幕間 sideミナ
──アオイ。
あの子は、つい2ヶ月前に、私とお父さんとで経営する宿屋『バードン』で働くことになった、うちの店の新しい看板娘だ。この辺りの地域では少し珍しい短い黒髪と、少し細くて若干目つきが悪い黒眼の女の子。それが、アオイだ。
多分、あの子は、お客さんからの人気が私よりもある。普通なら嫉妬とかするんだろうけど、私にはあの子が人気になる理由がわかっているので、嫉妬する気にもなれない。そんな、困った子。ええ、ほんとに。
………だってあの子、物凄く無防備なのよ?お客さん達から注がれる視線はかなり下心丸出しなものばかりの筈なのに、全く気がついていないどころか、そんなことわかっていないみたい。いくら私が言ったとしても、ぜんっぜんわかってないんだもの。鈍いと言うか、なんというか………まぁ、その辺りの無防備さが人気の理由の一つなんでしょうね。しかもその無防備さで男達にも普通に接するから………そりゃあ、どんな風に見ても気にするどころか仲良くしてくれる女の子なんて、人気出るわよねぇ………私には無理よ、無理。
………しかもあの子、この前、朝食を食べる為にフロアまで降りてきた時に、服を着るのが面倒だからって下着だけで降りてきたのよ?!しかも、寝る時は下着だけで寝てるし!ほんっともう、ほんっと無防備過ぎる!!なーにが『私は気にならない』よ!!私が気になるし、お客さんから驚愕されてるのがわかんないの?!確かにアオイの部屋、というか家の部屋は全て鍵をかけられるようにしてあるし、無理矢理壊さないと部屋の中には入れないでしょうけど!!それでも少しくらい気をつけなさいよ!!私だって気を使ってるってのに!!しかもあの子、私が下着で降りてくるなって言って渋々と着てきたワンピースも、サイズが少し小さいのか胸が圧迫されてて胸を強調してるみたいな服だったし………ほんと、ほんともう!警戒心も危機感も何もかも女の子に必要なものがなさ過ぎるのよー!!!!確かにワンピースは下着だけよりマシだけど!!マシだけど!!!!………もう、そんなワンピースを着るくらいなら制服を着てほしいわ………全く………
………けどまぁ、あの子、かなり器用なのよね。あれやこれをやってほしいって誰かに言われたときには、どんなことでもテキパキとやり始めるし。ただまぁ、本人の顔はあんまり乗り気じゃなさそうな、誰でもわかりそうな実に嫌そうな顔をしてくるけど。ま、それ以上にテキパキと仕事をしてくれるから、どれだけ嫌そうな顔をしていても幾らでも頼んじゃうのよねぇ。最終的にはどことなく楽しそうな顔をして戻ってくるし、案外心の中では乗り気なのかも………?
………いや、アオイに限ってそれはないか………あの子、かなり心情が表情に出やすいし。本気でわかってない時は本気でわかってなさそうだし、楽しそうな時は実に楽しそうな顔をするのは、まぁ、側から見てて、どことなくペットを見ている気分になるわね。犬………じゃないわ。猫よ、猫。あの自然に男を誘うような感じ、あれは猫よ。あの子、ほんと自然に男を誘うのよねぇ。仕草も所作もぜーんぶ。いえ、あれは………所作というか………動きがなんというか………あれはなんというか………そう、男性も女性も関係無く、ちょっとした友達みたいな距離感なのよね。それが誘ってるように見えるのかしら?
まぁ、アオイのおかげでお客さんが昔より増えたってのは事実だから、そこまで困ってないんだけれどねぇ。むしろありがたいわ。………けど──
「なぁミナ、やっぱり下着で降りてたら駄目?」
「駄目に決まってるでしょ!」
──アオイはもうちょっと羞恥心とか危機感を持ちなさい!!このドアホ!!!!
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