第6章 冒険者、求む!(1)

(初めにお断り――。「第4章 冒険者ギルド(4)」にて、アル一行がカイルとともにベイリールを出発する前のやり取りの中で「たいまつ」について言及していた場面があったのですが、作者都合により削除いたしました。あしからずご了承ください。永礼経2022.7.11)



1

「かんぱ――い!」


 チュリが音頭を取り、一同はジョッキをを打ち鳴らした。すでに3回目だ。


「にゃはは~、今日はごちそうだねぇ。エールも久しぶりに飲んだよ~」

チュリは既にほろ酔いだ。

 料理はマルタさんお手製の郷土料理がテーブルに所狭しと並んでいる。 


「あんまり、飲むなよ? 後が大変だから――」

アルがたしなめると、

「まぁまぁいいじゃねぇか、明日は戦闘の予定はねえんだろ? 今日はめでてぇ日だ、なんてったって、冒険者ギルド初の報酬が入った日だぜ? こんな日に祝わねぇでいつ祝うんだよ?」

レイノルドもすでに上機嫌で、チュリと肩を組んでいる。


「アルはそうやっていつもウチを子ども扱いするんだ。ウチだってもう14になったんだからな! もう立派な成人年齢なんだ!」

 

 この世界においては、12歳で今後の進路を決定して一人前の仕事をし始めるという習わしがある、これを「成人年齢」と言っている――作者註。


「それに、胸だってだいぶん大きくなってきたんだからな!」

そういって胸を寄せるしぐさをする。


 やはり、だいぶんと酔っている。いや、これはいつものことか――。


「チュリ、いくら仲間だからって、そんなこと大声でいうものじゃありません――!それに、胸なら私も負けていませんから!」


 おいおい、ケイティさん、あなたもか?


「かっはっは、やっぱ、こういうのはさいこーだな、なあアル! 冒険して報酬もらって、飲む! これぞ冒険者、だ!」


 君はいつも飲んでるじゃないか――。


 どうにもアルはこのようなになれないでいる。

 これは性分というやつかもしれない。

 実はアルは結構お酒に強い体質らしく、いくら飲んでも酩酊することがない。この人たちはこんなにはしゃいでいても、次の日にはケロリとすべて忘れてしまっていることがあるぐらいだが、アルにはそういうことが一切ない。すべて覚えているのだ。それゆえ、飲んでも我を忘れることができない。羽目はめはずす、ということができないのだ。


(ある意味、こういう人たちの方が幸せなんだろうな――)

そのようにうらやましくもある。


「で、アル。あしたはどうするんだよ?」

レイノルドが聞いてきた。


 いまいったところで、どうせ覚えちゃいないのだろうが、そういったところでらちもあかないので、

「あしたは、街頭で宣伝活動だ。まぁ、ビラ配り、だね」


 この世界、大抵ニュースは口コミがメインだった。特に媒体誌と呼べるものはなく、せいぜい王国の告示が出される程度である。ビラ配り、という手法はおそらくこの世界初の試みであるだろう。一般人が大衆に紙面を配るという行動はこれまで行われたことがないのだ。


「ビラ? なんだそれ?」

レイノルドは初めて聞く言葉に首を傾げた。


「冒険者ギルドの発足と、冒険者の公募を報せる内容を書いた紙をばらまくのさ。そうやって、話題になれば、応募者が聞きつけて集まってくると言う寸法さ。王国の告示にも、冒険者ギルドの今日の初仕事のことが発表される手筈になっているんだ」


 これは、すでにミリル以下魔法庁の人が動いてくれている。ビラの作成もすでに手配済みだ。魔法庁から明日の朝には届くことになっている。


「あしたはあしたで、また記念すべき日になるぞ――」

アルは期待に胸が膨らんでいた。



――――



 次の朝、と言ってももうすでに日は高く上っており昼前に近かったが、リリアンが魔法庁からを持ってきてくれた。


『冒険者、求む! 各種依頼達成で報酬あり! 資格不問、経験不問、詳細は冒険者ギルドへ』


 そのような内容が書かれている紙であった。


「すいません。やはり紙は高価なのでこのぐらいしか用意できませんでした――」

リリアンはやや申し訳なさげにそういったが、


「いえ、これだけあれば充分ですよ! 正直こんなにご用意いただけるとは思っていませんでしたので――」

アルはリリアンが持ってきたビラをみてそう言った。

 ビラは数十枚はある。これだけあれば、広くたくさんの人に報せることができる。何といってもこの世界はまだ、口コミが主体なのだ。話題のが手元にあるというだけで人々の注目を浴びるはずだ。


「それと、公示の方は、本日11時に王都の各公示板に掲示されることとなっています」

と、リリアンが付け加えた。



――――



 公示板の前には既に人だかりができていた。皆口々に「冒険者」という聞きなれない言葉について会話をしているのが耳に入ってくる。


(いいぞ、うまくいっている。あとは第一声が大事――)


 アルとレイノルド、チュリ、ケイティの4名は公示板の対角の位置に陣取った。

 そばにはリリアンと魔法庁の役人が1人、あと、王都衛兵2人が待機してくれている。

 すでに、数名の民衆が、こちらの動きに気づき、ざわつき始めていた。


「ベイリス王国のみなさん! 『冒険者ギルド』代表、アルバート・テルドールです! 只今冒険者ギルドでは、冒険者への転身を希望される有志を求めております! 詳細は、こちらの紙に記しております! ご希望の方はどうぞ、お持ちください!」

 アルは声高らかにそう叫んだ。


 公示板を見ていた人々がその声に反応して一斉にこちらへと視線と体を向けた。

 一瞬の静寂が訪れる――。


(ん? 反応が、ない? ――やばい、失敗したか――?)


「さあ! 遠慮なく持ってってくれ! そんでみんなに伝えてやってくれ!」

大声を出して、ビラを頭上で振りかざしたものがいた――レイノルドだ。


 次の瞬間、民衆がわぁっと4人に押し寄せた。

 ビラがなくなるまでに、数分とかからなかった。


 レイノルドがアルに勝ち誇ったような笑顔を向けた。

 



 その日の午後から、ギルドは大忙しとなった。

 早速、希望を考えているだとか詳細を聞きたいだとかで人が集まっていた。


 一人一人に対応していては、埒があかないと判断したアルは、数人ずつをギルドの食堂に招き入れ、詳細を説明する形をとったが、それでも暗くなるまでに5回は同じ話を繰り返した。

 

 今日集まった人だけでも、すでに50人は超えているだろう。

 まぁ、全員が冒険者になるとは思えないが、明日以降もおそらくまだ人は集まってくるはずだ。この分だとここ数日のうちに、何名かは決まりそうだ。


 そうアルは考えていた。



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