情報収集って面倒じゃね?やはりネットは偉大なんだよなぁ
私が
『んー、アクであっても情報を掴めないなんて………』
『すいません、主様………普段なら、高い建物の上とかにとまってるだけで色々な会話が聞こえてくるんですけど………多分、室内で話されてることだと思います」
『まぁ、そうなるよな。………にっしても、なんでまた勧誘ラッシュが来たんだろうな?欠片もわからないってのは………それだけ内密にやってるってことなのか?』
そうでなければ、人畜無害な悪魔フクロウであるアクが、そんな情報を集められない訳がない。しかも、アクは音属性の魔法すら活用し、周囲の音をかき集めて情報収集しているらしいのだ。なのに見つからないというのは、よっぽど隠し通したいことなのだろう。少なくとも、魔法すら使えない一般人達が原因じゃないだろう。アクは新人冒険者に簡単に殺されると言っても、その本質は歴とした悪魔。一般人に負けるわけがない。
そもそも、私のような一般人に関する情報なのに、欠片も原因が出てこないというのはおかしい。どう考えても私はどっかの国の重要人物でもなんでもないのに、わざわざ情報を隠す意味は欠片もない。そんなことをして、一体何処の誰が利点を得る?一体誰のメリットになる?………んー………わからない………
『恐らく、そうなんでしょうね。………すいません、主様。久しぶりの命令なのに、十全にこなせなくて………』
『いや、むしろ助かった』
『え?ど、どういうことですか?』
『いや、アクが見つけられないってことは、それだけでかなり絞り込める。対象がこの街の全ての人間から、ある程度まで』
そう、アクが魔法も使って街中を飛び回って見つけられないということは、原因の存在は室内で話しており、尚且つアクより魔法に長けている存在だ。そうなると、魔法を欠片も知らない一般人は原因から外れることになる。それだけで、かなり対象は絞れる。街の全てが探索対象だったのが、アクのおかげでかなり絞り込めた。後は、一個一個潰していくだけだ。
『なるほど………!主様は博識なのですね!』
『博識とはちょっと違うかな?』
どちらかというと策士とかかな?………いや、策士ではないか。私は面倒だからなるべく頭を使わないよう、虱潰しをする為の準備をしているだけだし。流石にありとあらゆる街中の人々を虱潰しするのは苦行過ぎるから、私もやりたいとは欠片も思わない。
『それで、私はこれから何をすればよいですか?』
『んー、そうだなぁ………とりあえず、そのまま外で情報収集を続けといて。何か変化があったらとにかく連絡してほしい。お願いできる?』
『わかりました主様!私頑張ります!』
『ん、頑張ってくれ』
私は
が、それまでだ。私の持っている戦力は、アクと私の2人だけ。虱潰しをする戦力がどう考えても足りない。そりゃ、フォージュさんとかに言えば手伝ってくれるかもしれないが、そもそも私がこうやって情報を集めているのは完全に独断だ。面倒な勧誘をやめてもらうように原因を突き止めようとして、私はここまで至ったのだ。
だが、未だ明確な証拠もないのにフォージュさんなどに手伝ってというのは、普通に考えて駄目だろう。私の情報が外で出回っていないなんて状況証拠は証拠としては弱い。もっとわかりやすい物的証拠がないと、証拠は証拠なり得ない。………と、少なくとも私は思っている。
「けど、私が動くのは面倒なんだよなぁ」
まぁ、私は面倒だから動きたくないので、戦力は実質アク1人だったりする。そもそも、私が動いても特に何も出来ないしな。むしろこんな状況で私が動いたら、標的?である私に何かしてくるともわからない。そもそも、どんな思惑で私に関する情報を隠しているのかもわかってない現状、私が警戒するのは当たり前だろう。いや、そもそも私は標的なのか?私みたいな一般人じゃなくて、私の知らない重要人物を狙う為の布石として私の情報を隠すなら………いや、それも意味わからないな。私の知り合いにそんな重要人物いたっけ?………んー………フォージュさんとかかな?
「あー………頭使うの面倒になってきたな………うし、図書館行くか」
こういう時に色々と考えても、結局は机上の空論と何も変わらない。頭の中で色々と考えるより、自分の足で確認した方が早いし楽だ。そんなあらゆる存在に対して警戒していても無駄に動けないだけだから、適度に動いた方が楽だろ。いやまぁ、こんなことをうだうだ言ってるのも、ただ単に私が図書館に行って続きの本を借りてきたいだけなんだけど。
けど、私は元々インドア派の引きこもり。こうやって理屈こねくりまわして理由付けでもしないと、自分から外に出たくないのだ。多分、前の世界の私ならインターネットで欲しいものを買うから、わざわざ外には出ていない。私は根っからの引きこもりで、言ってしまえばかなり怠惰な人間なのだ。というか、七つの大罪なんて誰だって持ってるだろう。私なら、やっぱり怠惰が一番強いんじゃないだろうか。
なんせ、私は私の行うあらゆる出来事を、まず面倒かそうでないか、という部分から判断し始める。そして、その大半が私にとって面倒と分類されてしまうものだ。これを怠惰を言わずに何というのだろうか………んー、ものぐさとか?うむ、ものぐさだな。私のは怠惰というよりものぐさの方が似合ってるわ。
「あー、ミナ、図書館に本借りに行くから」
「まぁ、いいけれど………パーティーの勧誘は大丈夫なの?」
階下まで降りてくると丁度ミナが居たので、私の出かける用件を伝えておく。何処に行くか誰かに言うのはちょっとした私の癖のようなものなので、あまり気にすることではない。
「まぁ、もう面倒になってきたから、いっそのこと堂々としてやろうかなって思って」
「まぁ………いいわ。図書館ね?夜営業までには帰ってきてよ?」
「はーい。行ってきまーす」
「はいはい、行ってらっしゃいな」
私はミナに見送られ、そのまま図書館に直行したのだった。
「コールトさーん、あっそびましょー」
「んゅぅ………コルトお姉さんはお眠だからまた今度ね………」
私は図書館まで来て早々、コルトさんにちょっとだけボケをかましてみた。そしたら、かなり私の求めていた返しをしてくれて、私はちょっと嬉しかった。流石は77歳、空気読む能力がそこらの奴とは段違いだぜ。無
「むぅ、連れないなぁコルトさん。はいこれ、今日持ってきた返却分です」
「………んんっ………ふわぁー………りょうかーい………」
コルトさんはとても眠そうにしながらも、しっかりと仕事をこなしてくれている。うむ、実に可愛らしい。正直、この世界で誰かと結婚するならコルトさんを選びたいくらいは可愛い。言動の全てが可愛いし、この人をいっぱい養ってあげたくなる。………はっ………もしかして………これが、母性本能………?私の場合は父性本能………?
「コルトさん、私、いつかコルトさんを養ってみせますね」
「んー………流石に歳下の子に、養ってもらうのは………ちょっとなぁ………まぁ………考えとくよ………」
やったぁ、今のうちにお金貯めとこう。いつかコルトさんを養う時を夢見て………!
………私、前々から思ってたけど、多分執事とか似合うよな………誰かに仕えるって普通に楽しそうだし………多分性に合ってると思うし………誰かのお世話をするの楽しそうだよね。いやまぁ、自分から進んで執事になる気は欠片も無いけどさ。………いや、今はなるとしたらメイドの方か………なんか複雑な気分だ………まぁ、自分からなる気は無いけど。
私はコルトさんから本を受け取ると、そのまま本棚の方に向かうのだった。
私はあの後、じっくり1時間ほどかけて本を選び、今はお店まで帰っている途中だ。最後の方の10分くらいはコルトさんとちょっとしたことを話したり、コルトさんの寝顔を見ていたりしていただけなんだけど。んー、私ってここまでコルトさんの事好きだったっけ?………あいや、これはどっちかっていうと、似たような性質の人がいてくれて楽しいんだな。恋愛感情というか、信頼できる親友的なやつかな………いや、普通にコルトさんの事好きなだけか。まぁ、コルトさんは可愛いし仕方ない仕方ない。
「んー………人が多すぎる………」
にしても、ここの市場、ほんといつでも人で溢れてるなぁ………こういう時、小説のチート主人公だったら、裏路地とかわざわざ危険地帯に行って、なんか訳の分からないやつに絡まれたりするんだろう。まぁ、私は一般人だからな。わざわざそんなことしないぜ!人混みであってもそのまま歩いていけるぞ!持ってる物は服以外に何もないから、スリにあっても大丈夫っしょ。こんな人の目がいっぱいな所で唐突に襲われる訳もないし、このまま人混みの中にいればむしろ安心だろう。ふはははは。
「………進めない………」
人混みの中というのは安心ではあるのだが、些か進みづらい。確かに進んで入るのだが、やはり、進みにくい。私は元々、身体をそこまで動かさないのであまり筋肉がなかった。前の世界でママさんにふくらはぎの筋肉を触られた時、まるで老人のような足だと言われてしまったくらい筋肉がなかったのだ。今ではある程度仕事をして歩いたりするから筋肉はある程度付いているのだが、それでも力は殆どない。
そも、私の体格は男の中でも割と小さめだ。そんな私が、市場にいる体格の大きなおばさん達に勝てるわけないだろう。吹き飛ばされて終わりだし、女の身体なら尚更筋肉がないので余計吹き飛ぶと思うだよね私。
「………あー………」
空を飛びたい。この人混みの上に行きたい。この世界は魔法がある世界だから空を飛ぶ魔法だってあるだろうが、多分風属性とかそこら辺の魔法だろう。だったら私適性ないじゃん。………雷属性とかで代用できたりしない?しないか。仮に雷属性で空を飛べるとしても、多分レールガンみたいに吹っ飛ぶだけだと思うし、それは確実に飛行とは言わないだろう。そういうのは単純に吹っ飛んでるだけだ。そんなモノで私の想像しているような飛行ができるなら、それは明らかにかなりの変態だろう。そんな変態機動、私にゃ一生できそうにも無い。そういうのはどう考えてもそういう才能とか、かなりの運動神経とか、身体を動かすようなセンスが必要ではなかろうか?
というか、仮に空を飛ぶ魔法があって、私が使えるとしても、空を飛ぶ魔法って無断で使っていいのだろうか。ほら、空飛ぶ魔物とかいる世界だから、無論空を飛ぶ方法くらいならあるだろう。よく見るファンタジー小説とかだと、ワイバーンとかドラゴンとかの空を飛ぶ魔物とかに乗ってる職業があったような気がする。そういう職業やそういう事ができるような場合、それぞれの街にも領空とかもあるのではないのだろうか?そうなると、勝手に空を飛ぶのって駄目だったりする可能性あるよね。私も今まで空を飛んでいる人とか見たことないし………多分、領空っぽいのくらいはあると思うんだよね。それか、単純に空を飛ぶような魔法がないとか。後は、空を飛ぶ魔法はあるけど、その魔法を使うのがめちゃくちゃに難しくて使う人がほぼいないとか?
「うーん………」
もしくは、空を飛ぶ魔法はあるし比較的簡単に使えるけど、そんなことをするより空を飛ぶ魔物とか動物に乗った方が使い勝手がいいとか?空を飛ぶ魔法なんて常に魔力を消費しそうだし、魔力の少ない人なら乗り物を使った方がよさそうだものね。それに、魔力の多い人でも空を飛ぶ魔力がどうしても勿体無いから、わざわざ身体一つで飛ぶ意味もない………とか?それならまぁ、納得はできるか………いやでも、空を飛べる乗り物ってのも問題なんだよな。例えば、空を飛べるような魔物が居たと仮定しよう。その魔物を捕まえてきて、人の言葉に従うように調教したとして………まぁ、時間はかかるだろう。けど、それ以上の利益だって生まれるから、そこは低予算でできる筈だ。
けどさ、空を飛べる魔物を捕まえられるってことは、それ即ち、空を飛ぶ魔物が存在しているってことに他ならないよね、それ。捕食者と被捕食者の関係からしても、その空を飛ぶ魔物を捕食する存在だっているだろうし………同じく空を飛べるとしても、陸から対空攻撃ができたとしても、やっぱり空を飛ぶのはどうしても危険だよね?そうなると、やっぱ空を飛ぶのは危険か。私程度が適当に思考だけで考察しただけで危険と出てくるのだから、実験や実行をして膨大なデータを貯めてきた人でも同じ結果くらいにはなるだろう。使う場所と飛行する距離を考えて使えば、空を飛ぶのはかなり良い手段になりそうだけども。
でもそうなると、あんまり長距離移動に空飛ぶ魔物は使えないよね。長く飛べば飛ぶほど、他の存在から見られやすくなるし、そうなると対空攻撃によって撃墜される可能性だって出てくるだろう。空飛ぶ魔物を乗り物として使う場合、非常に合理的に考えるなら、維持費と育成費を上回るような利益を出さないと、育てる意味は欠片も無いだろうし。そんな一切得にならないような事をするより、転移魔法でも使って移動した方が多分早い。あ、だから空を飛ぶ手段が取られにくいのかな?既知の場所から既知の場所への移動手段なら、多分転移が早いだろうし。既知の場所から未知の場所への移動手段としてなら、まぁ、乗り捨て覚悟で使うくらいなら使える………か?
こういうのって、実際の経験が無いとよくわからないよね。だからこそ、頭の中で完遂できるような思考実験じゃなくて、実際の設備を整えた実験をした方がいいんだろうけど。そもそもこれ、私が暇だったから適当にやってるだけだしね。
「お、抜けたか」
なんて、人生において一切の得にならなそうな無駄な思考をしていると、人混みを抜けたみたいだった。よかったよかった。これで後はお店まで戻るまでだむぐっ。
………むぐっ?
「………?………?!」
なんか、唐突に口を手で押さえられた。私がその事に対して完璧に思考停止し、ぼけーっと裏路地っぽいの奥地みたいな所まで連れて行かれると、その口を塞がれていた手が離れてくれた。
「………」
私は呆然としている。というか、かなり現実逃避している。目は正常に機能している筈なのに情報として蓄積されていないし、耳も正常に機能している筈なのに右から左へ言葉が抜けていく。どことなく、腕を触れられているのだけは認識できているみたいだ。が、今の私は、それだけしか認識できていない。ぼーっとしている。
「──おい、聞いてんのか?」
「はっ」
聞いてなかった。というか、ほんと出来事が唐突すぎて頭の処理が追いついてなかった。
「まぁいい、早くこいつの腕縛っとけ」
私がその言葉を聞いて自分の腕を見ると、私の身体の前で両手が縛られているみたいだ。うーむ、今これどういう状況だろう。もしかしなくても拉致だよね?これ。えー、どうしよこれ。………駄目だ。こんな事態一度も経験したことなさ過ぎて、私の頭のガバガバデータベースから一切なんの情報も解決法も出てこない。んー、やばいなー。
「リーチの兄貴の命令だからな。しくじったら俺らが殺されちまう」
リーチ?んー、どっかで聞いたことあるような名前だ………うむ、覚えてないな。私の場合、直ぐに思い出せないって事は8割くらいの確率で忘れてる証拠だから、まぁ多分思い出せないだろう。多分人の名前っぽいけど、人の名前が直ぐに出てこないなら、100%忘れてると思う。いやー、よく会う人で尚且つ毎回自己紹介してくれる人ならなんとかなるんだけどなぁ。
「そうだな………すまんな、嬢ちゃん。俺らも自分の命が惜しいんだ」
別にそれはいいよ?だって、誰だって自分の命はある程度大事だろうし。例え自分の命を誰かに捧げた、みたいな物凄い従者さんであっても、生きているから主人に仕えることができるのであって、命がないならそこで終わりだし。いや、この世界ってファンタジー世界だし、蘇生魔法みたいな物凄くどうでもいい魔法とか、死霊魔法みたいな死者を操る魔法くらいならありそうだよね。というか、死者の操作くらいなら契約属性ならできるんじゃね?ゾンビとかと契約してさ、こう………命令を聞いてくれるかどうかは知らないけどさ。
さて、にしても、私はどうしようかな。ここで無駄な足掻きをしたところで逃げられるわけもなく、むしろ逃げようとしたら痛めつけられるかもしれない。それは嫌だ。死ぬのはまぁ別にいいけど、ちょっとでも痛いのは嫌だ。けれど、このままこの人達にされるがままになったとして、私はどうなるのだろうか?奴隷落ち?確か、私の今住んでる街の国には奴隷制度はあった筈だけど、それって断罪の延長みたいなもので、こうやって拉致して奴隷落ちさせるのは禁止だったような………まぁ今それそこまで関係ないか。
んー、奴隷かー。………流石に性奴隷は嫌だなぁ。小説でよくある拷問されるみたいな奴隷も嫌だし、肉体労働系の奴隷も嫌………んー、人員の補填的な奴隷がいいなぁ。こう、頭使う系の奴隷がいい。いやまぁ、売られる側の私が選べるような事ではないんだけど………そもそも、そんな運ゲーするくらいなら、普通に逃げよう。そっちの方の運ゲーに賭けた方が多分成功しそうじゃない?
なんせ、この男達は、何故か私が魔法を使える事を知らないから、多分魔法使えばここから逃げ出すだけならいけそうなのよね。なんでそんな事わかるのかというと、私を縛っている縄が普通の縄だからだ。口も塞がれてないし、ただただ両腕を縛られて壁に寄り掛かっているだけ。私に当たらずに彼らを消し飛ばせる
んー、後は………
「とりあえず縛り終わったぞ。早く運んじまおう」
「おう」
ここにいるのは2人だけ。全力で使ったら魔力枯渇寸前のせいで身体が脱力してしまって逃げられないから、半分くらい使うイメージで………んー、やっぱ核融合炉じゃなくて火力発電くらいで、全力電撃!
「
「「あがっ?!?!」」
私が両腕からなんの指向性も無いただの全力放電をすると、彼らは突然身体に訪れた電撃に対応できなかったのか、抱えようとした私の事を落として、そのまま白目を剥いて倒れてしまった。ちくしょう、私の事落としやがって。私の事を運ぼうとするなら、例え気絶しても例え死んでも私の事を地面に落とすんじゃないよもう。落下距離は30cmも無いけど普通に痛いんやぞ。それと同時に、私の身体から魔力の抜けていく感覚がしてきた。が、感覚的にまだ魔力は半分くらい残っている気がするので、まだ動ける筈だ。早く逃げよう。ちなみにだが、私の腕を縛っていた縄は私の放った電撃によってボロボロになっていたので簡単に解けた。予定通りだぜ。
「!」
そのまま少しだけ力の入らない身体を動かして、路地裏の道がわからないので適当に人の多そうな方に移動しながら逃げていると、さっき気絶させた2人の大きな怒鳴り声が聞こえてきた。まだ10分も経過していない筈なのに、短時間で気絶から目覚めたのか。流石に私の位置はわかっていないらしく、声は遠くから聞こえてくる。少なくとも、角を曲がったらバッタリなんて事にはなりそうも無い。これなら
というか、まだ10分くらい走っただけなのだけれど、そろそろ体力が辛くなってきた。やっぱり体力が全く付いてないな。このままでは捕まるのも時間の問題になりそうだ。どうしよう。
「はっ、はあっ、はぁ、はっ、はっ………ふぅ………すぅ………はふぅ………」
とりあえず、一旦息を整えて、少し休もう。休むと言っても立ち止まらずに、ゆっくりとでもとにかく静かに歩いて、距離を稼ぎつつ休まないと………余計な思考を走ってる最中もずうっとしてるから、無駄に頭を回して酸素を無駄使いしてるんだろう。私はただのアホみたいだな?ほら、今もこうやって、無駄に思考を繰り返して、必要な呼吸量を増やすんだから。
『おい!まだ見つかんねぇのか!!早く見つけねぇと俺らが殺されるぞ!?』
『いいから探せ!!大通りに出られなきゃこっちのもんだ!!』
っ。やばい、さっきよりもかなり近づかれてる。身体能力に差ありすぎでしょ。隠れてやり過ごす?いや、駄目だ。多分見つかる。そもそも、隠れられる場所が無い。どうするどうする?何が私の最善?駄目だやばい。私、焦り始めてる。
「っ、はぁっ、ふぅ………!」
どうすればいい?何をしたら、どうしたら、いい?頭回んない。考えるの、できない。逃げる?隠れる?倒す?どうすれば、私は逃げられる?
「はっ、はひっ、ふっ、はぁ、はぁっ」
アク、アク。助けて、アク。アク、お願い、助けて。
『っ!なんだこのフクロウ!邪魔だ!!』
駄目。アクじゃダメ、違う。どうすれば、いい?
「はっ………はっ………」
駄目だ、疲れちゃった。………もう、一歩も動けそうに無い。………確か、使うの危険だとか言われてる魔法、私、
「
「円、一つ………」
円は、隷属の意味を持つ。陣の模様に円が二つ以上に増えれば、召喚した相手と対等な契約をできたり、術者側が召喚側に有利な契約をできたりする。
けれど、隷属の意味を持つ円一つだけだと、それは悪魔に術者側が身を捧げるという意味を持つ、らしい。それは、完全に召喚側に契約の決定権を委ねる事になるので、術者側が完全に不利になってしまう。………私の場合、何故か体質的に悪魔には沢山好かれてしまう。しかも、悪魔と交わることで悪魔の子供だって産める。………だから、想像したくはないが、私に悪魔の子供を産ませる事を対価にしてくる悪魔だって、いるかもしれない。………本当に、危険な事、なのだ。
「
──けど、私がその事を明確に理解したのは、その陣を使って、悪魔を召喚した後だった。
「………ほう?其方が、我の主か?」
私の作った召喚陣から、私の残りの魔力の大半を使って現れたのは、人型の悪魔。召喚陣から迸る烈火を巻き上げて、青ざめたウマに乗り、ヘビの尾を持つ屈強な男の姿の、いかにも悪魔らしい悪魔が、そこには居た。その姿を見て、私は、かなり呆然としてしまっていた。まさか、私が、マジで悪魔を呼び出せるなんて。後なんか、魔力がさっきまで枯渇寸前だったのに、今は前より多くの魔力で溢れる気がする。なんでだろう。
「ふむ………主よ。其方の名は、何と言う?」
「え、えっと………アオイ………松浦、葵………」
「そうか、アオイ、と言うのか………喜べ、主よ。今日から、主は我のモノだ」
「は?」
──だから、気の抜けている時に本音が漏れたのは、普通に許してほしい。
「おや………一目見ただけで我に惚れないとは、主は既に好きな奴でもいるのか?」
「え、いや、は?何?」
「ふむ。混乱しておるのか?まぁよい。後で聞こうではないか。まずは、我と主を狙う不躾な輩の──」
その、私が召喚した悪魔は、背後から投げられた投げナイフを弾き飛ばし、曲がり角の奥からやってきたさっきの2人に対して向き直った。
「──排除から、行うとしよう」
その悪魔の発言から数秒後、彼らは文字通りの灰になってしまったのだった。
「さて、改めて。我の名前はバティン。公爵級悪魔にして、ソロモン72柱の内の1柱である。また、我はルシファー様の側近でもある。其方が、我を召喚してくれたのだな?」
うぅん聞いたことある単語が出てきたぞぉー?
「えっと、まぁ、そうなるかな」
「主………アオイよ。其方は、我に惚れていたりしないか?」
「えっと、さっきから惚れてるって聞いてくるけど………なんでそんな事を聞いてくるの?」
そう、それ疑問だったんだよね。惚れてるって聞くのはさ、どう言う意図があって聞いてきてたんだろうって疑問に思うよね普通。そんなアホみたいなことを唐突に言われても困惑するだけだし………
「あぁ、その事か。何、我は主に一目惚れしてしまったのだ。主と子を成したいともな。大抵の女は我を一目見ただけで惚れよるのだが、主は違うようだ」
………………え、えぇ………………一目惚れか………………いやまぁ、他人からの好意は素直に嬉しいんだけどさ………………あのさ、流石に言葉が直球過ぎない?あと、悪魔の貴方が私と子供を作りたいとか言わないで。マジで今の私の身体だとほんと洒落にならないから。
「えーっと………とりあえず、契約、結ばない?」
「ふむ、そうだな。結んでおこう」
「えーっと、
私がその魔法を使うと、そのバティンと言う悪魔の手元と私の手元に契約書が、バティンと言う悪魔の手元には更に筆記具が出現した。つまりこの場合、バティンと言う悪魔が今回の契約の内容を決められる訳だ。ちなみに、この契約者は二枚が連動しているので、片方が書き込めばもう片方にも即座に反映される仕組みになっている。
「ふむ………そうだな。我は、対価だけを望むとしよう。いつでもどこでも、主が望む時に呼び出してくれて構わない」
「えぇ、それでいいのか。もっと欲張ってもいいと………ねぇ、対価の部分、意味わからないけど、何これ」
私がバティンと言う悪魔にそう言いつつ自分の契約書を読んでいると、対価の部分が私の想定していた文章とは違っていた。
『1時間の間、隷属印による悪魔から主人への命令の行使』
そう書かれていた。つまりは、私はバティンを召喚して何かしらやって貰った後、バティンの命令を1時間だけ、どんな命令であろうと遂行しなければならない訳だ。私が想定していた対価は魔力の半分とか、豪華な料理とか、そういうものを想定していたのだけれど………予想の斜め上どころか予想とは全く違いすぎる。
「書いてある通り、召喚する度、我の命令に1時間だけ従って貰おう。隷属印は既に双方の手の甲にあるからな。それの応用と流用だ」
「いや、それはわかってるんだけど………」
隷属印とは、正式な主従契約の証であり、術者側が召喚側に命令を下す為に必要な印だ。契約属性の魔法によって何かしらの存在を召喚し、そして契約を結ぶことで、術者側と召喚側の双方に同じ模様の隷属印が自動で書き込まれるのだ。この印は人によって刻まれる位置が違うそうだが、私の場合は右手の甲に刻まれている。この印は形状も人によって千差万別らしく、私の隷属印の形状は、悪魔の羽と、契約を意味する鎖で構成されたモノだ。勿論、私の契約しているアクにはその右羽に、今契約するバティンは人型なので私と同じように右手の甲に、その印が刻まれる。
隷属印は隠すモノでもないので普段の私は右手の甲を一切隠さずに普通にひけらかしているが、この印は人間の奴隷に対して使うようなモノでもあるらしく、地域によっては隷属印をひけらかしていると奴隷扱いされる事もあるらしい。まぁ、そう言った地域の人々や、隷属印があるから奴隷なんて阿呆な事を言っている人間は、私のような契約属性を扱う人達によって徹底的に批判され、人が寄り付かなくされるらしい。ちなみに聞いた話だが、世界には契約属性の魔法使い達が利用するコミュニティもあるらしい。いつか私も使ってみたいぜ。
「それでは、この契約でよいな?」
「………まぁ、問題ないよ」
まぁ別に、バティンを呼び出す度に直接私の寿命が減るだとか、そういう訳ではなさそうなので、別にいい。や、時間を対価って点ではそこまで変わらないんだけど。そもそも、この契約の決定権は私ではなく、バティンにあるのだ。わざわざ私にそんな事を聞かずとも、パッと決めてしまえばそこで終わりだろう。
「さて、それでは。1回目の対価を貰うとしよう」
実は隷属印とは、一方的に相手を隷属させるような印ではなく、相互に相手を縛り付ける印の事だったりするのだ。言ってしまえば、互いに相手の首に首輪をつけて散歩するような感じで、同じ隷属印のある相手との魔法的なパスが繋がるのだ。しかも、互いに相手へ命令出来るくらい、強力なモノが。このパスの繋がりの強さは互いの総合的な魔力量によって決まるらしく、あまりにも魔力量が多いと途中で契約を切る事が出来なくなるらしい。
そして、そのパスだが、他の契約や対価の徴収と言った強制的に履行される現象を利用すれば、従者側が主人側に命令を下す事だってできるようになるのだ。さっきバティンが言っていた、隷属印の応用と流用とはその現象の事である。図書館の本にも書かれていたが、たった数行しか無かったのを覚えている。
その隷属印の現象を利用した悪魔から人間への対価の徴収がバティンの宣言と共に始まると、右手の甲が少しばかり熱くなってくる。何というか、隷属印が発熱しているような感じだ。隷属印の色は普段、かなり真っ白なのだが、発熱している間は真っ赤に染まっている。わかりやすい。
「マジか………」
「それでは、命令だ。主よ、我に嘘をつくことを禁ずる」
「はぁ、そうっすか」
元々嘘をつく気はそこまで無かったので、別にそれくらいいいのだけれど。嘘をつかなきゃいいんだから、最悪黙ってりゃいいし。
「それでは、これは命令ではなく質問なのだが………主は、我の事をどう思っている?」
「はぁ?どう思っているか?………そう、だな………んー………人型の悪魔、くらいしか………思ってないけど………これでいいのかこれ」
一体なんの質問なのだろうか。まぁ、嘘をつくのは禁止されてしまったし、素直に答えるけど………
「ふむ………そうだな………よかろう。ならば、今回の対価はこれまでとする。初回だからな。サービスという奴だ」
「あ、そう?ありがと」
「ふむ、何かあれば我を呼ぶといい。では、さらばだ」
バティンはそれだけ言うと、その場から姿を消した。………にしても、あの悪魔は一体何をしたかったんだろうか?
私が始めて人型の悪魔を召喚してから3日経ったある日、私はこの前召喚したバティンが、そういえばソロモン72柱とか言っていたのを思い出したので、今は休憩時間を活用して調べ物をしている所だ。
「んー………」
一応、適当に調べられるだけ調べてみているが、正直こんな事をするより本人………人じゃないな。本悪魔に聞いた方が早いという結論に至ったのだった。
「………
唐突に自分のステータスを確認したくなった私は、徐に自分に向けて魔法を使う。唐突にと言うか、調べ物がひと段落して暇なので、どうにかして時間を潰そうとしているだけなのだが。図書館で借りた本は既に読み尽くしたから読む物が無い。図書館に行けばいいのだけれど、正直今日は動くのが面倒なので行きたくない。だからこそ、こんな事をしている訳なのだけれど。
ちなみに、こちらが魔法の結果だったりする。
名前:松浦 葵
性別:女
魔力量:341
ユニークスキル:性転換(神の加護により隠蔽中)
実績:
【器用貧乏】
【悪魔の婚約者】
【一点集中】
【読書家】
【口撃者】
【看板娘】
【聖女】
【見習い魔術師】
【魔術師】
【契約魔術師】
【雷魔術師】
【見習い契約者】
【契約者】
【悪魔契約者】
【上位悪魔契約者】
【公爵級悪魔契約者】
【見習い召喚師】
【召喚師】
【上位召喚師】
【悪魔召喚師】
【上位悪魔召喚師】
【公爵級悪魔召喚師】
【ソロモンの断片No.18】
【性別神の加護】(神の加護により隠蔽中)
かなり、魔力量も実績も増えているみたいだ。見習いだった、魔術師、契約者、召喚師がそれぞれ上位の称号になっている。特に、召喚師はかなり上位の称号まで手に入れたっぽい。【公爵級悪魔召喚師】と【公爵級悪魔契約者】ってのもある。あのバティンって悪魔、公爵級の悪魔だったんだね。後、地味に【看板娘】って称号が付いてる。そして何より私が一番気になるのは、【ソロモンの断片No.18】って実績なんだけど………何これ?もう一回
【ソロモンの断片No.18】
〈契約属性極化〉〈魔力極化〉〈ソロモンの加護〉
ぶふっ。やべ、飲んでた水ちょっと吹いた。本当に何これ?強すぎなんですけど?特に、〈ソロモンの加護〉って何さ。えーっと何々………契約属性の魔法の習得や魔法の威力向上に大きな補正がかかる………ね。へー、いいじゃん。つまり、私が使う契約属性の魔法が強くなるって訳だ。しかもこれ、多分だけど、消費する魔力そのまんまで威力向上するタイプの実績だ。いいじゃない、いいじゃない。そういうのもっと頂戴。私、ゲームとかでもパッシブスキル取っちゃうタイプの人だから、そういう堅実な常に効果のあるスキルは最高よ最高。
やっぱり、瞬間火力よりも恒常火力があった方がいいよね。特定の時だけ攻撃力上昇よりか、攻撃力を常に3%上昇みたいな奴の方が私は強いと思うんだよね。異論は認める。いやまぁ、そういうのってやるゲームによるけど。それにさ、なんかこう、いつでもどこでもどんな時でも戦うRPGとかなら恒常火力でも、ボス戦だけは必殺技みたいな、瞬間火力を出せるようにしちゃうんだよ。そうしないと辛いし。だからまぁ、そういうのって割とその時その時の場合によるよね。
必殺技か………魔法で作れたりしないかな?複合魔法はまだ許可されてないけど、後何回か魔力操作のテストを合格したら作っていいって言われてるし、その時にでも必殺技作るかな。いやまぁ、今の事を覚えてりゃだけど………わたしの記憶は本当に当てにならないからなぁ………これだ!って覚えてる筈の事が違ったりするんだから、もう。その記憶を使う私の身にもなってほしいよ………私以外に使える訳もないけどさ。………いや、ここ魔法のある世界だし、他人の記憶を閲覧する魔法とかもあったりするかもしれない。例えあるとしても、私のクソ雑魚記憶力な頭に対して使ったらかなり無駄な魔法だな。いや、異世界の記憶を引き出せるって点ではメリットになるのかな?
と言うか、魔力量増えすぎじゃないか?実績のスキルのおかげで増えたってのはわかるんだけど、前は30以下くらいだった筈だ。それなのに、341?実績だけで魔力は十倍くらいになるもんなのか?確実にバティンを召喚して契約したからだと思うけど、それでもここまで増えるもんなのだろうか。流石はソロモン72柱ってことかな。
「んー、バティンか………」
私の新しい契約悪魔であるバティン。あの時の戦闘を見ていたが、多分、バティンは強い。どれだけ強いのかはわからないけど、少なくともアクの何百倍は強い。そういえばだが、アクは3日前のあの人、彼らに飛びかかって殺されてしまっていたようだった。確か、私が無我夢中で走った時にアクに助けを求めた記憶があるので、アクが彼らの足を少しでも止めようとしてくれたのだろう。今度、沢山美味しいものをあげないとな。アクの貢献がどれだけあったのかはわからないが、かなりの貢献だと私は思う。
が、アクはやっぱり戦闘には向いていないようなので、アクには基本的に偵察をしてもらおう。アクが戦ったら、無駄に死んでしまうだけだ。流石にそれは心が痛む………いや、別に痛まないな。いやまぁ、デメリットしかないから緊急時以外は絶対にやらないけど。とりあえず、これからはアクには偵察、バティンには戦闘、みたいに使い分ければいいだろう。どれだけ強いかはわからないが、少なくともアクより強いだろうし。けど、バティンの対価が変な対価なので、あんまり積極的に呼び出したくない。私が街に住んでいる人間だからよかったものの、本格的に冒険者だったら対価とか言ってらんないよなぁ。わざわざ戦うような職業じゃなくてよかったぜ。
「あーいや、一応一回だけ呼び出すか………」
そういえば、まだバティンに対して
そういえば、私はこの前の拉致事件の事を未だに誰にも言っていないのだけれど………まぁ、別に言わなくていいか。
その日の夜、私が普通にお酒を運んだり、料理を運んだりして仕事をしていると、非常に慌てた様子のフォージュさんが私の側までやってきた。
「アオイの嬢ちゃん!無事か?!」
「は?無事?何が?」
やっぱり唐突に言葉をかけてくるのはやめてほしい。せめて主語がないと分からないよ私は。一体何が無事なの?
「リーチの野郎がアオイの嬢ちゃんを拐ったって言ってきやがったんだが………大丈夫なのか?怪我してねぇか?」
「平気だから働いてるんだが。確かに拉致られそうになったけど、まぁ、なんとかなったし」
私がフォージュさんにそう言うと、フォージュさんだけでなく、ミナや店長さん、他のお客さんまで騒ぎ始めた。なんだなんだ。
「アオイ!今の話本当なの?!」
「え、まぁ、本当だけど」
「拉致られそうになったってどう言う事だ!?」
「え?いや、路地裏?の方に連れてかれたんだけど、魔法使って逃げたんだよ」
「何の魔法使った?!」
「えーっと………逃げる時に使ったのは………
私が逃げる時に使った魔法を一切の虚偽なく言う。が、何故かむしろ心配されまくった。ほんとなんなんだ?
「アオイの嬢ちゃん、聞いてるのか?」
「いやまぁ、聞いてるけど」
「いいか?今度から、何が危ねぇことがあったら言ってくれ。俺らが心配になるから………」
あ、はい。了解しました。
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