世界には自分と似てる人が三人もいるってマ?


私がギルドマスターのミゼルと茶飲み友達になってから、既に2週間が経過した、ある日。既に4回目の訪問に、私もミゼルも、ついでに言えば冒険者ギルドの職員達も、今のこの状況に慣れ始めたようだ。なんだかんだ通ってしまうくらいには楽しいし。私は基本的にインドア派で引きこもりがちな人種だが、誰かと話すのは別に嫌いな訳じゃないし、コミュ障でも無いんだ。ただ、素で話せない相手だとコミュニケーションが取りにくいだけで。


「おぉ、これ美味しいなぁ。さっすが高級菓子。取り寄せた甲斐があったよ」


そんな私の目の前には、どう見てもカステラにしか見えない一つ金貨一枚くらいする高級菓子と、そこはかとなく高級品っぽくて美味しそうな紅茶が、同じ机の上に並べて置かれてある。対面にはミゼルがソファに崩れるように座っており、完全にぐでーっとしている。目の下に隈がある事から、まぁ徹夜でもしたんだろう。多分あの隈の濃さ的に二徹くらいしてると思う。ミゼルが過労で死なないか心配になってくるよ私。


「ミゼルは紅茶入れるの上手いなぁ。美味しいや」


「お、そうかい?貴族がギルドに来る時とか、貴族相手に紅茶を出す時があってね。ギルド職員にそんな実に馬鹿らしい事させるのもどうかと思って、自分で覚えることにしたんだよ。美味しかったならなによりだ。なんせ、貴族の奴らは不味いとかしか言わないんだよね。そりゃあベテランのメイドとか執事には勝てないさ。無理難題ってやつでしょ」


「うーん、ミゼルの話を聞いてると貴族に妙な偏見を持ちそうだ………」


「あながち間違っちゃいないよ?そりゃ、本物の貴族らしいのだっているさ。貴族の気品に溢れ、自らの武勇や頭脳を活用し、自らの領地を円満に経営している、本物の貴族様ってやつがね。例えばこの街の領主とかはそういう人だよ。けどね、大抵の貴族は自分が何をしても絶対に権力を失うなんて欠片も思ってないし、貴族なら平民に何してもいいって奴が大半だ。少なくとも、うちの国の貴族は大抵そんなもんだよ。まぁ、安全な金が大量に手に入るから、領地経営だけはなんとか誠実にしているらしいけどね。でも、私服を肥やして使うのは領地の為ではなく、自分の見栄の為………はぁ、言っててこっちが悲しくなってくるよ」


「うわぁ、あんまり聞きたくなかった………」


「けど、そういう部分に目を瞑れば大抵は国に貢献してる奴らなんだよね。だから、僕が無意味に貴族に攻撃する訳にもいかないんだ。だって後処理が面倒なんだもの」


今もしかして、後処理が面倒なだけで出来なくはないっておっしゃりましたか?確か貴方は聞くところによると冒険者ギルドのランクで一番高いSランクじゃない?しかも大きな鎖鎌を使って敵を屠る姿から『死神』なんて異名持ちじゃん?そんな貴方がそういう事を言うと冗談に聞こえないからやめない?私はやめて欲しいかなぁ!?


「ははは、君なんにも言ってないのに百面相してるじゃん。いやー面白いねぇ」


「そう?ちょっと遊んでるだけなんだけど、そんなに面白い?」


「あぁ、うん。普段は何かの拍子が無いと大抵表情筋の動かない君が、そこまで自由自在に表情を変えるだけで割と面白いよ」


そこまで面白いのだろうか?私としては、私が意識してやった百面相はそこまで面白くないのだが。というか、私って普段そんなに表情筋動いてない?割と高確率で動いてたりしてない?私割と笑ったり泣いたりするよ?小説エモ過ぎて泣く事あるよ?漫画面白くて笑うよ?そりゃ他人の前で読んでないからわからないだろうけどさぁ。


「ほら、今もっ………くくっ、あは、あはははは!」


「そんなに笑う要素があるのか私の表情………」


今のうちから表情筋を鍛えたりした方がいいだろうか?


「あぁ、そうだ。この前、君の冒険者ランクをCにしただろう?君の悪魔を使えるようにする為に」


「ん?まぁそうだったね」


「いやー、薄々わかりきってた事なんだけど、やっぱり君に対しての反感がすこーしばかりあるんだ。冒険者が本業でもない人物を、ただ強いだけでCランクにするのかーってね。ま、Cより下のランクの奴らのやっかみだけど」


「まぁ、私が逆の立場だったら………いやどうでもいいな」


「あはは、やっぱり君はそう言うよね?文句のある奴らも、君みたいに気にしてくれなきゃ助かるんだけどなぁ。そも、君のランク昇格はある種特例のようなものだけど、別に君1人だけを贔屓している訳ではないのだけどなぁ。だって、数十年に一度くらいは似たような事例があるからね。特例と言っても全く無い訳じゃないんだよ。だからまぁ、ある程度の時間を置けば文句なんて出ないだろう。彼らだって、君をいちゃもんをつけるより、日々の稼ぎの方が重要なんだから」


「あぁ、私みたいな店の店員と違って、冒険者は日給だもんな。実に大変そうだ」


「そうそう。ま、それでもある程度は絡まれたりするから、自衛の手段くらい持っておくといいよ?なんなら僕の持ってる魔法道具でも貸そうか?」


「一応貰っておくよ。怖いし」


「了解、ちょっと待っててね?あ、お菓子は追加で食べてもいいけど、そこに置いてあるやつ以外食べないでよ?」


「大丈夫、私もそこまで食べたりしない」


ミゼルはそう言いながら、そのまま部屋を出て行った。私は1人残されたミゼルの仕事部屋の隅で、ずすいっと紅茶を啜りつつ、出された菓子をつつくのだった。









「おっと、今日は話し込んでしまった。もう君のお店の開店時間1時間前じゃないか?」


そう言われ、ミゼルの仕事部屋に取り付けられている時計を確認すると、ミゼルが言った通り、夜営業の開店時間1時間前だった。そろそろ店に帰って準備をしておかないと、後で私が大変になる。そろそろお暇しよう。


「あ、ほんとだ。そろそろ帰らんとミナにぐちぐち言われそう………」


「あはは、言われてそう」


「言われてそうか………」


「くはは、そうだね。あ、どうせなら途中まで送ってくよ。丁度君の店の前を通る道を使って面倒な届け物をしなきゃいけないんだ。元々は君に依頼として頼もうかと思ってたけど、ここまで話し込んでしまったからね。息抜きの為にも自分で行くよ」


「息抜きって………今さっきまで私と話してただろうに」


「まぁ、外の空気が吸いたいってのが一番かな?」


私もミゼルが店のまでついてきてくれるのは簡易的な護衛としてバッチリだと思ったので、断る理由も無いし、お言葉に甘えるとしよう。


「まぁ、店まで頼むよ。ほら、私バティンが居ないと雑魚だからさ」


「あはは、そうだけど、自分でそう言う人は始めてだよ。とりあえずここら辺片付けちゃうから、君も手伝っておくれよ」


「了解」


私とミゼルはテキパキと片付けをし始め、5分もかからずに元通り綺麗になっていた。そも、片付けると言っても菓子の乗っていたお皿や、紅茶を淹れる為のティーカップのそのセットくらいなものだ。たったこれだけを片付けるのに5分以上必要になったら15歳を越えている人間として駄目だろう。流石の私もそこまででは無い。


「とりあえず片付けは終わったし、このまま君の店まで行っちゃおうか。どうせならゆったりと行こう。君の店の店員さんに怒られたら僕のせいにするといい」


「わかった。堂々とミゼルの名前を出してやろう」


「普通の人なら少しくらい遠慮してくれるんだけどなぁ。まぁいいけど」


そんな事を言い合いつつ、私とミゼルはギルド職員専用の張り紙が貼られている扉を通り、そのままギルドを後にしようとしたのだが。


「あっ、荷物持ってくるの忘れてたや。アオイはここでちょっと待っててよ」


「えぇ………荷物忘れたのかよ。まぁいってらー」


ミゼルが届ける荷物を忘れてきたらしく、咄嗟に扉の先に戻って行ってしまった。流石に1時間もかかる訳がないので、気長に待つとしよう。できるだけ時間がかかってくれると帰ってからの準備をミナに押し付けられるので、なるべく時間をかけてくれると助かるのだが………まぁ、かかって精々5分くらいだろう。ミゼルは人間よりも小さい種族である小人族らしいので、パッと見で子供でも十分に大人らしい。だからきっと、荷物を取ってくるのにそこまでの時間はかからないだろうな。ふぅ、仕事をサボれる事はあまり期待しないで待っているとしよう。


私をそう考えて、冒険者ギルドの出入り口付近で壁に寄りかかっておく。愚直にその辺に立っているだけだと疲れるので、ちょっとでも休憩したいのだ。いやまぁ、こっちの世界に来てから毎日働いてるから、必要以上に外に出ていなかった前の世界より幾ばくかの体力は徐々についてきてるから、別にやってなくてもいいんだけどね。けれど、私としては殆どないような体力を無駄に消費はしたくない。ゲームで例えるなら、雑魚相手に魔法を使いたくなくて、ボスに対して魔法を使いたいから、少しでもMPを温存したい。そういう時に、純粋な魔法使いに素手で攻撃させるようなものだ。


だがしかし、この世界の魔法使いの人達なら多分ちょっとした近接戦闘くらいできるだろう。そうでないと本当に魔力を温存したい時に困るだろうし、この世界の戦いは別にターン制でもなんでもない。攻撃したもん勝ちだ。だから、後衛だとしても後ろから襲われる事だってあるだろうし、近接戦闘くらいはできるだろう。むしろ、できないと死ぬ事は明白だ。本当に最低限くらいだろうが、できるのとできないのとでは大違いなのだから。0と1は根本から違うと断言できるだろう。


ただ、こう考えると私も近接戦闘を少しでいいから覚える必要がありそうだ。剣を振るう事ができずとも、せめて、近接攻撃の手段が欲しい。なんせ、つい先日に新しい複合魔法である第二アップデートと第三アップデートは作成済みなので、防御面は魔力切れにならない限り大丈夫なのだ。敵の攻撃からの防御手段があるなら、残っているのは敵を殺すための攻撃手段。防御に魔力を回しているので、攻撃は技術で補いたいのだが………まぁ、別に私は普段から本格的に戦っている訳でも、戦う必要性もないし、この事は今度武器屋とかに寄った時に考えるとしよう。


武器を扱う、という事になったら、私はどんな武器を使うべきだろうか。うーん………何も考えずにぶん回して使えるのがいいな………そうなると、打撃武器?剣とか刃物がある系の武器は刃を立てなきゃいけないけど、打撃武器なら殴れば………あいや、駄目か。私の筋力じゃ打撃武器はあんまり使えないな。ああいう打撃系の武器に筋力値は必須だと、リアルでもゲームでも相場がきまっている。となると、槍?距離を取れるし、刺すだけなら剣で刃を立てるよりマシだとは思うが………うーん、なんかもう、ナイフとか短剣とかで良い気がしてきた………というかそうしようかな。携帯できる短剣かナイフなら、弱っちい私でも持っていられるし、小さいなら刃を立てる事はできそうだ。包丁使えてるしな。似たようなもん………ではないけど、重さ的にはあんなもんだろうし、あれくらいの重さなら刃を立てる事はできる筈だ。………うむ、うむ、そうしようそうしよう。残りのお金はまだまだ余ってるくらいにあるし、今のところお金を使う予定も無いしな。


「ごめんごめん、荷物は取ってきたよ。さ、行こうか」


なんて、私が思考の海で無駄に泳いでいると、ミゼルが荷物を持って帰ってきたようだった。多分荷物は収納ストレージに突っ込んでるんだろう。確か、ミゼルの適正属性の中には空間属性があった筈だ。というか、収納ストレージが使えるなら最初っから荷物を突っ込んどけばよかったのでは?と、若干ながら思うのだが、まぁそんなものは私が気にしても無駄だろう。まぁ、あるとするなら、多分容量が足りなかったとかそんなんだろう。私も収納ストレージの容量がかなり足りないからわざわざMICCミックを作ったんだし、ミゼルも収納ストレージの容量を空ける為に荷物は収納してなかったんだろうな。わかる。


「そういやさっき聞くの忘れたけど、荷物ってなんの荷物?」


「んーとね、かなり珍しい魔物の体内に生成される宝石だったかな?魔石とは全く違うらしくってね。その研究をしたくって持ってこいって言われちゃったのさ」


「なるほど?」


私にはよくわからない話だな?


「それでね、これは一応Sランクの依頼ではあるんだよ。その魔物を狩って来て、それを依頼主に届けるまでが依頼なんだ。期限は特に無かったから、君を送るついでとして持って行こうかなって思ったわけだよ」


「なるほど」


それは私でもわかる話だ。よかった。


「まぁ、実は今日、夜にでも君の働いてる店にその依頼のついでとして行くつもりだったから、まぁ好都合ではあるんだよね」


「え、ミゼル今日来るの?仕事とか平気?」


私とお茶飲みながら話してたから、仕事とか全然終わってない気がするんだけど。


「へーきへーき。流石の僕だって仕事はある程度終わらせてから来てるよ?残りは明日やるから大丈夫」


「なるほど?」


後回しってやつだな?私もよくやる。


「ちなみに聞くけど、君のお店のオススメって何かあるの?」


「んー、比較的安くて上手い酒?」


「んー、お酒かー。僕あんまりお酒得意じゃないんだよなー」


「それなら牛乳とか飲む?」


「あーうん、そうだね、僕は牛乳の方が好きかな。そっちでお願いするよ。ま、一杯くらいだったらお酒でもいいけどね」


ま、私の店にある牛乳は食材用と追加で私が飲む用しか無い。本来はミゼルに出せるような牛乳は無いから、特別に私の分の牛乳を分けてやろうじゃないか。光栄に思いながら私を崇め奉るといいぞ。別にしなくてもいいけど。


「お、もう着いたか。じゃ、ここまでだね。また後で来るとするよ。それじゃあね、アオイ」


「おう、また後でな」


私はそのミゼルの後ろ姿を見ながら、この後どうやってミナに言い訳しようか悩みつつ、店の中に入って行くのだった。








ミゼルとながーい時間、楽しくお話をした4日後、昼営業を終えた私が図書館にまで向かっていると、道の端に見知らぬ立て看板が置いてあった。その看板には『人生相談と占いやってます』と、わかりやすく簡易的に書かれており、その背後には机と椅子が対面に二脚のみの、屋台?っぽいのがあった。その屋台っぽいところには、黒いローブのフードで顔を隠している、恐らくローブの下に見える体格からして女性が、机に置いてある水晶を磨いているのが見えた。うむ、なんというか、ザ・占い師、みたいな人が占いの道具を磨いてる光景が見えるな?


そういや、前の世界でこういう野外占いとかした事もされた事も無いな。そもそも占いなんて曖昧なものを信じてなかったからやらなかったけど………ここは異世界且つファンタジーの溢れる世界だ。本物の占いかもしれないし、まぁ私から話しかけるのはかなりというか割とキツいけど、ここは私のなけなしのコミュニケーション能力を最大活用してでもやってみよう。というか、前まで無かった占い師さんが居るのに多少の興味が湧いたので、頑張って話しかけるとしよう。


「あの、すいません。今よろしいでしょうか………?」


「ええ、どうぞ。人生相談でも、占いでも、別に雑談でも、なんでもよいですよ?どうぞ、お座りくださいな」


私の問いを聞いたその占い師さんは、水晶を磨くのを中断して、私にそう答えてくれた。そして、その占い師さんに言われた通りに椅子に座り、その時初めて占い師さんの顔が見えた。黒髪に黒目の美人さんだ。ローブのフードを被らないで占いをしていれば、占い師さんが目当てで寄ってくる男性がいそうなくらいの美人さんだ。むしろなんでしてないんだろう。いい集客になるのに。まぁ言わないけど。


「それでは、人生相談と占い、どちらにしたしましょう。貴女は私のお店に初めて来てくれので、初回はサービスして無料ですよ?」


「無料………」


それでいいのだろうか。まぁいいならいいんだけどさ。


「はい、無料です。どちらになさいますか?」


「とりあえず、占いの方でお願いします」


「わかりました………ちなみに、何の占いがよろしいですか?恋愛?友情?人生?相性?」


あ、どうしよう。何も考えてなかった。まぁ、運勢とかそこら辺でいいかなぁ。


「あー………なんかこう、今日の運勢的な占いってできます?」


「わかりました、運勢ですね。少し手に触れてもよろしいですか?それと、私と目を合わせてくださいな」


「え、はい」


私が運勢占いを所望すると占い師さんがそう言うので、私はその通りに手を差し出して、占い師さんの目を見る。占い師さんは私の手に触れ、そして、目を正面から合わせてきた。そのまま占い師さんと目を合わせ続けて10秒くらいじーっと占い師さんの目を見ていると。


「………はい、ありがとうございます」


と言って、占い師さんは私の手を離し、目も離した。そして、その後に直ぐ水晶に触れて、何かを小さな声で呟いている。うーん、聞き取れないけどまぁいいか。別に気にならないし。


「………なるほど、わかりました。えーと、そうですね………お客さんは多分、明日のお昼頃に良いことがありますよ?」


占い師さんが水晶から手を離すと、唐突にそう言われた。


「良いこと?」


「はい、良いことです。具体的には、恐らくお客さんは、誰かに感謝されると思われます。しかも、その後に金銭を受け取ることになりますよ?」


「なるほど?」


なるほど?


「ですから、運勢で言うなら、明日は良い日になると思います。ただ、他に目に見えて分かるような不幸な事はありませんし、目に見えて分かるような幸運もありませんから、そこはご注意を」


「なるほど」


なるほど。


「そうですね、他には………えっと、明日は近くにフクロウを連れて、具体的には肩辺りに乗せて街中を歩いていると、目に見えて分からない不幸を遠ざけ、目に見えて分からない幸運を引き寄せると思われます」


「なるほど」


なるほど。つまり明日はお金が貰えて、更にはアクを肩に乗っけとけば幸運が訪れると?うーん、かなり良い日じゃね?


「とりあえず、こんなものでどうでしょうか。効果の程は翌日、お客さん自身が体感してくださいませ」


「なるほど………ありがとうございました」


なんか、かなり具体的だったな。流石はファンタジーの占い師だ。未来を見ているのかってレベルの助言をしてくれたぜ。


「いえ、私もちょっと楽しかったですし、このまま人生相談も無料で良いですが、やります?」


「じゃあ、やります」


なんて、そんな事を言ってくれたので、どうせならこのまま人生相談もやるとしよう。いやまぁ、特に相談する事も無いけど。


「と言っても、相談する事は特に無いので、雑談になりそうですが、いいんですか?」


「別に雑談でも構いませんよ。私もお客さんとお話ししたい事、ありますから」


私と話したい事があるの?初対面なのに?まぁいいけど。


「そうですね………これを初対面のお客さんに言うのはどうかと思いますけど………実は私、なんでもできるんです」


「?なんでもできる?」


「はい、なんでもできます」


なんでもできる、と言われてもなぁ。そうですかとしか言いようが無い。


「まぁ、なんでもできる、と言っても、ある程度の所までは努力せずにできるってレベルですけどね。素人よりマシ、レベルです」


あ、多分私と同じだ。それだけで確信しちゃった。


「多分、お客さんもそうですよね?」


「えぇ、まぁ、そうですね」


すげぇ、なんでわかったんだろう。占い師だからかな。


「ふふ、よかったです。今までこの話に同意してくれた人は1人もいませんでしたから。お客さんが始めてです」


「私も、始めてですね」


「うふふっ、やっぱり私の勘は間違ってなかったです。それじゃ、これも聞いてみましょう。………お客さんって、努力したことあります?」


「あー………無い、ですね………」


私は努力なんてした事がない。した事がないと言うより、努力した感覚が無い。なんというか、自分が成長した感覚が無い。努力しなくてもある程度の事がこなせる私は、努力をした事が無いのだ。だって、努力しなくても別に死ぬ訳じゃないし、する気が起きないのだから。既にある程度こなせるモノを努力しろと言われても、努力の仕方がわからないから、出来ない。普通の水準よりも常に高いから、それ以上に進む方法がわからない。


だから、ゲームなどでキャラクターが確実に成長しているのを見るのが好きなのだろう。自分とは違って、数値として明確に成長したのがわかるから。


「やっぱり!私と同じです!」


「!」


「私も努力したことないんですよ。しかも、やり方がわからないんです!お客さんはどうですか?!」


「!同じです!!」


………初めてだ。初めて、自分と同じ意見の人に出会った。私と同じで器用貧乏で、私と同じで努力を知らない、私と全く同じ人。私の家族でも、ミナでも、店長さんでも、フォージュさんでも、リリーさんでも、ミゼルでも、決して理解し合えないモノ。同志。そう呼ぶにふさわしい人だと、私はこの時、初めて心の奥から実感した。多分、心の友って言うのは、こういう人の事を言うのだろう。しかも、まるで歯車同士がガッチリと噛み合ったかのような変な感覚が、今の私の全身を走っている。心の底から嬉しくって、今にも叫んでしまいそうになる。


「ふぅ………一旦、落ち着きましょう。周りの迷惑になってしまいますから………」


「あぁ………そうですね。落ち着きましょう」


私と占い師さんはどちらも深呼吸をして、心の底から溢れてくる興奮を抑え込む。


「それでは、改めて………お客さん、お名前を教えてくださいませんか?あ、私の名前はアオナです」


「えっと、私はアオイ、です」


びっくりした。名前まで似ているとは。


「あら、名前が似てますね?」


「ええ、そうですね」


私と占い師さんはそう言い、そして、心の底から笑いあった。嬉しくて、楽しくて………今まで誰1人とも共感出来なかった人と出会って。私の全てを肯定されたような気がして、とても、とても嬉しくなった。多分、占い師さんも同じだろう。思わず、私は占い師さんの手を、占い師さんは私の手を握ってしまう程、私達は笑いあった。


「あはははっ………ふぅー………うふふ………笑い過ぎてお腹が痛いです………!」


「わ、私も………!」


笑って、笑って。当初の目的も忘れて、私は占い師さん──アオナさんと、その日の夜営業ギリギリまで、色々と話し合ったのだった。

ん。

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