032:パーティに入ってください
「ねぇ、ママなにかへんな話とかしてなかった!?」
「してないよ。この世界の事情を聞いていただけだ」
「そ、そう。なら良かったんだけど……ママって自分の事を『孤独を愛する魔女』だとか言ってるのにすっごくおしゃべりなのよね」
ビア様の隠れ家を出て、俺たちは冒険者ギルドにやってきた。
サンはビア様と二人きりだった時間がよほど心配なようだった。
「よし、気持ちを切り替えないと。クモルの初クエストになるんだもんね。失敗しないように集中していきましょう!」
ギルドにつくと、なにやら騒がしかった。
受付カウンターに人だかりができているようだ。
「なんだ?」
「なにかしら?」
状況が呑み込めずに一瞬立ち止まると、そんな俺たちに視線が集まる。
一瞬の静寂の後、冒険者たちが弾かれるようにしてこっちに群がって来た。
俺ではなく、サンをめがけて。
「サン! 俺のパーティに来いよ! お前が入ればAランクパーティも夢じゃねぇ!」
「僕のパーティに来るべきだね! サンには最高の待遇を保証するよ!」
「いや、サンは私のパーティこそがふさわしい! 一緒に戦おう!」
一夜にしてすごい人気者になったものだ。
高ランクのクエストをクリアしたおかげだろうか。
「サンったら、すごい人気ですね」
屈強な冒険者たちに押しやられて人気者の輪の中から弾かれた俺のそばに、いつの間にかいたのは受付嬢のカトレアさんだった。
「ナイトウルフを倒したことが噂になって、朝からパーティの申し込みが殺到していたんですよ」
どうやらサンの実績を認め、手のひらを反すようにパーティに勧誘しようということらしい。
「パーティか。組むと何かメリットがあるのか?」
「もちろんありますよ。固定メンバーがいると連携が取りやすいですから、クエストの成功率も上がるし、メンバーの生還率も上がるんです。なのでギルドではパーティでの活動を推奨していますし、パーティ向けの依頼には報酬にボーナスを付けるようにしてるんですよ」
「なるほどな。個人より良い依頼を受けられるし、貰える報酬も良くなるってことか」
サンが奪い合いになるワケだ。
「この様子だとパーティ単位の指名制度でもあるみたいだな? わかりやすい実績を持つメンバーの存在はパーティの価値を高めてくれる、と」
「そういう事ですね。あいかわらず察しが良いです」
カトレアさんがゴキゲンな様子でふわりと笑う。
だがこれは誘われるサンにとっても都合が良い話だな。
ランクの高いパーティに入れば、その分だけ良いクエストに巡り合える確率も高まる。
力を認めてもらうには最高の環境だろう。
と、思ったのだが、肝心のサンはと言うと冒険者たちをかき分けてきて、俺の背中に隠れてしまった。
「私はもうクモ……クラウドと組むって決めてるの!!」
まるで盾にされている。
やれやれ、俺は人避けアイテムじゃないんだがな。
「ん? 誰だ? このガキは……知らない顔だな」
「おいおい、こんな子供と組んでも意味ないよ? 僕のパーティにおいで?」
「そうだそうだ! もっと上を目指せるんだよ? 高ランクパーティに所属すればその分、高難易度のクエストができるんだから! だから私のパーティに!」
「も~~~! そんなのもう良いから! 私はこの人と組むって決めてるの! しつこいわよ!」
サンが断っても相手がなかなか折れないようだ。
それくらいの気持ちの強さがないと冒険者などなれないのかもしれないが。
サンは勧誘されたパーティに加入するつもりはないらしい。
嫌がっているのに無理強いするのは良くないよな。
「まぁまぁ、サンもこう言ってるわけだし」
と仲裁に入ったのだが……
「いや、だから誰だよお前」
「ザコはひっこんでろ」
「え? マジでだれ? そもそも冒険者なの? ただのゴミ? ゴミ箱はあっちだけど?」
ひどい言われようである。
ここでもザコ扱いか。
この世界での俺の扱いには謎の統一感があるな。
「ちゃんと冒険者だぞ。なぁ、カトレアさん?」
「えぇ、クラウドさんはちゃんと冒険者登録されてますよ。れっきとした冒険者さんです。Eランクの」
「やっぱりザコじゃんか!!」
「ザコはひっこんでなよ!!」
「邪魔だよザコ冒険者が!!」
最後に付け加えられた「Eランク」に反応して冒険者どもが燃え上がる。
最後の絶対ワザとだ。
この人、実は楽しんでるな!?
カトレアさんは相変わらずふわふわした笑顔で俺たちを眺めていた。
こうなると楽しそうな笑顔に見えてくる。
「どけぇ!! 有象無象どもがぁ!!」
そこへひときわ声のデカい男がやってきた。
屈強な冒険者たちの中でもひときわデカいマッチョだ。
「……誰?」
「あぁん、この俺様を知らないのか!? このギルドで最強の冒険者パーティと言えば俺様たち
「悪いな、まだこの町には詳しくないんだ」
ガチの強者というワケだろうが、知らないものは知らない。
町と言うか、そもそもこの世界に来たのがつい最近なんだから許してほしい。
「このギルド最強を自称する冒険者さんですよ。【ロールベア】では数少ないAランク冒険者さんなんです」
いきなり現れた強者っぽい冒険者にまわりの冒険者たちがたじろぐ中、カトレアさんが平然とした様子で説明してくれた。
Aランクということは実際にかなりの実力者なのだろう。
「俺はクラウドだ。それで、えーと……ハミチンさんだっけ?」
「ハーミンチだ!! その顔はわざとだろ!? 次まちがえたらぶっ殺すからな!? マジで!?」
今回は許してくれるらしい。
意外とノリが良い男なんだな。
好感度アップだ。
「それでなんの用なんだ? 俺はクエストを受けたいだけなんだけど」
「だったら一人で受けな。サンはこのギルドで最強のパーティ
「はぁ!? 何言ってんの!? 引き受けてなんて頼んでないわよ!!」
「……らしいけど?」
「ぐぬぬ……!! だったら……だったらサンをかけてこの俺様と勝負だ! ザコ冒険者! 決闘だよ!!」
「いや、なんでそうなるんだよ……」
なんか昨日も似たようなマッチョに絡まれた気がするんだが……。
こいつはもしかしてサンのファンだったりするのか?
そもそもこの町の冒険者ってこんなやつばっかりなのか?
「だいたいお前みたいなザコと組んでもサンの力を持て余すだけだなんだよ! もったいないぜ!!」
「だったら実力を示せばいいのか? 俺がお前より強いってことを」
結局、それが一番早いんだろうな。
Aランクらしいけど負ける気はしないし、速攻で黙らせるか。
「あ~~~~? てめぇ、Fランクが調子乗ってんじゃねーぞ? おん?」
俺はEランクだっての。
誤差だろうけど。
「やれやれ。少し黙……」
「ちょっとアンタ、いい加減にしなさいよ!」
俺の言葉をさえぎってサンが飛びだした。
「あ、おい! サン!?」
「さっきから黙って聞いてれば好き勝手なこと言って! クラウドはアンタなんかより100000000倍は強いんだからね!?」
フォローしてくれるのは嬉しいが、いや、さすがに0が多すぎるだろ。
「な、なんだと!? こんなどこの牛か馬の骨ともしれないモヤシみたいな男がこの俺様より強いわけないだろうが!!?」
「この人は私より強いわ! そして私はアンタよりも強いんだから!!」
「な、な、なにをぉおおお~~~~~~~~~~~~~!?」
「その決闘、私が受けるわ!」
言うが早いか、サンは剣を抜いて構えた。
「私が勝ったら私はクラウドと組む! アナタが勝ったらクラウドはアンタにゆずるわ!」
「いや要らねぇよ!? お前が俺たちと組むんだよ!?」
あっと言う間になんだか良く分からない事になっていた。
俺はクエストを受けたいだけなんだが。
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