閑話 不穏

「くそっ!あのババア!マネージャーの分際ででしゃばりやがって!!」


 クリスマスイブの楽屋裏で椅子を蹴倒す男達。

 どの男もイライラした顔をしている。


「ちっ!取り敢えず、会社通じて、Mikuの事務所にクレーム入れろ!良いな!!」

「わかりました。」


 男たちのマネージャーがすぐに了承する。


「あのババアをMikuのマネージャーからはずさせろ!それと・・・次は年明け絡めそうな何かあったか?」

「・・・はい。1月の半ばに撮影があります。そこでにMikuをねじ込む事が出来ると思います。」


 マネージャーがスケジュールを確認してからそう言うと、男たちは皆表情をいやらしく歪める。


「よし、じゃあそこだな。薬、用意しとけよ?」

「わかりました。」

「かー!取り敢えず、今日はあのオナホども何人か呼ぶか!くそっ!ムカつくからめちゃくちゃにしてやろうぜ!」

「まぁ、死なない程度にしとけよ?死ななきゃどうとでもなるんだからよ?」

「わあってるっての!」

「今から年明けが楽しみだな!思う存分やってやろうぜ!」


 男たちは、嗤いながら楽屋裏を後にする。


「・・・はぁ。頼むから殺してくれるなよ?・・・一応、あそこに電話しとくか・・・『あ、もしもし?すみません突然!いつものなんですが・・・はい・・・それと、万が一が会った場合の処理を・・・ええ、そうなんです・・・はい、良い値で支払いますので!はい!よろしくお願い致します!!』・・・はぁ。あ〜・・・気が重い・・・にしても、Mikuも可哀想に・・・あんなクズに目をつけられて・・・でも、あいつらから逃げられた子はいないし・・・あ〜気が重い・・・」


 マネージャーは出ていく。

 胃をさすりながら。


 だが、彼もまた同じ穴のムジナであった。

 なぜなら、会社の意向とは言え、犯罪に手を貸しているのである。

 彼の運命がどうなるのかは、今はまだわからない。







「・・・ッチ!」

「落ち着いて下さい。」

「わかってる!だが、ミサキは俺の何が気に入らないってんだ!!金持ち!ハンサム!若さ!俺は全てを持っている!そうだな!?」

「おっしゃる通りでございます。」

「くそっ!あの計画はどうなってる!?」

「はっ・・・来月、あちらに長期滞在する予定を組んであります。その際に・・・」

「よし!なら良い!上手くいったら、すぐに婚約発表だ!」

「周防のご頭首への確認は・・・」

「発表だけでもしちまえばこっちのもんだ!後は俺から離れられなくしてやればいいだけだからな。どうとでもなる。」

「さようで。」

「きゃっ!?」


 男は、プライベートジェット内で、搭乗員の女性を抱き寄せる。


「傷心の俺を癒やしてくれるかい?」

「・・・はい♡」

「では、私はこれで。」


 男と搭乗員の女性を残し。お付きの女性はその場を離れる。

 そして、嬌声が響き渡る。


「・・・坊ちゃまは女癖が悪くて困る。だが、『周防』・・・坊ちゃまをコケにした罪は贖ってもらおう。」


 お付きの女性はそう心に誓う。

 彼女は、男に忠誠を誓っているのだ。


「・・・轟、と言ったか。あんな小娘などどうとでもなる。さっさと排除して、坊ちゃまのご要望どおりにしなければな。」


 虚空を睨み、彼女はプランを確認するのだった。









「さっきのは、中学生かな?」

「ちょっと、ちゃんと前を見て歩きなよ。」

「ああ、悪い悪い。」

「悪いと思ってるならスマホしまいなさいよ。そんなので、見つかるわけないじゃないの。またぶつかる・・・」

「っ!?・・・これは・・・」


 彼は女性の忠告を聞き流し、足を止めスマホを凝視する。

 それは、とある学校の文化祭の様子。

 教室でカジノをやっているようだ。

 何枚かある中に、とても綺麗な女性や、可愛い女の子が写っている。

 どうやら、隠し撮りしたもののようだ。

 そして、その中に・・・


「美嘉・・・見つけた・・・」


 見切れている人の中に、想い人を見つけた。


 何か指示を出していると思われるポーズをしている。

 その傍らにも、想い人と同じ位に綺麗な生徒が写っているが、彼の目には入らない。


「ようやく・・・ようやく見つけた・・・これで会えるね。」


 執念である。

 そんな彼のそばで彼に声をかける女性。

 

「・・・ねぇ、会いに行くの?これ、県外の学校だよ?」

「当たり前だ!幼馴染を救いたくないのか!?」

「・・・救う、ね・・・」

「何だよ?」

「いいえ、何も?で、いつ行くの?」

「今月中に行くつもりだ。新年早々、僕は運が良い。これは運命だよ。僕が美嘉を救うんだ!」

「・・・」


 女性は、狂気を感じる目をしてそう言う男を、冷めた目・・・むしろ、憎々しげな目をしてその様子を見ている。


「・・・んたの・・・いよ・・・美嘉・・・!!」


 計り知れない怒りをこめて何かを呟く女性。

 その声は男には届いていない。


「すぐに予定を組まなきゃね!」

「・・・私も行くから。」

「そう?やっぱり幼馴染に会いたいのか?」

「・・・そんなところよ。」

「素直じゃないなぁ。もっと嬉しがれば良いのに。」

「・・・」


 上機嫌な男と、怒りを押し殺す女性。





 それぞれがそれぞれ、瞬達の住む街を目指す。

 

 悪意はすぐそばまで迫っていた。

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