも、アオイちゃんと同じくらい可愛いわねぇ」


「えへへー、ありがとうございます!リリーさん!」


「あぁもうっ!可愛いわぁん!!」


「うにゅー!」


リリーさんに抱きしめられて変な声を上げるレイカを視界の端に入れつつ、私は今日も今日とて愛らしく可愛いコルトさんの頭を撫でる。えへへーかわいいー。


「かわいいなぁー」


「んぅ………すぅ………」


コルトさんは毎日飽きるほど寝てて疲れないのだろうか?少なくとも私なら飽きそうなものだが。なんせ、人間というものは同じ事をし続ける事に向いてないからな。慣れれば飽きるのが常だ。しかも、人間というものは、ストレスという名の一種の刺激が無い生活をしていても壊れるし、刺激であるストレスが過剰でも壊れるのだ。面倒な生物である。いやまぁ、過去を想い、現在に飽き、未来をより良くしようというのは、人間という種の進歩や発展に必要なモノだから、別に悪い事では無いのだが。


というか、コルトさんのスキルには寝れば寝るほど回復する効果があるじゃん。完全に忘れてたわ。だから寝ても疲れないのかな………それなら納得だな!(思考停止)


「んー、アオイはレイカの出生?の秘密は知りたいの?暇な時にでも僕が調べといてあげるけど」


「んー?まぁ、一応よろしく」


ミゼルにレイカの事を調べて貰う事を約束し、その日のレイカのお披露目?は、レイカの唐突な睡魔の限界によって終わりを告げたのだった。めちゃめちゃおねむだったらしい。










次の日、レイカと共に起きて朝食を終えた少し後、レイカと共にベッドの上でごろごろしていると、ミナに連れられてマリンちゃんがやってきたらしく、ミナの私を呼ぶ声と共に、とてとてと実に可愛らしい足音を立てて動く、まるで小動物のようなのが私達の部屋までやって来ているのが聞こえて来た。そのおかげで、レイカも私の部屋までやって来たお客さんがいるのがわかったのか、立ち上がって服の裾やちょっとしたゴミなどを払い、準備万端になっていた。私?私はベットに寝転がってスライムみたいにぐでーっと溶けてるよ。


「お、おはよう、ございま──」


「おはようございます!」


「うひゃあっ!!??」


マリンちゃんが扉を開けた瞬間にレイカが勢いよく挨拶した事により、マリンちゃんはおそらくだが、知らない人の声に動揺し、更には純粋にレイカの驚いたのだろう。尻餅をつく程にビックリしたみたいだ。


「あっ!ごめんなさい!」


「あ………え………と………だ………だい………大丈夫………で………す………」


うーん、人見知りが激しくてレイカの顔すら見えてないな。言葉も途切れ途切れだし………まぁ、慣れてもらうしかないか。というか、前よりも人見知りが加速してないか?この前は、初対面だった私相手でももう少し喋れた筈なのに。何か緊張でもしてるんだろうか?


「私の名前はレイカ!お母さんの娘です!」


「むす、め………?」


マリンちゃん、なんでこっちを見るんだい?何?私今説明求められてる?いいだろういいだろう。説明くらいしてやるとも。


「そう、娘。昨日の朝、ベットの中に何故か潜んでた娘」


「潜んでたんじゃないよ!発生したの!」


「らしい。私もよくわかってないけどなぁ」


「私もよくわかんない!」


私とレイカがそう言うと、マリンちゃんは頭上に見事なハテナマークを浮かべ、その可愛らしい首をちょこんと傾げた。あまりにも私とレイカの言っている事が訳が分からなくて、人見知りも今だけは顔を出してないみたいだ。というか、レイカは今日も今日とてテンション高いね。最初の布団の中とは大きく変わってるし。元々こういう子なのだろうか?


「そうだ!ね、ね!マリンちゃん、私と一緒に遊びましょ?」


「うひゅいっ………?!………え、あ………は、はい………!!」


「ええ、遊びましょ!ねぇ?マリンちゃん、何して遊ぶ?あ、ねぇお母さん、お部屋使っていい?」


「ご自由にどうぞ。私はここでぐーたらしてるから」


「はーい。マリンちゃんマリンちゃん、何して遊びましょう?」


「え………っと………そ、の………………わ、私………は………アオイ、お姉ちゃんの………お勉強が………し、したい………です………!」


「お母さんのお勉強!良いわね!一緒にやりましょう!お母さんお母さん、ちゃんと教えてね?」


「はいはい。ちょっと道具を準備するから待っててなー」








その日、マリンちゃんはレイカと普通に話せるまで、2人で元気いっぱいに遊んだそうだった。

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