相談…?私は年齢的に相談する側なんじゃ…?


フォージュさんを励ました3日後、私は普段通り、朝早くに目が覚めた。


「………んぁ………」


実に間抜けな目覚めの声だと自分でも思うが、出てしまうのは仕方ない。私は目を擦りながら、被っていた毛布をベットの端に除ける。そして、立ち上がって部屋のカーテンを開く。まだ日が昇るまで少し時間あるようだが、朝なのには変わりがない。


「………んぬぁ………」


私が開いたカーテンの目の前で伸びをすると、同時に欠伸が漏れる。窓の外を見ると、丁度日が昇る時間だったようで、大きな城壁の向こうから眩しい日差しが部屋の中に差し込んできた。うむ、今日は実に天気だな。気温もいい感じだし………いや、気温はそこまで変化ないか。


「んー………とりあえず着替えるかな………」


今の私の姿は下着のみと、いつも通りだ。私は寝る時は下着になるタイプなのだ。寝る時に服は邪魔になる。だから、ミナに折角パジャマを買ってもらったのはいいが、私は今日まで1回も着ていない。ミナはその事実を一月前くらいに聞いて落ち込んでいたが、自業自得だから慰めなかった。本人に了承も取らずに買うからそうなるんだ。


「あー………めんど………」


正直、着替えるのが面倒くさい。今の私の朝食は階下のテーブルで食べる事になっている。その時、宿のお客さんもお店がない時は普通に階下のフロアを通るのだ。そして、この宿は朝食がでない。つまり、私がこのまま下着姿で階下に行くと、フロアを通過する宿のお客さんに下着姿を見られることになる。別に私は下着姿を見られようがなんだろうが気にしないが、ミナにも店長さんにもやめておけと言われたので、やめている。ミナだけに言われたらやめてなかっただろうが、店長さんにも言われたらやめざるを得ない。店長さんには迷惑をかけられないからな。


さて、ここまでかなり無駄な事を思考していたが、とりあえず着替えてしまおう。ここで面倒だなんだと言ってうだうだ言っていると、ミナがやってきて無理矢理服を着させられるのは目に見えている。それは普通に嫌なので、とりあえず動きやすい服でも着よう。


「んぁー………これでいいか」


私は面倒くさくなり、着替えるのに一切手間がかからないワンピースを選ぶ事にした。そのワンピースは、私が無駄な装飾を全て取っ払った服が欲しくてわざわざ買ったもので、真っ白な布の装飾の一切ないワンピースだ。どちらかというと貫頭衣っぽいが、まぁ、そこら辺はどうでもいい。


が、買ったはいいのだが、このワンピース、若干小さい。男の時の感覚で買ったのがいけなかったらしく、胸の辺りが少しだけ圧迫されてしまう。私は、胸という部分を加算して服を選ばなかったのだ。まぁ、圧迫されると言っても苦しい訳でもそのワンピースを着れないわけでもなく、別に胸元が大きく開いている訳でもない。スカート部分の丈はちゃんと膝下まであるし、腕の部分は半袖と、かなり普通のワンピースなのだ。ただ、胸の辺りだけワンピースに身体のラインがかなり明確に出るだけなので、別に私は気にしていない。ミナはかなり気にしているみたいだったけれど、私は気にならんから問題ない。


「怠い………頭が回らん」


私はそんな呟きをしつつ、ワンピースを着る。やっぱり胸の辺りだけぴっちりとしていて、まるで胸を強調しているような感じだが、別にワンピースとして駄目な訳でも着れない訳ではないのでいいだろう。下着姿よりはマシってこの前ミナに言われたし、特に問題はない。


怠い、と言っても倦怠感があるわけではなく、単純に起きるのが面倒なだけだ。エルフのコルトさんみたいにずっと寝ていたい訳ではなく、単純に今日という1日が始まるのが億劫なだけだ。つまりはサボりたいだけだ。だって、この宿屋、毎日が仕事なんだもの。確かに宿屋だからお休みは少ないだろうし、そもそも営業の時間も間があるからマシだとは思う。けれど、もっとこう、本格的なお休みが欲しくなってくるのはやはり人間の性というものなのだろう。人間は強欲なのだから。


なーんて言い訳してもどうせ私に休みは稀にしか来ないので、ある程度ちゃんと仕事はするけれども。いやまぁ、私的にはもう今の生活には慣れたから、特段何かを言う気も無いけど。お休みは無くても休憩時間はいっぱいあるしね。そもそも、昼の食事処の仕事は本当に仕事!って感じだけど、夜の酒場の方の仕事は家の手伝いをしてるみたいな感じだから楽しいんだよねぇ。お客さんがワイワイがやがやしてるの、私が聞いてる分には楽しいし。私は混ざらんがな。


「今日の朝ご飯なんだろ………」


朝食は毎日ミナと店長さんとの3人で食べている。前の世界だと朝食だけは一緒に食べずに適当に好きなものを食べていたので、朝食を誰かと一緒に食べると言うのが実は今でも慣れない。そうなると、私がどれだけ早く起きても朝食は決まった時間にしか食べられない。私は昔からの習慣のせいか、丁度6時間寝れば満足する人間なので、いつも早く起きてしまうのだ。しかも、この世界なら尚更早く起きてしまう。1時間が100分、1分が100秒のこの世界だと、私は寝てから2時間とちょっとで起きる計算になるのだ。


夜営業が25時に終わり、その後にちょっとだけお腹を満たすために食べたりお風呂に入ったりと、寝る準備をして寝る。大抵1時間、つまり100分以内には準備なんか終わるので、その後に寝たとしてもまだ夜の1時だ。そのあと6時間、つまりは約360分間寝ると、起きるのは3時より少し過ぎたくらい。朝食を食べるのは6時なので、3時間ちょっとくらいの時間があるのだ。こんな時間に起きても本を読むくらいしかやることがないので、いつもは本を読んだりしているのだけれども。ちなみに今日もするつもりだ。


「本………何がいいかな………ま、読みかけのこれでいいか………」


既に日は昇っているので、魔法道具の光をつける必要はない。窓辺に椅子を移動させて、そこに座って本を読むことにしよう。カーテンを開けているので外から見られてしまうが、まぁ、人によっては気になったりするだろうが私はそんなの気にならないので、堂々と本を読ませてもらう。丁度窓の部分が机っぽくなっているので、頬杖でもつきながら読むのがいつもの定番だ。かなり安定感がある。


「………」


私はそれから、朝食の時間まで収納ストレージから取り出した本を読むのだった。







時間は経って3時間後。つまり、朝食の時間となった。丁度窓から時計が見える設計なので、時間把握はバッチリだ。腕時計はないので諦めよう。時間属性の魔法に現在時刻を知ることのできる魔法があるらしいが、私は時間属性に適性を持っていないので使うことはできない。別の魔法で代用するとか、そういう方法を取る必要があるだろう。まぁ、時間を定義する魔法なんて、時間属性以外の属性じゃはちゃめちゃに難しいらしいが。


魔法にはそれぞれ性質がある。魔法の性質とは、複合魔法を作る際に必要な知識らしい。私も一応一通りは覚えたから、一応複合魔法は作れるわけだ。例えば、火属性には加速の性質が、水属性には減速の性質が、など、それぞれの属性は明確に分かれているらしい。そんな重要なものを、ある属性の性質を他の属性で模倣することは、やはりかなり厳しいらしい。かなり複雑な工程を踏まないといけないし、そもそも複雑な工程を踏んでも模倣できない属性だってあるんだとか。


例として、加速の性質を持つ火属性で減速の性質を持つ水属性を模倣するには、どうにかして加速から減速に変えねばならない。一番簡単そうなのは、加速という進む力を全てゼロにするとかしか思いつかない。つまり、停止の性質を持つ氷属性と、加速の性質を持つ火属性があれば、一応水属性を再現することはできなくはないということだ。だが、完全な停止をしてしまうとそれは氷属性になってしまうので、火属性による加速で調整すれば水属性ができなくはない………くらいだろうか。たったこれだけでもかなり複雑な工程を踏んで、更には完全に魔力を制御して操らねばならない。


この世界の魔法は名前を言えばオートで撃てるのではなく、頭の中でイメージしつつ魔力を練ることで撃つことのできる完全マニュアル操作。記憶属性があればオートにもできるらしいが、状況に応じて使い分けるならマニュアルの方が役立つと思われる。つまり、例え停止と加速で減速を模倣できても、それを行うのは手動なので、安全にそして使いやすくする為にかなり複雑な工程を組む必要があるのだ。かなり面倒である。


「………そろそろ降りとくか………」


こうやって今やる必要のない知識を色々と思考するのは楽しいが、そろそろ下に降りないとミナがやってきてしまう。うむ、着替えは終わってるし、寝癖は………あー、別に直さなくてもいいか。私は困らない。ああそうだ、少し喉が渇いているので、下に降りたら本日1回目の牛乳を飲むことにしよう。本は収納ストレージで亜空間にしまって、このまま階下に向かうとしよう。


「お、おはよう、アオイちゃん」


「あ、おはようございます」


私が部屋から出ると、宿に泊まっていたお客さんが丁度上の階から降りてきたところだったようで、挨拶された。私は素直に挨拶を返すが、それ以上の会話はない。そのまま私が階下のフロアまで降りると、そのお客さんは外に行ってしまった。丁度朝食を食べに行くところだったのだろう。


「あら、今日は時間前に来れたのね、アオイ」


「今日は丁度いいところで読み終えたからな」


「そう、よかったわね。………はぁ………それにしても、貴女………本当に鈍いわね。気が付かなかったの?」


「?何が?」


鈍い?気が付かなかった?一体何の話?私、そんな小説の主人公みたいに鈍いなんてことない筈だけど………何が鈍いと思われるような事が今あったのか………?


「あー、本気でわかってないのね。えっと、これは流石に教えるけれど………さっきのお客さん、貴女の事をかなり下心丸出しで見てたの。気が付かなかった?」


「気が付かなかった」


気が付かなかったというか、そんな見知らぬ他人なんてどうでもいいから、無意識に無視していたのではないだろうか。私の性格上、どうでもいいことは完全に忘れるみたいだし。


「本当にアオイは鈍感ね。貴女の胸、かなり見られてたのに。というか、普通そういうのは本人が一番わかる筈なのだけれど?」


「へー、そうなんだ」


どうでもいい。私に手を出してくるならそれは殺すが、下心のある視線を送られるくらいなら別にどうでもいい。直接の被害は無いし、視線なら別に私には精神的なダメージも無い。多分、だからわからなかったのではなかろうか。まぁ、非常にどうでもいいことだが。


「貴女ねぇ………はぁ………まぁいいわ。貴女が気にならないなら別にいいもの。さ、早く食べちゃいましょ。お父さんは朝一番に食材を買いに行ったからいないけどね」


「店長さん、買い物か。何買いに行ったの?」


「卵と牛乳。朝一の卵と牛乳はいいものが多いからね」


「なるほど」


多分牛乳を買いに行ったのは私のせいだな。私、たくさん牛乳飲むから。へへっ、いつも買いに行ってくれて助かりますぜ旦那………なんてリアルで言ったことないけど、まぁ、助かってるのは事実だから、今度謝っとこう。きっと笑って許してくれるはず………許してくれるよね?許してくれなかったら………仕事を増やされるとか?別に正当に増やされるなら問題ないけど、お給料が増えもしないのにお仕事が増えるのは嫌だなぁ。ブラックな職場は嫌だもの。


でも、今の私は住みやすさ的にどうしてもここで働くしかないわけで………はっ、もしかして今の私、店長さんとかミナに脅されたら命令をなんでも聞かないと生きてけない………?!………なんて、そんなことは無いか。………無いよね?


「んー………ん?」


あれ、なんかフロアの壁に何か張り紙が貼ってある。昨日の夜にはこんなのなかった筈なんだけどなぁ。なんだろう。内容はーっと………


「ん?あー?はぁ?」


──────────────────────────

『無料相談サービス』

店員アオイによる、夜営業のみの無料の相談サービス!様々な悩みをサボっている店員アオイに話せば、どんなお悩みでもぱっと解決!

──────────────────────────


なんだこれ。なんか、勝手に私が無料相談サービスをさせられることになってるんだが。


「ねぇミナ、これ何?」


「ん?あぁそれ?昨日私が思いついたサービスよ。アオイ、この前フォージュさんの悩みを解決したらしいじゃない?それを聞いてね。この際、少しでもお客さんを取るためにも、いっつもサボってるアオイへ仕事をあげようかなって思って。どうかしら?」


「せめてこれ貼る前に私に一言欲しかったかなぁ」


そうしたら直ぐにでもやめさせたのに。


「あら、嫌よ。貴女はどうせやめさせようとするでしょ?」


「良くわかってるじゃないか」


私にそこまでのメリットがない。確かに、相談サービスってのはいい案だ。元々2人で回っていたお店に、私という余裕ができたから、こう言ったサービスをやっても私はなんら問題はない。お客さんが増えても困ることはないので、私的にはこれでちょっとでも増えてくれればそれでいいのだ。


が、それとは別に、なんで私なんだよとか、なんで無断でやってるのとか、そういう文句は普通に言いたい。せめて口頭での確認くらい取ってほしかったよ?そもそも、なんだ『どんなお悩みでもぱっと解決』って。私、そんな便利な相談ロボットじゃないんですけど。しかも、私がサボってる時にって限定してるのが悪辣すぎる。私のサボる時間が無くなるじゃん。譲歩とかないの?


「メリット、ちゃんとあるでしょ?お客さんが増えれば、貴女のお給料が増えるまでの期間が短くなるものね?なんであれ、集客するにはこういうサービスをしないと」


「………まぁ、そうだな」


メリットはある。デメリットなんて、私がサボりたいくらいのものだ。そんなのデメリットにはなり得ないのだから、実質デメリットは無い。だから、まぁ、このサービスを導入するのはいいのだけれど………せめて、事前の了承くらいほしかったなぁ。


「別にやってもいいけど………あんまり大勢の相談は受けないからな?」


「それはわかってるわよ」


「後、ビール一杯飲んだやつだけ相談受けるって書き直しといて。アルコール入って酔ってる方が相談受けやすいから」


「あら、やる気なのね?」


「やめる気ねぇだろうから諦めてやることの想定してんだよ」


もうやる事が決定しているなら、せめて待遇を良くしよう。私がやり易いように、今できるだけ場を整えよう。それくらいならしても許される筈だ。ビール一杯だけなら小銅貨2枚そこらだし、別に出費でもなんでもないだろう。まぁ、それでもかなりの小銭稼ぎにはなるが、無いよりマシだろ。ただ相談を受けにくるだけってのが私が嫌だからな。そりゃあある程度の集客にはなるだろうが、それじゃ金を落とさない相談目当てだけの無駄なお客さんが出てくるだろう。それは無償労働だから嫌だ。どうせやるなら、ボランティアじゃなくて労働にしてやる。


「それじゃ、後で書き直しておくわ。まずは朝食を食べちゃいましょ?」


「ん、そうするか」


ボランティアじゃないなら、まぁいいか。


「今日は、クロワッサンとコーンスープよ」


「おー」


美味しそう。クロワッサンは特に。コーンスープは………まぁ、割と作るところによるからなぁ。メーカー違うと味がかなり違うし、美味しいといいのだけれど………ま、店長さんの料理なら美味しいっしょ。


「それじゃ、食べましょ。いただきます」


「んー、いただきまーす」


私はミナに続いて、クロワッサンとコーンスープを食べ始める。まずはクロワッサンからいこう。とりあえずパクッと食べると、かなり美味い。外はサクサク、中はモチモチって感じだ。この食感はかなり美味しい部類のやつだこれ。


「やっぱり美味しいわね、このクロワッサン。買ってきた甲斐があったわ」


「買ってきた?」


「ええ、これはパン屋さんのクロワッサンなの。今度連れて行ってあげるわね」


「ん、楽しみにしとくよ」


パンは好きだからな、楽しみだ。さて、次はコーンスープか………とりあえず一口。


「ん」


美味い。私にはグルメリポートができないのでどう美味いか形容できないが、これは美味しい。んー、なんというか、あんまり味が濃くない?んー………液体の説明し辛いな。固体ならまだしも、液体の食べ物は食感はほぼ同じだし………私やっぱり、食べ物を食感でしか判断してないなこれ。味もそりゃあるけど、一定以上なら美味しいしな………


「まぁ、いっか」


「何が?」


「ん、何でもない」


ついつい独り言が出てしまった。まぁいいや、食べないと。


「ねぇアオイ?さっきからお客さんが出入りしてるけれど………気が付いてる?」


「それくらい気が付いてるよ」


ちょくちょく出入りしてるのは普通に見えるからな、この位置。


「ねぇ、貴女って本当に鈍いわよね」


「だから何が?」


「視線よ視線。貴女のその服、胸元が強調されてるでしょう?そのせいで、出入りする男性のお客さん全員にジロジロ見られてるの、わからないの?」


「へー」


「へーじゃないわよ………もう、毎回言うけど、その服で外には出ないでね?絶対危ない目に遭うから………わかった?」


「わかったー」


「もう………」


流石に私もこの服を外に着ていく事はしない。………多分、しない。着替えるのが面倒じゃなかったらしない。うん、しない。多分しないって信じたい。………まぁ、時と場合によるかな………この服、かなり着易いし動きもそこまで阻害されないし。布一枚だけってのもあるだろうけど。だから、外に着て行っても私は問題ないんだよなぁ………ミナとか店長さんの2人に駄目って言われるから、流石にやらないけど。ミナだけなら無視するかもだけど、店長さんにも駄目って言われたら言う通りにするしかないじゃない。


「ん、ごちそーさま」


「そう、お皿はちゃんと洗ってね?毎回置くだけで放置するんだから………」


「別に、一気にやった方がいいじゃんか。私は溜め込んで一気にやりたいタイプなんだよ」


「そうするとかなり時間かかるじゃない。先にやっときなさいな」


「はいはい、私はやらないから任せた」


「はぁ………しょうがないわね、私がやっとくわ。私にちゃんと感謝しなさいよ?」


「ありがとー」


感謝感謝。私の代わりにお仕事をしてくれるミナには感謝するよ。幾らでもする。言葉なんて軽くて薄っぺらいものを紡ぐだけで私の代わりに働いてくれるってんなら、私は私が紡げるだけの感謝の言葉をミナに告げるとしよう。まるで劇の主人公のような、まるで小説の一主人公のような、リアルで言ったら確実に恥ずかしいだろう言葉を紡いであげよう。私が羞恥に震えるだけでミナが仕事をしてくれるなら、私はいくらでも心無い感謝を言い続けようじゃないか。多分、私とミナの仲なら許されると思う。見ず知らずの他人にそんな軽薄な言葉をかけても苛つかせるだけだが、まぁ、ミナ相手なら別にいいだろう。一応、ミナは私の友人なのだから。………友人だよね?


「ミナも食べ終わったら、時間あるから2人で相談サービスの張り紙作り替えとこう。ミナだけに任せといたら面倒だから、私もやる」


「わかったわ、ちょっと待ってて」


私はそういうと、ミナが食べ終わるまで机に突っ伏すのだった。










時刻は過ぎて、夜営業の時間。朝に貼り直しておいたおかげかは知らないが、私が適当に机一つを占領して作っておいた相談スペースに並ぶくらい相談目当ての人がかなりいるらしく、私は内心かなり緊張していた。今はまだ暇ではないので誰の相談を受ける訳ではないのだが、相談スペースに人が並んでいるのを見ると次第に億劫になってくるのも事実。が、いつまでも注文が続く訳でもなく、次第に注文の量は減り、そして、落ち着いてしまった。


「………あー………やりたくねぇー………」


相談スペースのセッティングは全て私がしたし、途中から若干ノリノリで張り紙を作ったのも私だ。結果、ビール一本で相談を受けると書いてしまったのも私だから、もう逃げるわけにもいかない。けどやりたくねぇー………なんで私が相談される側なのさ………私、まだ高校1年生だよ?普通は私が相談する側でしょうが………進路相談とか、私がする側でしょうが………!


「………諦めよ」


お客さんがいるのは事実。私がノリノリで相談スペースを作ったのも事実。なら、私が責任持ってやらないと………責任は言葉より何十倍も重いからな。


「はぁ………相談サービス開始しまーす。静かにしないと相談受けないので静かにー。後、ビールは私の目の前で飲んでくださいねー。はーい最初の方どうぞー」


私が適当に開始の合図をすると、最初の方はがやがやしていた列に並んだ人達が一斉に静かになった。私は用意した相談スペースに座り、最初の人に対応することにした。私が席に座ると最初の人はビールを勢いよく飲み、そして話始めた。


「………アオイちゃん………俺今、悩んでるんだ………」


「はぁ、そっすか」


「実は俺………アオイちゃんの事が好きなんだ………けど、20歳も歳下なアオイちゃんに釣り合うとも思えず………そもそもアオイちゃんが俺なんか選んでくれるのかなって思って………もういっそのこと面と向かって聞き出したい………って思って今相談してるよ………」


「………はぁ、そうですか………」


なんか、1発目から私が対応し辛いのきたんだけど。最初はもっと軽めの相談がよかったなぁ私。というか、アオイちゃんってもしかしなくても私の事だよね?本人にそれを相談するのってどうなの?


「だからアオイちゃん………お願いだ………俺は恋愛対象に入るかい………?」


「………そうですね………ええっと………」


目の前の人の姿を見る。この異世界でよく見る金髪青眼の、割とベテランな冒険者の40代くらいのおっさんだ。確か、名前は………そう、ブレイブさんとか言う人だったっけ?多分持ってる武器からして弓使い………だったような。………んー………本音を言ったら、私は女の人が好きだから駄目なんだけど………まぁ、私に対して恋愛感情を持たれているのは、例え同性であっても嬉しいもんだ。私はそんな性別なんて些細なことを気にしないタイプだからな。同性愛だろうがなんだろうが、好きになった人は好きな人なんだろうしね。私は女性の方が恋愛対象として好きってだけで。


でも、そうやって言えるのも私が今まで恋愛なんてしてこなかったってのもあるのかな。女性が恋愛対象、なんて。そんなことまだわからないのに、そんな変なことを言うのは駄目か。………でも私、多分女性の方が恋愛対象だと思うんだけどなぁ………まぁいいか。とりあえず、当たり障りのないことだけ言っとこう。あんまり変なことは言えねぇしなぁ。


「………まぁ、いいんじゃないんですか?私は外見とか年齢とか、特に気にしないタイプなので。私が気にするのは、今のところその人がどんな人かって所だけですし………まぁ、多分恋愛対象に入るんじゃないですか?」


「!そ、それは本当かい?!」


「え、えぇ。まぁ、貴方の頑張り次第じゃないですかね。私が他人に興味を持つことなんて限りなく少ないですけど、ゼロって訳じゃないですし………頑張れば、私も貴女のことを好きになるかもしれませんよ?まぁ、駄目かもしれませんけど………そこら辺は貴方の頑張り次第です」


「!そうか!なら、俺頑張るよ!アオイちゃんにいつか告白するから!!アオイちゃんの理想になって見せるから!!!ありがとうアオイちゃん!!!」


「いえ、まぁ………ありがとうございました?」


その人は何かに納得したらしく、勢いよくお金を払ってお店から出ていってしまった。元気な人だな、あの人。名前しらねぇけど。


「ま、いいか………次の人どうぞー」


次にやってきたのは、紺髪黒眼の好青年。確か、どっかの新人冒険者パーティーのパーティーリーダーだとか言ってたような気がする。正直、そこまで詳しく覚えてない。その人も、ビールを飲み干してから話し始める。みんな一気飲みやめといた方がいいと思うよ?急性アルコール中毒とかで死ぬよ?気を付けな?


「アオイさん、俺の悩みは………俺の冒険者パーティーの話なんです。俺のパーティーは、男3人に女2人のパーティーなんですけど………なんか、俺以外の4人は恋人同士になってたりしてるみたいで………俺だけ仲間外れみたいなんです………勿論、結成した初日に恋愛は良いって言いましたけど、まだ結成してから1年も経ってないのに………綺麗に俺だけそういう人がいなくて………」


「それは………大変だ………」


パーティーの内部事情は実にどうでもいいが、その仲間外れってのは深刻だな。私は今までずっと運がよかったから、ペア作りで余ったことはないけれど………仲間外れというのは、仲間内の余りものと言うのは、かなり精神ダメージを負うと聞いたことがある。謎の疎外感とか感じるらしい。だから、それはどうにかしないとな。


というか、またしても解決するの面倒そうな相談きたな。そもそも君、確か15とかじゃなかった?パーティーメンバーも幼なじみとか言ってたし、君もしかして私より歳下?大丈夫?こんな人生の先輩に相談しちゃってそれ平気なの?パーティーリーダーなんでしょ?もっと見る目もとう?私なんかよりもっと専門的な………そう、冒険者。冒険者の先輩達に相談しようよ。わざわざ私みたいなよく物事を知らない世間知らずより、冒険者の先輩の方が何倍も役に立つと思うよ?本当に私で大丈夫なの?


「!しかもあいつら!宿に泊まってる時に隣の部屋でなんかやってるし!喘ぎ声聞こえてくるし!明らかにやってるじゃん!!確かに許可してたけど!けど!!まだ結成して4ヶ月しか経ってないのに!!!もしかして村の時からもう………とか考えるとなんとなくそれっぽいし!!」


「………うっわぁ………」


それは………やばい。幼なじみ達が付き合ってて、しかも喘ぎ声って………うっわぁ………それは気まずいどころじゃないな………というかそれ、私に相談していいの?というか私に相談するの?私みたいな子供じゃなくて、それこそ人生の先輩に聞く用件だと思うけど………


「………まぁ、とりあえず落ち着いて?」


「………うぅ………はい………」


「ひとまず聞くけど、貴方はその状況をどうにかしたいの?やめさせたいの?」


「いえ………やめてほしい訳じゃないんです………おめでたいことですし………けど………けど………!もうちょっと自重してほしい………!」


「あー、なるほど?なんとなく言いたいことはわかった。………んー………防音すれば問題なさげ?」


「はい、まぁ………壁が薄いのも問題なので………」


「んー、そういう、防音用の魔法道具ってあるのかなぁ。一つくらいは買ってみるのも手じゃない?音を消す魔法道具ってかなり役立つと思うし………確か、なんかそれっぽいのがあったような気が………とりあえず、音をどうにかしないとね。私はそれくらいしか言えないよ」


「………そうですね。とりあえず、色々と検討してみます。ありがとうございました!」


「ん、ごめんねー」


んー、私の力及ばず………って感じか。まぁ、仕方ないな。なんとなくあるだろうとはわかってた事だし、気にするような事でもない。次頑張ろうっと。








私はその後、結局20人近くの相談を受けることとなったのだった。

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