青年の素性

青年が住民票を得るまでは複数の手続きと1ヶ月近い期間を要した。

その間に私は青年が『首藤盛重』という名前であることを知り、また彼の過去についても触れることができた。

青年もとい盛重は顔と身体の痣に対し幼い頃から強いコンプレックスを抱いており、ホームレスになったのもバイト先のコンビニでコンプレックスをなじってきた先輩に暴行を働き逮捕されてしまったことが原因だという。

また、盛重は両親と絶縁状態であるとも話した。小学生時代から痣を由来とした喧嘩を繰り返し、中学では世間のはぐれ者同士でつるみ悪事を働き続け、その結果として中学卒業と同時に親から手切れ金を渡され実家を勘当されたそうだ。

そんな経歴を気にしてか、彼は私がファッションモデルをやっていると知るなり「仕事に就けたらすぐ出て行きます」と何度も強調して言った。


「仕事に就けたらってまだ文無しじゃん。せめて安定するまではウチにいてよ」


「ご迷惑です。それにこんな見た目とはいえ、男と歩いてるだけで変な噂立てられますよ」


「『こんな』って言うな。あと変じゃないでしょ。別に恋愛禁止じゃないし、私があなたに惹かれてるんだから」


私が諭すついでに好意を示してみると盛重は「やめましょうよ」と顔を赤くした。少しつつけばこちらの母性を刺激してくるので恐ろしい子だと思った。






住所登録が終わってから盛重が仕事に就くまではあっという間だった。

盛重が第一志望の郵便局に応募してから3〜4日で面接の案内が来て、面接を受けたらその日のうちに採用の連絡が入ってきた。驚く程に短い期間だったが、それでも面接の案内が来るまで盛重は「相手にされてないのかも」とナーバスになっていたので、私はよく盛重の頭を撫でたり彼が座っているところへ背後から抱きしめたりして「駄目ですよ」とたしなめられた。

だからこそ、採用が決まった時に盛重が衝動的に抱きついてきたのには驚かされた。彼は「ジウォンさん、ありがとう」と私の身体を潰しかねない程の強さで抱きしめてきたが、すぐに我に返ると「ごめんなさい」と顔を青くして私を解放した。この後は私がバッチコイと両手を広げても一切触れてこようとしなくて、私はこの上ない寂しさを感じてしまった。

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