閑話 正妻としてside美嘉

「はじめまして。美嘉さんの母親である理沙と申します。」

「・・・父の和正だ。」


 今、あたしの両親がシュン達に挨拶をしている。

 お母さんは相変わらずね。

 お父さんは・・・やっぱりかぁ。

 明らかにシュンを睨んでいる。


 これはやっぱり少しだけ計算が狂ったなぁ。

 まぁ、全てはクォンを受け入れた時に覚悟していた事だけど。


 ・・・思うようにいかない。

 

 思えば、あたしが人としての生を受ける前からずっとそうだ。


 アルフェミニカだった時は魔族をなんとか滅びから救おうとして、世界を滅ぼしかけた。

 そして、人としての生を得てからは・・・


『美嘉!僕はずっと君の事を!!』

『・・・ごめんなさい。あなたの気持ちは嬉しい。だけど、あたしにはずっと前から相手がいるの。』


 ・・・本当に、申し訳無い事をしたと思っている。

 彼の人生を壊してしまった。


 全ては自分が招いた事だ。


 あの頃、丁度あたしの心が折れかけた頃だ。

 毎日のように探査の魔法を使って、それでも反応せず、シュンは見つからない。

 両親は毎日のように仕事や生活の事で喧嘩。

 フラッシュバックする自分の記憶の中にある、醜い人や同族の争い。

 そんな毎日がずっと続き、心が軋んでいた。

 それが刺激され、全てを捨てて消えようと思っていた頃。


 自分が暴れたら、また、シュンが討伐しに来てくれるだろうか・・・

 そんな風にも考えた。


 彼への気持ちは間違いようがない。

 しかし、当時、現在の自分が苦しい思いをしているのはその記憶そのものではないか、そう考えてしまった。


 思えば、精神が身体に引っ張られていたのかもしれない。

 成熟してきた今の自分を見てそう思う。

 

 心だけ大人でも、やはり身体はそういったストレスに耐えられるように出来ていなかったのだろう。 

 なまじ大きな力を使えるだけに、破壊衝動が凄かった。


 全てを壊したい。


 あの頃はそう考える事が多くなっていた。


 そして、そんなあたしの状態に気がついてたのが・・・彼だった。


『大丈夫か?何か困ったことがあるなら、力になるからな?』


 何度も、何度も拒絶したが、彼はそれでもそう言ってくれた。


 そんな事が続き、あたしは彼の偽善とも思えるその精神が疎ましくなり、思春期になってからは控えていた心を読む魔法を使って彼の心を読んだ。


 どうせ、あたしの身体が目的なんだろう。 

 その、醜い精神を見せてみろ。


 そう思いながら読んだ心。


『俺は、美嘉の事が好きだ。苦しんでほしくない。』


 ・・・正直、衝撃を受けた。

 彼には、下心は無かったのだ。


『・・・ありがとう。』


 すっと言葉が出てきた。

 あたしがそう言って微笑むと、彼は驚いたように、


『・・・初めて心から笑った顔を見た気がする。』


 と言って顔を赤くしていた。

 なぜなら、今まであたしが他人に微笑む事は、愛想笑い位しか無かったからだろうから。

 それは、幼馴染の二人に対しても同じこと。

 ・・・彼の心を決定づけたのはおそらくこの時だろう。


 

 あたしは、それから別の事に悩み始めた。


 あたしはシュンが好き。

 それは間違いない。

 でも、それは前世の記憶に引っ張られたのにすぎないのでは、と。


 そして、ふと思った。

 これほど愛されているのであれば、彼とでも幸せな人生が歩めるかもしれない、と。

 揺らいだというのはその時の事だ。

 別に、彼が好きだった訳では無いのに、妥協も考慮した事。


 そう思い、数日を過ごした時、公園で遊んでいるある家族を見た。

 子供を慈しむ両親と愛される子供。

 なんとなく眺めていると、ふと情景が浮かぶ。


 それは、シュンとあたしが同じ様に自分たちの子供と過ごしているもの。

 

 そこで、気がついた。

 自分の心の求めるものが。


 彼は確かに優しいし、愛してくれているのだろう。


 しかし、あたしが求めるのは、やはりシュンなのだ。

 あの、底抜けに優しく、そしてあたしを打倒した心の強さと慈愛に満ちた眼差し。

 おそらくは争いを好まないだろうに、それでも世界の為に戦ったであろう高潔な精神。

 あたしが愛したいと思うのはやはりシュンなのだと。


 彼がどれほどあたしを愛しても、あたしが彼をそこまで愛することはおそらく無い。

 それでは幸せにはなれないのではないか。

 今際の際いまわのきわに、彼があたしに言った幸せはそうでは無いのでは無いか。


 こんな事でくじけてどうする。

 あたしは魔王だった女だ。

 絶望を与えるのはあたしであって、絶望するのは違う。


 何を破壊衝動に負けそうになっている!

 こんなことでは、あの勇者の中の勇者であるシュンに顔向け出来ない!

 彼の横に並び立つ女にふさわしくない!!


 


 こうして、あたしはシュンを探すこと、そして、見つけた後にシュンを支える為に、知力、財力を蓄えることに終始するようになった。


 幼馴染二人とも距離を取り始めた。

 もう一人の女の子の幼馴染は彼の事が好きなのだ。

 これ以上振り回してはいけない、そう思ったから。


 両親に対しても、色々な助言をし、トラブルの解決や、仕事が上手く行くように導き、更に資産を増やす為の情報を与えたりした、

 その為、お父さんとお母さんはあたしに依存・・・というか、神聖視するようになった。

 もっともお父さんとお母さんはスタンスが違うが。

 お母さんのスタンスは、あたしに全てを任せるというもの。

 そしてお父さんは・・・あたしを手放したくないというもの。


 だから、自分からあたしを奪ったシュンが憎いのだろう。


 だけど、それでもあたしだけであれば受け入れたでしょうね。

 問題は、複数の女性がシュンといるというもの。


 おそらく、お父さんは難癖つけてあたしをシュンから引き離さそうとするだろう。


 でも、あたしは心を決めている。

 切り捨てるのであれば、お父さんだ。


 それは、クォンを受け入れた時に決めた事。

 クォン達があたしの心に触れたように、あたしだってクォン達の心に触れている。

 

 クォン達は・・・みんな狂おしい程シュンを愛している。

 そして、あたしには負い目もある。


 無理矢理シュンから引き離してしまったという負い目が。


 だから受け入れた。

 今は、それで良かったとも思っている。

 みんなの事は大好きだから。


 勿論、過去の事はみんな知っている。

 クォン達は記憶を共有したし、美咲達にはあたしから話した。

 美咲を受け入れたときだから、美玖と翠さんには話してないけど。

 だからあの時・・・過去に心を揺らいだ話しをした時、美咲達は動じなかったの。


 改めて、どう思うかを聞いた事もあるけど、みんなからは、


「別に、良いんじゃないの?昔の事でしょ〜?」

「今はシュンくんの事を愛してるんでしょ?なら良いんじゃない?」

「というか元々好きだったわけでは無いのですよね?ならば裏切りにはならないのでは?わたくしだって、許嫁を作られた事はありますよ?まぁ、戦争で消えてしまていましたが。」

「そんな事で攻めたら、過去に恋愛した人はどうなるんだ?気にしすぎだ。」

「今の話を聞いて、むしろその時に癇癪を起こさなくて良かったという方が強いですね。」

「そうですね。美嘉様が暴れたら、軍隊だろうと蹂躙されていたでしょうし。」


 と言われただけだった。

 むしろ、


「今ミカが一生懸命頑張ってるの知ってるしね〜?」

「そうそう。シュンくんの為に頑張ってる記憶を見たからこそ、私達はあなたを正妻って認めてるのよ?」

「そうですね。あなたの葛藤した様子も見ています。そして、それを乗り越えたところも。でなければ、少なくともわたくしは認めませんでした。」

「まぁ、そこでシュンを諦めて付き合っていたら、流石にボクもミカが正妻だとは認めなかったがな。」

「その通りですね。自信を持って下さい。あなたは私達の代表なのですから。」

「美嘉様。私達の中に、あなたを認めない者はおりません。感謝もしておりますし。どうぞ、そのまま突き進んで下さい。」


 と励まされてしまったくらい。

  

 だからあたしはこれからも


 そこまで思考していたところだった。


「お前のような女たらしに・・・うちの美嘉がやれるか!」


 怒鳴るお父さん。

 こうなったか・・・仕方がない。


「・・・お父さん、であればあたしは家を出るわね。お世話になりました。」

「な!?み、美嘉、嘘だろ!?お前がいないと我が家は・・・俺は・・・」

「あたしの存在意義はシュンと・・・今はみんなと幸せになる事。それを邪魔するのであれば・・・肉親だとて容赦はせん。切り捨てるのみ。」


 みんなの為の魔王として・・・シュンの正妻として、突き進むのみ!







 ・・・まぁ、この後、シュンに怒られたんだけどね。

 でも、やっぱりシュンは優しい。

 ちゃんとあたし達家族の事も考えてくれた。


 思わず帰りに感極まって甘えてしまったの。

 後から考えると恥ずかしいなぁ。

 みんなに見られてたし。


 でも、うん!

 絶対に手放したくない。


 あたしの全てはシュンのものだ。

 そして、シュンの全てはあたし達のもの。


 シュン、魔王からは、逃げられないよ?

 あなたは悪い悪い魔王に捕まったんだ。

 何があっても、何が来ても、あたし達の心はあなただけの物で、あなたの心はあたし達だけの物。


 もし、それを邪魔する何かがあるのであれば・・・魔王の恐ろしさを身を持って知ってもらう!


 この妾・・・アルフェミニカの名にかけて!!


*******************

あとがき


いかがだったでしょうか?


美嘉の幼馴染について書いた時に、批判くるかなと思っていたらあまりにも多くて驚きました。

ですので、このあとがきを追記したのです。


さて、私は今回の美嘉の心の動きを浮ついたとか浮気とは思っていません。

リリィが前述で言っている通り、好きになっているわけではありませんし、ラピスの言う、付き合ったわけでもありません。

あくまでも、美嘉があの時に言ったのは「悪く無い人」が居て今回の様な「心の揺らぎが見えた」だけでしたので。

解釈は人それぞれです。

この揺らぎでも許せない人は許せないでしょう。

ですが、敢えて言わせていただくのであれば、ここでシュンへの気持ちを再確認していない美嘉であれば、出会ってからの献身とも言える動きは出来なかったのでは、と思っています。


さて、閑話はあと一話です。

お楽しみに。

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