第4章 冒険者ギルド(4)

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「きょ、今日はよろしくおねがいします――!」

ミーシャ・フローレンベルクはやや緊張した面持ちで、目の前の冒険者たちに頭を下げた。


 彼女はベイリス王国出身の魔感士だ。ベイリス王国魔感士としては二人目となる彼女は、事実上、魔感士としての本来の仕事を、ここベイリスで初めて行った人物となる。

 各国一人目の魔感士は、候補生選定の任にあたっており、本来の魔感士の仕事、つまり、魔巣探索には従事しないことになっている。二人目以降シルヴェリアから帰国したものが、この任にあたるのだ。

 ゆえに、彼女こそ、魔巣探索魔感士の第一号ということになる。


「み、皆さまのことは、師匠・アリアーデ様から聞いております! まさか、一緒にお仕事ができる日が来るなんて、こ、光栄です!」

年のころはアルやケイティと同じぐらいだろうか、まだ幼さが残るその面持ちではあるが、すでに何度も魔巣探索の成果を上げている人物だ、“レジェンドたち”を目の前にしてやや緊張はしているものの、その眼差しにはこれまでの経験から来る自信がみなぎっている。


「こちらこそよろしく、ミーシャ。君はもう既にいくつも魔巣を発見しているんだってね。アリアーデは僕たちの師匠でもあるんだ。兄弟弟子として鼻が高いよ」

アルはそう言って、右手を差し出す。


「そ、そんな、滅相もないです。皆様に比べれば私など、ただ診えるだけの能力しかありませんから、兄弟弟子なんて、とてもとても――」

そう言いながらアルの右手をとって握手をかわす。


「ミーシャ、あなたのことはシルヴェリアを出る前にアリアーデさまから聞いています。私はアリアーデさまからあなたのことをよろしくとことづかってきました。アリアーデさまは、とても残念そうにされていました。もう少し時間があれば、あの子のさらなる可能性を開花させてあげられたのに、と。アリアーデさまができなかった修行の続きは私が受け持つことになります。よろしくね、ミーシャ」

ケイティもそう言って続けて右手を差し出し、ミーシャと握手をかわした。


 今回の依頼の内容はこうだ。

 首都ベイリールの東数キリの場所に、断崖の洞窟と呼ばれる場所がある。最近その周辺で、異様な生物が目撃されたという。

 発見者の話では、それは岩のような体をしており、ごろごろと音を立ててゆっくりとその者の方へ歩み寄ってきたというのだ。

 これについて、捜査および解決せよ、というのが今回の依頼だ。


「今回の任務にあたって、小隊長を務めます、カイル・エデュリスと申します。ミーシャさまとはすでに何度か任務を共にしております。本日は宜しくお願い致します」

そう言って進み出た男は、王国兵士の甲冑を身に付けた、壮年の兵士であった。風貌は歴戦の戦士経験を滲ませている。かなりの手練れだ、とアルは一瞬で感じ取った。


「こちらこそ、ご一緒出来て光栄です。アルバート・テルドールです、エデュリス卿――」

そう言ってアルはカイルの差し出した右手をとる。


「今回の任務ですが、おそらく『ドゴレム』だと思われます」

カイルはそう言った。


「『ドゴレム』? 僕はちょっと見たことがないタイプの魔物かもしれませんね。どういうなんですか?」

アルが尋ねると、


「ああ、『ドゴレム』というのは勝手にこちらが付けた名称ですので、もしかしたらそちらとは違う呼び名かもしれませんが、全身が岩でできている基本的にはゆっくりと動く魔物です。危険度はそれほど高くはありません。というのも、近づかなければ、ただの岩と同じようにじっとしているだけです。ただ、近づくと急激に攻撃を仕掛けてくることがありまして、なにぶん体が岩でできているため、殴られたりすると、人間だと致命傷を負いかねないのです。実際、近づいた小動物などは一撃で死に至らしめています」

 カイルはそのように説明をした。どうもこちらでは何度か目撃されている魔物のようだ。

「危険度が高くないというのは、あくまでも周辺に与える影響としては、という意味です。近づくものが出ればけが人や死人が出てもおかしくはありませんので、やはり放置するわけにはいきません。なにより、近くには必ず魔巣が発見されております」


「なるほど。それで、その魔物、倒すこと自体は難しくないのですか?」

アルはカイルへ質問をさらに付け加えた。


「ええ、それは大丈夫だと思います。これまでも何度か戦っていますが、基本的には物理的にダメージを与えることができますので、剣や鎚で充分です。ただ、体が少々硬いため、剣では刃こぼれが激しくなる恐れがあります。なので我々は今回これを使う用意でいます」

そう言って、右手で腰に差している鉄槌を叩いて見せた。


「わかりました、情報の提供ありがとうございます。――そうですね、ではさっそく参りましょう――」

アルはそう言って、カイルを促した。



 一行は首都ベイリールを出て、東へと馬車で向かうことになった。

 ベイリスにも馬車はある、しかも、ベイリス王国は幹線道路というものを整備しており、徐々にそれを伸ばしているのだと、道中カイルが話してくれた。

 『道路』というのは、地面に細かく砕いた石を敷き詰めたもので、これによって、馬車の走行がスムーズになるというのだ。実際、昔、シルヴェリア王都からエリシア大聖堂へ向かった時に乗った馬車とはまるで比べものにならない程、揺れは小さかった。

 こういった技術の情報も、ギルドが各地にできて冒険者の交流が活発になれば、世界へと広まる速度も速くなり、世界の技術開発も加速してゆくのだろう、とアルは考えていた。

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