015:森の中での遭遇
「んぎゃああああああああああああ!?」
俺が森を探索していると、悲鳴が聞こえた。
巨大なクマの肉を手に入れた事により当面の食料には困らなくなったため、本題である森の主を探して森を探索していた所だった。
サンはというと「こんな上等な食材が手に入るなんて腕が鳴るわね。今日の夜は期待してて!」とか言ってすごいキラキラした笑顔で料理に励んでいる。
笑顔が眩しすぎて止められなかったのだが、夜がめちゃくちゃ心配だ。
料理の手伝いも断られたため一人で森を探索していたのだ。
「人間の悲鳴か?」
ここは人が近づかない場所だとサンからは聞いていたが、誰かが迷い込んだのだろうか。
一度足を踏み入れたら出られないという呪いはさておき、そもそも一般人ではあのクマと出会っただけで命の危機にさらされるような森だ。
他にも危険な魔物が数種類いるらしい。
助けが必要かもしれないな。
俺は声の方へと走った。
するとそこでは、涙と鼻水だらけで泣き叫んでいる男がいた。
クマに襲われている。
俺が今朝倒したクマと同じ見た目なのでブラックベアだろう。
俺は素早く「スナイパー・ドン!」を放ちクマを倒した。
よく見るともう一人、クマに襲われていたのでそっちのクマも吹っ飛ばしておく。
魔法だろうか。
その女の子は氷でできたような盾を持っていた。
他に気配はないようだ。
とりえあず一安心といったところか。
もしかしたら冒険者かと思ったが、良く見ると二人ともクラスメイトだった。
「ん? 騒がしいと思ったら、なんだ……お前らだったのか」
名前は……なんだったか。
どっちも初めて同じクラスになる相手だったのでよく覚えていない。
見たことがある顔な気がするので、多分クラスメイトだ。
という事は、さっきの女の子の氷の盾はスキルの力なのだろう。
この二人は勇者なのだ。
俺のようにザコ認定されたハズレ勇者ではない本物の勇者だ。
そんな二人ならクマくらい余裕で倒せると思うのだが……不意打ちでも食らったのか、それとも何かトラブルがあったのだろうか。
良く考えたら勇者の力で作った盾にヒビが入っているくらいだから、相当な数と戦ったのかもしれない。
もしかしたら別の戦場で戦った後だったりするかも知れないな。
あの国王の事だからそれくらいの無茶をさせていてもおかしくはない。
「見つけた……見つけたぞ……野寺間ああああああああ!!」
俺が納得していると、突然、泣き叫んでいた男が絶叫した。
「……っ! 綿部、待て」
女の子の方が男を止めようとするが、遅かったようだ。
綿部と呼ばれた男の周りにいくつもの槍が現れ、俺にめがけて飛んでくる。
これが綿部のスキルなのだろう。
槍を出現させて操る能力と言ったところか?
ざっと数えても10本以上の槍が現れていた。
細かな装飾の施された槍は一本一本が高級品のように見えるが、だからと言って怖くもなんともなかった。
速度も遅いし、圧倒的に威力が足りない。
俺は視線だけの「ドン!」でそれを全て弾き返した。
弾かれた槍の一本が綿部の股間近くの地面に刺さり、情けない悲鳴を上げる。
なんか勇者っぽくない言動だな。
「これは、なんのつもりだ?」
勇者の攻撃にしては弱すぎる気がする。
これではクマも倒せないだろう。
「手加減のつもりか?」
もしかしたら俺を捕まえに来たのかもしれない。
生け捕りにしようとしているのなら手加減にも納得だ。
しかし、こんな呪われた森にまで追いかけて来るとは、なかなかの根性だな。
「なん……だと……?」
「ん? 違うのか? 俺を生け捕りにしに来たのかと思ったんだが」
「ふ、ふ、ふざけるなぁあああ!! おまえの生死なんて問われてねぇんだよおぉぉおおおおお!!」
綿部が急に激高した。
何か、プライドのようなものを傷つけてしまったようだ。
「最弱はおまえなんだ!! 俺がおまえに負けるわけがないんだあああああああ!!」
手加減ではなかったらしい。
ならば極度の疲労だろうか。
能力の使い過ぎは過度の疲労を引き起こすのだ。
俺も神と王との連戦をした時にはそうなった。
その状態ではスキルの力もかなり低下する。
「おい古島! お前も手伝え!!」
「…………」
二人がかりで攻撃してくるのかと思ったが、古島と呼ばれた女の子はただ首を横に振るだけだった。
加勢するつもりはないらしい。
「チィ……!! この陰キャ女がああああ!!」
綿部が苛立ちを隠そうともせずに何度も槍を放つが、相変わらず威力は低いままだ。
俺の「ドン!」を突破する事ができるとは思えなかった。
「いや、待て。少し話を聞いてくれ」
ある意味でこれはチャンスだった。
勇者に問答無用で攻撃されると俺もただでは済まないだろうが、今なら話をするくらいの余裕がある。
どこかで誤解を解かなければずっと追われ続けるだろう。
少なくとも古島は戦うつもりがなさそうだ。
だが、綿部は全く話を聞くつもりはないらしかった。
「くそがあああああ!!死ねえええええええええええええええええええええええええ!!」
やれやれ、この世界には俺の話を聞かないやつが多すぎるんじゃないか?
そのせいでこっちは困っているというのに。
そう考えると少しムカついてきた。
「
「はぁ……少し黙れ」
俺は仕方なく綿部を「ドン!」した。
「んぎゃああああああああああああ!?」
綿部は繰り出した必殺技らしき攻撃ごと吹っ飛んで木に打ち付けられ、そのまま倒れた。
「お、俺がこいつに……負ける……ワケ……な……」
綿部はそこで意識を失ったらしい。
クマを攻撃する時よりも更に手加減したつもりだったのだが、もう疲労の限界だったのかも知れない。
古島は相変わらず攻撃をしてくる様子がなかった。
冷静に状況を観察しているようだ。
綿部の仲間かと思ったのだが、綿部が倒れてもあまり気にしているようには見えなかった。
じっと俺だけを見ている。
整った顔立ちの美少女だが、何を考えているのか読み取れない無表情だった。
「今のお前たちでは俺には勝てないと思うのだが、どうする?」
「…………私には最初から戦う意思はない」
古島は氷の盾を解除すると、両手を上げて戦闘の意思がないことを示した。
「そうか。なら良かった。俺も戦いたいわけじゃないからな」
「……ただ、聞かせて。……城で何があったのか、その真実を」
俺は驚いた。
なぜならクラスメイトの誰もが王国を信じ切っていると思っていたからだ。
古島だけは王国を疑っていたのだ。
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