第5章 魔巣(3)

3

「――という段取りで。とにかくカイルさんたちの組は、補足した敵をまずは一匹、それから、いければもう一匹。魔感士の能力を、ミーシャを信じましょう」

アルは最後にそう締めくくった。


 カイルたち兵士組は、ゆっくりと頷いた。これまで見てきた限り、魔物との戦闘においては、この少年たちの方が圧倒的に経験があることは認めざるを得ない。

 これが「冒険者」というものか――。


「では、行きましょうか――」

そう言うなりアルは魔巣へと侵入した。


 カイル、兵士2名、ミーシャ、そして最後にケイティが続いて侵入する。


 ――魔巣内部はやはりいつも通り、入ったところが通路の突き当り、通路が伸びた先に“扉”という構成になっている。

 アルは全員が通路に現れるのを確認してから“扉”へと進んだ。


「では、手筈てはず通り。行くよ――!」

そう言うなりアルは、目の前の扉を一気に開け放った――!


 瞬間、アルは右前方へ、同時に兵士1名が盾を構えて左前方へ踏み込む。続いて、アルの後ろの位置にケイティとミーシャ、盾兵士の後ろへカイルともう一人が続いて部屋へなだれ込む。


「アイスウォール!」

ケイティが自身の前方に氷の盾を張る。これでミーシャをガードするのだ。

「ミーシャ!」

ケイティが叫ぶと、


「はい! 右前方2! 左は1! すべて小鬼です!」

弾かれたようにミーシャが叫ぶ。


「オッケーイ! 右2補足した、まず一匹行くよ! あと1匹はとらえたまま待機する――!」

アルが言うなり前方に飛び出した。


「左1、捉えました! シールドバッシュ行きます!」

盾兵が言うなり盾を構えたまま前方の一匹に向かってもう突進する――。


 ――ガツン!


 鈍い音とともに、小鬼一体が弾け飛び、壁面まで飛ばされる。

「「はぁあああああ――!」」

続いて二人が怒声をあげて盾兵の両脇から、鉄槌を振り上げながら飛ばされた小鬼へ襲い掛かった――。


 ――グシャ――!


 という何かがつぶれたような音ととともに、カイルと一緒に飛び込んだ兵士の二人に、必殺の一撃の感触が伝わる。成功だ――。


「次! こっちです!」

アルの声が部屋に響く。

 カイルが見やると、既に一体の小鬼は床に真っ二つになって倒れており、もう一体の小鬼がアルに向けて小型ナイフのようなものを向けて対峙していた。


「いいぞ! いけ!」

カイルが盾役の兵士に合図をすると、盾役兵士はアルに対峙する小鬼の側面へ向かって猛ダッシュする。


 同時にアルは小鬼に牽制の一振りを放つ。小鬼の注意は完全にアルに向けられており、側面の盾兵の動きには気付いていない。


 ――ゴオッ!


 見事成功だ、残った小鬼は側面からまともにシールドバッシュを喰らって、アルの眼前から右方向へ弾き飛ばされた――。


「カイルさん!」


「わかってます! ――はぁああ!」


カイルは盾兵の脇を猛ダッシュで駆け抜け、右手の鉄槌を、小鬼の頭部へ向かって振り下ろす――!


 ――メシャ……!


 嫌な音とともに、小鬼の頭部が吹き飛んだ――。

 頭を失った小鬼の体はその場に崩れ落ちた――。


「クリア!」

アルが叫ぶと、


「クリア、です!」

そうミーシャが応じる。


 戦闘は終了した。

 

 カイルは目の前に転がる小鬼の残骸を見下ろしながら、確かな手ごたえを感じていた。


「さあ、コアを破壊しましょう、外でみんなが待ってます――」

アルが一点を指さし、カイルをうながした。


「あ、ああ、そうですね。では――」

カイルは久しぶりに味わう高揚感を抑えながら、魔巣コアに向けて鉄槌を振り下ろした。



――――



 カイルは馬車に揺られながら、目の前に座っている少年を見ていた。

 

 こちらが3人がかりで一匹と対峙していた時間は自分でも感じているが相当短かった。一瞬と言ってもいい。

 この少年はその時間の間に一人で一匹を仕留め、なお、もう一匹を引き付けていた、ということになる。

 少年の動きを見ている余裕はなかったが、結果がすべてを物語っている。

 とんでもない手練れだ。

 そう言えば洞窟に入る前、あちらの少女もドゴレムを一撃で仕留めていた、いったいこの子たちの力はどれほどのものなのだろうか?

 それから、魔巣の部屋に入った瞬間にちらりと横目に見た、巫女の少女の。何もない空間に氷の壁が出現した、あれが「魔法」というものか――。


 そんなことをぼんやりと考えながら目の前の3人を見ていた。


「カイルさん、どうかしましたか?」

少年がおもむろに声をかけてきたので、カイルは一瞬ためらい、

「い、いえ。テルドール卿たちの力に圧倒されていました――。この先、私たちはやっていけるでしょうか――今日、魔巣の小鬼を仕留めたとき、久しく感じていなかった高揚感を味わっていました。が、それと同時にあなたがた、冒険者、でしたね、その魔物に対する絶対的な力をたりにして、少し兵士としての自信を失いつつもあります――」

カイルは正直に胸の内を明かした。

 

 この小隊長は素晴らしい人物だ。

 僕たち冒険者との初めての共同任務において、やらなければならないことをしっかりと理解して、自分の任務に忠実である。今日の経験は、きっと今後に生かされるだろうと、アルは確信していた。


「何を言ってるんですか、心配いりませんよ。今日の作戦、基本的な作戦ではありますが、僕たちがうまくできるようになるのにどれだけかかったと思ってるんです? むしろ、こちらの方が自信喪失ですよ。一度で完璧にこなされるとは、さすが戦闘のプロはすごい訓練をされているんだなと改めて思い知らされました――」

そう言ってアルは今日何回か見せた笑顔でカイルへ言葉をかけた。


「そう、でしょうか。それならばよいのですが――。いずれにしても、王都へ戻った後は、今日のことをしっかりと反復して、我が国の兵士に落とし込みたいと考えています」


「そうですね、それこそが今日の本来の目的ですからね。よろしくお願いいたします――」


 2台の馬車はすでに王都が見えるところまで帰ってきていた。

 

  

 

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