014:勇者たちの不運/綿部②

「んぎゃああああああああああああ!?」


 俺は綿部。

 選ばれし勇者だ。


 なのに俺は今、泣き叫びながら死にかけている。


 どうしてこうなった?


 俺は野寺間を探してネラレッドの森へとやってきた。

 そこで黒い毛皮の巨大なクマと出会った。


 見た目はデカいがただのクマだ。


 俺に与えられたスキルは【聖槍】せいそうだ。

 槍を無限に生み出して操作できる超有能なスキルである。


 試練の魔物だって倒せたんだ。

 勇者が魔物に負けるわけがない。


 こんなクマは俺の相手にもならない。


 だからこれはただの腕試し。

 野寺間をボコるための準備運動のようなもの。


 そのはずだのに……


【聖槍砲弾】ランサーキャノン!!」


「…………キャウ?」


 俺の攻撃を受けても、クマはビクともしなかった。


「な、なにぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」


 バカな!?


 攻撃されて怒ったのか、赤い目を光らせて襲い掛かってきた。


「……手に負える相手じゃない。逃げる」


 古島は「力量差も分からないの?」とバカにしたように、呆れたように俺に言って、退路を作り出そうとしていた。

 無表情だが絶対にそうだ。

 俺をバカにしてるんだ。


「俺は勇者だぞおおおおおおおおおおおお!!」


 野寺間はこの森に潜伏しているんだ。

 生きてなきゃ意味がない。

 俺は評価されるべきなんだ。

 だから野寺間は生きてる。

 あいつが死なないなら俺も死ぬはずがない。

 底辺はあいつなんだから。


「……落ち着いて」


「俺は冷静だああああああ!! 俺は強いんだあああああああああ!!」 


 だから俺は負けるはずがないんだ。


【聖槍円光陣】ライジングランス!!!!」


 無数の槍を展開し、串刺しの八つ裂きにする必殺技だ。

 俺はこの技で試練をクリアした。

 俺が操作する槍は縦横無尽に空中を駆ける。

 この技に逃げ場は無い。この技を食らって生きていた魔物はいない。


 だから死ぬべきなんだ。

 底辺魔物ザコモンスターに俺が負けるなんてありえない。

 硬すぎる皮膚で槍が貫通しないなんてありえない。


 無傷だなんて、ありえない!


【鏡面雪花】アイスコート


 俺がクマに噛みつかれる直前、古島がスキルの力でクマの足元を凍らせた。

 クマは足を滑らせ、体制を崩した。


「……今のうち」


 それだけ言って古島は逃げ出した。


「ま、まってくれよおおおお」


 俺も慌てて追いかける。


 なんでだ?

 なんで勝てない?


 勝てないどころか、勝負になっていなかった。

 この森の魔物は試練の魔物より強い?

 そんなバカな。

 こんなのは何かの間違いだ。


 俺は弱くない。

 俺は悪くない。


「なにぃ!?」


 だから、もう一体のクマに挟み撃ちにされたのは俺の判断ミスじゃない。


 俺がすぐ逃げなかったから?

 違う、そうじゃない。


【白氷守護】ホワイトアイギス


 正面に現れたクマの攻撃を古島が氷の盾で受けるが、一撃でヒビが入ってしまった。

 試練の魔物には傷一つ付けられらなかった鉄壁の盾だったのに。


「……くぅ!」


 奇襲を食らって古島は技を出すタイミングを逃したようだ。

 盾だけで次の一撃は受けきれないだろう。


 古島が時間を稼ぐ間に俺は逃げだした。


 だが、もう一体のクマが追ってくる。


 【聖槍砲弾】ランサーキャノンを放つが足止めにもならない。


 おかしい。

 こんなのは絶対におかしい。


 クマが背後に迫っていた。


 小さな瞳が放つ赤い光はまるで悪魔の瞳のように思えた。

 恐怖で足が絡む。


「んぎゃああああああああああああ!?」


 もうダメだ。

 何で俺がこんな目に合う?


 あいつだ。

 あいつのせいだ。

 全部……


「ギャウウウン!?」


 諦めかけたその時、急にクマが吹き飛ばされた。

 俺の【聖槍】でビクともしなかったクマが、まるで見えない衝撃のようなもので軽々と吹き飛ばされたのだ。


 吹き飛ばされたクマは木々をへし折って転がっていくと、そのまま動かなくなった。

 同時に、古島を襲っていたクマも同じ目にあっていた。


「…………な、なにが」


 そして、木々の間から現れたのはあいつだった。

 城から追放された最弱のザコ勇者。


「ん? 騒がしいと思ったら、なんだ……お前らだったのか」


 見つけた。

 自分からノコノコ現れやがったのだ。


 野寺間!!

 全部こいつが悪いんだ!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る