友は鋭く
「ジウォンさん最近仕事終わってから家に帰るまでが早すぎません?」
表参道のカフェを貸し切って行われたファッション誌撮影の休憩中、プライベートで来店する時の為にメニューを吟味していた私に後輩モデルの梨々愛がそう尋ねた。
「そう?」
「だって前は夜遅くにスーパー彷徨ってる所とかSNSでめちゃくちゃ目撃されてたのに、いま全然そういうの無いんで」
「彼氏や彼氏」
私の隣で話を聞いていた同期のセイラが訳知り顔で入ってきた。
「とうとう彼氏できたんですか!?見たい見たい!」
「当てずっぽうやけども」
「何ですかそれ。いや実際どうなんですかジウォンさん」
梨々愛とセイラの熱烈な視線を受けて、私は「彼氏未満だけども」と先日母に送った盛重の写真を2人に見せた。男の写真と見るや梨々愛もセイラもはしゃぎ始め「ガタイすご」「何が起きたかわかってない顔めっちゃ可愛い」と感想を好き放題に述べ始めた。
そして盛重の写真をまじまじと見ていた梨々愛が何かに気づいたらしく「あれ?」と眉根を寄せた。
「こんな家に馴染んでんのに彼氏未満なんですか?」
「抱っこしようとすると逃げるもんで」
「猫か?ていうかその関係性で同居してんの?」
「野宿してたのを住まわせてるもんで」
「猫の話してんすか?」
「こりゃ拾い画か?」
盛重の存在を疑い始めた梨々愛とセイラに対し、私は盛重との出会いの経緯を説明した。当初は「それ住まわせて大丈夫ですか」「やっぱ猫の話してんだろ」と盛重の存在のみならず人格まで疑っていた2人だったが、盛重が早々に職に就き生活費の半分を払ってくれていることとアプローチには応じないくせに出ていく気も無さそうなことを話すと「隙を見せろ」「エロい雰囲気を作れ」と野次にも近いアドバイスを寄越してきた。
私は「常に隙だらけだし私自身がエロい」と反論をしたが、そこでふと気づいた。梨々愛もセイラも盛重の痣には言及してこないのだ。
「2人とも痣のことは何も言わないでくれるのね」
「あるなーとは思ったけど言う必要無いかと思いました」
「形からジウォンに殴られた感じじゃないから大丈夫かと」
「私なの?私限定なの?」
優しげなトーンで吐かれた暴言にツッコミを入れつつ、この2人が友達で本当に良かったと私は心の底から安心した。
全ての仕事が終わった後、帰宅した私は梨々愛達の助言に従い常に盛重に対し背を見せて過ごした。盛重が「何かあったの」と心配してきたので「隙を見せている」と答えると、首の後ろに軽く手刀を入れられた。
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