005:神殺しの技
「愚かな人間よ、もう一度だけ聞く。貴様は神に逆らうつもりなのか?」
駄々をこねる子供をあやす母親のような、そんな優しい神の声はそれが最後だった。
「速く俺たちをここから出せ。ゴリを救いたい」
「黙れ小僧!! 頭が高い!!」
変わらない俺の返答に、神の声色が一変する。
それが本来の声色なのだろう。
優しさとは正反対に相手を威圧するような声だ。
――ズゥン!!!!!!
同時に頭上から俺を押しつぶすような衝撃が来るのが分った。
それはまさに威圧そのものだ。
神の威厳と怒りが具現したかのようである。
――ドォン!!!!!!
俺の「ドン!」が神の威圧を真っ向から迎え撃った。
威圧を弾き返すつもりだった俺の衝撃波は、しかし神の威圧を相殺するだけだった。
俺は更なる「ドン!」で応戦した。
怒りが生み出すであろう全力の「ドン!」を神へと放つ。
――ドンッ!!!!!!!!!
だが、神は強かった。
先ほどまでの試練も魔物たちとは違う。
俺の衝撃波を受けても吹き飛ばない。
同じような衝撃波で応戦してくるのだ。
俺の衝撃波と神の威圧がぶつかり合い、バチバチと周囲に弾ける。
小さかった部屋は崩れては修復を繰り返して広がっていく。
「うおぉぉぉぉぉ!! ドンッ!!」
感情が生み出す「ドン!」に、さらに言葉の「ドン!」を上乗せする。
今の俺にできるであろう最大出力の「ドン!」だ。
――ドンッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
感情と言葉、二つが混ざり合って生み出された衝撃波が神の威圧を押し返す。
力の均衡が崩れた。
決めるなら今、この瞬間しかない。
俺はそう直感した。
全てをこの瞬間に出し切る。
「ドン! ドン!! ドン!!! ドン!!!!」
勝てる。
俺の衝撃波が神にも届こうという、あと一歩の所だった。
「図が高いと……言っている!!」
神は強かった。
神はまだ力を残していたのだ。
――ズゥゥゥゥンッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
俺の衝撃波は神の威圧によって一気に押し返された。
勝利を確信したその一瞬の油断を神は見逃さなかったのだ。
神の力が完全に俺の力を上回っていた。
「う、おぉぉぉぉぉ!!」
まるで重力が百倍にでもなったかのように、俺とゴリは強力な力によって地面に叩きつけられた。
なんとか腕を入れてゴリの頭は守ったが、それでもダメージは大きい。
ただでさえ弱っているハズなのに、これ以上は危険すぎる。
俺が何とか……。
何とかしなければ……。
威圧で俺たちを押しつぶしたまま、神が言う。
「どうだ? 話を聞く気にはなったか?」
神は目の前だった。
わざわざ見下ろしに来たらしい。
その顔は勝利の愉悦に歪んでいた。
声は威圧するよりも、いたずらでもするように楽しげだ。
何か……何かないのか……?
俺にあるのは【ドン!】だけだ。
その【ドン!】も通用しなかった。
いや……まだだ……!!
まだ試していない事が一つだけあった。
だが、それを実現する力はもう俺にはなかった。
身体を押しつぶそうとする威圧から逃れられない。
立ち上がる力すらも今の俺には無かった。
「フゥン……良い眺めだな、驕り高ぶった無様な人間。弱いくせに必死に生きようとして、ずいぶんとカワイイじゃないか。首くらいは動く程度の力にしてやろうか?」
言葉通り、少しだけ威圧が弱まった。
それでも体は動けない。
「ほら、さぁ選べ。イエスか、ノー。話を聞くか、それとも死ぬかだ」
いよいよ最後のチャンスだと、神が甘い声で囁く。
もう、ダメなのか。
せめてこの手を伸ばす事だけでも出来れば……。
そう思った時、気絶していたはずのゴリの身体が動いた。
威圧の衝撃で意識を取り戻していたのだ。
「ゴリィィイイイイイイ!!!!」
まるで俺の意思を理解したかのように、ゴリが俺の身体の傘になるように立ち上がった。
その身に神の威圧を引き受けてくれる。
「答えはノーか。死ね」
氷のように冷たい声と共に、神の威圧が力を増す。
まるで飽きたオモチャを捨てるみたいに、俺たちを殺すつもりなのだ。
「ゴリハァ……!!」
それでもゴリは耐えた。
威圧のダメージでゴリゴリと口から血を吐きながら、それでもまだ俺を守るように。
耐えられるのは一瞬だろう。
その一瞬を、俺は無駄にしない。
ゴリのおかげで威圧が軽減された俺は、自由になった手を神へと伸ばした。
神の平らな胸を、俺の手の平が捉えた。
「貴様ァ!! 汚らわしい手で神に触れ――」
「黙れ……ドンッッッ!!!!!!」
後先の事など何も考えなくて良い。
ただ全力全開で、今の俺が持てる全ての力をこの手の平から放つ。
今までとは違う全方位への衝撃波ではない。
一点に集中した高密度の衝撃波であり、そして直接触れての「ドン!」。
俺のスキルは衝撃を生む。
だからそれを少しでもロスがないように、俺が考え付く限り最大効率で神を攻撃するために、その手段を使い尽くした一撃だ。
まさに神殺しの「ドン!」である。
これは衝撃波ではない。
本当の衝撃。
名付けて……「ダイレクト・ドン!」!!
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