004:試練の先で
「やっと、これで……終わりか……」
巨大な黒いドラゴンを最後に、それ以上の魔物は出てこなかった。
振り返るとゴリも無事みたいだ。
ゴリから離れて戦ったのは正解だった。
俺の周りには巨大な足跡や爪の跡、薙ぎ払われた尻尾の跡、ドラゴンの息で焼けた跡などが広がっている。
ただ、俺の近くは綺麗なものだ。
全て【ドン!】が弾き飛ばして守ってくれたのだ。
俺には傷一つ付いていない。
ただ疲労感はあった。
どれくらいの時間戦っていたのかも分からないが、かなりの時間が経った気がする。
「ゴリ、大丈夫か?」
まだゴリに意識はない。
その心臓の鼓動が弱まっていた。
「クソ……!」
このまま放って置くのは危険だろう。
早くどこかで治療してもらわなければ。
この世界には魔法が存在する。
スキルによっては治癒の能力を得る者もいるらしい。
だが死者を蘇らせる能力を持ったスキルだけはこの世界にも存在しないらしい。
ゲームなどでは良くある剣と魔法のファンタジー世界。
だがこの世界はゲームではない。
死者は決して生き返る事はないという絶対的なルールだけは元の世界と変わらないままだった。
試練はもう終わるのか?
途中で辞める方法は?
どうすればここから出られる?
必死に思考する。
ふと見渡すと、いつの間にか道が開いていた。
「いくしかないよな……」
考えても分からない事は考えない。
今はとにかく最速で試験を終えるしかないんだ。
「もう少し、がんばってくれよ……!」
俺はゴリの体を抱えて先へ急いだ。
ゴリの巨体は思っていたよりもずっと軽く、フローラルな香りがした。
白い石畳の道が続き、だんだんと赤く染まっていく。
最後にたどり着いたのは小さな部屋だった。
そこには一人の少女がいた。
「私はこの世界の神、ウリクス」
地面に広がるほどに伸びた漆黒の髪と、穢れのない純白の衣を羽織ってそこで待っていたのは神を名乗る存在だった。
「よくぞ来た、異世界の勇者よ。そして良くぞ試練を突破した。そなたに力を授けよう。真なるスキルの力を……」
「ありがとう。でもそんな事は後で良いから、早くここから出してくれ! 仲間が危険なんだ!」
俺は思わず急かしていた。
神に対してめちゃくちゃ失礼だとは自分でも思う。
でも本当に時間がない。
ゴリはもう死にかけている。
鼓動が小さく弱弱しい。
「落ち着きなさい、勇者よ。まだ話の途中です。神の話が聞けないとでも言うのですか?」
「聞くさ! 話が必要ならいくらでも聞いてやる! だから先にこいつを治してやってくれないか?」
「それは無理です」
神はあっさりと言い放った。
俺は思わずアホみたいに口を開けたと思う。
「なんでだよ!? あんた神なんだろ!?」
「神にもできる事とできない事があります。そして下界への介入は最低限のみ、スキルを授けるしか許されないのです。何でも出来るなら神が魔王を打ち滅ぼしているでしょう」
神が最もな事を言うが、今の俺にとっては不愉快なノイズのように聞こえた。
「だったらスキルなんていらない! 試験は不合格で良い! だから俺たちをここから出してくれ!」
スキルよりも大事な物があるのだ。
今の俺にとって、それはゴリの命だ。
過ごしたのはほんの少しの時間で、会話の内容も意味不明だった。
それでも俺はゴリの事を仲間だと思えた。
これからどんなに強力な能力を手にしたとしても、守りたい命の一つも守れなければそれには何の意味もない気がした。
「良いのですか? スキルの力も無しに魔王たちと戦うことなどはあまりにも愚かで無謀なおこない。あなたはそれをここで……この試練の中で嫌と言うほど思い知ったはずですが……??」
まるで話を聞かない神を相手に、結論よりも先に我慢の限界が来た。
俺達には時間がないんだ。
そして自分でも驚くほどの、焦りと、そして怒りがあふれる。
焦りでゴチャゴチャとしていた思考が白く染まる。
そして、紅へと。
「黙れ」
言葉にせずとも【ドン!】が発動したのが理解できた。
まるで効果音のように、俺の全身から「ドン!」が迸る。
――ドンッ!!!!!!
衝撃波が部屋に無数の亀裂を走らせた。
――バキバキバキバキッ!!
神の黒髪が舞い上がる。
だが、神は吹っ飛ばなかった。
「貴様、神に逆らおうと言うのか……?」
神の表情が一変していた。
先ほどまでの落ち着いた雰囲気は消し去られ、額や首から伸びた血管が顔に赤く浮き上がる。
眼球にも血管が走り赤く染まり、その瞳までもが燃えるように赤かった。
ビリビリと振動する空気すら燃えるように温度を上げ、ついには火の粉が周囲に舞い始めた。
純白の衣服は燃えがり、その下に黒い下着のような姿だけが残った。
その姿はとても神には見えなかった。
それはまるで、悪魔だ。
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