何あれやばいんですけど。私の想像越えたんですけど
私が始めて相談サービスを始めてから3日後のある日、私がお昼営業を終えて自分の部屋で本を読みつつ寝ていたら、唐突にミナに階下まで来るように呼ばれてしまった。一体なんなのだろうか?私、本読もうって張り切ってたのに………
「何さミナ………私は読書という崇高な行為を行なっていたのだけれど………って。ミナ、何その弓」
階下に私が降りてくると、そこには普段の制服を着て、その上から胸当てを着けて、手に弓を持ったミナが立っていた。しかも、机の上には矢がたくさん入ってる矢筒ってのもあるし、なんか、冒険者みたいな格好をしてるミナがいる。なんだなんだ?
「あ、やっと来たわね。ほら、行くわよ?」
「行く?何処に?」
「街の外よ、外。貴女、冒険者ギルドの依頼受けたことないんでしょ?一回くらい受けとかないとちゃんとできないわ。薬草採取、2人分で受注しといたから、行きましょ?
「いや、待って。説明無し?今すぐ行くの?」
「ちゃんと待つわよ。とりあえず、私が買ってきたこのブーツに履き替えといて。それから、服は制服のままでいいわ。これ、普通の服より丈夫だもの」
「………まぁ、わかった。逃げる方が面倒そうだし、行くよ………」
今のミナは何がなんでも私を連れて行くつもりだ。そういう時に抵抗すると大抵ロクな目に合わないのを私は今までの経験上分かっているので、まるで川に流される草船のように流れに身を任せよう。その方が楽だしな。………とりあえず、まずはブーツを履こう。黒い皮みたいな素材で作られた、膝下までしっかり覆うブーツだ。踵にヒールっぽいのはなくて、普通の靴を伸ばしたみたいな感じの靴だ。とても履きやすいし動きやすい。割と常用したいレベルで。
「ブーツ履いた?じゃ、これあげるわ」
そう言ってミナに手渡されたのは、刃渡り20cmくらいのナイフ。黒い革製の鞘に入っており、柄を掴んで引き抜くと、銀色に光る金属の刃が見える。………は?ナイフ?
「え、いや………ナイフ?」
「そうね、ナイフよ」
「………いや、いや………なんで?」
「冒険者はナイフを使うのよ。魔物を倒したら解体して、角とか骨とか肉とか、特定の部位を証拠になる部位をギルドに提示すれば相応のお金が貰えるの。知ってるでしょ?だから、ナイフが必要なの。それはアオイ用のナイフだから、大事に使ってよね?」
「え、これ私のかよ」
借り物とかじゃなくて私のかよ。………というか、魔物倒すとお金貰えるってマジ?冒険者ってそうやって稼ぐんだ………歩合制ってやつだっけ?
「そ、昨日買ってきたのよ?割といいのだから、無くさないでね?」
「いやまぁ、無くさないようにはするけど………」
人を殺せる物をそう簡単に無くすわけないだろ。アホかよ。私がそんな阿呆な訳ないだろ。………多分。
「とりあえず、これから街の外に出るわ。足を守るためのブーツと、解体用のナイフは渡したけど、アオイ個人で用意する物とかある?」
「んー………無い。強いて言うなら、
「わかったわ。私もちょっとトイレ行ってくるわね」
ミナがトイレに行くのと同時に私は階上の自室に戻り、
「あ、来たわね。行きましょ?」
「はいはい………」
私が階下に降りてくると、ミナは素早くトイレを済ませたらしく、既に階下に居た。そのまま私はミナに腕を引っ張られるがまま、初依頼をするために出かけたのだった。
ここは、私が今現在住んでいる街の外の森の中。ミナが私の分まで受注してきた薬草採取の依頼を達成する為に、目的の薬草が大量に群生している森に私とミナは入ったらしい。魔物の狼とか兎とか、弱いながらも群れるような魔物が多く出現するらしく、私はそれを聞いて普通にミナは馬鹿なのかと思ったくらいだ。ちなみに、これら情報は全てミナから教えてもらったものなので、信憑性はよくわからない。
「なぁ、ミナ。私はナイフを
「いいんじゃないかしら。だって貴女、ナイフ持って戦えるの?」
「無理だな。………あ、ミナ、ちょっと待ってくれない?」
いいこと思いついた。
「いいけど、何するのよ。あんまり変なことはしないでね?」
「魔法使うだけだから、安心して………すぅー………はぁー………
私がその魔法を唱えると、私の全身が熱くなる。
「あ、くっ………んんっ………はっ………ふぅー………」
心臓の辺りで右手を左手で握り、身体の内の熱に耐える。膝を着いて、とにかく溢れ出てくる身体の熱から逃げるように身体をくねらせる。ちょっとだけ変な感じになって、少し変な声が出てしまうが、私の意思によって抑えられるものではない。そういう魔法なのだから。
「ちょっとアオイ、大丈夫なの?」
「だい、じょぶっ………少し………くすぐったくって………あっ………ん………………ふぅ。やっと終わった………」
私が使った魔法は、
具体的に色々できるというのは何ができるのかというと、まず、どの獣人であっても人間時より身体能力が向上する。普段の何倍も動きやすくなり、体力もつくので、かなり動けるようになる。が、私の場合、一番身体能力が向上しているのは脚力、つまりは脚の力だ。垂直ジャンプでも5メートルは跳べるようになるし、キックすれば木だって粉砕できるし、岩を蹴っても痛くなくなる。更に、足跡がつかなくなるし、足音が出なくなる。猫人族は脚に関する様々な力を持っているらしく、適性のある獣人に変身するという仕様のおかげか、かなり動きやすい。
また、横の耳が消えて猫耳ができるので眼鏡はつけられなくなるが、猫人族に変身すると目が良くなるので眼鏡いらずだ。更にアクの力もあり、視力は眼鏡をかけている時より何倍も良くなっている。また、猫耳は飾りでもなんでもなく、かなり音を聞き分けやすくなるので、割と重宝する。ちなみに、尻尾も生えたりしている。
「なるほど………変身する魔法だったのね。猫人族?」
「そう、猫人族。この魔法を使うのに身体能力が上がるから、ある程度の対処はできるかなーって思って」
「へぇ………えいっ」
私が少し乱れた服装を整えていると、私のピコピコと動いていた猫耳をミナに掴まれた。
「みゃっ!?!?」
唐突に猫耳を触られてしまい、あまりのくすぐったさに変な声を上げてしまった。私は無言で素早くミナから距離をとり、ジト目になってミナを睨みつける。
「………あの、その………ごめんなさいね?」
「………猫耳と尻尾は触れるとくすぐったいから、唐突に触るの禁止」
「………ごめんなさい。まさか、あんな声がアオイから聴け──」
「うがー!!言うな馬鹿!!」
恥ずかしいからそういう事を言うんじゃないよアホ!わかっててやってんじゃねぇ!!なんで!なんで反省の色すらないのさ!この馬鹿!
「あら、馬鹿なんて酷いわ。私はただ、普段は聞けないようなアオイの声が珍しいって言いたくて………」
「そういうのやめろ………マジやめろ」
ちくせう。ここが街の中だったら走って逃げてたのに………ん?なんだ、あれ………狼の群れ?
「ん、ミナ。なんか狼の群れいるんだけど、あれもしかしなくても魔物だったりする?」
「げ………見つかったら面倒よ。静かに移動して」
「ん………
私が今使ったのは、音を消す魔法。私の足音は無いが、ミナの足音はある。私の足音がなくても、布の擦れる音が鳴る。だから、ミナの足音や服の擦れる音などを消すために使っておいた。流石に、ここで魔法を出し惜しみはしない。
「ありがと、アオイ」
「どいたまして。とりあえず、どうするの?殲滅する?」
「無理よ、無理無理。私、弓使いよ?しかも、ここ3ヶ月くらい弓なんか使ってないし………そもそも、狼の群れなんかCランクよCランク。Dランクの私が対処できるわけないわ」
「………まぁ、そうだな。私の魔法で一網打尽にできなくはないけど、多分特定の部位とか魔石とか残さずに全部消し飛ぶから………」
「え、アオイ、貴女そんな魔法使えるの?」
「………まぁ、雷魔法にやばいのがあるんだよ。私の場合は魔力効率が普通の人より何倍もいいから余計にやばいだろうって魔法が………ただでさえ魔法の効力が増してるのに、そんな危険な魔法の全力使用はやばいだろうって。危険時以外の使用は禁止されたくらいやばいよ」
「えぇ………なんでそんなのあるのよ………ちなみに何の魔法?」
「
「あぁ、なるほど………」
「………待って、普通に使うだけでも危険な
「………はい、そうです。多分全力なんか使った日にはここ一帯の森なんか消し飛ぶと思います………」
そう言われたのだ。私の魔力効率的に、おそらくそれくらいの威力は軽く出せるだろうって。だから、この魔法は使った事が無い。んな危険なもの使える訳なかろう。
「………やめなさい。いい?使うならなるべく威力を抑えて使うのよ。後、なるべく敵から離れて………」
「わかってるからとりあえず逃げよう?」
私とミナは、その場から素早く静かに逃げるのだった。
そそくさと狼の群れから逃げてきた私とミナは、目的の薬草を採取して、そして街に帰ってきていた。小説の主人公のようなトラブルも、漫画の主人公のような何かしらの変なイベントもなく、普通に群れからは逃げて、薬草を私とミナの2人分だけ取って、冒険者ギルドに行って、報酬の銀貨1枚を貰ってきただけだった。ちなみに今の私は、夜営業のお仕事中だ。
「疲れた訳じゃないんだけどなぁ………疲れた気がする」
私は既に、
例えば、猫人族の発情期に変身したら、私も発情期に入ってしまう。そうなると、私は誰かと子供を残すか猫人族の発情期が終わるまでずっと猫人族でいないと、人間に戻った後にも猫人族の発情期と同じ時期に発情期が来るようになってしまうのだ。妖属性の魔法は大体が変身する魔法だが、メリットばかり得られるわけでもないし、場合によっては取り返しのつかないことになることだってある。そもそも、妖属性の魔法は大抵が自分の身体を作り替える魔法。それだけで危険なのはわかるだろう。根本の遺伝子から身体を組み替える魔法を使っているのに、デメリットが無いなんてことはあり得ない。
その為、あまり長時間妖属性の魔法を使って変身していると、変身していた種族の名残りが元に戻っても残ってしまうんだとか。しかも、デメリットの方が強く、だ。獣人の場合は発情期とかが残る可能性があるので、割と気を付けないとやばい。1週間くらいなら変身し続けてもある程度は平気らしいが、1ヶ月くらいになると流石にやばくなってくるらしい。獣人の発情期なんて、デメリットとしてはまだマシな方らしいが。やべーよな妖属性の魔法。
「おーい!アオイの嬢ちゃん!ビール追加5本だ!!」
「はーい。えーっと、ビール5本でーす」
「あんがとな、アオイの嬢ちゃん」
「どいたまして」
「くぅ………ぷはぁ!………なぁ、アオイの嬢ちゃん。いっこ聞きてぇことがあるんだが、いいか?」
「何?」
「………多分だがそのブーツ、昨日は履いてなかったよな?」
「え?うん。今日ミナに貰ったやつだから、そりゃ昨日は履けないけど………どうかした?」
私がそう言うと、フォージュさんは両肘を机に突いて両手で頭を抱えてしまった。突然なんなんだ?何かあったの?そんな頭を抱えるような深刻な事態が………?
「はぁ………まっさか、俺が予約したその日に行くなんて………くそ………事前に確認しときゃよかった………!」
「え、えっと………フォージュさん、大丈夫?」
「大丈夫じゃねぇ………」
大丈夫じゃないらしい。大丈夫じゃないのになんでお酒飲んでんのさって言いたいけど、まぁ、フォージュさんはお酒飲んでる方が落ち着きそうだよね。
「アオイの嬢ちゃん、街の外に出たんだろ?大丈夫だったか?」
「え、平気じゃなかったらここで働いてないけど」
というか、なんで街の外に出たって知ってるの?ミナとかにでも聞いた?
「そうじゃねぇ。なんか殺したりしたか?」
「いや、何にも」
なんだ突然。質問が地味に怖いんだが?
「んじゃ、魔物とか見たか?」
「見たよ?なんか狼の群れっぽいやつ」
私がそう言うと、フォージュさんは勢いよく咳き込んだ。丁度お酒に口をつけようとした瞬間だったから、多分お酒が気管にでも入ったんだろう。南無南無。
「お、狼の群れだぁ?!襲われなかったのか?!」
「え?まぁ、襲われてたら今日のお昼過ぎに巨大な落雷でもあったと思うけど」
「………おい、まさか使おうとしたのか?」
「いやまぁ危険時だったし、そう言う可能性も視野には入れてたけど………あ、使ってないよ?」
「………なら、いい。あれは新人冒険者がよくやらかして仲間を殺すからな………」
「えっこわ」
なんだそれ。普通に使いたくなくなってきた。
「………とりあえず、話を変えるが、アオイの嬢ちゃんは明日暇だろ?」
「まぁ、仕事ない時は暇だけど………何かするの?」
「冒険者ギルドでアオイの嬢ちゃんが冒険者のレクチャーを受けれるように、リエルに頼んどいたんだよ。解体とか、冒険者ギルドの仕組みとか、心得とか、何も知らないだろ?」
「まぁ、知らないけど」
「普通はそういうのをやってから行くもんなんだが………ミナが勝手に連れてったみたいだったからな。心配してたんだよ」
は?待って待って?それってつまり、私は本来受けるべきだった筈のレクチャーとやらを受けずに、ミナに街の外まで連れ出されたってこと?は?何?ミナは私でも殺す気だったの?
「ミナ呼んでくる」
「まぁ待て、言いたいことは分かったからちっとばかし落ち着け。別にそのレクチャーは受けなくてもいいやつだから、別にミナの判断は間違っちゃいないんだよ。アオイの嬢ちゃんなら、なんとなく色々と察してそうだしな」
「は?」
私が?色々と察してそう?何?フォージュさんは私のどこを見て言ってんの?目が節穴どころか顔すら消滅して消し飛んでるんじゃない?何?私はそんな理由で危険地帯に何のレクチャーもロクな準備も無しに連れてかれたの?いくら私が普段怒らないからってこれはマジでキレるよ?普段のツッコミなんでレベル凌駕するよ?本気でミナのこと潰すよ?私怒ってるよ?
「とりあえず、明日にレクチャーがあるから、昼営業の後に俺と一緒にリエルんとこまで行こう」
「………まぁ、わかった」
今度からミナの言うこと全部無視してやる。何か言われても今回のことを引っ張ってきてぐちぐち言ってやるよ!命の危険と女扱いは私のブチ切れスイッチだぞ覚えとけ!!
「とりあえず、ビール5本追加だ」
「まだ飲むのかよフォージュさん」
フォージュさんもう40本くらい飲んでないか?
時間は経ち、次の日の昼営業の後。私は今朝からミナに対してぐちぐちと昨日のことをぶり返したような発言をしていた。が、ミナには遠回しな皮肉というものが効かないようだったので、面倒になって既に昨日の記憶は私の頭の中から消し飛んだ。ミナはとりあえず1回だけは謝ってくれたが、それ以降は普通にしていた。
そしてそれを見て、私は怒るのが面倒になった。
どっかの誰かが言っていた言葉だが、感情に振り回されて結果を残せないのと、冷静になって結果を残せるかだったら、どう考えても後者の方がいいだろう。ということで、私も冷静になったのだ。そもそも、私は寝たら昨日の感情なんで忘れるタイプなので、怒るのが面倒になったというか、怒りはもう治ったと言うべきだろうか。
「とりあえず、ミナの嬢ちゃんとアオイの嬢ちゃんが仲直りしてくれて俺は助かったよ」
「私は寝たら昨日のことなんか忘れるからな」
実際、昨日のことは覚えていても、一昨日のことは既に何も覚えていない。覚えていないというか、覚える気も思い出す気もないのでわからないだけなのだが。
「すげぇな、アオイの嬢ちゃんは。俺ぁそんな簡単に割りきれねぇよ」
「そう?」
「あぁ、そうだ」
そうらしい。ちなみに私は今、フォージュさんと一緒に街中を歩いている。今日の服装はいつもとおんなじお店の制服に昨日履いたブーツと、フォージュさんに指定された服装を着て来ている。
なんでも、昨日ミナに貰ったことブーツ、かなりいい装備らしい。鉄製の剣でも切れない耐久性と、装着者が動きやすいようになっている伸縮性を兼ね備えた、冒険者御用達のブーツなんだとか。足を守るブーツの中でも比較的安くて、性能がかなりいいらしい。具体的な値段は金貨10枚くらいはする代物らしいのだが、私はそんなものを履いていていいのだろうか?
「ん、ギルド着いたか。ほれ、こっちだ」
ギルドに到着すると、フォージュさんは前回使ったような窓口に向かうわけでもなく、『訓練場』という文字の書かれた扉の先に進んでいく。その扉の先には地下へと続く長い階段が存在していて、少しびっくりした。
「ねぇフォージュさん、この先には何があるのさ」
「この先か?この先には訓練場があるんだよ。新人冒険者が練習の為に使ったりだとか、何かの魔法の試し撃ちとか、割と使う施設だ。ま、事前に予約しとかないと取り合いになったりするから、本格的に使うやつはあんまりいねぇけどな」
「………なるほど?」
わからん。
「今日は、アオイの嬢ちゃんにある事を体験してもらうんだが………もし、やる直前になって嫌になったら言ってくれていい。無理に慣れるものでもねぇからな」
「?」
「と、ここの部屋だな。ほれ、入れ」
「え、うん」
階段を降りていると途中途中にいくつかの扉があり、私とフォージュさんはその内の一つの扉に入るのだった。その扉の先はかなり広い部屋で、多分東京ドームくらいの広さはある。物凄く広い。どう考えても何かしらの魔法だろうってくらい広い。そして、その部屋の中には私とフォージュさん以外にもう1人、毒舌受付嬢のリエルさんがいた。
「あぁ、いらっしゃいませ、アオイ様、フォージュ様。本日は第七地下訓練場をご利用いただき、誠にありがとうございます。私が本日の第七地下訓練場の管理人を勤めます、リエルです。よろしくお願いします」
「おう、リエル。予定通り頼むわ」
「そうですね、とりあえずAランク冒険者にも対応できるような衛兵を呼びましょうか」
「おい、おいリエル。やめろ」
「か弱い女性2人を密室に連れ込む………しかもAランク冒険者………力尽くで押さえられてしまえば、私達に抗う術はない………ほら、かなり事案めいているでしょう?」
うーむ、リエルさんにそう言われるとかなり事案めいているな。いや、この場所はそんな事態にならないようになってるんだろうけども。
「そんなことやらんから、予定通りの事をしてくれよ………」
「はいはい、わかっておりますよ。それではアオイ様、こちらをどうぞ」
「えっはい?」
そう言われてリエルさんに渡されたのは、剣。紛れもなく、鉄製の剣。突然渡されたせいで少し慌てて持つと、かなりずっしりとした重みを腕に感じる。
「えっあの、これは?」
「おや、アオイ様はもしかして、何も知らずにここまで来られたのですか?そうなると………フォージュ様はかなり残酷な事をなさりますね」
え、残酷?え、待って、凄く怖い。私はこれから何をさせられるの?一体何をさせられるつもりなの?
「………そうだな」
「まぁ、私としても仕事ですので、あまりやりたくはないのですけれど………仕方ありません。これは、冒険者なら誰もが通る、道の一つなのですから………
リエルさんがその魔法を唱えると、私達がいる部屋の中に契約属性の魔法の中でも、ある魔法を使う際に必ず必要な魔法陣が現れた。それは、私の魔法陣とは細部は違ったが、どう考えても私のいつも使っている魔法陣と変わりはない。
「召喚陣じゃん」
召喚陣。それは、契約属性の魔法の中でも召喚系に分類され、召喚系の契約属性の魔法では使用に必ず必要となる、魔力で形成される特殊な模様のことだ。契約をしていない対象を呼ぶのにも、契約を済ませた相手を呼ぶのにも使う、契約属性の魔法使いにとって必須と言ってもいい魔法である。
「………これから行うのは、魔物………つまり、生物の殺害です。私の召喚した魔物を殺すことが、本日の予定の一つです」
え、これはその為の剣って事?ただただ魔物を殺すためだけに、私はここに呼ばれたって事?しかも剣で?魔法使っちゃダメなんすか?
「私が本日召喚したのは、魔物の中でも単体なら弱いと称される魔物、ゴブリンです」
リエルさんの作り出した召喚陣から出てきたのは、緑色の子供………のように見える、小さな鬼だ。ゴブリンのことは、私も知っている。図書館の魔物全集みたいな本があって読んでみたときに見つけたこともある。前の世界の小説でもゴブリンはよく出てきてたし、なんとなくゴブリンの概要はわかっている。
「アオイ様は、これから、私の渡したその剣で、こちらのゴブリンを殺してもらいます」
「は、はぁ………」
なんで?なんでわざわざそんな残酷な事をしなきゃならんの?残酷な事ってそういう事?わざわざ呼び出したゴブリンを殺すって………召喚した存在は死んでも24時間経てば再召喚できるからと言っても、そんな命令やばくない?大丈夫なの?後、そんなことしてなんか意味あるの?
「アオイの嬢ちゃん、駄目そうなら言うんだ。わかったな?」
「は、はぁ………ちなみに、駄目そうってどういう事?」
「………殺すってのが駄目なやつは、一定数いるんだ。だが、魔物は人間の葛藤なんてそんなもん待っちゃくれない。だから、もし駄目なら、慣れるまで………殺し続けることになるな」
え、やばいじゃん何それ。ゴブリン達ブラック企業で働くより悲惨な目に合ってるよ?本当に大丈夫なの?待遇改善とか要求されないの?
「まぁ、なんとなくわかったけど………魔法使っちゃ駄目?」
「駄目、って事はないが………大丈夫、なのか?」
「え?まぁ、大丈夫じゃない?魔物なんでしょ?ならまぁ、平気かなぁ。あ、魔法使っていいんだよね?どうせならさ、
「………本当に大丈夫か?相手は、生き物だぞ?」
「大丈夫だよ、フォージュさん」
つまり、あれだ。フォージュさんは、私が生き物を殺せないと思っているのだ。大丈夫大丈夫、私あれだから。魚とか、まぁあんまり触りたくはないけど、一応捌けるから大丈夫!………ちょっと違うか。
「それでえっと、私の
「………そうだな。なるべくゴブリンから離れて、俺の
「りょうかーい」
「リエル、ゴブリンをなるべく遠くに移動させてくれ。俺らも部屋の端に移動するぞ」
「わかりました。ゴブリン、向こうの壁の近くまで移動してください」
私とフォージュさん、リエルさんはなるべく扉の近くまで移動し、リエルさんの召喚したゴブリンは私達からできるだけ離れていく。そして、フォージュさんが
「………よし。それじゃ今から撃つけど、大丈夫?この部屋粉々になったりしない?」
「大丈夫………な、筈だ。この訓練場は、魔法道具によって完璧に保護されてる。その魔法道具の出力さえ越えなきゃ………まぁ、大丈夫だろ」
んー実に心配になってきた!なんか
「まぁ、いっか………んじゃいくよ………ふぅ………っ
直後、私達の眼前に広がったのは、眩しい閃光。そして、物凄い爆音。私が思っていたより小さな雷の柱が、たった一撃だけ落ちただけ。そのたった一撃。それだけで、私の魔法は巨大なクレーターを作り出し、周囲の壁や地面が赤熱して融解している部分もあれば、瞬間的な高熱のせいでガラス化している部分もある。多分、莫大な電気エネルギーが地面に落ちたせいで、そこから幾ばくかの熱エネルギーに変換されてしまったのだろう。いや、よく知らないけどさ。あと、この魔法を撃ったのと同時に、私の身体の中から魔力が抜ける感覚がどっと押し寄せてきて、私はペタンと地面に座り込んでしまった。私は今、魔力枯渇寸前らしい。物凄い全身の脱力感だ。
「「「………」」」
私達は全員が全員、呆然と立ち尽くしていた。それもそうだろう。なんせ、あんなの、私は見たことがない。そもそも、私の少ない魔力であんな高威力の、まるで神罰みたいな威力の
「………アオイの嬢ちゃんは、一体、何をイメージしたんだ………?」
「………あー………え、えーっと………核融合炉、かな………」
私が
私が核融合炉でイメージしたのは、太陽だ。あの、宙空に浮かび、人々を照らす、あの、巨大な惑星だ。あの太陽の小さい版が核融合炉の中にあって、超強力な熱エネルギーがそのまま全て電気エネルギーに変換する………みたいなイメージをした。たったそれだけだが、たったそれだけで、私の
が、核融合炉は違う。明確な数値どころかまだ存在していないのだから、私のイメージだけでその大半を補完するしかない。私は核融合炉の構造も、発電の理論も、私はよく知らない。だから、太陽という明確にイメージできるモノを核融合炉の一部に組み込んでいる。そうでもしないと脳内補完できないのだ。太陽は確か核融合してた筈だし、間違っちゃいない筈だし。が、それが悪かったのだろう。私は、太陽の熱エネルギーを全て電気エネルギーに変えるような想像をしていたのだ。そりゃ、あり得ない電撃にだってなるだろう。表面だけで何千度に達する太陽の熱エネルギーを電気エネルギーにするとか………ただの間抜けかよ。まぁ、私の最大魔力量が少なかったおかげで、本当に太陽並のエネルギーにはならなかったようだが。
だって正直、フォージュさんが事前に本気の
つまり私は、さっきの以上の
「………アオイの嬢ちゃん、お前さんは、無断で
「………うん」
絶対に、無断で使わないようにしよう。私は魔力枯渇寸前の力の入らない身体で、そう、心に誓ったのだった。
ちなみに、後でフォージュさんに聞いたけれど、私の撃った
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